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スクールガーディアンズ  作者: 雪野
第31話
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エピソード(外伝) 31   ~木之本君視点・木曽川釣り編~






     友




 釣竿。

 ランチボックス。

「全部下ろしたな」

「ああ」

「じゃあ、俺は遊んでくる」

 クラクションを鳴らし、どこかへと走り去る玲阿君のお父さん。

 木曽三川は風光明媚と言う程でもないし、都市化が進んでる訳でもない。

 どこへ、何をしに行ったのかは誰にも分からない。

「木之本。それは」

 名前を呼ばれ、足元にあったクーラーを担ぐ。

 竿を担いでいる玲阿君と浦田君は少し不満そうだが、これがなければ釣りは始まらない。

「多分、そんなに釣れないよ」

「同感だ」

 どうもこの二人は、釣りに対してあまり良いイメージを抱いていないらしい。

 もしくは、この場所に対してだろうか。



 薩摩藩士が治水をした事で知られる、木曽三川。

 長良川の河口堰と、それを利用した戦時中のテロ活動なんて遠い昔。

 今は川原が整備され、夏場は水遊びも盛んな観光地。

 平和な時代に生まれてきて良かったと、つくづく思う。

 だから、もう一つ思う。

 猫が流れてくるなんて、絶対にあり得ないと。



 僕達が選んだ場所は、あえて整備の手が入っていない川原。

 足元は砂利で、周りには背の低い雑草もちらほらと育っている。

 それだけ自然が残されていて、魚には過ごしやすい環境。

 そうして落ち着いている魚を釣り上げるというのは、多少どうかとも思うけど。

「あれ」

 初めに釣り上げたのは、玲阿君。

 テグスの先には、小さな木の枝が付いている。

「来た」

「何が」

「何だろう」

 意味の分からない会話。 

 それでも浦田君は素早くテグスを引き上げ、その先に着いてきた空き缶を川原の上に置いた。

「面白くない」

 二人から同時に上がる不平の声。

「そんな事は、……ないよ」

 しなる竿。

 十分に沈み込むまで待ち、抵抗が強まった所で一気に引く。

 力強い手ごたえ。

 腕に伝わる振動と重さ。

 慎重かつ素早く竿を引き上げると、澄み渡った空に小さなハゼが舞い踊った。

「もりで突こうぜ」

「別な漁業権が必要だよ」

「もぐるのは」

「止めないけどね」

 幸い今日は風もない、穏やかな気候。

 それでも上着は欠かせず、足元には簡素なストーブも置いてある。


「面白くないな。これ、食べられるのか」

 クーラーボックスの中を覗き込み、ハゼをつつく玲阿君。

 どうも暇な分、違う欲求が出てきたらしい。

「川エビ取ったら?目の細かいタモですくえるよ」

「子供だましだな」

「一生騙され続ける人生なんだよ」

 何かぞっとしない事を言って、タモ片手に川を覗き込む浦田君。

 その手が軽くひらめき、明るい笑顔で振り返る。

「はは。タモでエビを釣る」

「意味が分からん。俺にも貸せよ」

「玲阿君、変なところで不器用だからな。慎重にね」

「網を入れるだけ。……この野郎、後ろに目でも付いてるのか」

 ようやく楽しみ出した二人。

 二人のお土産も考えて、もう少し釣った方が良いだろう。



 ハゼ、セイゴ、ウグイ。

 大物はいないけど、それなりには集まった。

 後はご飯でも食べて。

「お母さん、お腹すいた」

「我慢なさい。もうすぐ、お店に着くから」

「お腹すいた」

 川原の上にある車道から聞こえてくる、親子らしい声。

 若い女性と、幼い女の子。

 この時代路頭に迷い放浪しているとは思えなく、また身なりは僕等よりも良いくらい。

 ただし飲食店ともなると、かなり歩かないと無理だろう。

 タクシーが通るような道ではなく、またバスの路線からも外れている。

「これ、良かったら」

 川原の土手を駆け上がり、ランチボックスを差し出す玲阿君。

 母親らしい女性は一瞬戸惑いをみせ、しかし自分の手をしっかりと握り締めている女の子の顔を見ると頭を下げてそれを受け取った。

「済みません。その、お礼は」

「いえ。手作りなので、全然必要ありませんから」

「でも、皆さんの食事は」

「迎えがすぐ来るので、大丈夫です」

 優しく微笑み、女の子の頭を撫でる玲阿君。

 その子が母親の手を離して、彼の手を握り締めたのはもう仕方がないだろう。

「本当、済みません」

「いえ。少し行けば、公園がありますから。ここで風に吹かれるよりは良いと思いますよ」

「本当、ありがとうございます」

