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スクールガーディアンズ  作者: 雪野
第31話
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     31-5




 帰りのHRが終わった途端、再び人が集まってきた。

 今度はクラスメートだけではなく、別なクラスの子。 

 多分1年生や3年生も混じっているだろう。

 放っておけば教室中が埋め尽くされそうな勢いで、このままではサトミの苛立ちが私へ向く日も遠くは無い。   

「どうにかしてよ」

「こんな楽しい事を?」

 げらげらと笑い出さんばかりのケイ。

 人ごみに揉まれててんてこ舞いのサトミを見てるのは確かに楽しいかもしれない。

 その先に、地獄の釜が待っていると知らなければ。

「いいから、ほら」

「仕方ないな。えーと、木之本君に関する情報は今後端末に随時配信されます。個別での面談は、今からお伝えする場所で行います。時間は基本的に放課後。担当は遠野聡美、元野智美、真田。き」

 何かを言いかけ、自分で笑うケイ。

 「き」の後に続くのは間違いなく、「のもと」だったはず。

「という訳です。アドレス配信希望の方は、この書類に名前を書き込んで下さい」

 白紙を机の上に置き、そこから逃げ出すケイ。

 殺到とは行かないが、すぐに行列が出来白紙に文字が埋まっていく。

「それで、どうするの」

「俺が知りたいね」

「何、それ。大体こうなったのは、あの女が。……あの女はどこよ」

 今更ながら、肝心の部分を忘れてた。

 こんな事をしてる場合じゃないな。


「どこ、あの女はどこにいるの」

「それが分かれば苦労しないでしょ」

 スティックを抜いた私に、乱れていた髪を整えながら話しかけてくるサトミ。

 それは至極もっともで、大体ここでスティックを抜いても意味は無い。

「傭兵なのかな」

「そう考えるのが妥当だろうけど。写真は?」

「私は持ってないよ」

 自然とケイに集まる視線。

 彼は鼻を鳴らし、端末を取り出して画面をこちらへ向けてきた。

「名前は偽名。データベースに、同一の人物無し。顔写真から照合したけど、多分データをいじられてるな」

「だったら、簡単じゃない。改竄されたところから辿れば」

 何が簡単なのか分からないが、顔写真を転送して一人頷くサトミ。

 そっちは任すとして、私は地味に聞き込むか。

「ショウ行こう」

「どこに」

「この女の所に決まってるじゃない」

「だから、それはどこなんだ」

 随分理屈っぽい事を言ってくるな。

 もしくは、非常に正論を。




 それでも一応場所を絞り、ラウンジ。

 木之本君が停学になるきっかけとなった場所へとやってくる。 

 独特の喧騒と大勢の人の熱気。

 ただ昨日のように上滑りな感じではなく、彼らが自然にこの状況を楽しんでいるのだというのは理解出来る。

「あ、こんにちは」

「渡瀬さん。どうしたの」

「沙紀先輩が、ここを見て来いって。木之本さんの事で、何か分かるかもしれないって」

「それで?」

「これといった情報は特に。写真でもあれば、まだ」

 印籠よろしく、端末を彼女の顔へ差し向ける。

 彼女も自分の端末を近づけ、二人して端末を掲げてにこりと笑う。

「何してるんだ」

 という、冷静な突っ込みはこの際気にしない。

 分かってるのよ、自分達だって。

「そういえば、木之本さんと一緒にいるのを最近見かけましたね。これなら、すぐに分かるのかも」

「それが、データベースにも無いらしいよ。逃げたのかな」

「私なら、間違いなく」

 私を見ながら言われると、ちょっと困るんだけどね。

「渡瀬さんだけ?探してるのは」

「ナオも一緒です。あ、来た来た」

 私達を見つけて近付いてきた神代さんへ両手を振る渡瀬さん。

 彼女はそういう真似はせず、会釈する事でそれに代えた。

「雪野さん達も?」

「まあね。でも、肝心の女がいなくてさ」

「今年に入ってからの目撃情報しかないので、傭兵なんでしょうか」

「だと思うけどね。傭兵だと、沢さん。舞地さん。小坂さんか。クラブハウスへ行こう」



 旧クラブハウスに来るのは、今年初めて。 

 いや。追い出されてからは初めてかもしれない。

 その前に立ち寄るには事前の許可が必要で、まずは自警局へとやってくる。  

「な、何か御用ですか」

 まずは特別教棟の入り口で止められる。

「自警局へ行きたいんですけど」

「アポイントは」

「取ってません」

「少々お待ちを」

 追い払われる事は無いが、必要以上に警戒をされている。

