エピソード(外伝) 29-1 ~丹下さん視点~
心揺れて 1
「ドラッグ?」
あまり聞きたくない、しかし最近は学内でよく耳にする言葉。
七尾君は苦笑気味に頷くと、シートにパッケージされた錠剤をデスクの上に置いた。
「丹下さんは、報告を受けてない?」
「え、何の」
「噂の段階だからかな。こういう形状じゃない方法で、ドラッグをやりとりしてるって」
卓上端末で情報局からの連絡事項も確認するが、該当する内容は無い。
ドラック自体の発見件数や使用例は右肩上がりだが。
「それに最近は、中等部でもはやりつつあるらしいよ」
「世も末ね。とはいえ、パトロールを強化するしかないか。私服のガーディアンは、あまり有効じゃない?」
「連中は顔を覚えてるし、目立つような場所では取引しない」
静かに指摘する阿川さん。
彼はそちら側の情報に詳しく、こういう時は頼りになる。
「具体的に良い策はありますか?」
「無いね。各個人が自覚して、手を出さない。それに尽きる」
「ぱっとしませんね」
「無理やり使われたならともかく、大抵は本人の意思。売る側よりも、使う側を消していくほうが早い」
低い、敵意すら込められた口調。
それは理解するが、単純に頷ける立場でもない。
「生徒会はどうしてるんですか」
「特に何もしてないみたいね。出来レースって気もする」
「ドラッグを蔓延させて、保安部が取りましまるというあれですか?」
「馬鹿げた方法でも、やりようによっては効果的よ」
そう指摘し、鼻を鳴らす石井さん。
最悪を通り越して、言葉が無い。
「北川さんは何か言ってましたか?」
「私達が独自に行動するのは許可するけど、度を過ぎるのは認めないですって。当たり前といえば、当たり前ね」
あまり感慨もなく山下さん。
全員の意見は一致しているが、具体策の無いのが現状。
いや。ガーディアンという枠内では、手の打ちようが無い。
「こうなると、連合が解体されたのは痛かったな。あっちは好き放題やってたから、こういう事態には向いてた」
「連合にも規則は適応されるわよ」
「そうですけどね。俺達よりは自由でしょ」
苦笑する七尾君。
石井さんは何も答えず、腕を組んで足を何度か踏み鳴らした。
「私、今から情報局へ行ってきます。阿川さん、後をお願いします」
「ああ」
「山下さんと石井さんもよろしく。七尾君は、護衛代わりについてきて」
「仰せのままに」
閲覧用の端末が並ぶ、受付前のオープンスペース。
ここは一般生徒にも開放されていて、特別教棟内では珍しく穏やかな空気がある。
特別教棟に立ち入る難しさは、この際除外するとして。
楽しそうに端末の画面に見入る生徒達の側を通り過ぎ、受付の奥にあるドアから情報局のブースへと入っていく。
この先は生徒会のメンバーでも許可無くは入る事が出来ず、私でもフリーパスではない。
「丹下さんですね」
通路を歩いている途中で、黒髪を腰まで伸ばした綺麗な女性に出迎えられた。
生徒ではなく、おそらくは情報管理会社からの出向社員。
各種のメンテナンスやデータベースを作成する見返りに、会社へはそのデータが蓄積される。
プライバシーの問題もあるが、情報局の存在はそれを補って余りある。
「どうぞ、こちらに」
通されたのは、応接室のような個室。
すぐにコーヒーとお菓子が運ばれ、擬似ディスプレイがその上に浮かび上がる。
「我々も、ドラッグが蔓延するのは企業イメージとしてもふさわしくありません。無論、ドラッグの害についても」
「何か、有力な情報はあるんですか」
「学校外生徒が暗躍しているという噂は多数集まってますが、確定した証拠がありません。我々は調査出来ても、捜査する訳ではないので」
「信憑性の高い噂だけをお願いします」
擬似ディスプレイに表示されるいくつかの顔写真と容疑。
警察にも連携を取っていると思うが、生徒の自治という大前提が今回は裏目に出る。
個人のプロフィールは、傭兵が殆ど。
そのまとめ役である、金髪達の顔も表示される。
「ドラッグに関しては、この人物が中心になっているようです」
丸刈りの、険しい眼差しの男。
性格は粗暴、粗野、冷酷という文字が並ぶ。
「こちらでも監視は行っていますが、行動しているのは配下の人間ばかりですね」
「分かりました。私達も出来るだけ注意してみます」
「後は、男子寮で売買されているという情報もあります。かなり公然と行われているようなのですが、具体的には分かっていません」
男子寮、か。
七尾君に視線を向けるが、首を振って知らないとの意を告げてくる。
「警察は何か言っていますか?」
「一部生徒に捜査権を委譲するとか。どうなんでしょうね、それも」
苦笑する女性。
立場上は生徒だが、権限上は警察。
