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スクールガーディアンズ  作者: 雪野
第29話
319/596

エピソード(外伝) 29-3   ~丹下さん視点~






     心揺れて   3




 少し浮き立つ気分。

 薬の匂いと、白衣の医師達。

 パジャマ姿の入院患者。

 そういう気分になる場所ではないが、こればかりは仕方ない。

 以前浦田が入院していた時は、殆ど付きっ切りで看病をしてた。

 今回はあそこまで重症ではなく、その分私の気持ちも軽い。

 何より、病院とはいえ二人きり。

 前はなんとなく、お互いの距離が近くなったような気になった。

 だったら今回と思うのは、少し不謹慎だろうか。



 個室のドアをノックして返ってきたのは、彼ではなく女性の声。

 可愛らしい、ただ聞き馴染みのある。

「こんにちは」

 遠慮気味に部屋へ入ると、彼の妹である永理ちゃんが出迎えてくれた。

 それ程不思議な事ではなく、むしろ当然。

 そう、当然だ。

「済みません。こんな子のために」

 無遠慮に浦田の頭を撫でる永理ちゃん。

 こうなると、どっちが兄で妹かという話になる。

「私、ちょっとお茶買ってきますね」

「あるよ、ここにも」

「兄さんも来るの」

 浦田のベッドで横たわっていた光君を引き連れ、永理ちゃんは苦笑しつつ部屋を出て行った。

 なんというのか、気の利く子だな。

「調子は、どう?」

「悪いよ」

 素っ気無く伝えてくる浦田。

 つまり口がきける状態で、会話の成り立つ精神状態。

 あの時は数日間、面会すら出来なかった。

「特に制限は受けてないんでしょ」

「病院からは」

 斜め右。

 ドアへと向けられる鋭い視線。

 ここの向かい側の病室には、公安警察が常駐している。

 マフィアの襲撃を名目としているが、実際は彼の監視らしい。

「何か、食べたい物でもある?」

「ドラッグとか」

 そう答え、口元に指を添える浦田。

 反対側の手が、ナースコール用の端末を覆い包む。

「盗聴されてるって事?冗談じゃ無いわよ」

「心配ない。その辺を防ぐプロは、いくらでもいる」

 至って平静な態度。

 プロというと、真理衣さん達だろうか。

「カメラは?」

「全部潰したよ。……どうぞ」

 病室に入ってきたのは、リュックを背負った木之本君。

 今言っていたプロという訳か。

「昨日置いていった装置で、盗聴器も妨害出来るんだけどね。レーザー式用に」

 彼がリュックから取り出したのは、どこにでもありそうな透明のガムテープ。

 それを窓枠に沿って、窓に貼り始めた。

「窓ガラスの振動防止。それと多少はレーザーを吸収拡散するから、これで大丈夫だと思う。……こっちかな」

 とことこと部屋の隅まで歩き、少しだけ色の変わっている壁に手を添えた。

 変わっていると気付いたのは彼が近付いたからで、そうでなければ気にも留めない。

「音を増幅して反射させるシートだと思う、多分。高いんだけどね、これ」

「じゃあ、持って帰れば」

「僕は、警察のお世話にはなりたくないから。……よしと」

 そこにもテープを貼り、見慣れない端末で部屋のあちこちにそれを向けていく。

「とりあえず、大丈夫。盗聴されてた方が、却って安心だとも思うけど」

「恥ずかしい年頃なんだよ、色々と」

「そう。じゃ、僕はこれで」

 私に一礼して、あっさりと帰っていく木之本君。

 何か、私を相当気にしている顔で。

「人の良い事だ」

「友達思いなんでしょ」

「友達、ね」

 かなりおかしそうに笑う浦田。 

 彼が木之本君を友達と認めて無いのではなく、木之本君が彼に対してという笑いだろう。


 どちらにしろ、これでようやく二人きりになれた。

 別に何かする事も無いけれど、こうして一緒にいるだけで。

「当たった、当たった。大当たりした」 

 いきなり部屋に飛び込んでくる光君。

