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スクールガーディアンズ  作者: 雪野
第30話
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30-3






     30-3




「大変な目に遭ったわね」

 穏やかに微笑み、私が差し出した覚え書きを受け取る北川さん。

 場所は自警課課長執務室。

 記憶にある局長室よりは狭いが、機能的には多分こちらの方が充実しているはず。

 ガーディアンは自警課に属し、指揮権限も自警課課長に一任されているので。

「別に大変では」

 むしろ嬉しかったとは答えず、適当に言って席を立つ。

 単なるお使いではあったが、それでも仕事は仕事。

 一応は無事に終わる事も出来た。

「今、忙しいかしら」

「暇だけど」

「良かった。今度は、SDCにお願いね」

「はあ」

 今まで伝書鳩の気持ちを考えた事も無かったけど、少しは分かったような気になった。

 それでも、仕事は仕事か。

「そんなにこれって大切?普通に回覧して終わりじゃ駄目なの?」

「旧連合関係者の武器の所持と、クラブハウスの使用許可。傭兵の身分保障。これはすなわち、学内に新たな武装集団が登場するのと変わらない。というのが、生徒会と学校の見解ね」

「でも」

「そのために、ガーディアンやSDCの許可も求めている訳。万が一の場合は、あなた達を鎮圧するという覚え書きにも」

 淡々と説明してくれる北川さん。

 そこまでの事情があったとは知らなかった。

 というか、自分で鎮圧されるためのサインを集めていた訳か。

「なんか、相当間の抜けた事をやってたんだね」

「その代わり、武器の所持やクラブハウスの使用は認められるんだろ。だったら、いいじゃないか」

 現実的な事を言ってくるショウ。

 それももっともだし、今更無しにしてくれという性質の話でもない。

「失礼します」

 丁寧な物腰で執務室を訪れる数名の男女。

 彼等は全員書類やバインダー、DDを携えている。

「予算編成局からの修正案。1~3月の警備計画の概要、こちらが先週のトラブル発生件数とその概要。中等部との合同練習の内容については、こちらを参照して下さい。またプロテクターの新型について、メーカーの方が今日中にお会いしたいとの事です」

「分かったわ。それ以外は」

「旧連合の動向に関する情報が、情報局から届いています。各棟の隊長クラス及び自警課との合同会議になるかと思います。その際戦術面のレクチャーを、草薙大学の国際学部教授……」

