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スクールガーディアンズ  作者: 雪野
第27話
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     27-9




 オフィスに戻ってくると、ドアにテープが貼ってあった。

 ガムテープのような生やさしい物ではなく、色は赤で文字入りの。

 「封鎖中。無断立ち入りを禁ず」

 とある。

「何、これっ」

 即座に剥がし、サトミに頭をはたかれる。

 それに構わず、全部剥がす。

「封印されてるのに、剥がしてどうするの。下手したら、罰金よ」

「ここは、私のオフィスじゃない。どうして」

「解体されたんでしょ、連合が」

 冷静に指摘するサトミ。

 なるほど。要は差し押さえという訳か。

「それならそれで、立ち退くよう言えばいいのに。こんな下らない事して」

「ユウがすぐ、カッとなるから」

「誰がっ」

 両手で机を叩き、勢いよく立ち上がる。

 誰って、私か。

 というか、今言われたばっかりだ。

「大体、まだ荷物もあるのに。あー」

「何、それ。とにかくここにいると、また揉めるわよ」

「はいはい。ショウ、全部運び出して」

「この前運んだのに、またか。もう、絶対戻さないからな」

 お米の袋を担いだショウは放っておいて、とりあえず自分の分を確保する。

 重い物は、殆ど前に運び終えた。

 残っているのは、リュックとごく少しの私物だけ。 

 狭く、決して物が整っている訳でもなく。

 便利な場所にもなかったけど。

 いざ去るとなったら、寂しさは募る。

 へこんだロッカー。処理の遅い端末。

 汚れの残る壁の隅。

 遅くまでここに残り、下らない話をして時間を過ごした。

 何度も襲われ、冷や汗もかいた。

 一人ここで過ごし、物思いに耽った事もある。

 それももう、味わう事はない。 



 顔を上げ、窓の外を見る。

 すっかり日は落ち、風に舞う落ち葉が街灯に照らされている。

 完全に寝てた、じゃなくて物思いに耽っていたようだ。

「いつ立ち退くの?」

「さあ。誰も来なかったわよ。どうも、余計に怖がられたみたいね」

「あ、そう。とにかく、帰ろう」

 リュックを背負い、室内を見渡して忘れ物がないか確かめる。

 残ってるのは何もなく、ぽつんと佇む私が窓に映り込んでいるくらい。

 寂しい以外の言葉が見つからないな。


 G棟の外へ出て、上を見上げる。

 明かりの灯る、幾つかの窓。

 私達のオフィス。

 元オフィスは、暗いまま。

 でも明日には、明かりが点いているのかも知れない。

 私達以外の誰かが利用して。

「ご飯は、止める?」

「食べるに決まってるじゃない。それはそれ、これはこれ。全然、別問題よ」

「聞くんじゃなかった」

 答えを聞く前から分かってたという顔。

 そういうサトミも、落ち込んだり怒っている様子はない。

 とはいえ私とは視点が違うので、オフィスを追い出された事に関して色々と考えてるんだろう。

 私はとりあえず、何を食べるか考えるとしよう。


「素うどんって」

 食堂のメニューを睨むショウに構わず、つるつるすする。

「これから大変なんだし、贅沢してる場合じゃないでしょ」

「俺達の金がなくなる訳じゃないだろ」

「手当は減るじゃない。うどん、嫌い?」

「好きだけど」

「じゃあ、いいじゃない」

 強引に話をまとめ、汁をすする。

 席に戻ったショウは数口で食べ終え、どんぶりを箸で叩き出した。

「お前、うるさいよ」

「うどんだぞ、うどん。分かってるのか」

「言いたい意味が分からん。まだ食べたいなら、牛みたいに反芻しろ」

 サトミと一緒にケイをはたき、箸を置く。

 下らない話を聞いて、食欲が無くなった。

「食べないのか」

「上げる」

「よしよし」

 何がいいか知らないが、人のどんぶりを抱えてすすり出すショウ。

 誰も取らないのに、隠さないでよね。

「うどん?ダイエットでもしてるの?」

