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スクールガーディアンズ  作者: 雪野
第46話   草薙高校自治確立編・風成(ショウの従兄弟)、流衣(ショウの姉)、秀邦(サトミの兄)メイン
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 週末。

 玲阿家本邸。

 母屋の屋根に登り、野太い声で鳴く山猫。

 風成はそれを見上げ、縁側に座っていた四葉を手招きした。

「なんだ、あれは」

「鳴くくらい良いだろ。近所迷惑でもないんだし」

 玲阿家の敷地は相当に広く、また隣の家も敷地の広さは同等かそれ以上。

 野太い声ではあるが、隣の家にいれば声が聞こえるかどうか程度だろう。



「ふぁーっ」

 爪を立てて振り落ちてくる山猫。

 その爪先が風成の前髪を捉え、黒髪が宙に舞う。

「こ、このっ」

「止めろよ、大人げない」

「お、大人げないって。もう半歩前にいたら、顔がざくって」

「切れたら怒れよ」

 とてつもなく悟った意見。

 風成は顔の前で手を振り、しかし言葉が出て来ないのか口だけを動かした。

「おいで」

「がー」

 小さく鳴いて、四葉の胸元へ飛び込んでくる山猫。

 そして彼の腕を伝い、そのまま肩に登って彼の頭へ手を乗せた。

「お前には懐いてるんだな。そのどら猫」

「どら猫じゃない。それに、みんなが恐がり過ぎなだけだ」

「お前は、つくづく人が良いな」

「何が」

 怪訝そうに尋ね返す四葉。


 彼の肩に乗っているのは、大人でも悲鳴を上げそうな重さの山猫。

 それでも彼は嫌な顔一つせず、猫の自由にさせている。

 自分の苦労より猫の楽しさを優先させているとでも言おうか。

 風成が言うように、奇特な性格なのは間違いない。

「まあ、良い。お前のお姉さんはどこに行った」

「道場」

「どうして」

「強くなるんだって」




 玲阿家の母屋から渡り廊下で繋がった、玲阿流道場。

 板張りの壁に畳敷きの床という、いかにもと言った雰囲気。

 ただ部屋の隅にはサンドバッグが置かれていたり、神棚に鎮座しているのは熱田神宮のお札。

 道場では一般的に武道の神様である鹿島神社のお札が置かれているが、そこは名古屋を発祥とする古武道故の事なのだろう。




 全力を込めて振り下ろされる木刀。

 それを半身になってかわし、懐へ飛び込む小柄な女性。

 彼女はそのまま膝を突き立て、相手が下がったのを見定めて手にしていた薙刀を喉元へと突きつけた。

「今日はここまで」

「……ありがとうございました」

「こちらこそ。風成、どうしたの」

 薙刀を担ぎ、そう声を掛ける女性。

 風成は黙って、床に崩れて喘いでいる流衣を指さした。

「流衣ちゃんが稽古したいって言うから、少し」

「本気出すなよ、母さん」

「本気なら、真剣を使ってます。私掃除の途中だから、これ片付けておいて」

 無造作に放られる薙刀。

 風成はそれを片手で掴み、眉間に皺を寄せた。

「……鉛入ってるだろ、これ」

「人を殺すんですもの。そのくらいやらないと」

「何時代の話なんだ」

「現代日本の話よ」

 そう答え、軽い足取りで道場を出て行く風成の母。


 残されたのは、薙刀を担ぐ風成と床で喘ぐ流衣。

 しばしの沈黙。

 それを先に破ったのは、流衣である。

「全然駄目ね、私」

「普段稽古してないからだ。大体、玲阿流には関わらないんじゃなかったのか」

「自分の身くらいは守りたいと思って」

「いや。お前の実力だと、今でも過剰なくらいだぞ」

 薙刀を壁に掛け、床を指さす風成。


 ただ彼が差しているのは、玲阿流の道場。

 その事に言及をしたいのだろう。

「この家にいる人間は常識外れの強さで、俺にしろお前にしろそういうのと比べれば弱いって話だ。大体冷静に考えてみろ。鉛の入った薙刀を平気で振り回す主婦なんて、どこにいる」

「仮にそうだとしてもよ。それに、戦うんでしょ」

「戦う?何が」

「風成が。学校と」

 二人の間に流れる沈黙。


 今度は風成の方がそれを破る。

「落ち着け。それと、頭を少し整理しろ。お前、勘違いしてるぞ。何もかもを」

「何が」

「別に学校と戦う気は無いし、今のところそういう予定もない。それと仮に戦うにしろ、個人が戦う相手じゃない」

「そういう物?」

 見当違いを指摘され、小首を傾げる流衣。

 彼女からすれば、生徒に徒なす存在=学校。もしくは圧政。

 くらいの意識を持っていたようだ。

「俺もそこまで馬鹿じゃない。さすがに学校とやり合おうなんて思わないさ」

「自治はどうなの。学校と戦うんでしょ」

「根本的な部分から違ってるな、お前。……誰かに、何か言われたのか」

「お父さんに、色々と」




 本邸からほど近い高級マンション。

 その一室に上がり込み、ソファーに寝転んでいた男を床へ落とす風成。

「起きてくれ」

「……とっくに起きた。これで起きない奴もいないぞ」

「流衣に何言った」

「自治がどうこうって言うから、父さんの話をしてやった。沖縄が自治を勝ち取ったのは、クーデターを起こした北米軍と戦ったからだ。権利を得るには戦うべし。玲阿流の家訓通りだな」

