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スクールガーディアンズ  作者: 雪野
第31話
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31-10






     31-10




 教室についても怒りは収まらず、サトミに何度となくなだめられる。

 しかし大人しく出来る訳もなく、固めた拳を机の上で振るわせ続ける。

 今何かあれば、この流れは間違いなくそちらへと向く。

「怒ってるのか」

 いつもの事と思ったのか、特に警戒もせず私の隣へ座るショウ。

 その彼に、ぼろぼろとなった例のビラを突きつける。

「……ああ?」

 今にでも机をひっくり返しそうな顔をして、実際机に手を掛けた。

 足を全て固定しているので動く訳はないんだけど、しかし聞き慣れない音が教室内に響き渡る。

「壊すのは構わないけど、弁償出来るの」

 たしなめるのも疲れたのか、ため息混じりに尋ねるサトミ。

 ショウは持ち上げかけた机を下ろし、黙って拳を押しつけた。

 一体どういう力が働いたのか、机は再び固定されて揺すっても全く動かなくなる。

「ここで暴れても仕方ないでしょ。二人とも、落ち着きなさい」

「落ち着く?」

 二人して声を裏返し、サトミを睨む。

 でもってサトミが少したじろぐという、いつもとは違う構図。

 それだけ私達の怒りが高まっている現れだ。

「もう一度言うわよ。落ち着きなさい。ほら、これ」

 机の上を滑ってくるチョコとガム。 

 非常に小馬鹿にした話で、ふざけるにも程がある。

「落ち着いた?」

「少しね」

 甘い物を口にすれば、人間少しは気分が良くなる。

 あくまでも少しであって、特効薬とはなり得ないが。


「おはよう。ビラは」

 こちらが言う前から手を差し出すモトちゃん。

 彼女はビラに目を通し、何度となく頷いた。

「大した内容じゃないわね。サトミはどう思う?」

「ユウにも話したけど、これを理由にして改めて木之本君を査問する可能性はあるわね。悪い相手に見込まれたとしか言いようがないわ」

「対策は?」

「これが事実無根だと主張する証拠はすぐにでも用意出来るし、証言者も揃ってる。前回の停学処分に関してもその矛盾を指摘する機会にもなる。問題は、肝心の木之本君が証言するかどうかなんだけど」