揉める原因だし、生徒の自治という大前提にも関わってくる。
情報局を出て、今度は自警局へとやってくる。
知り合いに挨拶をしながら廊下を進み、自警課のブースで足を止める。
「北川さん」
「ああ。どうかした?」
書類を抱え、他の自警局員達と話していた北川さんがこちらを振り向く。
その彼女達に一礼し、北川さんを呼び寄せる。
「忙しいところ済みません。ドラッグの件なんですが、何か聞いてますか」
「蔓延しつつあるとだけ。パロトール強化くらいしか、打つ手はないわね」
「旧連合の勢力との協調はどうなってますか」
「私は賛成よ。ただ、上がね」
彼女は自警課課長で、実質的なNO.2。
つまり上は、一人しかいない。
「それに保安部が勢力を伸ばしてるから、どうなのかしら」
「後手後手に回ってるな」
人ごとのように呟く七尾君。
北川さんは彼をきつい目で睨み、書類の束を机に置いた。
「あなたは気楽な立場にいるから」
「説教はいいよ。それに旧連合の勢力は、扱い方を間違えると大変だから」
「分かってる。ただ、彼等は思考や行動が過激なのよね」
小さく漏れるため息。
良く言えば自由。
悪く言えば、北川さんのような表現となる。
それだけ私達は規則重視であり、枠からはみ出す事はない。
「元野さんは協力してくれるとは言ってますよ」
「彼女は穏健派だから。いいわ、一度誰かと交渉するから。木之本君は呼べる?」
「あの子も忙しいからね。暇だけど連合の意見を代弁出来て、俺達の話も分かる人間がいいんじゃないかな」
「そんな都合の良い人間って、誰」
誰って、私を見なくてもいいと思う。
分かっててやってるな。
「だったら、今からその人を呼んで」
「仕事はいいんですか?」
「もう飽きた」
それはともかく、ここでも応接室風の個室へとやってくる。
情報局同様、セキュリティを考えての場所選択。
何より、相手が相手だ。
「俺の意見は、連合の主流ではないんですけどね」
気のない顔でそう告げる浦田。
適任と言えば適任で、大人しくさえしていれば有能な生徒会メンバーとしても役に立つ。
「ドラッグについてはどう思う?」
「やりたい奴が勝手にやればいいのでは。北米では、マリファナ程度なら合法ですよ」
「ここは日本だし、私達は取り締まる立場にいる訳でしょ。今は、それを踏まえて話して」
やや強めの声を出す北川さん。
浦田は気にした様子もなく、ソファーへ深くもたれて右の脇腹をさすりだした。
「失礼。寒くなると、どうも」
「昔傭兵に切られたのよね。それに、怒りは感じないの」
「俺を切った傭兵と、ドラッグを売り捌いている傭兵は別なので。悪い生徒会メンバーもいれば、良い生徒会メンバーもいるように」
あっさり切り返す浦田。
北川さんはため息を付き、書類の束を彼へと渡した。
「私も傭兵を全員否定はしないけど、トラブルの原因となっている率は一般生徒を遙かに超えるわ」
「流入を防ぐ。つまり、学校側の問題だと思うんですけどね。俺を呼んだのは、こんな話を聞かせるためですか」
「いえ。ドラッグの蔓延を防ぐために、旧連合としても協力して欲しいと思って」
「それは問題ありません。ただ」
挟まれる一言。
少し置かれる間。
浦田のペースで会話が進む。
「見返りとは言いませんが、バックアップはお願いします」
「それは当然考えている」
「北川さん個人の心情は、でしょう。俺が言ってるのは、自警局としてです」
少し変化する浦田の雰囲気。
人の中に溶け込み、目立たなく一歩引いている時とは違う。
明確な意志と強い個性。
普段とは別人とでも言う程の変化。
「具体的には」
静かに問いかける北川さん。
浦田はまず、人差し指を立てた。
「訓練施設の使用許可」
「次は」
「予算の配分。名目は、なんでも結構。各ガーディアンに、多少行き渡る程度で」
「それは、予算編成局に話して。次は」
浦田の発言をメモに取り、北川さんは一つ一つに回答を出していく。
言っている事はどれも普通で、突拍子も無い内容は何も無い。
あくまでも連合のためを思った、また旧連合が存続していくために必要な事柄ばかり。
「我々を、不当に弾圧しない」
「規則を犯せば、取り締まりは行うわ」
「それは結構。ただ、上から命令されたってだけの理由は止めて下さい」
「分かった」
話は終わったらしく、北川さんはメモを読み返しチェックをつけている。
言質を与えるに等しい事であり、口約束でしたでは済まされない会談。
私達が口裏を合わせればそれでも済むだろうが、少なくとも私と北川さんには無理だろう。
「大体はこんな所ね。それとさっき言った通り予算に関しては、予算編成局で話をしてきて」
「分かりました。出来れば、一筆もらえると助かります」
