28-3
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学校が慌ただしくて、プライベートも忙しい。
生活に張りがあるという考え方もあるし、身が持たないとも言える。
「ドラッグの密売組織?まだ調査段階だと思うけど、意外と傭兵以外の人間も絡んでるみたいね。嫌な話だわ」
机の上に資料を置く沙紀ちゃん。
ケイは表紙から適当にめくり、醒めきった表情を浮かべる。
「俺が言うのも何だけど、この学校もぼろぼろだな。管理案を施行するためになりふり構わずやって、却って取り返しの付かない方向へ行ってるじゃないのか」
「そのために、私達がいるんじゃなくて」
「俺達はただの生徒。そこまでの権限も能力もない」
あっさりと言い放ち、資料を机へ戻す。
また認めたくはないが、それは彼の言う通り。
相手は学校であり、ドラッグをさばくような密売組織。
普通に考えて、私達高校生が太刀打ち出来るような相手ではない。
勿論沙紀ちゃん同様、そうはさせないという気概はあるにしても。
「旧連合は?」
「丹下ちゃんの方で、上手く使って。基本的に、パトロール要員でいいから」
「了解。多少なら手当も出せるし、チェックしたい場所に配置するわね」
「任せるわ。ただ当然、ドラッグの取引現場を押さえ続ければ矛先は私達へ向けられるわよ」
ゆっくりと私達全員を見渡していくサトミ。
その決意と覚悟を確かめるように。
「じゃあ、あれだ。俺達もさばくか」
「何を」
「ビタミン剤を袋に詰めて、ドラッグ代わりに。だまされる馬鹿はいるし、結構その気になって意外と気付かれない」
「やるならご自由に。それこそ、殺されるわよ」
辛辣に告げるサトミ。
ケイは鼻で笑い、資料に載っているサンプルの袋をチェックし始めた。
「本気?」
声を潜め、不安そうな顔でサトミを伺う沙紀ちゃん。
軽くケイをあしらったサトミは少し腰を屈め、彼女の耳元にその顔を近付けた。
私は背が低いので、会話を聞くのに屈む必要もない。
「大丈夫。不器用だから、袋詰め出来ない」
「ああ、なるほど。でも袋詰めなんて、機械で出来るでしょ」
「それも出来たら、私達も苦労はしてないわ。ただし、指先に怪我をしてたら気をつけて」
「あ、うん。覚えておく」
神妙に頷く沙紀ちゃん。
サトミがそう告げたのは冗談か本気か分からないが、気に留めておいた方がいいのはたしかだろう。
「それで、柳君は?」
「ショウとトレーニングしてる。私も行く」
「大変ね。試合は、もうすぐでしょ」
「余裕余裕。侮る気はないけど、負けるようならエントリーしてないから」
これだけは本当の事。
出場するのに意味がある場合もあるが、彼の場合は勝ち進む事に意味がある。
またそれが可能だと思ったからこそのエントリーだ。
「沙紀ちゃんも見に来れば。どうせ、やる事もないんでしょ」
「生徒がいないから、さすがにね。密売組織も、これでは行動のしようもないだろうし」
「じゃ、決定。行こう」
学内のトレーニングルームではなく、RASのトレーニングセンターへとやってくる。
私が子供の頃から通い続けた、ここへくるだけで何とも言えない気分になってくる場所へと。
切なさと、懐かしさ。
苦しさ、屈辱。
喜びも、感動もあった。
そういったいくつもの感情や思いと、いくつもの忘れられない出来事。
私にとっての思い出の場所といえば、まず第一にここが挙げられるだろう。
「セッ」
上段前蹴りで上体をそらさせ、タックルへ向かう。
バックステップで下がるショウ。
さらに前へ出るタックル。
低い、床のすれすれを這うような。
片足を取られたショウはすぐに上体を立て直し、逆に上から覆い被さる。
真横に伸びる華奢な足。
それがムチのようにしなり、覆い被さってきたショウの脇腹に叩き込まれる。
「痛い」
両手を上げ、距離を取るショウ。
柳君も床から立ち上がり、首の辺りを手で押さえた。
「やってるね。調子はどう?」
「まあまあ、かな。ルールがあるから、多少気を遣うけど」
「大丈夫、適当で。反則でも愛想良く笑えば、ごまかせるって」
「面白い事を言いますね」
真後ろから私の両肩へ手を置く水品さん。
という訳で取りあえず、愛想良く笑う。
「雪野さんが笑っても仕方ありません。それにルールといっても極端に危険な行為だけですし、あまり気にする必要はありませんよ」
「はい」
「RASの者として君に肩入れするのは問題なんですが。雪野さんが怒るので」
「いいじゃないですか。RASのいいところは、誰でも受け入れる。門戸は誰にでも開かれている。そうですよね」