 説明を聞いてるだけで疲れてきた。

 しかし北川さんは至って落ち着いた様子で、話を聞きながらメモを走らせている。

「分かった。後で、またお願い」

「かしこまりました」

 無駄口を叩く事無く、また礼を失する事もなく出ていく男女。

 北川さんは書類に目を通し、改めてメモを走らせた。

「忙しそうだし、私達はこれ届けてくるね」

「ごめんなさい。SDCにはこちらから連絡しておくから」

「分かった。仕事頑張って」



 でもって私の仕事といえば、書類一枚届けるだけ。

 とはいえこの程度でめげるなら、サトミやモトちゃんとは付き合ってられない。

 いいのよ。私は自分の出来る事をするんだから。

 SDCの本部前にも、警備というか大男が立っている。

 ある意味ガーディアンのオフィス以上に危険な場所だが、度胸試しにはもってこいの場所なので。

 ただし、大抵の人間はこの門番の前にひれ伏すだろうな。

「こんにちは」

 さっきの事もあるので、多少友好的に切り出してみる。

 どうやら私達については詳しくないらしく、無愛想にIDを渡すよう言ってきた。

 身元の確認も済んで、後は中に通るだけだ。

「っと」

 不意に出てきた足を軽々とまたぐショウ。

 転ばそうとしたんだろうけど、足の長さが違うって言うの。

 私なら、迷わず蹴り付けてるけどな。

「何か文句でもあるの」

 すでに今日は一度襲われているので、スティックを抜いて腰を落とす。

 この連中が、警備に化けた傭兵という可能性も無くはない。

「別に無いさ」

 なるほどね。

 ちょっと、アドレナリンが吹き出てきたよ。

 それでも無視して通ろうとしたら、後ろから声を掛けられた。

「代表に会えるからって、調子に乗ってるんじゃないぞ」

「何のコネを使ったんだ?」

「あの木刀女に、せいぜい媚びでも売ってろ」

 私個人に対してなら我慢出来る時もある。

 ただ、自分の大切な人を侮辱されてまで大人しくはしてられない。

 またそれは、ショウも変わりない。

「何だ、やる気か」

 振り返り、無言で革のグローブをはめたショウをあざ笑う男達。

 彼はやはり何も言わず、拳を何度か握り返した。

「それとも、女の前で格好付けたいのか」

「馬鹿にも困ったもんだな。この人数相手に勝てるとでも思って……」

 最後まで言い終える前に、中の一人が突然ショウへタックルを仕掛ける。

 不意を突いた、またそれなりに速い出足。

 だがそれは、ショウが膝を軽く上げる事であっさりと止められる。

「この野郎。よくもやりやがったな」

 あちこちから上がる、逆恨みの台詞。

 こうなってくると、この連中がSDCの人間ではない可能性も出始めてくる。

 仮にそうであっても、許す気は無いが。


「楽しそうだけど、何かあった?」

 木刀を担ぎ、本部の玄関から出てくる右動さん。

 彼の姿を見て、男達は一斉に姿勢を正す。

 この態度からするとSDCの関係者のようだが、今となっては関係ない。

「ケンカは、ここ以外の場所でやってもらえると助かるね」

「そこの人達に言って下さい。私達は、ただ通ろうとしただけです」

「嘘言うな。お前達が、いきなり殴りかかってきたんだろ」

 訳の分からない事を言い出す一人の男。

 それに合わせて、仲間も同意の声を上げる。

 目撃者は無く、各自の自主申告に頼るしかない状況。

 また証言の数は、人数上向こうの方が圧倒的に有利。

 初めから口裏を合わせている可能性だってある。

「なるほどね」

 何度か頷き、木刀を担ぎ直す右動さん。

 彼はSDC代表補佐で、立場は男達側。

 仮にさっきの男達の悪口をここで言い立てても、大した判断材料にはならないだろう。

 あるのは一人の男が地面に倒れ、それはショウが倒した事だけだから。

「じゃあ、彼を一発殴れ」

 仲間に助けられて起きあがった男に、そう告げる右動さん。

 思わずスティックへ手を伸ばすが、ショウに目線で制される。

「ただし、顔じゃなくて腹に。それで、とりあえず気は済むだろ」

「ええ、まあ」

 不承不承といった感じで呟く男。

 しかしその顔には、してやったりという表情が浮かぶ。

「ちょっと、そんなふざけた」

「ここはSDCの本部前。ガーディアンの権利よりも、俺の意見が尊重される」

 右動さんは事務的に台詞を言い終え、男に殴るよう促した。

 ショウは何も言わず、ただその一撃に備えている。

「へ。馬鹿が」

 振りかぶり、思いっきり打ち込まれる右の拳。

 ショウは表情も変えずそれに耐え、右動さんへ頭を下げた。

「これに懲りたら、少し大人しくするように。代表が待ってるから、早く中へ入って」



 理不尽という言葉しか思い付かない判断。

 組織という面においては、ああいう決定が正しいのかも知れない。

