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スクールガーディアンズ  作者: 雪野
第31話
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 3段飛ばしで階段を駆け下り、人の間をすり抜けて先を急ぐ。

 はやる気持ほど速度は上がらず、もどかしさだけが募っていく。

 勿論今の自分が遅い訳ではない。

 いや。木之本君への対応という意味では、十分に遅いのか。

「ユウッ」

 どうやらラウンジの前を通り過ぎたらしく、後ろから声を掛けられる。 

 すぐに取って返し、ショウの後に続いてラウンジ内へと入っていく。


 いつも通りの喧騒と賑わい。

 特にトラブルめいた様子は無く、床に誰かが倒れている訳でもない。

 誤報。

 いや。そう判断するのは早計か。

「ここから移動したって事?」

「それか、黙ってるかだろ」

 鋭い視線を、ラウンジ全体へと向けていくショウ。

 普段と変わらない喧騒と賑わい。

 ただ、どこか上滑りの空気。

 私とショウが気にしている、非常に嫌な空気。

「奥が怪しいな」

「分かった。左右で」

 私は右手から回り込み、ショウは左手から。

 私達の存在に気付いているのか、近くを通ると突然押し黙る子や視線を伏せる子がいる。

 明らかに普通ではない状態。

 決して良くない兆候。



 テーブルの列をいくつか過ぎ、反対側の壁際までやってくる。

 さっきまでとは明らかに違う異質な雰囲気。

 集まっている大勢の男女。

 上滑りどころか、空気が固まっている。

 緊張、焦り、不安。

 そして、私達への敵愾心。

 理由はともかく、木之本君がここにいるのは間違いない。

 男女が占有しているテーブルの列とその周辺を確認するが、姿は無い。

 いや。違う。

 テーブルの下。

 滴る鮮血、倒れた体。

 伏せていても、それが誰だかははっきりと分かる。

 即座にスティックを抜き、それを振り上げて目の前の男女を強制的に退かせる。

 理屈も規則も関係ない。

 今制止されれば、相手が誰だろうとこれを迷う事無く振り下ろす。

 十分にスペースを作り、血まみれの木之本君に手を伸ばす。

「大丈夫?」

「少し、怪我してるだけ」

 意外とはっきりした口調。 

 実際大きな怪我は無いようで、出血は頭を切っているせいか。

「何があったの、一体」

「トラブルに巻き込まれてね」

「まさか、あの女絡みじゃ」

「さあ」

 そこは曖昧にごまかし、ショウの手を借りて立ち上がる木之本君。

 周りの人間をなぎ倒したくなる衝動に駆られるが、木之本君にこんな事をしてどんなメリットがあるのか。

 これだけ大勢の前で、ガーディアンに通報されるような状況で。

 ただ、ここにいる誰もが木之本君を助けようとしなかったのは事実。

 全員が敵という可能性もある。


「ショウ」

「ああ」

 木之本君に肩を貸し、周囲を威圧しつ壁沿いに歩いていくショウ。

 私は彼らの後方に付き、スティックを構えたまま移動する。

「ユウ」

 息を切らしてようやく現れるサトミとケイ。

 その後ろからは、沙紀ちゃんのところのガーディアンも付いてきている。

 これでどうにかなった。

 そう安心した時、背後から悲鳴が聞こえてきた。

 咄嗟にそちらを振り向くと、目の前を風が通り過ぎた。


「木之本君っ」

 私の制止は聞こえていなく。

 いや。聞いていない。

 追いすがるには距離が開きすぎ、スティックを投げる訳にも行かない。

 彼が走り出した理由は、さっきまで彼が倒れていたテーブルのそばにある。

 床に倒れている女。

 木之本君にまとわりついていた、おそらくは彼が怪我を負った原因。

 それでもなお、彼女を助けようとする木之本君。 

 自分の怪我を省みず、ただ彼女のためを思って。


 感慨に満ちた気分は、すぐに違う色で押しつぶされる。

「止めろっ」

 珍しく大声で叫ぶケイ。

 それでも彼が止まらないのを見るや、私のスティックを指差した。

「木之本君に投げて転がせ」

「どうして。大体今やったら、大怪我」

「骨の一本くらい。それか、俺を」

 警棒を腰から抜き、いきなり側のテーブルへ駆け寄るケイ。

 その尋常でない行動に、テーブルへ付いていた人間は勿論周囲の人間もすぐに逃げ出していく。

「何してるの」

「後で話す。ちっ、もう遅いか」

 すでに警棒は腰のフォルダーへ収められ、しかし彼の苛立ちと焦りの表情は消え去らない。

 木之本君は女の周りにいた男女に何か話し掛け、下がるよう軽く手を振った。

 それが誰かの肩に触れ、するとその男は大げさに床へと倒れこんだ。

「何、それ」

 失笑するのも一瞬だけ。

 突然耳が痛くなるような電子音がして、木之本君を囲んでいた男女が腰や懐から警棒を取り出した。

 私達もすぐに駆け寄り、木之本君をかばうかっこうでその男女と対峙する。


「どういう事」

「こちらは保安部だ」

 ポケットから取り出される、保安部のID。

