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スクールガーディアンズ  作者: 雪野
第27話
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27-8






     27-8




 人の世話を焼いてる場合じゃない。

 なんて事は、大抵後になって理解出来る。 

 とはいえ、人の事を気にせず生きていくのもどうかとは思う。

 何にしろ、今は自分の事に専念しよう。

 手元にあるのは、中間テストの結果。

 総じて、可もなく不可も無くといった具合。

 色々ばたばたしていた割には、それ程悪くはない。

 逆を言えば、良くもないけどね。

「どうかした」

 机に置かれた、サトミの成績結果。

 学年、学内共にトップ。

 100点なんて数字も、ちらほら見える。

 名前の部分だけでも入れ替えたいな。

 というか、やってみよう。

「ちょっと、あなたね」

「へへ」

 雪野優。 

 学内、学年トップ。 

 草薙高校始まって以来の天才少女。

 ……さすがに馬鹿馬鹿しくなって、すぐに消す。

 というか、一気に落ち込んだ。

「あなた、子供?」

「夢くらい見たっていいでしょ。あ、ショウは」

「人に見せる物じゃない」

「にゃー」

 一斉に向けられる、白い視線。

 でも、猫なので気にしない。

 そう自分に言い聞かせ、ショウのリュックを漁ってみる。

 バナナ。ビタミン剤。鉄アレイ?