 自分達の組織を守るためならば。

 だけど人には、組織以上に大切な物があるんじゃないのか。

「何よ、あれ」

 エレベーターの前に立ち、何度となくボタンを押す。

 押しても降りてこないので、もう一度押す。

「落ち着け」

 あくまでも冷静なショウ。 

 殴られたのは彼で、鶴木さんのために男と戦ったのも彼。

 その彼が怒らないから、余計に腹が立つ。

「だってさ。あんな事、あっていい?」

「俺が大人しくすれば良かっただけだ。右動さんが言ったように」

「そうかな」

「怒るのは大事だけど、いつでも暴れればいい訳でもない。そういう事じゃないのかな」

 冷静な、しかし醒めすぎている訳ではない。

 自分の感情、今の状況、自分達の立場。

 それらを考えた上での、彼の考え。

 知らない内に、すっかり大人になっていたようだ。

「そうなんだけどさ」

 彼の成長は嬉しいが、感情的に解決した訳ではない。

 第一今回は対象が私達だからよかったものの、気の弱い人であればなすがままになる事だってある。

 あの連中が一番の問題だが、それを放置しておくのも同罪じゃないのか。

「エレベーター来たぞ」

 中へ乗り込み、ドアを開けたまま待っているショウ。

 仕方なく私も乗って、苛立ちを抑えつつ表示の切り替わっていくコンソールを眺め続ける。



 最上階で降り、無言で誰もいない廊下を歩く。

 通路は枝分かれしているものの、ショウが先を歩くので迷う事はない。

 後は覚え書きを届けて、早く帰るだけだ。

「ここか」

 分厚い金属製のドア。

 その左右に立って警備する数名の女性。

 私語を交わす事もなく、また私達に敵意を向けてくる事もない。

「済みません。代表にお会いしたいのですが」

 ショウが差し出したIDを受け取り、専用の端末でチェックする女性。

 彼女はすぐに笑顔を浮かべ、内部と連絡を取った。

「お待たせしました。中へどうぞ」

「ありがとうございます」

 丁寧に頭を下げる女性達。

 私達もそれに応え、執務室へと足を踏み入れる。



 そこに待っていたのは鶴木さん。

 彼女は軽く手を振り、覚え書きを出すよう促してきた。

「サインお願いします」

「はい、ご苦労様。後は、こちらで総務局へ提出しておくわ」

「私達は、もう帰って良いんですね」

「愛想無いじゃない。どうかした」

 怪訝そうに尋ねてくる鶴木さんだが、入り口であった出来事を話しても仕方ない。

 もう済んだ話だし、思い出すのも馬鹿らしい。

「四葉君」

「別に、何も」

「つれないわね、あなた達。大体、私が何も知らないと思ってるの」

 静かに立ち上がり、机に立てかけてあった木刀を手に取る鶴木さん。

 彼女はそれを腰に提げ、ため息を付いて私達を見てきた。

「玄関先で、警備の人間と揉めたでしょ」

「揉めましたよ。それが、何か」

 反発気味に答え、こちらもスティックに手を触れる。

 その事でまだ何か言うようなら、私にだって考えがある。

「そういうのが良くないって、右動君に言われなかった」

「言われましたよ。でも」

「だから、事情は知ってるの。私のために揉めたのは嬉しいけど、少しは我慢するのも覚えなさい」 

 優しく諭してくる鶴木さん。

 しかしそれは過去何度となく言われた話で、簡単に納得出来る話では無い。

「暴れて良い事なんて、何もないでしょ」

「私達を試したんですか」

「まさか。ただSDC内には、私に反発してるクラブや人間もいるの。今日はたまたま、そのクラブが警備担当だっただけよ」

 知らされるSDC内の事情。

 そういった状況内で彼女が職務に励んでいるのは理解出来た。

「私の愚痴を聞きたくないし、そのトラブルに巻き込まれたくも無いでしょ」

「だからって、言われっぱなしで良いんですか」

「力尽くで抑えても、決して根本的な解決にはつながらないの」

 言いたい事は分かる。

 力が全てではないし、それを肯定するなら学内は弱肉強食の世界になる。

 ただ、それを無しに何かを成し遂げられるという発想は私にはない。

 少なくとも目の前で起きている事に対処するためには、例え何を言われようと力を振るう必要があると思っている。

「通じないって顔ね」

「正論なのは理解してます」

「力尽くで解決してたら、学校に鎮圧されるいい口実でしょ」

「そのために、なすがままにされて頭を下げ続けるんですか」

 多少維持になって反論をする。

 自分でも鶴木さんの方が正しいのは理解しているし、またそれが大人の対応であり求められるべき行動だろう。

「いつまで経っても落ち着かないというか、成長しないというか」

「悪いんですか」

「それは私が判断する事じゃないわ。少し、外で頭を冷やしてきなさい」


 執務室を後にして、屋上へとやってくる。