「ありがとー」




 釣竿。

 クーラーボックス。

 魚が少しと、ストーブが一つ。

「悪い」

 申し訳なさそうに謝る玲阿君。 

 彼を責める気持はないし、それは浦田君も同じなはず。

 ただ玲阿君が謝りたいという気持も分かるので、あえて言葉を挟みはしない。

 僕達のご飯を渡してしまったという事実は存在するのだから、それ自体を曖昧にしてしまうのは彼自身の気持が許さないだろう。

「魚、焼く?」

 ストーブを指差す浦田君。

 充電式の電熱ヒーターで、温度は高いけど物が焼ける程ではない。

 それに調味料までは、さすがに持ち合わせてはいない。

「いいよ、父さんを呼ぶ」

「まあ、男の手料理もないよね」

 くすくすと笑う浦田君。

 それもそうかなと、今考えればなんとなく気付く。

 ただしさっきの親子ではないけど飲食店は回りにないので、それ程問題ないとも思う。

「ちょっと時間がかかるって」

「いいよ。まだお昼前だし」

「僕達も、もう大人だから」

 そう呟く浦田君。

 子供ならさっきの子供のように、お腹が空くのは本当に心細くて悲しい事。

 ただ彼の言うように、僕等は大人とは呼べないけれど子供でもない。

 一食や二食抜いても我慢出来るし、不平を言わずにいる事も出来る。

 我慢するのが大人だとは言わないけど、全てを表に出すのが良いとも思わない。



 川エビをすくって遊んでいると、川原に車が入り込んできた。

 車道とつながっているので、侵入自体は可能。

 ただしそれは災害時やイベントの時に許可があった場合で、一般車両の乗り入れは禁止されている。

 実際看板や標識が立ち並び、おそらく一定以上車が道をそれればナビが警告を発するはず。

 それでも入ってくるのだから、確信犯だろう。

 オフロード気分を味わいたいのか、駐車場に車を止めるのも面倒なのか。

 なんにしろ、褒められた行為でないのは確か。


 何台か連なった車から降りてきたのは、高そうなジャケットを着た年配の男性達。

 車から下ろされる釣竿も、一目で分かる高級品ばかり。

 あまり言いたくないけど、お金と行動が伴っていない。

「何だ、あいつら」

 露骨に敵意を示す玲阿君。

 放っておくと車を川へ沈めそうなので、関わらないよう一言告げる。

「進入禁止だろ、ここ」

 さすがに聞こえたのか、こちらを見てくる男性達。

 どこにでもあるような竿。

 クーラーボックスが一つ。

 タモで川エビをすくう子供達を。

「子供は、水遊びでもしてろ」

 馬鹿にした笑い声を立て、竿を組み立てていく男性達。

 そして川原に隅を放り、そこへ着火剤を振り掛けて火をつけた。

 暖を取るのは問題ないし、炭を使っても良い。 

 ただ地面に直接炭を撒いて、どう後を始末するのか。

 少し疑問が残る。

 地面へ放られる着火剤のスプレー。 

 それを拾い、僕達が持ってきたゴミ袋へ入れる浦田君。 

 捨てられる、タバコの袋。

 それもゴミ袋へ入れる浦田君。

 ペットボトルを彼が拾い上げたところで、一人の男性が声を上げた。


「このガキ。舐めてるのか」

「ゴミを拾っただけですよ。それとも、所有権を主張するとか」

「何だと。最近のガキは、口ばっかり達者だな。こっちは弁護士にも政治家にも知り合いはいるんだ。お前らを退学させるくらい、簡単な事なんだぞ」

 一斉に笑い出す男性達。 

 別に何もおかしくはないし、笑う気も無い。

 勿論、退学になる気もないけれど。

「それとも、川に沈められたいのか」

「おい、誰か一人捕まえろ」

 嗜虐性に満ちた顔で詰め寄ってくる男性達。

 彼等が僕達を捕まえるより早く玲阿君が前に出る。

「ヒーロー気取りか。馬鹿が」

 彼の腕を掴み、力任せに川へと放り投げる男性達。

 いや。放り投げようとした男性達。

 玲阿君の体はわずかにも動かず、表情一つ変わらない。

「大人だろ。子供に負けるなよ」

 やや挑発的な台詞。

 両腕をとられたままの玲阿君に、それを眺めていた男性の一人が石を拾い上げて飛び掛る。



「大人気ないぜ」

 体が横へひねられ、腕を掴んでいた男性達がそのまま吹き飛ぶ。

 そして石を掴んで飛び掛ってきた男性とぶつかり、3人で川の中へと飛び込んだ。

「水遊びには、まだ早いんじゃないのか」

「こ、このガキが。誰か、車から木刀を」

「これ?」

 いつの間にか木刀を肩に担ぎ、愛想良く笑っている浦田君。

 車は全部窓ガラスが割られ、盗難防止用のアラームが鳴りっ放しになっている。

「これで魚は釣れないよね。というか、車に木刀を積むのって犯罪じゃないの。知り合いの弁護士先生に聞いてみる?

