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スクールガーディアンズ  作者: 雪野
第1話   1年編
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1-3






   1-3



 ある日の登校風景。

 廊下ですれ違う知り合いの子達と挨拶を交わしながら教室へ急ぐ。

 いかにもって感じで、今日もまた頑張ろうという活力が湧いてくる。

 やぱり、朝はこうでなくては。


 いい気分で歩いていたら、ケイが前にいるのが見えた。

 猫背だから、すぐに分かる。

 私は駆け寄って、「よっ」と言いながら彼の肩を軽く叩いてみた。

「おはよう」

「……ああ」

 生気がまったく感じられない顔。

 何でこう、朝に弱いかな。

「……朝から元気いいね」

 かすれそうな声。

 もう、「しゃきっとしろっ」と背中を叩きたくなる。

 というか、叩く。

 ふらふらと歩く彼の背後に回り、背中にそっと手を伸ばす。

 よし、気づいてない。

 これで目が覚める……。


「何をやってるの」

「うっ」

 背後から襟を掴まれ、喉が詰まった。

「よー、おはよう」

 脳天気に挨拶すると、サトミも苦笑しながら挨拶を返してきた。

「朝から全開ね。あなたも少し見習ったら?」

「考えとく……」

 相変わらず死にそうな男の子。

 ほっておけば、歩いたまま寝てしまいそうだ。

 それとは対照的なサトミ。

 いつも通りに真っ直ぐ背筋を伸ばし、凛とした雰囲気を漂わせている。

 こっちなら私も、見習いたい。


 よろめくケイを誘導しながら教室につくと、ちょうど予鈴の鐘が鳴った。

「ショウは……」

 サトミと一緒に教室内を見渡すが、誰もいないし彼のリュックもない。

 だがもう少しすると、先生が来てしまう。

 気を揉んでいたら、窓から黒い影が飛び込んできた。

 咄嗟に手をスティックへ伸ばして見たんだけど。

「……危なかったな」

 飛び込んできた影、ショウは安堵の息を洩らしてこっちに手を振ってる。

 彼にとっては、時間が危ないという意味だと思う。

 ここが3階でなかったら、「そうだね」と私も答える所だが。

 呆気に取られる生徒を尻目に、彼は席に付く。

 ほぼ同時に、先生も入ってくる。

 まさに間一髪。

 いいんだけど、もう少し普通に生きられないのかな。



 6時限目の世界史。

 年号や人名を必死に覚えようとするのだが、一つ覚えるとその前に覚えたのを忘れてしまう。

 これではいつまで経っても、一つしか覚えられない。

 テストは記憶力を必要とする問題だけではないが、論理性や推測力を問う問題はさらに苦手なので、私はこちらへ精力を傾けがちだ。

 隣を見ればショウも頭を抱えている。

 同志だ、同志。

 しかしサトミは余裕の顔付きで、指先のお手入れ。

 警棒を握る部分に、どうしても角質が出来るのだ。

 私もお手入れしたいのに。

 でもってケイは、マンガを読んでる。

 先生が注意するが、いい加減に返事をしてまた読み始める。

 歴史は学内でもトップクラスなので、先生もあまり強くは言えないらしい。

 そんな苦痛の時間も鐘の音と共に終わりを告げる……、のならいいのだけれど宿題がでてしまった。

 教育熱心な先生というのも、こちらとしてはありがた迷惑だ。



 HRを終えた私達はオフィスに収まり、しばらくたわいもない話しに興じていた。

 だが平穏な時は、そういつまでも続かない。

 私達の職務上。

「I棟D-4で、何者かがガーディアンのオフィスを襲撃。正確な場所は現在調査中。最寄りのガーディアンは、至急応援に向かって下さい」

 スピーカーから、緊迫感溢れる声が響く。

 私達のオフィスは、I棟D-3。

 つまりD-4といったら、すぐ隣り。

「どうしたの?早く行かないと」

 オフィスを出ていこうとしたら、ケイが悠長に何かを探している。

 彼は机の引き出しから取り出した小さな箱をポケットに入れ、付いて来た。

 どうせまた、悪い事でも企んでいるんだろう。


 廊下を走りながら、少し考えてみる。

 この襲撃犯が、一連の事件の犯人なのだろうか。

 もしそうなら、何があっても捕まえないと。

 いっそ拷問でもして……、それはないか。

 下らない事を考えているうちに、D-4に差し掛かった。

 ここにあるガーディアンのオフィスは、計3つ。

 3つあるガーディアン組織が、それぞれオフィスを構えている。

 まずは、一番近くのオフィスから調べてみよう。

 確か私達と同じ、連合のガーディアンズだ。

 規模は10名程度。

 交流はあまりないが、近所なので顔くらいは知っている。


 かなり近づいた所で速度を落とし、忍び足でオフィスに近づいていく。

 廊下に誰もいないのを見ると、まだ他のガーディアンは来ていないようだ。

「ここで様子を見よう」

 オフィスの横の教室を指差すショウ。

 特に否定する理由もないので、私達は中に入った。

「聞こえるか?」

「いや、何にも。防音がしっかりし過ぎてる」

 壁に当てていた耳を離すケイとショウ。

 盗聴器があればいいのだろうが、急いでいたので持ってこなかった。

 というか、普段から持ち歩いてない。

「仕方ない、こ窓越しに行くか」

 ショウは窓から身を乗り出し、窓枠に足を掛けた。

 その動作があまりにも自然だったので、一瞬ここが4階なのを忘れてしまう。

「ちょ、ちょっと」

 指先とつま先だけを窓の縁に掛け、隣を覗き込むショウ。

 落ちるっていうのに。

「カーテンが掛かってる」

「分かったから早く戻って……」

 そう言いかけた途端、ショウは指もつま先も離し窓から姿を消した。


 叫びそうになるのをどうにかこらえ、窓に駆け寄る。

 窓から首を出して周囲を確認してみると、彼はいた。

 隣の窓の縁にぶら下がり、顔を半分だけ窓から出して中を覗いてる。

 十分様子を掴んだらしいショウは、こっちに向かって細いロープを投げてきた。

 私達は全員でそれを掴み、ぶら下がるショウを必死になって引っ張り上げた。


「みんな、力持ちだな」

 小声で笑うショウ。

 自分がどれだけ危なかったかを、全く自覚していない。

 下は土なので、この人の体術なら落ちても平気だろうけどね。

 こっちは全然、平気じゃない。

「お、落ちて死ね」

 さすがのケイも、疲れきった顔で壁にもたれてる。