 参考書に、卓上端末。

 えーと。これか。

「なんだ?」

 普段の彼は、私と同じくらい。

 勝った負けたと言っても、順位とすればほぼ同じ。

 しかし今回は、間違いなく彼の方がいい。

 今までは、中の上といった所。

「それ程、悪くないわね」

 などと、学内トップの才媛からお褒めの言葉を頂くくらい。

 とりあえず成績結果をしまい、バナナを食べる。

 少しだけ、気分が良くなった。

「おい。それは俺の」

「いいじゃない。バナナの、一本や二本。減る訳でもないんだし」

「あなた、反物質でも生成してるの?」

 高尚な嫌みを聞き流し、バナナの皮をゴミ箱へ放る。

 と思ったら、ドアの前で失速して床にだらりと広がった。

 丁度入ってくるケイ。 

 さすがに滑って転ぶ事はなく、それを避けて棚にぶつかったくらい。

 意味が不明だな。

「誰だ、こういう下らない事をするのは」

「偶然落ちただけ。捨てておいてね」

「この、猿女が。皮も食え」

「馬鹿じゃない。でも、食べられるのかな」

 多少調べてみるが、生食用ではないので結果ははかばかしくない。

 別に、食べたくもないけどね。

「それより、成績は」

「数学の追試は免れた」

 それ以上は語らないケイ。

 そういう結果では私も面白くないので、聞くのを止める。

 人の不幸は蜜の味らしいが、自分の不幸は苦いだけだな。

「学校の成績だけが、全てじゃないわよ」

 などとのたまう、学内トップの美少女。

 どうもここにいると、地の底まで沈み込みそうだ。



 一旦外に出て、獲物を探す。

「どこ行く気?」

 あくまでも付いてくるサトミ。

 それこそ、悪魔が憑いてくるような気分。 

 下らない事を考えて、ますます気が滅入ってくる。

「ちょっとね。えーと、どこ行こう」

「また適当な事言って。少しは考えて行動しなさい」

「無理言わないで」

「もう知らない」

 とはいえこれは、過去何年と無く繰り返された会話。

 私も進歩はないが、そう考えるとサトミも大差ない。

「ここは」

 G棟,Aブロック。

 連合のオフィス。

 何となく受付に入り、辺りを見渡す。

 解体間近とあってか、忙しそうなガーディアン達。

 それをぼんやり眺めつつ、受付にある観葉植物を撫でてみる。

「暇そうだね」

 バインダーを抱え、疲れ気味に微笑む木之本君。

 多少性格に余裕がないから、働き過ぎてるんだろう。

「少し休んだら?」

「色々、忙しくて。みんなも頑張ってるし」

「分かった。代理を呼ぶから。……私。えーと、Aブロックのオフィスに来て・……理由?そんなの、考えた事ない。じゃ、よろしくね」

 通話を終えて、これから始まるだろう文句をこっちから打ち切る。

 あの子こそ、たまには倒れるくらい働けばいいんだって。

「ひどいね」

「じゃあ、働く?」

「いや。浦田君のやる気を削ぐのも悪いから」

 楽しそうに笑い、受付の子にバインダーを渡す木之本君。 

 真面目だけど、それだけの子ではないからこういう事も言ってくる。

 私は不真面目なので、普段からこういう事を言っている。

「成績は、どうだった?」

「いつもと同じくらい」

 彼は上から数えた方が早いくらい。

 だからこそ連合の要職に付いてるし、それを十二分にこなしている。

 それに引き替え、私と来たら。

「面白くないな」

「え。何が」

「こっちの話。モトちゃんは?」

「ここの奥を借りて、残務処理してるよ。機嫌は良くないけどね」



 隊長の執務室で、ソファーに寝転んでいる女の子。

 機嫌が悪い割には、ニヤニヤと笑っている。

 寝てるように見えなくもない。

「寝てない?」

「寝てるわね」 

 そう確認しあい、左右に分かれる。 

 私は右足、サトミは左。

 同時に指を、小さく動かす。

「ひゃっ」

 あまり聞き慣れない叫び声。

 でもってソファーから転げ落ちる女の子。 

 人を呪い殺したそうな顔にも見える。

「あ、あなた達ね」

「木之本君は忙しそうなのに。あなたこそ、寝ていていいの」

「さんざん働いて、昨日は泊まり込んだくらいよ。暇なら手伝って」

「解体するんだから、放っておけば」

「ケイ君みたいな事言わないで。他に、誰かいない訳?」

 いないって、見ての通りだ。

「私は役に立たないけど」

「猫の手も借りたいの。誰か探すなり、呼んできて」