 床に転がったまま、もっともらしく言い放す瞬。

 間違いなく、この男が流衣にある事無い事吹き込んだようだ。


「風成君、そこに座りなさい」

「なんだよ」

「座れと言ったら正座なんだ」

 自分は、依然として床に転がったまま。

 威厳も何もないが、風成は仕方なさそうにため息を付いて正座をした。

「俺の話をしてやる。士官学校に在籍してた頃の話だ」

「士官学校?」

「候補生は全員寮住まい。でもって寮には自治会が存在した。この自治会がとにかく横暴だった。上級生の言う事は絶対。下級生は何を言われても、はいかいいえ。反論なんてあり得ない世界だった」

 肘をつき、頭をそれで支える瞬。

 ただその姿勢とは裏腹に、声は少し潜められる。

「上級生はともかく、下級生は当然何も面白く無い。だったらどうするか。……簡単だ。嫌な上級生を、全員叩きのめせば良い」

「は?」

「理不尽な事には断固として戦う。それが人としての道だ。規則なんて知った事か」

「よく卒業出来たな」

 しみじみと呟く風成。


 確かに瞬の話が真実なら、退学になってもおかしくはない。

 しかし彼は無事に卒業をして少尉を拝命。

 その後は第3次世界大戦で、英雄と呼ばれるまでになっている。

「理屈じゃないんだ、そういうのは」

「いや。俺達は自治を確立するって言ってるんだけど」

「自治会って言うのは結局名前だけ。本来の自治とはかけ離れてた。業者と癒着したり、軍幹部の子弟が参加してたりな」

「ふーん」

 そこは納得する風成。

 今の草薙高校と重なりあう部分を見つけたようだ。



 唐突に立ち上がり、キッチンへ向かう瞬。

 すぐに戻ってきた彼は、3Lのペットボトルを風成に放りソファーに腰を落ち着けた。

「まあ、飲め」

「ミネラルウォーターって書いてあるぞ」

「気分的な問題だ」

 そういう自分も、今日はお茶。

 彼の場合は片手で持てるくらいのサイズだが。

「とにかく、自分が一番とか自分が正義なんて言ってる連中こそ怪しいんだ」

「まあ、それは確かに」

「だから片っ端から殴り倒す。倒して倒して、倒し尽くす。俺はそうして生きてきた」

「本当かよ」

「お前もその内分かる。我慢して良い事なんて、何もないぞ。欲望のままに行動しろって意味じゃないが、常識的に考えておかしい奴がいたら殴り倒す。それで処分されようと知った事か。つまりは、そのくらいの気持ちを持ってって意味だ」

