エピソード(外伝) 35-3 ~ケイ視点・カジノ編~
虚実
3
馬鹿は風邪を引かないと言うが、どうやら本当らしい。
雨に降られる前に風呂へ入り食事を取って、体が温まっていたせいもあるだろう。
これは丹下に感謝を……。
すねに走る、鋭い痛み。
思わず我に返ると、緒方さんに睨まれていた。
「どうして、いつも私を呼ぶんですか」
俺達がいるのは、例のブックメーカーへ続く非常階段の入り口。
生徒会の特別教棟内で、正直ここではあまり騒ぎたくはない。
「渡瀬さんの店に出る時間が迫ってるんだ。それはさすがに、まずいだろ」
「まあ、そうですけど。なんか納得いかないな」
「埋め合わせはするから。ほら、急いで」
愚痴る緒方さんを無理矢理引き連れ、ブックメーカーの入り口へとやってくる。
金属製のドア前には、警棒を手にした警備員が5人。
御剣君がいるので中へ入るのは簡単だが、それでは中での賭けに参加出来ない。
「無理みたいですね。帰りましょう」
すぐに引き返そうとする緒方さん。
だが彼女が完全に背を向けるより早くドアが開き、大勢のバニーガールが我先にと飛び出てきた。
彼女達はあっさり俺の脇を通り抜け、悲鳴にも似た嬌声を上げる。
「可愛いー」
「格好いいー」
「名前は?」
「抱きついて良い?」
バニーガールに取り囲まれ、真っ赤な顔で俯く柳君。
もう一つの輪の中心には名雲さんがいて、こちらは至って余裕。
バニーガール達に軽口を叩きつつ、彼女達の肩に手を回して悠然とドアをくぐる。
監視カメラも良し悪しだ。
通されたのは、VIP席。
ソファーは革張り、グラスはバカラ。テーブルはクリスタル。
店内で一番大きなモニターが正面に見え、また周囲のテーブルより一段高い。
ただしテーブルには注意を記したシートが置いてあり、高額なレートが設定されている。
必然的に、貧乏人はこの席に座る事すら許されない。
俺もここに座りたい訳ではなかったが、柳君と名雲さんを囲むバニーガール全員の座れる場所がここしかなかったから。
「あの。指名はしてないんだけど」
そう告げると、いつものバニーガールに睨まれた。
「だったら、指名しなさいよ。気が利かないわね」
「済みません」
「全員よ。全員指名するのよ。そんな事も分からないの」
怒られた。
しかし店中のバニーガールがいるんじゃないのか、これは。
「フルーツ頼んで良い?」
「頼め頼め」
「ボトル、入れて良い?」
「入れろ入れろ」
鷹揚に頷く名雲さん。
相変わらず手は、バニーガールの肩に掛かったまま。
誰が支払うと思ってるんだ、この男。
いや。今はこの男に構ってる場合じゃない。
テーブルから離れた所に御剣君と緒方さんを呼び、カメラに背を向けて端末を見せる。
「渡瀬さんがロッカールームにいるから、店へ出る前に連れ出してくれ。彼女にバニーガールをさせるのはまずい。御剣君、警備員は任せる。倒さなくて良い。適当にあしらって、時間を稼げば。今後の出入りもあるから」
「了解」
「緒方さんは、バニーガールの衣装を着て彼女を外に」
「おい、浦田」
先輩を呼び捨てにするな、先輩を。
「今言ったように、今後の出入りを考えれば警備員を倒すのはまだ早い」
「どうして渡瀬さんは駄目で、私は良いんですか」
「今日の儲けの、20%を渡す」
「30%」
そう言い捨て、俺が渡したリュックを背負う緒方さん。
とにかく契約は成立した。
後は時間との戦いか。
大きく開いた胸元。
黒の網タイツにハイヒール。
頭には当然白のうさ耳。
ややきつめのアイラインとルージュ。
瞳は潤み、口元からは吐息が漏れる。
こちらへ向けられた挑発的な表情に、思わず勘違いしそうになる。
「あっちは大丈夫なんですか」
大きな胸元を押さえながら小走りで狭い廊下を急ぐ緒方さん。
明らかにさっきよりも大きいが、それには突っ込まずこっちは耳に付けたイヤホンを押さえる。
聞こえてくるのは、名雲さんの端末からの音声。
若干聞き取りにくいが、俺達がいない事を不審がっている様子は今のところないようだ。
とはいえそれは時間の問題。
例の蛇男が出てくれば、俺達を捜しに来るだろう。
「浦田さん。いました」
廊下の角で足を止め、左側を指さす御剣君。
小さく手を挙げそれに応え、彼に前へ得るよう促す。
「何だ、お前。ここは、立ち入り禁止だ」
「そこを曲げて」
「ふざけるな。痛い目に遭いたいのか」
「俺、マゾなんだ」
どこかで聞いた台詞を言いながら、後ずさる御剣君。
彼の姿が交差する廊下の右側へ消え、警備員が後を追う。