 見える場所につけていなければ意味が無い。

 勿論、それを含めての行動だろうが。

「もう一度聞くわよ。どういう事」

「保安部に対する反抗と暴行。彼の身柄はこちらで預かる」

「軽く手で払っただけでしょ。それも、この子を助けるために」

 床へ転がったまま、顔を伏せている女の子。

 彼女が何か言葉が聞かれる事は無く、また当てにもならない。

「そんなふざけた理屈が通ると思ってるの」

「彼が暴行したのは、全員見ていた」

「怪我をした経緯はどうなのよ」

「証言する者がいれば考慮する」

 見下した表情でラウンジを見渡す男。

 全員がそれから目を逸らすか、愛想笑いで受け答える。

 本当、良く分かった。

「映像は」

「死角に入られた」

 舌を鳴らして答えるケイ。

 男は蛇みたいな笑顔を浮かべ、私達一人一人を指差した。

「ここでやりあっても構わないが、どうなるか分かってるだろうな」

「だったら私も、分からしてやろうじゃないの」

「え」

 間の抜けた声を出す男。

 友達を見捨てて逃げ出すくらいなら、ここで全てを終わらせた方がよほどましだ。

 私自身が木之本君を助けるチャンスはいくらでもあった。

 それをためらい、自分の考えに捉えられて逸してしまっただけで。

 その責任は、この手で償う以外に無い。

「ま、待てっ」

「待たないわよ」

 スティックを振りかぶり、そのまま男の鼻先を掠めて背中へ戻す。


 背後から聞こえてきた、革靴の足音。

 不規則で乱れがちな足音。

 引きずる音は、筋力の衰えからだろう。

 私達を回りこんで正面に現れたのは、スーツ姿の一団。 

 先頭に立っているのは、学校問題担当の理事。



「なにやら物騒な事になってるが、警察を呼んだ方がいいのか」

「い、いえ。それには及びません」

 顔中に汗をかき、恐縮して答える男。

 理事は大げさに頷き、蔑む様な眼差しを私達へと向けていた。

「学校で武器を振り回すとは、穏やかじゃないな。退学になりたいのか」

「ああ?」 

 手首を返し、スティックを構え直して理事と向き合う。 

 この間合いなら、息を付くより早く打ち倒す事だって出来る。

 私の表情や気配から身の危険を感じ取ったのか、青い顔をして後ずさる理事。

 その前にスーツ姿だがそれの似合わないいかつい男達が立ち塞がり、理事はそこから話を続ける。

「こういう場合は、どうなる」

「直ちに拘束し、意見を聞いた上で処分を下します」

「処分の程度は」

「停学が相当かと」 

 理事と男の間で交わされるふざけた会話。

 木之本君は軽く払っただけで、それも故意ではない。

 そんな事はこの場にいる全員が分かっている。

 分かっている上で、茶番劇が繰り広げられている。

「保安部に対する反抗は、停学処分もありうる」

「そんな権限があるの」

「改正した規則を読み直す事だ」

 勝ち誇ったように言い放つ男。 

 こうして挑発しておいて、私達も停学に追い込むつもりか。


「ユウ」

 肩に置かれるサトミの手。 

 その手を握り返し、自制心が残っている事を彼女へ伝える。

 ぎりぎりのラインで、もう一つ何かあれば砕け散ってしまうだろうが。

「学内の治安を乱す者を、これからもどんどん取り締まってくれ」

「は」

 姿勢を正し、深々と頭を下げる男。

 理事はやはり大げさに頷き、馬鹿笑いをし始めた。 

 それに合わせて周囲の取り巻きが追従する。

 馬鹿笑いと白けきった空気。

 この場にいるのが苦痛以外の何物でもなく、しかし逃げ出す事も出来はしない。

「子供は大人しく勉強をしていろ。そうすれば学校としても、それなりの温情は掛けてやる」

 笑い声が収まり、理事がそう告げる。

 静まり返ったラウンジの隅々にまで響く言葉。

 突きつけられる現実。

 自分と相手の、力の差を。

「後の処理は任せたぞ」

「はい」

「お前らも覚悟しておくんだな」

 侮蔑した視線を投げ付け、意気揚々と去っていく理事。

 それに対して私は何も出来ず、ただ唇をかみ締めるだけ。

 それが今の自分だ。


「では、規則に従い拘束する。IDを提出しろ」

 素直にIDを渡す木之本君。 

 それが端末で読み取られ、そのままIDが持っていかれる。

「指錠を……」

 その台詞が最後まで言い終わる事は無く、保安部の連中も顔を青くして後ろに下がる。

 ショウが一歩前に出て、彼らを睨んだだけの事。

 そこにあるのは純粋な闘志のみ。

 手加減、遠慮という言葉とは無縁の、感情に任せた高ぶりだけがある。

「つ、連れて行け」

 声を上ずらせ、そう命令する男。

 木之本君の前後左右が固められ、彼はそのまま連れて行かれる。

「このままで済むと思う訳」

 低い、氷で出来た刃のような声で追求するサトミ。

 男は顔を逸らし、聞こえない振りをして逃げていく。

「間違いなく後悔するわよ。あなたも、理事も。誰もかもが」

 身を切るような言葉とは裏腹の、彼女の全身から吹き出る怒りの感情。

 私同様、もう一つのきっかけさえあればたやすく砕けてしまう程度の。