 非常に最もらしい台詞。

 ただその言葉通りに行動すれば、破滅の道へ突き進むような物でもあるが。


「それと、人のためとか学校のためとか考えるな。そういう邪念があると、おかしくなる」

「邪念?」

「つまりは良い恰好をしたがると、良い結果にはならない。自分のためで良いんだ、自分のためで」

「本当に?」

「本当に。俺はそうやって生きてきた。それで、何も困ってない」

 彼は確かに困っていない。

 彼に関わってきた人間が迷惑を被ってきただけで。

「父さんは?」

「あれは、根本的に俺と出来が違うからな。トップの成績で士官学校に入学。でもって首席で卒業。寮もその手のエリートばかりで、まさに本当の士官学校って感じだった」

「叔父さんの寮は」

「初めは、刑務所に紛れ込んだかと思ったね」 

 膝を叩き、げらげらと笑う瞬。

 ただ彼の場合はその刑務所で暴れ回った口。

 寮生からすれば、彼こそ厄介者だっただろう。


「大体卒業後も、向こうは情報将校でヨーロッパ行き。こっちは兵卒が足りないからって、歩兵だ。歩兵。小隊を任されるどころか、小隊の兵士に配属された」

 今度は憤る瞬。


 ただ彼だけがそういう扱いを受けた訳ではなく、当時士官学校を卒業した兵士は大半が小隊に兵士として配属された。

 当時の軍は将校に従属する下士官の数が足りず、特に練度の高い下士官は非常に限られていた。

 そのため制度を根幹から転換。

 下士官を昇進させ、彼等の下に卒業したばかりの将校を配属。

 彼等は下士官を上官として仰ぎ、その指導を受けてきた。

 今ではさすがにそういう事は無く、士官学校を卒業した将校にはそれぞれに下士官が配属される。

 あくまでも戦中の過渡期。

 イレギュラーな時期の話である。



 突然胸元をまさぐり、舌を鳴らす瞬。

 どうやら懐から銃を取り出そうとして、身につけていない事に気付いたようだ。

「とにかく、相手が誰だろうと遠慮するな。殴って殴って殴り倒せ。でもって、人のためなんて考えるな。自分の事だけ考えてろ」

「流衣は」

「ああ、それは例外だな。流衣の事は考えて良い。あいつはあいつで困った物だが。どこのお嬢様なんだよ、一体」

「おばさんに似たんだろ」

「お嬢様って程の家柄でもないと思うんだが。それでも、玲阿家の実家はそこそこ裕福だからな。あっちの暮らしが長い分、感化されたのかもしれん」

「でも、今日焚きつけたのは叔父さんじゃないのか」

 その質問には答えない瞬。

 彼はペットボトルを空にして、それで自分の肩を軽く叩いた。

「とにかく好きにしろ。やりたいようにやれ。退学になったら、それもまた人生だ」

「人ごとだと思って」

「俺もさすがに、退学はしてないからな。俺より悪い人間が一人くらいいても良いだろ」

 非常に身勝手な意見。


 ただ彼が退学に至らなかったのは、理由がある。

 そうなる可能性は、高校でも士官学校でも常にあった。

 それを庇って来たのが彼の兄や、参謀本部に勤めていた鶴木。

 入隊後は名雲の父親と黄隊長。

 彼等のお陰で瞬は退学や除隊を免れたのであって、彼の素行が良かった訳では決してない。


 しかし軍人としては優秀の一言で、英雄と称されるだけの実績は十二分に積み上げてきている。

 たぐいまれなる戦闘能力、過酷な状況下でも任務を遂行する精神力。

 何より不屈の闘志。

 無論彼一人で北米軍と戦っていた訳ではないが、連隊や師団の士気を挙げるだけの成果とカリスマ性を持ち合わせていた。

 場合によっては彼がいると知っただけで逃げ出す敵兵もいて、戦場においては絶対的な存在。

 それは彼だけでなく、尹や黄隊長も同様だが。




 草薙高校。

 図書センター、閉架書庫。

 受付で入力されたデータ通りの本棚へレールに乗ったカートが移動。

 指定の場所に到着すると、本を収納しているラックがカート側へと滑り落ちてくる。

 後はレールに沿ってラックごとカートが移動。

 上の階にある受付まで自動的に運ばれていく。


 専用の入り口から閉架書庫へ入った秀邦は、その様子を何とも楽しそうな顔で眺めていた。

「本は傷付かないんですか」

「ラックには緩衝材が入ってますので。カートから落ちても大丈夫です」

「入れる場所を間違える事は」

「本のバーコードをラック内部のセンサーが自動的に読み込むシステム。つまり特定の場所に収納されるのではなく、そのラックが収まった場所=本の指定位置。ここで人間が無理矢理入れ替えない限り、そういう心配はありません」

