6-10
6-10
クリスチナさんと栗栖さん達も帰国し、しばらく経ったある日。
私達の怪我もようやく癒え、サトミが熱く語る事も減ってきた。
その代わり文通なる物を始めたらしく、この間初めて手紙が届いた時は大変だった。
手紙は財団が世界を駆けめぐるクリスチナさんがいる場所へ転送してくれて、栗栖さんは自宅へ送っているらしい。
それにしても、この時代に文通だからね。
彼女達は好きでやってるんだからいいんだけど。
ショウはお父さんから北陸防衛戦の話を聞いて、決意を新たにした様子。
名雲さん共々、燃え上がっている。
ケイは、相変わらずマンガとゲーム。
この人は、多分一生このままだろう。
私も変化はないけれど、胸の中で思う事は多少ある。
クリスチナさんとの出会いが、また少し思いを育てたような気持。
でも、まだまだこれからかな。
「眠い」
「いいから。ほら、こっちきて」
「ああ」
あくびをかみ殺しつつ私の隣に経つ舞地さん。
普段よく着ているジーンズではなく、お揃いの制服で決めている。
それは彼女だけではなく、高校の正門前に集まった全員が。
「今さら、なんで」
「この前は怪我したりして、色々あったでしょ。だから、改めてね」
「私はかまわないわよ。聡美ちゃん、智美ちゃん」
うしゃうしゃ笑って、特にお気に入りらしい二人を呼び寄せる池上さん。
苦笑してその様子を眺めているのは、後ろに控えている長身コンビのショウと名雲さん。
「沙紀、ここ」
「あ、はい」
舞地さんに呼び寄せられ、私とは反対側の隣に立つ。
彼女はどうやら沙紀ちゃんがお気に入りらしく、今のように「沙紀」なんて呼んでるのを耳にしたりする。
「あの、そこ立つと俺が隠れるんですけど」
「浦田君、こっちこっち」
いつも通りの愛くるしい笑顔で、ケイを招き寄せる柳君。
その傍らには、穏やかな笑顔の木之本君が。
「でも、誰が撮るんです」
モトちゃんの指摘に、顔を見合わせる一行。
発案者は私なんだけど、そこまでは考えてなかった。
「いいよ、俺が……」
「待て浦田。誰か来たから、あの人に頼もう」
名雲さんが、歩道の彼方を指さす。
「七尾君じゃない」
「誰だ、それ」
「私の知り合いです」
沙紀ちゃんが手を振ると、向こうも手を振り替えしてきた。
「点しか見えないわよ」
「同意見」
頷きあうモトちゃんとサトミ。
「二人とも、目が悪いんじゃない?」
「丹下ちゃん達が良過ぎるの」
「獣なのよ、獣」
女の子達がわいわい騒いでいる間に、その七尾君がやってきた。
「お揃いで、どうしたんです」
いつも通りの落ち着いた雰囲気。
彼も、何故か制服だ。
「写真撮ろうと思って。君もどう?」
「俺も?それは結構ですけど」
「ふふっ。お姉さんの側へいらっしゃい」
色っぽく手招きする池上さんに、若干動揺しつつ近づいていく。
「そういう事なら、私達はいいですね」
「では」
「駄目よ、あなた達は私の脇を固めるの」
逃げかけたサトミとモトちゃんは、しっかりと腕を掴まれる。
「じゃあ俺は、この辺でいいです」
「あら。顔の割には可愛くない子」
ショウや名雲さんの隣へ逃げた七尾君は、聞こえない振りをして髪を整えている。
「結局撮る人いないじゃないですか。俺のカメラをリモートにするから、みんなはそこで構えてて下さい」
「頑張れ、浦田珪」
「いや、頑張る事じゃないんだけどね」
律儀に柳君の掛け声に答え、ケイがトコトコと前へ歩いていく。
道路を挟んだ反対側の塀にカメラを置いたところで、手が振られた。
「もう少し、右ー。そう、そこ。いいよー」
端末で画面をチェックして、ケイに手を振り返す。
すると戻ってきた彼を見ながら、舞地さんが耳元でささやいてきた。
「今、撮って」
「あ、うん」
端末に標準装備のカメラなので、私の端末からも操作は可能だ。
それでは。
「おっ」