 前髪を横に掻き上げ、それを押さえたままため息を付くサトミ。

 まさにそこが最大の問題で、停学処分を受けたのも彼の性格が原因。

 全てを彼が話せば、ここまでにはならなかっただろう。

「本当変な所で頑固というか、意地を張るというか」

 苛立ち気味に机を指で叩くモトちゃん。

 勿論彼が悪い訳では無いが、文句が出るのも仕方ない。


 そこへ、ヒカルと一緒に現れる木之本君。

 彼にビラは渡っていない様子で、いちいち告げるような子もいない。

「おはよう」

「おはよう。学校から、停学処分の事で話は?」

「別にないよ。どうかした?」

「話の流れとしてね。最近、話題に乏しいから」

 さらりと言って、内容を曖昧にするモトちゃん。

 木之本君は普段と変わらない様子で、机の上に筆記用具を広げている。

「おはよう」

 返事もせず、席に付くケイ。

 彼はそのまま机に伏せ、それっきり動かなくなった。

「ねえ、ビラの事知ってる?」

「怯えた顔の連中が、必死になって集めてるのは知ってる」

 さすが、この辺は確実に押さえてるな。

 少し揺すって覚醒を促し、強引に起きあがらせる。

「俺は、本当に、眠いんだ」

「それはいいからさ。何か無いの」

「何が」

「いや。それを聞きたくて」

 多分今なら、この目付きだけで殺されそうだな。




 昼休み。

 食堂に来ると、好奇の視線を辺りから感じ出す。

 しかし余計な事を言って来る者は無く、何より近付いてこない。

 テーブルが空いて助かるけどね。

「また揉めてるのかな」

 笑い気味に近付いてくる沢さん。

 この人を食堂で見るのは少し珍しいな。

「忠告ですか」

「僕も一応、この学校の生徒だからね。色々とは考えてる。これで再び停学処分になると、確実に前例となる。それは防ぎたいから」

「させませんよ、何も」

「心強いね、相変わらず。ただ向こうも材料は揃えてるはずだ。君達は?」

 サトミから聞いた話をして、トレイを持ってテーブルに付く。

 沢さんは、何故かカボチャのプリンをデザートに。

「カボチャ好きなんですか?」

「嫌いじゃないよ」

 曖昧に答え、刺身定食を食べる沢さん。

 どうも似合わないんだよね。良いんだけどさ。

「学校と執行委員会は、間違いなく彼の頑なさを利用する。つまり、他人の不利になる証言はしない点を」

「その分、私達がフォローしても?」

「勿論、それは大事だよ。ただ彼の頑なさが、ちょっとね。それはこの学校の伝統かな」

 苦笑して遠い目になる沢さん。 

 その先には遠い過去。

 志半ばで去っていった先輩達の背中が見えているのかも知れない。

「以前は、停学をちらつかされたりはなかったんですか」

「自主的な事を除けば、あまりなかったよ。管理案も施行されてなかったし、学校としても理由がなかった。それ以前に、幹部の人気が圧倒的だったからね」

「逆効果だと」

「生徒からの反感も予想されたし、彼等が停学も退学も恐れてなかった。それが良かったのかどうかはともかく」

 鼻を鳴らして、寂しげに微笑む沢さん。

 彼はその結果残された存在であり、自分の居場所を探し続けている一人である。

「沢さんの権限で、差し止める事は出来ないんですか」

「前は出来たんだけどね。今は制限されているから。どうしてもとなれば、僕も考えるけど」

 カボチャプリンを食べ終え、笑いながら去っていく沢さん。

 どうしてもという事態。

 つまりそれは私達が追い込まれた状況か。

 そんな時が来なければ良いが、現状を考えるとあり得ないとは言い切れない。


「……何よ」

 私を。

 正確には、トレイをじっと見つめるショウ。

 そう言えば、全然手を付けていなかったな。

「私が食べてから。大体、今の話聞いてた?」

「なるようになる。それに俺も、停学や退学は気にしない」

「高校中退じゃ、士官学校に入れないでしょ」

「オンライン授業で卒業すれば良いだけだろ」

 あっさりと返ってくる答え。

 意外に柔軟というか、私よりも色々と考えているようだ。

 ただそれだと、この学校を去るという事が前提になる。

「停学や退学したら、私達としては駄目なんじゃないの。管理案はどうするのよ」

「それには目処を付けてから、だろうな」

「付かないのに、退学したら?つまりは、そういう事じゃない?」

「その時はその時だ」 

 逃げたようにも見えるが、気にし始めたらきりがない。

 それこそ学校の思うつぼだろう。



 結局食事は殆どショウが食べ、私はご飯と漬け物へ口を付けた程度。

 何より今の考えにとらわれて、珍しく食欲へ意識が傾かなかったのもある。

 帰りのHRが終わったところで購買に走り、食べ物を確保して本部にやってくる。

「さっき食べなかったから」

 そう言い訳をして、ハンバーガーを頬張る。

 炭火焼きのハンバーグと焼きたてバンズの組み合わせ。

 加えて、ピクルスの酸味。

 ピクルスが入ってると入ってないとでは大違いで、この酸味と歯応えがたまらない。

「はい」

 視線が飛んでくる前に、フィッシュバーガーをショウへ滑らせる。

 ハンバーガー一つ食べるのにも囮が必要とは泣けてくるな。

「組織図はないの?今の生徒会の」

 机に積まれている書類を漁りながら尋ねてくるヒカル。

 彼は大学院に通っていたので、正確な組織についてはそれ程詳しい訳ではない。

 とはいえ私も、現状の組織については良く分かってない点もある。

「こうかな」

 卓上端末の画面にペンを走らせるモトちゃん。

 その画像が、どこから持ってきたのか知らない大きなモニターへ表示される。



 生徒会長(空位)

 副会長(臨時職・空位)

 総務局長(空位)