「ええ」
生徒会のロゴが入った便箋に数行書き記す北川さん。
浦田は文章を確認もせず、封筒へ入れた。
いや。入れようとして、先を折って床に落とした。
「それ、何か意味があるの?」
北川さんは怪訝そうな顔をして、落ちた便箋も拾えない浦田を見下ろす。
何か細工をしているのかと思ったのかもしれない。
「まあ、そんなところです」
「不器用なだけだろ、単に」
「心外だな」
憮然とした態度で七尾君にそう答えるが、やはり便箋は拾えない。
見てるこっちが恥ずかしくなる。
「もういい。貸して」
便箋を拾い上げ、三つ折にして封筒へ入れる。
ただそれだけの事で、それ以外の何でもない。
「上手いもんだ」
感心された。
それも、かなり本気で。
「いいから、予算編成局へ行くわよ。北川さん、ありがとうございました」
「気にしないで。それと浦田君。今のって、脇腹を切られたせい?」
さすがにむっとしている浦田。
生きていく上では困らない、とは言えない程のレベル。
というか、明らかに困るだろう。
「さてと、古巣に戻ってきた」
明るい声を出し、予算編成局へ入っていく七尾君。
彼はここの警備を担当していた、元フォース。
また私にとってもここは、馴染み深い場所である。
「待ってたわよ」
「凪」
中へ入るなり私に抱きついてくる凪。
いや。予算編成局局長と呼ぶべきか。
「北川さんから連絡があったの。旧連合への予算は、名目が難しいわよ」
「額は大していりません。学校から予算をもらっている、という体裁が欲しいだけなので」
「あなたって、本当に悪いわね。学内治安状況の調査目的、って感じはどう?」
「それでお願いします」
うっそりと頭を下げる浦田。
発言はともかく基本的に敬語であり、丁寧な態度は崩さない。
本当、こういう時は比較的まともなんだけど。
「内容はともかく、仕事はするのね」
「一応は」
「もっと不真面目なタイプと思ってたわ」
「領収書へは倍額書き込んで、残りは俺の口座に振り込むとか?」
また余計な事を。
それでも凪は笑っているので、ただの冗談と思ったのだろう。
本当、冗談で済めばいいんだけど。
予算編成局を出た所で、様子を見る。
普段通りの淡々とした表情で、気負った様子も疲れた雰囲気もない。
「どうかした」
「結構強気で押したなと思って」
「大切なのは交渉を成功させる事じゃなくて、交渉出来る人間。もしくは、放っておくとまずいと思わせる事だから。こうしておけば、後々になっても影響力を残せる」
あっさりと事情を明かす浦田。
ただそれが本当かどうかは疑わしく、真意は彼にしか分からない。
「惜しいよな」
ぽつりと漏らす七尾君。
彼は意外と真剣な顔で、浦田に向かって話しかけた。
「生徒会に復帰するって手もあるんじゃないの」
「無くもないけど、そういう柄じゃない。外から愚痴ってる方が楽しいんだよ」
「出世したくない?」
「金は欲しい。でも、絶対じゃない」
曖昧な、ややはぐらかした答え。
七尾君も深くは追求せず、ただ表情はより真剣になっていく。
「囲まれたかな」
「丹下さん、頼みますよ」
「私は何も」
してないとは言い切れない立場。
ガーディアンであり、教棟の隊長。
脅迫恫喝は慣れっこで、物理的に襲われるのも珍しくはない。
目の前に現れたのは、腕を包帯で吊った男。
周りの人間も似たような物で、怪我を負ってないのはごく一部。
「俺の銃を返せ」
威圧感のある、多分本人はそう思っているはずの声。
そういえば以前パトロールで、銃を押収したと聞いている。
組織的な抵抗に遭い、返り討ちにしたとも。
傭兵とは聞いていなく、また多少なりとも頭が回ればこういう回収の仕方はしない
新しい物を手に入れた方がリスクが少ないし、改めて怪我を負う事もない。
「コントでもやってるのか、こいつら」
笑いを必死で堪える浦田。
それを怯えと取ったのか、男達からは下品な笑い声が上がる。
「どうするの」
「丁度良い。ドラッグについて聞かせてもらおう」
小声でささやく七尾君。
それに頷き、腰の警棒に手を掛ける。
以前ほどの動きは出来ないが、この程度の連中に後れを取る事はない。
「俺があいつを……」
七尾君が何か言いかけたところで、腕を吊っていた男が倒れる。
その左右もすぐに。
決して早くはなく、キレもない動き。
それでもいきなり警棒で殴りかかられたら、そう簡単には対応出来ない。
「うわーっ」
叫び声を上げて逃げていく、残りの連中。
友情や信頼など無縁の関係だろうし、それが今の私達には助かりもする。
「何してるの」
「先手必勝だろ」
悪びれた様子もなくそう答え、倒れている連中の懐を探る浦田。
こうなると、誰が悪いかという話にも思えてくる。