 若干上ずった声で説明する、若い女性の司書。

 艶かな長い黒髪に手が何度も行き、シャツの胸元はいつもより一つ多めにボタンが開けられている。

 薄暗い場所に女性と二人きり。

 しかし秀邦は特に不埒な真似もせず、むしろ本の方に興味を示しているくらい。

 非常につれない態度だが、そのクールさがまた女性の心を揺さぶるようだ。


「源氏物語絵巻はありますか」

「勿論です。ただ原本は館長の許可がいるため、複製になりますが」

「それで構いません。一度見てみたかったんですよね」

 源氏物語は現代でも読まれる非常にポピュラーな古典文学。

 ただその原本は、数えるほどしか残ってはいない。

 草薙高校には寄贈されたその貴重な絵巻の原本が保管されており、美術展が開催される折りには時折一般公開されたりもする。



 端末で、その複製を呼び出す司書。

 秀邦はカートの動きを目で追い、一人小さく頷いた。

「なるほど」

「はい?」

「いえ。便利なシステムだなと思って」

「私は手で整理するのも好きですけどね」

 これはおそらく、司書ならではの意見。

 本を読むのも好きだが、本自体に携わるのが好きという者の。

「ここへの立ち入りは?」

「やはり許可がないと不可能です」

「でしょうね。どうもありがとうございました」

「いえ。こちらこそ」

 きびすを返し、ドアへと向かう秀邦。

 司書は名残惜しそうに、彼の背中に熱視線を向けながらその後ろにつき従っていった。




 図書センター、特別閲覧室。

 VIPルームというよりは、本に対しての特別な部屋。

 高額な本や貴重な本を閲覧する場合に使われる、研究者などが主に使う場所である。

「ふーん」

 色鮮やかな絵巻をめくり、小さく頷く秀邦。

 文学としての価値は勿論、芸術品としての価値も一級。

 いわゆる古ぼけたイメージとは違い、とにかく鮮やかの一言である。

「ハーレムに興味でもあるの」

 無機質な声で尋ねてくる笹原。

 秀邦は複製を閉じ、部屋へ入ってきた彼女を見上げた。

「心理学専攻じゃなかったの」

「基本的に、何でも興味があるんだ」

「浅く広く、じゃなくて。深く広くってタイプね。私には、理解不能だけど」

 彼女も飛び級で大学院へ進学。

 ただ専攻しているのは心理学のみ。

 それ以外に手が回らない訳ではないが、敢えて手を出す理由もないと思っているのだろう。



 リモコンを手に取り、部屋に備え付けられている大型モニターを付ける笹原。

 映し差されたのは、国会中継。

 委員会なのか、会議室風の室内での質疑応答。

 映像を見る限りは、かなり白熱した議論になっている。

「どこまで本気なんだか」

「彼等が?それとも、俺達が?」

「さあ。そんな事より仕事よ。生徒会長が再編案を発表するから、手伝って」

「何度も言ってるけど、もう一度言うよ。俺、結構忙しいんだ」

 今は源氏物語を読んでいるが、そもそも図書センターに来たのも学校からの要請。

 施設の紹介と、名義貸し。

 彼の名を利用したい者は、非常に多い。

「忙しいのは分かってる。でも、頼んでる」

「スピーチライターくらい、いくらでもいるだろ。それより、続きを読んで良いかな」

「駄目よ。早く来なさい。今すぐに」




 生徒会再編委員会と書かれた、手書きの張り紙。

 その張り紙を横目で見つつ、会議室へと入る秀邦。

 中にいたのは、いつものメンバー。

 彼等は秀邦の来訪にこれと言った反応は見せず、難しい顔で目の前に置かれた原稿用紙と戦っている。

 おそらくはスピーチ原稿。

 文章は半分以上に修正がされ、原稿用紙は一枚目。

 進捗状況ははかばかしくない。

「俺も、こういう事は専門外だよ」

「煮詰まってるから、参考意見が聞きたいだけ」

「結局いい顔をしすぎなんだろ。真実だけを書けば良いんだよ。それで誰も付いてこないならそれまでの話。こちらから見切ればいい」

「意外と過激なのね。でも、同意見だわ。その通りになさい」

 声高らかに宣言する笹原。

 メンバーはそれにも反応をせず、新しい原稿用紙を机において文字を埋め始めた。


 再編案自体はすでに骨格が出来上がっており、後はそれを文章化するだけ。

 ただそうなると、つい美辞麗句が並びがち。

 となると、聞こえは良いが中身が薄くなる。

 そして真実のみを告げるとなれば、後は簡単。

 無駄を省き、説明だけに意識を向ければいい。

「助かったわ。さすがね」

「つまりはきっかけだよ。誰も、自分が責任者にはなりたくない」

「あなたは平気なの」

「慣れてるのさ」

 出来上がった原稿に目を通し、笹原へ渡す秀邦。

 彼女もすぐに頷き、それを卓上端末に入力していく。