 旧クラブハウスとは違い熱田神宮は見えないが、学内の建物やグラウンドが一望出来る。

 夕暮れの迫る学内。

 全てが薄い赤へと染まりつつあり、屋上の床にも私の影が伸びていく。

 屋上にいるのは自分とショウだけ。

 そしてやり場のない怒りを抱えているのは、自分だけか。

 こうなると何に怒っているかも分からなくなってくる。

 自分は一応、鶴木さんのためにあの男達と対峙した。

 ショウはそのために戦った。

 でも右動さんはそれを止め、彼を罰した。

 しかも鶴木さんは、私達が悪いような事を言ってくる。

 影は薄くなり、冷たい風が体へまとわりつくように吹き付けてきた。

「寒い」

 側に立っていたショウに一言言って、屋上の出入り口へと向かう。

 心は確かに冷めたが、むしろ気分が悪くなっただけだ。


 階段を下りて最上階、つまりは代表の執務室があるフロアへとやってくる。

 ここの通路を歩くのは気が進まないが、建物の外へ出るには反対側にあるエレベーターまで向かう必要がある。

 無言で通路を歩き、小さくため息を付く。

 紙を一枚届けただけの事。

 その結果が、この憂鬱な気分。

「何してるのかしら」

 不意に掛けられる声。

 一瞬鶴木さんかと思ったが、視線の先に立っていたのは黒沢さん。

 そう言えば彼女は次期代表で、このフロアを利用する機会も多いだろう。

「別に」

「そういう顔には見えないんだけど。外で揉めた事と関係ある?」

 意外にストレートな質問。

 事情を知ってるなら否定する必要もなく、とりあえず頷く。

 黒沢さんは少しだけ笑い、私に付いてくるよう促した。



 彼女の案内でやってきたのは、こじんまりした殺風景な部屋。 

 いや。決して狭くはないんだけど、狭いというイメージが脳裏に浮かんだ。

 大きな机と、本の収まった棚。

 ただそれだけの、味気ない室内。

 だけどこの部屋は、こうでなければいけないのかもしれない。

 三島さんが使っていた、この部屋は。

「今は、黒沢さんが使ってるんだ」

「以前は代表補佐執務室だったみたい」

「三島さんでしょ」

「ええ。私はあまり面識は無いけれど」

 そう告げる黒沢さんだが、ここの内装を変えるとか家具を追加する事は無いらしい。

 元のままで保存したいという後輩達の気持ちか、彼女の何らかの決意の表れなのか。

 唯一違うのは、机の上に置かれたフォトスタンドだろう。

 移ってるのは、陸上部のメンバー。

 それも少し古い、私が一時的に在籍していたころの写真。

 よく考えると、この時も私はガーディアンではなかったな。

「……ちょっと待って。黒沢さんって、陸上部?」

「え。なにが」

「いや。陸上部だよね。そう、陸上部」

「大丈夫?」

 困惑気味な視線を向けてくる黒沢さん。

 そんな彼女に笑いかけ、自分の浅はかさを痛感する。

 力尽くでの解決が必要な時もあると、私は思っていた。

 例えばさっきのような場面では、特に。

 でも彼女は陸上部。

 格闘技に精通している訳ではなく、体力はあるだろうが力で押さえつけるなんて事は不可能だ。

「代表なんだよね。新年度からは」

「一応、選出されたので」

「大丈夫?」

「大丈夫って、その自信が無ければ引き受けてないけれど。どうかした?」

 意味が分からないという顔。

 少し説明が足りなかったか。

「格闘系のクラブが文句を付けてきた時、どうするの」

「話し合いをするだけでしょ」

 事も無げに言い放つ黒沢さん。

 自信と信念と、誇りを感じさせる態度。

 今の私には眩しい姿。

「いや、違う。前に涼代さん……。室内陸上部の部長が代表だったけど、その時は三島さんが後見人みたいになってた」

「ああ、そういう心配。基本的にどのクラブも協力を申し出てくれてるから、問題はないわよ」

「そうかな。現に私は、入り口で揉めたよ」

「例外はどこにでもあるし、それは一つずつただせば良いだけじゃない」

 あくまでも冷静で、落ち着いた態度を崩さない黒沢さん。

 この自信がどこから来ているのかは分からないが、私よりも強い信念を持っているのは間違いない。

 ただ、信念だけでどうにかなるとも思ってはいない。

「分かった。私も協力する」

「え」

「何かあったら、私かショウに言って。片っ端から懲らしめる」

「あなた。鶴木さんや右動さんに説教されたんでしょ」

 呆れ気味に言ってくる黒沢さん。

 だけど少し嬉しそうに、そっと私に向かって手を伸ばしながら。

 私はその手を軽く握り返し、ショウの肩に触れた。

「そう、そうだよ。人は人、自分は自分じゃない」

「反省って言葉、知ってるか」

「どこかにはあるのかもね」

「もう知らん」

 あっさり見捨てられたが、それを気にしてる暇はない。 

 今するべき事はただ一つだけなのだから。