「ちっ。全然金持ってないな」
「え」
「冗談だよ、冗談。IDは没収、端末はデータをコピー。とりあえず、脱がすか」
「え」
「そのくらい当然だろ。良かったな、明日から人気者で」
意識を失ったままの男達へ優しく笑いかける浦田。
人気者どころか、私なら絶対に転校する。
「無茶苦茶だな」
笑い気味に呟いた七尾君だが、止める事はない。
その代わりに周囲へ視線を配り、警戒を怠りもしない。
これが何らかの罠という可能性も考えているのだろう。
次にやってきたのは、南地区の中等部。
高等部のすぐ隣であり、移動したという実感は薄い。
作りは北地区と大差なく、歴史が古い分多少建物が古く見える事くらいか。
すれ違う生徒達は全員あどけなく、3年生でも子供に思えるくらい。
中等部に入った頃は、誰もが大人に見えていたが。
「あれ、珍しい」
不意に現れる、可愛らしく利発そうな女の子。
彼女は浦田の肩に触れると、朗らかに笑ってその腕にしがみついた。
「何しに来たの、珪君」
「可愛い妹の顔を見に」
「冗談は聞いてない」
一転して怖い声を出す女の子。
今言ったように、浦田の妹である永理ちゃん。
可愛くて頭が良くて性格も良い、兄とは若干違うタイプ。
「ドラッグについて聞きたいんだけど。どの程度広がってる?」
「そっちの話。中学生はお金がないから、殆ど無いとは思うけど。噂は聞くわよ。でも、そんな事気にするタイプだった?」
多少辛らつな質問。
浦田は鼻で笑い、端末を取り出した。
「この学校に、高畑って子はいる?」
「知り合いにはいるかもね」
すでに意志の疎通はなったとの顔。
永理ちゃんは自分も端末を取り出し、通話を始めた。
ややあって、その高畑さんがやってくる。
華奢で小柄で、愛くるしい顔。
精神面での発達段階が遅れているが、それによって彼女の魅力が損なわれる訳でもない。
「こんにちは」
礼儀正しく頭を下げる高畑さん。
私達もそれに応え、浦田の対応を待つ。
「お金持ってる?」
「お小遣い程度、なら。どうしてですか」
「お腹すいたからさ」
「そういう、お金は持ってません」
即座に答える高畑さんと、軽く笑う浦田。
なんでもない会話だが、意味があるといえばある。
「顔色良いね」
「良く、言われます」
「毎日楽しい?」
「毎日、という訳ではないですけど」
続けられる、当たり障りの無い会話。
しかしそれを止める者は誰もいない。
「七尾君がお菓子買ってくれるから、お礼言って」
「ありがとうございます」
「おい。……いや、いいけどね」
あまりもの素直なお辞儀に、苦笑する七尾君。
こういうのは、ある意味無敵だろうな。
購買の前でふ菓子を頬張り、なんとも嬉しそうにする高畑さん。
それには七尾君も笑うしかないらしく、同じふ菓子をかじりながら浦田君を振り返った。
「で、脈は?」
「彼女個人は、売買に関わってないのは分かった。ただ、接触はある」
改めて取り出される端末。
そこに表示される、高畑さんの名前。
おそらくは売買リストの一部で、名前の横には×が打たれてある。
このリストをどうやって手に入れたかは不明だが。
「狙いやすいといえば、狙いやすい対象だから。その分、周りが気をつけないと」
「意外と細やかなんだな」
「そう見せかけてるんだよ」
鼻で笑い、言ってる側からふ菓子を落とす浦田。
拾うのは良いが、食べないで欲しい。
「ばい菌」
くすくす笑い、浦田を指差す高畑さん。
「空気にだってばい菌はうようよいる。気にする方が馬鹿だ」
「地面には、いないんですか」
「空気よりは多いかな」
説得力の無い回答。
なんにしろ二人は楽しそうで、浦田もドラッグの事を匂わせもしない。
永理ちゃんと高畑さんに別れを告げ、生徒会の特別教棟へとやってくる。
どこへ行くかと思ったら、いくつかの警備を通過して生徒会長の執務室に辿りついた。
出迎えてくれたのは、清楚な感じの生真面目そうな子。
彼女は浦田に会釈し、私達にも挨拶をしてくる。
「お久し振りです。雪野さん達は、お元気ですか」
「元気すぎて困ってる」
「なるほど。それで、今日は何か」
「ドラッグについてちょっと。知り合いが絡んでてね」
ストレートに告げる浦田。
生徒会長は微かに表情を固くし、それでも卓上端末へ情報を表示させた。
「殆ど無いと言いたいんですが。皆無ではありません。いわゆる不良グループが、面白半分に手を出しているだけとは言っても」
「高等部よりはましか。大丈夫、俺がここで何かする訳じゃない。知り合いも未遂で終わってるし」
「申し訳ありません。こちらとしても、より厳重に監視はするよう心がけておきます」
丁寧かつ、真摯な態度。