「初めから端末を使えばいいだろ」

「気分の問題よ。それと記念に、この手の文章は残したい」

「意外とアナログなんだな」

「自分の生きた証しを残したいのは人としての性でしょう。草薙高校の自治は、自分達が作り上げた。将来、自伝の一つくらい書けそうじゃない」

 随分壮大な話。

 秀邦はそれへ適当に笑って応え、清書された文章を端末に転送した。


「生徒会の組織改編について学校との同意が出来たら、その書面も手元に置いておきたいね。約束を反故にされたら困るから」

「手配するわ。……管理したい訳?」

「いざという時に、それがキーになる可能性もある。人間は、意外と約束を破るのが好きなんだ」

「意外ではないでしょう」

 さらりと答え、端末で連絡を取る笹原。

 同意書の受け取りは了承されたらしく、指で丸が作られる。

「頭に入ってればそれで良いと思うけれど」

「君も玲阿君達同様、結構人が良いね。今言ったように、口約束では通用しない事もある。だったら書類を出してくれ。なんて言われたら困るだろ」

「どういう事態を想定してるのよ」

 さすがに苦笑する笹原。

 未だに改変案自体完成をしておらず、学校との同意が成されるのはその先。

 秀邦の考えが現実になるとしても、それはまだ遙か先の話になる。


「……しかし、相当反発を受けるだろうね」

「覚悟の上なんでしょ」

「俺は平気だよ。ただ生徒会長とか生徒会とか。実際に自治を推進してる人達はどうかな。この責任を本当に負いきれるかどうか」

「それこそ、その程度の気概無しに自治だどうだと言って欲しくないわね。やるならやる。どこまでも自分を貫き通す。倒れるまで、己の道を突き進むべきよ」

 とにかく、万事に付けてこの調子。

 勢いは良いというか、過剰なほど。

 ブレーキのないダンプカーのような物である。

「生徒会長は?」

「一任されてる。文句があるのなら、私達を解任してもらうしかないわね」

「案外責任を俺達へ押しつける気かもしれない」

「だったら私が生徒会長になるまでよ」

 床へ落ちるペン。

 立ち上がる数名のメンバー。

 中には悲鳴を上げる女子生徒もいる。

「何よ。不満でもあるの」

「不満以外、無いんだろ。取りあえず、君には気概がありそうだ」

「引き受けたからには全力を尽くさないと。やるといったら、血反吐を吐いてでもやる。地獄の底まで走り抜けるのよ」

 相当見当違いの場所へ向かっている笹原。

 単純に言葉の勢い。

 語呂が良かっただけだろうが、言わせたメンバー達はさらに表情を重くする。



 あまりにも空気が悪くなったので、一旦休憩。

 飲み物と軽食が配られ、それを無言で食べ始める。

「彼はどうしてる。玲阿君」

「さあ。生徒会長に直談判したみたいだけど、飽きたんじゃないの。気まぐれっぽいし」

「なるほど」

 気まぐれさにおいて、笹原の右に出る者はいない。

 ただ彼が、生徒会に顔を出していないのも確か。

 笹原と共に行動をするよう指示を受けているのだが、つまりはその指示も守っていない。

「生徒会再編に関しては、自警組織が要だ。彼が外部にいるのは良くないと思うが」

「男一人、どうって事無いでしょ」

「学内最強なんだろ」

「言ったでしょ、宇宙は私中心に回ってるって。高校で一番強いなんて、話にもならないのよ」」




 ひしゃげる金属製の扉。

 めり込んだ拳をゆっくりと抜いた風成は、軽く手を払って満足げに頷いた。

「柔らかいな、これ」

「何を基準にした話?」

「案外、生木の方が固いんだ。体感的に」

 彼等がいるのは、体育系の部室があるクラブハウス前である。


 場所としては、学内の北東。

 草薙高校の創立前から存在するのか建物は若干古びており、学内の主要施設から続く通路の左右には廃材が並んでいる。

 かなり廃れた場所であり、さらに言うなら独自の活動が出来る場所。

 体育会は生徒会とも距離を置いているため、この位置関係はむしろ好都合だろう。


 風成が殴りつけたのも、廃材の一つ。

 ただクラブハウスから近かったため、玄関前にたむろっていたジャージ姿の男達が彼に目を止める。

「用があるって」

「試してみるか」

「敵ならね」

「父親に聞かせてやりたいよ、その台詞」

 小声で呟く風成。

 流衣の父親。

 つまり瞬なら、睨まれた時点で相手に襲いかかっていると言いたかったようだ。



「誰だ、お前達は……。何か、ご用ですか」

 途端に言葉遣いを改める男。

 風成は構えかけていた拳を降ろし、クラブハウスを見上げた。

「一番偉い奴と話がしたい。いるか」

「え、えと。お二人だけで?」

「不満か」

「滅相もない。ただいまご案内致しますが、その」