背後で光ったフラッシュに、一瞬身を震わせるケイ。
それを見て、どっと受ける私達。
「子供の冗談だ、許してやれ」
「がっ、自分でやれって言ったのに」
「どうでもいいよ。ユウが撮りたいなら、シャッター切って」
ケイは苦笑して、柳君の隣に収まった。
「分かった。それじゃ、いい?」
「おうよっ」
訳の分からない唱和が戻ってくる。
「ではっ」
私は端末のボタンを、もう一度押して……。
「あっ」
フラッシュが焚かれた瞬間、つい声が出た。
「何叫んでんだ」
そう言ったショウも、「おっ」と声を出す。
「矢田?」
「ど、どうも」
私達が並んでいる端っこに、いつの間にか収まっている矢田局長。
一体、いつの間に。
というか、どうして。
「そ、その。僕は遠慮しようと思ったのに」
「せっかくの写真だ。人数は多い方が良い」
さらにその隣にいた会長が、勝手な事を言っている。
二人とも、いつも通りの制服だ。
「たまたま通りかかってね。冗談が過ぎたかな」
「いえ。会長の言われる通りですよ」
意外な程丁寧に答えるケイ。
「君に言われると、素直に受け取れないが。とにかく私達は抜けるから、もう一度撮ってくれ」
「なら、入ってこなければいいでしょ」
「そういう年頃なんだ」
意味不明な台詞を残し去っていく会長。
その後を、矢田局長が慌てて付いていく。
「なんなの、一体?」
「さあ。俺には分からん」
というか、ショウだけではなくて誰にも分からないだろう。
分かったのは、結構ふざけた人だという事くらい。
「じゃあ、気を取り直して。いくよっ」
「おうよっ」
この写真に映るみんなと、この先も笑っていられるように。
いつの日か、この写真がいい思い出となれるように。
笑って語れる日が来るように。
そんな思いを込めて、私はシャッターを切った。
第6話 終わり
第6話 あとがき
予想以上に長くなってしまいました。
本編とはさほどリンクしない内容で、若干今までの展開とは異なった内容になってます。
SPとの格闘や、国際的VIPの登場、そんな彼女達との個人的な接触など。
スクールガーディアンズに関しては出来るだけ現実的なストーリーを書くようにしているのですが、その点ではやり過ぎたかなとも思っています。
シスター・クリスや栗栖の人間像がいまいち分かりにくいのも、失敗ですね。
SPや修道会、軍や警察など警備関係者の書き込み不足も。
と問題点を上げればキリがありません。
全ては私の実力不足によるものです。
ただ、誤字脱字については少しずつ修正をしています。
第1話や2話は、改訂に近いほど書き直していますし。
勿論ストーリーは変更させず、人称の統一や数値の書き込みが主ですけど。
何にしろ、設定を詰めずに書くからこうなる訳です。
それでも一応、学校名は決まりました。
第5話でもあるように、通称「草薙高校」
草薙学校グループの高等部部門で、ユウ達が通っているのはその中央校。
地方校(地域校)が他に幾つかあり、そことの留学(交流学生)も盛んです。
名前の由来については、本編である程度推察が付くかと思います。
「東海エアポート」、「伊勢湾海上高速」、、「栄の中央地下街」
つまり草薙高校のある場所は、現愛知県名古屋市です。
そして名古屋で「草薙」といえば、「熱田神宮」。
草薙の剣をご神体として祀る、ヤマトタケル由来の神社。
「草薙高校」は、現在の熱田区辺りにあるんでしょうね。。
さて。
第7話からは、大きくストーリーが展開してきます。
するはずです、多分。
舞地さん率いるワイルドギースや丹下沙紀、モトちゃんも活躍します。
新キャラも、登場するかと。
そして、どうして学校側がユウ達を狙うのか。
さらには、塩田達がユウ達に何を託そうとしているのか。
その核心部分を、これから紐解いていきます。
上手く、紐解ければいいと思ってます・・・。