 所詮は猫と同列か。

 自覚はあるから、いいけどね。

「あーあ」

 ソファーの上で丸くなり、モトちゃんが使っていたタオルケットを体に掛ける。

 極楽極楽と。

「ちょっと」

「猫なんでしょ。いいわよ。人手は呼ぶから」


 若干控えめに入ってくる神代さんと、明るく入ってくる渡瀬さん。

 二人いれば、少しは違う。

「この子達は、生徒会ガーディアンズでしょ」

「それ以前に、私達の後輩じゃない」

「ユウの理屈は怖いわね。とりあえず、こっちの書類を処分して。ただし今期分は抜き出して、端末へ入力して」

「あ、はい」

 結局は働かせるモトちゃんへ、素直に頷く神代さん。

 渡瀬さんは私の隣へ来て、何故か背中を撫でてきた。

 ますます、猫じみてきたな。

「風邪でも引いたんですか?」

「寒くてね。成績、どうだった?」

「まあ、普通です。可もなく不可も無くといった具合」

 どこかで聞いたような台詞。

 とりあえず二人で丸くなり、うだうだ過ごす。

「あなた達、何してるの」

「寝てる。サトミも寝る?」

「そういう恥ずかしい事はやらない主義なの」

 主義とまで言う事か。

 所詮は天才少女。

 私達凡人とは相容れないようだ。

「モトちゃーん」

「馬鹿じゃない」

 これだ。

 偉い人は、これだよ。

 出世すると、友達も変わるものだ。

「神代さーん」

「私、忙しいんです」

 格好いいね、どうにも。

 人の恩も忘れて、この後輩は。

「木之本君は?」

「僕も、一応体面があるからね」

 何だ、それ。

 新しい中華麺か。

「だって、やる事ないもん」

 あちこちから飛んでくる罵声と怒号。

 冗談も分からないとは、つまらない生き方をしてる子達だ。

「仕方ない。なんか、買ってくる」

「あ、私も行きます」



 二人して、さっさと逃げ出す。

 ではなく、買い出しに出る。

 購買ではなく、学外のスーパーに。

 あそこもいいけど、たまには目先を変えないとね。

「材料を買って、何か作ります?」

「その方がいいのかな。ミンチが安いか、今日は」

 スーパーの入り口にあったチラシを眺め、特売品を探る。

 ネギも安いな。

「なんか、主婦みたい」

「はは。そうですね。雪野さん、タイムサービスやってますよ」

「よしっ」 

 かごを抱え、二人して走り出す。

 恥ずかしいのは、人の目を気にする事だ。

 信念さえあれば、何も思う事はない。

 椎茸を買うのに、どういう信念が必要かはともかくとして。


 袋を提げてよろよろと歩く。

 調子に乗って買い過ぎたというか、私達が非力なのかも知れないな。

「何をしてる」

 ごく冷静に尋ねてくる生徒会長。

 いや。元会長か。

「自分こそ。スーパーに、何か用?」

「買い出しを頼まれてな」

 彼が手にしているのは、小さなメモ用紙。

 おそらくはそこに書かれているらしい、ペンとガムテープ。

「備品くらいあるでしょ。大体、どうして自分が」

「元の役職上、煙たいらしい」

「じゃあ、情報局を辞めたら」

「君は、たまに怖いな」

 まじまじと人を見てくる元会長。

 それ程変な事を言ったかな。

「この方は?」

 控えめに尋ねる渡瀬さん。

 元生徒会長だと告げ、ふと思う。

「顔、知らないの?」

「面識がないですし。普段見かけるのも、壇上の遠い所ですから」

 なるほど。それもそうか。

 私も知り合う機会さえなければ、彼女と同じようなものだろう。

 サトミやショウのように外見で目立つタイプならともかく、彼は少なくとも外見は普通。

 生徒会長という肩書きがなければ、多少威圧感があるというくらい。

 結局、他人の事はよく分からない。

 ただ生徒会長も、顔さえ売れればいい訳でもない。 

 じゃあ、何をすればいいのかは知らないけどさ。

「そういう事は、よく言われる。所詮私は、決済用のペンと大差ないんだから」

「まあまあ。そう落ち込まないで」

「別に、落ち込んではいない」 

 少しむっとする元会長。

 この人にしては珍しく、感情の起伏があったな。

「いいから。これ、これあげる」

 袋をごそごそ漁り、レアチーズプリンを彼に渡す。

 惜しいけど、まあいいや。

「じゃ、頑張ってね」

「何をだ」

「色々よ。じゃじゃあね」



 そう言葉尻ばかり捉えられても仕方ない。

 話の流れとか勢いとか、その辺を読み取って欲しい。