「今日の、玄関の警備はどのクラブ」

「空手部。流派がこれね」

「やっぱり。ショウと相性が悪い訳だ」

「ああ、俺が悪かった」

 おざなりに答えるショウの背中を叩き、エレベーターへ向かうよう促す。

 そうと決まれば、もうここに用はない。

「文句を付けに行くとか言うなよ」

「さすが、良く分かってるね。黒沢さん、また今度」

「雪野さん、ちょっと待って」

「待たない。私はもう迷わない」



 格好を付けたつもりだったが、部室の場所が分からない。

 つまりは、いきなり迷ったのよ。

「分かってる。手は出さない。でも、口は出すからね」

「冷静に対処してよ、絶対に。玲阿君も」

「俺は基本的に冷静だぞ」

「裏切り者」

 ショウの背中を軽く突き、とりあえずストレスを発散させる。

 黒沢さんはため息を付き、柄の悪そうな男達がたむろしている廊下を指さした。

「ここの一番奥。揉めないでよ」

「大丈夫。多分ね」

「俺は冷静だぞ」

 もう良いんだって。

 周囲から敵意を露わにした視線を感じはするが、挑発的な行為にまで及ぶ事はない。

 また彼等は黒沢さんと目を合わせようとせず、彼女が通るとそれとなく道を空けていく。

「脅してるのは、自分じゃないの」

「さあ。もう一度言うけど」

「揉めないんでしょ。分かってる」

 疑わしそうに見てくる彼女へ手を振り、先を急ぐよう促す。

 さすがに私でも、さっきの今で暴れる訳がない。

 ただ、さっきの件に関して私達に非は無い事。

 それを伝えたいだけだ。


「もう一度言うわよ。絶対に揉めないで」

「大丈夫」

 小指を動かし、約束するとの意志を伝える。

 黒沢さんはため息を付き、ドアの前に立っている大男へ声を掛けた。

「部長か副部長か。責任者に会いたいんですが」

「いや。今はちょっと、忙しくて」

「急を要する案件はありませんよね」

「いや。しかし、それは」

 しどろもどろになって答える大男。

 黒沢さんは埒が開かないと判断したのか、彼等にどくよう手を振っておそらくはマスターキーの役割を持つカードをスリットに差し入れた。

「お邪魔します。代表補佐の黒沢……。ですけど、一体何をしてるんですか」

 部屋の中から聞こえる、黒沢さんの呆れ気味の声。

 それに続くのは、聞き慣れた声の言い訳。

 なんか、入るのを止めたくなった。

「もしかして」

「そう。もしかしてよ」

 腰に手を当て、足を踏みならす黒沢さん。

 その隣で、木刀を肩に担いでいる鶴木さん。

 冗談抜きで、めまいがしそうだ。

「あのね。さっき私にあれだけ言っておいて」

「それはそれ。これはこれ。SDC代表としては見逃しても、鶴木真由としては放っておけないのよ」

 腰を引き気味に、しかし敢然と言い放つ鶴木さん。

 その足元には、正座をして顔を伏せる大男達が並んでいる。

「で、これは」

「私に勝てるって言うから、1対5で勝負してあげた。剣道三倍段なんて、嘘だって言うし。大体私は剣道じゃなくて、実戦流剣術なのよ」

 そういう問題なのか。

 本当、来るんじゃなかったな。

「鶴木さんは、もうお帰り下さい」

「何よ、それ。私に命令する気」

「駄々をこねないで、お願いします」

「あ、そう。それと文句があるなら、ここだろうと道場だろうとどこでも相手になるわよ。次はこのくらいで済むと思ったら……」 

 鶴木さんを強引に部屋の外へ押し出し、ドアを閉める黒沢さん。

 彼女はため息を付き、正座している男達に立つよう声を掛けた。

「今回はこれで済みましたけど、次は本当にどうなるか分かりませんよ」

「お、俺達はただ、冗談で」

「その冗談がこの結果を引き起こしたんです。少しは自重して下さい」

「あ、ああ」

 小さくなって頷く男達。 

 黒沢さんは明るく笑い、室内中に響く位の音で手を叩いた。

「この件はこれで終わり。はい、お疲れ様でした」



 受取証をもらい、ようやく旧クラブハウスに戻ってくる。

 いつの間にか日は落ち、照明は灯っているが物悲しい雰囲気が漂っている。

「揉めなかったでしょうね」

 棚の本を整理しながら尋ねてくるサトミ。 

 その背中からは、怒りのオーラが漂ってくる。

「ど、どうだろうね」

「ショウ」

「俺はいつでも冷静だ」

「冗談は聞いてないのよ」

 氷の刃を思わせるような口調。

 しかしその背中は、活火山のような怒りを湛えている。

「だ、だってさ。向こうが」

「正座」

「あ?」

「正座だな」

 大人しく正座するショウ。

 私はショウを睨み付け、サトミの背中には舌を出して床にしゃがみ込んだ。

「ユウ」

「何よ」

「言って欲しい?」

 どうやら後ろにも目が付いてるらしい。

 仕方ないので床を手で払い、だらだらと正座する。

 そこでようやくサトミが振り返り、掃除をしていたのかはたきを私の鼻先へ突きつけてきた。