 もしかして、殴りこみに来たと思われてるんじゃないだろうな。

「お待たせしました。今、ご案内しますので」

「場所は分かってるけど」

「いえ。そうは参りません」

 こっちが参るよ。


 周りを完全武装のガーディアンに囲まれ、廊下を連行されていく。

 案内というのは勿論名目で、私達の監視なのは間違いない。

「こちらへどうぞ」

 前にいたガーディアンが移動し、目の前に自警局の受付が現れる。

 受付の女の子は顔が引きつり気味で、その左右にはやはり完全武装のガーディアンが立っている。

「ご用件は」

「旧クラブハウスに行きたいんですけど。許可が必要との事なので」

「で、ではこちらの書類に記入して下さい。それと保証人をお願いします」

 借金の申込書じゃないだろうな。

 まさかと思いつつ書類をまじまじと眺め、裏をめくって指でなぞる。 

 怪しい部分は特に無く、というかあっても気付かない。

「保証人って?」

「生徒会関係者か、学校職員をお願いします」

「ガーディアンは?」

「出来れば、生徒会の正構成員で」

「何よ、それ」

 こんなところで行き詰るとは思わなかった。

 というか、当ても無い行動でどうにかここまで辿り着いたというべきか。

「本人じゃないと駄目?」

「出来れば」

「あ、そう」

 天満さんや中川さんなら了承してくれるだろうが、ここまで呼び出すのはあまりにも気が引ける。

 いや。小谷君がいたか。

「小谷君を……」

「何してるの」

 バインダーを抱え、颯爽と現れたのは北川さん。

 そういえばこの人は、自警課課長だったな。

「サインサイン」

「何一つ分からないんだけど。渡瀬さん、どういう事?」

「旧クラブハウスへ立ち入る許可に、保証人の名義が必要なんですって。北川さんのサインを是非」

 私に代わって簡潔に説明してくれる渡瀬さん。 

 北川さんは書類を受け取り、一通り目を通してサインを書き入れた。

「これでいいのかしら」

「へへ、どうも。で、これは誰が許可するの」

「局長か保安部ね。いいわ、私の方から話はしておくから。ただし」

「大丈夫。暴れる訳じゃなくて、話を聞きに行くだけだから」

 しかし北川さんは不安げに私と、そして渡瀬さんへと交互に視線を向けてきた。

「渡瀬さん。あなたも自重するのよ」

「分かってます。私だって、いつまでも子供じゃないですから」

 朗らかな、明るすぎる程の笑顔を見せてくれる渡瀬さん。

 でもって北川さんは、なんとも危ぶむような顔で彼女に昔の失敗を説明してる。 

 なんか、自分を客観的に見ているようで身につまされる。

「神代さん、二人の事お願いね」

「はあ。あたしでは、どうにもならないと思うけど」

「あなただけが頼りなのよ」

 悪かったな、頼りにならなくて。 



 多少むくれつつ、廃材通りを抜けて旧クラブハウスへとやってくる。 

 今考えるとここを拠点にするのは、距離的な面からいってかなりの無理がある。

 独立というか干渉はされないけれど、逆にいえばこちらから一般教棟へ影響力を及ぼす事も難しい。

「ここの廃材をなんとかしたかったな」

「生徒会長選挙に出て、公約にしたらどうですか」

 笑いながら提案する渡瀬さん。

 しかし自分がそういう柄でもないのは分かってる。

 現場指揮はともかく、全体を把握して統括するなんてやりたくてもやりようが無い。

 第一得票数が、身内の一桁だけなんて可能性もあるんだし。


 廃材の山を抜け、ようやく旧クラブハウスへと辿り着く。

 建物自体は古いが、以前のような寂れた雰囲気は感じられない。

 どうやら、あの後も手入れはしてくれていたようだ。

「こんにちは」

 玄関の辺りにたむろしていた男女に声を掛ける。

 向こうは怪訝そうにこっちを振り返り、慌てた様子で後ずさった。

「掃除じゃなくて、小坂さんに会いたいんだけど」

「上。上にいる」

 明らかに、必要以上には関わりたくないという態度。

 人を毛虫か何かと勘違いしてるんじゃないだろうな。


「ああいう態度はどうかと思うよ」

 エレベーターはやはり怖いので、階段を上りながら愚痴を言う。 

 しかし毎日これを上り下りする必要もあったので、ここの放棄は正解なんだろうか。

「そんなに掃除が嫌だったのかな」

「俺達は部外者だからな」

「部外者って。同じ学校の生徒じゃない」

「雪野さんは大物ですね」

 くすくすと笑う渡瀬さん。

 そんなすごい事言ったかな、私。

「ちょ、ちょっと待った」  

 別に、私が大物である事に異議を唱えた訳ではない。

 後ろの方で踊り場一つ分遅れていた神代さんが、とうとう足を止めてへたり込んだらしい。

「大丈夫」

