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スクールガーディアンズ  作者: 雪野
第10話(第1次抗争編) ~過去編・屋神・塩田他メイン~
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     10-10




 ガーディアン連合本部施設に設けらている仮眠室。

 本部といっても生徒会関連の施設に比べると、かなりの小ささではあるが。

 部屋のドアには「外来者宿泊中」とある。

「寝てるのか」

 壁際にもたれ腰を下ろしていた伊達は、前髪越しにその細い視線を向けた。

「起きてる、よな」

 無愛想なのには慣れているらしく、その足元に売店の袋が置かれる。

「差し入れだ。ジュースとお菓子。後は、おにぎりとパン。喋れよ」

「……沢はどこにいる」

 唐突な質問。

 塩田は肩をすくめ、窓のない壁を指さした。

「俺も知りたい」


 壁の向こうには名古屋港があり、その先には沢が旅立った東海エアポートが存在する。

 塩田と大山。そして杉下だけが、彼を見送った。

「渡り鳥は敵じゃないって、沢は言ってたぞ」

「味方でもない」

「あ、そう。俺には、どうでもいいけどね」

 差し入れといいながら、持ってきたチョコを囓り出す塩田。 

「どうして、林がいる」

「りん?なんだ、それ」

林爽来リン シャンライ。傭兵と呼ばれる人間の中でも、特に腕が立つ。その男が、普通の生徒に混じって授業を受けていた」

 その言葉に、チョコの欠片をくわえたまま固まる。

 伊達は相変わらずの無表情だ。

「それって、大山がこの間言ってた」

「ああ。学校があらかじめ仕組んであったんだろう。もう一人、清水さんもいた。彼女もまた、凄腕だ」

「なんだ、それは。そんなの……」

 言葉が見つからないのか、苦い表情で壁に拳を叩き付ける。

 その様子に、伊達は一瞬目を向けただけである。


「じゃあ、どうすればいいんだよ」

「どこまで学校の雇った人間が浸透しているか分からない。冷静に見極めるより他無い」

「だからって」

「大山が言ったように、パニックを誘って管理案を敷く可能性もある。一つずつ、慎重に動くんだな」

 目を閉じ腕を組む伊達。

 それ以上は関わらないという態度にも取れる。

「お前は、何もしないのか」

「護衛の契約で俺はやってきた。沢のように学校の監視や生徒の保護は、また別だ」

「醒めてるな」

「余計な事をして恨まれるつもりもない。だから、自分に与えられた仕事だけをこなす」

 淡々とした、一切の私情を挟まない態度。

 だがそれは冷たさとも違う、一つの意志が感じられた。

「まあ、いいや。細かい話は屋神さん達に任せて、俺は俺で勝手にやる」

「独断専行か」

「暴れたいだけさ。勝手に退学していく人達はいる。勝手に何かを企んでいる人もいる。俺だって、ストレスが溜まってるんだよ」

 冗談めいた口調だが、目元は怖いまでの鋭さを湛えている。

「責任を取るのは2年。実行するのも2年。俺達は、そのおまけ。意味無いぜ」

 愚痴とも言える内容を漏らしていく塩田。

 伊達は腕を組んだまま、身じろぎ一つしない。


「本当によ。子供じゃないって言うんだ」

 熱弁を振るっていた塩田は、ペットボトルを傾け満足げに息を付いた。

 そして壁際で目を閉じている伊達を見て、軽く微笑む。

「聞いてるのか聞いてないのか知らないけど、何でも無いって顔だな」

 冷たさや拒絶ではなく。

 かといって、相手に合わせる訳でもない。

 ただそこにいるだけだ。

 意識しなければ気付かない程の存在。

 でも、間違いなくそこにいる。

 風のように佇む彼は。



 ガーディアン連合本部を後にして、学内を歩いていく二人。

 夏休み明けから増強した委員会制度のため、あちこちで生徒が仕事に勤しんでいる。

 前期までは学校職員のやっていた仕事もあるが、今やその光景に違和感はない。

「転校手続きの受付や、見学者の案内、学内施設の管理。そんなの学校がやればいいのによ」

 愚痴ではなく説明をしていく塩田。

 伊達はやはり、何も喋らない。

「学校生活に張り合いが出てきたのはいいかも知れないけどな。学校に泊まり込む奴もたくさんいるんだ、これが。大山なんて、住んでるようなものだし」

 笑いかけた彼の表情が変わる。

 目の前の廊下に陣取る、派手な格好の男達。

 先日転校してきた者達とは違う、元々この学校にいる生徒のようだ。

 塩田の事を知っているのか、男達が身構え出す。

「外から流れてくる場合もあるけど、最初からこういうのもいる」

「知り合いか」