「何考えてるの」

「だから、向こうが悪いんだって。ショウに足掛けてきて、しかも鶴木さんを馬鹿にしてきたんだよ」

「ユウの気持ちは分かるけど、SDCと対立している場合じゃないのよ」

「いや。違うね。私は間違ってない」

「まず、根拠を言ってからにして」

 ため息を付き、頭を抑えるサトミ。

 私は横座りになって、奥で仕事をしているモトちゃんと木之本君を指さした。

「サトミだって、あの二人を馬鹿にされれば黙ってないでしょ」

「それとケンカをするのと、どう関係があるの」

「我慢するのも大事だけど、それが全てじゃない。私はそう悟った」

「前からそうじゃない」

 それもそうか。

 やっぱり私は、間違っていなかった。

「ショウは」

「ちょっと、やりすぎたかな」

「へぇ」

 思わず戸惑いの声を出すサトミ。

 私も隣で正座しているショウをじっと見つめる。

 変に落ち着いているというか、物分かりが良いというか。

 本当に悟りでも開いたのかな。

 もしくは熱があるかだろう。

「風邪でも引いてるの」

 私と同じ感想を漏らすサトミ。

 それにはショウもむっとした顔をして、あぐらを掻いた。

「俺だって、少しは変わる」

「この前傭兵と大ゲンカしたのは、誰だった」

「変わったんだ」

「それならいいんだけど。らしくないわね」

 そう言い残してモトちゃんの所へ向かうサトミ。 

 私は足を揉みながら起き上がり、真上からショウを見下ろした。

 別に外見は変わって無くて、髪は未だに短め。

 凛々しさを増したかもしれないが、それは以前からか。

「何だよ」

 見とれてたとは言わず、もごもご呟きその短い髪を引っ張ってみる。

 長い時も良かったけど、これはこれで良く似合う。

「何してるんだ」

 また見とれてたとは言わず、今度は笑ってごまかす。

 もしかして、一生こうして過ごせるかも知れないな。



 無論それだけでは生きていけないので、夕ご飯を食べに行く。

 学内の食堂も良いが、外で食べたい気分の時もある。

 幸い学校の周りには学生客を目当てにした飲食店が数多くあり、料金もリーズナブル。

 私達が入ったのは、食べ放題の回転寿司屋さん。

 とりあえず鉄火巻きを確保して、一つ食べる。

 海苔の風味と酢飯の酸味、マグロの味が合い重なって言う事無い。

 この後にお茶を飲んだ日には、天国へ一歩近付いた心境になる。

 なんか、これだけでもう十分の気分だな。

「ちょっと」

「何だよ」

「選んで取ってる?」

 答えないショウ。

 彼の手は、流れてくるお皿を掴んでは戻すの繰り返し。

 その間に食べる動作が含まれるため後ろにも流れてはいくが、特定のネタを選んでいるとは思えない。

「カッパ巻き、好きだった?」

「嫌いじゃない」

 かなり間の抜けた答え。

 大人になったと思ってたけど、やっぱりただの勘違いだ。

「どうかした」

 中トロの皿を手に取りながら尋ねてくるモトちゃん。

 それを狙っていたとは言わず、ショウの事を告げてみる。

「大人?もう17才だし、そういう事もあるんじゃなくて。ねえ、木之本君」

「元々大人だよ、玲阿君は」

「そうかな」

「そうだよ」

 にこやかに答える木之本君。

 この子はショウシンパというか善人トリオなので、いまいち信頼性に欠ける。

 何より、ケイを褒めるような子だしね。

「それもあるんだけど。私達は上下関係ってどうかな」

「上下関係?」

「今日沙紀ちゃん達と会った時、ちょっと思ってね。あの子達は組織内上下関係や規則を大切にしてるから」

「私達にも規則はあるじゃない」

 上下関係があるとは言わないモトちゃん。

 木之本君は苦笑して、さりげなく彼女を指さした。

「一応、元野さんがリーダー格なんだけどね。責任者でもあるし」

「あのね。私はただまとめ役をしてるだけよ。第一、命令なんてしないし」

「でしょ。私達は友達だからって考えても、やっぱり違うんだよね。沙紀ちゃんは、北川さんに敬語を使う時もあるし」

 確かに役職としては北川さんの方が上で、指示命令を下す側。

 とはいえ彼女達は同い年であり、中等部の頃からの友達。

 それでも沙紀ちゃんは敬語を使い、周りもそれを普通に受け止めている。

「組織として確立してるのよ。私達は、その辺が曖昧だから」

 やはりモトちゃんを指さすサトミ。

 私から見てもリーダーは、やはりモトちゃん。

 ただそれは絶対ではなく、彼女が自分で言っているようにまとめ役。

 全体を見渡し、フォローするという。

「悪い事なの、それは」

「今までは問題なかったけれど、これからはどうかしら。統一した意見、統一した行動を取りたい時。誰かが指示を出して、それに従う体勢であれば組織としては強固になるから」