高等部では、彼に対してこういう様子はまず見られない。
以前中等部に出向していた時の関係だとは思うが。
実際何をする訳もなく、中等部を後にする。
顔に疑問が出ていたのか、珍しく浦田の方から話し始めた。
「かぎまわってる奴がいると分かれば、中学生程度ならびびって腰が引ける。生徒会長も生真面目だし、問題は無いよ」
「本当に?」
「この辺は、世間の倫理もあってね。高校生のドラッグは、本人の責任って部分が強調される。ただし中学生だと、売った側は相当にバッシングされる。その辺は、マフィアの方が心得てる」
見てきたように語る浦田。
「昔は高校生相手でも相当批判を浴びたんだけど、時代の流れかな」
「今日は良くしゃべるね。もっと秘密主義だと思ってたけど」
「マフィアが相手だから、一応保険に。俺に万が一って事が無くも無い」
つまり、後は私達に託すという訳か。
それは信頼の証であり、十分にその任に耐えうるとの彼の判断。
危険を承知の上での頼みでもある。
「ふーん。生徒会が目の敵にするのも分かるな」
「どの辺が?」
「目立たない割にはコネが多いし、先の先まで読んでるから。しかも、セオリーに捉われない」
かなりの褒め言葉。
ただ浦田がそれに気を良くした様子は無く、北風に脇腹を抑える程度。
「傭兵にも知り合いが多いって聞くしね」
「舞地さんは、少なくとも敵だ」
結構真に迫った口調。
まだお金を巻き上げられた事を恨んでるのかな。
「七尾君も、フリーガーディアンの講習を受けてるんだろ。その方が生徒会には怖いと思うけどね」
「権限は無いんだよ、俺の場合。講習と言っても、触り程度だし」
腹の探り合いといった会話。
お互い他人へ関心は無いタイプに見えるが、内面では様々な可能性を考慮して判断している。
「で、どうして高畑さんに肩入れするのかな」
「彼女が自分で判断も対処も出来るなら放っておく。でも、そうじゃないから」
「優しいんだね」
「たまには外面も良くしないと」
軽く切り返す浦田。
七尾君は苦笑して、感慨深げに頷いた。
「君達が敵に回ると苦労するのかな。雪野さん、遠野さん、玲阿君。全員、学内には相当の影響力があるから」
「基本的に、あの子達は放っておいても大丈夫だよ。結局は人が良いし、過激といっても一線は越えないから」
「あれで、一線を越えない?」
「人は殺さないだろ」
さらりと出てくる、物騒な言葉。
七尾君はもう一度笑い、浦田の顔をじっと見据えた。
「君は、殺すとでも?」
「ケースバイケースかな。自分が殺されるなら、殺した方がましって考え方もある」
「せいぜい気を付けよう」
何の話をしてるんだ。
七尾君は自分のオフィスに戻り、私は執務室で溜まっている仕事を片付ける。
「やっぱり、ガーディアンが多いんだよな」
予算案を見ながら呟く浦田。
彼はどちらかと言えばガーディアン不要論者で、自分がガーディアンで居続ける事にすらこだわっていない。
「じゃあ、連合の解体には賛成なの?」
「ガーディアン。武装組織を減らすという面においては。生徒が武装してるなんて、普通じゃない。他校はもっと数が少ないし、ここまでガーディアンが幅を利かせてない」
「ここは規模が大きいから」
「そういう面もあるけど、トラブルが起きない根本的な対策を考えるべきなんだよ」
真面目な顔で語る浦田。
しかしこういう話は私や、ごく一部の人間にしか話さない。
大抵の生徒は彼を地味で目立たなく、優ちゃん達と一緒にいるだけの男の子としか思っていない。
「今回のドラッグみたいな騒ぎには、どう対処する訳?」
「その意味では管理案も悪くないんだよな。風紀を糺すという意味では」
「それこそ、根本的に矛盾してない?」
「管理案自体が悪い訳じゃない。運営する人間に問題がある」
はっきりと言い切る浦田。
ただ私としては素直に頷く事は出来ず、やはり管理案には拒否反応を示す。
生徒の自治。
これは断固として譲れない線であり、先輩達から受け継いだ遺産でもある。
「いいや。とにかく今は、ドラッグに専念する」
「大丈夫なの?」
「難しくはない。それと、俺個人で行動するから」
だから余計な真似はするなという訳か。
どうしてこう、独断が好きなんだろう。
「ん、何」
「私にも手伝える事はあるんじゃなくて」
「悪いけど、マフィアが出てくるケースも考えてる」
高校生や街の不良とは根本的に違う存在。
先程の話ではないが、人を殺す事を何とも思わない人間の集まり。
普通に生活をしていれば出会う事もない、関わり合う理由のない組織である。
「あなたは大丈夫なの?」
「だから後を託した」
それから数日、彼とは顔を合わせていない。
どうやら、自分が囮になって相手を招き寄せる事を考えているらしい。