その足音が遠ざかったのを確認し、顔を廊下へ出して緒方さんを促す。
「中に、監視がいるかもしれない。そっちは任せる」
「了解」
この時点で、余計な事は一切口にしない。
彼女を選んだ理由は、このプロ意識。
契約に基づき、そのためだけに行動をする。
今必要なのは能力であり、私情ではない。
私情のために行動する、という部分はまた別問題だ。
意外にもロッカーにキーは掛かっていなく、緒方さんがあっさり中へと入っていく。
こちらも警棒を抜いて彼女に続く。
むせかえるような化粧の香り。
カーテンをくぐると床には服が散乱していて、その間からは下着も見えている。
「何してるんですか」
黒い服と網タイツ。
頭には白いうさ耳。
服装としては緒方さんと同じ。
ただイメージとしては、真逆と言ってもいいくらい。
渡瀬さんはうさ耳に手を触れつつ、笑い気味に俺達の顔を指さした。
「予定変更だ。着替えてくれ」
「はぁ。でも、仮装行列は」
「代わりに、緒方さんが出る」
「おい、浦田」
すねに走る鋭い痛み。
今気付いても遅いんだよ。
「とにかく着替えてきて。俺は外で待ってる」
「はぁ。で、緒方さんはなんの罰ゲーム?」
「地獄の罰ゲームよ」
地の底から響くような低い声。
間違いなく、俺が地獄を見るんだろうな。
店内に戻るとVIP席は相変わらずの賑わい。
良い男が二人と、それに群がる大勢のバニーガール。
加えて羽振りもいいと来ては、人の目を引かない訳が無い。
「結局ここは、なんだったんですか」
ブルゾンとジーンズ姿で尋ねる渡瀬さん。
一方バニーガール姿の緒方さんは疲れきった顔をして、彼女の肩に手を置いた。
「人生よ。女の人生が詰まってるのよ」
「意味が分かんないんだけど」
その二人を促し、俺もVIP席へと戻る。
しかしどう見ても俺がいなかったのを気付いていた者はおらず、むしろ「いたの?」という顔をされる。
「済みません。座っていいですか」
「仕方ないわね」
文句を言われながら席が空き、とりあえず渡瀬さんと緒方さんを座らせる。
どうやら、俺の席は無いらしい。
ちょっと、めまいがしてきそうだな。
「今日、中部庁や教育庁の客が来てるらしいけど」
「ああ。奥のテーブル。ほら、オーナーと話してる」
さくらんぼを頬張りながら視線だけで示すバニーガール。
店内としては死角の位置。
照明は暗く、従業員の出入り口からも近い。
それでいて壁代わりとなっている柱の陰から覗けば、店内を見渡せる。
向こうが、本当のVIP席か。
「呼べるかな」
「こっちにはこないと思うわよ、多分」
「天崎の使いと言ってくれればいい」
チップを握らせ、あまり納得してない様子のバニーガールを送り出す。
周囲の騒ぎを遠くに感じながら、テーブルのモニターで受付が可能なレースのオッズを確認。
しかしここまで勝ち続けていると、そろそろ仕掛けられそうだな。
「連れてきたわよ」
バニーガールの後ろに立っているのは、いかにも高級官僚といった風情の男達。
彼らは相当の上客のはずだがバニーは見向きもせず、自然と表情に不快感が表れる。
「君達が独占してるから、こっちは誰もいないよ」
「それは失礼。新人を一人つけますので」
「覚悟しろよ、浦田」
通り過ぎる間際、耳元でそうささやいて官僚の腕を左右から取る緒方さん。
俺へ見せていた殺意すら感じる表情はどこへやら。
華も恥らう可憐な笑顔を浮かべ、自分が座っていた席に二人を案内する。
「お飲み物は?」
「水割り……。ではなく、ロックにするか」
「では、私も」
「お酒、お強いんですねー」
男の自尊心をくすぐる台詞。
緒方さんはウイスキーグラスにいかにも高そうな洋酒を半分ほど注ぎ、二人の手を握るようにしてそっと渡す。
しかし自分は十分に薄め、申し訳程度に色がついたグラスを彼らのグラスと軽く重ねる。
「済みません、仕事中ですので」
「ああ」
「そうだね」
瞳の奥を光らせる官僚。
では仕事が終ったらどうなとかと、下種な事でも考えてるんだろう。
「どれかに参加なさいますか?」
「そうだな。何か面白いのは」
「こちらのレースが勝敗の結果が早く、また内容もわかりやすいかと」
緒方さんが進めたのは、神宮駅前の信号が表示されているレース。
青になった時点で車がスタートし、どの車が一番早くこちらの設定したゴールラインに到達するかという内容。
信号は一定間隔で赤と青に変わり、また東西南北と4つ。
そして車種である程度の予想が出来るため、短期の勝負に向いている。