「何?」

「一般の者が、みだりに武器となりうる物の所持をするのは、これを禁じる。車両などへの搭載及び保管は、車両所持者の罰則とする。罰金を払うもよし、拘置所で一ヶ月過ごすもよし。選んだら」

 地面に突き刺さる木刀。

 後ろへ仰け反り、腰を抜かす男性。

 仲間はすでに逃げ去り、車のエンジンを掛けている。

「こ、このガキ。顔は覚えたからな」

「逆行抑制が働かないよう、頑張って」

「訳の分からん事を言いやがって。覚えておけ」

「覚えたのは、そっちじゃないの」

 浦田君の冗談も聞かず、顔を真っ赤にして逃げ出す男性。


 車はあっという間に走り去り、後には炭と木刀だけが残された。

「とりあえず、消そうぜ」

「魚逃がすよ」

「うん」

 釣った魚を全部リリースして、クーラーボックスに水を汲んで燃えている炭にそれを掛ける。

 後はゴミ袋に入れて、念のためもう一度水を掛ける。

「木刀はどうする」

「取りに来るんじゃないの」

「じゃあ、置いていくか」

 なんだか良く分からない会話を交わす二人。

 しかし僕達が持っていても、良い事が起きるとは思えない。

 いや。悪い事が起きると言った方が正解だろう。

「どうする?」

「逃げるんだよ」

 明るく告げる浦田君。

 玲阿君は、不思議そうな顔で改めて尋ねる。

「どこへ」

「逃亡者の行き先は、常に北へと決まってる」




 逃げるといっても徒歩。 

 加えて、釣竿とクーラーボックス。

 緊張感には程遠く、また本気で逃げるのなら橋を通るバス亭を目指すべき。 

 それでも僕等はバス停を通り過ぎ、改めて川原へと降り始めた。

 さっきの場所より広く、言ってみれば見通しが利く。

 あの集団が戻ってきてもすぐに逃げられる。

 浦田君はともかく、玲阿君はそれを考えてここに来たはず。

 もしくは、より戦いやすい場と言うべきか。

「少し寒くなってきたね」

 傾き始めた日差し。

 真冬と言っても良い時期で、じっとしていれば足元から寒さが体を通り抜けていく感じ。

 ストーブを付けるが、暖かいのはその周りだけ。

「でも、心は温かいよ」

 そう言って、玲阿君の肩を叩く浦田君。 

 おそらくは、さっきのランチボックスの事を言っているんだと思う。

 それは僕も異存なく、空腹も別に気にならない。

 いや。気にならない事は無いか。

「川エビでも捕るか。どうせ、釣れないし」

 釣り竿を放り出して、川縁へ向かう玲阿君。 

 浦田君も彼に付いていって、釣り竿を使うのは自分一人。

 もったいないので、3本全部キャストする。

「欲張ると、いい事無いよ」

「使わない方が、もったいなくない?」

「そういう考え方もあるね」

 どっちなのか良く分からないし、多分それは浦田君本人も分かってないだろう。

 右の竿に反応。

 すぐ引き上げ、真ん中の竿も引き上げる。

 最後に左を引き上げて、ハゼ、キス、カレイ。

 河口からだいぶ離れているけど、引き潮なのでキスやカレイが釣れるのかも知れない。

「カニがいるぞ」

「おにぎり上げたら。柿の種と交換で」

 何の話をしてるんだか。



 クーラーボックスを閉じ、ストーブの電源を落とす。

 夕暮れにはまだ遠いけど、寒さの方がそろそろ限界。

 今日は、猫が流れてこなくて助かった。

「おい、なんか溺れてるぞ」

「また、冗談を」

 笑いかけた浦田君だが、その表情が硬くなる。

 河と呼べる程の広い川幅。

 その中央を流れていく毛の生えた何か。

 泳いでいるのではなく、そのもがき具合から見て間違いなく溺れている。

「ヌートリアだよ、あれ」

 ヌートリアは、南米原産のほ乳類。

 毛皮を目的として養殖されていたが、逃げ出した何頭かがコロニーを作り今はこの一帯を生息地にしている。

 また川辺に棲んでいるため、泳ぎは達者。

 溺れる事は、あり得ない。

「溺れてるよな」

「だよね」

「冬だよな」

「そうだよ」


 舌打ちするや、服を脱いで川に飛び込む玲阿君。

「服、頼むぞっ」

 そういうや、悲鳴を上げながら川に入り腰まで浸かったところで泳ぎ出す玲阿君。

 他に頼む事はあるだろうけど、今は彼を追う方が先決だ。


 満ち潮のせいか川の流れは緩やかで、以前のように走る必要はない。

 ただ水の冷たさは比べ物にならず、何より相手が猫ではなくヌートリア。

 小学生の子供を抱きかかえるようなもので、時折玲阿君の姿が水面から消えては再び現れる。

「捕まえた?」

「大丈夫みたい」

 浦田君の言葉を聞き、竿を担いで狙いを定める。

 意識を集中し、力いっぱい振りかぶって竿を振る。

 釣竿が空を裂き、大きな重りが勢い良く飛んで水面を走っていく。

「何か、叫んでるよ」

「気のせいじゃないかな」

 ほぼ狙い通りの場所に着水。