 両腕で、ペットボトルを何本も抱えて。

「何だ、それは」

「お兄さん、連続して3本当てたの」

「自販機だろ、あれって連続して当たるのか?」

「君は、神を信じていないのかな」

 何やら大仰な事を言い出した。

 しかしこの人が少し普通ではないのも、多少は理解している。

 また永理ちゃんが嘘を付くとは思えないし、その理由もない。

 でも浦田の言う通り、続けて当たるようなものでもない。

「こいつはその内、年末の宝くじで一等を当てる」

 かなり真顔で言い切る浦田。

 予言や推測ではなく、そうある事が決まってるように。

「でもって、換金したその場で全額寄付する」

「そうかな?」

「そうなんだよ。当たったら、まずは俺に連絡しろ」

「当たったらね」

 かなり間の抜けた会話。

 どちらにしろ未来の話だし、こればかりはさすがに疑わしい。



 病室を出て、4人で自販機コーナーへとやってくる。

 さっきの話の実証ではないが、私も少しは興味がある。

 始めに永理ちゃんがボタンを押し、普通にお茶が下から出てくる。

 私がやっても同じ事。

「そろそろ、確率的には」

 そう言いつつ、ボタンを押す浦田。

 当たるどころか、ペットボトルが落ちてこない。

「おい、この野郎」

「人を見るんだよ」

「見るって、自販機だろ」

「僕は優しいよ」

 自販機を愛おしそうに撫で出す光君。

 ちょっと嫌というか、気味が悪い。

 それでペットボトルが落ちてきたと来ては、背筋が寒くなってきた。

「振動で、詰まってたのが落ちたんだろ」

「人を信じないというのは悲しいね」

「だから、自販機だって」

 さっき同様の、間が抜けた会話。

 双子というのは、こういう物なのだろうか。

「じゃ、僕も買おうかな」

 無造作にボタンを押す光君。

 ペットボトルが下から落ちてきて、その直後再び全てのボタンが点灯した。

「はは、当たった」

「まだ、カードが入ってるだろ」

「残金はないよ」

 実際小さなディスプレイには残金が0と表示されていて、さっき差し入れたカードは自販機から出てこない。

 宝くじは、今すぐにでも買わせた方がいいだろう。



 結局二人きりになる事もなく、家へと帰る。

 寮よりもこちらの方が近く、また料理を持って行くには何かと便利なので。

 今日はばたばたしていて、料理を渡しただけで終わってしまったが。

「何してるんだ」

 木刀を担いでやってくる真輝。

 それはこっちの台詞だと思いつつ、料理雑誌のページをめくる。

 特に興味を惹かれるような料理はなく、ありきたりで無難な物ばかり。 

 そういうの物でもいいんだけど、どうもインパクトに欠ける。

「病院でも、ご飯は出るんだろ」

「出るわよ」

「ふーん」

 意味ありげな顔。

 何か文句がありそうにも見える。

 どうもこの子は、浦田の事が気にくわないらしい。

「暇なの?」

「いや。別に」

 そう言う割には私の側から離れず、しかしそれ程近付いても来ない。

 姉が恋しい年頃でもないと思うが、実際はどうなんだろう。

「お姉ちゃん」

 真輝とは対照的に、飛びつくようにして私の隣へ座ってくる愛輝。

 彼女の場合は、性格的な部分もあると思うが。

「もう冬だし、セーターでも編めば?」

「何、それ」

「楽しそうじゃない」

 朗らかに笑う愛輝。

 恋いに恋する年頃。

 その手の話題が一番楽しい時期か。 

 愛輝を見ていて、ふと木村君を追いかけていた頃の自分を思い出した。

 あの頃は我を忘れていたというか、それを中心に回っていたかも知れない。

 苦くもあるけれど、今となれば良い思い出だ。

「それか料理より、お菓子は?病院だと果物とか、安っぽいヨーグルトくらいでしょ」

「お菓子。なるほどね」

 別な料理本を手に取り、ページをめくる。

 好き嫌いは無いタイプで、ただシンプルな物を好んだはず。

 普通にプリンとかでもいいんだろうか。

「俺も行こうかな、病院」

「調子悪いの」