その分回数が増え、危険性も増すのだが。
「じゃあ軽くやってみるか。……このバイクかな」
「私は、こちらのセダンに」
一桁間違えてると言いたくなるが、そこは悲しい男の性。
女の前で威勢のいいところを見せたくなるのは仕方ない。
「うぁー、すごい金額ですねー。給料もすごいんですかー」
「いや。大した事無いよ。彼に比べれば」
「私など、全然。先日、クルーザーを買ったそうじゃないですか」
さりげなく自慢する官僚二人。
緒方さんは愛想のいい相槌を打って、画面を指差した。
「始まりますね。……きゃっ」
とてつもないスタートダッシュを見せ、あっという間に走り去るバイク。
どう見てもフライングだが、賭けは成立。
配当金が支払われる。
店側が操作してるな、これは。
「きゃー、すごいー」
腕にしがみ付き、顔を寄せる緒方さん。
官僚は、「こらこら」と言いつつ緒方さんの髪を撫でようとする。
しかしその手をあっさりかわし、今度は負けた中部庁の官僚にしがみついた。
「次は頑張って下さい。私、応援しますからー」
「そう?じゃあ、一緒にがんばろう」
「ええ」
「今度、良かったら船に乗る?春になると風も気持ちいいよー」
「嫌だー」
甲高い声を上げ、男の手の甲を爪で摘まむ緒方さん。
本当、女はこれだから怖い。
何より、俺を見る目には殺意がこもってる。
そこは上客。
かなり甘い判定で毎回助けられ、収支はややプラス。
つまらない自慢話に緒方さんのテンションも多少下がり気味になってきた所で、名雲さんに話を振る。
「賭けないんですか」
「俺も忙しくてさ」
バニーガールにチョコを食べさせ、げらげら笑う名雲さん。
でもって自分もチョコを食べさせてもらい、大はしゃぎ。
これが全国の傭兵が震え上がったという、名雲祐蔵その人か。
「名雲さん」
「ああ、レースね。そこのおじさん達と、軽く遊んでみるか」
「嫌だ。あんな事言ってる。絶対負けないで下さいよ」
「ああ。大人のすごいところを見せてやるよ」
「まあ、見てなさい」
何の躊躇も見せず、あっさりと応じる官僚二人。
これで店側が操作出来る部分は、大幅に制限された。
後は、名雲祐蔵という男に賭けるだけ。
とにかく、バニーガールの膝に手を置くな。
レースは今までと同じ、交差点への到達。
官僚は二人で同じ車に賭ける事となり、今回はやはりバイクを指名。
重量や乗り手の心理状態から考えて、無難な選択。
信号が変わる前から空ぶかしをしていて、すぐに飛び出すのは間違いない。
一方の名雲さんが指名したのは、荷物を満載した軽トラ。
これは俺も意味が分からず、大丈夫かと目線で確認する。
しかし野郎、バニーガールの髪の毛を手にとって香りを楽しんでやがる。
「ちょと、こんなのに賭けて大丈夫なの?」
さすがにそう声を上げるバニーガール。
名雲さんはソファーに深くもたれ、背もたれへ手を回して足を組んだ。
「いい男は、何をやっても勝つって決まってるんだ」
「自分で言わないでよ」
「本当の事だろ」
「きゃーっ」
もう、今すぐ出てってくれないかな。
そしてスタート間近。
信号が変わるまでの時間が、画面の下でカウントされる。
さすがに静まり返る、バニーガール達。
名雲さんは欠伸交じりに、呆然と画面を見つめている。
「あっ」
全員の予想通りのスタートダッシュを見せるバイク。
しかしそれは横断歩道の手前で止められる。
何かと思ったら、後ろから白バイが来てバイクを左側の歩道へと誘導し始めた。
その間前をふさがれるため他の車は動けず、まずは一番右側にいた軽トラックが走り出す。
いくら荷物を積んでいても、車は車。
すぐにゴールへ到達し、レースが終了。
オッズに比例した額が、官僚の口座から名雲さんの口座へ移る。
「すごいー。どうして分かったの」
「ドライバーの視線さ。ミラーや、ナビを気にしてた」
リプレイ映像を見ながら説明する名雲さん。
しかし映像はやや荒く、ドライバーの視線までは読み取れない。
そう言われれば見ているような気もするといったくらい。
ようやく、本領を発揮してくれたか。
「まだ、勝負はこれからよ。そうですよね」
上目遣いで、官僚にしだれかかる緒方さん。
ここで引ける男がいたら会ってみたいし、官僚はだらしない顔で頷き勝負の続行を告げる。
「さあ。楽しもうぜ」
楽しむのはいいが、膝枕は止めろ。
その後も勝負は、名雲さんの圧勝。
幾つか落としたレースはあったが、トータルで見ればその差は歴然としている。