 脂の跳ねるハンバーグセットを、トレイに乗せて来る沙紀ちゃん。

 それにはショウだけではなく、サトミやケイも目付きを変える。

「な、何?」

「別に」 

 3人して血走った目をすれば、別にも何もないだろう。

 いや。私を含めて4人かな。


 結局ハンバーグも頼んで、普段よりも食べ過ぎた。

 お金は掛かるは、カロリーは多いは。

 本当、明日からはもう少し考えて行動しよう。

 でもって今は、イチゴパフェを楽しむとしよう。

「封印?ああ、そう言えば今日からオフィスの立ち退きをやってるみたい。優ちゃん達がオフィスにいなかったから、場所だけ押さえたんじゃない?」

「荷物も中にあったのに。ふざけ過ぎでしょ」

「虎の首に鈴を付けるのは、誰もがやりたがらないから。たまたま巣穴が空で、慌ててふさいだんじゃなくて」

「じゃああれはお札で、ユウがお化けか。寄りつけないように、結界代わりの」

 げらげら笑うケイ。

 自分も追い出された割には、良く笑えるな。

「でもユウは、その封印を破ったのよ。この子を、処分してやって」

「私はね、みんなの気持ちを代弁しただけ。私が破らなかったら、サトミが破ってたし」

「そんな訳無いでしょ。あなたは本当に反省しないというか、考え無しというか。ごめんなさい、丹下ちゃん。ここは、私に免じてユウを許してやって」

 ぐいぐいと、人の頭を机に押しつけるサトミ。

 友達思いの発言と捉えたいところだが、そうじゃないのは私が一番分かってる。

「許すというか、処分も無効でしょ。連合が解体したなら、始末書も謹慎も無意味だし」

「あら、そう。良かったわね、ユウ」

 にっこりと、優しく微笑むサトミ。 

 この女、やはり知っててやってたな。

「じゃあ、IDはどうするの」

「とりあえず、元野さんへ返却して。その後どうするかは、私もちょっと分からないから」

 困惑気味に微笑む沙紀ちゃん。

 連合の解体により、行き場を失うのは数百人。

 それも高度な訓練を受けた、武装集団。

 色んな意味で不安定要素なのは、間違いない。

 むしろ、それが狙いなのかも知れないな。

「私達を散らせて暴れさせて、それを取り締まるんじゃないの」

「それも、考えられるわね。ただ、どれだけの人間が暴れると思う?理由も無しに暴れるなんて、ユウくらいでしょ」

 あ、そうかい。

 だったら、まずは今から暴れてやろうかな。

「まあ、不安定要素の一つにはなる。それにしても、逆に狩られる立場とは。なかなか、笑える」

 実際に笑い出すケイ。

 かなり皮肉っぽく、また楽しそうに。

 自分が追い込まれて、一体何が楽しいんだか。

「そのユウの発想で行くと、私達が弾圧されるのもあり得るわね」

「私は大丈夫よ。そんな、地雷を踏むような真似はとても」

 大げさに首を振る沙紀ちゃん。

 実際彼女はやらないし、生徒会ガーディアンズ自体もも具体的な嫌疑や名目がなければやらないだろう。

 そうなると、例の執行委員会が関わってくる訳か。

「とにかく、優ちゃんは暴れないでね」

「達」

「そう。達は」

「考えとく」

 いきなり怖い顔になる沙紀ちゃん。

 私だって、無意味に暴れたりはしない。

 だけど理由があれば、それは定かではない。

 単純に馬鹿にされたくらいなら、暴れる事はない。

 それ以外の何か。

 特別な要因があった場合は、その時にならないと分からない。



 学校に来て。

 授業を受けて。

 お昼を食べて。

 オフィスに来る。

 鍵の掛かっているドア。

 「立ち入り禁止」の張り紙。

 そこでようやく、立ち退かされた事に気付く。 

 毎日の習慣。

 生活の一部となっていたため、完全に意識もせずに歩いてた。

「どうか、しましたか」

 落ち着いた声と物腰。

 静かに私の後ろへと立つ、例の彼。

 前島君、だったか。

 背後を取られるのは趣味じゃないので、すぐに振り向き壁を背にする。

 彼が攻撃的な性格でないのは分かってきたが、具体的な行動様式はまだ読み切れてないので。

「昔を懐かしんで、ついね」