優しく、嬉しそうに笑う水品さん。
「ユウも受け入れるくらいだからな」と呟いたケイを一睨みして、窓へ目を向ける。
「あれ、どうして割れてるんですか。ショウが誰かと投げ飛ばしたとか」
「あのな。俺が来た時は、もう割れてた。大体、それはいつの話だ」
「まあまあ。どうも最近、嫌がらせが多いんですよね。オープントーナメント絡みだとは思うので、柳君も気をつけるように」
「はぁ」
戸惑い気味の表情を浮かべる柳君。
言うまでもなく、誰しも不安になるようは話。
しかし少し前までの彼にとっては、単なる日常の出来事。
それを今思い出したともとれる。
「そんなの、こっちから乗り込めばいいじゃない。うー、あー」
「証拠も何もないので。それにここは、RASですからね。玲阿流とは違うので」
「いや。そんな無茶苦茶でもないと思うけど。多分」
消極的に否定するショウ。
RASは格闘技団体といっても、あくまでもスポーツを標榜する団体。
心身の育成と体力の増強、なんてスローガンもある。
「玲阿流に理念無し。他流派からは、よく言われました。信念も何もない、野蛮な組織だと」
「普通、礼儀を重んじるとか言いますからね」
サトミの補足に、微笑みながら頷く水品さん。
その微笑みはやがて、薄くかげりを帯びる。
「確かに玲阿流には、理念も信念もありません。あるのは相手に勝つ事。究極的には、殺す事。それこそが玲阿流の理念であり、信念です。やがて、玲阿流自体は廃れてRASが主流になるんでしょうね。今はまだでも、何十年もすれば存在すらどうなってる事か」
遠い眼差し。
ショウもでも、誰に話すでもない口調。
深い、自分の思いに沈み込んでいく表情。
「済みません。四葉さんには、きつい話でしたね」
「いえ。俺は別に」
「私も好きですよ、玲阿流は。ただ年を取ると、子供の努力や笑顔の方が楽しいんですよ。命を削るようなやりとりよりも」
なおも何か言いかける水品さん。
しかしその表情が、一瞬にして引き締まる。
「お客さん、ですか。今は、一般の方には解放してないんですが」
「知るか。水品ってのを出せ。玲阿流の人間でもいいぞ」
柄の悪い、10人程度の男達。
全員がジャージ姿か、それに近い動きやすい服装。
また手には木刀や、スタンガンとおぼしき物も持っている。
「何か、ご用ですか」
「今度のオープントーナメント。金は出すから、この通り動け」
床に放られる一枚の紙。
水品さんはそれを拾い上げ、薄く微笑んだ。
先ほどのように出はなく、冷たく酷薄に。
「八百長をしろと。以前、こういう話はお断りしたはずですが」
「話をしに来たんじゃない。命令だ、これは」
面白い事を言う男だな。
勿論、何一つ笑えないが。
「そっちのは、この前の予選で勝った奴か。結局お前らもやってるんだろ、八百長を」
「彼は私の知り合いというだけです。実力は、あの試合を見ていれば理解出来ると思いますが」
「どうだか。とにかく、素直に言う事を聞いておけ。お前も、いい年をして怪我したくないだろ」
振り抜かれる木刀。
ここまで伝わる風を切る音。
素手ではなく、そちらもそれなりに使えるという訳か。
馬鹿が。
「雪野さん、落ち着いて」
「だって」
背中のアタッチメントに付けていたスティックを手の中で転がし、スタンガンの動作をチェックする。
こういう相手に、理屈も何も通用はしない。
後へその後で後悔しようと嫌悪感を抱こうと、力尽くで対抗するしか。
「柳君も、手は出さないように。つまらない怪我をしても面白くないですし、変な言いがかりを付けられますから。浦田君、念のためカメラを」
「了解」
言われる前に用意してたのか、私達から距離を置き両者が入る位置でカメラを手にしているケイ。
水品さんはグローブをはめ、軽く肩を回して男達の近くまで歩み寄った。
「柔道家、ですか」
「なんだと」
「耳の腫れと、視線の配り方が襟や袖へ向けられ過ぎです。剣道でもすり足気味には動きますが、そこまで首は太くないですしね」
「だから何だ」
舌を鳴らす、リーダー格の男。
見れば分かる事ばかりとはいえ、こういった状況で冷静にそこまで判断出来る人はあまりいない。
逆にそういう事が読み取れれば、相手の出方を推測出来る。
「金がいいか、病院送りになるか。さあ、選べ」
「現金でも?」
「おい」
男が顎を振ると、シルバーのアタッシュケースが床に置かれた。
ふたを開けると、中には新札が隙間無く詰められている。
ケースのサイズは小さいが、紙幣で一杯にするのは相当困難な事だろう。
「少ないですね」
「欲を掻くと、痛い目に遭うぞ」