 短く尋ねる伊達。

 塩田は鼻を鳴らして、小さく頷いた。

「取り締まる側、取り締まられる側さ。これ以上揉めると、退学の奴ばかりだ」

 しかしそんな相手を気遣う様子はない。

 また男達も、それを恐れる雰囲気ではない。


「今日は客を案内してるんだ。お前らと遊んでる暇はない」

「客だ?その細い男か」

「ガーディアンの肩書きがあれば何でも出来ると思うなよ」

 取り出される警棒。

 学内持ち込み禁止の武器は持っていないようだ。

 とはいえ一般生徒は警棒所有自体厳しい制限がなされ、彼等がその許可を得ているとは思えない。

「負けても捕まえられても懲りない。その根性だけは買ってやる」

「ふざけるなっ」

「おいっ」 

 後ろを振り向く塩田。

 その顔が、微かに緩む。

 男達の仲間が、集まってきているのだ。

「これだけの人数相手に、勝てると思うのか」

「クズは何人集まってもクズだ」

 挑発的な言葉に顔色を変える男達。 

 塩田の笑みは、さらに深くなる。

「俺は平気だけど、お前は」

「問題ない」

「よし」


 低い位置から放たれるジャブ。 

 誰もが、当たるはずがないと思える距離。

 しかし男達は左端から順に顔を仰け反らしていく。

 華麗なステップワークで後ろを向き、再びジャブを繰り出す。

 繰り返される同じ動作。

 気付けば全員が床に腰を付き、その顎を抑えている。 

 三半規管をやられたのか、立ち上がれそうにもない。

「お、おい」

 固まっていた構えを解き、詰め寄る塩田。

「どうして、一人でやるんだよ」

 鮮やかなジャブを放った伊達は、軽く手を振って歩き始めた。 

 足元に崩れる男達に目をくれる事もなく……。



「あー、面白くない」

 ラウンジのテーブルに体を伏せた塩田は、そのまま上目遣いで伊達を見上げた。

 その伊達は、表情を変えずコーヒーを飲んでいる。 

 言い繕いや説明をする気はないらしい。

「余計ストレスが溜まった」

 テーブルに爪を立て、唸り始める。

 周りから奇異に思う視線が向けられるが、止めようとはしない。

「別にトラブルがいいとか、ケンカしたいとかいう訳じゃないだぜ。ただ、やる事が無いのはこの」

 話の途中で席を立つ伊達。

 塩田に呆れたという素振りはなく、ここにいてもする事が無いと判断したのだろう。 

 また彼の任務、護衛という事を考えればそれは妥当な考えである。

「愛想のない奴だな」

 という自分も顔を伏せたままで、去っていく伊達を追おうとも見送ろうともしない。

 やがて小さな呟きも聞こえなくなり、規則正しい呼吸が聞こえ始める。



 派手な音と共に割れるテーブル。

 辺りの生徒が慌ててラウンジから飛び出していく。

「伊達や沢の知り合いだというから、どんな奴かと思ったら」

「ただの、居眠り野郎だな」

 一斉に湧く嘲笑。

 床にうつぶせの体勢で倒れる塩田。 

 伏せられた額から血が出ているのか、床が赤く染まっていく。

「一応、ガーディアンの責任者らしいが」

「こんな奴でも務まるんだ。草薙高校も、大した事はない」

「山鯨とか熊だとか言われてる連中も、この程度だろ」

「契約金、貰い過ぎだぜ」

 再び巻き起こる嘲笑。

 しかしそれは、長く続かない。


 逆立ちの要領で体を起こす塩田。

 そのかかとが一直線に進み、金髪の男の口にめり込んだ。

 飛び散る鮮血、そして歯の欠片。

 口を押さえてのたうち回る男を一瞥して、塩田は彼等と向き合った。

「河合さんや三島さんは、俺の100倍は強いぜ」

「何っ」

「やる気なら掛かってこい。まずは、俺が相手をしてやる」

 額から滴る血を拭い、低い構えを取る。

 アマレスに近い構えだが、違うのは足が後屈立ちな事だ。

 タックルには不向きな、かなり変わったスタイルと言える。

「ちっ。おい、運べ」

「ああ。お前、顔は覚えたからな」

 うめく男を抱え上げ、剣呑な視線を向ける男達。

 塩田は鼻を鳴らし、親指を下へ向けた。

「俺も、覚えたぜ」

「貴様……」

「おい、今は止めろ。取りあえず、こいつを」

「ああ。この借りは、必ず返す」

 低い言葉、決意に満ちた表情。

 彼を止めた男も、鋭い眼差しで塩田を見つめている。

 よく似た、精悍とも野性的とも言える顔立ち。

 うめき声を上げる金髪の男は、歯さえあれば優男として通っていたのだろう。

 血塗れの、そして殺伐とした邂逅はそうして幕を閉じた……。




 草薙高校内医療部。 

 ただ医療部というのは通称で、実際は草薙グループの医学生達が研修を受ける教育病院である。