 仮にも新カリキュラムなんだしさ。

「お怒りのようですね」

 正門をくぐったところで、今度は副会長と出会う。

 この人は逆に、人の心情を読み過ぎだな。

「別に、そんな事は。でも珍しいですね、外にいるなんて」

「クビになりましてね。塩田同様」

 大げさに肩をすくめる副会長。

 しかし落ち込んでいる様子はまるでなく、普段の飄々とした雰囲気は変わらない。

 むしろどこか楽しげで、解放されたようにも見える。

「塩田同様、足かせが外れたってところですね」

「でも、クビなんですよね」

「そこを突かれると、多少辛いんですが。生徒会長がいないのに、副会長でも無いですから。一応執行委員会の委員長代理という籍はありますが、やる事が無くて」

 深刻なはずには、あくまでも明るい副会長。

 分かってるのかな、本当に。

「この方は?」

「えーと。副会長。元生徒会副会長」

「何するんです、副会長って。選挙で選ばれないし、副って」

「雪野さん同様、厳しいですね。要は、雑用ですよ。生徒会長は対外的にも対内的にも多忙。その代わりに実務をこなすのが、主な仕事ですね」

 つまりは実質的に生徒会を運営する立場でもあるという訳か。 

 でも、待てよ。

「副会長って、常設のポストですか?」

「いえ。緊急時や生徒会長の指名により設けられる、臨時職です。だから以前生徒会長がいなかった時、私が就任したんですよ。その後は、慣習としてずるずると」

「なんか、複雑ですね」

「自分達の都合がいいように、適当にやってるだけですよ。何しろ規則を作る側ですからね。楽をしたいなら、生徒会に入れ。どうです、お二人も」

 渡瀬さんはどうか知らないが、私はそれ程嬉しくはない。 

 生徒会ガーディアンズは勿論。

 自警局。生徒会に対して、いい感情はあまりない。

「私はあまり、いい記憶がないので」

 遠慮気味に、しかしはっきりと告げる渡瀬さん。 

 可愛らしい顔に浮かぶ、嫌悪に近い表情。

 どうやら仲間がいたようだ。

「中等部の頃にでも、何かありましたか?」

「ええ、多少」

「なるほど。確かに評判のいい組織ではないですからね。自分で言うのも何ですが、駄目な人間も多いですから。ただ、頑張ってる人もそれなりにはいますよ」 

 さりげなく付け加えられる一言。

 自信と誇り。

 自負に満ちた。

「これからは、どうするんですか?」

 尋ねるかどうか迷ったが、つい口にする。

 学校とそれこそ、最前線で今までやり合っていたのは彼。

 私のように気持ちだけではなく、行動を伴っていたのは。

 また今後の事を考えれば、身勝手だが彼のような存在がいないのは困ると思う。

 利己的で、自分でも嫌な考え方。

 しかしそれも、現実だ。

「ご心配なく。さっきも言ったように、私も塩田も足かせが外れてむしろ楽になりました」

「でも」

「3年の代表は塩田、副代表が私。寮の主幹は私で彼は補佐の一人。副会長や代表といったものは、肩書きの一つに過ぎません。むしろ雑務から解放されて、助かります」

 負け惜しみでも何でもなく、そう語る副会長。

 ただ微かに浮かぶ、かげりの表情。

 それはきっと、解任された事ではなく。

 先輩達から託された役職を全う出来なかった事に対してだろう。

「どちらにしろ、私達は今まで同様適当にやりますから。それより、雪野さんは自分の心配をした方がいいんじゃないですか」

「心配って、別に。怒られるような事はしてませんけど。買い物に行くとは言ってあるし」

「連合の解体の事です」

 大丈夫かという、不安げな視線。

 クビになった人に心配されるようでは、どうしようもないな。

「私はいつでも」

「何がですか?」

「うるさいな。いいんです。なるようになりますから」

「頼もしいというか、なんというか。ちょっと、言葉が見つかりませんでした」

 どうにか納得してくれた。

 見捨てられたという事は、考えないでおく。


「そこの3人。通行の邪魔よ」

 邪魔って何だ。

 正門は広いし、私達がいるのは端っこ。

 象だって通れるくらいだ。

「目立つから、人が立ち止まるって意味。睨まないで」

 邪険に手を振る山下さん。

 別に睨んではいないが、人によってはそう捉えるんだろう。

「そういう訳なので、私はこの辺で」

「お仕事でも?」

「買い出しを頼まれましてね。仕事といえば仕事です」