 肉体的な疲労以上の、精神的な疲れだろう。

 素直に心配だったって言えばいいのに。

「それより、中の様子は」

「ここだな。ガーディアンらしいのが10人くらい。悪いのが、その倍。小競り合い程度だけど、ちょっとガーディアンが押され気味だ」

「いいじゃない。私達がつっこめば、形勢は逆転よ」

「……それはやめてもらおう」

 突然背後から、偉そうな声がする。

 人が入ってきた気配は感じていたが、何だと思って振り向くと。


「生徒会ガーディアンズ……」

「とりあえず現状では、手を出さない。あいつらが逃げ出して油断したところで、一気に片をつける」

 神経質そうに髪を掻き上げる、陰険な目をした男。

 自警局生徒会ガーディアンズの、I棟Dブロック隊長である。

 噂では滅多に現場へは出てこず、オフィスで女の子と惚けてるらしい。

 それが今回出てきたのは、名をあげるいい機会だと打算したのだろう。

 生徒会に属しているのを鼻に掛けている、顔も見たくない人間だ。

「手を出さずって、中にいるガーディアンはどうするのよ。放っておくつもりじゃないでしょうね」

「全体の利益を考えれば、多少の犠牲は仕方ない。彼らには後で、それなりの補償をするつもりだ」

「ふざけないでっ。目の前で困っている人も助けないで、何がガーディアンよっ」

 背中のスティックを抜いてドアに向かったら、隊長が嫌みな笑みを浮かべて立ちはだかった。

 このっ。

「今、現状では手を出さないと言ったはずだ。それと、向こう側の教室にも別働隊を用意してある。誰一人として逃がすつもりはない」

「だからっ?」

「口のきき方に気を付けろ。指揮権はこちらにあるというのを忘れたか?」


 くっ、痛い所をついてくる。

 緊急時における指揮権は、到着順位、組織内での序列、ブロックの管轄担当など色々ある。

 そして生徒会ガーディアンズには、絶対的な指揮権が任されているのだ。

 つまり私達は、彼等の下部組織に過ぎないという現実がある。

「まさか殺される訳でもあるまいし、少しは頭を使ったらどうだ?」

「何っ?」

「……ユウ、落ち着け」

 ショウが私の肩を抱き、耳元で小さくささやく。

 だがそんな彼の手も、小刻みに震えている。

「どんな指揮を執って下さるのか楽しみです。精鋭揃いの生徒会ガーディアンズ。隊長は勿論、陣頭指揮でしょうが」

「わ、私は指示を出すのが職務であって、実際の活動は部下の役目だ」

「なるほどね」

 口ごもる隊長に冷ややかな視線を送るケイ。

 サトミに至っては、見ようともしない。

 沈黙と重苦しい空気の中、私は時が過ぎるのをただ待っていた。

 今までにない、辛く苦い時を……。



 私達の苛立ちをよそに、時は刻々と過ぎていく。

 そして。

「……おい、いくぞ」

「まだ一人動いてんだ。先行っててくれないか、ひひっ」

「素早く済ませろ、素早く。そろそろ来る頃だ」

「ああ、すぐ済むから。何、何人こようとこいつらと同じさ。だろ……」

「名前を呼ぶなっ、オラッ」

「す、すまない」

「俺は先に行くから、お前もすぐに来い」

「あ、ああ」


 わずかに開いたドアから漏れ聞こえる、廊下での会話。

 内容からいって、間違いなく隣から出てきた連中だ。

「もういいでしょっ」

 隊長はまた髪を掻き上げ、嫌みったらしいため息を付いた。

「……映像の記録開始。1班は直ちに出動。オフィスから出てきた奴は一人も逃がすな。2班は……」

 隊長の指示に従い一斉に出ていく生徒会ガーディアンズ。

 その間端末で、別働隊とやらに指令を送っている。

 やはり自分は出ないようだ。

「ユウッ」

 サトミがドアの前で手招きしている。

 私は隊長を睨み付け、みんなの後を追った。

「何っ」

 私達を塞ぐようにドアの前で立っている生徒ガーディアンに、スティックを突きつける。

 彼ははぶるぶる震えながらも、警棒をドアの前にかざした。

「隊長の命令があるまでは、あなた達を出す訳には行きません」

「くっ。ちょっと、私達も行くわよっ」

「まだいたのか。行きたければ勝手に行け」

 端末で指示を送っていた隊長は、面倒げにこちらを見て、すぐに端末にがなり始めた。

「聞こえたでしょっ。どきなさいっ」

「は、はいっ」

 慌てて飛び退く生徒会ガーディアン。

 全く何考えてんだ。



 息巻いて廊下に出ると、惨憺たる光景が目に飛び込んできた。

 あれだけいた生徒会のガーディアンは、全員がその場に倒れている。

 呻き声を上げ、血塗れの顔を苦痛に歪ませて。

「ひどい……」

 倒れているガーディアンを避けて、医療部に連絡しているサトミの隣に立つ。

 あちこちに落ちている、警棒。

 プロテクターやアームガードの破片。

 点々とした、血の跡もある。

「余程手強い連中だったみたい。隣の別働隊っていうのも全滅よ」

「結局は逃げられたか」

 うずくまるガーディアンに、憐憫とも哀れみともつかない視線を向けるケイ。

「とにかく、中の人達も助けないと」

 自動ドアが開いた瞬間、私は何も考えずに走り出した。



 部屋の中央にうずくまっている男の子。

 愉悦の表情を浮かべて、その彼を木刀で殴り続けるスーツ姿の男。

「やめろっ」

 叫び声に反応して、男は手を止める。

 だが、狂気の笑みは消えない。

 男が放ったナイフをかわし、両手に抱えたスティックを右手だけで握る。 

 スティックを逆手に握り、拳を突き出すようにして横に振る。

 うなりを上げ半円を描くスティック。

 だが男は素早く横に動き、スティックが描いた半円から脱出した。

「当たるかっ……」

 そう叫んだ男の脇腹に、さらに円を描いたスティックがめり込む。

 スティックが半円を描いたところで順手に持ち替え、手首をひねってさらに加速させたのだ。


 のたうち回る男には目もくれず、中央でうずくまっている男の子に駆け寄る。

「大丈夫っ?」

「あ、ああ」

 辛うじて返事をする男の子。

 だけど顔色は悪いし、血が周りに飛び散っている。

「すぐ医療部の人が来るから、もう少し我慢して」

「た、助けに来てくれて、ありがとう」

 弱々しい笑みを浮かべ、震える手を差し伸べる男の子。

 だけど私には、その手を握る資格はない。

「どうかした」

「う、うん。何でもない」

 沈んだ表情を消し、ぎこちなく微笑む。

 彼もそれに合わせて微笑み返してくれた。

 伸ばした手を、弱々しく自分の胸に当てながら……。