 当然患者は学生や教職員だが、付近での災害の被害者や急患を受け付ける緊急病院の側面ももっている。

 スタッフは大半が草薙グループの学校出身者で、その気さくな雰囲気から「医療部」という呼び名が付いたとされている。

「痛い」

「いいから、動かないで」

 塩田の額を針で縫う、白衣姿の若い男性。

 胸元のIDには「片岡」とある。

「ケンカかい」

「まあ、そんな所です」

「高校生だね。それとも青春かな」

 下らない事を言い、一人で感慨に浸る片岡。

 塩田はただ、顔をしかめるだけだ。

「はい、終わり。糸は勝手に溶けるから、後は消毒を怠らないように」

「どうも、ありがとうございました」

「いいよ、お礼は。それよりも、もう来ちゃ駄目だからね」

「それは、難しいです」

 苦笑して診察室を出ていく塩田。

 片岡はため息を付き、カルテに処方を書き記した。

 通し番号はすでに、No.23となっている……。



「襲われた?」

「ああ。いきなり後ろから。気付いたら、床に倒れてた」

「相手は」

「気付いたら、床に倒れてた」

 大笑いする塩田。

 屋神は額を抑え、彼の顔を指差した。

「……まあいい。それで、そいつらは」

「沢や伊達を知ってる連中らしい。傭兵っていう、あれじゃないの」

「今学校にいるのとは違う、新手か」

 大山に視線を向けた屋神だが、彼の言葉を待たず塩田へ向き直った。

「後少しで定期テストだ。その後も授業はあるけど、学校に来る人間は半減する。それが済めば冬休み」

「そこまで大人しくしてろって?俺、殴られたのに」

「そうならないように、馬鹿連中を完全に締め出す。一般生徒に紛れてるのはともかくとしてな」

「最近転校してきた生徒のプロフィールをチェックして、要注意人物は生徒会から勧告を出します。軽微な規則違反でも、厳密に取り締まって下さい」

 淡々と語る大山。

 塩田は鼻を鳴らし、彼を睨み付けた。


「それじゃ、学校の管理案と同じじゃないか」

「他に、方法はありますか」

「知るか。ただ俺が言いたいのは、目的が正しければどんな方法を取ってもいいのかって事だ」

「感情で片付くなら、そうすればいい。でも今は、そんな場合じゃないでしょう」

 あっさりと一蹴される反論。

 二人は険しい顔付きで睨み合うが、先に視線を逸らしたのも塩田の方だった。

「お前ら、落ち着け。仲間割れしてる場合じゃないだろ」

「そうだけど。俺は、納得行かない」

「分かってる。誰も好きで、学校の真似をする訳じゃない。でもそうしないと、学校を守れない。今の、俺達の力じゃな」

 笑いを含んだ、そして苦渋に満ちた台詞。

 熱くなっている塩田も、醒めた表情を浮かべる大山も。

 視線を伏せる。

「誰かのためって言い方は好きじゃないが、河合や笹島の件もある。多少は妥協しようぜ」

「それを言われると、困るけど」

「所詮は、あの人達の犠牲の上に成り立ってる訳ですからね」

「大山、そう言うな。微々たる物とはいえ、俺達も多少は役に立った。そう思わないと、この先も辛いぞ」

 自嘲気味な呟きに、塩田達の顔はさらに翳りを帯びる。

 生徒会総務局長室は、今日も重い空気に支配されていた。



「大丈夫っ?」

 部屋に飛び込んで来るや、塩田に駆け寄る涼代。 

 焦る彼を後目に、不安げな表情で額に手を向ける。

「痛い?」

「い、いや。ちょっと切れただけだから」

「そう、よかった。って……」

 気にするなという顔の屋神と大山。

 とはいえ、当人が気にしないはずがない。

「い、いたの」

「総務局長室だからな」

「私は、総務課課長ですし」

「そ、そう。それじゃ、私はこれで」

 逃げ出そうとドアへ走る涼代。

 しかし反対側から新妻と天満が入ってきて、鉢合わせとなる。

「あ、ごめんっ」

「いいけど、慌ててどうしたの」

 視線を塩田に向けつつ尋ねる新妻。

 分かってる癖にという顔の涼代を気にもせず、二人を交互に見比べる。

「熱いですー」

「悪かったわねっ」

「本当ですー」

 ふざける天満を軽く叩いた涼代は、その勢いのまま塩田の隣に収まった。

「み、水葉さんっ」

「い、いいじゃない、別に」

「開き直りました、か」

「嶺奈ちゃん、うるさいわよっ」

 全員が身をすくめる程の怒声。

 新妻一人だけが、平然とした顔でドアを閉めている。


「あの……」

 そのドアの向こう側から掛かる、遠慮気味な声。

 無言で開く新妻。

 入ってきたのは、彼等以上に身を小さくしている中川だ。

「塩田君の具合は」

「あの通り」

「……何してるの、水葉」 

 それまでの殊勝な態度が一瞬にして消える。

 そして「あー」と叫びながら、涼代の隣に腰を据えた。 