 どこかで聞いたような台詞を残し、正門を出て行く副会長。

 相変わらず、読めないとか分からない人だな。

 私は違う意味で、訳が分からないと言われるが。

「また、たくさん買って。泊まり込む気?」

「ただの買い出しです。ご飯作ろうと思って」

「面白そうね、それ。渡瀬さんは?」

「雪野さんに呼び出されて」 

 嫌な事を、嫌な状況で言うな。

 当然山下さんは、私を睨んでくる。

 自分だって、やるじゃない。

「生徒会ガーディアンズも、人が余ってる訳じゃないの。買い物は一人で行きなさい」

「私にも、色々と事情があるんです。大体、これだけの荷物をどうやって一人で運ぶんです」

「これだけの荷物になるだけ買う必要はあった?」

「あ、あった」

 咄嗟に答え、歩き出す。

 逃げ出すとも、人は言う。



 とりあえずキッチンへこもり、椎茸を刻む。

 しかしこれは肉厚で、美味しそうだな。

「私は、料理はちょっとね」

 多少不器用な手付きで、鍋をかき混ぜる山下さん。 

 自分こそ、仕事はいいのか。

「美味しそうな匂い。と言いたいんですが、何をしてるんですか?」

「雪野さんが遊んでるから、監視」

 しれっと答える山下さん。

 サトミは苦笑して、彼女が煮込んでいる豚の角煮を覗き込んだ。

「焦げてません?」

「いいじゃない。焦げても」

「駄目です。レシピは?」

「意外と細かいのね。最後に美味しく出来ればそれでいいのよ、料理なんてものは」 

 なかなかに良い事を言うな。

 焦げた匂いがしなければ、拍手でもした所だが。

「火を弱めて、だし汁入れて。それと、かき混ぜなくていいから」

「じゃあ、何する訳」

「サトミと一緒に、ネギを刻んでて下さい」

 子供に仕事を割り当てて、スペアリブの具合を見る。

 ショウの実家のような、肉の内部をチェックする機能なんて無い。

 この辺は勘と経験に頼る他ない。

「どう?」

「いい感じですね」 

 こまめにアクをすくい、スープの表面をじっと見る渡瀬さん。 

 普段はちゃかついてるが、今は感心するくらいの集中力を発揮してる。

 ネギも満足に切れない山下さんとは、かなりのギャップだな。

「料理、得意なの?」

「先輩が得意なので。土居さんが。ただ山下さんも、石井さんに比べればましな方ですよ」

「あの人、がつがつ食べるじゃない」

「何でも食べる人ですから。前世で、飢え死にしたのかも知れませんね」

 どこかで聞いたような台詞。

 だからあの人は、太り気味なんだ。

 本人はふくよかと言うけど、明らかに余分な物が付いている。

 その分、飢え死にはしにくいだろうけどさ。

「こんな所にいたのか」

「あら、どうしたの」

「仕事が溜まってきてる」

「大変ね、それ」

 ネギを刻みつつ、のんきに答える山下さん。 

 阿川君は首を振り、視線を私へと向けてきた。

 どうも、かなり誤解をしてそうだな。

「彼女が勝手に付いてきたんです。下手だし引き取って下さい」

「悪かったわね。包丁が悪いのよ、これは」

「俺に貸してみて」

 まな板の前に立ち、ネギを刻む阿川君。 

 比較的リズミカルに、それなりの速度で。

 当然山下さんは憮然とした顔で、包丁を受け取る。 

 刺さないだろうな、まさか。

「知り合いに上手い奴がいてね」

「ああ、峰山君。今、何してるの?」

「さあ。それは、雪野さんの方が詳しいだろ」

「誰です、峰山って」

 さい箸で人をつつくサトミ。

 口で言え、口で。

「……ああ。前の自警局長。なんか、傭兵をまとめるみたいですよ。何をしたいかまでは知りませんが」

「その辺りは、お二人の方が詳しいじゃ」

「俺は大して詳しくない。というか、あいつは何がしたいんだ」

「さあ、それは私も」

 そんな事は、私が知りたいくらい。

 傭兵といっても舞地さん達とは系統が違うようだし、今までの彼の行動は理解出来ない部分もある。

 彼個人の考え方。

 手段と目的。

 例えば、ケイの時の事。 

 一概に私達の味方とは言い切れない。

 そういう範疇で行動していないと言われれば、それまでだが。

「無理に、あいつを味方と思う必要もないけどね」

「え」

「味方と思うから、つい頼る。いっそ敵くらいに想定していれば、その後の行動も楽だよ」

「嫌な考え方ね」

 皮肉っぽく笑う山下さん。

 しかし、それもまた現実という訳か。