「その方が良いって訳」

「いい場面もあるでしょうね。自分は自分の好きなようにやる、では通じない相手だから」

 サトミの言う相手とは、つまり学校の事。

 個々人が自分の考えで好き勝手に動いてどうにかなるとは私も思えない。

 ただそれが私達の持ち味であり、長所の気もする。


「難しいな」

「参謀に聞けば」

 くすくす笑う木之本君。

 サトミの事かと思ったが、彼女には今話を聞いていた。

 そうなると誰を差しているかは自ずと分かる。

「ケイこそ、個人主義の典型じゃない。上下関係なんて言葉知ってると思う?」

「どうだろう」

 冗談っぽく小首を傾げる木之本君。

 彼でなくても小首を傾げるか首を振る。

 良い悪い以前に、彼が役職に関する上下関係を尊重する意思があるとは思えない。

 塩田さんに敬語を使ったり指示を受けるのは、あくまでも彼に敬意を示しているから。

 もし彼が上下関係を重視するなら、今でも生徒会に残って少しは出世もしているはずだ。

「ショウはどう思う」

「甘い物が食べたいな」

 黙って、彼の小皿にわさびを盛る。

 いっそ毒でも持ってやろうかな。




 翌日。

 登校してくる生徒の数は普段通り。

 テスト後とは思えない人数で、例の出席率がかなり効いている様子。

 そして今気付いたが、正門の前に警備員さん以外の人間が立っている。

 スーツ姿の大人が数名、制服を着た生徒が数名。

 制服着用を促す連中かと思ったが、なんとなく雰囲気が違う。

 見ていると派手な服装の生徒に声を掛け、何か紙を渡している。

 ちなみに私は制服姿のため、声を掛けられる事なく正門を素通り出来た。


 正門をくぐったところで立ち止まり、小さなビラを手にした女の子に声を掛ける。

 ピンクのショートに、すり切れた黒の革ジャン。

 下は穴が開きまくったジーンズで、ブースも所々破れが目立つ。

「あのさ。どうして声掛けられたの」

「これなんですけど」

 意外に敬語で返してくる女の子。 

 人間、見た目で判断してはいけないな。

「登校時における、好ましい服装。制服を基本として下さい。またそれ以外の場合は落ち着いた服装を選び、高価な装飾品は身に付けないようにしましょう」

「何でしょうね、これ」

「私に聞かれてもね」

 苦笑気味にビラを返し、「パンクだぜ」と突然呟いた彼女と距離を置く。

 タイヤのパンクではないだろうし、これ以上深い関係にならない方が良さそうだ。

 見ていると、ビラを受け取っているのは派手な身なりの生徒ばかり。

 管理案の一環とは理解出来るが、スーツ姿の男性はおそらく職員。

 生徒が正門に立つのは珍しくないが、職員が立つのはイベントや入学式などでしか見た事がない。

 明らかに良くない兆候だな。



 教室に入り、頬杖を付いてHRまでの時間を潰す。

 さっきの事を考えようとしたが、この時間は眠くて仕方ない。

 何かを思い付いてもすぐに消えて、元に戻る。

 それを繰り返し、気付くとショウが隣に座ってた。

「い、いつから」

「寝てるのか」

「そうかもね。ビラ、もらった?」

「ああ」

 彼が差し出してきたのは、お好み焼き屋さんのサービス券。

 いや。これも配ってはいたけどさ。

「そうじゃなくて」

「たこ焼きの方が好きだもんな」

「あのね。服装のビラ、制服着ろっていう内容の」

「ああ、それか」

 やはり出てくる例のビラ。

 彼の場合それほど派手な服装ではないが、その容姿から何を着ても華美に見える。

 ちなみに今日は、紺のスラックスに同じ色のスーツ。

 中は白のシャツ。

 別に、派手ではないな。

 似合いはするけど。

「どこに文句付けられたの」

「これ」

 襟元を引っ張り、中のネックレスを取り出すショウ。

 錆の浮いたシルバーで、やはり目立つ事はない。

 彼が身に付けていれば、また別だが。

「没収はされなかったの?」

「今回は注意に留めるって言われた」

「それで」

「これは俺の物だから、人には渡さない」

 そう言って、筆記用具を取り出すショウ。

 やっぱりこの人は格好良い。 

「はは」

 ぺたぺた彼の肩に触れ、その勢いでビラに落書きをする。

 とりあえず、猫でも書くか。

「何してるの」

「絵、書いてる」

「HR中よ」

「それがどうかした……。って言う子は駄目ですね」

 朗らかに笑い、バインダーが振ってくるのをどうにか防ぐ。

 キータイプの教師は怪訝そうな顔をして、私が書いていた落書きを手に取った。

「何、これ」

「服装チェックのビラ。どうにかして下さい」

「私は一介の教師で、何の権限もないの。猫を書いてる暇があるなら、英単語の一つでも覚えなさい」

 私が何を書こうと自由じゃない。

 なんて言えば再びバインダーが落ちてくるので、愛想良く笑ってこの場を取り繕う。

「服装、ね。戦前にでも戻ったのかしら」

 小声で呟き、ビラを持ったまま教壇へ戻る教師。

 彼女の言う通り、昔は規則がもっと厳しく処罰も頻繁に行われていたのだろう。

 でも、今は今。

 昔ではないし、そこに戻る必要もない。



 何となくその事を考えている間に、お昼休みがやってきた。

「そういえば、サトミは」

「いないな」

 メンチカツから目を離さないショウ。

 彼を睨んでお預けをさせて、食堂内を見渡してみる。

 というか、朝から見かけてないか。

「あの子も、出席率の話を聞いた後なのに平気で来ないんだね。モトちゃん達も」

「そうだな」

 唸り声を上げそうな顔になってきたので、食べるよう頷いてみる。

 ショウはソースをどばどばと掛け、キャベツだけでご飯を食べ出した。

 メンチカツを見てたのは、なんだったのよ。

「出席率と服装。後は何かな」

「生活態度だろ」