 今度こそ新妻も、ドアを閉める。

「先輩に対して、呼び捨て?」

「後輩を彼氏にして、楽しい?」

「観貴ちゃん、この子怒ってやって」

「お互い様でしょ。水葉さんも、凪さんも」

 軽く言ってのけ、空いている場所へ座る新妻。

 その隣に、天満もすかさず収まる。



「俺が仕入れた話だと、前期と同じくあいつらは何系統かに分かれてる。全員が仲間って訳じゃ無いらしい」

「伊達君の言っていた、林と清水という子は?私は、まだ見た事が無いんだけど」

 涼代の質問に、中川と天満も頷く。

 すると新妻は一枚のDDを取り出し、それをテーブルにあった卓上端末のスロットに入れた。 

 壁際の大型モニターが作動し、生徒の登校風景が映し出される。

 かなりの遠距離だが、その林と清水が確かに映っている。

 画面が切り替わり、今度は近距離からの映像。

 放課か放課後。

 いかにも普通の生徒と、気楽な感じで話をしている。

 清水の方は積極的に話をしてはいないが、その輪には溶け込んでいる。

 お互い所属するグループは別で、映像を見る限り接点や接触している様子はない。

「どうやって、撮影したの?それにこれ、夏休み明けじゃない」

「情報局や報道部にあった記録を全部チェックしたの」

「さすが、観貴ちゃん。それで、何か分かった?」

「行動履歴とプロフィールはこれ。伊達君に補足してもらったわ」

 変わって表示されるプロフィールの一覧。 

 中学校からの転校記録と、取得資格、性格、身体能力等々。

 データ的なものが中心だが、かなり詳細な記録である。

「本当に、高校生か?」

 感慨深げに呟く屋神。

 破壊、壊滅、全滅。

 施設であったり建物であったり、グループであったり。

 それは様々だが、壮絶という言葉が思い浮かぶ内容ではある。

「殺人は犯してないし、それらの破壊行為も相手を非常に限定している。沢君の言っていた、質のいい傭兵ね」

「清水ってのも、同じか。こいつもまた、派手な事を」

 林よりは小規模だが、同じような記述が目立つ。

 また二人とも、情報操作に長けるとの文言が書き込まれている。


「すると今回はこっちの、情報戦でやってくるって?」

「あいつらが何かをしたという話は聞かない。勿論、気付かれるようじゃプロとは言えないが」

「プロじゃなくて、高校生だろ」

「まあな」 

 素っ気なく応える屋神。

 尋ねた塩田は、相変わらず不満気味だが。

「何人か、いないわね」

 涼代の視線が、それとなく中川へ向かう。

 ただ彼女の応えを待っているのとは違う、もっと労りに近いものだ。

「伊達は行方不明。三島さんもいないな」

「冬が近いから、食い溜めてるんだろ」 

「屋神君、言い過ぎよそれ。冬眠には、まだ早いでしょ」 

 フォローしない涼代。

 それには新妻も、微かに笑顔を浮かべている。

「本当、あいつは何してるんだ」



 J棟内食堂。

 カウンター前のテーブル。

 物静かにうどんをすする三島。

 別に食い溜めている訳でも、これが10杯目である訳でもない。

 ちなみに、ハーフサイズの天ぷらうどんである。

 その前に置かれるハーフサイズの坦々麺。

 伊達は無言で腰を下ろし、それをすすり始めた。

 三島も、特に声を掛けようとはしない。

 麺をすする音だけが、二人の間に流れていく。


 スープを飲み干したどんぶりをカウンターへ戻し、食堂を後にする二人。 

 特に会話はないが、意志の疎通は図られているようだ。

 少なくとも並んで歩いていて、向かっている方向は同じである。

 そんな彼等の行く手に、細い目の男が現れた。

 林だ。

 伊達の歩みが微かに遅れる。

 三島もそれに合わせ、速度を落とす。

「警戒するなよ、伊達君」

 人なつっこい笑顔。 

 しかし右手は、青いパーカーのポケットに入る。 

「そっちの大きい人は」

「三島だ」

 重い、巌のような言葉。

 林はさらに目を細め、その右手を差し出した。

 無造作に手を取る三島。

「警戒しないのか」

「する必要がない」

「大人だね、あなたは。伊達君も、見習った方がいい」

「暗器をしまってから、そう言え」 

 風のような澄んだ声。

 林の左手から除く微かな光へ、視線が向けられる。

「挨拶だよ、挨拶。それに君達は、敵じゃない。今のところは」

 どうしても会話が林中心になるのは仕方ない。

 それでもこの二人にしては、よく喋っている方だろう。   


「いっそ味方になってくれると助かるね」

 無言で応える三島と伊達。

 林もそれを待っていたかのような笑みを浮かべる。

「例え一人きりになっても戦い抜く。そうかな」