何より名雲さんの周りはバニーガールが群れていて、官僚の方は緒方さんが退屈そうな顔でダイエットソーダをすすっている。
金の切れ目が縁の切れ目ではないが、勝者と敗者とはこんなものか。
「随分派手にやってるな」
ねちっこい、トカゲが話せばこうだろうという声が耳に届く。
現れたのは蛇ではなく、金髪の傭兵。
名雲さんはソファーに崩れてバニーの腰に手を回したまま、男に醒めた視線を注いだ。
「男に用は無い。帰れ」
「こっちにはあるんだ。調子に乗るなよ」
「何言ってるのか、聞こえん。誰か通訳してくれ」
横からそう呟き、金髪の視線をこちらへと向ける。
緒方さんの敵意が優しく感じる程の、凶悪な殺意。
それに欠伸で答え、もう一度顎の辺りに手を添える。
「誰か、おかゆ持ってきてくれ。それとも、今日はプリンが良いか?」
水を打ったように静まり返る店内。
この男の店での立場。
どういった目で見られ、どう振舞っているかがすぐに分かる。
顎を割られた話は絶対的なタブーで、そう匂わせるのも許されないのだろう。
ただ、タブーは冒すからこそ面白い。
「入れ歯も大変だな。せんべい、食べるか?」
全く反応は無く、ただそれが自制心から来ているのか感情が焼き切れたのかは分からない。
「とにかく、お前に用は無い」
「貴様。俺がここに出資してるのを」
「聞こないって言ってるだろ。飴でもしゃぶってろ」
一瞬手が腰に伸びるが、ここで短気を起こせばその投資も無駄となる。
それとも、楽しみは後に取っておくタイプなのか。
とにかく金髪は下がり、変わって蛇が現れた。
「出入り禁止にしたはずですが」
「固い事言わないで欲しいな。それに、前の配当をまだ受け取ってない」
「……では、私と差しで勝負しましょう」
俺から金を吸い取り、かつ上客を助けるという名目も立つ。
こちらの計算通りとも言うが。
「折角の、こういう場所です。ブラックジャックはいかがでしょう」
「そっちはプロで、こっちは素人。ハンディはいらないけど、支払いは倍にして欲しいな」
「三倍でも構いませんよ。ただし、私が親という事で」
「それで結構」
さすがに俺の席が作られ、テーブルを挟んでオーナーと向かい合う。
カードが相手の手の中。
しかもプロ。
しかもここは、相手の店。
「馬鹿じゃないの」
緒方さんがそう呟くのも致し方ない。
何か言おうとする前にカードが目の前に滑ってきた。
「9」
「もう一枚」
何勝手な事を言ってるんだ。
すぐにカードが滑ってきて、次は8。
正直ここで止めてみたい。
「もう一枚」
「おい」
構わず滑ってくるカード。
5という結果で、あえなく豚。
緒方さんは、馬鹿じゃないという顔でせせら笑った。
でもって負ければ自分の取り分も減るのに気づいたのか、すごい顔で睨んできた。
俺が悪いのか、今のは。
「続けるわよ。カードを」
「その格好、似合うよ」
「私は、そんなに安くないのよ」
「明日には、嫌でも店に出てもらう」
下品に笑い、カードを滑らせるオーナー。
今度は「A」
途端に緒方さんの顔がほころび、掛け金を倍にした。
「あのさ、ギャンブルの経験あるの?」
「いつも負けるから、一度お金を気にしないでやりたかったのよね」
渡瀬さんの質問に、怖い答えを返す緒方さん。
次のカードは「8」
11と8なら19で、勝ちは固い。
「もう一枚」
前世が猪なのか、即座にカードを要求する緒方さん。
来たのは「13」
「A」を1にしても22で、やはり豚。
「いかさまじゃないの、これ」
「さっき止めれば19だったよ」
冷静に指摘する渡瀬さんの声も聞こえないのか、今度は無言でカードを要求する。
「ちょっと待った。そちらのお二人も参加されますか。外馬で」
勝負にではなく、俺とオーナーどちらが勝つかへの賭け。
すると官僚は、なにやら口元で呟きながら掛け金をオーナーのマークに賭けた。
「あら。ひどい」
「悪いね」
「この埋め合わせは、必ず」
必然的に二人は緒方さんから離れ、オーナー側へと座る。
つまりは緒方さんを敵として、賭けの商品とでも見立てているのだろう。
「ふざけた話よね。早く、カードを」
何がふざけてるのかは知らないが、連戦連敗。
周りには白けたムードが立ち込め、逆にオーナーと官僚はホクホク顔。
全額回収された訳ではないが、この調子で行けばそれも時間の問題だ。
「どうしてもというのなら、オッズをさらに上げてもいい」
「条件は」
「残りの全額を賭ける事。それと、そっちの彼女も」
「いいだろう」
「浦田よ、おい」
脇腹に走る鈍い痛み。