 階段を下りて、しゃがみ込んだまま動こうとしない神代さんに声を掛ける。

 彼女は膝の上にある顔を縦へと動かし、とりあえずは大丈夫だと告げてきた。

 私も体力は無いが、この階段程度なら問題は無い。

 これが2往復、3往復となれば話は違ってくるが。

 つまりその部分を突かれたら、こっちは逃げ出すか頭を下げる以外に道は無い。

「玲阿さんにおんぶしてもらえば」

「そこまで、じゃない」

 途切れ途切れに答える神代さん。

 実際それは最後の手段で、そこまで追い詰められてる訳ではない。

 何より、彼の背中を譲るというのが楽しくない。


 神代さんの回復を待ち、再び階段を上ってどうにか最上階まで辿り着く。

 廊下は掃除が行き届き、ロビーには花も活けられている。 

 壁全体にはめ込まれたガラスは磨きこまれて、そこには何も無いような錯覚すら覚えてくる。

「来たか」

 下から連絡は受けていたのか、笑顔で出迎えてくれる小坂さん。

 私は神代さんをソファーへ座らせ、例の女の顔写真を彼へと見せた。

「彼女について、何か知りませんか」

「傭兵全員を把握してる訳じゃない。それと、ここには出入りしていない顔だ」

「じゃあ、どうすれば」

「最近、正門で制服の着用を呼びかけてる連中がいるだろ。あの中に、情報専門の傭兵がいる。そっちを当たった方が確実だ」

「え」

 思わず声を漏らす神代さん。 

 今一番愚痴りたいのは、私以上に彼女だろうな。

「よう。ご苦労だな」

 小坂さんの後ろから不意に現れる塩田さん。 

 ただ若干の気配は感じていて、もしかしてどこかに隠れているのではとは思っていた。 

 前にも言われたように、どうやらかなり勘が鋭くなっているようだ。

「塩田さんは許可をもらったんですか」

「何だ、許可って」

 とぼけてる様子は無く、本当に知らないという顔

 まあ、忍者に許可も手形も必要ないか。

「そっちのへたってるのはどうした」

「運動不足みたいです。神代さん、戻るよ」

「今行く」

 返事はあるが動きはしない。

 どうやら、少しの間は無理みたいだ。

「じゃあ、その情報専門の傭兵はどこにいるんですか」

「連中は繁華街を好むが、具体的にどこという訳じゃない」

「いや。その具体的な場所を知りたいんですけど。……まさか、その情報料が必要って言うんですか」

「誰がそんな事を言った」

 さすがにむっとする小坂さん。

 塩田さんはお腹を抱えて笑い、私の顔を指差した。

「お前も、傭兵に知り合いはいるだろ。それに聞いてみろ」

「傭兵って言うと。舞地さん達ですか?」

「あの笑う女。あいつなら知ってるんじゃないのか」


 池上さんに端末で連絡を取り、彼女達の居場所を教えてもらう。

 どうやら遠出する必要はなく、まだ学内にいるとの事。 

 結局情報料は、池上さんに支払うというオチが付いた。

 コンビニのデザート一つだけどね。

「いや、待てよ」

 体育館へ向かう通路を歩いている途中で足を止め、俯いて付いてきた神代さんと接触する。

 そのまま歩き出した彼女を渡瀬さんに任せ、ショウに屈むよう手で招く。

「あのさ。お金ある?」

「情報料って事か。俺は全然」

 端末に表示される、カードの残金。 

 食事をすればなくなってしまうくらいの額。

 ポケットから出てきたのも小銭ばかり。 

 実家は裕福なのに、生活事態は慎ましいんだよね。  

 しかしこうなると、困ったな。

 渡瀬さん達に立て替えてもらう訳にもいかないし、借りるにしろそれ程手持ちも無いだろう。



 金策も思い付かないまま体育館内へ入り、バトミントン部の横を通り抜けて建物の隅へと向かう。

 なんか、シャトルが飛んできて危ないな。

「いたいた」 

 振り上げられた足が頭上で交差し、即座に体が離れて再びお互いが距離を詰める。 

 ハイからスイッチした、強烈な振り下ろしのミドルキック。

 その足を掴み、自分も体をひねりつつ相手を投げる。 

 床にマットは敷かれていなく、フローリングの固い板。

 しかし激突をする前に、その体は優しく床の上へと添え置かれる。

「何してるの」

「データが欲しいって言うから」

 床に転がったままニコニコ笑う柳君。

 彼の足を掴んだままの名雲さんは、少し距離を置いたところでカメラを構えている二人組みを指差した。 

 三村さん達か。

 どうやら、親玉がお出ましになったようだ。

「丁度良かった。情報が欲しいんだけど」

「毎度ありがとうございます。料金表はこちらになってますが」

 端末に転送されてくる、依頼内容とその対価。

 個人の特定は下の方に位置するが、決して安い額でもない。

「払えないんだけど」