 やはり答えは返らない。

 笑いかけた林が、ふと後ろを振り向く。

「知り合いが来た」

「……伊達か」 

 精悍な表情を引き締める清水。

 黒のジャケットに紺のジーンズ。 

 見ようによっては男とも取られない雰囲気。

 ただ彼女が、それを気にした様子はない。

「舞地達は?」

「今回は、来ていない」

 短い一言。

 それからどんな意味を感じ取ったのか、清水は林へと視線を向けた。

「伊達君は親しいとはいえ、ワイルド・ギースではない。単独行動を取る事もあるさ」

「ああ」

「それとも清水さん、舞地さんや池上さんに会いたかったとか?」

「どうかな」 

 曖昧に答える清水。

 だが視線はさらに鋭さを増す。

「私こそ、あの子達の仲間じゃない」

「でも、仲はいいだろ。同じ事さ」

「舞地達は渡り鳥、私は傭兵。する事もしてきた事も、全く違う。住む世界が違い過ぎる」

 苦い何かを噛みしめるような口調。

 視線が微かに伏せられ、拳が固められる。

「そんな呼び名、気にしなくてもいいと思うけどね。「信頼する、裏切らない、助け合う」それなら清水さんだって、実践してきただろ」

「池上達程の信念を持ってはいない。ただ契約金を……」

 熱く語りかけたところで、ふと我に返った表情になる。

 自分を見ている三島と伊達に気付いたのだ。

 彼等もからかいの言葉は口にしなかったが、それが余計気になるらしい。

「な、なに」

 同じ動きで首を振る二人。

 一気に顔を赤くする清水。

「も、もういいっ」

 そう言い残し、走り去ってしまった。

 いたたまれなかったらしい。


「いい子なんだけどね。ちょっと、素直じゃないんだよ」

 苦笑して髪をかき上げる林。

 それに合わせて三島は顎を引き、軽快なバックステップを披露する。

 頭に向かった林の手から放たれた長い針。

 三島は手首を返し、緩やかな速度で投げ返した。

「鼻先すれすれで、外すつもりだったんだけど。その必要はなかったね」

「いつも、こんな事をしているのか」

 低さを増す声。

 微妙に位置を変化させる足の位置。

「まさか。草薙高校の要を試す程の勇気はない。君を倒せば得をする人間もいるだろうけれど、俺には荷が重い」

「その気になったら、いつでもこい」

 珍しく強気な発言をする三島。

 自分を狙った者への威嚇。

 それとも仲間を守るための、強烈な警告。

 林は大袈裟に首を振り、針をシャツの袖へ押し込めた。

「負けると分かっていて戦う馬鹿はいない。ただ」

「なんだ」

「勝てると思って戦う馬鹿は、いくらでもいる。せいぜい気を付けるんだね」

「忠告は受け取っておく」

 重く威厳に満ちた応え。

 だが、その臨戦態勢は解かれない。

「取りあえず、顔見せは終わった。色々、気を付ける事だよ」

 薄く笑いきびすを返す林。

 そして鼻歌交じりに、廊下を引き返していく。


「……確かに、凄腕だ」

 ジャケットの襟に手を伸ばし、小さく眉を動かす三島。

 そこには先程林が放ったのと同じ長い針が、2本刺さっている。

 頸動脈の側で、場合によっては致命傷ともなりかねない位置。

「あなたがが顎を引いた時点で、襟に刺さるのも決まっていたようだが」

「偶然だ」

「なるほど」

 お互いの表情に浮かぶ微かな笑顔。

「今度、釣りでも行こうか」

 ぽつりと呟く伊達。

 三島は意外そうな表情で、彼を見つめる。

「ここは海も近いし、楽しみだったんだ」

「港内は、指定区域でないと釣れないぞ」

「詳しいのか」

「それ程でもない」

 そして二人はやはり無言で、廊下を歩いていった。

 何かを、投げるような仕草と共に……。



 予算編成局。 

 局長室前で姿勢を正し立つ新妻。 

 彼女の前には、フォースのガーディアンが二名いる。

 局内警備担当という名称らしく、彼等の場合は局長室前に常駐しているようだ。

「通してもらえますか」

 先日のおかしな連中とは違い、即座にIDをチェックするガーディアン。

「運営企画局局長 新妻さんですね。申し訳ありませんが、アポイントのない方はお通しするなと指示を受けていますので」

「局長としてではなく、友人として私はここへ来たんです。それを拒む権利まで、あなた達にはあるんですか」

 玲瓏とした声に強さが宿り、その心へと突き刺さる。

 言葉そのものの意味よりも、気高くも勇ましいその姿に気圧される二人。

「し、しかし。私達も命令で」

「予算編成局は確かに外局で、私には何の権限もありません。ただしフォースもまた、今は独立したガーディアン組織のはずです。あなた達への命令権があるのは、屋神代表だけではないのですか」