それでもすぐに全額を賭け、緒方さんを頷かせる。
このオッズなら、今までの負けを回収してもあまりある。
負ければこちらは一文無しで、緒方さんまで取られてしまう。
そして今までの状況から見て、俺の勝ち目は万に一つも無い。
身を乗り出していた緒方さんがソファーにもたれ、代わりに俺が前へ出る。
指示をした訳ではない。
これから勝負は俺とオーナーとのものであり、彼女のものではない。
それが分かる分からないは、知識や経験以前の問題。
感覚、場を読める人間のみが出来る事だ。
「では」
静まり返った店内に、カードのテーブルを滑る音がする。
辺りから起きるどよめき。
来たのは「A」
それも、スペード。
これ以上は無い最高のカード。
最高の罠を仕掛けてきたとも言える。
固唾を飲む一同。
しなやかに動くオーナーの指先。
それが重ねられたカードの表面を捉え、指先が前へと動く。
「待てっ」
何人かのバニーガールがのけぞるくらいの、激しい口調。
さすがにオーナーも手元が狂い、カードがテーブルの上へと落ちる。
「ああ、悪い。見間違いだった」
「な、なに?」
「いや。いかさまやってるかと思ったんだけど、全然違った。悪い、続けてくれ」
さらりと流す名雲さん。
その周りにいたバニーが、彼の肩に手を置いて小声でささやき始める。
「そんなの見破れるの?」
「当たり前だろ。俺を誰だと思ってるんだ」
そう言って鼻で笑う名雲さん。
俺も少しだけ口元を緩め、指を振ってカードを要求する。
オーナーは青白い顔で俺と名雲さんを睨み付けると、震える指先でカードを一枚滑らせた。
爆発するような歓声。
カードは「10」
それも、スペードの。
つまりはスペードのブラックジャックで、これ以上の役は存在しない。
ちなみに、さっき落としたカードは13。
Aと13なら、14。
もう一枚要求したくなる数字で、そこに10。
「惜しかったですね。ブラックジャックになりそうだったのに」
くらい言うつもりだったんだろう。
そういう無意味な余裕の結果が、この様。
とはいえ、こちらからすれば格好を付けてくれてありがとうと言うべきか。
「えーと。スペードの場合は、倍付け。支払いをよろしく」
テーブルのルール表を確認し、カードを振る。
オーナーは血走った目を俺に向け、それでも端末で振り込みの指示をした。
「こんな真似を続けて、ただで済むと思ってるのか」
「思ってるからやるんだよ。その二人と話をしたいんだけど」
「勝手にしろ」
吐き捨てるようにそう言って、テーブルから離れるオーナー。
俺が指名した官僚二人は、青白い顔で未だにテーブルの上に置かれたカードを見つめている。
今まで店側の配慮で、負けて帰るという経験はしてこなかったんだろう。
ここでの勝負でも、人生においても。
初めての挫折を味わったエリートか。
挫折しか味わった事がない俺の人生と変えて欲しい物だ。
店の外へ二人を連れ出し、負けの額を聞く。
青白い顔になっても当然の、さすがに彼等の給料といえど簡単には支払えない額。
しかも今回は店ではなく、俺との勝負。
支払う相手は俺であり、こちらは店側のような配慮をする必要もない。
「非合法の賭だから、法的には支払い義務はないんでしょうけどね。非合法のギャンブル。それも中高生の接客を受けているような場所でのギャンブルなんて、問題じゃないんですか」
「それは、その」
「ボーナスまで待ってくれ。それまでに、少しずつでも返す」
「利子にもなりませんよ、利子にも」
腕時計を指で叩き、少し語気を強める。
二人は目を丸くして、お互いの顔を見合わせた。
「り、利子って」
「即金なら、俺もそんな事は言いません。しかし夏まで待つとなれば、話は違ってくるのは当然でしょう」
「いや、しかし」
「そこをなんとか」
こうなるとプライドも何もないのか、土下座すらしかねない勢いですり寄ってくる二人。
バニーガールならともかく、おじさん二人の攻勢なんて何一つ面白くないな。
「俺も勿論、鬼じゃありません。さっき言った通り非合法なギャンブルですから、支払いは無しにしても結構です。こちらの出す条件を飲んでくれるのなら」
「条件」
「大して難しい事ではありません。俺の知り合いが、学校に目を付けられてましてね。最近、規則が厳しくなったせいで色々トラブルを起こしまして。それで、多少学校に口を利いてもらえれば」
話に裏があるのではという様子で伺ってくる二人。
裏どころの騒ぎではないが、手の内を明かすのはまだ早すぎる。