「では、ご縁が無かったという事で」

 笑顔は綺麗だけど、言ってる事は身を切るように冷たいな。

 本当、何もかも貧しさのせいじゃないの。


「雪野さん、何か調べてるの?」

「木之本君にまとわり付いてた女がいたでしょ。あれを調べようと思って」

「暇だな、お前らも。大体あれって、木之本が油断」

 私のハイと、渡瀬さんのミドル。 

 神代さんは警棒腰にため、今にも突進しそうな体勢を取る。

「落ち着け。話せば分かる、話せば」

「じゃあ、ここの支払いお願いします」

「ああ?お前、何を」

「ショウ、財布取り上げて」

「おう」

 素早い動きで名雲さんの背後に回り込み、首に腕を回してポケットを探るショウ。

 彼は激しく抵抗するけど、やがて動きが鈍くなってそのまま床へと崩れ去った。

「ひどいね」 

 そう言う割には止めもせず、名雲さんの頬をつつく柳君。

 その間に私は財布からカードを何枚か取り出し、一枚を三村さんへと渡した。

「支払いは、これで」

「承りました」

「何を承ったんだ。俺への支払いも忘れるな」

「では、それと相殺で」

「額が合わないだろ」

「言ってる意味が分かりません」

 結構怖いな、この人。

 面白いけどさ。


「顔写真以外に情報があると、より精度は高まりますが」

「ちょっと待って。……サトミ?……今、三村さんに……。……分かった、お願い。私の端末経由で、データを送るって。学内のデータベースに進入した際の情報らしいよ」

「では」 

 キーボードつきの小さな端末を操作し始める三村さん。

 吉家さんは相変わらずカメラを回し、私達にもそれを向けてくる。

「お金もらうよ」

「ほら」

 差し出される板チョコ一枚。 

 随分舐められた話だな。

 でもって、美味しいな。

「雪野さん」

「ああ、ごめん」

 半分に割ってそれを渡瀬さんへと渡す。

 彼女は「そうじゃないんだけどな」と言いつつ、神代さんと仲良く食べだした。

「上げる」

 残りは全部渡し、カメラのフレームから逃げていく。

 知り合いならともかく、自分の姿を他人へ配信する趣味無いので。

「心配しなくても、これはプライベート用よ。普遍的な特徴や癖を見てるだけだから」

「何のために」

「嘘や動揺を見抜いたり、精神状態を見極めるために」

 かなり特殊なアプローチであり、テクニック。

 モトちゃんも多分同じような事をやっているんだろうけど、彼女はあくまでも無意識で。

 技法とはまた違う。

「それと、今の居場所を知りたいんだけど」

「別料金になってますが」

 営業口調になる三村さん。

 仕方ないので、名雲さんのカードをもう一枚渡す。

「確かに。今後、定期的に居場所をお知らせる事も可能ですが。勿論、別料金で」

「それは保留」

「承りました」

 なんとも愛想の良い営業スマイル。

 でもってそれと反比例して、名雲さんの機嫌が悪くなっていく。

「ちゃんと後で返しますから」

「金持ってるのか」

「俺は全然」

 明るく、明るすぎるくらいに笑い飛ばすショウ。 

 彼の場合はスティックの支払いに相当自分のお金をつぎ込んでいるので、本当ならもっと裕福でもおかしくは無い。

 言ってみれば、私のせいで苦しい生活をしている訳だ。

 でもその事で文句は言わないし、つい最近まで彼が一人で払っているとすら知らなかった。

 木之本君といいショウといい、世の中にはこういう人もいるようだ。


「お金は、ケイからでも取り立てて下さい」

「浦田君もお金ないよ」

「百姓とゴマは、搾るだけ出てくるんでしょ。ケイも、なんか出てくるんじゃないの」

「悪い何かが染み出してくるんじゃない」

 くすくすと笑い、そう付け足す神代さん。 

 何がかは知らないが、ろくでもない物なのは確かだろう。

「検索完了。データは?」

「サトミへ全部送って。私は、居場所だけ分かればいいから」

「了解。学内にいるわね。映像、見る?」

「監視カメラにハッキングしてるの?大丈夫?」

「そのくらいは別に。この学校は内部のセキュリティは厳しいけど、外部からには甘いみたいね」

 サトミが聞いたら小躍りしそうな話だな。 

 いや。あの子はそんな事とっくに知ってて、いつも外部から経由して悪事を働いてるのかもしれない。

「場所は?」

「特別教棟・3F。スーツ姿が多いから、職員かしら」

「そっちの特別教棟か。困ったな」

 生徒会の方なら、多少の無理は通る。

 しかし教職員の方は、警備は外部委託。

 武装の度合いも、ガーディアンとは本質的に違う。

 高出力のスタンガンや、大型のゴム弾が発射出来る銃も持っているはずだ。

 また立ち入りには、旧クラブハウスではないが許可がいる。