「暴れる訳じゃない。話し合いだ」

 豪快に笑う風成。

 男も釣られたように笑い、後ろで連絡を取っていた男と小声で話し合う。

「申し訳ありませんが、数名付けさせて頂きます」

「ああ。ただし向かってくる奴に関しては、容赦しないからな」

「それはもう、ご自由に。とにかく、穏便に。では、こちらへどうぞ」

 あくまでも低姿勢。

 身内がやられるより、まずは我が身優先の立場。

 とはいえ目の前に虎がいれば、それも当然。

 自分の顔が、金属製の扉より固い保証はどこにもない。



 ヒビの入った壁、錆の浮いた手すり。

 床は塗装が剥がれ、全体的にかなりの老朽化が進んでいる。

「ここは、いずれ取り壊すそうです」

 二人の視線が気になったのか、恥ずかしげに呟く男。

 劣化が激しいのは外見だけで、耐震耐久については問題ないと思われるが。

「それにしても、変な場所を選んで使ってるんだな」

「本来のクラブハウスはグラウンドや体育館の側にあります。ここは事務所的な使い方ですね。試合のスケジュールや施設の使用時間の調整など、そういった用途で使ってます」

 亀裂の入った金属製のドア。

 そのインターフォンに声を掛ける男。

 すぐに応答があり、ドアが横にスライドをする。

「中へどうぞ」

「入らないのか」

「滅相もございません」

 慌てて身を引く男。

 彼等に付き従っていた他の男も、素早くドアの前から逃げていく。




 室内は、この手の組織の部屋と似たような内装。 

 違うのはトロフィーや賞状が壁一面に飾られている点。

 また大会旗のような物も部屋の隅にあり、いくつかの地方大会での優勝もしているようだ。

 室内にいたのは、小柄で大人しそうな少女。

 流衣のように絶世の美少女でもなければ、笹原のように才気溢れる雰囲気もない。

 ただ自分の仕事を一所懸命こなそうという気概は、十分に伝わってくる。

「済みません。もう少しで終わりますので」

「お構いなく」

 愛想良く答える流衣。

 彼女にしては珍しい態度だが、普段接しているのが風成や笹原。

 こういうタイプには、こういう顔も見せるのだろう。



 仕事が片付いたらしく、席を立って二人の前に進み出る少女。

 立ってみても、やはり小柄。

 流衣の肩辺りに、彼女の頭が来る。

「初めまして。体育会代表、真山まやまと申します」

「こちらこそ。私は玲阿流衣、彼は玲阿風成」

「ご高名はかねがね」

 皮肉さの欠片もない笑顔。

 女性は簡素な応接セットに二人を案内し、自分はラックの上にあった電動ポットで紅茶を入れ始めた。

「コーヒーの方がよろしかったでしょうか」

「お構いなく。お仕事は?」

「大体終わりましたので。私はあくまでも雑務を行ってるだけに過ぎません」

 謙虚の一言。

 流衣の笑顔が深まるのも無理はなく、彼等の周囲にはつくづくいないタイプである。


 ただのんきに彼女の人柄を受け入れられるのは、流衣の育ちの良さ。

 人を疑わないお嬢様気質から。

 もう少し世慣れている風成は違う。

「体育会は、格闘系クラブが主流と聞いた。おたくはどうみても、そういうタイプには見えないが」

「元々は、野球部のマネージャーでした。ただ人が足りないので、こうしてお手伝いをさせてもらってます」

「代表なんだろ」

「単なる肩書きに過ぎませんよ。私自体に、これといった権限がある訳でもないですから」

 至って殊勝な発言。

 しかし風成達を案内してきたクラブ生達は、そんな彼女に強い畏敬の念を払っていた。

 本人はともかく、周りの人間は間違いなく彼女を代表として扱っているようだ。



 ティーカップを空にして、それを音も立てずテーブルへ戻す風成。

 それだけ自分の体を使いこなしているとも言える。

「体育会として、学内に関わる気は。あんたの意見でも、体育会としての意見でも良い」

「私個人としては、関わるべきではないと思っています。色々と良くない評判もありますし、力を背景に行動するのは好ましくないですから。ただ有事の際には協力を惜しみませんし、私達が不当に扱われるのであればその際は断固として抵抗をします」 

 小柄な体から発せられる、強烈な意思。

 またその意思を貫き通すだけの確かな覚悟。

 それは代表に推挙された片鱗を伺わせる一瞬であった。

「お二人は、学内の問題に関わるおつもりですか」

「俺も、自分達の身だけを守ってればいいと思ってた。その考えは今も変わってない。ただ悠長な事を言ってられない状況なのも分かってる。噂くらい聞いてるだろうが、生徒課の再編案。多分相当学内は荒れて、自分達はどの立場にいるのかを回りから常に見られる。例え、一生徒であってもな」