 玲阿君の鼻先を掠めたようにも見えたけど、今は彼を引き上げるのに集中しよう。

「これは、かなり」

 グローブをした手で、テグスを手繰りよせる浦田君。

 玲阿君の体重と、ヌートリアの体重。プラス流れの速さ。

 僕達もあの頃よりは体力が付いているけど、玲阿君の体重も増えている。

 何より、ヌートリアが重い。


 汗だくになって川原まで引き上げ、ずぶ濡れの玲阿君と再開する。

 ヌートリアはこちらには見向きもせず、背を向けると一目散に逃げ出していった。

「寒い」

 当然の感想を漏らす玲阿君。

 僕達は少し暑いくらいだけど、このままじっとしていれば多分彼と同様寒くなる。

 まずはストーブを付けて。

「ああ、これが」

 ゴミ袋から炭を取り出し、入れ物を探す。

 川原に直接撒くのは、さっきのように後始末が面倒。

 何より、周りに延焼する危険性もある。

「これ、か」

 クーラーボックスを川べりに運び、中の魚を逃がす。

 防火性もあり、この中でなら燃やしても問題はない。

「濡れたから、付かないかな」

 枯れ草も一緒にクーラーボックスの中へ入れ、ライターで火を付ける。

 どうやら本物の炭ではなく、アウトドア用の炭素の結晶。

 濡れてもすぐに乾くような原子配列で、炭はうっすらと赤みを帯びてきた。

「大丈夫?」

 寒いと言ったきり言葉を発しない玲阿君。

 浦田君が自分の上着を掛けるが、全く反応なし。


 真冬に川で泳いで、しかもヌートリアを救助。

 限界ではないにしろ、かなり消耗したのは間違いない。

「お湯沸かす?少しで良いなら暖められるよ」

「散々飲んだ」

「それは川の水じゃないの」

 ウエストポーチからビニール袋を取り出して、川の水を汲んでくる。

 その下にコップを置き、袋の下から滴る水をためる。 

 後はこれをストーブのそばに置き、温まるのを待つ。

「結局川の水か」

「贅沢は敵だよ。でも傭兵って、こういう暮らしなのかな」 

 炭の入ったクーラーに手をかざし、しみじみと呟く浦田君。

 今僕達が頼れるものは何も無く、食べる物も無い。

 日は暮れ始め風は冷たさを増し、だけど宿る場所もない。

 切なさと寂しさが胸の中にこみ上げてくるような今の自分達。

 もし傭兵がこんな暮らしを過ごしてるんだとすれば、彼等に対する考え方はかなり変わる。

 僕だけでなく、世間一般も。

 草薙高校の生徒達も。 

 それは多分、お互いにとって良い方向に働くと思う。


「お湯くれ、お湯」

 震えながら手を差し伸べてくる玲阿君。

 少しぬるくなってきた紙コップを渡すと、彼は大事そうに両手で包み込んで少しずつ飲み始めた。

 大切に、大切に。

 感謝の表情を浮かべて。

 僕はそれを見ているだけで満足で、上着を彼に掛けている浦田君も同じだと思う。 

 体は寒いけど、寒さは感じない。

 言い知れない暖かさが僕達を包み、守ってくれるから。



 体の乾いた玲阿君が服を着替え終えた所で、川原が騒がしくなってきた。

 土手を見るとガラスの割れた車が、列をなしてこちらへと向かってきている。

「大人の方が元気だね」

 付き合ってられないとばかりに、炭へ手をかざす浦田君。

 玲阿君も体を温める方が優先されるらしく、そちらを見ようともしない。

「見つけたぞ。さっきは、よくもふざけた真似をしてくれたな」

 逃げ出した割には、やけに威勢の良い言葉。

 見てみると全員木刀や警棒を持っていて、人数も増えている。

「武器準備集合罪で即座に逮捕だね」

 ポツリと呟く浦田君。

 男性達は一斉に笑い出し、その後ろからコート姿の男性が現れた。

「法律家の前で、法律の話はしない方が良い」

 コートの下に見える、弁護士のバッチ。

 わざわざ僕達のために呼んで来たんだろうか。

「運動のために、仲間内でサバイバル訓練をしているだけだ。その際は刑法に抵触しないと、一部地裁では」

 何も答えない浦田君。

 なおも滔々と法律論を繰り広げる弁護士だが、彼のあまりにも素っ気無い態度に声を荒げ出した。

「聞いてるのか、おいっ」

「法律家の前で、法律の話はしない方が良い」 

 さっきの台詞をそのまま返す浦田君。

 弁護士の顔色がさらに赤くなり、手にしていた木刀を担ぎ上げる。

「少年刑務所が良いか、刑務所が良いか。今の内に選ばせてやる」

「みんなは大人だから、刑務所じゃないの」

 炭に手をかざしながらそう答える浦田君。

 それに対して失笑が漏れ、次々に自分の身分や身元を話し出す。

 大企業の幹部あり、キャリア官僚あり、地方議員、警官、そして今の弁護士。

 どうやら、自分達は権力があるから何をやっても許されると言いたいらしい。



 どこかで聞いたような構図。

 力さえあれば、何をやっても許される。