「状況はっ」

 機材を抱えた医療部の人達がようやくやってきた。

 彼らは馴れた様子で怪我をした人達を手当していく。

 部といっても正式な医師や看護婦さんで、医療部というのは通称である。


「どうですか?」

男の子を手当している先生は、彼の足に触れて小さく頷いた。

「大丈夫。骨折はしていないようだ。しばらくは熱が出るだろうけど、心配ない」

「俺も一応はガーディアンだから、体には自信があるよ。君達のように、実力は伴っていないけど」

 痛み止めの注射が効いてきたのか、軽口を聞ける余裕も出てきたようだ。

 担架で運ばれていった彼は部屋を出ていく間際、もう一度「ありがとう」と言っていた。


 ガーディアンも医療部の人達もいなくなったオフィスは備品や本が散乱し、こびりついた血がそれまでの出来事を物語っている。

 私は握り返せなかった手をじっと見つめ、床に叩き付けた。

 拳が破れ、私の血も部屋に流れ出す。

「ユウ」

「分かってる」

 サトミが私の手を取って、消毒付きの包帯を巻いてくれる。

 真っ白な包帯に、赤い血がうっすらと滲む。

「こ、これは一体……」

 絶句する声に気づいて振り向くと、隊長が真っ青な顔で立ち尽くしていた。

「見ての通りです。ここにいたガーディアンは全員入院。あなた達の部下もね。部下という表現自体、本当は間違ってるんですが」

 黙りこくる隊長。

 ケイは淡々と続ける。

「これが映像を記録したディスク。生徒会自警局に提出義務がありますから、取りあえずあなたに渡しておきます」

「あ、ああ」

 曖昧に頷いてディスクを受け取る隊長。

 ケイはディスクに続いて、何かをポケットから取り出した。

「これは、それとは別に俺が録音していたカセットテープです。古いタイプで生徒会には再生出来る機械がないでしょうけど、証拠品として提出しておきます」

「わ、分かった」

「ただこれには、あなたとうちの雪野が交わした会話が入ってまして」

「な、なに?」

 目を見開いて動揺する隊長。

「抹消しようとしても無駄ですよ。テープを入れているケースは特殊な物で、物理的な衝撃は勿論、電磁波も通しません。ケースを開けるには俺が持っている鍵がいりますし、発信器が付いてますから捨ててもすぐ見つかります」

「お、俺にどうしろと」

「証拠品の一つとして採用するだけで結構です。再生する時は我々が立ち会いますから、どの部分を再生するかは俺の判断次第です。ただ、今後ああいった真似をしたら……」

「わ、分かった。証拠として申請しておく」

「ありがとうございます。みんな、行こう」 

 隊長に頭を下げ部屋を出ていくケイに、私達も続く。

 重い足取りで廊下を行く私達は、オフィスに着くまで一言も話をしなかった。



 廊下から、友達と笑いながら駆けていく女の子の声が聞こえてくる。

 彼女たちの足音と笑い声はだんだん小さくなり、やがて聞こえなくなっていく。

 窓の外は真っ暗で、照明に照らされてサトミの後ろ姿が窓に反射している。

 正面から見える彼女は俯き加減で、その表情は読みとれない。

 ショウは明らかに苛立った様子で顔をしかめている。

「こうしてても仕方ないだろ。今日はもう帰ろう」

 ケイが立ち上がり、リュックを背負った。

 だけど、誰も彼に続こうとはしない。

「生徒会から、他の場所でも何人か捕まえたって連絡があっただろ。そいつらの取り調べが進めば、すぐに解決する」

「でも、あんな汚いやり方は……」

 ぶっきらぼうな私の言葉に、ケイは顔をしかめリュックを置いた。

「それは今度の定例会で、連合を通して正式に抗議する。あれだけ脅しておけば、あいつもうしないさ。それにあの状況で、あいつに逆らえなかったのは分かってるだろ」

「でも……」

「あいつは末端だけど、一応は生徒会の幹部。それに逆らえば、停学どころか退学もあり得る。さっきのやりとりだって、本当はかなりやばかったんだから」

 もう一度椅子に腰掛けたケイは、諭すように話し始めた。

 私はそんな彼を、反発気味に見返す。

「じゃあ私達は、生徒会の言いなりなの?強い奴の機嫌を取って、弱い人がいじめられてるのを無視してればいいの?そんなのガーディアンじゃないわよっ」

 痛んだ拳を机に叩きつけ、ケイを睨む。

 ケイは表情を崩さず私を見つめ返す。

「じゃあ聞くよ。あそこでDブロック隊長、つまり生徒会幹部に逆らって彼らを助けてたら、今俺達はどうなってると思う?」

「そ、それは」

 口ごもる私。

 ケイは頬杖をついて、机を指で叩き始めた。

「彼の報告によって、生徒会及び学校名で拘束状が出る。即時に身柄を抑えられ、除籍処分が下る。俺達は晴れて自由の身となり、明日には寮も追い出される」

「え」

「それは極端な例えで、実際はガーディアンの資格停止くらいだろうけど。末端とはいえ、生徒会の幹部にはかなりの権限がある」

「でも、だけど」

「信念を貫いたから、後悔は無いと言い切れる?停学になっても、退学になっても」

「い、言い……」

 言葉がつながらない。

 ケイの指摘が的を射ているから。

「思ったままに行動するのはたやすいし気持ちいいけど、根本は何も解決しない」

「も、もういいっ」

「ユウッ」

 サトミの声に耳も貸さず、下を向いたまま外に出る。

 いい知れない怒りと後悔を抱えたまま、私は廊下を走っていった。



 人気の無い廊下をしばらく走って、ようやく我に返る。

「……何やってるんだろ」

 包帯が巻かれた拳をじっと見つめる。

 私に感謝してくれた、彼の顔が思い浮かぶ。

 確かに私の考えはあまりにも幼稚で、場当たり的だ。

 思いつくままに行動して、後で後悔ばかりしてる。

 対照的にケイはいつも冷静で、先の先の先を読んで行動する。

 さっき彼が言っていた事は、自分でも分かっている。

 でも、何もあそこまで言わなくてもいいと思う。

 言い負かされた分、余計に悔しい。

 何で、どうして……。

 駄目だ。

 どんどん考えが悪い方へ向かっていく。

 少し頭を冷やそう。



 静まり返ったグラウンド。

 校舎上の夜空には、厚い雲がたれ込めている。

 よく冷えた夜の空気を、胸一杯に吸い込む。

 心のもやもやが、少しだけどこかにいった気になった。

「え、えいっ」

 近くにある水道で顔を勢いよく洗う。

 でも右手は包帯が巻いてあるので、左手だけで。

「くー」

 冷た過ぎた。

 さてハンカチはと。

 あれ、無い?