「いや。全然」

 木刀を担ぎ直し、そう答える真輝。

 しかし愛輝に険しい顔で睨まれ、リビングから逃げ去っていく。

「本当、いつまで経ってもお姉ちゃんお姉ちゃんって」

「真輝が?」

「違う?」

「さあ」

 二人で首を傾げ合い、しかしすぐにその事を忘れてページをめくっては大騒ぎする。

 姉と妹だからこその楽しい関係。

 真輝がすねるのも、無理はないかも知れない。




 焼きプリンを作り、大事に持って病院へとやってくる。

 授業に出た後の、お昼少し前。

 昼食には間に合いそうで、早起きして頑張った甲斐はあったと思う。

 ドアをノックし、返事を待って中へと入る。

「こんにちは」

「お菓子を……」

「くれるのか」

 声を掛けてきたのは浦田ではなく、塩田さん。

 彼の周りには、大山さんと沢さん。

 天満さん。

 そして、凪もいる。

「通ってるの?」

 少し怖い声を出す凪。

 彼女も浦田に対して厳しい存在。

 こちらも対抗上睨み返し、焼きプリンの入ったバスケットを彼女に渡す。

「人数分はあると思うから」

「君の従兄弟は優しいね」

「あなた達がふざけてるから、私は仕方なく厳しくしてるだけよ」

「そう願いたい」

 カボチャプリンが良かったとか言いつつ、プリンを頬張る沢さん。

 食べ物にはこだわらない人だと思ってたけど、少し意外だ。

「小洒落た食べ物だな」

「ただの焼きプリンにしか見えませんけどね」

「プリンって焼くのか?」

「もういいです」

 彼等らしい会話をかわす、塩田さんと大山さん。

 プリンの味に詳しい塩田さんというのも、あまり想像は出来ないし。


 彼等だけで楽しそうだったので、病室を出て廊下にあるベンチに腰掛ける。

 体調は良さそうだし、マフィアの襲撃も無い。

 何もない、平和な日々。

 別に問題はない。

 私が、どうしてここに来ているかという疑問は沸いてくるが。

 とはいえ不謹慎な言い方かも知れないが、まだ入院したばかり。

 彼と二人きりになる機会は、どれだけでもある。



 そう思いつつ、今日はそういう事もなく家へと帰る。

 真輝は例により木刀を担ぎ、私の側を付かず離れず。

 愛輝は楽しそうに、私の隣で料理雑誌を開いている。

「パンは?」

「パン?」

 病院でも、朝はパンが出る事はある。

 食パンや、良くある菓子パンが。

「いいのかな」

「ホームベーカリーもあるし、簡単でしょ」

 何か彼女の言うままに行動している気もするが、決しておかしな事は言ってない。 

 パンか。



 これはそれ程丁寧にではなく、紙袋に入れて振りながら持ってくる。

 病院というのは決して楽しい場所ではなく、用事が無ければ避けて通りたいくらい。

 お見舞いというのはまだましな方で、病気や怪我で通うとなればこんな軽い気持ちでは来れないだろう。

 それでも多少は浮き立った気分でドアをノックし、中へと入る。

「こんにちは」

 待っていたのは、生徒会長。

 いや、前生徒会長。

 浦田とは個人的なつながりがあるようなので、お見舞いに来ているのだろう。

「何やら、大変だったようだな」

「そうなんですか」

 私も良くは分かってないし、分かっていても言えない事もある。

 前生徒会長とはいえ、彼の立場が鮮明でない以上迂闊な態度はこちらも取れない。

「彼の学内における存在感は、ますます増したという訳だ」

「本当に?」

「今回の件で学校を追われた傭兵は多いし、それに関わっていた生徒会関係者も生徒会を辞任している」

 それって、敵が増えたって事じゃないのか。

 ただ、かなり今更という話ではある。

「後は、執行委員会。あの組織を利しただけという見方もある」

「性質の悪い傭兵を、代わりに追い出したって事?」

「生徒会ガーディアンズとしてドラッグを撲滅したなら、彼等と対抗する組織としての存在感も上がったが。今回は彼の一人相撲で、しかも殆ど公にはならない。では誰にすがるかと言えば、執行委員会だろう」