 間違えて来たとは言わず、格好良く答える。

 昨日だって、昔は昔だ。

 彼は笑いもからかいもせず、曖昧に頷き張り紙を指さした。

「一応、立ち入り禁止なので。申し訳ないですが」

「分かってる」

「助かります。昨日、封印を破られたと連絡があったので」

「荷物があるのに、テープなんて張るから。って、サトミが怒ってた」 

 誰もいなければ、何でも言える。

 この話がサトミにどう伝わって私がどうなるかは、後でゆっくり考えよう。


「お前か、噂の警備って」

「塩田さん。どうして」

「誰が暴れるって、お前達だろ。何だ、もう追い出されたのか」

 ふざけた事を言って、ドアを裏拳で叩く塩田さん。

 追い出されたって、誰のせいだと思ってるんだ。

「睨むな。俺は解任されたけど、それは俺の責任じゃないぞ。連合の解体も」

「どうだか。普段から、ふらふらしてるから」

「怖い女だ。おい、まずはこいつをどこかに閉じこめろ。それで学内のトラブルは、半減する」

「面白いですね」

 愛想良く笑う彼。

 塩田さんは本当なんだ念を押し、爪で張り紙を剥がし出した。

 この人こそ、どこかに閉じこめた方がいいんじゃないの。

「あの。それは剥がされると、困るんですが」

「これ剥がして、自警局のどこかに張ってみようぜ。結構、面白くないか」  

「面白い、ですか?」

「分かったよ。真面目な野郎だな」

 そう言いつつ、なおも剥がす塩田さん。

 前言撤回。風間さんと、大差ない。

「さてと。早いけど、飯でも食うか」

「塩田さんのおごりで?」

「たまにはな。お前もどうだ」

「いえ。俺はまだ、仕事が」



 彼がそう答えた所で、何人かの男が現れた。

 どうやら事情を知っているらしく、張り紙を読んで笑っている。

 私もしくは、私達に恨みを持つ馬鹿だろう。

 とはいえ相手にする程暇でもないし、その理由もない。

「はは。馬鹿がいるぜ」

 こちらを見て、笑う男達。 

 向こうには、色々と理由があるらしい。

 しかし、それはそれ。

 無闇に暴れる時期は、もう過ぎた。

 というか、馬鹿馬鹿しい。

「お前に言ってるんだ。おい」

 明らかに私を指差している男。

 時期は過ぎた、と思う。

「お前の知り合いか」

「さあ。私とは、限らないでしょ。というか、見た事無いです」

「ひどい話だな、それ」

 鼻で笑う塩田さん。

 ただそれは、お互い様だと思う。

「お前、何笑ってるんだ」 

 必然と言うべきか、塩田さんに向かう敵意。 

 それも、彼が誰だかを分かっていての様子。

「いつも、偉そうな事言いやがって。調子に乗ってるから、そうなるんだ」

「これからは大人しくしてろよ。そうすれば、いじめるのを止めてやるから」

「少しだけな」 

 廊下に響く馬鹿笑い。

 全身から血の気が引き、目の前が暗くなる。

 同時に意識は薄れ、しかしその奥でははっきりと冴える。

「落ち着け」

 小声でささやき、私の肩に触れる塩田さん。

 何か言い返そうとしたが、彼の表情にはゆとりがある。

 その意図は分からない。

 ただ彼が何もしない以上、私が空回りしても仕方ない。

「じゃあな。元議長」

「今度会った時のために、金用意しとけよ」

 馬鹿笑いと共に去っていく男達。

 さすがに我慢出来なくてスティックを抜くが、やはり塩田さんに止められる。

「だって、あれ。あー、わー」

「うるさいよ。あんな馬鹿連中、放っておけ」

「でも、だって。えー、あー?」

「もういい。おい、お前。ジュース買ってこい」



 壁にもたれ、リンゴ炭酸を飲む。

 程良い酸味と、果汁100%の濃厚な味。

 やっぱりジュースは、これに限る。

「美味しいか」

 子供をあやすような口調。 

 とはいえ今は気分がいいので怒らない。

 塩田さんは肩をすくめ、ペットボトルを手の中で転がした。

「聞いてるかもしれんが、俺は3年の代表でそれ以外にも幾つかの役職を持ってる。権限は大きくても、連合の議長はその中の一つに過ぎない。ただ、名誉職みたいのが多いけどな」