 そう言えば、リュックの中だ。

 そのリュックはといえば、オフィスに置いてきた。

 濡れた顔に夜風が吹き付け、どんどん涼しくなっていく。

 頭が冷えるどころか、体まで冷えてきた。

 なんというか、物悲しい。

「……どうぞ」

「あ、どうも」

 横から差し出されたタオルで顔を拭く。

 誰だか知らないけど、助かった。

「どうもありが……」

 笑いかけようとして、言葉に詰まる。

 タオルを渡してくれたケイも、気まずそうに佇んでいる。

「あんな奴は無視して、突っ込めばよかったとは思う」

「えっ?」

 ケイは自分も顔を洗った。

「なんだこれ。冷たいな」

 首をブルブルッと振り、犬のように水を飛ばす。

 少しおかしい。

「だけど俺は自分の事だけを考えて。格好悪いというか、情けないというか」

「そんな……」

「さっきだって、裏取引みないな真似してさ。ユウが怒るのも無理ないさ」

 自嘲気味な笑いが私の耳を打つ。

 悔やんでいたのは私だけではなかったのだ。

「そんな、そんな事無いっ」

 突然叫んだ私を呆然と見つめるケイ。

 私の口から、思ってもみなかった言葉が続く。

「あなたが取った行動は間違ってない。誰がなんと言おうと私は、そう思ってる」

「間違ってはいなかったけど、正しくもない。それはユウが一番分かってるだろ」

「そうかもしれない。でも、そうだとしても、ケイは間違ってない。だから、自分を責める必要はないんだよ」

 沈んだ表情で俯くケイに、私は言葉を続けた。

「……私達はまだ未熟だと思う。だからすぐに動揺するし、いざという時何もできない。例えば今日のように」

「昔よりはましになったつもりだけど。やっぱりまだまだかな」

「神様じゃないんだから、たまにはこんな事もあるわよ。だからそれを二度と繰り返さなければいいんだって。でしょ」

 雲の切れ間から月が姿を見せ、その蒼白い光で私達を照らす。

 校庭には薄い影が二つ。

「ああ」

 下を向いて小さく笑うケイ。

 私も笑う。

 私達はしばらくの間蒼白い光を受け、乾きかけた心を潤すのだった。 



 それから数日後。HRも終わったし、そろそろオフィスへ行こうと立ち上がった時だ。

 端末が小さく揺れて、通信が入った事を告げた。

「……はい」

 端末を取り出してレシーバー部分を耳に近づける。

「……はい。……ええ。はい……。ええ、分かりました。すぐに行きます」

 通信を切ってポケットにしまうと、サトミがこっちを見ていた。

「どうしたの?」

「この前捕まえた奴の事で、自警委員会が臨時総会を開くんだって。だから、代表者に来てくれって」

「そう」

 何となく浮かない表情でケイを見るサトミ。

 困惑気味といってもいい。

「予定でもあるの?」

「俺の妹が勉強教えてくれって。でも、サトミは残った方がいいだろ」

「いえ、私も行くわ。約束を破ったら悪いでしょ」

「そうだけど、臨時総会も気になるし」

 確かに、この二人に抜けられるのはちょっと痛い。

 何たって頭脳労働担当だから。

「仕方ないだろ。状況は端末で流すから、それを見ててくれ」

 優しく微笑むショウ。

 顔はいいので、何か格好良い事やったみたいに見える。

 ただ笑っただけなんだけどね。

「じゃあ、後は頼む。サトミ、悪いけど」

「ええ。ユウ、寝ないでね」

 手を振って教室を出ていく二人。

 そして残ったのは、体力派の私達。

「俺達だけで大丈夫か」

「さあ」

 ケイ達に言った言葉とは裏腹に、非常に気弱な会話が交わされる。

 不安を通り越した、諦めの顔で。


 連絡された大きめの会議室に入ると、既に殆どが埋まっていた。

 集まっているのは各ガーディアンの代表達で、大体500人くらいだろうか。

「どこに行けばいいんだろ。それに、何かいるのかな」

「知らん。俺も定例会や総会は出た事無いんだから」

「サトミ達に聞いとけばよかった。全然分かんない」

 おどおどした私達が通路を歩いていくと、顔見知りの人達が声を掛けてきた。

「あれ、珍しいね」

「何カ月ぶりってところ?」

 この辺はまだいい方で、ひどいのになると。

「どうしてあなた達が来たの?」

「な、何かあったの?」

 とまで言ってくる人までいた。

 そんな言葉をかいくぐり、空いている席にちんまりと腰を下ろす。


「やっぱりこういうのにも、まめに出てないと駄目みたいね」

「あの二人にまかせっきりだったからな」

 何となく落ち着かない様子のショウ。

 私も、こういう場所はどうも苦手だ。

 二人で不平と反省を繰り返している内に席も殆ど埋まり、進行役でもある自警委員会の委員達が壇上に登場した。

 我らが塩田さんも委員だけれど、何か用事があるのか代理の人が来ている。

 あの人も、何かと忙しいしね。

 そんなざわざわしていた会場も、少しずつ静かになっていく。


「お忙しいところ、お集まりいただき大変恐縮です」

 ……何か違和感を感じつつ私は自警委員長、つまり生徒会自警局の局長の話に耳を傾けた。

 Dブロックの隊長なんかと違い、本当の生徒会幹部。

 とはいえその上にも、総務局があって事務局がある。

 だからこの前会った副会長さんなんて、本当はすごい偉いのだ。


「それでは早速本題に入りたいと思います。みなさん端末を接続して下さい。細かな情報は、そちらを参考にしてもらいます」

 先ほどからの違和感を拭えぬまま、机に備えてある端子へワイヤレスでつなぐ。

 ネットワークで送るよりは遅いけど、情報の機密性は高い。

 より機密性と確実さを求めるなら、ショウのようにケーブル接続だ。

 すると画面には「ガーディアン連続襲撃事件についての臨時報告」と表示された。

 ざわめきと驚きの声が一斉にあがる。

「中には既にご存じの方もいらっしゃるでしょうが、最近ガーディアンが何者かに襲われる事件が続出していまして、当局も対応に追われていました」

 局長が話し始めると、騒ぎも自然と収まる。

 遠目でよく見えないが、彼の表情はさっきから殆ど変わらない。

「そして昨日、ついに一連の襲撃犯と思われる者の拘束に成功しました。我々生徒会自警局は彼らを尋問し、背後関係や目的についていくつかの情報を得ました」

 端末の画面が切り替わり、いくつかの図と説明文が表示される。

「局長、これはどういう事ですか?」

 壇上にいた、自警委員でもあるフォースの幹部が立ち上がる。

 代表代行臨時補佐とかいう訳の分からない肩書きだけど、偉い人なのは間違いない。

 やはり遠いので分かりにくいが、可愛い感じの人だ。

「ご覧の通りです」

 局長は動じる事無く、幹部をじっと見据えてる。

 何だかきな臭くなってきた。

「すると、我々が黒幕とでも?」

「言い方は様々ですが」

「この報告書は、有力な自警組織の関与が推測されると結ばれているじゃないですか。しかもその組織の特徴として、拡大指向が危険視されており現在生徒会から様々な勧告を受けているとある。生徒会から勧告を受けている自警組織は我々だけですっ」

 声を張り上げる幹部。

 会場の空気が一気に張りつめる。

 だが局長だけは、顔色一つ変えず幹部と睨み合う。

 さすがに生徒会幹部だけあり、多少の物事には動じないらしい。

「我々も相当の検証の上、今回の発表に至っています」

 画面はまたもや変わり、眼帯を付けた男がDDデジタル・ディスクらしき者を持った映像になった。

 私が昨日倒した男だ。

 でも、顔は叩いて無いけれど……。

「彼は襲撃犯の一人で、尋問したところ仲間の居場所を話してくれまして。今日そこを捜索した結果、彼が手にしているDDを発見したのです」

 画面が変わり、今まで襲撃を受けたガーディアンと、DDの内容が左右に映し出される。

 そして左右の内容は、全く同じ。

 襲われたガーディアンの名前は、すべてDDにも書き込まれていたのだ。


「これが彼らの物であるという証拠でもあるんですか」

「勿論現場にいた連中は、このディスクの存在すら認めませんでしたよ。ですが、決定的な事実がありまして」

 苦笑してもったいを付ける局長。

「ディスクを閲覧するパスワードがかなり特殊な物だったんです。おそらく特定の人物しか知り得ないような」

「ごたくは結構ですから、結論をおっしゃって下さい」

「ええ。パスワードは、さっきディスクを持っていた男の祖母の名前だったんです」

「なるほど。ですが、それと我々との関係は?」

「次を見て下さい」

 画面が変わり、電子サインが映し出される。

「これはフォースの幹部しか使用できない電子サインですが、それがディスク内の書類にいくつもありました。しかも、襲撃が成功した確認としてね」

 騒然となる会場。

 それこそ蜂の巣をつついた騒ぎという奴だ。

「あなた達の組織はガーディアンを襲撃し、弱小化したガーディアンの吸収をはかろうとした。そして一般生徒にガーディアンの必要性を過剰に認識させ、治安維持組織以上の力を得ようとした。我々の推測はとりあえずそこまでですが」