「こちらにもリスクがあるんです。それなりの保証はしてもらわないと」
「ちっ。おい、本部に連絡しろ」
端末で交わされる会話。
言葉とは裏腹な、満足げな表情で。
敬語が聞こえる事からして、この男達は単なる伝令か。
そして、今の会話。
あっさりと買収を受け入れた水品さんは、何度か拳を握りしめて男に端末を貸すよう促した。
「私も、話をしたいのですが」
「……いいだろう。相手が誰だか、分かってるんだろうな」
「それは、無論」
「よし。絶対余計な事は言うな。あくまでも丁重に」
ひったくられる端末。
緩む口元。
水品さんは軽く深呼吸をして、ゆっくりと口を開いた。
「八百長は断りますが、お金は頂いておきます。では、試合会場でお会いしましょう」
「き、貴様」
「それと、馬鹿に用はありません。あまり調子に乗るようなら、次は我々が乗り込みますので。生命保険は、多めに掛けておくように」
水品さんの手の中で握り潰される端末。
小さいとはいえ、10階建ての建物から落としても壊れないような構造。
分かってはいたけど、やっぱり先生は先生だった。
「この野郎」
一斉に水品さんを取り囲む男達。
スティックを抜こうとした私を、やはり目線で制する水品さん。
「さてと。わざわざここへ乗り込んできたんです。それだけの実力を、見せてもらいましょうか」
左右から振り下ろされる木刀。
空手の回し受けのような動きで、それをさばく水品さん。
正面からの打ち込みを前転で避け、床に手を付いて倒立の要領で足を振り上げる。
横へ薙ぎながら木刀を叩いていく、水品さんの足。
木刀をたたき落とされた男が、その上から覆い被さろうとする。
水品さんの倍はありそうな体格。
しかし襟を捕まれ、鳩尾に足を入れられ巴投げで吹き飛ばされる。
今度はやはり、左右から覆い被さる男達。
潰されるより早く足が閃き、右の男の足を払う。
自分の考え以上の早さで倒れ込む男。
その腕を引が軽く引かれ、反対側から迫っていた男と激突する。
「さてと。何というのか、話になりませんね」
埃を払う仕草を見せ、しなやかな動きで立ち上がる水品さん。
足元でうめく男達を一瞥もせず、アタッシュケースを確認する。
「では、これは頂いておきましょう」
「まだ、俺がいるぞ」
「まだ、やるとでも?連れて帰ってもらうために、残しておいたんですが」
「ふざけるな」
意外に鋭い出足。
男はあっさりと水品さんの奥襟と、左の袖を掴む。
またその時に、肩からタックル気味に入っている。
単純に投げるだけではなく、一つ一つの動きが相手への打撃となっているようだ。
「ほう」
感心したような声。
足元への、ローキックを思わせる足払い。
やはりこれも、そのどちらも兼ねていると考えた方がいい。
「実戦的と言えば、実戦的。ただ、動きがパターン過ぎですね。それに、遅い」
「馬鹿が。今すぐ、叩き潰してやる」
強引な引きつけからの腰払い。
少なくとも男は、そうしようとしたのだろう。
手足の動き、力を込めたような赤い顔。
しかし水品さんは、その足すら浮く気配もない。
見ていても、特に抵抗している様子はない。
あくまでも自然体で、男のしたいようにさせている。
無論それは見た目だけで、実際は全く違う訳だが。
「相手を投げる基本は、言うまでもなくバランスを崩させる事。覚えが悪いのか、教えた人が下手なのか。それとも、素質がないのか」
「こ、この」
真上からの頭突き。
襟と袖を捕まれ、大きく動けない状態の水品さん。
しかし彼は笑う。
薄く、楽しげに。
微かに引かれる顎。
すかされる頭突き。
ほんの少しだけ前に流れる男の体。
水品さんは右肩を後ろへ、左腕を前へ動かす。
折れる男の右膝、浮き上がる左足。
慌てて下がる男。
それに合わせて、水品さんは右足を一歩踏み出す。
さらに崩れるバランス。
離れる、男の右手。
水品さんはその場で小さく回り、男の左腕を掴んで軽く上へ押し上げた。
男は悲鳴を上げ、肩を極められた状態で床に組みひしがれる事となる。
動きとしては殆ど無く、また一瞬の出来事。
肩を極められた男自身、何が起こったか理解していないだろう。
「私も、すっかり甘くなりました。昔なら、襟を捕まれた瞬間に手首を折ってたものですが」
しみじみ語る水品さん。
その間にも、周りでは呻き声や喘ぎ声が上がっている。
本当、誰が甘いって話だな。
「脱臼がいいですか、それとも骨折ですか?」
「か、勘弁して下さい」
「殴り込みに来て、相手に許しを請うなどあり得ないでしょう。戦国時代なら、打ち首。という訳で、首の骨でも折りますか」