 ラウンジ内は水を打ったように静まり返り、出て行く者も入ってくる者もいない。

 サトミの言葉の意味を、今彼らは胸の内で繰り返しているのかもしれない。

「あんまり脅すなよ」 

 落ち着いた、普段と変わらないトーンで話し始めるケイ。

 すでに焦燥感は消え去り、かといって醒めすぎている訳でもない。

 自分の中でこの事態を納得させたのか、それとも違う何かを考えたのか。

 どちらにしろ、落ち着いている彼こそ油断は出来ない。

「俺達も一旦戻ろう」

「そうだね」

 スティックを背中に戻し、深呼吸して気持を落ち着ける。 

 悔いるのはいつでも出来る。

 自分の無力さを嘆く事も。

 自分には何が出来るのか。 

 今は、ただそれだけを考えるしかない。

 そして実行に移すしか。



 狭い部屋へと戻り、モトちゃんにラウンジでの出来事を簡単に説明する。

 連絡は沙紀ちゃんからもあったらしく、彼女は小さく頷き私達を見渡した。

「非常に追い込まれたんだけど、何か意見は」

「木之本君の事は、丹下から取り計らってもらう。誰か連合から、取調べの立会人に出した方がいい。それと彼には悪いけど、この際は利用させてもらう」

「具体的には」

「自警局と交渉して、一定の部屋数があるオフィスと通常のオフィスを確保する」

「出来る?」

「今は出来る」

 あまり性質の良くない表情で答えるケイ。

 モトちゃんはそれ以上何も言わず、サトミへと視線を移した。

「ラウンジでの情報収集と、あの場に居合わせたメンバーの確認。木之本君に対する取調べについても調査するわ」

「それはお願い。他に意見は」

 私も意見は無くも無い。

 意見というよりは、感情的な意見が。

 モトちゃんは微かに目を細めて私を見つめ、すぐに顔を逸らして手を叩いた。

「じゃ、そういう事で。私は木之本君の聴取に付き合ってくる」

「俺は、自警局かな」

「私は、情報局へ行ってくるわ」

 それぞれのやるべき事を果たすために行動する彼ら。

 私はどうするべきなのか。

 どうしたいのか。

 それについて、迷う事は無い。




 生徒会特別教棟・自警局。

 ケイは小谷君と奥へ消え、私はモトちゃんと共に別なルートで奥へと向かう。

「ご心配なく。木之本さんへの聴取は、配慮を持って行われていますので」

 こっちが聞く前から押してくれる、案内役の女の子。

 私に怯えているとか、モトちゃんが何かを言った訳でもないのに。

「木之本君と知り合い?」

「時折顔を合わす程度ですが。連合との交渉では、いつもお世話になってます」

 彼のポジションは塩田さんの補佐。

 今はモトちゃんの補佐で、交渉や折衝も彼の仕事。

 そういう事もあるのかと思いつつ、ガーディアンが警備する厚い扉をくぐっていく。


 そこはおそらく、尋問用の部屋を監視するところ。

 向かい合わせに並べられた机に端末がいくつか置かれ、壁際を本棚が埋め尽くしている。

 何より一番目立つのは、本棚が無い壁の部分。

 窓にしては大きな、今は自分達の姿を映し出しているミラー。

 これが操作一つで透明になり、尋問の様子を窺う事が出来る。

 連合にもこういう部屋は勿論あり、今考えるとあまり質の良い部屋とは思えない。

「取り調べてるんだよね」

「ええ」

 私達を応接セットに進め、お茶の用意をしだす女の子。

 彼女の後ろにあるミラーはミラーのままで、モニターも稼動していない。

 その割にはそちらを見る人が多く、時折誰かが訪れては少し話をして去っていく。

「何かあったの?」

「いえ。何も。私は仕事がありますので」

 一礼して去っていく女の子。

 何をするかと思ったら、友達らしい子の所へ行って話を始めた。

 何の仕事かは分からないが、机に積まれている書類には関心が無いようだ。

「どうなってるの」

「なんとなくは気付いてたんだけどね」

 苦笑してティーカップへ手を伸ばすモトちゃん。

 私には見当も付かず、改めて室内を見渡していく。

 ミラー、机、端末、話し込んでいる局員達。

 彼らの視線の先にはミラー。

 そして、半開きのドアがある。

「ドア、開いてるじゃない。モトちゃんの時も開いてた?」

「取調べが始まる前に、映未さんが来てくれた」

「池上さんは、いないよね」

 うしゃうしゃという笑い声は聞こえこないし、彼女がいるような気配も無い。

 それでもドアは開いている。


「ドア、どうして開いてるんですか」

 そばを取り掛かった男の子に話しかけ、半開きのドアに指を向ける。

 彼は少し困った顔をして、姿勢を屈めてきた。

「空調設備の調子が悪いんです」

「部屋の中だし、暖かいでしょ。わざと開けてるって事?」

「いえ。空調設備が悪いんです」

 改めてそう告げて、足早に去っていく男の子。

 でもってやはり、他の子達と集まって話し込んでいる。

「悪い事じゃないよね」

「勿論。私の時なんて、警棒で追い立てられたわよ。あれは、保安部が主流だったんだけど」

「今度も保安部が連れて行ったでしょ。でもここは違うのかな」