 確かに、そう言う見方もあるか。

 生徒会長を退いたとはいえ、学内の混乱に関わる意志は十分にあるようだ。

「あまり長居しても仕方ない。良く、体を労るように」

「ご丁寧にどうも」

「君が学校にいないと、傭兵や執行委員会が他の的を探しにまわる」

 それは浦田の犠牲に、他の生徒が守られているという訳か。

 思わずむっとして彼を睨むと、前生徒会長は私を避けるようにしてドアへと向かった。

「ちょっと」

「人間には役割がある。彼には悪いが、そういう存在も必要だ」

「だったら、あなたは何をする訳」

「皮肉だな。役に立たないけど、何かを企んでると警戒させるのも一つの手だ」

 分かったような分からないような事を言い残し、病室を出て行く前生徒会長。

 大体、何しに来てたんだ。

「噛みつくなよ」 

 至って冷静に指摘する浦田。

 そんな彼にも文句を言おうと思ったが、今言われたばかりなのでさすがに止めた。

「いいわ。それより、これを」


 紙袋を差し出したところで、ドアが開く。

 ノックすらなく入ってきたのは柳君。

 彼は明るい笑顔を浮かべつつ、私の目の前を通り過ぎてベッドサイドに腰掛けた。

 何だ、それは。

「調子どう?」

「悪くないよ」

 いつにない穏やかな顔で語る浦田。

 私の気持ちは、穏やかではないが。

「ああ。丹下さん、こんにちは」

「こんにちは」

 低い声でそう挨拶し、彼と向き合う。

 向こうは不敵な笑みを浮かべ、浦田の腕をしっかり抱きしめた。

 なるほど、そうきたか。

「怪我人なんだから、あまり無理させるな」

 苦笑混じりにたしなめる名雲さん。

 しかし柳君はベッドサイドから降りようとせず、浦田もそれを止めさせようともしない。

 でもって、私を見る目は妙に鋭い。

 こちらも対抗上睨み返し、腰を落とす。

「何してる」

「いえ、別に」

 呆れ顔の真理依さんに紙袋を渡し、お茶を沸かしにキッチンへ行く。

 キッチンと言っても流しと電気コンロが一つあるだけの簡素な物だが、それでも病室内にあるのはかなり重宝するし贅沢だと思う。

 楽しそうな柳君達の会話を背に聞きながら、お湯が沸くのをじっと待つ。

 ああ、給湯器があるのか。

「ストレスが溜まってそうね」

 くすくす笑いながら隣へ並ぶ映未さん。

 そうなんですとは答えず、ティーポットにお湯を注ぐ。

「毎日来てるの?」

「いえ、そういう訳でも」

 すぐに分かる嘘を付き、彼女を避けてみんなの元へと戻っていく。

 何か居心地が悪いというか、やりにくいな。

「パン、美味しいね」

 朗らかに笑いながらクロワッサンをかじる柳君。

 両手でクロワッサンを掴んでいる仕草は愛らしいが、その見た目には騙されない。

「沙紀が作ったのか」

「ええ、一応。妹と一緒に」

 何とも美味しそうに食べてくれる真理依さん。

 これなら作った甲斐があると思っていたら、名雲さんがパンのはいっていた紙袋を逆さにしていた。

「あの、何してるんですか」

「もう無いかなと思って」

「え、全部食べた?」

「うん」

 うんって柄か。 

 というか、どうして全部食べるんだ。

 私と映未さん達は口にしていないし、浦田も柳君からクロワッサンを一口食べさせてもらった程度だと思う。

 何かが根本的に間違ってないか。



 結局私が帰る時になっても、彼等は残ったまま。

 何か釈然としない気持ちを抱え、家へと戻る。

 愛輝は楽しそうに隣へやってきて、料理雑誌をめくりだした。

「今日も駄目って顔だね」

「駄目ではないけど」

「スープなんてどう?ほら、スッポンスープとか」

 それは飛躍しすぎだ思うが、アイディア自体は悪くない。 

 水筒を使えば持ち運びも簡単だ。

「簡単に作れて、体に良いスープ。シジミスープだって」

 レシピを見ると作業としては茹でるだけで済み、時間も大して掛からない。

「じゃあ、買ってこようかな」



 スーパーの鮮魚売り場でシジミを買い、お母さんから頼まれた刺身の盛り合わせもかごに入れる。

「これは」

 真輝が指さしたのはやや時期の早いフグの刺身。

 多分この子が食べても美味しくないだろうし、予算が無い。

「このカニ、生きてる」

 腰を引き、私と真輝の腕にしがみつく愛輝。

 どうでも良いけど、何故この二人まで付いてきてるんだ。

「二人とも、もういいでしょ」

「たこ焼き買おう、たこ焼き」

「何言ってるのよ。鯛焼きに決まってるじゃない」

 私を挟んでやり合う二人。

 ケンカという程ではなく、仲の良い兄弟のコミュニケーションといった所。

 少し疲れてきたけれど。



 翌日。

 ドアをノックし、病室へ入る。

「こんにちは」

 一斉に挨拶をしてくる、草薙高校の制服を着た男女。

 知り合いではないが、顔は何となく覚えている。

「えと。生徒会の人達だった?」

「ええ。浦田さんが名誉の負傷をされたと伺いまして、お休みの所を申し訳ないと思いましたがお邪魔させていただいてます」

 やけに丁寧な、しかも大袈裟な挨拶。

 名誉の負傷って、一体なんだ。

 しかもベッドサイドには、書類が積まれてるし。

「それで、浦田さんのご意見は」

 ここにいるのは、以前の秋祭りで企画と運営を担当したメンバー。 

 どうやら今日は、彼に助言を求めに来たらしい。

「俺は病人だし、生徒会メンバーでもない」

「それは分かってます。で、幾つかの企業で賃金が低く抑えられてるんですが」

「個々人でクレームを付けても仕方ないから、全員でボイコット。後はそれっぽい書類を作って、相手の責任者なり親会社に送ればいい。この場合に大切なのは形式よりも、統一した意志だから」