「意外と色々考えてるんですね。もう少し、大ざっぱな性格だと思ってました」

「性格はがさつだよ。ただ、勝つためには何でもやる。そういう家柄なんだ」


 玲阿家の家訓は、引く無かれ。

 そして勝つ事が、全てにおいて優先される。

 卑怯、卑劣、反則。

 それらは褒め言葉だと揶揄されるくらい。

 また勝つ事は、何も格闘技だけではない。

 どんな事であれ、勝利を掴む。

 例えそれが、高校生同士の争いであろうとも。



 その答えに、少し笑顔を固くする真山。

 確かに褒められた発言ではなく、倫理観とはおおよそ程遠い。

「本気ですか」

「本気だよ。ここに来たのは、無用なトラブルを避けるためだ。無闇に引けとは言わないが、戦わなくても良い場面で戦う事になっても困るだろ。お互いに」

「あまり感心は出来ませんが」

「それは諦めてもらうしかない」

 ここは譲らない風成。

 真山は口元を抑え、咎めると言うよりは危ぶむような視線を彼へと向けた。

「あなたは結局、何を目指してるんですか」

「自治に興味はない。ただ、訳が分からないまま混乱に巻き込まれるのも良い気分じゃない。俺の領分を侵してくれるなという事さ」

 低い声で宣言する風成。

 それを真正面から受け止める真山。


 二人の視線はしばし激しくぶつかり合い、ただ先に風成の方が顔を背ける事でそれは終わる。

「今言ったように、体育会と事を構える気は無い。ただ学内に混乱をもたらすようなら、こっちにも考えがある」

「体育会としても、学内政治に口を出す意思は持っていません」

「だと助かるね。俺は自警組織側に付くが、生徒会のやり方に賛成してる訳でも無い。まあ、都合の良い言い訳だ」

 一人で笑い、部屋を出て行く風成。

 流衣も静かに席を立ち、彼女に一礼してドアへと向かった。

「あなたは彼に従うんですか」

「反対する理由は、特に無いわね。自分達の柄では無いけれど、この学校がどうなっても良いとは思ってない。身勝手と言われようと、最低限自分の身も守りたいし」

「あなたにも聞きましょう。何を目指してるんですか」

「平凡な学校生活よ。そのためには、血を流す覚悟もあるわ」

 音を立てず閉まるドア。

 真山は彼等のティーカップを片付け、自分の机を振り返った。

 小柄な彼女には不釣り合いな、まるでその責任の大きさを示すような。

「勿論、その覚悟は私にだってあるわ……」




 体育会の外へ出た所で周りを囲まれる風成と流衣。

 歓待してるようにはとても見えない雰囲気で、しかも全員手には武器。

「何か用か」

 腰を落とし、後ろへ視線を向ける風成。

 流衣もすでに構えを取り、両手は貫手。

 戦う意志しか示してはいない。

 そして男達も無言。

 彼等もまた、敵意しか示してはいない。

「流衣。殺すなよ」

「すぐに医者を連れてくれば良いだけでしょ」

「それもそうだ」


 いきなりの前蹴り。

 風成の正面にいた男が紙切れのように吹き飛び、後ろの木に当たってそれきり動かなくなる。

「な」

「先手必勝。戦いの初歩だ、ろっ」

 前蹴りから体をひねり、後ろ回し蹴り。

 鎖骨を叩き割り、そこへ飛び乗り飛翔。

 前蹴りで倒れた男を飛び越え、隣の男に膝蹴り。

 倒れている男の上へ降り立ち、改めて飛翔。

 振り下ろされた木刀を横から掴み、強引に前へ突き出す。

 木刀を振り下ろした男はそのままバランスを崩し、肩を抑えて床へ転がった。



 何かを言う前になぎ倒される男達。

 彼等を襲うとか拉致する以前の問題で、彼等の当初の目的は果たせそうにない。

「大抵引き際を間違えるんだが、さて」

 風成が言うように、ここで逃げればまだ自分の身は助かる。

 戦って散ると言えば聞こえは良いが、それは単なる敗北。

 得る物は何もない。

「ひ、ひるむなっ。全員で同時に襲えっ」

「馬鹿が」




 地面に倒れ、呻き声を上げる男達。

 まともに動けそうな者は一人もおらず、対して風成と流衣は全くの無傷。

 返り血すら浴びていない。

「……ほう」

 男達の懐からIDを取り出し、小さく頷く風成。

 それには小さく、「ガーディアン連合」と印刷がされている。

「何、これは」

「俺達が仲間割れするよう誘ってるのか、本当に連合内に俺達を疎ましく思う連中がいるのか。それはこの際、どうでもいい」

「どういう意味」

「俺達には敵がいる。それが分かれば十分だ」

 獲物を見つけた狼のような笑み。

 流衣は首を振り、それとなく周囲に視線を向けた。

「監視でもされてるのかしら」

「俺達は、キーマンらしいからな。取り込みたいと思ってる人間もいるだろ」

「報酬付きで」

「当然だ。報酬だけはもらっても良い。従う気は無いけどな」

 鼻で笑い、回収したIDをポケットへしまう風成。

 そして男達を一瞥もせず、流衣を促し一般教棟へ続く道を歩いていく。

 床に散る鮮血と呻き声に囲まれて。




 生徒会。生徒会長執務室。

 卓上端末のモニターに表示される、クラブハウス前の乱闘。

 重傷者多数。

 理由は不明。

 倒れているのは、ガーディアン連合の関係者を自称している。

「どういう事かな」

「実力が見たいと言っただろ。調子に乗ってる連中をけしかけてみた。この程度では負けないと思ってたけどさ」

「彼等が誤解するぞ」

「構わん。こっちとしては、不満分子が一掃されて助かった」

 事も無げに言い放つ議長。

 生徒会長は険しい目付きで彼を睨む。

「友達ごっこをやれとは言わない。だが、いがみ合ってどうする」

「それもそうだ。という訳で、彼等の実力は分かった。さて、どうする」

 一転真剣な表情になる議長。

 生徒会長も顔付きを改め、彼としばし見つめ合う。

「君は、どうしたい」