 保安部の何たるかも把握はしていなく、自警局内の一角を占有しているという知識があるくらい。

 ただしここにいる人達の肩口についているIDは「SG」で、保安部のそれは見かけない。

「意味が分かんないな」

「私との待遇の違いも気に食わない」

「一応モトちゃんは代表だからじゃないの。それに発言が発言だったし」

 軽くフォローして、なんとなく落ち着きの無い室内を改めて見渡す。

 緊張感はあるものの、それは意気込みや危険に備えてという感じではない。

 全員が心配そうな顔で、しかも仕事をしていない。

「木之本君を心配してるって事?」

「それ考えるのが普通じゃない」

「どうして」

「ユウと同じ理由でしょ」

 私が彼を心配するのは、友達だから。 

 彼という人柄を知っているから。

 その優しさ、暖かさ、思いやりの心を持っていると。


「そういう事?」

「何がそういう事かは知らないけど。好意的なのは間違いない」

「じゃあ、処分は」

「処分を下すのは保安部経由で学校。あの調子だど、かなり厳しそうね」

 ため息を付き、端末を取り出すモトちゃん。

 相手はサトミらしく、彼女は了承したとだけ伝えて通話を終えた。

「証言は取れないみたいね。今は」

「保安部が脅してるって事?」

「おそらくは。ただ、全員が全員という訳でもないし」

「嫌な学校になってきたな」

 そうならないように頑張ってきたつもりだった。

 もしくは、頑張ろうとしてきた。

 でも結果は何一つ伴わず、状況は悪化する一方。

 先行きは立たず、何をすればいいのかも分からない。

 やる気、という言葉が虚しくなるほどに。



「……終わったみたい」

 肩を触れられ、沈み込んでいた意識を戻す。

 開いていたドアから出てくる木之本君。

 いつもより元気の無い表情。

 力ない足取り。

 彼は私達に気付くと気弱な笑みを浮かべ、弱々しく首を振った。

「どういう事」

「停学という処分が学校から下りました」 

 木之本君と一緒に部屋を出て来た、保安部の責任者である前島君がそう教えてくれる。

 別段勝ち誇ったりおごった様子は無く、ただ今の自分にとっては敵以外の何者でもない。

「期間は1週間と短いですので、ご安心を。それ以外の罰則もありません」

「木之本君は手で払っただけで、それもわざとじゃないわよ」

「それを証言する人は。雪野さん達以外に」

「いないけど、でも」

 これ以上は言っても仕方なく、さすがに私もそれは分かっている。

 だけど彼は決して悪くない。

 ただその事だけを伝えたかった。

「こういうやり方が上手いとは思えませんが、起きた事を悔いても仕方ありません」

「いつも人事みたいに言うけど、あなたもそれに加担してる一人でしょ」

 反発を覚えつつそう突っ込み、彼を睨みながら木之本君の元へと向かう。

「大丈夫?」

「え、うん。停学だけどね」

 明らかにその部分を気にしている顔。 

 罰則の重さや周囲の目ではなく、申し訳ないという態度がはっきりと伝わってくる。 

 自分が停学した事により回りに掛かる負担、

 親への迷惑。

 模範となるべき立場の自分が、罰則を受けてしまったという後悔。

 罪の意識。


「私達も嘆願書を出しますから」

「頑張って下さい」

「すぐ戻ってきて下さい」

 気付くと彼の周りには人が集まり、励ましの言葉が掛けられていた。

 ここは連合ではなく、生徒会自警局。

 彼が所属する部署ではない。

「どういう事?」

「見ての通り。それだけ人望があるって訳よ」

「モトちゃんの時はどうだった?」

「人望を確かめる前に、突貫娘がやってきた」

 悪かったわね。




 借りている例の狭い部屋で、わずかな私物をまとめる木之本君。

 名残惜しそうな、そして申し訳なさそうな顔。

 それに掛ける言葉は思いつかず、こうなってしまった事を悔いるしか出来ない。

「あーあ。俺も停学になりたいな」

 とりあえず脇を掴み上げ、軽くストレスを逃がす。

 ストレスを移動させただけの気もするが、今はそうでもしないと我慢が出来ない。

「こ、この」

「何よ。反対側も掴まれたいの」

 小さな手を広げ、爪を立ててケイへと向ける。 

 彼は慌てて飛びのき、机の脚に自分の足を引っ掛けて床に転んだ。

「何、それ」

「俺も知りたい」

「はは」 

 少しおかしそうに笑う木之本君。

 多分久しぶりの笑顔であり、明るい表情。

 私には何も出来ないけど、こうして笑顔が見られただけでもほっとする。

「じゃ、僕は帰るから」

「悪いわね。ショウ君、御剣君と一緒に寮まで送ってあげて。何が無いとも限らないから」

「ああ」

「大丈夫だと思うんだけど。僕を襲ってても、メリットはないし」

 改めて申し訳なさそうな顔をして、部屋を出て行く木之本君。

 でもって最後に、ドアの向こうで一礼をした。

 いかにも彼らしい、今の自分には胸が詰まるような仕草。


 なんとなく室内の空気が重くなり、端末のキーを叩く音だけが耳を打つ。

「ケイ君、自警局との交渉は?」

「本部を一つ、オフィスを10確保した」

「保障はある?」

