51-10
51-10
謝恩会も無事も終わり、卒業関連の行事やイベントは全て終了。
気付けば卒業から一週間経過。
そんな私は、名古屋駅のホームに立っていた。
数分おきに到着するリニア。
忙しそうに乗り降りする乗客達。
そんな彼等に圧倒されつつ、時計を見る。
「次?」
「ああ」
身近く答えるショウ。
足元にはリュックが一つ。
今日は彼が士官学校へ旅立つ日。
みんなで見送りと言いたかったが、サトミ達には体よく断られてしまった。
どうも、変に気を回したみたいだな。
ホームの表示板を見ると、次発は定刻到着。
それはもう間もなくで、アナウンスも白線から下がるように促している。
彼とは半年あまりの別れ。
休日に会おうと思えば会えるのだが、私はともかく彼は何かと忙しいはず。
私のわがままで、彼を煩わせる事も出来はしない。
ホームに滑り込んでくる流線型のリニア。
指定席なのでショウは列から離れ、売店の壁に背をもたれて待っている状態。
ただ彼等が乗り込み始めれば、彼もすぐに後へ続く。
「これ、途中で食べて」
小さな紙袋を彼に渡す。
中はおにぎりと少しのおかず。
一応は、私の手作りである。
「ありがとう」
紙袋を受け取り、リュックを背負うショウ。
彼はリニアに乗り込むと、タラップ越しに手を差し伸べてきた。
「引っ張らないでよ」
「映画の見過ぎだ」
笑われた。
それもそうかと思いつつ、私も彼に手を伸ばす。
その指先にはめられる、宝石のきらめく指輪。
こういう演出だったのか。
「ドアが閉まったら、どうするつもりだったの」
「そこは神様を信じてる」
神様も、随分重い責任を背負わされたな。
「またね」
「目の調子悪くなったら、すぐ病院へ行けよ」
「ショウも食べ過ぎないでね」
「ああ」
ベルと共に閉まるドア。
緩やかに動き出すリニア。
私も数歩追うが、すぐその加速に追いつけなくなり彼の姿が遠ざかる。
名残を惜しむ間もなくリニアはホームを離れ、そのテールランプも遙か彼方。
振っていた手を降ろし、その手を空へとかざす。
落ち葉は舞わず、見えているのは青い空とシルバーの指輪。
私達の、今は唯一の絆。
これを外す気も無いし、隠す気も無い。
だからサトミ達にも報告をしよう。
そして怒られて、笑って、いつものように過ごそう。
ショウはもういないけれど、彼の事を語るのはどれだけだって出来るのだから。
家への帰り道。
遠回りをして、神宮駅で降りる。
馴染みのある景色を眺めながら歩けば、すぐに見えてくる草薙高校。
ちょっと気を抜けば明日からまた通うような気分。
だけどもう、ここへ通う事は二度と無い。
3年間私が過ごし、育んでくれたこの学舎には。
正門前に立ち、少し距離を置いて学校を眺める。
時折生徒や業者風の大人が出入りをし、草薙高校はいつものまま。
私達が卒業しても、そこは何も変わっていない。
だからいつまでも、名残を惜しんでもいられない。
私が迷い、間違えて、誤ったとしても。
その道標を頼りに戻り、もう一度進めば良い。
3年間私が過ごしてきた場所の記憶へ。
そこで共に過ごした人達の思い出に。
かけがえのない、私の大切な宝物。
私は前を向き、真っ直ぐに歩く。
振り返れば、変わらぬ物がそこにあると知っているから。
4月。
大学の入学式も終わり、今日から講義が始まる。
初めは見学のようなもので、正式にどの講義を取るかは5月頃から。
それでもやはり気持ちは引き締まり、勉強についていけるのかと不安にもなる。
「行ってきます」
「随分早いのね」
「大学生だから」
「どういう意味?」
怪訝そうに返してくるお母さん。
それは私も良く分からない。
バスに揺られ半分寝ていると、車内にアナウンスが響き渡った。
「次は草薙高校前。草薙高校の生徒さんは、次の停留所でお降り下さい」
そのアナウンスが終わりきらない内に停車するバス。
雪崩を打つように降りていく生徒達。
私は後ろの方にいたので、どうにかそれに巻き込まれず済んだ。
「発車します」
何となく私をバックミラーで見ながらそう告げる運転手さん。
体型的に、勘違いされたようだ。
「次は草薙大学熱田校舎前。草薙大学の学生さんは、次の停留所でお降り下さい」
やはりすぐに停車するバス。
学生の数は、高校生よりかなり少なめ。
そんな彼等の後に続き、私もバスを降りる。
すぐ隣に見えるのは草薙高校。
もう少し先に行けば、中学も見える。
私が通い、卒業した母校が。
そして今は、目の前にあるここが私の母校。
草薙大学。
4年間私が通い、学ぶ場所。
きっと中学や高校と変わらない、幾つもの素敵な思い出が刻まれるはず。
そんな期待と確信を込め、大学の正門をくぐる。
私の新しい一歩と共に。
第51話 終わり
スクールガーディアンズ 3年生編 了
スクールガーディアンズ 本編 了
第51話 あとがき
これにて本編は終わり。
本当の意味で、ラストとなります。
中等部編2年編・3年編。
ワイルドギース編。
書き残した設定やらストーリーは多々ありますが、正直もう限界。
これ以上は、さすがに無理でした。
時間を削るか魂を削るかという事なので。
本当、申し訳ありませんでした。
また設定は、コータローまかりとおるのパク……。
影響を受けています。
広大な学校と不良グループ。
学内の治安組織などは、ほぼそのまま。
ストーリー的には、当然かなり違ってますが。
それと違う点は、キャラの設定。
いわゆるテンプレキャラの、微妙なアレンジを心掛けて書いてました。
ケンカは強いけど、女性からの好意に鈍いとか。
天才だけど、性格破綻とか。
風紀委員、生徒会組織。
良くあるテンプレ設定を採用しつつ、自分なりにアレンジ。
「え、どの辺が?」
などと突っ込まれると、困ってしまいますが。
最大の特徴は、浦田珪というキャラ。
この手の話で良くある陰謀や敵の策略を、ストーリー序盤で解析。
良く我々がマンガなどを観ていて思う、「どうしてそれに気付かない?」的なもどかしさを出来るだけ排除。
勘違いやケアレスミスによる仲違いや失敗も、当然即座に除外。
そのためオールマイティキャラになってしまったんですが、彼がいたお陰でここまでもったようなものですね。
また一部外伝に付きまして、転載していない事をお断りしておきます。