 とりあえず今は、その現実に向き合おう。

 しかし、なかなか煮えないな……。



 食器を洗い,丁寧に拭いて棚へしまう。

 上の棚は、ショウに任せる。

 不親切な設計というか、誰を基準にしてるんだろう。

 少なくとも、私や渡瀬さんではないだろうな。

「どうした」

 背の小ささを恨んでた、とは答えず皿を渡して水を止める。

「よく考えたら、前自警局長もクビになったんだね」

「クビにしたんだろ。ユウが」

「自分もじゃない。いや。ディフェンス・ラインの支部長もか」

 そう考えると、私達も意外とひどいな。

 人をあれこれ言う前に、自分達をどうにかした方がいいかも知れない。

「困ったものだね、私達も」

「向こうが悪い。と、思いたい」

 はかばかしくない答え。

 少なくとも前自警局長に関しては、彼自身の思惑があったらしい。

 個人的な利益を求めるのではなく、学校の策略を押さえるためやディフェンス・ラインの暴走を食い止めるという。

 彼の解任や退学は、彼自身が望んでいたとも言える。

 上手く操られたとはいえ、そうさせたのは私達自身だが。

「とにかく、やるしか無いさ。決めたんだろ」

「まあ、ね」

 シンクに付いた水を拭き、棚を閉めてエプロンを外す。

 始まった事には、必ず終わりがやってくる。

 この事を、誰が始めたのかは知らない。

 分かってるのは、今も続いているというくらい。

 では、それを誰が終わらせるか。

 私が、という程おごってはいないしその能力もない。

 でもせめて、その気概くらいは持っておきたい。



 目が覚めて、辺りを見渡す。

 並ぶ布団と、見慣れない壁に天井。

 見慣れない窓の外は、まだ暗い。

 旅行にでも来たのかな。

 ……ああ、学校かここ。

 上着を着込み、布団の間を縫って歩く。

 しかしみんな、だらしなく寝てる事といったら。

 これは、サトミの足か。

 くすぐってやれ。

 なんだ、渡瀬さんか。

 いや。遊んでる場合じゃない。

 薄暗い仮眠室を抜け、明かりの点いている部屋に出る。

 そこにいるのは、ソファーに寝転ぶモトちゃん。

 遅くまで熱心だなと思ったけど、完全に寝てた。

 なんかいつも寝てないか、この子。 

 仕事も勿論してるだろうけど、寝てる比率も意外と多いぞ。

 とはいえ起こすのも無粋なので、彼女の手から床に落ちたらしい書類を拾い集める。

 内容は、予算や備品の返却が主な物。

 ただそれの金額や数が、実際の数値と合わないため同じ事を何度もやりとりしてる様子。

 他にやる事もあると思うけど、自警局とかはそれこそがやる事なんだろう。

 右隅の通しナンバーは12。

 つまりはこれが、六往復してる訳か。

 頭がいいとか大変とか思ったけど、ちょっと疑って掛かった方がいいな。

「改ざんしてやれ」

 額なんて、本当に微々たる物。

 しかも、返却する額が多いじゃない。

 何を文句言ってるんだか。

 とりあえず、余った分はプールして。

 足りないところへ継ぎ足すと。

 あら、不思議。

 気付けばこっちも片付いた。



 朝。

 多少堅い床の上で、目を覚ます。

 暖房が効いてるとはいえ、我ながらすごいところで寝ていたな。

「これ、何?」 

 ソファーの方から聞こえる、モトちゃんの声。

 こっちは体中が痛くて、それどころじゃない。

 犬や猫は、よくこういう場所で寝られるものだ。

 これからは、少し彼らを見直そう。

「書類が片付いてるけど」

「親切な小人でもいたんじゃないの」

 適当な事を言って、手足を動かす。

 モトちゃんは私と書類を交互に見つめ、徐々に私への比率を増やしていく。

「自警局の決済も降りてるじゃない」

「働き者だね、みんな」

「予算は、それぞれの部署や管轄別に振り分けられてるの。連合全体で融通しあってる訳ではないの」

「で、何か困った事でも?」 

 止まる言葉。

 床に落ちる書類。

 自分の全てを失ったともいうような顔で。

「今まで真面目に、何の悪い事もやってこなかったのに」

「大げさね。こっちのお金をこっちに移しただけでしょ。それで丸く収まったんだし、何が困るの?」

「職業倫理的によ。これは金額を合わせるのが目的ではなくて、予算が書類上の計算通りに残っているかをチェックしてるんだから」

 叩かれる机。

 その内、私の頭でも叩きそうな勢いで。