「ひ、ひぃ」
首元に添えられる貫手。
男は甲高い声を上げ、何やら呟きながら丸くなった。
水品さんの脅しもどうかと思うが、その程度の覚悟もなくて来る方もどうかしてる。
「では、用がないならお帰り下さい」
「は、はい。で、でも、金を」
「何か」
「い、いえ。し、失礼します」
倒れていた男達も突然立ち上がり、例え通り蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
結局演技だったのか、あれは。
「先生、何してるんです」
「示しですよ、示し。ああいう手合いは、脅して帰すに限ります」
「お金まで巻き上げて」
「これは相手に連絡して、どこかへ寄付でもします」
アタッシュケースを閉じ、キーを掛ける水品さん。
ケイではないので、特に心配もしてないけどね。
「しかし、ちょっとタイミングが悪かったですね」
「何が?」
「雪野さんや、遠野さんが居合わせた事が。関係者と思われて、何かを仕掛けてくる可能性もあります。我々も気をつけはしますが、出来るだけ注意して下さい」
確かにそういう事も、十分に考えられる。
買収や暴力を平気で仕掛けてくる連中。
部外者の私達に、何もしないという保証はない。
「取りあえず、お茶にでもしましょうか」
さっきの事を気にするような人は、ここにはいない。
記憶としてはあっても、気にする方が馬鹿らしいし。
「人がいない時に入り込んだみたいね」
お茶とお菓子を用意してくる、受付の女性。
普段は来客の応対や、事務の担当。
但しRASの職員は、一部の職種ではトレーニングが義務付けられる。
人の出入りが多い、またもっとも人と接する機会が多い受付は特に。
「大丈夫ですよ。先生が、軽くあしらいましたから」
「雪野さんは?」
「私はいつも、大人しいです。昔から」
「へぇ」
わざとらしく頷いて去っていく女性。
今度は、私がここに殴り込もうかな。
「予選の会場にいたのは、空手の団体だったのに。あの連中は柔道なんですよね」
「それだけRASが有名と言う事です。雪野さんも、インストラクターになったら大変ですよ。ああいう手合いを相手にしないといけないんですから」
「なれた時に考えます」
「そうですね。試験も受かるかどうか分かりませんし」
楽しげに笑う水品さん。
さっきとは違う、明るく楽しげな表情で。
玲阿家にやってきて、キッチンへ入る。
別にお腹がすいた訳では無く、ご飯を作るために。
「お肉ありますよ。ラムが」
「羊か。丸焼きにでもするかな」
ソースを作るのは面倒なので、手っ取り早い方法を選ぶ。
まずはオーブンを暖め、塩とコショウを手ですり込む。
「いい手つきですね」
褒めてくれる、料理番のおばさん。
へへと機嫌良く笑い、ため息を付く。
単純に言えば限界が来た。
キッチンを出て、代理を捜す。
言うまでもなくショウを。
ここのおぼっちゃまではあるが、他に力仕事を任せられる人がいないので。
言い方を変えれば、頼める人がいないので。
「あれ、ショウ知らない?」
「寝てたよ。部屋の隅で丸くなってた」
丸くなる仕草をして、くすくす笑う柳君。
しかしあの子も、自分の家同然の所なのにどうしてそう慎ましい寝方をするのかな。
「柳君、トレーニングは?」
「少しやったけど、どうかした?」
「手、綺麗?」
「はい?」
そこはさすがに男の子。
文句も言わず、黙々と塩をすり込む。
ショウじゃないので、監視する必要も無し。
別に生肉を食べるという意味ではないが、目に付いた物を口には入れるので。
赤ちゃんだね、まるで。
「こんな肉、どうするの」
「丸焼き丸焼き。変に切ると中の肉汁がもったいないから」
「むごいね、なんだか」
切なげに言われると、ちょっと困る。
この愛くるしい顔で、ぽつりと呟かれると。
だったら止める、とはラム肉となった今となっては遅いんだけど。
「じゃ、オーブンに入れて。気をつけてね」
「昔は、名雲さん達とこうしてたよ」
「料理?」
「うん。こうしてキッチンで作る事もあったけど。キャンプみたいに外でたき火して、そこにアルミ箔に包んだお肉を放り込んだりして。寒かったけど、今思い出すと楽しかったかな」
遠い、壁の遙か彼方を見るような眼差し。
もう戻れない、だけど彼が通ってきた一つの道。
甘い顔は物憂げになり、口も閉ざされる。
「僕は、結局何をやってるのかな」
「何が?」
「傭兵なんて言ってて、気付いたらこの学校にいて。普通に生活して。僕は何がやりたくて、何のために生きてるのかなって」
私にというよりは、独り言に近い声。