幹部は大きく息をついて、局長を見つめた。

「確かにサインは我々のだ」

 さらに騒ぎ出す一同を手を挙げて制する幹部。

 口調も何か横柄になった。

「正確には「だった」だが。最近我々の情報管理室から電子サインのソフトが数種類盗まれて、その中に今画面に出ているサインもあった」

 会場を見回す幹部。

 かなり余裕だ。

 何となく芝居がかって見えるが、こうなる事を予測していたのだろう。


「我々は直ちに旧サインの無効化と新サインの作成に入り、その届け出は既に受理されている。つまり画面に出ているサインは、今や我々とは無関係な物だ」

 ニヤついて局長を見つめる幹部。

「我々の無実がある程度分かっていただけたと思うが」

 局長が何も言わないのを確かめて、幹部は鼻で笑いさらに続ける。

「一方的に攻められるのは好きじゃなくてね。こちらも用意していた物を提出しよう」

 幹部はDDを委員の一人に渡す。

 委員はそれをホストコンピュータに入れた。

「先程生徒会が解析したディスクを、我々独自で解析したら面白い情報が出てきてね」

「どうやってDDを手に入れたんですか」

「それはノーコメント。ただ生徒会にも、我々と同じ思いを抱く人がいるとだけ言っておこう」

 画面には先程と同じ、襲撃されたガーディアンの名前が映し出される。

「ここから注目」

 笑いを含んだ幹部の声。

「こ、これは……」

 委員の一人が声を上げる。

 それもそのはず。

 画面には、これから襲撃されるガーディアンの名前が映し出されたのだから。


「さらに見ると」

 もうだれも幹部にはかまっていない。

 みんな画面に釘付けだ。

 画面には成功した場合の報酬が、一覧となって映し出される。

 その末尾には生徒会の電子サインが。

「我々を糾弾しておきながら、生徒会はこんな事をやっていた訳だ。しかも、証拠となるDDのデータを改ざんまでして」

 声を張り上げる幹部。

「あなた達の意図はこうだ。結局は我々以上に拡大指向のある生徒会。誰もが手を焼くガーディアン襲撃犯を生徒会独自で捕まえ、学校内での立場をさらに強めようとした。自作自演によってね」


 もう会場は混乱の極に達して手の着けようがない。

 何といってもこの騒ぎを静めるはずの委員達が、事件の当事者として疑惑を掛けられているんだから。

「ど、どうする」

「どうするって、どうしようもないだろ。まさか前に出てって、何か言うってか」

「そんなのやだ」

「俺も」

 顔を見合わせ「へへっ」と笑う私達。

 笑い事ではないが、笑うしかないので。

「ここにケイかサトミがいればね」

「お、それ。さっきから情報は送ってるんだろ。連絡して、どうすればいいか聞こう」

「そうね」

 早速ケイを呼び出してみる。

 きっと、良い考えの一つや二つは思いつくだろう。

 ……つながった。


「ケイ?総会の情報をさっきから送ってるけど、見てた?見てたらすぐにどうすればいいか教えて……。おーい?」

 応答がない。

 通話が可能な状態になっているんだけど。

 あ、声が聞こえてきた。

 でも、少し遠いな。

「ちょっと、聞いてるの」

「……。つまり、56足す48だから、103だろ。こんなの小学生レベルだって」

 私は迷わず回線を切った。

 隣でショウが唖然としている。

「ど、どうした?何で切った?」

「あんな人に頼るなんてどうかしてた。やっぱりサトミの方がいい」

「どっちでもいいから早くしろよ」

「分かってる」

 サトミの方へ。

 あれ、つながらない。

 どうしたんだろ。

「これより当会議は秘密会とし、現時刻をもって外部との連絡を強制的に遮断します……。だって」

「時遅しか」

 端末のディスプレイに表示された文字を見つめる私達。

 そして激しく言い争う局長と幹部。

 各委員はどっちについて良いものかおろおろするばかり。

 参加者のみんなはもっと動揺している。

「まったく、どうなるんだか」

「ねえ」

 当然私達も何かが出来る訳もなく、呆然と騒ぎの中に埋もれていったのだった。

 自分の無力さを感じる気にもなれず……。



「何かこう、無駄に疲れたね」

「ああ」

 だるそうに返事をするショウ。

 私もしばらくは、動きたくもない。

 という訳で、自販機で買ったお茶をごくっと飲む。

 ふー、冷たくて美味しい。

「よう、会議どうだった。あ、おみやげ。永理えりが作ってくれた」

「美味しいわよ。ほら、食べて食べて」

 のんきな二人が帰ってきた。

 ちなみにエリちゃんとは、ケイの妹さん。

 ケイに似なくて可愛いんだ、これが。

「それはよござんしたね」

 投げやりな返事をして、綺麗にラッピングされた袋を受け取る。

 手触りからして、クッキーかな。

「どうしたの。ほら、いつもの笑顔は?」

 爽やかぶった笑顔を見せるケイ。

 しかし、似合わないなこの人には。

「こっちは、それどころじゃなかったの。会議は混乱するし、委員は対立しちゃうし」

「分かった、分かった。もう少し詳しく話して」

 サトミは落ち着いてという感じで、手を下に下げる真似をする。 

 クッキーをかじりながらでは、説得力に欠けるが。

 私とショウは虚しさを感じつつ、今日あった出来事を二人に説明した。


「なる……。でも、それなら会議中に教えてくれればいいのに」

「あ、あなたみたいな人には、何を教えても意味ないわよっ」

「怒るなよ。意味もなく」

 あくまでも冷静に返してくるケイ。

 私は沸き上がる苛立ちを抑え、その鼻先に指を突き立てた。


「いいっ?答えは104っ。どうして103なのっ」

「あ、何言ってんだ?」

 さっきケイの計算を聞いていなかったショウは、クッキーをパクつきながら変な顔をしている。

 あっ。

 それは私が食べる予定だったレモン味。

 そんな私の悲しみも知らず、サトミが醒めた調子で口を開く。

「電卓使っても間違えるんだもの。もうどうしようもないわ。とにかく、総会の経過を一度見せて」

「それがいいね……」

 消え入りそうな声で返事をしたケイは、オフィスのテレビに端末のデータを再生し始めた。


 だが落ち込んでいたのもつかの間。

 総会の様子が映し出されると、食い入るように画面を見つめている。

 サトミも、公開されたDDの内容をチェックしている。

「……大体分かった」

 目を指で押さえ、椅子の背もたれに倒れるケイ。

 サトミはまだ熱心に端末を見ている。

「こんな事態になるなんて。どうする?」

「さあ」

 気のない返事。

 彼はこの手のいさかいが大嫌いなので、結構怒っているみたい。

「ほら」

「分かった。……ユウ」

 サトミに促されたケイは、妙に真剣な顔で私を見てきた。

私は椅子の足を浮かして背中でギコギコやっていたので、ここは姿勢を正す。

「何?」

「ユウはこれからどうするつもり?生徒会に付くのか、フォースに付くのか。それとも連合の判断に従うのか」

「あれだけ激しくやり合った両者が次に取る手は、勢力の増強。それにはまず各ガーディアンの吸収が考えられるわ。この場合は引き抜きね」

「それもだけど、連合の動きによっても判断は違ってくる。もし誘いを蹴っても連合がどちらかに属したら、俺達の立場はかなり危うくなる。不穏分子と判断されて、相当な目に合う」