 事務局長

 各局局長



「ここからそれぞれの各局が続く。基本的には、中学と大差ないんだけど。今は執行委員会が存在するから」

 生徒会長以下が大きな丸で囲まれ、その横に執行委員会と書き込まれる。

「ここが曖昧というか、意味不明なのよね。選挙で選ばれた訳でもないし、構成員の選出理由も不明。それなのに、生徒会を支配してる。悪い状況としか言いようしかないわ」

「会えないの?その人達に」

 普通に尋ねてくるヒカル。

 何を考えているのかと思ったけど、多分何も考えてないだろうな。

「会えないし、会いに行かないでね」

「分かった。ふーん、執行委員会か。僕は入れない?」

「末端組織もあるから、それは大丈夫かも」

「生徒会で執行委員会で、委員会に末端組織か。みんな、良く混乱しないね」

 感心したように呟くヒカル。


 分かりにくいと言えば分かりにくく、多分私は何が分かってないかも分かってない。

 生徒会が企画で、委員会が実施。

 今は生徒会長の職務を執行委員会が代行し、さらには末端の組織も存在する。

 加えて自警局は、執行委員会が直轄している状態。

 具体的な序列や命令系統はどうなってるのか、所属している人でも迷うんじゃないだろうか。

「ここは、どこに所属してるの?」

「独立系よ」

「格好良いのか、間抜けなのか。微妙だね」

 嫌な事を、はっきり言わないでよね。

「自分こそ、大学院は良いの?」

「論文は来年で、今はお休み。出来るだけ、高校に顔を出すよ」

「修士課程はどうなってたっけ」

「パスしたよ。末は博士か大臣か。夢は膨らむな」

 冗談っぽく言ってるが、修士課程の次は博士課程。

 つまり、彼は正真正銘の博士となる訳か。

「サトミのお兄さんは助教授でしょ。あの人は、将来どうなるのかな。ねえ、サトミ」

「学部長、学長。学会理事長。教育庁の審議官なんて事もあるのかしら。人間性はともかく、出来はいいから」

 相変わらずお兄さんには厳しいな。

 とはいえあの人の行動を見ていると、身内としてはそのくらい言いたくもなるんだろう。

 女性絡みの怨みは両手両足の指どころか、髪の毛の数の分だけあると言うし。



「まあ、いいや。しかし、お呼びも掛からないね」

「丹下さんも、出来れば自分達だけで処理したいんでしょ。私達が厄介者という意味ではなくてね」

「分かるけどさ。暇というか、こうやる事がないのはちょっと」

 私の希望が叶ったのかどうか。

 ドアがノックされ、それと同時に沙紀ちゃんが入ってきた。

「ごめんなさい。悪いんだけど、応援をお願い。銃を持ってるから、それ用の準備をして」

「はい、来た」

 インナーのプロテクターを確認し、レガースとアームガードを装着。

 少し古いが、何もないよりは数段まし。

 ゴム弾くらい、軽く弾くしね。

「状況は?」

「どうも、外部の人間ね。全員銃を持ってて、教棟の玄関を封鎖してる」

「そんな事して、意味あるの?保安部がそれを取り押さえるって自演も、もう飽きたんだけど」

「今回は、自演ではないみたい。支払いがどうとかいってるから、保安部や執行委員会狙いじゃないかしら。もしくは、この学校を徹底的に混乱させようとする傭兵の仕業か」

 やるせない顔をして首を振る沙紀ちゃん。

 悪化する一方の治安。

 それに対して後手に回るしかない彼女の心境は、私にも痛いように分かるつもりだ。

「現場には七尾君達が行ってるから、よろしく。それと気を付けて」

「任せて。何かあれば、連絡する」



 久し振りの出動。

 とはいえ心躍る事もなく、待ち受けているのは銃口の列。

 それでも自分達が求められているのも、また事実。

 今はその事だけに集中しよう。

「この辺りかな」

 角を曲がり、緑に遮られていた視界が広がる。

 通路を埋め尽くす野次馬の群れ。

 この手の騒ぎはもう飽きたと思っていたが、それでも見に来たい人はまだ多いようだ。

「七尾君?……ええ、野次馬の後ろに付いた。……了解。……野次馬の中にも、怪しい奴がいるって」

 そう言われてみれば目付きの鋭い者や、やたらとコートの懐を気にする者がいる。

 玄関の確保は七尾君に任せ、私達は野次馬の対処を受け持つか。

「こっちは私達で。……ええ。……何人かガーディアンを回して、普通の野次馬を下げさせて。……そう、選別はこっちで」

 端末をしまい、スティックを抜いて軽く振る。

 その音で近くにいた野次馬が振り向き、御剣君の構えた警棒に逃げ出していく。

「はい、関係ない人はどいて。そう、左右に分かれて」

 野次馬を小グループに分け、それぞれにガーディアンを付ける。

 連携した動きを防ぐのと、こちらが多数な状況を作り出すため。

 マークしている人間にはガーディアンにサインを送り、特に人数を配置する。

「雪野さん。露骨に怪しいのが」

 小声で話しかけてくる御剣君。

 膝までのトレンチコートと、落ち着きのない視線の動き。

 これで不審者でなければ、間違いなく変質者だ。

「ショウと二人で。ケイとヒカルは、グループ分けをお願い」

「了解」


 警戒されてると気付いたのか、さらに落ち着きを無くす男。

 正面は二人に任せ、私は後ろに回り込む。

 1:3で圧倒的に有利だが、油断は禁物。

 何より他校に乗り込んでる時点で、常軌を逸している。

「コートを脱いで、両手を頭の後ろで組め」

 ゆっくりと距離を詰めていくショウ。

 御剣君がその斜め後ろに付き、警棒を構えながらやはり距離を詰める。

 私も静かに背後から忍び寄り、スティックを腰にためる。

「動くな。声も出すなよ」

 声が符丁か合図と考えたのか、そう指示を出すショウ。

 野次馬の分離は、まだしばらく時間が掛かる。

 この男一人に関わってる暇はないが、ここまで怪しいのも気にはなる。

 注目を集めさせて、他で仕掛けるという気もしなくはないが。

「七尾君、そっちは。……こっちはもう少し。……一人、露骨に怪しいのがいる。……自殺?」

 あまり聞きたくはない、また親しみたくもない単語。

 理由は知らないが、抗議の自殺をほのめかす者がいるらしい。

 この落ち着きの無さ、不審な態度。

 心ここにあらずと言った顔。 

 もしかして、大当たりか。



「死ねよ、勝手に」

 鼻を鳴らし聞こえよがしに言い放つケイ。

 男は大きく体を震わせ、勢いよくコートを脱ぎ放つと大きなサバイバルナイフを喉へ突きつけた。

 私達ではなく、自分の喉元へと。

「ち、近寄るな。近寄ったら、これで喉を突く」