「いいや。それはコネを使ってみる」

「そんなのあるのか」

「あると思うよ、多分。渡瀬さん達は、ここでいいよ。ショウ、行こう」




 特別教棟前。

 周囲に鋭い視線を飛ばす警備員。

 玄関前に設置されたカメラは通りかかる人間を捉え、その後をトレースする。

 その付近にはセンサーも配備され、許可のない者が侵入するのを完全に防ぐ。

「私も、忙しいんだけど」

「そこはそれ。1月中はお正月という事で」

「全く意味が分からないわ」

 呆れ気味に、それでも玄関前まで来てくれる村井先生。

 こういうときに頼れるのは、やはり恩師だな。

 などと、都合良く解釈する。

「まさか、殴り込む気じゃないでしょうね」

「大丈夫。人捜しですから」

「そう。私は用事があるからついて行けないけど」

 なんか結構心配性だな。

 それとも、私がそこまで問題児だと思われてるのかな。


 やいやいうるさい村井先生から離れ、特別教棟内を歩いていく。

 歩くは良いが、どこへ歩く。

「おい」

 即座に私の不安を見抜くショウ。

 とりあえず足を止め、頼りになる物が無いか確かめる。

 目に入ったのは、壁に設置されている非常ボタン。

 「緊急の際は、このボタンを押して下さい」

 あんまり役に立たないな。

 というか、役に立って欲しくない。

「居場所を改めて聞くのは、別料金か」

「外へ出た可能性は?」

「私達が探してるのは分かってるんだから、そうなら事前に教えてくれてるはずだと思う」

 これは三村さん達への信頼と同時に、傭兵としての信頼問題。

 彼女達は情報を提供し、私は対価を払う。

 それが不誠実ならば、彼女達は存在意義が問われるのだから。

 精度に関しては、絶対的な自信と誇りを持っているはずだ。

「でも、ここに何の用なんだ」

「それだよね」

 理事会が管理案を推進していて、また傭兵を雇っている以上彼等との関わり合いは当然ある。

 ただ目に付くここへ呼び寄せる必要はなく、そこまでの大物とも思えない。


「立ち入れない場所が多すぎるんだよね。……あ、丁度良いところに」

「何かな」

 苦笑しつつ、私達へと近付いてくる天崎さん。

 私達も会釈をして、簡単な経緯を説明した。

「生徒が立ち入れる場所は少ないからね。逆に、そういう場所にいたらかなり目立つ」

「どこに」

 いや。天崎さんに聞いても仕方ないか。

「智美は?」

「責任者なので、本部に控えてます」

「大丈夫なのかな」

 ここはさすがに、父親の顔をする天崎さん。

 そうなると、私は何をしてるのかという話になってくるが。

「……いたぞ」

「どこ」

 咄嗟にショウの後ろへ隠れ、その無意味さにすぐ気付く。

 彼が指さす、通路の先。

 茶髪をなびかせる彼女の後ろ姿が、私の目にもはっきり見えた。

 どうやら、小太りの中年男性に付き従っているようだ。

「あれ、誰ですか」 

 どうも嫌な構図に、声を低めて尋ねる。

 天崎さんは小首を傾げ、側を通りかかった職員へ声を掛けた。

「あの人は」

「教務課の主任です。端末にデータをお送りしますね」

「ありがとう」

 去っていく職員へ礼を告げ、そのデータを見せてくる天崎さん。

 小太りの、どこにでもいそうなタイプ。

 ただ仕事中の割には足取りが軽く、浮かれ気味の顔。

 逆に女の方は沈みがち。

 非常に嫌な気がして仕方ない。

「付けるわよ」



 人気のない廊下。

 職員の用事が無い場所ではなく、それなりの権限が無ければ立ち入れないエリアという意味での。

 他のエリアに比べて通路が広く、壁も床も手入れが行き届いている。

「ここは?」

「中部庁のエリアだよ」

 壁から顔を覗かせている私に、そっと教えてくれる天崎さん。

 私がここへ立ち入れるのも彼の権限である。

「何するつもりなんだ」

 私の上で顔を覗かせながら、のんきな事を言っているショウ。

 言ってみれば彼には縁の無い話で、思いもつかない事だろう。

「おい」

 ショウが低い声を出し、私も背中からスティックを抜く。

 男が女の腕を掴み、部屋へ引き込もうとする光景を見て。

「そういう事か」

「そういう事よ」

 後は迷わず、二人同時に通路へ飛び出す。

 彼女のやった事。

 木之本君の事を考えれば、このまま見過ごしても良いと思うくらい。

 でも、そうは出来ないのも分かっている。 

 これはまた、自分が女だから来る怒りもあるだろう。



「な」

 ショウが下から足を振り上げ男の手をはね除け、私は女の子の肩を強引に掴んで後ろに下げさせる。

 彼女を後ろにかばい、腰を落としてスティックを構える。

「だ、誰だお前らは」

