~聴覚~
彼女の身体能力のお話。
彼女は耳が良かった。
些細な音も聞こえた。
時計の秒針の音。
TVの音。
家族の話声。
水音。
ご近所さんの音。
道路から聞こえる音。
電気が流れる音。
虫や鳥の声。
風の音、葉が動いた音。
彼女は音が嫌いだった。
考えてもみて欲しい。
周囲を平面な壁に囲まれ、雑音が大音量で響きまくっているのである。
勿論、音で距離感もわからなかった。
大きいか小さいかの違いしかないのである。
その代わり、言葉を聞き取るのが酷く難しかった。
音としては聞こえていた。
ただ、言語として聞き取れなかった。
音の羅列でしかなかった。
知らない言語、もしくは少しだけ知っている言語を聞いた時、何か話てるのはわかるが、意味がサッパリわからない。単語の区切りすらわからない。
という状態が、母国語で、かつ自分も話せる言語にも関わらず、言語に聞こえないのである。
彼女は成人しても、母国語をキチンと聞き取れない未来が待っている。
精々、声優さんの声は聞き取りやすい。というレベルだった。
一般人に声優さんレベルの滑舌や発声を求めるのは無理がある。
しかも、低音は聞き取れない。記憶出来ない。というオマケ付きで。
彼女が家族の声を成人を過ぎても覚えていないのは、本人だけのナイショである。
そんな彼女が初めて口にした言葉は
「にぃに」
である。
母親は「なんでママじゃないの!」と拗ねた。
単純に、赤ン坊の頃から彼女の周りで
「お兄ちゃん」
という発言回数が多かっただけである。
恐らく、赤ン坊の面倒…というか、ゲームをしている兄の横に妹を寝かせたりしていたからだろう。
母親が面倒がって娘の面倒を息子に頼っていたからだろう。
兄がまめに「お兄ちゃんだよー」
と話しかけていれば、より回数は増える。
実際、妹の面倒をよくみる兄だった。
結果、親戚やご近所さんが「いいお兄ちゃんね」と褒めるので、より「お兄ちゃん」という単語を聞いていただけである。
親が子供の面倒を見てても「いいママね」など大抵言わないだろう。
つまり、そうゆうことである。