 それ以外の人間は、優秀な自分達に従っていれば良いと。

 子供は大人の言う事を聞いて、勉強だけしていろと。

 言っている事のいくつかは頷ける。

 ただ、全部には納得が出来ない。

 子供は子供なりに考える事があり、自分達で行動も出来る。

 子供だから考えられる事、出来る事もある。

 第一、優秀という線引きはどこでするというのだろうか。

 頭のよさ、運動神経のよさ、社会的地位。

 人を導く立場はあるけれど、それが偉いという訳では無いと思う。

 人にはそれぞれ役割があって、その役割を果せばそれで良いと。


 僕等は確かにまだ子供で力不足なのは認める。

 時には失敗もすれば、間違いも起こす。

 大人の指導が必要な時も、手助けがいる時もある。

 ただ失敗から学び、次の糧とする事も出来る。

 すぐに手を差し伸べ全てを与えるばかりではなくて、時には少し距離を置いて見守っていて欲しい。


「暖かいな」

 炭を見ながら呟く浦田君。

 表情が無く、視線は炭から離れない。

 どうもあまり良くない兆候。

「逃げよう」

 明らかに不満顔の二人。

 いざとなれば、戦うのも仕方ない。

 ただ、今がその場面とは思わない。

 それと、不安が一つ。

「炭、投げちゃ駄目だよ」

 何も答えず、クーラーボックスを担ぐ浦田君。

 炭は入ったままで、また火も付いたまま。

 ただ、彼はまだ多少なりとも兆候を見せる。

 これが弟君の方なら、すでに放り投げた後だろう。

「逃げるぞ、追えっ」

 ばたばたと追いかけてくる足音。

 こちらは出来るだけ走りにくい場所を選び、少しずつ後ろとの距離を開けていく。

 子供と大人の勝負。

 ただ体力に関しては、この場合大人が有利という訳ではない。

 すぐに足音は遠ざかり、一人また一人と後ろから姿が消える。

 やがて歩いても追いついてくる事は無くなり、僕達も一旦休憩をする。

 橋の下に荷物を置き、荒くなった息を整える。

 浦田君が少し疲れ気味なくらいで、玲阿君は調子が戻った様子。

 僕も、まだ問題はない。




「メリー・クリスマス」

 唐突な、季節外れの挨拶。

 何事かと思ったら、橋の上をサンタの格好をした女性が歩いていた。

 当たり前だが本物ではなく、販売キャンペーンのよう。

 何故この時期にサンタなのかは分からないけど。


 土手を登り、橋の上に行くと若い女性が「メリー・クリスマス」を連呼していた。

 販売のキャンペーンというより、研修か度胸試しかもしれれない。

 通行量の多い車線。

 しかも橋の上とあって、止る車は1台もない。

 また大きな川を越える橋なので、歩いている人もいない。

「あ」

 小さく声を上げる女性。

 その彼女と目を合わす僕達。

 結末は言うまでも無く、全員が財布を取り出す事となる。

「俺は金がないんだぞ。本当に」

「もういいよ。ほら、逆さにして」

 無慈悲に、玲阿君の財布から全財産を抜き出す浦田君。

 彼自身は言うまでもない。

 僕もあるだけのお金を取り出し、全員分を女性に渡す。

「全部売って下さい」 

 こう告げて、すぐに悟った。

 彼女が何を売っているのか、確認すらしてなかったと。

「だ、駄菓子なんですけど。復刻版の。その、私来年度採用される予定で、研修として街頭の販売を指示されまして」

 大体思った通り。

 売れ残るのは命令した側も予想していて、物を売る事の難しさや大切さを教えているんだと思う。

 僕等の行為はその趣旨からは反するけど、多分ここで声を枯らしても何の役にも立たないと思う。

「ちょ、ちょっと待って下さいね。今、合計を確認……」

 赤い指先。

 おぼつかない動き。

 華奢な手から滑り落ちる端末。

 それは道路側ではなく、欄干側。 

 つまり、川へめがけて落ちていった。



 あまりもの事態に、声も出ないといった様子の女性。

 そして僕達は、全員が気まずそうに顔を見合わせる。

 落ちた場所は川岸のそばで、十分に足が付くようなところ。

 ただ、今は冬。

 そして気温は一気に下がってきている。

「俺達探してくるので、端末の紛失届けを出してきて下さい」

「え」

「すぐ戻ります」




 それは多分、玲阿君の願望だと思う。

 膝まで浸かり、腰をかがめて川の中を覗き込む。

「めだかの学校でも無いのかな」

 震える声で、のんきな事を言っている浦田君。

 それに突っ込む気力も無く、赤く染まり出した川面を眺める。

 足先はすでに感覚が無く、凍傷はないけどしもやけくらいにはなりそうな予感。 

 それとも風邪を引く方が、先だろうか。

「……よし、あった」

 願望が叶ったのか、彼の日頃の行いがよかったのか。

 探し出してすぐに見つけ出す玲阿君。