「そ、そうですけど」

「もう一度言います。通して下さい」 

 落ち着つきのあるしとやかな声。 

 心の底まで見通しそうな、透き通った眼差し。 

 はっきりと伝わる、彼女の峻烈な意志。

 ガーディアン達は目をそらす事も逃げる事も出来ず、彼女の澄んだ眼差しに捉えられる。

 彼等に出来る事と言えば、彼女の指示に従うだけだ。

 単なる会話に過ぎない行為が引き起こした、他者の行動の変容。

 新妻観貴の、力の片鱗。



「アポ無しでは通さないように言っておいたんだけど」

「事情を話したら、通してくれたわ」

「コンダクターが、新妻さんが相手では仕方ないか」

 書類から目を離し、席を立つ杉下。

 少しやつれ気味で、声にも張りがない。

 仕事の疲れだけではないようにも見受けられる。

「塩田君が襲われた話は聞いた?」

 単刀直入な質問。

 応接セットで向き合っている杉下が、軽く頷く。

 局長室にいるのは彼等だけで、中川の姿もない。

「三島君も、林という子とトラブルがあったらしいわ」

「お互い組織の責任者だ。多少は恨みを買っている」

「二人を襲ったのは、傭兵と呼ばれる人間。学校が雇った人達よ」

「それと俺と、どういう関係がある」

 直接的な反論。

 新妻は何も言わず、ただ彼を見つめ続ける。

「あくまでも、俺に答えろって?」

「それを聞く権利は、私にだってあるはずよ。少なくとも、あの時の仲間全員には」

「学生は勉強だけしてればいい。こんな仕事をしてると、そう思えてくる」

 自嘲気味の、虚しい笑顔。

 だが視線は新妻に向けられたままだ。 

「いくつかの権限を学校に戻す事も、考えている」

「反対はしない」

「生徒会の予算審議権や、退学申請の権限も」

 まるで、昨日観たドラマの内容を話すような軽い口調。

 だがそれを聞いている新妻の表情は、いつにない鋭さを見せる。


「予算審議権はともかく、退学申請は譲れないわ。これがあるからこそ、生徒の不用意な退学処分を防げるのよ」

「逆に生徒会は退学処分の権限を持つと、一般生徒に思われている。あり得もしない権限に怯え、生徒会幹部を調子付かせるだけだ」

「いずれは、公開されている生徒会規則に明記する。そうすれば、問題はないわ」

「生徒会幹部が、それをさせるかな。せっかく握った既得権益を」

 皮肉めいた笑み。

 テーブルの上に置かれる、レポート調の文章。

「生徒会規則に明記への反対署名。非公式なものだけど、幹部連中の半数がサインしている」

「生徒会長の間君や総務局長の屋神君は、公開に賛成よ」

「すると生徒会での内部分裂になる訳だ。改革派対、保守派。ただ大勢は、保守派だろうね」

「その混乱に、あなたも関わろうというの」

 詰問にも似た厳しい口調。

 杉下は皮肉な笑みを浮かべ、首を振る。


「一般生徒を巻き込む程馬鹿じゃない。前期同様、休みの時を狙うさ。主立った連中さえいれば、物事は進む」

「学校は一部生徒の私物ではなくて、一人一人の生徒の」

「甘いね、新妻さん。実際に学校を運営してるのは俺や屋神さん達だ。もし俺達が仕事をボイコットしたらどうなる?その代わりを勤められる人間がどこにいる」

「あなたこそ、甘いんじゃなくて。誰かがいなくなれば、必ずその代わりの人が出てくるわ。キリストやケネディが死んだ後でも、世の中は動いていっている。まして、私達の代わりなんていくらでもいるわ」