「自警局長のサインをもらってきた」

 机の上を滑ってくる一枚の書類。

 空室の賃貸許可書とその料金。 

 最後には彼の言う通り矢田局長のサインがある。

「どうやって借りたの?こんな簡単に行くなら、初めから借りれば良かったじゃない」

「今度の件があったから借りれたんだよ。モトの時は、自警局へ殴りこんだ。次はどこへ殴りこもうかって話したら、是非ともって貸してくれた」

 随分危うい取引だな。

 一歩間違えれば、私達全員が退学しかねない。

「問題は無い?」

「見ての通り、賃貸料がいる。まあかなり抑えはしたけどね。それと相当反感を買った」

「今更じゃない。お金は、困ったわね。サトミ、何かある?」

「予算局に行くしかないわね。個人で払うには無理があるし、中川さんは私達に好意的だから」

 情に頼ると言う訳か。

 脅迫と同情。

 なんか、泣けてきそうだな。

「なりふりは構ってられないのよ」

「まあ、ね」

「今から行ってくるわ」

「あ、私も行く。ケイも、ほら」

「ござでも持っていったほうがいいんじゃないのか」



 そこまで卑屈になる事もなく、ある程度の予算を確保出来た。

 私やケイの力ではない。

「他には」

「いや。もう、いらないから」

「そう?」

 残念そうに、机の上へのの字を書く中川さん。 

 沙紀ちゃんは呆れ気味に彼女を見つめ、予算の執行書をサトミへ渡した。

「一応名目としては、私達のサポートって事で」

「大丈夫?」

「木之本君のためにも、少しは無理をしないとね」

 ここにもシンパが一人。

 もしかするとあの子は、私が思っている以上に大物かもしれない。


「それにしても、木之本君が。どうなってるの」

 怒り気味に尋ねてくる中川さん。

 それは私も聞きたいところだが、ここでお互いに睨み合っても仕方ない。

「学校と保安部に騙されたみたいなんですけど」

「私からも嘆願書は出しておくわ」

「はぁ」

「木之本君がどうしたって」

 どたばとした走りで執務室に飛び込み、私の肩をがたがたと揺する天満さん。

 彼女も表情に余裕は無く、明らかに怒りをたたえている。

「多分、天満さんが聞いてる通りだと思うんですけど」

「どうなってる訳。嘆願書を」

「嶺奈と連名でいいのね」

 卓上端末ではなく、白紙を取り出し手書きで書き始める中川さん。

 最後に自分のサインを書き添え、天満さんも同じくその下に名前を書き込む。

 肩書きは予算編成局局長と、運営企画局局長だ。

「自警局の人も、嘆願書は提出するって言ってましたよ」

「当然よね」

 顔を見合わせ、こくこくと頷き合う二人。

 当然とまで言われると、さすがにこっちが困ってくる。

「私は、嘆願書なんて思いも付かなかったけど」

「ユウは、違う方法を考えてたんでしょ」

「まあ、ね」

 サトミが指摘するように、私は物理的な方法を考えていた。

 モトちゃんの時同様、保安部なり自警局を襲撃するとか。

 しかし今回は、どうも様子が違う。 

 彼女の時より全員に余裕が出てきたという部分もあるんだろうけど。

「モトちゃんが拗ねてた。私の時は、待遇も悪かったしこうじゃなかったって」

「あの子の場合は初めてだったのと、あの子自身にも非があったからよ」

 若干突き放した口調で説明するサトミ。 

 それはそうだと思うけど、どうもこの前の事をまだ引きずっているようだ。

 そんな私の不安を感じ取ったのか、彼女は笑顔を作って私の頭を撫でてきた。

「別に、ケンカしてる訳じゃないわよ。そういう状況でもないし」

「そうだね。甘い物でも送ってあげて」

「お酒の方が良いんじゃなくて」 

 二人して笑い、少し重くなった空気を解す。

 それとモトちゃんの時と違うのは、木之本君が停学にまで追い込まれたという点。

 その意味では、学校や執行委員会もこっちを追い詰められるよう学習している訳か。


「あの時さ、木之本君を無理やり止めようとしたのは停学を防ぐため?」

「まあね。あの子は俺達とは違うから」

「何が」

「暴れないし、悪い事をしないし、人に楯突かないし、素直で、真面目で」

 ケイが並べ立てる言葉を、これ以上は聞きたくないという顔をする私とサトミ。

 でもって、中川さんと天満さん。

「俺が停学になっても、「ああまたか」で終わる。でも木之本君が停学になると「あんな子まで、停学?やっぱり、連合って無茶苦茶なのね」って話になってくる」

「なるのかな」

「なるんだよ。連合の幹部でまともなのは誰だと思う」

 誰って、私を目の前にしてよく言えたもんだ。

 いや。自分でもまともとは言えないけどさ。



「勿論モトも真面目だけど、リーダーという立場上鼓舞をしたり厳しい発言をする必要もある。その辺は、大抵の人も分かってる」

 私に、というよりサトミへと思われる台詞。 

 彼女は何も言わず、ただ若干瞳に力を込めて彼を見据えた。

「じゃあ、誰が俺達の歯止めで全体のフォローをしているか。何があっても揺らぐ事は無くて、自分の立場を貫いているか。他人から批判されるような行動もせず、規則を逸脱する事も無く」