「誰だって良いだろ」

 スーツの襟を掴み、そのまま持ち上げるショウ。

 彼は男を壁に叩き付け、跳ね返ってきた所で床に蹴り落とした。

「お、お前ら、こんな事をしてただで済むと思ってるのか」

「どうするつもりだ」

「どうせこの学校の生徒だろ。私が一言言えば、お前なんか退学に」

 消える右足。

 それは男の額をかすめ、髪の毛を散らして頭上にかかとが突きつけられた。

「言いたい事は、それだけか」

「な」

「その辺で。後は、私の方で処理しておこう」

 息を荒くするショウの肩に手を掛け、後ろに下げさせる天崎さん。

 彼が何者かは分かっているらしく、男は青い顔を真っ白にさせた。

「今回の件。及び、同様の例がないか調査するからそのつもりで」

「い、いや。私はただ、最近の学校の情勢について彼女と」

「君の職務は、企業との折衝だろ。それと、壁の修理費も出しておくように」

 なんだ。それなら私も、床に穴の一つくらい開けておけば良かったな。

 それとも、今から空けてやろうかな。

「空けなくていいからね」

「そうですか」

 スティックを構えたところで制止される。 

 ただ男は脂汗を流してるので、胃には開いたかもしれない。



 男の方は天崎さんに任せ、私とショウで女を連れて本部へと向かう。

 向かおうとして、足を止める。

「本部って、どこ」

「そう言えば、聞いてなかったな」

 端末を取り出し、モトちゃんに連絡を取るショウ。

 私は女の腕を掴み、逃げないように監視する。

 体格では向こうの方が上だが、体術に優れているようには見えないし逃げられても追いつくだけの自信はある。

「G棟。生徒会ガーディアンズの隣」

「そんな場所、良いの?」

「資料室らしい。親切だよな、結局は」

 人の良い表情を浮かべるショウ。

 何とものんきというか、間が抜けているというか。

 そこに収まってる資料は、誰が片付けるのか分かってるのかな。

「恩を売って、拷問でもする気」

 強がり丸出しの口調。

 可愛げが無いなと思いつつ、後ろ。

 自分達が歩いてきた道を振り返る。

「さっき、あのまま放っておいても良かったんだよ。ただ話を聞くだけ」

「彼の事」

「それ以外に何聞くの」

 幸い余計な事は言わない女。

 ここで木之本君の悪口でも口にしたら、間違いなくスティックを抜いていた。

 もしくは、そういう私の気配が伝わったのかも知れない。

「彼はどうなったの」

「停学よ。あなたのせいで」

 今更言っても仕方ないが、言わない事には気が収まらない。

 やっぱり、さっき壁へ穴を開けておいた方が良かったな。



 ようやく本部となるらしい資料室へと辿り着く。

 ここでも会話らしい会話はなく、腕を握りつぶさなかったのが不思議なくらい。

 深呼吸して気持ちを落ち着け、生徒会ガーディアンズに彼女を引き渡す。

「後はお願い」

「確かに」

 私以上に怖い顔で女を連れて行くガーディアン達。

 まさかとは思うが、拷問しないだろうな。

「やっと来たわね」

 私、ではなくショウを見てにこりと笑うサトミ。

 ショウもにこりと笑い、少しずつ後ずさる。

 経験上、良くない事が起きるとやっと気付いたらしい。

「使えるように、片付けて。段ボールを奥へしまうだけでいいから」

「ああ、そのくらいなら」

 拍子抜けという顔で頷くショウ。

 それだけでも多分大変だと思うんだけど、彼は大した事ではないと判断したようだ。

「拭き掃除は?」

「空調が効いてたから、大丈夫。それと、ヤギも奥にお願い」

「助かった」


 ヤギを背負う少年一人。

 間違いなく可愛くないし、顔がこっち見てるよ。

「それ、もっと奥。奥やって」

「後で、また運び出すんだろ」

 そんな事、すっかり忘れてた。

 結局ヤギは結構手前に置かれ、この場所に来る度会う訳か。

 ドアもあるし、大丈夫だとは思うけどね。

「大体運んだな。後は」

「ケイでも押し込めとけば」

 たまたま通りかかったケイを指さすが、彼は危険を察知してドアを大きく迂回した。

「面白くないな。それで、これからどうするの」

「構成員の確認と連絡。各組織への挨拶と協力要請。生徒会、執行委員会、理事会の動向を探る。草薙グループの全体像を掴んで、組織図、経営状況、運営状況も確認。中部庁と教育庁にも当然」

「で、何するって」

 聞いてなかった訳じゃない。

 一度に言われて、理解出来なかっただけだ。

「教育庁や中部庁まで手を広げるの?」

「関与具合を確認する程度かな。草薙グループについては、もう少し考える必要があるけど。生徒会は高校生だから対処のしようはあるにしろ、理事会とか草薙グループはさすがにね」

