9-9
9-9
その翌日。
私達はオフィスへ荷物を運び入れていた。
ガーディアンの資格停止が解けたのだ。
その間ニャン達にはお世話になったし、今度改めてお礼を言いに行こう。
ただどうして今日なのかは知らないけど、GUのIDはもう袖に付いている。
そして、狭いながらも楽しい我が家に戻ってきた。
「……よく考えたら、ここにいるのって後2ヶ月もないのよね」
「え?」
「すぐに春休みがあるでしょ。それに2年になれば、管轄ブロックも変わる。おそらく、二年のクラスが多い所へ」
サトミに指摘され、改めて室内を見渡す。
狭くてちょっと古ぼけた、私達のオフィスを。
その貴重な時を、自分達の身勝手で無駄に過ごしてしまった。
ごめん、オフィス。
と、訳も分からず謝ってみる。
「ロッカー、へこんだままだな」
と言って、そのロッカーをつつくショウ。
前期にここが襲われて以来の付き合い。
ドアや完全に壊れてしまった物はともかく、傷の付いた机や椅子はその時のまま。
辛い時も楽しい時も、私達はここで過ごしてきた訳だ。
「どうでもいいと思うけどね」
TVにゲームをつなげている男の子を放っておいて、窓を開ける。
冷たい風。
少し埃っぽい室内を、清めてくれるような澄んだ香り。
でも、寒い。
「冬だね」
「今知ったの?」
真顔で尋ねてくるサトミ。
むっときて飛びかかろうとしたら、ドアが勝手に開けられた。
「もう、入ってるんだ」
「モトちゃん」
「またケンカして。少しは、大人になったら」
口ではそう言っても、全然止めては来ない。
でもって、その辺にあったお菓子を勝手に食べている。
何だ、この人は。
「怖い顔しないで」
「元々、こういう顔」
「あ、そう」
軽く頷かれた。
否定してよ。
「それで、モトは何しに来たの」
「隣へ引っ越してきたから、その挨拶に」
そういえば、そんな事言ってたな。
D-2はガーディアン連合のガーディアンズがいないから、彼女達はそこに入ったらしい。
といっても1年の後期はもう終わりだから、また引っ越す羽目になる。
「ニヤニヤして、そんなにおかしい?」
「おかしい。モトちゃん、また引っ越しだから」
「進級後の配置換え?確かに私は大変だけど、ユウもでしょ」
「私は、ケイに任せるもん。ね、お願い」
はっきり言い切り、彼に手を振る。
でもゲームに熱中していて、全然見ていない。
いいや、一応頼んだから。
「それにしても、これからどうなるのかしら」
「さあ、知らない。後は、モトちゃんに任せる」
「私に任されても」
何か言いたげな二人の視線を避け、書類を本棚に入れているショウの側に立つ。
「……色々、ありがとう」
「礼を言われる程じゃない。俺に出来る事をしただけさ」
自然な、何の気負いもない答え。
微かにはにかむ表情だけが、彼の感情を告げている。
「そう……」
私はそれ以上言葉がつながらず、そのまま窓際へと寄った。
木枯らしの吹きすさぶ、冬の光景。
春はまだ遠い。
それでも空は澄んでいる。
限りなく青く、高く。
私はそんな空を、見つめ続けていた……。
第9話 終わり
第9話 あとがき
ストーリー的には一段落ですね。
ただ少し前に書いた物なので、いまいち内容が頭にないんですが。
矛盾を減らすために1話分をまとめて書くんですけど、その分前の内容が飛んでいきます。
結果として、同じだったりして……。
ようやく、向こうの世界で年を越しました。
クリスマス、お正月も書きました。
この9-6、9-7については結構気に入ってます。
ユウの両親とか、玲阿兄弟(月映、瞬)の過去とか。
本編とは関係ないんですけどね。
この辺りについては、いずれ何とか出来ればと。
後は陸上部所属、雪野優。
彼女自身が言っているように、元々陸上志望がある子です。
一度書きたかったテーマでもありました。
黒沢さんと青木さんは、また登場するかも。
そして小等部以来の親友であるニャンも。
本編ではサトミが一番の親友のようになっていますが、付き合いとしては彼女の方が長いです。
ただどちらがどちらという訳ではなく、ユウにとってはどちらもかけがえの無い仲間です。
そのニャンについて、少し。
本名は猫木 明日佳。
短いショートカットに、日に焼けた可愛らしい顔立ち。
体格はやや小柄。
所属は陸上部で、短距離のホープ。
オリンピック候補に名前が挙がる程のタイム。
脳天気な面のある、気さくな女の子です。
名前の明日佳は、「ベルセルク」のキャスカから。
外見も同様で、鷹の団・百人長時を参照にして下さい。
後はユウと舞地さんの戦い。
今回は諸事情もあり、舞地さんの勝ち。
実力的にも、まだ辛いところでしょうか。
再戦は果たしてあるのかどうか。
今後にご期待下さい。
それでこれからの展開ですが。
第10話。
いわゆる「過去のごたごた」、生徒抗争編をお届けします。