自問するような、そして答えは出ない。
おそらくは、彼がずっと抱えている疑問。
「……あれ。今、何か言ってた?」
「ううん。今度は、タマネギ剥いて」
「あ、うん。名雲さんが皮じゃなくて、実の部分まで剥き始めた事があった。あの人は、何を考えてるのかな」
これはもう、本当に疑問だろう。
というか、その理由は私も知りたい。
ショウが食べ終えるのを待って、外出する。
一人でもいいけど、二人だっていいじゃない。
深い赤の、やや縦に長いバイク。
詳しくは知らないが輸入車で、その辺のセダンよりは高いはず。
「早いね、これ。いつものはどうしたの」
「オーバーホールに出してある」
「だからって、こんな所走らなくても」
今走っているのは、名古屋都市高速。
目的の場所へ行くには、一般道で十分。
むしろ出口の関係上、却って遠回り。
それはそれで、楽しいけどさ。
「速度超過だって」
「らしいな」
構わずギアを上げるショウ。
瞬く間に流れていく周囲の景色。
かなり前を走っていたはずの軽トラックが、気付けば後ろに流れていく。
「危なくない?」
「これで転ぶようなら、バイクに乗ってない」
「自信だね。後ろから、変なのが来た」
「パトカー、じゃないな」
リアカメラの画像を確認して、一旦速度を落とすショウ。
当たり前とは言わないが、パトカーなら加速して逃げ切るのがセオリー。
しかし後ろから来たのは、数台のバイクと車。
一瞬この間の連中が脳裏をよぎったが、年配の人間が乗るには派手な車種ばかり。
かなりの速度で走っている私達に触発され、レースでも仕掛けようというのだろうか。
「面倒になりそうだし、抜かせたら」
「そうも、行かないみたいだな」
私達の前に出る一台の車。
後方にも一台。
左右の車線は、バイクがふさぐ。
意図ややりたい事は分からない。
伝わってくるのは連中の悪意。
ただ、それだけだ。
「全く、馬鹿が」
開かれるアクセル。
上げられるギア。
顎が上がり、体が後ろへ置いて行かれたような感覚が来る。
慌ててしがみついている手に力を入れ、爪を立てる。
「は、早くするなら、そう言って」
「つ、爪立てるな」
叫び声を上げつつ、バイクと車の狭い間をすり抜けるショウ。
時速200km/hでやる事では、お互い無い。
「まだ来てるよ」
「意味ないだろ、あれじゃ」
モニターに表示される、連中が乗っている車種のデータ。
どれも今年の新モデルで、カスタムパーツを付けているとの注釈もある。
「いいバイクじゃないの」
「それなりには。逆に、そう簡単には乗りこなせない。下手したら、直線を走ってるだけでひっくり返る」
「ショウは、大丈夫なんでしょうね」
「努力するさ」
レシーバーから聞こえる笑い声。
車線は緩い左へのカーブ。
ショウはギアを落とし、リアを滑らせつつインへ切り込む。
傾くバイク。
コーナーの立ち上がりでアクセルが開かれ、バイクの姿勢が戻っていく。
この間観た古いレースの映像を思い出し、タイヤにトラクションを掛ける努力をする。
私程度の体重では、あくまでも気分の問題だけど。
「全然付いてこないよ」
「ヒールグリップもしてない連中だろ」
「私だって、してないけどね」
「ユウは、俺にしがみついてればいいんだよ」
そう言って、何も語らなくなるショウ。
というか、私だって何も言いようがない。
出来る事と言えば、言われた通り彼にしがみつく事くらいだろう。
ヘルメットがなければ、もう少し幸せだなと思ったりしながら。
高速を降り、近くのコンビニで一服する。
あれだけの速度で走っていれば、いくら乗っているだけとはいえそれなりには疲労が溜まる。
バイクには、やっぱりソフトクリームだね。
少しすると、さっきの連中も高速を降りたらしく目の前の道を走っていった。
空いている道を、かなりのゆっくりとした速度で。
何しろ、法定速度の倍以上での疾走。
警察が出てこない方がおかしいし、捕まるのが自然と言える。
それが分かってたからこそショウは尋常ではない速度で走り、さっさと高速を降りた訳だ。
「何やってるんだろね」
「走りたい年頃なんだろ」
「捕まりたい、でしょ。さてと、そろそろ行こうか」
ひらりとリアシートにまたがり、前のシートを手で叩く。
「俺が乗るまで待てよな」
「いいじゃないよ。ほら、押して」
「ったく。重いな」
スタンドを上げて、ハンドルを持ってバイクの方向を変えるショウ。
今はコンビニの方を向いている状態。
それを何度か切り返し、歩道を通って車道の前でようやく止める。
勿論私は乗ったまま。
意外と楽しいな、これ。