 ため息混じりに答える浦田。

 彼等は真剣な顔で頷き、さらに別な相談を始めだした。

 どうやら当分終わりそうには無いようだ。


 一旦病室を出て、自販機でお茶を買う。

 当然ながら当たる訳もなく、大して飲みたくもないお茶が出てきただけ。

 ベンチに座り、それを傍らに置いてため息を付く。

 私は一体、ここへ何しに来たんだろうか。

「貴様、何してる」 

 顔を上げると、真野先生が不機嫌そうな顔で立っていた。

 そう言えば、第3日赤の外科部長とか言ってたな。

「いえ。友達のお見舞いに」

「あのジャンキーか」

 いつも通りの横柄な口調。

 思わず彼を見上げ、強く睨む。

 しかし向こうは少しも動ぜず、手にしたカルテをめくって鼻を鳴らした。

「医学部に進む動機は」

「動機?」

「国家試験では必ず聞かれるぞ。それとも、親が医者でもやってるのか」

 首を振り、今の問いを自問する。

 改めて言われると、少し困る。

 浦田の怪我、自分の怪我。

 それらが要因ではある。

 ただ、絶対という理由にやや弱い。

「金か」

「いえ。そういう訳でも」

「医者なんてきついし辛いし、人は死ぬし。儲かるのも開業医で、お前の所の病院。あそこの救命医は、超過勤務なんて当たり前だしな」

 何やら楽しそうに語る真野先生。

 彼もまた、思考が普通の人とは違うようだ。

「目的が無い奴は、大抵辞めていくぞ」

「救命医を?」

「医者をだ。免許を返上する訳じゃなくて、医療コーディネーターやカウンセラーに転職するんだが。そっちの方が給料も良いし、人を殺さなくて済む」

 再三出てくる、殺すという言葉。

 医者がどうしてそんな事をとも思ったが、ここは大病院。

 町の開業医とは違い、重篤な患者も大勢いる。

 また緊急外来もあるので、人の生死に関わるのは日常なのだろう。

「で、医者になるって?」

「ええ」

 大袈裟に肩をすくめ、看護婦を怒鳴りながら去っていく真野先生。

 あの人の人間性はとにかく、言っている事は決して間違ってはいない。

 目的。

 目的か。



 ドアをノックして、部屋に入る。

「誰も、いない?」

 いや。勿論浦田はベッドにいる。

 ただ、彼以外は誰もいない。 

 やや拍子抜けしつつ、水筒の中身を説明して窓辺に立つ。

 ここから見えるのは、大学に続く急な坂。

 その途中には、八事霊園。

 やや不思議な組み合わせではある。

「今日も、寒そうね」

「そうかな」

 欠伸混じりに答える浦田。

 彼は一日中病室の中。

 監視もされていて、以前のように抜け出すのも出来ないだろう。

「一つ聞きたいんだけど。どうしてガーディアンになったの」

「唐突だな。塩田さん達を退学するよう自警局の馬鹿に命令されて、スパイをやってた」

 それこそ唐突な内容。

 ただ、この話は以前聞いた事がある。

「それで」

「結局生徒会を首になって、その後はなし崩しに」

「目的はないの?」

「気にした事もない」

 この部分は語らない浦田。

 では、もう一つの事はどうだろう。

「信念は?」

「聞いた事もない」

 やはり予想していた答え。

 ただ、これでめげていても仕方ない。

「何よ」

「言っただろ、知らないって」

 逃げる彼の隣に座り、顔を寄せる。

 彼はすぐに顔を背け、今日の天気はなんて言い出した。

「真面目に答えてよ」

「いいだろ、どうだって。生きてさえいれば」

「誰も、そんな仙人みたいな事は聞いてないの。人として」

「意味が分からん」

 嫌そうに逃げる浦田。

 その手を掴み、引き寄せる。

「私は真剣に聞いてるの」

「何で急に。別に良いだろ、目的も信念も無くたって。猫がそんな事考えるか?」

「私達は人間でしょ」

「猫より人間が偉いって、誰が決めたんだ」 

 彼らしい言葉ではあるが、そうですかとは頷けない。

 ぐっと体を引き寄せ、顔を見据える。

「偉いとか偉いじゃなくて。ただ、漫然と生きても仕方ないじゃない」

「あのさ。目的を持って生きてる奴とか、信念を持って行動している奴なんて殆どいない。大抵は毎日の生活に追われて生きてるんだよ」

「じゃあ、生きれば良いじゃない」

「もう、意味が分からん」

 呆れる浦田。

 でもって怪我が痛んだのか、少し顔をしかめて体をよじった。

 その拍子に力の加減が代わり、大きく彼へと体が傾く。

「え」

「きゃっ」

 気付くと彼をベッドに押し倒し、その上に乗っていた。

 すぐ真下でだるそうに横を向いている浦田。