「確かに。それこそ弁護士とか、国会議員とかも動かせる訳でしょ」

「資料室ってのは便利だな。草薙高校史。参考になったよ」

 小脇に抱えていた古い本を見せてくるケイ。

 これは私も、前に読んだ事がある。

 ただ、彼がにやつくような物でも無いはずだけど。


「一つ、クイズ。この学校の前は何だったか」

「白鳥庭園」

「それと?」

「堀川」

 この学校に緑が多いのは、かつて白鳥庭園だった名残。

 特に西側は、かなりの部分が緑で覆われている。

 逆に東側。

 以前堀川だった場所を埋め立てた位置から東は、後から植樹された場所が多い。

「堀川はこの北。繁華街まで通じてた。そこを民間に払い下げた際、草薙グループは競売に負けて別な地権者からここを借りた」

「じゃあ、借地?」

「そう。この教棟の立ち並ぶ辺りは、大半が。場合によっては、ここを突く」

 いつになく楽しそうなケイ。

 言いたい事は何となく分かったが、突くも突かないも多分お金があっての話じゃないのかな。

「仮にその地権者からここを譲ってもらうとしてもさ。そのお金はどうする訳」

「銀行強盗でもやるか」

「やれるのか」

 軽く足を払うショウ。

 それだけで床に倒れるケイ。

 企画立案はともかく、実行は止めた方が良さそうだ。

「今のは、あくまでも仮定の話。土地を手に入れても、どうかなるとは限らない。大体そんな金があれば、俺はオーストラリアに高飛びする」

「無いんでしょ」

「無いからここで寝てる。あー、木之本君がいないと大変だな」

 彼がいない事で、ケイに掛かる負担は増えるだろう。

 具体的に何がどうなのかは分からず、冗談と思ってそれを聞き流す。

「私はどうすればいいの」

「今日はもう良いよ。後は、モト達とやるから」



 再びお役ご免となり、ショウと一緒に学校を後にして男子寮へとやってくる。

 理由は一つ、木之本君に会うため。

 玄関をくぐり、上半身裸でうろついている男の子を睨んで彼の部屋を目指す。

「寮にはいるの?」

「ああ。落ち込んでるって訳でもない、と思う」

 元気な振りをする事は出来るし、明るく振る舞う事も出来る。

 ただその内面は、本人にしか分からない。

「大丈夫、だよね」

「生真面目な奴だからな。おかしな事はしないと思うが」

 私が言った事を気にしたのか、やや早足になるショウ。

 気付けば二人して走り出し、階段を駆け上っていた。


 階段を上りきったところで、そこを降りてきた男の子と激突する。

 正確にはしそうになり、体を開いて紙一重で避ける。

「わ」

 向こうは抱えていたノートや筆記用具を落としてしまい、それが宙を舞う。

 ショウがノートを二冊。

 私がペンと消しゴムを。

 真っ先に落ちてしまった定規を、木之本君が笑いながら拾い上げた。

「ありがとう」

「いや。それは良いんだけど。勉強してたの?」

「新しく寮に来た子がいたから、そのレクチャーに」

 彼は寮の主幹で、管理人のような立場。

 主幹は何人もいるし、責任者ではない。

 ただこうしてみる限り、彼を頼りにしている人は多そうだ。

「調子、どう?」

「僕は大丈夫だよ。みんなには迷惑を掛けたけど」

「迷惑は、別に。ねえ」

「そういう話になると、俺に発言権はない」

 気まずそうに笑い、ノートを彼に渡すショウ。

 私もその上にペンと消しゴムを乗せ、少し笑う。

「確かに。それと、あの女を捕まえたけど」

「……ああ、彼女。無事だった?」

 聞き間違いかな。

 安否を確かめる台詞が聞こえたけど。

「何か知ってるの?追われてるとか、脅されてるとか」

「いや。ただ、気の弱そうな子だったから」

 本気で言ってるのかどうなのかは分からず、ただ木之本君が彼女を気に掛けているのだけは十分に理解出来た。

 つまりあの女は、彼の善意を逆手に取っていた訳だ。

 思わず壁に拳をぶつけそうになり、その苛立ちを自分の中へ無理矢理押し込む。

「あー」

「なんだよ、急に」

「魂の叫び」

「もういい。それで停学っていつまでだ」

「一週間。僕がいなくても大丈夫だと思うけど」

 儚い。

 そして私達を心配するような表情。

 彼はその一週間寮にいるため、勉強はともかく仕事をする必要はない。

 ただ精神的な負担は、少しずつ募っていくのかも知れない。

 自分の責務が果たせない事。

 それが他の人間の負担になると。

「実家に戻ってたら?ここにいると、落ち着かないでしょ」

「そうだね。親に怒られそうだけど」

 ちょっとだけ笑う木之本君。

 冗談っぽく、子供っぽい笑みで。 

 しっかりしていて面倒見が良くて、それでも彼もまた子供と呼ばれる年齢。