「それにさっきのビデオを見た限りでは、両方ともかなり無茶をすると思うわ。ガーディアン同士のケンカなんて、下らないけれど」

 淡々と語る二人。

 だけどその内容は、決して単純なものではない。

 そんな大事な判断が、この私に出来るだろうか……。


「俺はユウと同意見だからな、結果がどうなっても」

 何気なく呟くショウ。

 彼の表情には何となく照れが見える。

 小さな一言。

 でも私には、何より嬉しい一言。

「勿論私も」

「当然」

 親指を立てるサトミとケイ。

「……分かった」

 彼らの信頼と思いが私を優しく包み込む。

 私はその思いに応えなけらばならない。

 いや。そんな悲痛な決意は必要ない。

 だって私とみんなの思いは一緒なんだから。

 みんなの思いは私の思い。

 そうだよね、みんな……。



 今日は疲れたので早い内からベッドに潜り込んだはいいけど、どうも寝付かれない。

「……やっぱり起きよ」

 タオルケットをどけて、テレビを付ける。

 別に見たい番組はやってないけど、退屈な番組はいい睡眠薬にもなる。

 何気なくチャンネルを変えていったら、犬の特集をやっていた。

 つい手が止まってしまう。

 やっぱりペットは人なつっこい犬だよね。

 サトミは猫派だけど、猫なんてわがままだし言う事聞かないから、飼っても仕方ない気がする。

 「それがいいのよ」とサトミは言うけど、何がいいんだか。


 子犬達が戯れる姿にしばし見入っていたら、何か喉が渇いてきた。

 今飲むと夜中に起きちゃうけど、喉の渇きには代えられない。

 目線をテレビに据えたままベッドから這い出て、キッチンの冷蔵庫を目指す。

 そして手探りで飲み物を探す……。

 ん、脈あり。

 今度は冷蔵庫のドアを閉め、ベッドを目指す。

 勿論目線はテレビへ。

 何を取ったかあえて見ないのが、また一興。

 ベッドに潜り込んで楽な体勢を取る。

 テレビでは草原で子犬達が追いかけっこしてる。

 さてこんな場面には、どんな飲み物が……。

 一口飲んでみよう。


「やった、リンゴ炭酸」

 自分でも何が「やった」なのか分からないが、リンゴ炭酸は好きなので「やった」なのだ。

 一人ささやかな幸せに喜んでいると、枕元から呼び出し音が聞こえてきた。

「誰よ、せっかくいいとこなのに」

 とはいえ私がこの番組を見ていると誰かに教えた訳ではないので、怒るにはちょっと無理があるか。

 一応テレビのボリュームを落として、通話受信のボタンを押す。

 これで、枕元のマイクとスピーカーがオンになった。


「はい」

「もしもし、雪野優さんでしょうか」

「失礼ですが、どなたですか」

 自分が名乗らないのに名前を聞かれると、ちょっと気分が悪い。

「申し訳ありません。私は生徒会の自警局に属しています……」

 何で自警局が。

 ああ。これがケイやサトミが言っていた、あれか。

「そ、そうですか。確かに私は雪野ですが、何かご用ですか」

 いかにも意外という感じで返事をしてみた。

 相手にしてみればしてやったりの反応だろう。

 私だって、演技くらい出来るのよ。

「ええ。本来なら電話でするお話ではないのですが、緊急な用件がありまして」

「緊急、ですか」

「はい。単刀直入に申し上げます。雪野さんとそのメンバーの方々に、生徒会に参加していただきたいと思いまして」

 来た。やっぱり来た。

 来たけれど。

「以前もそういったお話があったのですが、お断りさせて頂いたんです」

 ちょっとすまなさそうに言ってみた。

 だけど相手はめげないね。

 将来は、いい営業マンになれそうだ。

「それは承知しています。ですが今後の状況を考えますと、みなさんのような方が我々には必要なのです。ここは改めて考え直してはいただけないでしょうか」

 誠意と熱意のこもった声。

 モニターはオフにしてあるけど、頭まで下げてそうだ。

 言うだけなら誰でも出来るけど。

「そうですね……。私の一存では決められないので、みんなと相談してみます」

「分かりました。では後日連絡を差し上げますから、よろしくお願いいたします」

「はい」

「では、失礼致します。お休みなさい……」

 丁寧に消えていく生徒会自警局。

 ほっと息を付くのもままならず、また電話。

「はい」

「あっ、雪野優さんでしょうか」

「失礼ですが、どなたですか」

「済みません。私はフォースの渉外担当に属しています……」

 今度は予算編成局の傘下にある、フォースからだ。


「では失礼します」

 生徒会自警局と同じような話しをして、渉外担当は消えていった。 

 気づくと犬の特集はもう終わっていて、美人だけど何となくクラブのチーママみたいな人がニュースを読んでいる。

 過ぎ去った時を感じ、精神的な疲れも感じ。

 今更ながら事の重大さが実感出来た私だった。



 翌日。

 寮を出たところで、トボトボ歩く猫背姿が目に飛び込んできた。

 昨日までだったら何かやってやろうと思うんだけど、今朝はとてもそんな元気はない。

「……おはよう」

 ケイの横に並んで低い声で挨拶したら、向こうも死にそうな顔で返事してきた。

「どうしたの、目赤いわよ」

 いつの間にか横にいたサトミが、私の顔を覗き込んで笑っている。

 理由は分かってるわよ、とでも言いたげに。

「昨日両方から誘いがあった。色々考えてたら眠れなくって」

「リーダーは大変ね。よかった、無役で」

「……俺も」

 4人しかいないのに、無役も何もあったもんじゃないと思うが。


 そんな訳で今日は、よく寝られた。

 授業中にだけど。

 夕方には元気一杯。

 さらなる元気がみなぎったってとこ。

「さー、何でもやるわよ」

 両手を上げて吠えてみたけど、別にやる事はないのでみんなの冷たい視線を浴びるだけだ。

 とても中等部以来の友達とは思えないな。

 私が彼らと同じ立場なら、同じ態度を取るだろうけど。

「もう悩まないのか」

 ケイとゲームをやっているショウが、画面を見ながら声を掛けてくる。

「全然。だって悩んだってしょうがないじゃない。要は今まで通り、連合に属してればいいのよ。それが一番でしょ」

 お日様顔負けに笑ってはみたけど、誰も見ようともしない。

 ちょっと空しさを感じたところで、またもやショウから声が掛かる。

「立ち直りが早いんだか、持続力がないんだか訳が分からんな」

「それが長所なの」

「短所かもね」

 鼻先で笑うケイ。

 覚えてなさいよ、腹筋500回決定だから。

「下らない話してないで、そろそろ行くわよ」

「下らなくはないと思うけど……」