情報局から入ってくる情報も、その関連が増えている。
自然と悪い噂が立ち、生徒会内では公然と彼を批判する人も出てくる。
事情を知らなければ、私でも相当焦っていただろう。
「機嫌悪そうですね」
バトンを担いで現れる渡瀬さん。
この格好からして、土居さんと訓練でもした帰りか。
「中間管理職は色々とね」
適当にごまかし、バトンを借りて軽く振る。
程よい重さと、腕を引っ張られるような独特の感覚。
昔はこれも良く使っていて、むしろこっちの方が得意なくらい。
今は現場に出る事も少ないため、警棒自体殆ど使わないが。
「チィちゃんは、ドラッグについて何か聞いてる?ほら、最近学校ではやってるから」
やや言い訳っぽく尋ね、彼女の反応を待つ。
身体能力は高いが生活は普通の高校生で、いわゆる普通の生徒と変わらない。
つまり彼女の情報は、一般生徒の情報だ。
「特には聞いてませんよ。パトロールの途中で、ジャンキーを拘束するくらいで」
「そうなの?」
「気付かれるように売ってたら、すぐに捕まりますからね」
もっともな発言。
そうすると浦田の情報が頻出しているのは、むしろ不自然。
生徒会内のみに伝わるよう行動しているという訳か。
「お菓子食べます?」
「え。ええ」
彼女が差し出したラムネを頬張り、すぐにかじる。
チィちゃんの視線を受けて、なんとなく意識する。
自分の苛立ち、落ち着きの無さを。
「沙紀先輩は、少し思い詰めるからな」
「そう?」
「能天気な風間さんとかよりはましですけどね」
何か、きつい事を言い出した。
ただ彼のああいった楽天的な部分に助けられる事も多く、先輩としては頼り甲斐がある。
「ポジション上、色々と悩みもあるのよ」
「前が直属班で、今は教棟の隊長ですもんね。阿川さん達が下にいるっていうのは、ちょっと違和感があるけど」
「私もよ」
正直それは、やりにくいというかストレスの一部でもある。
私がまだ右も左も分からなかった頃からの先輩であり、指導を仰いできた人達。
無論お互いの立場は弁えているし、それぞれの責任や役割は果たすつもりではいる。
ただ、彼らに命令をするのは今でも多少の抵抗がある。
その意味では、北川さんは偉いと思う。
「ドラッグが、どうかしたんですか?」
「ん、まあね。マフィアとかと関わるのは怖いなって」
「阿川さんを相手にするみたいに」
ころころと笑うチィちゃん。
かなり彼に失礼な態度ではあるが、彼の素性を知る人にとっては笑えて来ても仕方ない。
無論阿川さんはマフィアではなく、むしろそれに敵対する存在らしいが。
「寮で取引してるって噂は良く聞きますけどね」
「目立たない?」
「それが意外と気付かれないみたいで。でも、結構おおっぴらにやってるらしいですよ」
「何か、矛盾する話ね」
話し込んでいる内に仕事がたまり、各方面から処理を急ぐよう連絡が入ってきた。
昔程ではないが小心者なので、すぐに仕事へ取り掛かる。
「では、私はこの辺で」
「ええ。お菓子、ありがとう」
「いえ。じゃ、また来ます」
一つ一つ仕事をこなし、ようやくひと段落着く。
つまり終わった訳ではなく、急を要する用件を片付けただけ。
提出期限や回答期限が数日後の物は、まだ山のようにある。
私一人の仕事ではないが、責任上全てに目を通す必要はある。
「銃の配備、か」
ドラッグ、エアガン、傭兵。
いつからこの学校は、こんな事になっているんだろう。
気付けばそれらを当たり前のように受け入れ、普通に過ごしている。
傭兵。学校外生徒については私も全面的に否定はしないが、現在学内にいる彼等はまともとは思えない人間が多すぎる。
「へろー」
薄いセーターと赤のミニスカート。
黒髪を颯爽となびかせ、映未さんがやってきた。
後ろからは、例によりGジャンにジーンズの真理依さんも。
「なんか難しい顔してるわね。もっと弾けたら」
「そうしたいんですけど、色々問題がありまして」
「ドラッグ、エアガン、傭兵か。とりあえず、真理依を追い出したら」
「自分も学校外生徒だろ」
無愛想に指摘する真理依さん。
彼女は応接セットのソファーへ腰掛け、そのまま横になった。
体調が悪い訳ではなく、寝ているか大人しく座っているという印象が強い。
「どちらにしろ、こういう連中を閉め出せばかなり状況は好転すると思うわよ」
「学校側が推進している以上、私にはなんともなりません」
「まあ、ね。そのお陰で、私もこの学校に居残っていられる訳だから。いっそ全ての管理を傭兵に任せたら。例えば沢君なんて、そういうのに向いてるわよ」
冗談っぽく話す映味さん。
実際彼女や沢さん達なら、少人数でも生徒会の代行は可能だと思う。
経費も削減出来て、生徒の負担も減る。