「漠然としてるね、それ」

 ショウのメニューは洋食セットで、今日は揚げ物。

 私は和食セットで、サバの塩焼きと茶碗蒸し。

 サバの半分をショウのお皿へ移動させ、茶碗蒸しを一口食べる。

 口の中で溶けるような出来。

 ダシの利き具合も申し分なく、これ一つだけでご馳走様と言いたいくらい。

「他は?」

「漬け物も欲しい」

 誰が、食べたい物を聞いたんだ。

 仕方ないので、大根の浅漬けも彼のトレイへ移動させる。

「そうじゃなくて、学校がやってきそうな事」

「学校に泊まるなんてのは、駄目だろ」

「遅くまで残るのも?」

「だろうな」

 なんか気のない返事。

 というか、どうしてメンチカツは食べないのよ。


「ここ、いいかな」

 トレイを持ってショウの隣に視線を向ける七尾君。

 彼の後ろには、土居さんも立っている。

「どうぞ。ショウ、七尾君」

「ああ、どうも」

 今度は彼がテーブルに置いたマーボー丼と担々麺のハーフセットに釘付けとなる。

 仕方ないので机を軽く叩き、すぐにそれを止めさせる。

「親だね、まるで」

「え」

「こっちの話。今日は二人だけ?」

 オムライスにスプーンを差し入れながら尋ねてくる土居さん。

 こっちはこっちで美味しそうだな。

「浦田君は入院中。遠野さんは?」

「多分、旧クラブハウスで何かしてる」

「大変だね、何かと」 

 気を遣うような発言をしてくる七尾君。

 脳天気なようで、意外と視野広く物事を見ている。

 ちょっと私達の周りにはいないタイプだな。

「浦田って、あの愛想のない?ドラッグの話はどうなった」

「土居さん、古い話をしないで下さい」

「悪かったね、噂に疎くて」

「浦田君がいないと何かと困らない?」

 苦笑気味に尋ねてくる七尾君。

 私は小首を傾げてショウを見やる。

「困る?」

「いても困る時もある」 

 なんだそれ。

 分かるけどさ。

「あれって、元生徒会だろ。そんなに出来が良いの?」

「土居さんは知りません?彼を退学させる秘密結社があるって」

「秘密結社はともかく、特定の生徒を退学させようとするグループの話は聞いた事がある。でも、あの子を退学させて何か得する?」

「それは、俺の口からは何とも」

 最後の部分は逃げる七尾君。

 ただ土居さんもそれ以上は追求せず、コンソメスープを口へ運んだ。

「ここの食堂は美味しいし、メニューが充実してるね」 

 感慨深げに呟く土居さん。

 そういえば彼女は、最近まで他校にいたはずだ。

「他の高校は違うんですか」

「食堂のない学校もあるからね。その場合は作れば済むんだけど」

「へぇ」

「作っちゃ悪いの」

 少し照れ気味に呟く土居さん。

 なんか可愛いというか、思わずこっちまで照れてくる。

「食堂があって寮もあって、備品が配布されて奨学金もらえて。良い学校だよ、本当に」

「土居さんは、管理案に賛成なんですか?」

「多少厳しくなるだけならね。自治と自由は違うんだし」

 冷静な発言。

 浮ついた部分はなく、事態の推移を落ち着いて判断している。

 つまりこういう見方もあるのだと気付かされる。

「北地区の人は冷静というか、落ち着いてますね」

「人によるよ。風間さんも北地区だし」

「あいつは例外」

 一言で切って捨てられる風間さん。

 誰に聞いても良く言わないと言うか、そういうキャラで通っているようだ。

 とはいえ本心から悪く言っている訳ではないし、信頼しているからでもあるのだと思う。

「だったら、北地区の人は基本的に管理案に反対しないんですか」

「少し規則が厳しくなるだけなら。あたしは総意を知らないから、断定は出来ないけど」

「少なくとも、土居さんの周辺は反対しないと」

「と思うよ。あんた達から見れば体制寄りでも、一般生徒からすればそれが普通なんだし」

 デザートのチョコババロアへ手を伸ばす土居さん。

 それを聞くと、私達が非常に浮いた存在にも思えてくる。

「少しは気が変わった?」

「全然」

 すぐに答え、洋梨入りのショートケーキを口へ入れる。

 抑えめの甘さと柔らなスポンジの感触。 

 やや物足りない口当たりだが、それに対した不満はない。

「自由でいいよ、あんた達は」

 苦笑して食べ終わったトレイを持って去っていく土居さん。

 七尾君も席を立ち、私達に手を振った。

「敵に回るとか、そういう事じゃないからね」

「あ、うん」

「ただ、俺達は一応生徒会の組織だから。その辺も覚えておいて」




 少し重さを感じながら、午後の授業を受ける。

 いつもなら半ば自習。 

 しかし出席率の通達があったためか、普段通りの授業が淡々と行われている。

 それをぼんやりと聞きつつ、ノートに名前を書き連ねる。

 こうしてみると、生徒会の大半は北地区で占められていると理解が出来る。

 しかも書き出したのは自警局が中心で、私の知らない他局を加えればそれはより明確になるだろう。 

 今更地区がどうとは言わないが、ネックの一つになる可能性もある。

 この辺はサトミ達も考えてるから問題はないとしても気にはなる。

「授業終わったぞ」

 リュックを背負いながら声を掛けてくるショウ。

 教壇に教師の姿はなく、クラスメートも教室を後にしているところ。

 ノートを見ると意外に授業内容が書き込まれていて、ただ内容をあまり覚えていない。

「大丈夫。なんとかなる」

「え、何が」

「何もかも」

 根拠もなく言い切り、筆記用具をリュックへ入れて席を立つ。

 少なくとも今時点では問題ないし、なったらなっただ。

 私に出来るのは考える事ではなく、行動する事なんだから。













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