「ご心配なく。こちらが頼んだ時に、少し口添えをしてもらえれば良いだけですから。頼むのも、せいぜい1、2回。とりあえずこちらからも誠意を見せると言うことで、半額引いておきます」
二人の借金をカットして、端末に表示させる。
彼等は自分の端末でそれを確認し、探るようにしてお互いの顔を確認した。
「おかしな事は頼まないだろうね」
「勿論。悪いのはブックメーカーですよ、なにより」
「そ、そう。その通り」
「ああいうのが、学内にあっては良くないね」
簡単に乗ってくる二人。
今更何をという話だが、この問題に関しては片が付いたな。
一安心して店に戻ると、VIP席がまだ盛り上がっていた。
場の中心は、相変わらず名雲さん。
柳君はといえば、左右にバニーガール。
足元にもバニーガール。ソファー越しにもバニーガールという、夢のような待遇。
しかし当の本人は、小さくなって俯きっぱなし。
でもって顔は真っ赤で、頬を撫でられては体を震わしている。
本当、何をやってるんだか。
「名雲さん、帰りますよ」
「勝手に帰れよ」
げらげら笑い、バニーガールを左右から引き寄せる名雲さん。
でもって、髪を撫でながら耳元で何やらささやき出した。
人の事をあれこれ言いたくはないが、ここは早々甘い顔もしていられない。
「緒方さん、端末」
「何か」
「モトを呼ぶ」
血相を変えて席を立つ名雲さん。
でもってテーブルもバニーも飛び越え、あっという間に部屋を出て行った。
「ちょっと、あれ何よ」
「ひどいじゃない」
「ふざけてるの?」
一斉に巻き起こる、バニーガールからのブーイング。
一体、誰が金を出してると思ってるんだ。
「代わりを出す。御剣君、これで遊んでいって」
今日の勝ち分を彼へ渡し、その彼をバニーガールへ引き渡す。
ここは現金な物ですぐに嬌声が巻き起こり、名雲さんの空けた席に彼が埋まる。
「ちょ、ちょっと」
「弾けてくれ。楽しんでくれ」
「俺はこういうのはちょっと」
「何事も経験だ。……酒よりも食べ物。それと目付きは悪いけど、基本的には大人しい。ただ、スイッチが入ったら店ごと潰れる」
一番近くにいたバニーガールにそうささやき、柳君を手招きする。
彼もソファーを飛び越え、満面の笑みで俺の腕にしがみついてきた。
「借金?」
「写真?」
「ドラッグ?」
俺が脅してるって言いたいのかよ。
とはいえバニーガールにしがみつかれるよりはこっちの方が余程嬉しく、思わずこっちも肩を抱いてしまいそうになる。
「おい、浦田」
だから、蹴るなよ。
まだ抱いてないだろうが。
「とにかく、帰る。残りたいなら、止めないけど」
「帰りますよ。渡瀬さんも、ほら」
「分かった。御剣君、またね」
渡瀬さんに声を掛けられた御剣君だが、押し寄せてくるバニーガールをさばくのに精一杯でとても聞こえてはいない様子。
普段ごつい男共とケンカばかりしてるんだから、こういう連中もたまには相手にすれば良いんだ。
非常階段を上って特別教棟に抜けたところで、真田さんに出迎えられた。
でもって、いきなり脇腹に突きを食らった。
これで倒れない方が、どうかしてると思う。
「何してるんですか」
おかしいな。
俺の台詞を言ってるぞ。
「緒方さんの事です」
彼女達は先行させたので、どうやら話を聞いたらしい。
これだから、生真面目な人間は困るんだ。
「渡瀬さんが駄目なら、緒方さんだって駄目でしょう」
「タイプの違いだよ。それと出来るか出来ないか。ユウに大男と戦わせるのはためらわないけど、サトミやモトにそういう真似はさせないのと同じ」
「傭兵だからって、軽く見てるんですか」
「契約を交わした以上、契約に従わない方が軽く見られる。それに本人も承知してるし、無理矢理にはやらせてない」
何やら脇腹に痛みが走り、うつ伏せの体が表に向けられた。
警棒を取り出すな、警棒を。
「理屈じゃなくて、感情の問題を言ってるんです」
「友達思いで結構だ。それと、この位置だと見えるんだけど」
彼女の白い足。
さらにその上を指さす。
その途端警棒が鳩尾に落ちてきた。
手加減しなかったな、今。
「私は真剣に」
「法律は理屈じゃなかったのか」
「それを生かすのは人間です」
聞いてて涙が出そうになってくる。
自分の情けなさも含めて。
「あなたのやり方を否定はしませんが、それが正しいとも思えません」
本当、今すぐ泣いても誰も咎めないんじゃないのかな。
「とにかく、私は納得した訳ではありませんからね」
「結構。他人に理解されようと思ってもいない」