 その横顔を真っ直ぐ見据え、さっきの質問を繰り返す。

「だから、私達は」



 開くドア。

 入ってくる女性。

 そちらへ視線を向ける私達。

「邪魔、だったみたいね」 

 苦笑しつつ、花瓶に水を入れて花を挿す遠野ちゃん。 

 この落ち着きよう。

 間違い無く、聞いてたな。

 でも、盗聴も出来ないのにどうやって。

「いやっ。見ないで」

 気味の悪い声を出し、パジャマの襟を押さえながら身をよじる浦田。

 果物ナイフって、どこに置いたかな。

「盗聴した訳じゃないわよ。ドアの外から聞いてただけ」

「ああ、そういう事。そういう事?」

「防音設備は施してないから、耳を当てれば聞こえるわ」

 壁に耳を寄せる真似をする遠野ちゃん。

 何か、一気に疲れてきた。

「盗み聞きとは趣味が悪いな」

「急に入って、さっきみたいな事になってたら気まずいでしょ」

「それもそうだ」

 納得をしないで欲しい。

 大体、さっきみたいな事ってなんだ。

「スープ?」

 ラックの上に置いてあった小さな水筒を指差す遠野ちゃん。

 その瞳が鋭く輝き、口元が横に引かれる。

「すっぽんでも無いし、コンソメでもないし。カボチャの冷水スープってタイプでもないわよね」

 私ではなく、浦田を見ながらの指摘。

 しかし私には、それが余計に重いプレッシャーとしてのしかかる。

「シジミかしら」

「さあね」

「良かったわね、毎日美味しい物が食べられて」

 からかうような口調ではなく、優しく暖かな表情。

 浦田は何も答えず、ため息を付いてベッドに倒れた。

 それが少し気になったが、単に傷が痛んだか体調が悪くなっただけかもしれない。

「丹下ちゃんも大変ね」

「え、なにが」

「色々と」

 意味深な、ちょっと理解出来ない発言。 

 とりあえず曖昧に頷き、この場をごまかす。

 彼女もそれについては話を引き伸ばすつもりは無かったらしく、棚や引き出しを開けて書類などをチェックし始めた。

「停学の通知書は」

「最近は味気なくてね。メールが届いただけだった」

「退学なら、郵送されてるでしょ」

 聞き様によってはかなり物騒だが、二人が気にしている様子は無い。

 そこへ、新たな客が訪れる。


「こんにちは」

 天使もかくやという笑顔で部屋に飛び込んで来て、浦田の隣に座る柳君。

 私を見る目は例により鋭く、浦田の腕をひしと掴む。

「あれは」

「スープ。シジミの」

 私に代わって答える遠野ちゃん。

 中身を教えてはいないが、間違ってもいない。

「僕、飲みたい」

 純真無垢で、素直な笑顔。

 これを見て逆らえる人間がいる訳も無く、水筒を抱えてキッチンへ向かう。

 彼等の笑い声を背に受けながら。


 多少やるせなくなったので、病室を出て売店へとやってくる。

 別に欲しい物も必要な物も無いが、あそこに留まるよりはましだろう。

 場所柄雑誌や本のコーナーが充実していて、目に付いたタウン誌を手に取りページをめくる。

 自然と料理のコーナーで手が止まり、ついそこに見入ってしまう。 

 色んな意味で重症だな。

「ごきげんよう」

 あまり聞きなれない声と、聞きなれない挨拶。

 ふと顔を上げると、ブランド風のコートを抱えた綺麗な女の子が立っていた。

 確か、矢加部さんだったか。

「こんにちは」

 曖昧に微笑み、雑誌を棚へ戻して挨拶をする。

 彼女の実家は国内でも有数の大財閥で、正真正銘のお嬢様。 

 そういう部分を鼻に掛けている気はしなくも無いが、掛けない方がおかしい家柄ではある。

 ただ真理衣さんの実家も有名な財閥なので、人間性が関係しているのかもしれない。

「どなたかの、お見舞いですか」

「ええ。浦田君の」

 一応君付けで答え、ははと笑う。

 しかし彼女はくすりともせず、険しい顔で天井を睨んだ。

 意識的には、病室を睨んだのかも知れない。

「彼に恨みでも」

「瑣末な事ですわ。気にするまでも無いほどの」

 それにしては敵意剥き出しで、とても悟っているとは思えない。

 優ちゃんも彼女と仲が良くないし、その辺も関係あるのだろうか。

 どちらにしろ、あまり立ち入らないほうが良さそうだ。

「じゃ、私はこの辺で」

「お大事にとお伝え下さい」

「はあ」

 さっきまでの敵意とは裏腹な言葉。

 そんな私の戸惑いを読み取ったのか、彼女は改めて瑣末な事だと私に告げた。

「気にくわなくても、相手を気遣うの?」

「自分の感情と、そういう事とはまた別です」