「乗るのはいいけど、倒れないでよ」
「そこにいると、足が当たるぞ」
膝を畳みながらバイクにまたがるショウ。
そうならないように体をのけぞらせ、鼻先を通り過ぎていくブーツを見つめる。
「そこで、Uターンしてよ」
「なんで」
「池上さんの家は、もっと向こう。戻るの」
「あ、そう。俺、何やってるのかな」
そんな事は、私に言われても知りたくない。
本当、こんな事やってて今日中に着くのかな。
インターフォンを押し、少し待つ。
「はい」
開けられるドア。
薄手のシャツを羽織り、下は長い素足が見えている。
長い黒髪が白のシャツを包み込み、光と影のコントラストを見せている。
「あれ、あなた」
「お久し振りです」
一礼して、改めて白鳥さんを見る。
均整のとれた長身に、綺麗な黒髪。
綺麗な、それでいて親しみの持てる顔立ち。
世の中、いるところにはいるらしい。
「服、着ないんですか」
「薄着が好きなの」
「出来れば着て下さい」
別に彼女の体に気を遣ってるという意味ではない。
後ろを向いたままのショウに気を遣ってだ。
「よく分からないけど、着ればいいのね。映未、スカートかジーンズ」
「ひらひらさせてればいいじゃない。あら、どうしたの」
白鳥さん同様、シャツを羽織っただけの池上さん。
彼女達はスタイルも見た目もいいので、何をしても似合ってる。
私がやれば、裾がする。
「柳君、ね。あの子も陰に籠もるというか、内向的な所があるから。雪ちゃんは、内省的だけど」
ティーカップの中で、スプーンを回す池上さん。
ゆっくりと、自分の中の何かを確かめるように。
「前も言ったように、親が理由というか原因というか」
「亡くなったんでしょ」
「まあね。柳君が生まれてすぐくらいに。戦争へ行った訳じゃなくて、対馬のパイプラインを守るためにって話。その辺は、柳君も詳しくは知らないみたいだけど」
対馬のパイプライン。
ツインコリアから日本へと続く、JKラインの事か。
「どっちにしろ、自分よりパイプラインを守る事。国を守る事が大切って思ったんじゃないかしら」
「でも、それは」
「そうね。パイプラインを守れば、国も守れる。結果としてそこに住む人、柳君も守れる。そういう視点もあるんだけど、そこはそれ。子供だから」
あっさりと結論づける池上さん。
でもって紅茶にブランデーが注がれる。
「飲みたくもなるわよ、それは」
「あなた飲んでるんでしょ。安い酒ね」
「最近仕事してないから、高いのが買えなくて」
「昔みたいに、作ってみる?」
楽しげに笑う二人。
今という時に、昔を懐かしみ。
その思い出を、改めて語り合う。
「どぶろくでも造ろうか。君、うるち米と麹とイースト買ってきて」
「でも、それは違法なんじゃ」
「格好いい顔して、生真面目なのね。いいの、私が許す」
炊きあがった餅米に麹を混ぜて、放っておく。
密造酒は経験がないので詳しくないが、後はこまめにかき混ぜたりするらしい。
「温度を確認して、イーストを入れてね」
「入れてねって、誰が面倒をみるのよ」
「私は渡り鳥だもの。いつまでもここにはいられないわ」
何か、格好いい事を言ってきた。
遊ぶだけ遊んで逃げたという気も、しないでもない。
「それより、柳君」
「私達より、お兄さんに聞いてみたら」
「名雲さん?いないもん」
「また、智美ちゃんと遊んでるのかしら。いやね、もう」
何故か白鳥さんをつねる池上さん。
何が嫌かは知らないし、つねられる白鳥さんはもっと嫌だろう。
「私もあの子のお姉さんじゃないし、全部を管理してる訳じゃないから」
「ずっと、一緒にいたんでしょ」
「いたのは名雲君とか、伊達君。元々は名雲君と伊達君がペアだったの。そこに柳君が加わって、私達と合流したのよ」
そんな話、今知った。
勿論いきなり全員が揃ったとは思わなかったが、そういう流れがあったのか。
「白鳥さん達は?」
「あちこちでたまに顔を合わせてる内に、親しくなったの。でも、映未達はトップだから。私達なんて、その足元にも及ばない」
わざとらしい仕草で両手を上げる白鳥さん。
しかしケイ達の話だと、今は彼女達がトップグループ。
また元々両者の間に境はなく、周りが白鳥さん達と池上さん達を区別しているだけにも思える。
「でも、試合に出ていいの?」
「いいの」
「どうも不安なのよね。パニックとかになったら、どうする?」
「怖い事言わないでよ。それに、そうならないように私達がいるんでしょ」
目を丸くする池上さん。
明らかに、私まで関係あるのかと訴えかけるような。
「そうよ。みんなで柳君を守るの。当たり前じゃない」