良い事ずくめと言いたいが、結局それは権力の集中。
独裁へとつながる。
この学校の生徒会は、他校の生徒会というレベルとは良くも悪くも意味が違う。
「少人数で支配するのは良くないって?」
「ええ、まあ。私は合議制がベストだと思ってて、現状の生徒会長制度もあまり納得してませんから」
「ただ一般生徒はもっと適当というか、面倒ごとを引き受けてくれるなら誰が上に立とうと気にしないわよ。それこそ、ちょっとくらい不自由してもね」
冷静に指摘する映味さん。
それは決して間違っていなく、中等部の頃は嫌な思いもした。
ただ、南地区は多少違うというか独立志向が強い。
その代表は、優ちゃん達か。
「別に、生徒会長を目指してる訳じゃないでしょ」
「そうですけどね」
「生真面目なのも良いけど、息抜きの大切よ。いつまで寝てるの」
横になっている真理依さんの両頬をつまみ、横へ引っ張る映味さん。
こうしていると普通の、仲の良い女子高生といった所。
また実際、今は普通の高校生としての生活が中心だろう。
「真理依さん達は、ドラッグに詳しいですか?」
「前は、その手の連中と戦った事もある」
「やはり、悪質?」
「言うまでもない」
すぐに答える真理依さん。
両頬をつままれたままので、いまいち重みに欠けるが。
「どうかしたのか」
「浦田が、その辺を探るみたいな事を言っていたので」
「放っておけ。あいつは独断専行型で、一人の方が動きやすい」
「そうでしょうけど」
それは私も分かっているが、心情的には認めづらい。
私にも出来る事。
私にも役に立てる事があるのではないだろうか。
「我慢するのも支える事の一つなんだけどね」
苦笑気味に告げてくる映未さん。
そうですねとは答えられず、何度となく手の中でペンを回す。
「一応私達も気を付けてはおくけど、早まった真似はしないでよ」
「え、どんな」
「浦田君の後を付けるとか、後を付けるとか」
どうして二度言ったのかはともかく、あまり賢くない行動なのは私にも分かる。
「仕事はもう止めて、帰ったら」
「そうですね」
寮に戻り、ベッドサイドに腰掛けてTVを観る。
付いているTVの画面へ視線を向けているだけという気もするが。
ドラッグ絡みのニュースが始まり、ふと意識が覚醒する。
友人を数人刃物で刺し、逃走したとの内容。
仲の良い友人同士で、普段は大人しいタイプだったとアナウンサーは言っている。
どこかで聞いたような話。
さすがに面白くなく、チャンネルを変えてベッドに転がる。
彼に任せておけば問題ないのは十分過ぎる程分かっている。
それに万が一のために後を託されている訳で、私が一緒になって行動する必要はない。
だけど、万が一ってなんだとも思う。
仮にそうなった場合、私はそうですかと受け入れられるのか。
ふと蘇る、いつかの光景。
彼が脇腹を切られた、あの出来事。
あれ自体にドラッグが絡んでいた訳ではないが、二度とあんな気持ちは味わいたくない。
それは彼自身が一番思っている事だとしても。
「はぁ」
ため息を付き、ポニーテールを解いて髪を手で掴む。
中等部の頃から伸ばし始め、いつしかここまでの長さになった。
私の精神的な成長と共に。
などと言いたいところだが、結局はこの様だ。
肩書きと権限が増えただけで、私自身は周りに助けられるばかり。
私が何かをした訳ではない。
優ちゃん達のように、個人的な能力が高い訳でも。
下らないが、自分の存在意義なんて事をつい考えてしまう。
ただ人の後ろについて、漫然と過ごしていたあの頃が懐かしい。
気楽で、何も考えていなくて。
責任も無く、求められもしなかった。
意見は色々あるだろうが、あれはあれで幸せな時期だったと思う。
責任も立場も権限もある今の方が有意義な生き方をしているとしても。
あの頃の、今では思い出す事も出来ない純粋さはもう取り戻せない。
寝覚めの悪い朝。
あの後気になって、残っている仕事を少し片付けたせいもあると思う。
小心とか生真面目と言われても仕方なく、ただ片付けなければ私の負担が増えるだけ。
多少は成長したつもりだが、今の自分は何をやっているのかと疑問を抱く日々。
権限は増えたし、部下も大勢いる。
金銭的にも恵まれていて、将来の就職にも有利だと言われている。
私の立場を望み、また妬む人もいる。
確かに人からすれば、羨むような立場なのは間違いない。
私の願いや目的とは異なっている気もするが。
しかし、私の願いや目的が何かと聞かれると答えに困る。
ガーディアンになったのも、絶対的な理由からではない。
その後で自警局や生徒会ガーディアンズの改革を目指したのも、結果に過ぎない。
重い気分のままオフィスに入り、受付に来ている書類や届け物を確認する。