「それで?」

「他の役職の権限で、さっきの馬鹿達を処罰する事だって出来る。その辺も知らん奴らを構っても、こっちが疲れるだけだ」

 なるほど、そういう訳か。

 身近にいると気付かないけど、やっぱりこの人は偉いらしい。

「意外と、冷静なんですね」

 物静かに語りかける前島君。

 彼の立場は微妙だが、別段塩田さんへ敵意を見せる様子はない。

 内面を読みにくいタイプなので、実際何を考えてるかは不明だとしても。

「俺は、誤解されるタイプなんだ。で、お前は何しに来たんだ」

 いきなり核心へ触れる塩田さん。

 しかし前島君は同様の素振りも見せず、ペットボトルに口を付けた。

「執行委員会、保安部責任者。執行委員会の警備が任務です。それ以外は別段、依頼を受けてません」

「依頼、ね。こう簡単に傭兵が入り込んでくるようじゃ、問題だな」

「どうも」

 苦笑して頭を下げる前島君。

 彼は私にも頭を下げ、この場を去っていった。

「あいつは、何しに来たんだ」

「さあ。私達の監視とか」

「それはあるな」

 冗談で言ったつもりだったのに、真顔で頷かれた。

 誰が誤解って、私達が誤解されてるな。

「俺はともかく、お前らはこれからどうする」

「どうするって、別に」

 改めて聞かれると、答えようがない。

 昨日の時点で、オフィスの閉鎖は分かっていた。

 つまりは連合の解体という事も。

 寝る前に少し考えたはずだけど、全然覚えていない。

 というか、覚えていたらここに来てないだろう。

「考えてないって顔だな。他の連中は」

「もう、帰ったんじゃないんですか」

「なるほど。学校とやり合うとかいうのは、どうなった」

 私達をけしかけている訳ではない。

 ただ、何もしない私達を訝しくは思ってるかもしれない。

 のこのこと、閉鎖されたオフィスにやってくる私とかも。

「みんなに聞いてみます」

「学校とか生徒会とかは、あまり気にするな」

「でも」

「それより、変な事で揉めるなよ。それと、たまには早く帰れ」



 許可も出たので、寮へ戻る。

 玄関前のロータリーに来たら、サトミが私服で座っていた。

 赤のブルゾンと、紺のミニスカート。

 この寒空に、ミニか。 

 男の子なら、暑くなりそうな眺めだな。

「遅かったわね。まさか」

「そうよ。間違えて、オフィスに行ったのよ」

「だと思った」

 そっと頬を撫でてくるサトミ。

 私も彼女の、少し冷たい頬に触れる。

 そうなるくらいの時間、外で待ってくれていた彼女の。



 暖かいラウンジで、お茶を飲む。

 夕ご飯が近いし、ジュースを飲んだばかりなので。

「これからどうするって、塩田さんに聞かれた」

「難しい質問ね」

「サトミでも?」

「学校とやり合うって考えたら、目先の事すら思いつかないわ」

 大げさに首を振るサトミ。

 それは冗談としても、先行きが見えていないのは確かだろう。

 向こうの規模と、私達の規模。

 財力、人員、様々な制約、権限。

 かろうじて太刀打ち出来るのは、個々の能力くらい。

 私ではなくサトミやショウ達の。

 逆に言えば、それ以外は何一つかなわない。

 それ以前に、学校での居場所すらない。

「場所。そう、場所。オフィスの代わりになるような」

「それこそ難しいわよ。教室は、生徒会か学校の許可を得ないと。勿論他の施設に関してもね」

「勝手に居座ったら?」

「私達を処罰する、いい口実ね」

 やはり、そうか。 

 しかし今のままでは、何も出来ない。

 何をするかという以前の問題だ。

 勿論場所を確保したからといって何かが変わる訳ではないが、人が集まれば自然と連帯感が生まれて考えも出てくる。

 寮やファミレスで集まるのも策の一つだとしても、やはり拠点は学校に欲しい。

「なんか、レジスタンスみたいだね」

「みたいじゃなくて、そのものよ。学校や生徒会は体制側で、今の私達は反体制側なんだから。それも、少数派の」

「むー。困ったな」

「じゃあ、止める?」

 小首を傾げ、私の顔を覗き込むサトミ。

 何も答えずその額に、自分の額を重ねる。

 これで少しは、いい考えが浮かぶだろうか。

「お腹空いた」

「あのね」

「いや。あれ。塩田さんが、ご飯おごってくれるって」

「議長を解任されたのに、お金あるの?知らないわよ」

 言葉とは裏腹に、ブルゾンを羽織ってラウンジを出ていくサトミ。

 他にも役職を兼ねてるし、収入は色々あるんだろう。

 名誉職、という事は思い出さないでおこう。



 人数が集まると、ご飯も美味しい。

 一人で食べても、美味しいけどね。

「野菜食え、野菜を」

「焼き肉なんだし、肉食わないと」

「じゃあ、水飲め。水で腹を膨らませろ」

「まあまあ、先輩」

 ニヤニヤと笑い、骨付きカルビをかじるケイ。

 塩田さんは呆然と立ち尽くし、テーブルを見渡した。

 人数としては、10人あまり。