「また始まった、子供の理屈が。四六時中つきまとう訳にはいかないし、試合中はどうするの」
「普段は名雲さん達が一緒にいるから、問題ない。試合中は、私達がセコンドに付くから」
「もう、そういう事ばかり言って。……勝手に夜中に来ないでしょうね」
いつの話をしてるんだ、この人は。
「あれはもう時効、時効なの」
「何の話?」
「この子、真夜中にここへ来たの。私を心配してくれるだけなら嬉しいけど、寝た途端この辺をもう」
人の口元に触れ、顎の方へ伝わせる池上さん。
要は、よだれが垂れたと言いたいらしい。
「人の心配する前に、雪ちゃんは耳鼻科行きなさい」
「私の事はどうでもいいの。とにかく決定、決めたから」
「あなた、いつからそういう権限を持ってるの」
「さあ。今からじゃない?」
議論になれば負けるので、話を打ち切りショウを見る。
元々こういう時に口を挟むタイプではないが、それにしても静かだな。
「何してるの」
「暖めてる」
タオルにくるまれた、お米の入った瓶。
別に頼んでないし、暖めればいいという物でもない。
「温度が上がり過ぎるでしょ。下ろして」
「俺は、早く飲みたいんだ」
「だから、温めても早く出来る訳じゃないの。鶏だってそうでしょ」
ひしと瓶を抱き、離そうとしないショウ。
それを強引に引きはがし、瓶内の温度をチェックする。
ちょっと、じゃなくてかなり低い。
「何してるんだ」
「いや。低いから、温めようと思って」
「俺のだ、俺のどぶろくだ」
何をムキになってるんだ。
あまりうるさいので瓶を渡すと、丁寧にタオルを抱いて大切そうに抱きしめた。
これからは、少し付き合い方を考えた方が良さそうだ。
「だったら、後は玲阿君が面倒みてよ」
「みる。一人で育てる」
自分で、何を言ってるか分かってるのかな。
瓶を抱いたままでは運転出来ないので、帰りは私が前になる。
私が後ろで瓶を抱いてもいいけど、多分そのままどこかへ飛んでいくから。
瓶だけではなく、私も含めて。
「意外と上手いな」
「これ、小さいもん。いつものあれは、多分無理」
排気量は400ccで、私のサイズでも片足が付いて倒れない自重。
しかし、よくこれでさっきの連中をかわせたな。
「チューンしてある?」
「少しは。でも、ほぼノーマルだぞ。わっ」
コーナーに深く切り込み、膝がするような所までバイクを傾ける。
やはりトラクションを意識しつつ、コーナーの立ち上がりでアクセルを開いてすぐに体勢を立て直す。
少し浮き上がるフロント。
どうやら、開きすぎたらしい。
「やっぱり、俺が」
「どこで入れ替わるの。いいから、ショウは瓶の事だけ気にしてて」
「なるほどね。それよりも、俺はここがどこか気にしたいな」
ヘルメット内に響くショウの呟き。
ここがどこでもいいじゃない。
あてもなく、市街をツーリングするのも悪くはない。
家へ戻ろうとしてた事は、この際すっかり忘れるとしよう。
やる事はなくても、学校はある。
建物がではなく、授業がね。
無駄の少ない学校だと思ったけど、結構そういう事も多い気がする。
この間も教職員には給与が支払われる訳だし、何か疑いたくなるな。
とはいて、熱心に授業をやられても困るけどさ。
「作文って」
何が苦手って、論理的に物事を考える事。
理屈よりも感情。
それより先に、手が出るから。
「書く事なんてない」
テーマは現代社会の教育問題について、だってさ。
そのテーマを与えた老教師は、窓際に椅子を置いて遠い目で外を眺めてる。
頼むよ、本当に。
「大体テーマがあれだね。わざと?」
「さあ。私は、もう書いたから」
簡単に言ってくれるね、この人は。
「ピアジェの論点を借りるなら」って、ピアジェって何よ。
「これって、学校の批判を書けって事?」
「そういう話は、冗談でも言わないの。ただでさえ、目を付けられてるんだから」
「でも、あれだよ」
私達の視線の先にいるのは、グレーのスーツを着た老教師。
何となく、顔が前後に揺れているように見えなくもない。
「ああ見えて、意外と策士かも知れないじゃない」
すごい深読みをしてくるな。
もしそうだとしたら、大石内蔵助どころの騒ぎじゃない。
「いいや。書こう」
気持ちを切り替え、ペンを持つ。
今思い付くのは、この空白とも言える時間。
全てがスケジュール通り進み、決められたまま動くのは辛い。
ただ、こうして無為に時を過ごすのもどうかと思う。
なんて事を、もう少し硬い文体で書いてみる。
自習の次は、体育。
とはいえこちらも、自習とそれ程の違いはない。
バレーをやる子、バスケをやる子、卓球をやる子、ビデオを見る子。