「手間が省けるな、それは。……医療部ですか。……臓器移植提供者が出そうなので。……延命拒否もしてると思いますよ。……はい、それでは」

「な、なんの話だ」

「死ぬ奴には関係ない話さ。ただ、大勢の人から感謝されるとは言っておいてやる」

 人ごとのように言い放ち、グループ分けに戻るケイ。

 男は滝のような汗を顔中から流し、嗚咽のような声を漏らして膝を付いた。

 その際にコートから落ちたペットボトルは無色透明で、少し嫌な予感もする。

 ショウもすぐに意図を悟り、足で蹴ってそれを器用に拾い上げる。

 指で何かを押す仕草。

 火を付けたら燃えるという意味か。


 ただ、取りあえず片付いたには片付いた。

 男が拘束されて連れて行くのを確かめながら、七尾君に改めて連絡を取る。  

「七尾君、こっちは多分大丈夫。・・・、ええすぐに。・・・彼はガーディアンに引き渡して、私達は玄関へ移動。後はお願い」

「了解」

 姿勢を正し敬礼をするガーディアン。

 思わず自分も敬礼をしかけ、それをする意味が無い事に気付く。

 今の自分は一体何なのか。

 考えても分かるはずの無い質問を、刹那の間考える。



 野次馬が消えた事もあり、玄関前にはすぐ到着。

 どうやら建物内に入ってるらしいが、篭城した後をどうするのか考えているとは思えない。 

 外からロックすれば終わりだし、別な玄関なりドアから入っても終わり。

 ケイならそのまま放っておけと言うだろう。

「何がしたい訳?というか、何の意味があるの?」

「俺達は草薙高校に抗議するというデモンストレーションだよ」

「それこそ、ビラまけば」

「この方が目立つし、そそのかれたのかもね。人間、追い詰められれば思考は鈍る」

 冷静に説明し、ヘルメットのシールドに触れる七尾君。

 彼や沢さんは完全装備で、他のガーディアンも同様。

 プロテクターを着けていないのは、山下さんと石井さんか。

「阿川君、何か聞いてないの」

 細長いバトンを振りながら尋ねる石井さん。

 プロテクターの具合を確かめていた阿川君は、至って醒めた顔で彼女を振り返った。

「最近の草薙高校に対する反感は強い。やたらと威張っているし、恐喝や詐欺まがいの行為をやってる者もいる」

 一斉にケイへ集まる視線。

 それには、さすがに彼もむっとする。

「俺は、そういう真似はしてません。学外では」

 じゃあ、学内ではどうなんだ。

 ただ阿川君も彼を追及する事は無く、あくまでも別な人間だと付け加える。

「おそらくは、そういう恨みを持った人間だろう。もしくは金と引き換えに草薙高校に編入出来ると言われたか。最近は編入生が多いから、一定の信憑性も出てくる」

「俺を見られると困るんですけどね。死ぬだの教棟を封鎖だの。それこそ破滅へまっしぐらじゃないですか」

「管理案の実情。いや、実情ではなくその影響という訳だ。俺はそれ程詳しくないが、ろくなものじゃないって分かっただろ」

 素っ気無く告げて、プロテクターの確認に戻る阿川君。

 以前の事を知ってるのは、もう一人は山下さん。

 石井さんは確か、他校にいたはずだ。


 私の視線に気付いたのか、彼女は警棒を肩で担いで私を見返してきた。

「私?私は当時、阿川君と同じで抗争からは遠ざけられてたの。それが先輩達の優しさだったのか冷たさだったかは知らないけど。結果的に学校へは残れたにしろ、その先輩達はもういないのよ」

「北地区の人達、ですか」

「別に、北と南で区別しているつもりはないんだけど。付き合いが長い分、ちょっとね。勿論、南地区の先輩も三島さん以外全滅だし」

 そう考えると、学校と戦うためには停学も退学も当たり前になってくる。

 というか、向こうにその権限がある以上仕方の無い話なんだけど。




 その間に教棟をガーディアンが完全に囲み、内部のシステムも掌握済み。

 以前傭兵が立てこもった時よりはあっさりと事態は収束へと向かう。

「無事に済んで良かった。って事だよ」

 私の顔から何を読み取ったのか、笑い気味に話しかけてくる七尾君。

 混乱を望んでいる訳ではないが、拍子抜けしていたのは確か。 

 これなら、私達の応援も必要なかったんじゃないだろうか。

「私達、意味あった?」

「勿論。雪野さんと玲阿君の名前は、他校にも有名でね。みんなが来たと知らせたら、空気が変わったよ」

「あ、そう」

 人を魔よけか厄除けみたいに使ってさ。

 何も無いのは確かに良い事だけど、それって私達が一番問題って話じゃないの。

「所持していたIDはこれです」

 バンドで閉じたIDカードを持ってくるガーディアン。

 七尾君はそれを手に取り、すぐ石井さんへ手渡した。

「どう思います?」

「興味がないというか、私に聞かれても困るんだけど。第一、襲撃するのにIDを持ち歩くかしら」  

「考えが甘いのか、罠なのか。どうも前者って気がしますけどね、このずさんな手口を見ると」

 これが沢さんや傭兵の言う、平和になれた学校の現状か。

 IDを奪われる危険性やその意味を考慮せず、考えもなしに行動する。

 自分では大それた事をやっていると思うヒーロー的な思考が強く働いているのかもしれない。


「あなたはどう思う訳」

 だるそうに脇腹を押さえていたケイは、石井さんの話を受けてそのIDを手に取った。

「それぞれの学校での対立組織、もしくは勢力が絡んでるのかも。そこと草薙高校の勢力が協力して、この連中を追い出しに掛かったかもしれませんね。勿論推測ですから、単なる馬鹿って事も考えられます」

「草薙高校の誰かが主導権をとって、近隣の学校をまとめているとでも?この学校すら掌握してないのに」

「権力への欲求は、そういうものでしょ。それが金髪グループなのか、執行委員会寄りの連中かは知りませんが」

「嫌な話ね」

 履き捨てるように呟き、IDを受け取る石井さん。

 混乱と無秩序。

 それぞれの欲望と身勝手さが、その混乱に拍車を掛ける。

 私は自分の立場を保っているつもりでも、気付いたらおかしな方向へ流されているのかもしれない。

 しかし回り全体が歪んでいたら、その事に気付くだろうか。

「彼らは全員退学ね。可愛そうだけど」

 言葉の割には、それ程感情を込めない山下さん。

 阿川さんも無表情で、この出来事に心を動かされている様子は無い。

「私達は、前の抗争で取り残されたから。辞めていく人達とも関われず、ただ見ているだけだったのよ。そうやって私達を学校に残そうとしてくれた優しさだとしても、すぐに割り切れる事でもなくて」