 上目遣いでサトミを見るが、彼女はもう用意を済ませ部屋を出ていこうとしている。

 本当にそつがないし、綺麗だし。頭は良いし。

 翻って自分を鑑みると、何もかもが嫌になってくる。 

 でもいいんだ。

 そんな自分でも、私は気に入ってるから。

「どこいくの?」

 TVの前から離れない男の子達。

「今度は連合の臨時総会。今後の対応を決めるんだって」

「いってらっしゃい」

 背を向けたまま手を振るケイ。

 ショウも画面に見入ったままだ。

「今日はみんなで行くの」

 私はショウの、サトミはケイの襟元を掴んで一気に立ち上がらせる。

「あー、し、死ぬっ」

 絶叫するケイ。

 喉でも詰まったのかと思って、ショウを放り出してケイを覗き込む。

「……別に何ともなってないけど」

 サトミが肩を叩いてテレビを指差した。

 画面では、ケイが操っていたキャラが爆死していた。

「あ、あなたねっ。まぎらわしいのよっ」

「いいじゃないか、俺は勝ったんだし」

 襟元を直し、鼻歌混じりで部屋を出ていくショウ。

 ケイはサトミを恨めしそうに見上げる。

「た、たかがゲームでそんな顔しないで」

「そう、たかがゲームだね。たかが……」

 ぶつぶつ言いながら部屋を出ていく男が一人。

 絶対にどこかがおかしい。

 いや。全てが、かもしれない。

「……私達も行こうか」

「ええ……」

 なんだかどっと疲れた私達は、肩を落とし彼等を追った。


 場所は、昨日と同じ大きな会議室。

 今日は私達ガーディアン連合の総会だけど所属する全員が来ているので、人数的には昨日とさして変わりない。

 地味な顔を落ち込ませて、さらに地味にさせているケイ。

 その隣ではショウとサトミが、あっち向いてほいをやっている。

 しかし、いかんせん相手が悪過ぎる。

 この手の遊びは運動神経が重要なので、さすがのサトミも連戦連敗。

 何せ動体視力と反応が桁違いだから。

 ショウが相手では、私でも3回に1回勝てばいい方だもの。

「あー、もうやらない」

 意外と負けず嫌いのサトミがついにあきらめた。

 でもってショウは小さくガッツポーズを取ってる。

「私のフェイントが見切られるとは……」

 ケイみたいに俯いてぶつぶつ言ってるサトミ。

 顔が綺麗なだけに、ちょっと怖い。

「修行が足りんな。まずはケイ相手に出直してきなさい」

「どうせ俺は負け犬よ」

 虚ろな目つきで笑うケイ。

 可哀想だから、腹筋は300回にしてあげよう。

「ほら、そろそろ始まるって」

「おう」

 いい返事をしたのはショウだけ。

 後の二人は死んでいる。

 もう一言言おうとしたら、会場が静かになってきた。

 連合の幹部達が会場に入ってきていたのだ。

 当然、代表の塩田さんも。

 壇上に並んだ幹部達は、どことなく落ち着きが無いように見える。



「それではただいまから、緊急総会を始めます」

 塩田さんは一呼吸置いて、議事を進行し始めた。

 さすがにいつもの口調を改めて、丁寧な言葉遣いである。

「昨日の自警委員会での内容は既にご承知と思います。それで今日は今後どう対応すべきかについてお話ししたく、みなさんに集まってもらった次第です」

 会場中を見渡す塩田さん。

 勿論みんな静かに聞き入っている。

「正直言って現在我々が置かれている立場は非常に微妙で、みなさんも不安を感じられていると思います。彼らの対立に、我々が巻き込まれるのは必至です。ですが……」

 さらに続けようとした塩田さんが突然隣を向いた。

 当然会場の全員が、そちらを見る。

 すると幹部の一人が手を挙げていた。

「……発言は結構ですが、もう少し後にしてもらえませんか」

「い、いえ。発言ではなく、動議です」

「動議?一体何を」

 笑う塩田さん。

「だ、代表の解任決議です」

「……理由は」

 塩田さんの顔から笑顔が消え、鋭い眼差しで幹部を見つめる。

「代表は今朝の幹部会で、どちらの陣営にも加わらず独自組織であり続けると表明しました」

「ええ。それはみなさんも、賛成して下さったはずですが」

「い、いえ。私は反対です」

「解任の理由はそれだけですか?」

 表情を変えず幹部を見つめ続ける塩田さん。

 発言した幹部は、視線を逸らし口だけを動かしていく。

「い、いえ。以前から私は代表の独断的な考えに付いていけなかったのです。現に今も自分の考えだけで、連合を動かそうとしている。この危機的な状況で我々だけでやっていくなんて無理な話です」

「なるほど。だが解任動議が承認されるには、幹部会の3分の1以上の賛成が……」

 塩田さんが言い終えない内に、数名の幹部が立ち上がった。

 やはり、視線は合わせようとせずに。

「私も、か、解任動議に賛成します」

「わ、私も」

 騒然となる会場。

 気付けば壇上にいた幹部は、全員が立ち上がっている。

「……分かりました。では異例ではありますが、ここで決議しましょう。副代表」

「は、はい」

 副代表ががたがた震えながら、一歩前に出た。

「ただいま動議がありました代表解任につきまして、挙手をお願いします」

 すると幹部達はためらいがちではあるが、全員が手を挙げた。

 全員で動議を申し出た時点で、この決議はセレモニーに過ぎないと思うが。

「さ、賛成多数により、解任動議は可決されました」

「分かりました。では規則に基づいて、次の代表を選出して下さい」

 ポケットから代表のIDを出し、机に置く塩田さん。

 表情は至って冷静で、何を思っているのかは全く読みとれない。

 そして静かな足取りで、部屋を出ていった。

 混乱に陥る私達を後に残して。


「ど、どうなってるのっ?塩田、塩田さんはどうなるのっ?」

 私も当然混乱していた。

 いや、混乱というよりは怒りだろう。

 それは隣で押し黙っているショウも同様だと思う。

「今見たままださ。代表を解任された」

 対照的に、落ち着き払ったケイの言葉。

 サトミも醒めた目で、壇上を眺めている。

「そ、それは分かってる。だから、どうなるのってっ?」

 ケイは手で私を制して、壇上を指差した。

「え、ええ、代表が解任されましたので、本来なら新代表を選出するのですが……。事態が急ですので、現時点では代行を立てその方に新代表が決まるまでの運営をお願いしようと思います」

 突然笑うケイ。

 面白いというより、自分の考えが現実化した時の表情で。

「し、しかし、こ、このような困難な状況では正直にいって、我々の力では対応しかねます。よって難局を乗り切るため、異例ではありますが執行部以外から代行を選出したいと思います」