「そう?」

「とにかく私から話す事はありませんので」

 丁寧に会釈して、さっさと帰っていく矢加部さん。

 彼女の言いたい事は分かるが、人間そう簡単には割り切れない。

 私も立場上、嫌な相手にでも愛想良く接する必要もある。

 ただ彼女の場合は、浦田に対して気を遣う必要はない。

 彼の事も。

 彼の周りにいる人の事も、私は何も知らないのかも知れない。



 病室に戻ると、柳君はベッドで眠りに付いていた。

 浦田は椅子に座り、何をするでもなくお腹を押さえている。

「寝て無くていいの?」

「体がなまる。大体これは入院というより、軟禁なんだよ」

「警察がって事?」

「ドラッグを口にしたんだから、俺の書類は検察に送られてる。不起訴処分で、罪には問われないけどさ」

 平然と言い放つ浦田。

 自分がかなり危うい立場にあると分かっていて。

 いや。危うい立場になると分かっていて、彼は今回の事に及んだ。

 それは警察の協力を得るためか。

 それとも、高畑さんのためなのか。

 どうしてそこまでのリスクを冒したのか。

 私には、正直理解が出来ない。

「どうかした」

「え、いえ。下の売店で、矢加部さんに会ったわよ」

「げ」

 露骨に嫌な顔をする浦田。

 遠野ちゃんも、あまり楽しそうな顔はせず鼻先で笑ってみせる。

「多少お嬢様っぽいけど、そんなに悪い人かしら」

「悪いのは、こっちよ」

 指を差される浦田。

 彼はわざとらしく顔を背け、今度は脇腹をさすりだした。

「ビールは掛ける、プールに突き落とす、車は壊す」

「え」

「俺も若かったね、あの頃は」

 のんきに呟く浦田。

 彼が女の子にも容赦がないのは知っているが、かなり過激だな。

「どうして、そういう事をしたの」

「忘れたよ、もう」

 ぶっきらぼうな口調。

 少し優しく笑う遠野ちゃん。

 彼女の事か、それに近い関係で起きた出来事という訳か。

「ああ。それと、お大事にだって。嫌ってるのに、どうして?」

「ストレートに言うな。理由は簡単で、あの子は貴族だから。自分の感情はともかく、人を労るのは当然なんだよ」

「上からの目線って事」

「まあ、そういう部分もある。責任感もあるし、周囲に目を配ってる」

 かなり理解のある台詞。

 本人達が言うように友好的な関係とは思えないだけに、この辺はどうも分からない。




 家に戻り、リビングのソファーに寝転ぶ。

 どうも調子が出ないというか、ぱっとしない。

 彼の調子は良くなってきているし、これといった問題もない。

 ただ彼と二人きりになる機会は殆ど無く、なにやらすれ違っているような気がする。

 彼の考えや人間性を少しは分かっていたつもりだが、結局は何も分かっていない。

「今日はどうだった?」

 ちょこちょことやってくる愛輝。

 彼女の頭を撫でて、少しだけ気分を落ち着ける。

 姉妹ならではの遠慮の無さ。

 壁の無さ、とでもいうんだろうか。

 何も言わなくても相手の事は分かる。

 いや。分かったつもりになっている。

 もしかして全く違っていたり、見当違いの時もあるだろう。

 それを含めて、お互いを理解し気持ちが通じ合っている。

「作るのも、疲れた」

「めげちゃ駄目よ。誠意が大事だって」

 何やら大袈裟な話をし出す愛輝。

 恋愛ドラマでも見たのかな。

「愛輝は、学校でどう?」

「普通だよ。みんな優しいし」

「そう」

「訓練は大変だけど、頑張らないとね」

 彼女にしては大人びた。

 成長を感じる台詞。

 私がこの頃は、多分もっと漠然と生きていたと思う。

「真輝は」

 近くをうろついていた弟に声を掛けると、木刀を担ぎ直して小首を傾げた。

「別に。何も」

 何か素っ気無い答え。

 とはいえ私に不快感を示している訳ではなく、これも弟の性格だと思う。

 他人に無頓着ではないが、あまりこだわりを持たないタイプなので。

 だからこそ、浦田への態度は引っかかるんだけど。

「部活も?」

「剣は結局個人の戦いだからさ。勿論部としての事は考えるけど、それ以前に自分が強くなるようにしないと」

 ちょっと驚くような事を言ってきた。

 愛輝もそうだが、彼からもこんな台詞を聞く日が来るとは思わなかった。

 まだまだ子供のように見えて、だけどみんなは少しずつ成長をし一つ一つ階段を上っている。

 それに引き換え、私はどうなんだろうか。

「疲れてきたな」

 ソファーに転がり、愛輝の膝を枕に横たわる。