 この支払いを一人でするとなったら、彼でなくとも立ち尽くすだろう。

「いいよ。金は3割でも」

「甘やかすと癖になりませんよ」

「じゃあお前には厳しく接してやる」

 箸で掴んだ炭を、ケイに近付ける塩田さん。

 尹さんはふざけ合う二人を楽しそうに眺めつつ、ジョッキでビールをあおった。

「いいんですか、3割なんて」

「俺の店だからね。原価は割るけど、たまにはいいだろ」

「だといいんですけど」

 女の子達は問題ない。

 元々そうは食べないし、この状況では遠慮という意識が働く。

 塩田さんやケイ達も、食べる量としては普通。

「肉下さい」

 訳の分からないオーダーをするショウ。

 カルビとかタンとかの、部位ではない。

 肉ってなんだ、肉って。

「放っておくと、どれだけでも食べますよ」

「瞬は、ここまで食べなかったけどな」

「おじさんは?月映さん」

「あの人は体が大きいから、それに見合うだけは食べる。でも、ここまでじゃない」

 呆れと感心の入り交じった口調。

 ただその眼差しは、出来の悪い息子を見るように優しげで暖かい。

「私は、デザートでも食べようかな。杏仁豆腐あります?」

「ここは、中華料理屋じゃないんだけどね」

 苦笑して、そばを通りかかったウェイトレスさんにオーダーする尹さん。

 こういうわがままの聞くのが、知り合いの店のいい所。

 わがままと言うには、ささやかだとは思うけど。



 ふるふるした杏仁豆腐の食感を楽しみ、シロップに口を付ける。

 このあっさりした味わいが、脂っこい物を食べ後には何とも嬉しい。

「もう、デザート?」

 ワインを飲みつつ、話しかけてくるモトちゃん。

 自分こそ、いつまで飲んでるんだ。

 ボトルを抱えるな、ボトルを。

「お酒ばっかり飲んでてもね。考える事もあるし」

「何を持って帰るとか?」

「あのね」

 いや。それは盲点を突かれたな。

 取りあえず、この辺の霜降りは確保しておこう。

「結局、持って帰るんじゃない」

「まあ、それはそれ。食べる?」

「ワインに杏仁豆腐か。悪酔いしそうね」

 そう言いつつ、差し出したレンゲに口を付けるモトちゃん。

 洋酒とお菓子という組み合わせはあるし、ワインと杏仁豆腐でもいいと思う。

 私は食べないけどね。

「辛いな、これ」

「白だから。でも、美味しいでしょ」

「まあね。って、飲んでるじゃない」

 いつの間にかグラスを受け取り、半分くらい飲んでいた。

 まあいいか、美味しいし。

「でも本当に、考える事があるんだって。もう、それで頭痛くてさ」」

「悩み多き10代。青春ね」

 私の肩を抱き、ころころと笑うモトちゃん。

 間違いなく、酔ってるな。


 楽しそうに話し込む塩田さん達。

 酔ってる割には、みんなの世話をしているモトちゃん達。

 それをぼんやりと眺める自分。

 笑顔と話し声、暖かな雰囲気。

 人が集まり、お互いを信頼して。

 広くなくてもいい。

 機能的でなくてもいい。

 ただこうしてくつろげる、人の集まれる場所さえあれば。

「教室は、駄目なんだよね」

「学校とやり合うのに、まさか許可をもらいには行けないでしょ」

 にんじんのスティックをかじりながら笑うサトミ。

 当たり前だが、やはりそうか。

 でもそれは、初めから分かっていた事。

 それ以外の場所、候補が必要なのは。

「あったはずなんだけどな。人の集まれる場所が」

「酔ってるんじゃないの」

 うっすらと赤い顔で、茶碗にワインを注ぐモトちゃん。

 自分に言ってるのか、この子は。

「そうじゃなくて。ここまで出かかってるのに」

「集まるなら、俺の店でもいいだろ」

「いや。そうなんですけど、そうじゃなくて」

「楽しそうだな、高校生が集まるなんて。俺の若い時は、もう戦争が始まるって雰囲気だったから。あーあ」

 ジョッキ片手に、遠い目で語り出す尹さん。

 よく分からないし、壁と話しているので放っておこう。

「場所。学校の目には付かなくて、でも学内にある」

「穴を掘れ、穴を」

 げらげら笑うケイ。

 穴なんて掘ったら、本当に地下組織じゃない。

「あるはずなんだって。たぶん、お金もいらないと思う」

「夢見がちな少女ね、あなた」

 お茶の入ったグラスを掲げるサトミ。

 多少不安というか、危惧を感じさせる表情で。

 さすがというか、私が分からない私の事まで分かっているようだ。

 つまりは、この子が嫌がるような場所という訳か。

 しかし今はお酒も回ってるせいか、思考がついて行かない。

「いいや。えーと、ユッケ下さい」

「何、それ」

「生肉も、たまにはいいかと思ってね。取りあえず、考えるのは止めた」

「そのまま止めた方がいいと思うわよ」

 諭すような表情で私を見つめるサトミ。

 そして、こうにも見える。

 多分、この子には何を言っても無駄だろうなと。



 朝。だと思う。

 目覚ましのアラームで目を覚ます。

 曜日は土曜の表示。