「それが木之本君って訳。だからあの子が停学になると、連合全体の評価も落ちるって事?」

「そう心配をしてたんだけど。ちょっと違うのかもしれない」 

 腕を組み、壁に背をもたれるケイ。 

 その視線の先には、中川さんと天満さん。 

 木之本君のために嘆願書を書いてくれた二人がいる。

 彼女達は木之本君の上司でもなければ同じ部署でもない。 

 ただ顔見知り、付き合いがあるというだけで。

 それでも彼女達の彼に対する評価は下がらないし、むしろ擁護してくれている。

 これがケイの言う見込み違いなのか。

「後は、これからの仕事かな。本部もオフィスも手に入ったけど、肝心の木之本君がいないんじゃ」

「木之本君がいたから、手に入ったんでしょ」

「卵が先か、鶏が先か。いないといないで、また困るんだよな」

 彼が優秀なサポート役なのは私も分かっている。 

 ただ、ケイが言う程の存在なのかどうか。

 仕事という面ではサトミもいれば、ケイが彼の代役を務める事も出来るんだし。

「それで、あなた達は部屋を押さえて何する気」

「よろず相談を承りますよ。とりあえずは今まで通り、トラブルの収拾ですね」

「沙紀との。生徒会ガーディアンズとの兼ね合いは?」

「パトロールの代行と、生徒会ガーディアンズの到着前の事前処理。その応援ですね。俺達が主流なって行動する訳ではありません」

 いつになく積極的に語るケイ。 

 この辺は初めて聞く話で、実現可能かという疑問もある。

 何より、学校や保安部がそれを許すかどうか。

「沙紀は、それでいいの?最悪、あなたも生徒会を首になるわよ」

「そのくらいの覚悟は、初めからあるわ」

「そう」 

 そっと差し伸べられる手。 

 沙紀ちゃんははにかみながらその手を掴み、しっかりと指を絡めあう。

 お互いの気持を伝え、信頼しあう。

 手助けは出来なくても、その気持だけがあればいい。

「という訳で、備品が余ってたらよろしく」

 結局ここに落ち着くのか。 




 翌日。 

 正門には例の、制服の着用を呼びかける一団が並んでいる。

 私服姿の子はすぐに周囲を囲まれ、説得が始まる。 

 以前のような高圧的なグループもあれば、中には硬軟織り交ぜたグループもいる。

 男の子には女の子を、女の子には男の子で説得。

 義務や理屈ではなく、メリットを説明する作戦。

 しかも強制する口調ではなく、着てくれたら嬉しいなという。

 誰が責任者か知らないが、少なくともこっちのグループはそれなりの成果を出すだろう。

 それが良い事かどうかは別にして。

「その制服、可愛いですね」 

 今度はターゲットを私に定めたようだ。

 気付けば周囲は囲まれ、ただ私のサイズでは突破するのも簡単。 

 また、完全に行く手を阻まれている訳でもない。

「リボンは、お手製ですか」

 随分細かいところを付いてくるな。 

 実際、そうなんだけど。

「私は制服を着てるから、問題ないでしょ」

「それは勿論。似合ってますものね」

 ここまで褒められると気持良いし、何も知らなければかなり勘違いする。 

 すでに、しているのかも知れない。

「私達の目的はお分かりのようなので、パンフレットだけでもどうぞ」

「どうも」

 これを断るまでの理由無く、また不快な相手でもない。

 適当にパンフレットをめくり、まあこんものかと自分で勝手に納得する。

 デザインとしては悪くないが、私の好みとは少し違う。

 この制服にしても、自分やお母さんが多少手を加えているし。

「ノルマは大丈夫なの。いや。私の友達が、そういう話してたからさ」

「ご心配なく。一定期間着ていただかないと、キックバックが無いシステムですので。ここで無理強いするつもりはありません」

「ふーん。良く分からないけど、大変だね」

「私は楽しいですけどね」

 冬の日差しに似た、清々しい笑顔。

 自分が男の子だったら、一も二もなく制服に着替えているところだろう。

 というか、どうして私には男の子が寄ってこないのかな。


「お友達で興味がある方がいらっしゃれば、パンフレットのアドレスまでご連絡下さい」

「アドレス。……これ、自分達で作ってるの?」

「楽しいですから」

 繰り返される台詞。