 話している内容に関わらず、淡々と交わされる会話。

 そこからは、お互いの感情は殆ど読みとれない。

 ただ視線が、真正面から重なり合うだけで。


「意見は合意を見ないようだね」

「杉下君。あなた、学校側に回る気」

「どちら側でもない。俺は最初からのポジションを貫くだけさ」

「そう。なら私も、そうさせてもらう」

 席を立ち、上から杉下を見下ろす新妻。

 敵視とも違う、複雑な色の混ざる視線。

 杉下は髪をかき上げ、それとなく顔を逸らした。

「……凪さんには、説明をしてあるの」

「彼女は生徒会の総務局へ出向する。勿論、ここへの出入りは自由だけど」

「それを聞いて安心したわ。それじゃ、また」

 静かに閉まるドア。 

 少しの間を置いて音を立てるテーブル。

 杉下は血の滴る拳を押さえ、一人顔を伏せた……。



「裏切り、でもないのかな」

 ぽつりと漏らす天満。

 新妻はいつもの澄んだ表情で、ベッドサイドに腰を下ろしている。

 落ち着いた雰囲気漂う新妻のアパート。

 壁には何枚か写真が飾られてあり、例の写真や彼女と笹島の小等部時代の物もある。

「これから、どうなるんですか?」

「いい事にはならない、としか言えないわ」

「そうですよね。凪ちゃん、可哀想だな」

 顔を伏せた天満は、そのままため息を付いて立ち上がった。

「私、帰ります。何かあったら、連絡して下さい」

「ええ。気を付けるのよ」

「大丈夫です。寮はすぐそこですから」



 街灯の灯る路地を駆け足で行く天満。

 新妻にはああいった物の、本人も多少は気にしていたのだろう。

 すると背後から、やや大きめの足音が聞こえてきた。

「えっ」

 振り向きもせず速度を上げる。

 しかし追ってくる足音も、早さを増す。

 天満はポケットに手を差し入れ、非常呼び出しを掛けた。

「わっ」

 行く手に現れる数名の人影。

 街灯が突然消え、視界がふさがれる。

「な、なっ」

「うるさい女だな」

「どうする?」

「まさか、さらう訳にもいかないだろ。軽く脅して……」

 だがそれは、呻き声へと変わる。

「天満さんっ」


 声に反応して、即座に駆け出す天満。

 その足元だけが、サーチライトで照らされる。

「ま、待てっ」

「分かったっ」

 叫びざま、何かが床へ落ちる。

「わっ」 

 声を上げたのは天満ではない。

 激しい閃光に目をやられた男達だ。

 完全に足を止めその場にうずくまった彼等を後目に、天満は一目散に逃げていった。



 女子寮前の、コンビニ駐車場。

 息を切らし、車止めにしゃがみ込む天満。

「轢かれますよ」

「布団を?」

「それは、名古屋弁です。布団は、敷くんです」

 同じく息を切らしながら説明をする大山。

 二人は並んで座り、声を上げて笑った。

「でも、どうしてあそこにいたの?」

「尾行してた訳ではないですよ。ただ非常呼び出しが私の端末にも入ったので、少し様子を見に行ったら天満さんが走ってました」

「学校から近いもんね」

 くすくす笑い、大山の肩に軽く触れる。

「とにかく、ありがとう。おかげで助かりました」

「お礼を言われる程ではありません。私は、何もしてませんよ」

 しかし天満は首を振った。

 優しい、思いやりのある笑顔と共に。

「来てくれただけで、私は嬉しかった。それだけで、十分」

 大山の目が、微かに揺れる。

 そして、手に息を吹きかけている天満の横顔を横目でうかがう。

 まっすぐには見られないとでも、言うかのように。

「私も、少しは格闘技を習わないと駄目ですね」

「無理無理。怪我するのがオチだって」

「しかし、いざという時困ります」

「その時は、今日のお礼に私が助けてあげるから」

 屈託のない朗らかな笑顔。

 天満にふさわしい、明るい陽気な笑い声。

 そして大山もまた、表情を崩す。

 醒めた普段の彼とは違う顔。

 冬はもうすぐそこに近付いていて。

 だけどコンビニの明かりは、彼等を暖かく照らしていた……。




 木々は葉を落とし、空には厚い雲がたれ込める。

 雪がちらついてもおかしくない程の冷え込みよう。

 吐く息は白く、誰しも屈み気味で先を急ぐ。

「寒いよなー」

 ダウンジャケットの襟元を抑え、肉まんにかじりつく塩田。

 隣であんまんを頬張っていた大山は、指先を舐めて暗い空を見上げた。

「取り締まりは、どうなりました」

「やばい連中は、全員監視下に置いてある。お前の言った通りに」

「そうですか。生徒会ガーディアンズとフォースはやや対応が鈍かったので、心配してたんですが」

「峰山と小泉だろ。何か、企んでるんじゃないのか」

 関心の薄い表情。

 それでも大山は話を続ける。

「杉下さんが学校側に付いた以上、こちらも体勢を整えたいんですけどね」

「どうでもいい。勝手にやってくれ」

「管理案が施行されてもいいんですか」

「今俺のやってるのと、どう違うんだよ」

 低い、苦さを含んだ声。