 学校では一応責任のある立場にはいるが、今はそれを漫然とこなしているだけという気もする。

 こうしたい、こうあるべきだという訳ではなく。

 与えられた仕事をこなしているだけのような。

「眠いの?」

「まあね」

 少し疲れもたまっているのかも知れない。

 肉体的な事ではなく、精神的に。

 浦田の所へ行ってもいつも誰かがいて、二人きりになる事も無い。

 聞きたい事、話したい事がどれだけもあるというのに。

 いや。ただ二人きりになるだけでもいいのに。

「まあ、いいか」

 なんとなく投げやりになり、横になったまま料理雑誌を読んでいく。

 彼の所へ通うのも惰性。

 料理を作るのも惰性。

 その内この気持ちも、惰性になるのだろうか。


 とはいえ結局は料理を作り、彼の元へ向かう自分がいる。

 駄目な男に貢ぐ女は、こんな心境かもしれない。

 と、下らない事を考えてしまうくらい追い込まれている。

「こんにちは」

 思った通り、今日も見舞い客が来ている。

 普段の浦田は一人でいる印象が強く、大勢の中で一歩引いている感じ。

 しかしこれだけ毎日誰かが訪ねて来るのは、やはりその存在感の大きさ故だろう。

 ただ、彼らを見舞い客と呼ぶのはやや違っているかもしれない。

「何してるの」

「お見舞い」 

 声を揃えて答える、真輝と愛輝。

 頭が痛いというか、気が遠くなってきた。

「な、何のために」

「理由なんて、なあ」

「そうそう」 

 確信犯か、この二人。

 一気に疲れが出て、その場に座りため息を付く。

 本当、私は一体何をやってるんだろうか。

「骨付きチキンですよ、今日は」

 朗らかに笑って、アルミホイルを広げる愛輝。

 食べているのは彼女達で、浦田は申し訳程度に口をつけた程度。

 私も今は、食べる気にもなれない。

「疲れてる?」

 珍しい、気遣うような台詞。

 無理に笑顔を作り、大丈夫だと彼に告げる。

「いいけどさ。無理に来なくても」

 なおも言葉を続けようとして、そこで口をつぐむ浦田。

 これは以前の入院時に話した事であり、それを思い出したらしい。

「色々思い悩んでるの」

「いいんじゃないの。悩みが無いよりは」

「そうだといいけど」

 ため息を付き、そのまま横になる。

 横になるって、どこで。

 傾いて見える周囲の景色。 

 真上に見える浦田の顔。 

 どうも、ベッドサイドに寝転がっていたらしい。

「はは」

 乾いた笑い声を出し、ゆっくりと起き上がる。

 本当、重症だな。

「大丈夫か」

「勿論」

「足は」

 若干慎重な、ただ私への気遣いがこもった口調。 

 治療した足首を言ってるんだろうが、そちらは全く問題ない。

「全然大丈夫。手術した部分は傷む時もあるけど、嫌な痛みはもう無いから」

「そう」

 素っ気無い返事をして、脇腹を押さえる浦田。

 何のために聞いたのかは分からないが、私を思う気持ちは伝わってくる。

「少し、眠い」

 欠伸をして、軽く目元を押さえる。

 意識は薄れ始め、ここがどこだかはっきりしなくなる。

「ああ、病院か」

 白い壁と消毒の匂いに意識を呼び戻され、ただやはりどこか曖昧な感じ。

 最近の疲れが一気に出た気もする。

 近くにいるのが真輝や愛輝なので、少し気が緩んでるのかもしれない。

「寝たら」

「そうね」

 反射的に答え、ベッドに倒れこむ。

 髪を束ねているバンドを外し、どこかその辺にそっと置く。

 微かにあった意識はさらに薄れ、逆に心地よさが訪れる。

 思い出す事は何も無く、ただ体が軽くなっていくだけ。

 明日は晴れるかな。



 目が覚めると、真輝も愛輝もどこにもいない。

 窓にはカーテンが閉まり、その向こう側はすでに暗くなっている。

 どうやら完全に寝てしまっていたようだ。

 時計を確認し、そうでは無いとすぐに悟る。 

 良く寝たどころか、日付を越えていた。

 後どれだけもしない内に、朝が来るくらい。

 しかもこういう時に限って、夢ではない。

 ため息を付いて乱れた髪を撫で付けていると、寝ている浦田が視界に入った。

 椅子に座り、壁にもたれたままで。

 私がベッドで、彼が椅子。

 何かが間違っているような気もするが、眠っているのを起こすのも悪い。

 それに今は、何故か気分がいいから。

 もう少し、この時をゆっくりと味わいたい。













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