 何もかも完璧にこなせる訳ではなく、挫折し苦しむ時もある。

 私はそんな彼に何も出来ないけど、少しでもその気持ちを和らげられたらと思う。

「とりあえず、鮎お願いね」

 あくまでも、彼の気持ちを和らげるため。

 個人的な希望ではない。

 多分。



 翌日。

 登校してきたショウから、木之本君が朝発ったと聞かされる。

 寮にいればあれこれ言ってくる馬鹿もいるだろうし、実家に帰った方が彼の気も休まるはず。

 木之本君の両親も事情さえ話せば分かってくれるだろう。

「で、あの女は」

「無罪放免」  

 教室に入ってきたサトミは、首を振ってため息混じりに席へと付いた。

 私は即座に席を立ち、彼女の机に両手をつく。

「どういう事よ、それ」

「私は知らないの一点張り。木之本君に聞けば良いんだけど、話さないでしょ」 

 鼻先に指を突きつけるサトミ。

 それは彼が岐阜へ帰ったから、という意味ではない。

 彼が、他人の不利益になる事を告白するはずはないという意味だ。

「今はどうしてるの」

「学校外生徒として、学校には来るみたいよ。あなた、脅した?」

「別に。ショウは、壁に穴開けたけど」

 それを脅すと言われればそれまでだが、脅したのはあの職員。

 とはいえ、女は自分への威嚇とも取ったかも知れない。

「逃げないのかな」

「意外と人が良いのかも知れないわね。助けられたって匂わせてたし」

「ああ、その事。見過ごす訳にもいかなくてね。で、職員は」

「懲戒免職ですって。大変よね」

 私を見つつ、ため息を付くサトミ。

 なんか、私が悪いみたいじゃない。

「だとしたら、ああいう方法で学校に潜り込む傭兵もいる訳?」

「そうなのか、職員の方が言葉巧みに操ったのか。所詮男が悪いのよ」

「そうそう」

 二人して深く納得して、教科書を広げているショウを睨む。

 いや、彼は何も悪くないか。

 もっと悪い人がやってきたし。

「おはよう」

 返事もせずに席へ付くケイ。

 でもって寝始めたので、後頭部にノートを乗せる。

 次に教科書、参考書。

 バランスが難しいな、これは。

「面白いか」

「最高」

 ケイの問いにそう答え、ペンをさらに重ねていく。

 ここからが勝負だな。

「何してるの」

 私の頭に振ってくるバインダー。

 それを手刀で受け流し、村井先生と睨み合う。

「HR中よ」

「だって寝てる」

「言い訳は聞いてないの。廊下に立ってなさい」


 小学生か、私は。

 壁にもたれて寝てるケイをからかっても面白味に欠けるし、あまり騒ぐとバケツを持てとか言われそうだ。

「ちょっと」

「寝てるんだ、俺は」

「あれ、あれ」

「どれだよ」

 欠伸しながら、伏せていた顔を起こすケイ。

 その彼も顔付きを変え、腰の警棒に手を触れる。

 廊下の右手を歩いてくる一人の少女。

 木之本君にまとわりついていた、昨日私が助けた女。

 向こうもこちらに気付き、気まずそうな顔をして早足で通り過ぎていく。

 古いデザインの制服。

 執行委員会が推進するそれを身につけていた。

「どういう事よ、あれ」

「歩いてただけだろ」

「そうだけどさ」

「ただ、残った理由は不明といえば不明だな。本当に義理堅いのか、まだ何か考えてるのか」

 眠気は完全に覚めたらしく、鋭くなった瞳が女の去った廊下を見つめ続ける。

 人を疑うのは良くないが、今は疑うしかない状況だ。

「木之本君は、どうしてあの子をかばったのかな」

「そういう理屈とは関係ないんだろ。人が良いから」

 他人の思惑、性格。 

 損得勘定で彼は行動している訳ではない。

 だからこそみんなに慕われ、今度はそこを付かれ停学になった。

 それがいい事なのか、どうなのか。

 今の私には、判断が付かない。

 また彼自身はそんな事を気にも止めないからこそ、彼女をかばっているんだろう。

「結局、ああいう人は損ばかりするのかな」

「来世で良い人生を送るんじゃないの」

「じゃあ、現世はどうなのよ」

「十字架でも背負ってるのかな」

 適当な事を言って壁にもたれるケイ。

 そのまま寝息が聞こえ、廊下に出てきた村井先生にバインダーで叩かれる。


 私達は何のために生き、誰のために生きているのか。

 木之本君のような人を見ると、そんな事を考えてしまう。

 そして私自身は、どうなのかとも。 

 そこまで誰かのために尽くせるのか。

 覚悟はあるのかと。






  







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