 明るい、爽やかな笑顔。

 傭兵の雰囲気は感じるが、金髪達とは明らかに違う。

 ただ、舞地さん達とも異なっている感じ。 

 大内さんは、論外として。

「吉家さんとかと知り合い?」

「似てますか?」

「雰囲気がね。がさつじゃないし、ぴりぴりもしてないし。殴り合い専門の傭兵とはまた違うかなと思って」

「さすが、雪野さん」

 さらりと出てくる私の名前。

 吉家さんの名前を告げた時も同様は無く、初めからお互い分かってやっていた訳か。

 ただ、彼女達のような傭兵ならむしろ歓迎したいくらい。 

 他人の心を理解し、もしくは理解しようとしている人達は。

「どうせなら、舞地さんに着させてよ。あの人、GジャンとGパンばっかりで色気もないし」

「そんな、滅相も無い」

 一瞬顔をこわばらせる女の子達。

 やはり傭兵の中では強持てというか、近寄りがたい存在らしい。


「じゃあ、友達紹介。舞地真理依」

「いや。そういう冗談は良いですから」

「私は本気だって。あの猫女に、一度」

「誰が猫女だって」 

 首筋に当たる冷たい感触。

 それを避けつつ明るく微笑み、警棒を担いでいる舞地さんにパンフレットを見せる。

「ほら、これ。着れば。色々特典もあるらしいよ」

「着ない」

「いいじゃん着れば」

「良くないじゃん」

 真似しないでよね、それも真顔で。

 それには彼女達も意外だったらしく笑って良いのか知らない振りをすればいいのか、かなり複雑な顔になっている。

「へろー」

「へろー」

 この場を和ます、もしくはかなりずれた調子で現れる池上さん。

 毛皮のコートと黒い皮のミニスカ。 

 足元はロングブーツで、私の目から見ても度が過ぎる。

「ちょっとひどいんじゃないの」

「私くらいの女になると、このくらいで丁度良いのよ」

「良いけどね。私はそのくらいの女じゃないから」

 第一こういうのは、彼女みたいにスタイルが良くて綺麗だからこそ似合う格好。

 私は一生やらないし、というか物理的にやれないな。

「すごいですね」

 舞地さんよりは壁がないのか、笑い気味に声を掛けてくる女の子達。

 池上さんは長い髪をばさりと掻き上げ、冬の日差しにきらめかせた。

 格好良いけど、冷静に考えると意味不明だな。

「まあいいや。後はせいぜい頑張って」

「ちょっと待った。木之本君は」

 ここでも出てくる彼の名前。

 ケイが停学になった時とはみんなの反応もインパクトも、何もかもが違うようだ。

「多分、聞いてる通り。それと、みんなで嘆願書を集めてるみたい」

「雪ちゃんは何するの」

「別に。やる事もないしさ。自警局へ殴り込んで良いなら、今すぐでも行くけどね」

 ぎょっとした顔で私から距離を置く女の子達。

 傭兵の割には、意外な反応だな。

「私、変な事言った?」

「草薙高校の自警局でしょ。それも、規則が変わった後の」

「この子に常識は通用しないのよ。自由に生きてる女の子なのよ」

 褒めてるのかな、これは。

 ぺたぺた頭を叩かれている所を見ると、多分違うだろうな。



 教室に入るや、いきなり周りを囲まれた。

「木之本君は」

「嘆願書は、誰に出せばいいの」

「私は、どうする?」

 知らないっていうの、そんな事。

 さっきの傭兵に囲まれた時より威圧感を感じるな。

「受付はサトミかモトちゃん。私は詳しく知らないから」

「遠野さん。ああ言ってるわよ」

 正門で傭兵に捕まっている間に、サトミが先に来ていたようだ。

 でもって、厄介事を私に押しつけようとしていたようだ。

 こうなると、どっちもどっちだな。


 とりあえず後は任せ、サトミから離れた後ろの席に座ってパンフレットを広げる。

 バリエーションはほぼ皆無で、デザインも地味。

 ただ着こなし方や、上着の重ね方などがモデル付きで載っている。

 良く見ると、さっき私を囲んできた子達か。

「おはよう」

「おはよう、これ見て」

 もみくちゃになっているサトミには近付かず、私の隣へ座るモトちゃん。

 彼女はパンフレットを手に取り、まずは後ろから見始めた。

「個人で出してるのね」

 さすがに鋭く、一発で見抜いてきた。

「ユウも着るの?」