「山下さん」

「塩田君や中川さん達は、少なくとも戦った。だけど私達は、何かをした訳じゃない。あなた達をフォローする役割を任されたんだとしても、心情的にはあまりね」

 いつになく語る山下さん。

 その理由は分からないが、誰しも心の中にはわだかまりや傷がある。

 彼女も普段はそれが見えてないだけで、傷一つ無い人生を遅れるなんて事は誰にも出来はしない。


「随分暗いけど、何してるの」

 バトンを担ぎ、ブルゾンとミニスカート姿で現れる土居さん。

 彼女は少なくとも、ここの手伝いに来た訳では無いようだ。

「今頃何よ」

「初めは手伝いに来ようと思ったんだけど、そっちの子達がいるって聞いたから。あたしがでしゃばる場面でもないでしょ」

「随分大物じゃない」

「今気付いた?」

 屈託無い笑い声を出してじゃれ合う、石井さんと土居さん。

 山下さんはおかしそうに笑いながら、その光景を眺めている。

 それぞれの心情と、取るべき行動。

 彼らが託された思い。 

 そして、私には何が託されているんだろうか。




 書類、書類、書類。

 連合が無くなって一番良かったのは、書類を見なくて済むようになった事。

 多少の手伝いはするが、それは基本的にサトミやモトちゃんの仕事。

 私はせいぜい仕分けをするだけで済んでいた。

「現場の詳細な状況を、図解で示せ?」

 卓上端末を引き寄せ、画面にペンを走らせる。

 ある程度は端末の方で補正をしてくれるので、それ程正確に書く必要はない。

 ただ問題は、過ぎた出来事を正確に記憶しているかどうか。

「映像無い?」

「予算縮小の折に付き、カメラ類は全て返却しました」

 無慈悲に告げてくるケイ。

 妙に楽しそうに、かなりの陰険な笑顔を浮かべて。 

 ただそれは私が困っているからという理由だけではなさそうだ。

 仕方なくうろ覚えでそれぞれの位置や動きを書き込み、一旦再生する。

 しかしそうすると、現場に着いた時と現場から引き上げる時の位置が別な教室というくらい違っている。

「止めた。大体、これを誰に出すっていうの」

「自警局に、活動状況の報告とアピールをするために。悪いけど、やり直してね」

 今の図をばっさりと消去し、ペンを差し出してくるモトちゃん。

 機械じゃないんだから、1から100まで完璧には覚えられないっていうの。


 いや、いたな。機械を凌ぐ天才少女が。

「お願い」

「私もはっきりとは覚えてないわよ」

 そういう割には滑らかにペンを滑らせていくサトミ。

 それぞれのポジションや動きは勿論。

 台詞、服装、所持していた武器。

 誰が誰の隣で、連れて行かれる順番まで書き込んでいく。

 どこかにカメラでも仕込まれてるのかな。 

 その図を再生すると、始めのパターンから最後のパターンまで全くおかしい所は現れない。

 仮にこれが彼女の想像だとしても、ここまで全てのつじつまを合わせられるのならそれが真実としか言いようがない。


「どちらにしろ、カメラがないと辛いわね。端末のカメラはどう?」

「代用は出来るけど、画像が粗くてね。僕がこの前もらったカメラは、静止画専用だし」

 そう言って木之本君が机の上に置いたのは、手の平サイズの薄いカメラ。

 今時静止画だけなんて、プロカメラマンしか持ってないんじゃないの。

「お腹痛い」

 言葉通り、お腹を押さえて机に伏せるケイ。

 これは実際の痛みではなく、そこまでおかしいという意味の比喩表現か。

「何が」

「いや、別に。しかしこの学校も、もう末期だな。傭兵を導入して成功した例は無いのに、全く」

「舞地さん達と一緒に行った学校では、上手くいったじゃない」

「言い方が悪かったな。治安維持や事務処理に限定して雇うのなら、別に問題は無い。ただ他の生徒を弾圧する目的で傭兵を導入すれば、ここみたいにボロボロになる。付込まれるって言い換えても良い」