 確かにさっき橋の上から落ちていったのと同じ端末。

 ようやく全員笑顔を浮かべ、体を震わせながら川原へ戻る。

 無言でストーブを付けて、クーラーボックスを開ける。

 中はかなりひどい事になってるけど、かろうじて炭は熱を保っていた。

「ジュースでも……。ああ、全額渡したのか」

 悲痛な声を出す玲阿君。 

 現金もそうだし、カードに入っていたお金も全員ほぼ全額を渡した後。 

 大げさな言い方をすれば、進退窮まった。

「ひもじいよ、兄さん」

「兄さんはお前だろ。父さん、遅いな」

「捨てられたんだよ、僕等は。もう、ここで一生生きて行くしかないんだよ」

 かなり悲観的な事を言い出す浦田君。

 多分そういう事にはならないと思うけど、ここから名古屋まではかなりの距離。

 寮まで歩いて帰れるとしたら、到着するのは明日の朝になるだろう。


「あれ、端末」

 思わずそう声を上げ、橋の上を見上げる。

 しかしサンタの服装をした女性が戻ってくる気配は無く、橋の上で渋滞が始まっているくらい。 

「もしかして、この場を動けないとか?」

「また、冗談を」

 明るく笑い飛ばし、しかしこの場を去ろうとはしない浦田君。

 彼女の端末はここにあり、その彼女は警察か行政サービスを代行出来るコンビニにでも行ったまま戻ってこない。 

 日は暮れて、風は冷たく、お金もない。

 あるのは電池の無くなりかけたストーブと、炭がわずかに残るだけ。

 色んな意味で寒気がしてきた。

「さっきの馬鹿連中戻ってこないかな」

「車を奪うとか?良くないよ、そういうのは」

 少し楽しそうな顔になる浦田君。

 良くないどころか、犯罪だ。

「だけど冗談じゃなくて、このままだと凍死するぞ」

「大げさだな」

 そう笑い、そっと端末で気温を確かめる。

 日が傾き始めてからは気温は一桁。

 ここは山も近いので、氷点下になるのも珍しくはない。

 そして僕等は、ここから離れられないと来ている。

「木、拾ってくる」

「じゃあ、僕は川へ洗濯に」

 多分浦田君が行けば、上流から桃が流れてくるだろう。




 枯れ木をクーラーボックスの中にくべ、全員でそれを囲む。

 すでにストーブは消え、辺りも薄暗くなってきた。

 焚き火の明かりが僕達の顔を、淡く照らし出す。

「次は、食べ物だな」

「さっきのヌートリアは」

「さばくのは、結構難しいんだ」

 ぞっとしない会話を交わす二人。

 今のは聞かなかった事にして、ウエストポーチを探ってみる。

「……板チョコがあった」

 いざという時のためにお菓子は入れる癖をつけていて、それが今日役に立った。

 カロリーは高いし、何より甘い物は人の心を幸せにする。

 と、雪野さんが言っていた。

「じゃあ、僕一人で」

 一応冗談を言ったつもりだけど、全然相手にしてもらえず二人がすぐに手を伸ばしてきた。

 相手の物を奪ってまでもという意識がない二人なので、こういう冗談は通じなかったようだ。

 とにかく、ささやかではあるけど夕食にはありつけた。

 後は女性の帰りを待って、玲阿君のお父さんが……。


「チョコって」

「大人が、チョコ」

「チョコ?」 

 なにやら土手の方から聞こえる、甲高い声。

  薄闇にぼんやりと見える、子供の影。

 日暮れまで思いっきり遊んで、後は家に帰るだけ。

 ただ育ち盛りの子供には、どれだけ食べても食べ足りない時期がある。

 玲阿君は、どうやらまだその時期みたいだけど。

「あげる」

 銀紙に包まれたチョコを差し出すと、子供達は気まずそうに顔を見合わせた。

「そんな」

「チョコなんて」

「ねえ」

「いらないなら、別に」

 すぐに持っていかれるチョコ。

 明るく、素直で、純真な笑顔。

 誰もがこうであればと願いたくなるような。

「知らない人から物をもらうなって言われなかった?」

 浦田君の話も聞かず、チョコを見せ合う3人。

 別にそれ程珍しいお菓子ではないはずだが、子供達はかなり浮かれ気味。

 少し気になってパッケージを見ると、チョコの中に景品のカードが入っているとある。

 いつの時代も、こういう物は人気があるらしい。


 少年達と別れ、頼りなくなってきた焚き火に当たり暖を取る。

「ああいうのって、チョコだけ捨てて景品だけ手に入れる事は?」

「あるのかな」

「あるのか」

「あるんだよ」

 寒さが身に染みる会話。

 しかし何を言おうと、全ては終わってしまった事。

 寒さが身に堪えて来たが、女性が戻ってくる気配はない。

 玲阿君のお父さんが迎えに来る様子も。

 夕日は西に連なる山の尾根に掛かり始め、後どれだけもしない内に沈みきってしまうだろう。

 そうなれば寒さは一層厳しくなり、この焚き火程度では苦しいと思う。

 空腹、寒さ、日暮れ。