 慌てて飛び起きる事だけは、かろうじて回避した。

 それだけの気力も体力も無いけどね。

「起きよう」

 一人で呟き、ベッドを這い出る。

 喉が渇いたな。

「お茶は、お茶」

 冷蔵庫に話しかけ、少し待つ。

 当たり前だが開きはしないし、お茶なんて出てこない。

 出てこられても困るけどさ。

「牛乳か。温めよう」

 マグカップに注ぎ、電子レンジで温める。

 加減を見極め、湯気が出てきたところで素早く取り出す。

 ちょっと砂糖、ちょっとバター。

 コーンフレークをかじりつつ、牛乳を飲む。

 かすかな甘みと、かすかなこく。

 生きていてよかったと思える瞬間だ。

 大げさだとは思うが、このくらいささやかなのが自分にはちょうどいい。

「天気は、晴れか」

 名古屋南部は、終日晴れ。

 気温も、この時期としては高めらしい。

 朝からやってるという洋食屋さんのレポートを眺めつつ、残りの牛乳を全部飲み干す。

 体は温まり、頭も多少動いてきた。

 特に予定はないので、部屋の中を見渡して片付けるようなところを探す。

 まずは、布団でも干すか。



 例によって、ロータリーまで布団を運ぶ。

 私一人では不可能なので、人手を借りて。

「お、重い、これ」

「ユ、ユウユウが、非力なんだって」  

「じ、自分こそ」

 どうにかニャンのマットを、ロータリーまで運んでくる。

 何が入ってるのか知らないが、初冬の朝に一汗かいた。

「この、この」

 やはりマットを蹴り、ホコリを叩く。 

 しかし、さすがはホコリ。

 私が避けるより早く、体へまとわりついてくる。

 これはニャンでも、逃げるのは不可能だな。

「こっちもお願い出来ますか?」

 いつの間にか、ロータリーに並んでいるマット。

 三つ、四つ。どこまであるんだ、これ。

 というか、どうして私に頼むんだ。



 だくだくと汗をかき、さすがにシャワーを浴びた。

 本当、今は冬なのかな。

「あれ、マットは」

「運んでくれた。おかげで、助かった」

 レモン果汁のペットボトルを渡してくれるニャン。

 それを半分くらい一気に飲んで、残りも飲み干す。

 疲れた時には酸っぱいものが美味しいとは、よく言ったものだ。

 とにかく、しばらくは何もしたくない。

「やる気なしって顔ね」

「これでやる気のある人がいたら、会ってみたい」

 ニャンに足を揉んでもらい、少し気分を良くする。

 このまま寝てしまってもいいくらいで、実際眠くて仕方ない。

 天気はいいし、お腹も一杯だし。

 こうなると、マットが無いのは悔やまれる。

 外で寝るのもどうかとは思うけどね。

「ガーディアンも辞めて、暇でしょ」

「辞めた訳じゃないけど。それに、やる事もあるし」

「あら、残念。陸上部に来てもらおうと思ったのに」

 耳元の辺りで、冗談っぽく笑うニャン。

 陸上部という事は、クラブハウス。

 それ程広くはないが、クラブ活動をしている間は誰もいない。

 使うのは着替える時くらいで、それ以外はほぼ無人。

 ただ、あそこも結局は学校の管轄内。

 第一ニャン達へ迷惑が掛かる。

「いい場所無いかな。学校に文句を言われなくて、集まれるような」

「小屋建てたら?ショウ君いれば、建材は軽く運べるでしょ」

「小屋、か」

 付き合いが長いだけあり、私の好むところを付いてくる。

 ログハウスとまでは言わない。

 小さくて、でもしっかりした作り。

 木のテーブル、窓から差し込む明るい日差し。

 壁には小さな絵を飾って、玄関の脇には花壇を作ろう。

 いや。妄想に走ってる場合じゃない。

「そうじゃなくて、もっと現実的な話」

「学校とやり合うのが、現実的?」

 鋭いところを突いてくるな。

 とはいえニャンも、立場は違うが学校には反抗的。

 その意味では仲間だし、同じ志を持つ存在。

 それは今に始まった事では無く、小等部の頃からずっと。

「地下室って無いの?」

「さあ。私、学校の事はそれ程詳しくないから」


 詳しくないなら、調べればいい。

 土曜とあって、学内はかなり静か。

 いるのは生徒会関係者や、特定の委員会の人。

 後はクラブ生くらいか。

「ニャンはいいの、練習」

「毎日走るよりも、たまに休憩を入れる方がいいんだって。本当かどうか知らないけど、息抜きにはちょうどいいし」

 などとのたまう、国内でも屈指のトップアスリート。

 張りつめて、ぴりぴりしたニャンという姿も想像は出来ないけど。

「適当に、探してみるかなと」

「またそういう事を。捕まっても知らないわよ」

 一応、私よりは常識がある事を言うニャン。

 という訳で、取りあえず一般教棟から攻めてみる。

「階段は、これか。さ、先行って」

「出ないわよ、お化けなんて」

 怖い事を言って、薄暗い階段を降りていくニャン。

 実際には明るいんだろうけど、精神的に。

「だ、大丈夫?」