「だから保安部がいるんじゃないの」

「あそこの主力は傭兵。親玉は生真面目だけど、普通じゃない。骨を平気で折るような奴だし」

 辛らつに告げ、書類に目を通していくケイ。

 ある意味、彼にとっては同類か。


 ケイはその束から何枚かを抜き出し、端に赤のペンで再提出と書き込んだ。

「隙を付かれないよう、書き直し」

 反論しようかとも思ったけど、普段よりは真剣な顔をしているので大人しく受け取った。

 しかし書き直すと言っても、自分で読み返す限りは問題ない。

「これの、何が悪いの」

「時間を入れてない」

「だから、覚えてないんだって。カメラがないから、不可能でしょ」

「多分、七尾君の所で誰かがカメラを回してる。それを参考にしてきて」

 やけにカメラにこだわるな。

 何か意味があるのかも知れないが、言ってくれない事には理解しようもない。

 この顔つきを見る限り、ろくでもない話になりそうだけど。 



 仕方なく、書類を持って七尾君のオフィスへとやってくる。

 私一人だと揉めるという理由で、ショウを伴って。

 それが当たってるだけに、余計腹が立つ。

「どうかなさいましたか」

 別段怯える事はなく、丁寧に応対してくれる受付の男の子。

 彼に書類の話をして、誰か担当の人に取り次いでもらうよう頼む。

「承りました。そちらでお待ち下さい」

 応接セットに案内され、待つ事もなく紅茶とお菓子が運ばれてくる。

 ここでは当たり前の事なのか、私個人への待遇なのか。

 それを考える間もなく、担当らしい綺麗な女の子がやってきた。

「お待たせしました。先程の件に関しては、こちらを参照して下さい」

 すでに書き終わっている書類。

 卓上端末。

 DD。

 まずは書類に目を通し、サトミの記憶が一つとして間違ってない事に感心する。


「時間は、正確ですよね」

「ええ。記憶では無く、映像を元にしていますから」

「では、失礼して」

 持ってきていた書類に時間を書き込み、これを頼りに書き直せばいい。

 映像を再生してみると、やはりサトミの記憶通りというか全く同一。

 天才はいるんだと、改めて思い知った。

「このカメラって、借りると高いですか?端末のカメラでも良いんだけど、動くとぶれるし使い勝手がちょっと」

「それ程高くはないと思いますよ。このくらいですね」

「う」

 思わず声を漏らし、端末に表示された数字を睨む。

 多分以前の連合だったら、何の問題もない金額。

 今は、これ一つだけでも身動きが取れなくなる。

 でも、待てよ。

「木之本君が停学になったトラブルの資料ってあります?」

「始めに書かれたレポートがこちらで、その後の調査がこちら。あくまでも、写しですが」

 こういう質問は事前に予想していたのか、すぐに書類がテーブルへと置かれる。

 それへ軽く目を通し、改めて疑問をぶつける。

「この時の映像は?一人くらいは早く着いたガーディアンもいるだろうし、保安部もカメラは回しているでしょう」

「映像は全て保安部が回収していまして。バックアップ分も没収されました」

「そういう事ですか」

 逆を言えば、見られたらまずい何かが映っているという話。

 ただこのレポートがすべて作り物だとしても、映像が無い限りは否定のしようがない。


「証言はどうなんですか?」

「全員口が重くて、駄目みたいですね。それこそ、停学をちらつかされたケースもあるようです」

 苦笑気味に教えてくれる女性。

 なるほどなと思い、再調査のレポートを読んでいく。

 前回のレポートを否定するとまではいかないが、証言が曖昧で信憑性にかけるという結論。

 しかし木之本君の潔白を証明するまでには至らない。

「当時の映像さえあれば、はっきりするんですよね」

「未回収のデータが存在するならの話ですが」

「保安部の映像は見れないんですか?」

「我々も提出を求めてはいますが、撮影に失敗したとの回答です」

 肩をすくめ、お手上げだという顔をする女性。

 どうやら組織的には、完全に保安部へ抑えられているようだ。

「どうも、ありがとうございました。この書類は」

「持っていて頂いて結構です。我々も、この件については調査を続行していますので」



 調査という話を聞いて、そのラウンジへとやってくる。

 手がかりとなるような物は何も無く、大体何が手がかりかすら分かってない。

 それにあれから時間が立ち過ぎて、少なくとも物的証拠はもう存在しないだろう。

「結局、嘘の証言がまかり通ってる訳でしょ」

「誰も、保安部やら執行委員会に睨まれたく無いんだろ。目の前で暴行を目撃して、しかも停学だからな」

 紙コップ片手に、木之本君が倒れていたテーブルの周りを歩くショウ。

 私は少し距離を置き、どの角度からなら見えるかを確かめる。

 テーブルの下だと、斜め横からしか不可能。

 ただ彼が立っていれば、その方向を向いている子であれば視界には入る。

 暴行されたくらいなのでかなりの騒ぎになっただろうし、振り返る子もいただろう。

「実はこうなんですよ。って言ってくれればいいのに」

「やっぱり、目の前でそういう事があるとな。人間誰だって、面倒には巻き込まれたくない」

「一人一人聞いて回ろうか」

「脅されるって思われるぞ。それだと、執行委員会と大差ない」

 思ってた以上に冷静な事を言ってくるショウ。

 そうなると私が突っ走り気味というか、一人で空回りしているようなもの。

 虚しいどころの騒ぎじゃないな。


「あれ、雪野さん」

 小さなカメラを構えてやってきたのは、渡瀬さん。

 その後ろからは、メモを取りながら神代さんも現れる。

「二人も、まだ調べてるの?」

「ええ。沙紀先輩が言うには、こういう調査は参考になるからって」

「別に木之本先輩をダシに使ってる訳じゃなくて、事後調査の重要性って意味だと思うけど」

 それとなくフォローする神代さん。

 見た目は派手だけど、内面は生真面目この上ないからな。

「それはいいんだけどさ。何か分かった?」

「時間が経つにつれて、みんな忘れて行きます」

 一番当たり前な、そして一番の壁か。

 トラブルが起きた直後なら、記憶は鮮明で思い返すのも簡単。

 しかしこれだけ時間が経つと、わざとではなく本当に記憶が薄れていく。

 だからこそ、ビデオでも何でも映像の記録があれば良いんだけど。

「映像の記録も、全くなし?」

「断片的には少しだけ集まってます。遠い席にいた子や、外を通りかかった子が端末のカメラで撮った映像は。揉めてるのは分かるんですが、具体的にどうなのかや声までは拾えてません」