 風は冷たくて、周りは薄暗くて、本当に何もない。

 少しため息を付きたくなる状況。

 とはいえまだ焚き火は消えそうになく、僕一人でもない。

 それが、僕の心に灯火を宿らせる。




 突然の強い光。

 それがいくつもこちらへと近付き、騒がしくなる。

 何台かの車。

 そこから降りてくる男性達。 

 玲阿君の顔に、血の気が差す。

「逃げよう」

「おい」

「暗いから、追ってこれないよ」

「ノクトビジョン付けてるぞ」

 まさかと思い振り返ると、確かに何人かは目にゴーグルを掛けていた。

 つまりは暗視装置で、性能によってはこの暗さでも昼間のようにはっきりと見える。

「無駄な事に金を掛けやがって。大体あの動き、素人じゃないな」

「覚悟、決める?」

 同意を求めてくる二人。

 僕に決断する権利はない。

 またそういう関係でもない。

 ただ今まで彼等を留めてきた以上、僕がその責任を担うべきだろう。

「突破しよう」


 背を向けるのではなく、真正面から彼等と向き合う。

 人数においては圧倒的に不利。

 そして向こうは僕等を襲撃するため、十分に準備を重ねてここに来ている。

 一方こちらは、使えなくなったストーブとこげたクーラーボックス。 

 そして、釣竿くらい。

 物理的に考えれば、やはり圧倒的に不利。

 もしくは、常識で考えるのなら。

「とりあえず、ライトをもらうか」

 釣竿を担ぎ、無造作に前へ出る玲阿君。

 そこへ一斉に浴びせられるライト。

 殺到する男性達。

 目をくらませて、その隙を狙おうという考えだと思う。

 多分、方法としては間違っていない。 

 ただ彼等は、相手を間違えた。

 すぐに、あらぬ方向へ向けられるいくつものライト。

 それが弧を描きながら、僕達の胸元へ飛んできた。

「ついでに、これも」

 釣竿から木刀へと持ち返る玲阿君。

 代わりに跳んで来た釣竿を背負い、浦田君と背中を向き合わせる。

 人を襲うのは、嗜虐性を高めると同時に緊張感を生む。

 余程慣れている人間か感覚が麻痺している人間でない限り、普通の気持では挑めない。

 つまり、接近も仕掛けてくるタイミングも良く分かる。 

 こういう特殊な状況では特に。


「う、うわー」

 案の定、叫びながら突っ込んできた。

 この暗さと緊張感に耐え切れなかったようだ。

 一歩下がってローを放ち、体勢が崩れたところで浦田君が後ろへと回りこみ体を押す。

 今度は悲鳴が上がって、辺りに水しぶきが飛び散った。

「ひ、一人で動くな。一斉に掛かれ」

 本当、言っている事は間違ってない。

 この暗さと足場の悪さが無ければ。

 また全員が、集団での格闘訓練を受けているのなら。

 経験者を連れてきたまでは良かったけど、そのつれてきた人間の動きに妨げられておそらくは思ったようには行動出来てないはず。

 それこそ却って足手まといなくらいだろう。

「突撃だっ」

 その言葉に浮き足出す男性達。

 叫び声を上げた浦田君は即座に逃げ出し、僕達も後へと続く。

 追う側が有利か、追われる側が有利か。

 状況やお互いの力量にもよるが、この場合は場所を選べるという面においては僕達の方が有利。

 また乱戦の経験もあり、連携した動きも取れる。

 何よりお互いへの信頼がある。


 問題は、この場から完全には離れられない点。 

 端末を預かっている以上、移動出来る距離には制約がある。

 リーダー格を捕らえて交渉するか、車を奪取して時間を稼ぐか。



 後輪を滑らせながら、目の前に止る一台の車。

 運転席に見えるのは玲阿君のお父さんではない。 

 ただ、見知った顔ではある。

「乗ってっ」

 言われるがままに乗り込む僕達。

 車は猛烈な勢いでバックして、男性達を恐慌に陥れながら土手の上の道路へと戻った。

「猫を助けたにしては、随分大騒ぎね」 

 くすくすと笑う、元野さんのお母さん。 

 彼女の実家は、確かここからはそう遠くはない。

「でも俺達、端末を預かってて」

「端末と命、どっちが大切なの」

「それは」

「端末って言いそうだから、聞かなかった事にするわ。それで、私の運転ではもう限界なんだけど」

 街灯のない、狭い土手の道。

 ガードレールも満足に無く、しかし対向車には大きなトラックも混じっている。 

 後ろでは鼻をつけるようにして車が連なっていて、ここが渋滞の始まりになりそうだ。

「さっきのは?」

「ブレーキを踏んだら、タイヤが滑っちゃって。それと、ギアを間違えた」

「俺が運転するよ」

 路肩に寄せられる車。

 玲阿君とおばさんが入れ替わり、外で何やら音がした。

 どうも後ろにつけていた車の、ヘッドライトとフロントガラスを叩き割ったらしい。

「いつも、あんな事してるの?」