「そういう姿勢が良くないと言ってるんです。仲間の事をもう少しは考えたらどうなんですか」
「そんなに熱い性格だったっけ」
「もういいです」
最後にもう一度脇腹を蹴り、スカートを翻して去っていく真田さん。
何が良いのかじっくり聞きたいが、まずは骨が折れてないか確かめる方が先だろう。
服をめくると、あちこちがアザになっていた。
少なくとも、俺は仲間とは思われてないらしい。
だったら細かい事を考える必要も、気遣いも無意味。
なんてすねてしまいたくなる心境。
「顔色悪いわよ、どうかしたの」
神代さんを従え、俺の顔を覗き込む丹下。
あれだけ殴られれば、体調の一つや二つは悪くなる。
「寝不足なんだ。神代さん、今日真田さんと会った?」
「いえ、全然」
会いましたという顔で首を振る神代さん。
まさかとは思うが、みんなで集まって俺の悪口でも言い合ってるのか。
「ただあたしも、真田さんが言いたい事は分かるよ」
「何の話」
「い、いえ。こっちの話です。私、急ぎますので」
どこへ急ぐのか知らないが、来た道を引き返していく神代さん。
少なくとも、丹下を置いていくほどの急ぎの用は無いと思うが。
「やっぱり、迷惑を掛けたみたいね」
「俺はそうでもないんだけど。気にくわない人間もいるらしい。甘いんだよ」
「甘くて悪いの?」
「悪くはない。ただ、今の状況にはそぐわない」
管理案などという物が存在せず。
執行委員会も風紀委員も警備員もいなければ、友達を思いそのために尽くしみんなで笑っていればいい。
いや。今でもそうする事は出来なくもない。
学校の言いなりとなり、それに従うのならば。
ただし俺達の立場は、その逆。
学校に反抗し、体勢を覆そうとしている。
仲間を思うのは大切だが、なにがしかの犠牲はつきもの。
むしろ何も失わずに何かを得るなんて事はあり得ない。
例えば今は学校から疎まれ、それが元で生徒からも疎まれている。
現状に不満はある。だけど、生徒からは嫌われたくない。
当たり前の話だが、学校に逆らう以上弾圧されるのは当たり前。
それによって、周囲から疎外されるのも当然。
最終的には生徒の指示を得るのも必要だが、今の段階では二兎を追うような話。
この手に掴める幸せには限りがあり、むしろこぼれ落ちていく物の方が多い。
「分かった」
「何が」
突然呟いた丹下を振り返り、脇腹を押さえる。
あばらが折れて肺に刺さるとか考えなかったのかな、あの子は。
「私も付き合う」
俺と?
という冗談を言う間もなく、丹下は髪を掻き上げ俺の顔を指さした。
「ブックメーカーの件。これは元々私があなたに頼んだ事なんだから」
「止めてくれ。絶対向いてない」
「向き不向きは関係ないでしょ。みんなが困ってるのに、私一人のんきに見てるなんて出来ないの」
「もう一度言う、絶対向いてない」
改めて制止するが譲る気はないらしく、俺が壁へ背中を付けてもなお迫ってくる。
思い詰めた表情。
この時点ですでに無理が生じていて、かなりの負担になっている。
しかし放っておくと、彼女一人でブックメーカーに行きかねない。
「分かった。ただし、必ず俺と一緒に行動する事。それと、勝手に賭けない。言う事を聞く」
「子供じゃないのよ。大丈夫、任せて」
真っ白になるまで握りしめた拳を自分の手で包み込む丹下。
どう考えても大丈夫ではないし、多少調整が必要だな。
「それと、保護者の確認を得てくれ。親じゃない方の保護者を」
「誰それ」
「俺は会いたくないんだけどさ」
耳の脇をペーパーナイフが通り過ぎ、後ろの壁に当たって跳ね返ってきた。
かわしたのが気にくわなかったのか、中川さんは机の上で次に投げる物を物色し始めた。
「俺の意見ではないんですけど」
「却下。許さない。殺す」
だから、俺の意見じゃないって言ってるだろ。
「凪。私が言い出したの。元々、これは私の問題なんだから」
「元々って、どういう事」
「チィちゃん。……渡瀬さんがゲームをやる場にはいたのよ。その時悪ふざけが過ぎるなと思って、止めれば良かったのに」
「おい。そんな話は聞いて、無くても結構ですね」
引き出しごと投げつけてきそうだったので、すぐに笑って迎合する。
本当、ここまで来るともう笑うしかないな。
「とにかく却下。今、沢君が調べてるからその内ブックメーカーは消えて無くなる。渡瀬さんも無事なんでしょ」
「でも、今もあそこで働かされてる子がいるんだし」
「お嬢様の道楽じゃないんだから、あなたが首を突っ込む事じゃないのよ」
きつい口調で諫める中川さん。