「着ないよ。私は今の制服で満足してるから。ただ、これを配ってる人達がね。その子達も傭兵なんだけど、悪いイメージが無いタイプだったから」

「全員が全員悪い訳でもない、か。逆に、元々学校にいる生徒が全員良い訳でも無いのよね」 

 冷静な。

 しかし痛い程に理解している現実。

 そんな簡単に善と悪で分けられれば苦労はせず、だからこそ問題も複雑になる。

 ただし仮に傭兵が全員悪だとしても、彼らを追い出す手段は私には無いのだが。

「あ、これ。制服。……って、何よそれ」

 教室に入ってきたショウの手にあるのは、私が持ってるのと同じパンフレット。

 いや。人の事は言えないんだけどさ。

 でも、待てよ。

「まさか、囲まれた?」

「別に、何もしてない」

 慌てて首を振り、私から距離を置いて座るショウ。

 筆記用具をリュックに放り込み、それを抱えて彼の隣へ移動する。

「女の子に、せがまれなかった?」

「俺は何もしていない」

「じゃあ、相手は何かしてきたの」

「え」

 非常に分かりやすいというか、嘘のつけない人だな。

 ただしこれも彼が悪い訳ではないし、また彼らが悪いとも思わない。 

 お互いの善意ややる気。そこに決して悪い感情は存在しない。

 私の中では、どうか知らないが。



 なんとなくむにゃむにゃした気持を抱えたまま午前中の授業が終わり、唸りながら食堂へとやってくる。

 サトミはぐったりして、オーダーもせずにそのままテーブルへ伏せてしまった。

「中華で良いの?」

 伏せたまま手だけが振られる。

 結果的には迷惑を掛けたし、このくらいは代行するか。

「えと、中華を一つ。それと、和食を全体的に少なめで」 

 二人分のオーダーを通し、まずはサトミの分を運んでいく。 

 残った自分の分は、ショウに託すとしよう。

「焼きなすか」 

 人のトレイを見て、ポツリと呟くショウ。

 一品彼のトレイに移動させ、サトミの所へ歩いていく。

 放っておくと、ご飯だけが残るんじゃないの。


「お疲れ様。何か分かった?」

「情報があれば、私の所へは来ないでしょ。学校も保安部も、答えないでしょうし」

「そうなんだ」

 それは私自身分かってはいたが、もしかして何か良い話があるのではと少しは期待もしていた。 

 ラウンジでの出来事を証言してくれる人が現れるとか、それに関する情報を持っているとか。

 だけど世の中は、善意だけで成り立っている訳ではないようだ。

「どうすれば良いのかな」

「情報自体は集めてるから、その内何かが得られるとは思う」

「それまでは待つって事?苦手なんだけど」

「事態を悪化させるよりはましでしょ。向こうは、私達が何かしないかを待ってるんだから」

 何故かトレイに乗っているふかひれを箸で切って食べるサトミ。

 これなら、私も中華を頼めばよかったな。

「いや、そうじゃない。どうして私達だけ目の敵にされてるの」

「学校や保安部に反抗的なのが、私達だけだから」

「いるでしょ、他にも」

「目立ってるのは私達だけ。陰で文句を言う人は増えてるかもしれないけど、行動には移してないわ」

「そういう事か」

 ナスのてんぷらをかじり、秋の風味を楽しみながら納得する。

 そう考えると、改めて私達は普通じゃないな。


「木之本君もそういうグループに属してるんだから、変わった目では見られてないの?」

「ケイ君も言ってたように、どうも違うようね」

 気さくで、優しくて、親切で。

 誰にも分け隔てなく気を配る人。

 味方はいても、敵はいない。

 少なくとも私はそう思っていた。

 しかし現実は、その優しさに付込む人間がいると思い知らされただけだ。

 正直な人が損をする、嫌な世の中だと。

「それにしても、ますます許せんな」

「怒っても仕方ないでしょ。あなた、すぐに火がつくから」

「大丈夫。最近は自制心って言葉を覚えたから」

「実行力は伴っているの」

 サトミの質問には答えず、ナスの味噌炒めで残っていたご飯を掻きこんで行く。

 秋はいいな、食べ物が美味しくて。

 良いのよ、都合の悪い事は忘れていけば。






     







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