 助手席で怖い顔をするおばさん。

 玲阿君は首をすくめ、まさかと呟きシートとミラーの位置をずらした。

「文句を言ってきたから、つい。人間を殴るよりはましでしょう」

「どうかしら」

 背筋が寒くなりそうな低い声。

 普段は大人しくて良い人だけど、この辺りはやっぱり元野さんのお母さんだと実感する。

「みんな寒そうだけど、大丈夫?」

「あまり。それと、何か食べ物を」

「末期的ね。……智美?……今帰るから、ご飯とお風呂の用意をお願い。……いや、10人分くらい」



 立ち上る湯気。 

 暖かな空気。

 全身が優しさで包まれているような気分。

 ようやく体が温まった所で浴槽から出て、浦田君と代わる。 

 昔は3人一緒に入れたが、今はさすがに無理がある。

「極楽極楽」

 頭にタオルを乗せて、鼻歌を歌い出す浦田君。

 いつも楽しそうというか、ここまで来ると羨ましい。

「玲阿君、大丈夫?」

 さっきから、ずっとシャワーを浴びっぱなしの玲阿君。

 一瞬目付きが鋭くなり、何とも辛そうにお腹をさする。

「ああ、ご飯」

 多分基礎代謝だけでも、僕達の倍は必要なはず。

 お昼も抜いているし、夕ご飯もまだ。

 多少機嫌が悪くなるのは仕方ない。

「端末、大丈夫かな」

「後で橋に戻るか」

 放っておくという答えは返ってこない。

 とはいえ気負っている訳でなく、あくまでも自然体。

 そうするのが、彼にとっては普通なんだろう。

「ご飯、出来たわよ」

 窓越しに届く声。

 即座に飛び出ていく玲阿君。

 でもって悲鳴が聞こえ、何かが壊れる音もした。

 何が壊れたかは知らないし、誰の悲鳴かは考えない方が良さそうだ。



 テーブルに並ぶ料理。

 暖かい部屋。

 温まった体。

 何も望むものはなく、今はこうしてぬくもりの中にいる事へ感謝したい。

「ヌートリア?あの、大きなネズミみたいな?」

 声を裏返す元野さん。

 玲阿君はもう何も言わず、黙々とシチューを口に運ぶ。

「ヌートリアが溺れるなんて、あり得ないじゃない。ユウがお菓子を食べないのと同じ意味よ?」

「その辺の事情は、ヌートリアに聞いてくれ」

「意味不明ね。それとさっき、端末に連絡があったわよ。後日お礼に伺いますって。あの端末、どうしたの」

 やはり何も答えない玲阿君。

 どうやら、橋に戻る必要はなくなったらしい。

「……こんばんは」

 にやにやしながら現れる、玲阿君のお父さん。

 でもって、僕達一人一人の肩に触れてきた。

「正義の味方は誰かな」

「え」

「川原に行ったら、変な親父共が人捜ししててさ。調子に乗ってたから、全員川へ放り込んでやった」

 リビングに響く高笑い。 

 笑い事ではないけど、ここは相手が悪かったとしか言いようがない。

「そうしたら、でかいネズミがやってきてさ。その親父共を蹴散らしてってたぞ」

「ヌートリアですか?」

「さあ。でかいネズミだなと思っただだけで。今度は、あのネズミでも助けたのか」

 一瞬笑いかけ、すぐにまさかという顔をするおじさん。 

 元野さん達は言葉もないのか、それ以上何も聞いてこない。



 ちょっとしたハプニング。

 少しの笑い話。 

 人から見れば馬鹿にされるかも知れない。

 多分、僕達にとっての日常。






                                                           了












     エピソード 31 あとがき




 善人トリオ受難編でした。

 本人達は、それ程苦労とは思ってませんけどね。

 人が良いので。


 ヌートリアは実際木曽三川付近に住んでいる大ネズミ。

 コロニーを作って、結構気ままにやってるようです。

 彼らが溺れるとは思いませんしサイズも実際は小柄なんですが(5kg程度)、そこはフィクションという事で。


 ちなみにそれぞれの特徴を書いてみますと。

 木之本君は、一番常識人。

 世間からどう見られているか、自分達のずれ具合も把握してます。

 この3人の中では世慣れていて、ただ多少考えすぎるタイプ。

 ショウは彼に次ぐ、常識人。

 自己主張しないというか、一歩下がる性格。

 それは優れた身体能力故の、控えめさ。

 結果、一部の人間には良いように使われてます。

 で、ヒカル。

 非常識の固まり。

 行動は常に規格外。

 財布ごと寄付するなんて事もざら。

 その分運が良いのか、福引きなどでは特賞を連発。

 でもって商品をすぐに人へ上げたりする人。

 ただ多少短気で、意外に爆発します。


 という彼らですが、今後ともよろしくお願いします。

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