 しかし、それを聞いて少し意外に思う。 

 七尾君の所では全部回収されたと言っていたが、例えわずかで曖昧なものとはいえ映像自体は存在している訳か。

「それ以外は没収されてる?」

「それか、見せてくれません。協力すれば、停学と言われているようです」

「ああ?」

「あたしに怒られてもね」

 もっともな事を言ってくる神代さん。


 それは分かってるけど、そういう脅し方がとにかく気に食わない。

 自分達に反抗的だから処分なら、まだしも分かる。 

 しかし、真実を告げようとして処分するというのはどういう理屈を当てはめようが間違っている。

「一度、保安部に」

「ユウ」

 怖い声を出し、肩を抑えてくるショウ。

 確かにここで突っ込んでいけば向こうの思う壺。

 軽く彼の手に触れて、大丈夫だとの意を告げる。

「それで今までの調査結果は?」

「限りなく冤罪なんですが、やはり証言も映像も無いとなれば。最後の突き飛ばしたというのは?」

「手で払っただけ。それを大げさに、後ろへ飛びのいて勝手に転んだ」

「映像は、無いんですよね」

「何よ。証拠、証拠、証拠って。証拠なんかより、大切なのは」

 一斉に飛んでくる冷め切った視線。

 自分でも分かってるわよ、矛盾してるってのは。

「誰か知ってる人は。って、答える訳無いか」

 勿論大声を張り上げはせず、あくまでもショウや渡瀬さん達に聞こえるくらいの声。

 しかしそれが聞こえたらしいそばのテーブルにいた子達は、顔色を変えてどこかへと逃げていった。



「どういう事よ」

「二人とも有名人ですからね」

「少なくとも俺は、暴れないぞ」

「嘘ばっかり」

 即座に取っ組み合い、ショウの腕をひねって足を払う。

 彼が私を抱きすくめようとしたところで、お互い周りの空気に気付く。

「冗談冗談。アメリカンジョーク」

 適当な事を言って距離を置き、自己嫌悪に陥る。

 私なら間違っても知り合いになりたくないし、近付きたくも無い。




 それ以上ラウンジにいるのはいたたまれなくなったので、沙紀ちゃんのオフィスに立ち寄って映像を見せてもらう。

 状況から見て、私達が到着する前のもの。

 木之本君があの女をかばい、そこに集団で襲い掛かっているように見えなくも無い。

 しかし遠いのと人の背中が邪魔で、そうだと言い切れるだけの映像ではない。

「他のも似たような感じ。これを没収しなかったのは、証拠として不確実だったからね。解釈によっては、木之本君が一方的に怒ってるだけにも見えるから」

 かなり揺れている、ズームの映像。

 沙紀ちゃんの言う通り木之本君が集団に抗議していて、その後ろには女が控えている。

 そういうシーンが数度表れ、彼の姿が消えたと思ったら野次馬が騒ぎ出した。

「証言は取れないし、所属している部や各局、委員会から相当締め付けられているみたい」

「先に手を出したのは向こうで、木之本君は女をかばっただけなんでしょ」

「それを主張するのは、木之本君だけなの。他は見てないとか、知らないとか、良く分からないって」

「この女も、何も言わない?」

「その件に関しては、一切語らない。傭兵の契約なのか、口を開くと彼女の場合は退学なのかしら」

「あーっ」

 ストレスがピークに達し、思わず叫ぶ。


 それに驚いたのは、沙紀ちゃんと神代さん。 

 ショウはまたかという顔で、渡瀬さんに至っては聞こえないという顔でお菓子を食べている。

「雪野先輩、一応他の人もいるから」 

 受付を行き来する人達を気にしながら、私をたしなめてくる神代さん。

 悪かったな、至らなくて恥知らずな先輩で。

「保安部の映像は見られないの?無い訳は無いんだからさ」

「今は立場も権限も、向こうが上。自警局を保安部が抑えている以上、私達にはどうとも」

 お手上げといった具合に手を上げる沙紀ちゃん。

 しかし彼女は、それでも渡瀬さん達に調査を続けさせている。

 それが彼女達の勉強のため。

 そして木之本君を思っての事のはず。

 私がここで諦めては、彼女達にも申し訳ない。


「サトミが言うには、査問会みたいのを開くって。そこで、この前の中学生がどうって話を含めて追求するらしいよ」

「逆にそこで相手に証拠を出させるしかないわね。公開の吊るし上げにならなければ良いけど。神代さん、何か聞いてる?」

「木之本先輩だけではなく、素行不良の生徒を対象にしてやはり公開で行うとか。一応、公平に申し開きの機会を与えるとは言ってましたが」

「それ、誰から聞いた?」

「小谷。あいつは矢田局長からだと思う」

 局長か。

 会いたくはないし、向こうも多分同じ気分だと思う。

 しかし今は、好きだ嫌いだと言ってられる場面ではない。

「ちょっと行ってくる」

「いや、あの。急には無理なんじゃ」

「初めから諦めてどうするのよ。大切なのは気持でしょ」



 世の中、気持だけではどうにもならない事もある。

 そんな事に、今更気付いた16の冬。

 なんてふざけている場合ではなく、自警局のブースで待たされる事しばし。

 かなり笑いながら、小谷君がやってきた。

「笑い事じゃないでしょ。私は真剣なの」

「済みません。どうも矢田さんが、相当警戒してしまいまして。何人か同席するのなら、面談は可能です」

「それは構わない。木之本君の事について、色々聞きたいだけだから」

「では。一応、所持品の確認を。申し訳ありませんが、武器は預からせてもらいますよ」

 これは小谷君の意思ではなく、矢田君もしくは同席する人間の考えか。

 今までの経緯を考えば致し方なく、ただし武器といってもスティックだけ。

 ショウに至っては、グローブしか持ってない。

「そのスティックは大切な物だから、小谷君が持っていて」

「分かりました。ただ雪野さんのだと知れば、誰も近付きませんよ」

 ますます魔除け決定だな。

 もしくは私自身が、魔という訳か。


 さすがにここで暴れる訳にも行かず、表面上は落ち着いて小谷君の後に付いていく。

 色々揉めながらも、結局自警局へ来る機会は多い。

 ただし、こうした中枢部に来るのは久し振り。

 いや。この前殴り込んだ時以来か。

「別に、局長室じゃなくても良いんだけど」

「矢田さんが、是非と言ってまして」

「私達が暴れるって言いたいの?」

「矢田さんは、そう思ってるかも知れませんね」

 幾つものドアを警備をパスし、奥へと進んでいく私達。

 ここなら暴れてもすぐに拘束される。

 もしくは、最低限の安全は確保出来る。