「考えは同じだろ」

「確かに、彼を無視しての活動はあり得ない。自警組織の長か、何らかの責任者として彼を処遇しよう。紐を付ければ、少なくとも目は届く」

 その言葉に頷く議長。


 机の上には再編後の組織図があり、生徒会長は自警組織の部分に「玲阿」と書き込んだ。

「しかし相当の混乱も予想される。本当に自治なんて可能なのか」

「そのために活動をしている。目標のない行動に意味は無い」

「なるほどね。まあ、俺もせいぜい頑張らせてもらおう。学内の治安が悪くなるのは本意じゃない」

「期待している。ガーディアン連合は生徒会傘下だが、君は玲阿君と同等に扱わせてもらう」

 差し出される辞令

議長はそれを受け取り、席を立ってポケットにしまった。

「全ては草薙高校のために、か」

「当然だ」

 力強く言い切る生徒会長。

 議長も微かに頷き、二人は視線を交わす。

 思いを同じくする者同士。

 重なり合う思いを一つにするかのように。




 翌日。

 一時間目の授業は中止され、全校集会が行われる。

 大講堂だけでは生徒が収容しきれず、それ以外の講堂や体育館へ生徒を分散。

 全ての生徒が集まったと判断された所で、大講堂の壇上に生徒会の執行部が登場する。

 同時に数名の理事、生徒指導の教員、学校の事務方。

 自治体から派遣されている職員と、出資企業から派遣されている社員も壇上の端へと並ぶ。


 彼等の表情は様々。

 明らかに高揚している者もいれば、醒めきった者もいる。

 全くの無関心、苛立ち、意味ありげな笑み。

 それぞれの思惑が交差しつつ、しかし彼等は少なくとも表面上は大人しく壇上に控えている。



 マイクの位置を直し、軽く咳払いをする生徒会長。

 その音が微かに拾われ、スピーカーから流れる。

 ざわついていた大講堂内はそれを合図に静まりかえり、彼へと注目が一斉に集まる。

「……それではただいまより、臨時生徒総会を始めます。噂として聞き及んでいる方もいるとは思いますが、今から述べる内容は大変重要かつ大きな問題です。端末にも情報をお送りしますので、よろしければそちらも参考にして下さい」

 講堂のあちこちから上がるどよめき。

 生徒会長はそれを無視して、話を続けた。

「草薙高校生徒会は、現体制を解体。新組織として生まれ変わります。これは単なる名称の変更ではなく、組織としての改編と考えて下さい」

 壇上の後ろにあるスクリーンに表示される新旧の組織図。


 古い方は、いわゆる生徒会。

 他校にも良くある、生徒会長、書記といったよくある肩書き。

 その下に書かれた役割も、やはり良くあるもの。

 良く言えば幹事。

 単なるイベント進行役、雑用係と言った表現もされる。 

 ただそれが、「生徒会」

 学校の指示に従い、各種のイベントを推進。

 生徒の代表という肩書きはあるが、実際は学校の下請け。

 言われた事を実行するだけの。

 「生徒会」とはそういう物だと、大抵の者は思っていた。


「生徒の自治。これが再編案のコンセプトとなります。教育、医療、飲食、衛生。こういった事以外については、原則生徒が運営を行います。その運営自体は強制ではありませんが、出来るだけ多くの方が参加して頂ける事を願っています。旧来の委員会制度の延長と考えて下さっても構いませんが、それがより高度。より専門的になったとお考え下さい」

 旧組織図が消え、新組織図が各部門別に別れた図が表示される。

 生徒会長はポインターを使い、各部門をそれで示した。

「トップは生徒会長。生徒会の全てに対して責任を負うと同時に、指揮監督する権限を有します。生徒会長の下に、各局局長を配置。この局は現在10程度を想定していますが、今後増減はあると思います。それぞれの局が専門の役割を持ち、個別の権限を有して仕事を行っていきます。例えば学校内局は、学内全般に関する部署。イベントのプランニングや備品管理、清掃など。対して学校外局は、学外に関する部署。アルバイトの斡旋、他校への研修、対外活動の相談などですね。詳細については、端末の方でご覧下さい」


 生徒達はすでに彼の話を聞いておらず、端末から情報を引き出すのに懸命。

 仲間内で会話が交わされ、講堂を飛び出ていく者もいる。

「皆さんが混乱されるのも当然だとは思います。ただ決して面倒事ばかりではなく、学校運営に関しては奨学金や内申点が加算されるとお考え下さい。各企業と共同して当たる部署においては、将来の就職にも大きく影響をします。場合によっては高校の時点で、内々定が出るケースもあるでしょう。無論企業が関わらない部署でも、内申点では充分に評価をされる事でしょう。系列以外の大学へ行く場合などは、大変有利になるはずです」

 ムチの次はアメ。

 ただ肝心の生徒達が聞いていないので、いまいち意味をなさないが。  

「またこの再編案は、すでに学校の了承も得ています。今後周知期間を設け、投票を実施。2/3の賛成が得られた時点で全ての案を導入。過半数の場合は、生徒の権限をより削減する方向での導入。過半数を下回った場合は、廃案と致します。なお本日は1時間目のみ授業を中止としましたが、これをもって今日は終業。お帰りになっても結構ですし、学内の残って話し合いをして頂いても構いません。また学校と生徒会で説明会を随時行いますので、よろしければそちらへもご参加下さい。それでは、これで臨時生徒総会を終了します」




 騒然となる講堂内。

 それを尻目に退場していく生徒会長達。


 ついに動き出す再編案。

 石は投じられ、それは波紋どころか大きな波となって広がりつつある。

 未来へと続く一歩。

 自治を巡る戦いの序章が。











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