カウンターの下に見える紙袋。
風間さんが見たら、大爆発するだろうな。
とはいえ、中身は一応確認した方が良い。
あの時も、常に中身が書類とは限らなかった。
「……みんな、下がって」
すぐに紙袋から離れ、顔を腕で覆う。
奥の方を掃除していた何人かが反応し、こちらを振り向いた。
「盾持ってきて。大丈夫だと思うけど」
「は、はい」
全員を下がらせ、自分も後退する。
受け取った盾をそっと紙袋の上に覆い被せ、改めて後ろに下がる。
「沢さんを呼んで」
「は、はい」
特に警戒する様子も無く、紙袋の中を覗き込む沢さん。
彼は軽く頷き、中から細長い筒を取り出した。
「花火だね、多分。一応発火装置は付いてるから、ぼやにはなるかな」
「大丈夫ですか?」
「近くで爆発すれば、火傷くらいはする。ただ遠隔操作の装置もないし、単なる脅しだよ」
筒に小さなスプレーを吹きかける沢さん。
超低温を噴霧するスプレーだったはずで、原子レベルでの移動すら停止させるため爆発の危険からは解放される。
「お疲れ様です」
「この学校では珍しいね、爆発物なんて」
「他校では?」
「たまにあるよ。こういうのを好む傭兵もいる」
また出てくる、この言葉。
ただそういう印象を強めるための策略という可能性もある。
何のためにかは、まだ分からないが。
「この学校にいる傭兵で、思い当たる人はいます?」
「例の金髪達。あの辺は、爆発物も扱ってた。分かりやすいけど、裏を掻いているつもりかもしれない」
「どっちなんですか」
「さて。何か、連中の怨みを買うような事は?」
ドラッグの件。
つまりは、浦田の事を説明する。
沢さんは思案するように視線を逸らし、紙袋をつま先で突いた。
「連中の収入源の一つだとは言われてるけどね。厳しくなってきたのかな」
「大丈夫なんですか」
「僕達が気付いているから、問題はないよ。マフィアが出てくると、また別だけど」
低く、重い口調。
ただ彼の表情には、それも浦田の決断だとも読み取れる。
「でも彼は、こういう事に興味がないと思ってた」
「中等部の女の子が関係してまして。彼からすれば妹みたいに思ってるのかも知れません」
「情もあったんだ」
珍しく声を出して笑う沢さん。
私としては笑い事ではなく、むっとしつつ彼を睨み付ける。
「失礼。それで彼は、独断で?」
「ええ。誰も協力しなくていいんですか?」
「いいよ。自己完結型だからね、彼は。もしくは自爆型っていうのかな」
何ともひどい言い方。
また笑おうとしたので、今度は警棒に手を掛ける。
「冗談だよ。彼は彼のやり方があるんだし、好きにさせて上げたら」
「でも」
「丹下さんを巻き込みたくないと思ってるんだよ。優しい子だから」
その言葉に思わず咳き込み、鼻を押さえる。
優しいって、他人から聞かされるとちょっと驚くな。
「そこまで変な事は言ってないと思うけど」
「え、ええ。そうですね。そうですとも」
「もういいよ。花火は、僕の方で処理しておく」
大回りして受付の前を過ぎていくみんな。
今は何も置かれていないが、誰も近寄ってこようとはしない。
すでに爆発物は処理済みで、届け物も来ないのに。
どうも修羅場に弱いというか、大人しすぎる。
それ自体は悪い事ではないけれど、ガーディアンの職務を考えるとどうかとも思う。
「何してるの」
受付に現れる浦田。
カウンター越しに彼を向き合う自分。
誰もいないので、結局私が受け付け役を買ってでた訳だ。
「爆弾を仕掛けられたって聞いたけど、大丈夫っぽいな」
「沢さんが言うには、花火程度だって。脅しらしいわよ」
「爆発もさせずに脅し?随分不抜けた話だ」
鼻で笑い、先程の爆発物に関する資料を読んでいく浦田。
この発言を聞いていると、彼があちこちで仕掛けているようにも思えてくる。
「俺の居場所がはっきりしないから、こっちに来たのかな」
「傭兵が置いてるって事?」
「さあね。ガーディアンに怨みを持ってる奴も多いから、断定は出来ない」
嫌な言い方をしてくるな。
しかし否定は出来ないし、ドアが開く度に外を見ると敵意の固まりと言った視線を時折感じる。
「それで、ドラッグの件はどうなってるの」
「手は打ってある。問題は多いけど、何とかなると思う。後は」
「付いてくるな、でしょ」
「分かってるなら良い」
素っ気なく告げて帰っていく浦田。
どうやら爆発物の事を気にして顔を見せただけのようだ。
彼が言っていたように相手の意図はまだ不明だが、こういう事を仕掛けてくる可能性もある。
単独で行動するというその意志も、前よりは理解出来る。
決して納得は出来ないが。
私に出来るのは、こうして彼を見送るだけ。
ただ、それだけか。