 冷たい風が、二人の間を流れていく。

「何のために、河合さん達は退学したんだか」

「学校を守るためです」

「今俺がやってるのは、その学校を守るためか?ケンカ程度を取り締まって、特別観察にするのは。結局は生徒の管理じゃないか」

「大意のためには、多少の犠牲はやもう得ません。誰かも傷付かずに済む方法があれば、苦労しません」

 淡々とした大山の口調は変わらない。

 塩田の苦しげな表情も。


「感情は感情、現実は現実です」

「お前は、そうやって割り切れるのか」

「あなたはどうなんです」

 不意な逆質問。

 言葉を詰まらす塩田。

 大山は彼をじっと見つめる。

「その覚悟がないのなら、連合の副代表を辞めた方がいい。年末からは、一気に状況が厳しくなります。その時に、そんな甘い考えでは辛いですよ」

「そんなので良いのかって、俺は聞いてるんだ」

「じゃあ、どうするんです。話し合いで何とかなるんですか。それとも、情に訴えて穏便に済ませてもらいますか。どちらも無理です」

「だからって」

 続かない言葉。

 伏せられる視線。

 塩田は背を丸め、その場を離れていった。

 残された大山は彼の背中を見送る事無く、反対側へと歩き出す。

 冷たい風が、街並みを吹き抜ける中……。




 人気の消えた、夜の草薙高校内。

 泊まり込んで仕事をしている生徒会関係者や委員会の学生はいるものの、そこはやはり昼間の喧騒とは打って変わった光景。

 グラウンドや渡り廊下から見上げると、幾つかの窓に明かりが灯っている。

 すでに日付は翌日に代わり、守衛の見回りも回数を減らしていく。

 非常灯の灯る廊下を歩く人影。

 サーチライトや明かりを持っている様子はない。

 そんな薄闇の中を、人影は規則正しい足取りで歩いていく。

「明日の朝でもいいだろう」

「悪事は夜やれっていうのが、俺の哲学でね」

「一人で出来ないの?」

「不器用なんで」

 林は楽しそうに笑い、「生徒指導課情報室・理事の許可が無い者の立ち入りを禁ずる」とプレートの掛かったドアの前に立った。

 中に人がいないのは、確認済みらしい。


「セキュリティが掛かってある。清水さん、頼むよ」

「忍び込まなくても手に入る情報よ。何も、こんな夜中にやらなくても」

「こういうのが楽しいんじゃないか」

「私は、何一つ楽しくない」

 無地のカードをスリットに通し、端末のボタンを押していく清水。

 すると小さいアラーム音と共に、ドアが横へスライドした。

「主犯清水さん、共犯俺」

「実行犯私、教唆林。君の方が、罪は重い」

「お互い様。ほら、早く入らないと誰か来る」

「全く……」


 卓上端末の並ぶ部屋を通り抜け、セキュリティシステムの整った部屋の中へと入る二人。

 監視用のカメラやそれ以外のセキュリティも、完全に解除しているらしい。

「隣のあの子のお名前は、と」

「不法侵入する度胸があるなら、直接聞けばいいのに」

「綺麗な花は、遠くから眺めている方が楽しいんだよ」

「空手二段、晩酌五合。彼氏あり。確かに、遠くから見ていた方がいい」

 鼻で笑う清水と、がっくり肩を落とす林。

 データは検索記録ごと消され、端末の画面もすぐに落ちる。

「ほら、戻るわよ」

「儚く散った恋だったな。傭兵に、そんな権利はないのかな」

「いいから、早く」

 膝の裏を蹴られ、よろけ気味に前へ出る林。

 その拍子に、テーブルの上にあったDDの山を崩す。

「何してる」

「清水さんが押すから。元の位置は、確か……」

「どうかした」

「少し、面白そうだ」

 林は自分の端末を取り出し、ワイヤレスで卓上端末とリンクさせた。

 そのデータはすぐに、清水の端末へも送られる。


「スケジュール表?」

「学校が敷こうとしている管理案の進行表だよ。こんなところにあるくらいだから、正式な物ではないだろうけど」

「それ程意外な内容でもない。誰でも考えつきそうなものだ」

「まあね。この計画を、理事長はどの程度知ってるのかな」

 独り言のように漏らす林。

 清水は何も答えず、他のDDをコピーしている。

「私達の仕事は、執行部の監視。取りあえずそれに関係しそうだから、これも収集はしておくけど。君は、どうするつもり」

「清水さんが介入したいのなら、好きにすればいい。理事長も、許可している」

「どちらの味方に付けと」

 今度は林が無言になる。

 端末がコピー終了を告げ、清水はきびすを返しでドアに向かった。

「セキュリティがそろそろ戻る」

「どちらの、というより誰のだろうね」

「何が言いたい」

「さあ」

 軽く笑い、清水を追い越してドアを出ていく林。

「独り寝は寂しいよ」

「何か、言った?」

「別に」



 薄闇の廊下を駆けていく楽しげな笑い声。

 そして夜明けはまだ遠く、全ては闇の中であった。












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