「私に聞かないで。大体この下は、物置か何かでしょ。誰も来ないのに、お化けもわざわざ」

「わ、わざわざどうしたの」

 問い掛けには答えず、足を止めるニャン。

 その体が即座に振り返り、私を通り過ぎるようにして階段を駆け出した。

「ちょっと。怖いんだから、一人にしないでよね」

 しかし怖いもの見たさというか、好奇心の旺盛な時期というか。

 少し階段を降り、ニャンが立っていた位置に視線を合わせる。

 階段はほぼ終わり、奥にあるドアが見えている。

 古ぼけた鉄製のドアは半分程開き、薄暗い中が覗ける状態。 

 この時点で、嫌な予感はした。

「え」

 腰を屈め、何かを引きずっている人影。

 薄暗い、人気のない場所。

 物を引きずる、低い音。

 この後で何をするかは決まってる。



 とにかく走る。

 振り返りもしないし、周りも見ない。

 疲れるとか、危ないとかは考えない。

 今はただ、この場を離れる事だけを考える。

 やっていけないのは、足を止めるのと振り返る事。

 もし追ってきてたら、間違いなく捕まえられる。 

 振り向いたら、絶対に目が合う。 

 いないとか、あり得ないなんて事は後でゆっくり考えればいい。

 何でもいいから、人が多くて明るい所までひたすら駆ける。


 気付いたら、正門を飛び出していた。 

 熱田神宮も近いし、お化けもここまでは追ってこないだろう。

 さっきさんざん暴れた後で、このダッシュ。

 今日の夜は、よく寝れそうだ。

「ふぅ。やっと追いついた」

 息を荒くして、しゃがみ込んでいる私の前に現れるニャン。

 女子高生二人が道ばたで喘いでいるのもなんなので、近くにあったファミレスへ入る。

 どっちにしろ、喘ぐんだけどさ。

 酸っぱい物はもう飽きたので、ホットチョコを頼む。

 疲れた時には甘い物が正しいと思う、初冬の午前だな。

「私を追い抜いてくし、あなた何者?」

「追い抜いたって、ニャンを?」

「他に、誰がいるの。さっきのお化け?」

 真顔で語るニャン。

 大きく聞こえる、周りの会話。

 食器の触れあう音。誰かの笑い声。

 急に寒気がして、ホットミルクにしがみつく。

 いや。心情的にね。

「私も全力で走ってたのに、ユウユウが横から抜き去っていった」

「ふーん。今知った」

「いっそ、私の代わりにレース出る?」

 ホットレモン片手にくすくす笑うニャン。

 仮に本当に追い抜いたとしても、まさかレース会場にお化けを連れて行く訳にもいかないだろう。

 第一お化けが来たら、レース以前にら会場から逃げる。

「で、あれは何だった訳」

「戻ってみれば」

 事も無げに答えられた。

 もちろんそんな事は出来ないし、する気もない。

 私が見たのは、夢か幻。

 そう思って一生生きてこう。


 窓の外に感じる視線。

 革のジャケットを抱え、私とニャンを指さしているショウ。

 この寒空の中、半袖で。

「来たわよ、お化けが」

「ど、どこ」

「目の前にいるじゃない」

 窓越しに手を振り合う、ニャンとショウ。

 そう言えば、あそこで見た人影と体型は似ているな。

 今この場で、冷静になって振り返ればだけど。

 また、ショウに化けていなければの話だけど。

「何してたの」

「連合の、いらない荷物を放り込んでた。逃げるなよ」

「だって、お化けかと思ったもん。ねえ」

「そうよ。ショウ君が悪い」

 二人してショウを指さして、断罪する。

 私達の早とちりという事は、一切考慮しない。

「いるか、お化けなんて。ハンバーグ定食下さい。それと、コーラ」

 昨日あれだけお肉を食べて、まだ食べるのか。

 しかも、またコーラって。

 この子こそ、何かに取り付かれてるじゃないのか。

「あの物置は、勝手に使っていいの?」

「いいだろうけど、明かりはないぞ。ほこりっぽいし、ネズミも出そうだし」

 色々と出てくる悪条件。

 とはいえ位置的には悪くないので、候補には数えておこう。

 ケイの監禁場所とかには、ちょうど良さそうだし。

「どこか、いい場所知らない?」

「さあな。そんな場所があれば、残りの机も全部運びたい」

 運ばれてきたハンバーグにかじり付き、物悲しい事を言い出すショウ。

 でも待てよ、そうすると備品はある程度余ってる訳か。

 そこまで考えてなかったけど、つまりその辺りは揃えなくてもいい訳だ。

「やっぱり、場所か。他に、地下室は?」

「暗いし、狭いぞ。そういう所、嫌いだろ」

「好きな人はいないでしょ」

「ケイなんて好きそうだけどな。イメージ的に」

 勝手な事を言って笑うショウ。

 彼だけではなく、私とショウも。

 などと楽しんでいる場合でもないので、話題を戻す。

「学校で、人が来なくて、勝手に使える場所。どこか、あるはずなんだって」

「じっくり考えてて。私はそろそろ、寮に戻るから」

「何よ、暇じゃなかったの」

「二人の邪魔をする程、無粋でもなくて。またね」

 からかい気味の笑顔を残して去っていくニャン。