ただ俺にとっては助かる言葉で、丹下を巻き込まないで済む。
「私は決めたの」
「意地を張らないで」
そうそう。
「これがどういう事か分かってる。でも、目の前に困ってる人がいるのにそれを見すごす訳には行かないでしょ」
「遊びじゃないのよ」
その通り。
「もう決めたのよ。私もいつまでも子供じゃないの」
「それはそうかも知れないけど」
なんか、暖かい空気になってきた。
成長したわね、とか言うんじゃないだろうな。まさか。
「大丈夫、私に任せて」
「成長したわね、沙紀」
どこが、何が、どういう意味で。
抱き合うな、抱き合うな。
でもって、金を渡すな。
「浦田君。沙紀の事よろしくね」
「よろしくって。止めて下さいね」
「よろしくね」
ドスの利いた声で頼んでくる中川さん。
どうなっても知らんぞ、もう。
やや遅い時間だが、池上さんのアパートを訪れる。
「服?ドレスとか?」
「大人しめの物のを。出来るだけボディラインが出ない物。それとサングラスと帽子」
「ブックメーカーでしょ。着飾るのが普通じゃないの」
鼻で笑いつつ、それでも丹下を連れて奥の部屋へと向かう池上さん。
コーディネートは彼女に任せ、こっちは金主に頭を下げる。
「済みません。少し融通して頂けるとありがたいんですけど」
「配当金があるんだろ」
「それとは別の見せ金です。勿論、利子を付けて返します」
ソファーに寝転がっていた舞地さんは横目で俺を見ると、小さくため息を付いてそのまま目を閉じた。
眠いのかやる気がないのか。それとも別な事を考えてるのか。
もしくは、もっと違う何かを要求してるかだ。
「土下座なら、今すぐにでも」
「そんなの見たくもない。お金は、言うだけ渡す」
「助かります」
「沙紀さえ守ってくれれば、それでいい」
優しい口調でそう呟く舞地さん。
何とも暖かい、心に染み入るような話。
「沢は」
「帳簿と、主要な顧客は押さえたと言ってます。中部庁と教育庁の官僚も一部取り込んでますので」
「学校が出資してるのなら、黙っていないだろう」
「対立の構図を明確にするんですから、問題ないでしょう」
彼女にしては珍しく関心を示してくるな。
丹下が関わっているからだけとは思えず、何かの意図があるんだろう。
ブックメーカーで遊びたいと言う訳ではなさそうだが。
「あの金髪は」
「いましたよ。ブックメーカーのオーナーと知り合いみたいで」
「あまり挑発するな。殺されるぞ」
「はぁ」
もしかして彼女が関心を持ってるのって、俺の安全の事か。
あまりにもあり得なくて、違和感しか残らないな。
「なに」
「いえ。別に。名雲さん、弾けてましたよ」
「馬鹿なんだ、あいつは。死ねば良いんだ」
死ぬのは良くないと思うけど、多分あれが昔の名雲さんなんだろう。
ワイルドギース時代。
もしくはそれ以前の渡り鳥。
傭兵達に恐れられていた時の一面。
「元野は」
「特にこれといって。バニーガールに、お返しを送れとだけ」
そういう寛容さが俺にはむしろ怖く、すぱっと怒られた方が気楽になる。
お釈迦様の手の平で踊っている孫悟空みたいなものだ。
「どちらにしろ、私達はもう卒業。後は勝手にやればいい」
「そういう事気にしてたんですか」
「一応、契約に基づいてこの学校に来てる」
一瞬よぎる後悔の表情。
それは契約を果たせなかった事か。
ユウや丹下達のためになれなかった事か。
そこまで踏み込んで考える権利は、俺にはないが。
「心配しなくても、舞地さん達の活躍する場面はありますよ」
「何が」
「卒業する前に決着を付ける。モトが急進的な行動を取るのも、そのためでしょう」
元々彼女は穏健で、話し合いを好むタイプ。
急進的に進めればトラブルが増えるのは誰でも分かる事。
それでも彼女はやや性急とも言えるペースで突き進んでいる。
言葉にはしないが塩田さんや舞地さん達に、新しい学校の姿を見せたいと思ってるのではないだろうか。
「夢物語だな」
そう呟き、背を向ける舞地さん。
確かにそんな簡単に物事は進まないし、相手は生徒会であり学校。
バックには、中部庁や教育庁も付いている。
たかが高校生の敵う相手ではない。
ただ、そう思っているのなら彼女はこの学校には来ていない。
そしてユウ達を信頼していないのなら、自分達で解決をしていたはずだ。
しかし彼女はこうしてソファーに寝転がり、何もしていない。
それこそが信頼の証。信じている事の証明ではないだろうか。
人の思い、気持ち。
それが敵わなかったのが、屋神さん達の戦い。
俺は、現実を見据えるしかない。