 ざわめく会場。

 そしてドアが開き、二人の人物が入ってきた。

 「みなさんにご紹介します。この度我々執行部が代行として招聘しました、生徒会自警局の……」

 頭を下げる、自警局の人間。

 戸惑いがちにぱらぱらと拍手が起きる。

 ケイは口許を抑え、鋭い眼差しを壇上に注いでいる。

「そして執行部のオブザーバーとして、フォースからもお呼びしました。彼には、監査的な役割を担ってもらおうと考えています」

 頭を下げるフォースの人間。

 再び、まばらな拍手が起きる。

「どうして、外から代行を呼ぶのよ」

 隣にいたケイに言ったつもりだったが、声が大きかったせいか周りの人がぎょっとした顔で私を見てきた。

「……何でもないっ」

 机を叩いたら、今度は慌てて顔を背けられた。

 何か印象悪いな。

 隣を見ればケイは固まったままで、サトミも同様。

 ショウは白けきった顔をしている。

「急な申し出なので戸惑ったのですが、執行部の真摯な態度と置かれている状況を鑑み、引き受けるに至りました」

 不敵な笑みを浮かべる代行。

「これからの運営はオブザーバーの彼や執行部のメンバーとも協力し、独断に走らないよう慎重に行うつもりです」

 代行は、そのオブザーバーと一緒に小さく頭を下げた。

「しかし、このような事態に不満を感じている方もいらっしゃるでしょう。そうでしたら、素直に申し出て下さい。我々は自由な議論を拒みませんし、仮に私に我慢がならないのなら連合を脱退されても結構です。勿論、脱退されてもペナルティーは課しませんので」

 顔を見合わせる会場に詰めかけた人々。

 だけど不満なんて言える訳がない。

 うかつにそんな事言ったら何されるか。

 それに脱退なんてしたら、この先どうやっていけばいいんだ。

 個々の力が弱いからみんなこの連合に属してるんであって、ここを飛び出したら本当に何も出来なくなってしまう。

 会場の反応に満足したのか、代行は薄笑いを浮かべ話を続けようとした。



「どうしました?」

 突然立ち上がった私に視線を合わせてくる代行。

 どことなく小馬鹿にした顔で。

「一言言わせてもらいます」

 はやる感情を、深呼吸して落ち着かせる。

 どうしても、少しくらい声が震えるのは仕方ない。

「どうぞ。マイクがいりますね。あの方にマイクを……」

「結構。私はあなた方に従う気にはなれません。よって、連合を脱退します」

 代行の笑顔が凍り付く。

 オブザーバーは険しい顔で睨んでいる。

 執行部といえば、おろおろしてひそひそ話を始めた。

 いつまでもやってろ。

「ま、待った。そ、そんな事が許されてるとでも思ってるのか。大体メンバーに相談しないで、自分一人で決めるなんて……」

「俺は同意見だ」

 ショウが立ち上がり、壇上を指した親指で自分の首を掻き切って下に向ける。

 そして私を見て、嬉しそうに笑ってる。

「当然俺も」

 蔑んだ視線を壇上の人達に注ぐケイ。

 執行部は慌てて目を逸らす。

「言うまでもないわ」

 壇上を見ようともせず、席を立ったケイ達に続くサトミ。

「よ、4人しか賛成しなくて何言ってるんだ。ほ、他のメンバーに……」

 興奮する代行に執行部の一人が慌てて耳打ちした。

 代行はぎょっとし顔で私の顔を見てくる。

「私達は4人しかいない弱小ガーディアンズだから、脱退したってどうって事無いでしょ。後はせいぜい好き勝手にやってれば」

 なおも胸の奥にある怒りを押さえつけ、ドアの所で待っているみんなの元へ急ぐ。

「お、おいっ、ちょ、ちょっと……」

 背中にかけられる言葉を無視して、私達は会議室を後にした。



 机にうつぶせになって、頭を抱えている少女がいる。

 耳を澄ませば、彼女がしきりにため息を付いているのが聞こえるだろう。

 そう、私のため息が。

「ごめん、みんな」

 オフィスに戻ってきてから、しばらくの後。

 ようやく顔を上げて、みんなに謝った。

「つい興奮しちゃって。こないだケイに言われたばかりなのに……」

 本当に何やってるんだろ、私。

 犬でももう少しは学習するよ。

 なんだか目の前がぼんやりとして、また気が重くなってきた。

 そして自然と、頭が下がっていく。

「気にするなよ。ユウが下した判断なんだから。俺達は、それに従うまでさ」

「そうそう」

「ほら、顔上げて」

 サトミが肩に手を添え、私を起こしてくれた。

「あ、ありがとう、みんな」

 みんな私を見て笑ってる。

 私もみんなを見て笑う。

 胸の中が、じんわりと暖かくなっていく。

 みんなの思いが、私の胸に入ってきたかのように……。

「と、喜んでばかりもいられないね」

 鼻をすすって目線を斜め前に向ける。

 ケイは仕方なそうに笑って、机に肘を付いた。

「ユウの言う通り、確かに状況は決してよくない。思っていた以上に」

「思っていた以上って、何がだ」

 ショウが尋ねる。

 私が聞こうとしたのに。

「外部から代行を選ぶのは、ある程度予想してた。それが生徒会なのかフォースなのかまではわからなかったけれど」

「だけど両方来たんだから、同じ事じゃないの?」

「いや」

 渋い顔で首を振るケイ。

「もし来たのがどちらか一方だったら、事態はもっとよかった。連合は招聘した勢力に従属する形にはなるけど、対抗勢力からの攻撃からは身を守れる。連合と一方の勢力が組めば、相当の力になるから」

「うん、それで」

「でも今連合には、二つの勢力が生まれてしまった。各ガーディアンはどちらに付くかの選択を当然迫られる。そして負け方に付いたガーディアンは、執行部の権力を握った反対側勢力に徹底的に弾圧され吸収される」

 ケイは顔の前に手を揃えて、しきりに振った。

 興奮してきた証拠だ。

「つまり両勢力にとって、手っ取り早くガーディアンを吸収するいい草刈り場になった訳さ」

「ふーん。連合に残った人達は大変だね」

 しみじみと感想を洩らしては見たが、ちょっと待って。

 本当に大変なのは……。

 途端に、目の前が真っ暗になった。


「そう、大変なのは私達。連合の援助はもう受けられないし、自警委員会の補助も最低限になるんだから」

「孤立無援ってこないだ言ったのは、例えじゃないんだよ。ユウ、分かった?」

「う、うう」

 楽しそうなケイ。

 でも、私をいじめて喜んでる訳じゃない。

 この人は逆境になればなる程、やる気が出るタイプなのだ。

 助かるというか、変わっているというか。

「と言う事で、今日はユウのおごりで飯食うか」

「いいわね」

「な、何でっ」

 叫んだら、みんな意外そうな顔で見てきた。

「何でって。連合を脱退してこれからどうするんだ?」

「明日っから困るなー」

「私達、どうなるのかしら」

 わざとらしく表情を暗くするみんな。

「わ、私の判断には従うって言ったじゃないのっ」

「それはそれ。これはこれよ」

「従うとは言ったけど、責任まで免れると思ったら大間違いだぜ」

「さてと、お腹空かしとこ」

 わいわい騒ぎながら部屋を出ていくみんな。

 私は一人残され、ドアから吹き込む風にしばし吹かれていた……。









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