 少なくとも、そういう気にはなる。



「局長に面会の方です」

 自分のIDを差し出す小谷君。

 ドアを警備していたガーディアンは、それを専用の端末に通して軽く頷いた。

「室内と改めて確認を取りますので」

「警戒しすぎじゃないの」

「き、規則ですから」

 声を震わせ、端末で通話を始めるガーディアン。

 脅したつもりはないが、余程私達に悪い印象を抱いているようだ。

「確認取れました。中へどうぞ」

 ゆっくりとスライドする、とてつもない厚さのドア。 

 戦争中の名残と聞いているがこの厚さを見る限りその噂は間違いないだろう。

 でもって再び現れるドア。

 そこもガーディアンが警備していて、今と同じ事を繰り返す。



 やっと執務室へと辿り着き、揃っているメンバーを確認する。

 矢田局長、小谷君。

 同席というのは、保安部の責任者である前島君だけ。

 これはやや意外だった。

「お久し振りです」

 机を回り込み、私達に挨拶をしてくる局長。

 表情にゆとりはあまり無くて、若干警戒気味に見える。

 彼に会う気はもう無かったし、出来ればもう会いたくも無かった。

 だけど自分自身の感情よりも優先される事がある。

 今が、その時という訳だ。

「木之本君の件について聞きたい。彼が拘束された時の映像を見せて」

「守秘義務がありますので、部外者には公開していません」

「映像自体はあるのね」

 それとなく視線を交わす、局長と前島君。

 今まで聞いた話では、映像は存在しないか映ってないという話。

 ただそれは誰にでも分かる嘘である。

「停学までさせておいて、守秘義務も何も無いでしょ。それとも、証言だけで停学にさせたの?」

「彼の行動、言動を考慮してです。それに停学を判断したのは学校で、僕達ではありません」

「前島君の考えは」

「彼に隙があった。としか言いようが無いですね」

 冷たい、突き放すような言葉。

 今まで親しく話しをしてきた彼とはまた違う、組織の長としての顔。

 ただこちらとしても、その方がやりやすい。

「その隙に付込んだんでしょ。隙の無い人間はいないし、それを利用する方がおかしいじゃない」

「言い方が悪かったかな。彼は自分の行為が、停学につながると理解していた。それでも、彼は行動した。つまり、停学になった訳です」

「人を利用して、何が楽しいの。木之本君はあの女をかばってるだけでしょ。それの、何が悪いって言うの」

「美徳は美徳ですよ。ただ、損をする生き方だと思います。だから、こういう事になった」

 あくまでも冷たい前島君。

 局長は黙ってその話を聞いているだけで、フォローもしなければ訂正もしない。


「ちょっと待って。この場合、どっちが偉いの」

「難しいところを聞きますね。一応は矢田君が俺より上ですよ。保安部の現場責任者という立場ですからね、俺は。一方矢田君は、執行委員会の正規構成員。俺を指導する立場にもあります」

「あなたは、ガーディアンに命令する権限もあるの?」

「当然。保安部が自警局を指導する立場にあるので。保安部という名前もどうかと思うので、いずれ自警局内のポジションに関係者を滑り込ませるつもりではいます。その方が分かりやすいでしょう」

 そうして同化していけば反感も減り、生徒も慣れ始める。

 彼らという存在にも、今の抑圧されつつある状況にも。

「分かった。とにかく、木之本君の件は絶対に譲らない。映像があろうと無かろうと、彼は絶対に悪くない」

「それは雪野さんの考えでしょう。現在の学校は、反抗的な生徒に対しては厳重に処罰するよう規則が変わっています」

「学校が間違っていて、それに抗議するのが反抗的なの?だったら私は、それで良いわよ。自警局は、いつから学校の手先になった訳」

「その反抗が治安を乱すようであれば、自警局としては行動するしかありません」

 強く言い返してくる局長。

 彼の立場としては当然の答えであり、それは間違っていないだろう。

 学校、組織、規則という面から見ても。



 だけど私の心の中では、それを正しいとは言っていない。

 そんな自分を偽ってまで学校に従い頭を下げる事に、一体どんな意味があるというのだろうか。

「査問会をやるらしいけど、その時会いましょ。映像があろうと無かろうと、私達は木之本君を守る」

「あくまでも意見を聞くだけです。それに、吊るし上げの場ではありません」

「木之本君の処分はもう済んでるのに?」

「それは執行委員会としての決定ですから。公開討論会は」

 なんとなく言葉を濁す局長。

 つまり彼の考えや関与は無いという訳か。

 ただそれを知りうる立場にありながら、止めない時点で同罪だとも思う。

「もういい。話は終わった」

「雪野さん」

「私は木之本君は悪くないと言いたかっただけ。それと、映像が無いならもう用は無い。あなたの立場は分かったし、それは色んな意味で正しいのかも知れない。でも私には出来ないし、したくもない。それなら、処分を受けた方がよっぽどましだから」




 一方的に言って、執務室を後にする。

 行きもそうだが、帰りも警備とドアが延々と続く。

 しかし装備や錬度はともかく、これだけの人数では本気で攻められればひとたまりも無い気がする。

 攻める人間がいればの話で、ここを占拠する理由も必要だが。

「来るんじゃなかったな」

 そう呟き、ショウを見上げる。

 彼は少しだけ笑い、軽く私の肩へと触れた。

「殴りこむよりは一歩前進じゃないのか」

「まあね。矢田君の立場も分かるけど、学校の言いなりになっても仕方ないでしょ。特に、今は」

「本当は、ああいう生き方がいいのかもな。木之本みたいな生き方じゃなくて」

 なにやら人事のように話してきた。

 自分達が似た者同士。

 損をする生き方をしているって分かってるのかな。

 勿論それが彼の良さであり、多くの人に慕われる理由。

 私が彼を好きな理由でもあるが。


「はは」

「何だよ」

「いや、別に」 

 それでも彼を何度か叩き、湧き上がった感情を発散させる。

 ショウはまたかという顔で、私に腕を叩かれっぱなし。

 怒る訳でも逃げる訳でもなく。

 まるで彼の優しさが、この腕から伝わってくると思えるくらい。

 何も言わず、黙って耐える彼。

 私だけに許された行為。

 これを彼は、迷惑と感じているだろうか。

 それとも、嬉しく思ってくれているだろうか。






  







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