 何となく顔を赤らめる私達。

 でもって、すぐに気付く。

 エアコンの風に揺れる、一枚のレシートにも。



 この分は、しっかりと貸しにしておこう。

 私からニャンへの貸しは、忘れる事にしよう。

 それに多すぎて、今更思い出しようもない。

「荷物は、全部運んだ?」

「入る分は。でも、場所って何だ」

「学校とやり合うとか以前に、集まれれる場所が欲しいでしょ。ラウンジとかもいいけど、自分達だけの場所が」

「そんな都合のいい話ってあるか?」

 小首を傾げるショウ。

 それは私も、十分に理解してる。

「教室駄目、クラブハウス駄目、地下室駄目。で、後は何か思い付く?」

「小屋はどうだ。空いてる場所に、小屋を建てるとか」

「ニャンも言ってたけど、そんな真似出来る?」

「ログハウスとは言わないけど、小さな感じのは面白いと思うけどな。こう、木のテーブルなんか置いてさ」

 どこかで聞いたような設定。

 さすがに花壇は作らないらしいが、根っこは同じ。

 それは嬉しくもあり、困りもする。

 結局は考えが、一歩も前に進まないので。

「ちょっと待って。落ち着いて」

「俺はいつでも冷静だ」

「そういう事を言う時点で、もう普通じゃない」

「悪かったな」

 苦笑して自販機に向かうショウ。

 またコーラか。

 その内太り出すんじゃないだろうな。

「おい」

「しばらく厳禁。一日一本。もしくはダイエット系」

「こんなの、誰が飲むんだ」

 私が押したのは、野菜と果物のミックスジュース。

 とはいえ、彼が言う程まずくはない。

 好んで買う程、美味しくもないが。

 あくまでもショウの体を気遣っての事と理解して欲しい。

「自分は紅茶か」

「私は細いから、少し甘いのを取るくらいでいいの。でも、こんな所で飲むのもなんだね」

「場所なんて、関係あるのか」

 今の話は聞かなかった事にしよう。

 というか、もう飲んだのか。

「味もそうだけど、たまには見晴らしのいい場所で。……あれ」

「なんだ。コーラ買ってくれるのか」

「違う。そうじゃなくて、そう。あれ、分かった」

「よかったな、それは」

 こっそり自販機へ向かおうとするショウの腕を掴み、彼を引っ張りながら走り出す。

「こっち、こっち」

「なんだ、またリンゴの炭酸か」

「そうじゃない。場所が分かった。やっと分かった」



 壁は全面ガラス張りの窓。

 御岳かどうかは分からないが、ビル街の遙か彼方には白い雪山が見えている。

 近くに目を移せば、学校内の建物や周囲のビル。

 そして熱田神宮を、眼下に見渡せる。

「ここが、どうかしたのか」

 ダイエットコーラ片手に、窓辺へ立つショウ。 

 ガラス張りとはいえ、眺め的には屋上の端に立っているような感覚。

 慣れない人なら、寒気を覚えるくらいだろう。

 私も至って平気なので、彼の横で紅茶を楽しむ。

「この場所なら、問題ない」

「え?それって」

「そうよ。学校の許可は必要なくて、目も付けられない。何より広い」 

 後ろを振り返り、ロビーのようなスペースを指さす。

 置いてあるのは自販機とソファー。

 それ以外は閑散としていて、利用方法はいくらでも考えられる。

 また使うのは、この下の階だっていい。

 夢はどこまでも膨らむな。

「本気か」

 複雑な顔で話しかけてくる小坂さん。

 今私達が来ている、旧クラブハウスの主でもある。

「勝手な事をされると、ちょっと困るんだが」

「だってここは、元々勝手に使ってるんですよね」

「いや、しかし。一応、屋神さんから預かった場所でもあるし」

「じゃあ、連絡します」

 端末を取り出し、以前聞いた屋神さんのアドレスを呼び出す。

 出ないな、なかなか。

「……そうです、その小さい女です。……いえ、旧クラブハウスを使いたくて。……ええ、その通りです。……いや、別にそういう訳じゃ。……じゃあ、いいんですね。……はい、はいどうも。……今度、お菓子でも持って行きます。……はい、失礼します」

 通話を切り、今度はサトミ達を呼び出す。

 後は使える部屋を調べて、荷物の搬入だな。

「屋神さんは、なんて言ってた?」

「好きに使えとだけ」

 彼の許可が出てはいかんともしがたいらしく、小坂さんは肩を落としてどこかへと消えた。

 遠巻きにこちらを見ている人達も、恐る恐るといった感じで去っていく。 

 その辺については、後で考えよう。

 今はまず。

「紅茶が美味しい」

「何言ってるんだ」

 鼻で笑いコーラを飲むショウ。

 ガラスに映る、私達二人の姿。

 熱田神宮、その先にある青い空に浮かんでいるような。

 それを眺めながら、午後の一時を楽しむ。

 屋神さん達がきっと、こうしていたように。

 私もその跡を継ぐ。

















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