グランドを走る、という子はいないので取りあえず日向で丸くなる。
「何してるの」
「デート」
ケイの腕に手を絡め、物騒な事を言い出す柳君。
冗談とはいえ、手の平に汗が出てきたよ。
「雪野さんは?」
「丸くなってる。誰も、グラウンドなんて走らないし」
「丸くもならないだろ」
もっともな事を言ってくるケイ。
それもそうかと思い、もぞもぞと起きあがってベンチウォーマーをずるずる引きずる。
ショウのだから、丈が長いのよ。
「相撲でも取る?」
「サトミとでもやってくれ」
「あ、そう」
すっと前へ出て、サトミの腰に手を回して引きつける。
身長や体格では彼女の方が上。
しかしこうして腰を伸ばせば、足が浮いてバランスも崩れる。
何より力が入らない。
「ちょ、ちょっと」
「参った?」
「ま、参ったから、離して」
「離すと倒れるんだけどね」
腰に回していた手を脇に差し入れ、そのままこちらへ軽く引く。
ちょうど胸が顔に当たって、楽しい事この上ない。
天国って、多分こういう所だろうな。
「急に何するのよ」
「いきなりやるから、勝機が生まれるの。ねえ」
「そうだね」
簡単に納得してくれる柳君。
彼の肩に触れて、鷹揚に頷いてみる。
やっぱり分かる人は、分かってくれる。
「でも、遠野さんでも勝とうと思えば勝てるよ」
「ユウに?」
まさかという顔。
言ってみれば、私がサトミよりいい点を取れると聞かされたのと同じだろう。
「もう一度、同じ体勢になってみて」
「ユウ」
「分かってる。軽くでしょ」
言われる前に指摘して、腰に手を回し少しだけ引きつける。
それでもサトミは、耳元で奇っ怪な悲鳴を上げてるが。
「遠野さんは、雪野さんの脇に手を差し入れて腕を返す」
脇に進入してくるサトミの腕。
くすぐったいが、その程度で離れはしない。
「後は右に倒れながら、雪野さんを腰に乗せる」
「あら」
ごく平然と声を上げるサトミ。
私を腰に乗せ、投げ飛ばしながら。
「っと」
私は彼女を引きつけているので、やや前傾姿勢。
体重はそちらへと倒れている。
そこで横に振られれば、私程度の体重はあっさりと浮き上がる。
「よっ」
さすがに地面へ叩きつけられる訳にはいかないし、それ以上にふらついたサトミが怪我をする。
腰をひねって足を強く振り、先に地面へ足を付く。
後はいつのまにか私の上にいるサトミをブリッジ気味に受け止め、腰を落としながらゆっくりとしゃがみ込む。
他人なら逆に投げ飛ばすが、当然そういう訳にはいかないので。
「ちょっと、相手が悪かったね。普通の人なら、地面に倒れてるんだけど」
「やっぱり駄目。ユウには勝てない」
人の前で、がっくりと膝を付くサトミ。
そんな大げさな事でも無いでしょうに。
それとも密かに、そういう夢でも抱いてたのかな。
「ユウに勝つなんて簡単だろ」
「どう簡単なの」
足を踏み、軽く肩を押す。
でも足を離して、一歩下がる。
ケイは叫び声すら上げず、あっさりと地面へ倒れ込む。
「い、いきなり」
「不意を突くって言ったでしょ、さっき」
「もういい。俺は知らん」
四つんばいで地面を這うケイ。
こっちの方が、知りたくない。
「はは。早い」
いつの間にかその背中にまたがり、ケイの肩を軽く叩く柳君。
楽しそうなのはいいけど、この子達本当に高校生か。
「ショウは呼ばなくていいわよ」
「いくら何でも、こんな事はしないって。ショウー」
乗りはしないが、呼ぶには呼ぶ。
でもって、すぐに来てくれた。
「何してるんだ。……俺は馬じゃないぞ」
「誰も、そんな事言ってないでしょ。ちょっと、組んでよ」
「組めって、体格が違うだろ。大体、どこ掴めって?」
失礼な人だな。
なんて思ってると、ショウが真上から腰を持ってきた。
視界に見えるのは、彼の胸というかみぞおち辺り。
左右は腕で、彼の中にいるような物。
幸せは幸せかも知れないが、何だこれ。
「柳君」
「いや。相手が相手だし。ねぇ」
「じゃあ、俺が投げ飛ばすか」
「あ、僕も」
消える圧迫感。
軽くなる感覚。
気付いたら目の前からショウが消え、足が目の前を通り過ぎていった。
そのお腹に見える、華奢な指先。
ショウをキャッチして、真後ろへ投げ飛ばす柳君。
タイミング、勢い、力強さ。
理想かつ、完璧なバックドロップ。
しかしショウは私同様、足を強く振ってブリッジ気味にそれを堪える。
「さすが。やっぱり二人とも、同じ事するね」
楽しそうな、うらやましそうな笑顔。
今投げたのも、結局はそれを確かめるためだったのかもしれない。
私には分からない、彼の胸の内。
かげりと闇を秘めた。