「第一いきなり全部の金額が合うなんて、不自然でしょ。今まで、何回計算しても違ってたのに」

「うだうだやってる時間が惜しいと思って。いいよ。自警局へ行って、間違いでしたって報告しても」

「仕方ないわね。今回だけは、見逃してあげる」

 相当に上からの意見。

 とはいえ表情は晴れやかで、毒気が抜けたよう。

 結局自分も、助かったと思ってるんじゃない。

「朝ご飯は?」 

 なんか、怖い事まで言い出すし。



 教室に入り、端末と参考書を取り出す。

 しかし夜まで起きてたせいか、かなり眠い。

 授業はまだだし、寝るとしよう。

「起きなさい」

 サトミとはまた違う、落ち着いたしとやかな声。

 だけど今は、授業前。

 構わず机にしがみつき、今日のお昼を考える。

 こういう瞬間が、一番幸せかも知れないな。

「痛っ」

 後頭部に走る、何かが落ちてきた感覚。

 誰よ、朝っぱらから。

 飛び起きた途端、食い殺されそうな目で睨まれた。

「HR中です。起きなさい」

「普段、ここは寝る時間じゃない。第一、大した話もしないのに」

「今度寝たら、ひどいわよ」

 もう一度バインダーで頭をはたき、私を睨みつつ前へ戻るタイピングの教師。

 しかし、これ以上ひどい事ってなんなんだ。

「あの女、一度どうにかしてやる」

「寝てるから悪いんでしょ」

 自分も寝てたくせに、しれっと答えるサトミ。

 天才少女は見過ごして、私には体罰か。

 許せんな。

「サトミ、サトミも寝てた」

「HR中だと言ったでしょ」

「だって、サトミ」

「教師より頭がいいんだし、寝てても問題ありません。でも、私の時には寝ないように。二人とも、外で立ってなさい」


 鼻をすすりつつ教室へ戻り、キーを打つ。

 寒い廊下でかじかんだせいか、普段以上に動かない。

「練習は?」

「したわよ。……しました」

「ちょっと、手を見せて」

 人の腕を掴み、まじまじと手の平を見つめるキータイプの教師。

 短くて、小さくて。

 可愛いと言えば可愛いが、作業をするには不向きだと思う。

「お、おもちゃ?」

 笑われた。

 赤ちゃんの手を見ると私もそう感じる時はあるが、同じ事を考えてるんじゃないだろうな。

「うるさいな。仮にも教師なんだから、生徒を馬鹿にしないでよね。私は、誉められて伸びるタイプなんだから」

「背は伸びて無いじゃない」

 嫌みな子を一睨みして、ちまちまとキーを打つ。

 別に間違いはしないし、極端に遅いという程でもない。

 その間に教師は別な生徒の所へ向かい、サトミ私の手元を覗き込む。

「意外といいじゃない。何が問題なの」

「私に聞かないで」

 優雅で滑らかなキータイプ。

 さながらピアニストといった具合に。

 うどん打ちでもいいけどさ。

「目の敵にされてるんじゃなくて。彼女、理事長の妹でしょ」

「知ってたの。でも、理事長とは揉めてないよ」

「この学校は、誰の物」

 誰のって、誰の物でもないだろう。

 強いて言うなら、生徒じゃないの。

「生徒のって、言わないでよ。中部庁、教育庁、自治体。経営母体は、草薙グループ。草薙グループを所有してるのは、高島家。それで、誰の物?」

「そういう意味ね」

「それ意外、どういう意味があるの。とにかく向こうは、学校側。あなたが学校と対抗しようとしてるなら、恨まれても当然でしょ」

 あなたって、人事みたいな言い方だな。

 なんか、また睨まれてるし。 

 それも、私だけ……。



 彼女の立場は、舞地さんと似たような物。

 実家は実家。自分は自分。

 詳しい事情は心情は知らないが、多少は距離を置いているようだ。

 でなければ一介の教師をやってはないし、別姓も名乗らないと思う。

 どっちにしろ、私にとって嫌みなのは変わりない。

 デザートのミカンをポケットにしまい、ため息をつく。 

 ミカンが不満なのではなく、この状況に。

 どうも先が見えないというか、打つ手がないというか。

 解体するならさっさとやってくれればいいのに。

 蛇の生殺しというか、鬱積感というか。

 むしろ、それを狙ってるのかと疑いたくなるくらい。

「へろー」

 冬だというのに、Tシャツ姿の池上さん。

 暖房は効いてるけど、へそは出さなくていいと思う。 

 私のじゃないから、いいけどね。 

「お腹壊すよ」

「ファッションじゃない、ファッション。それとも雪ちゃんは、へそがないとか」

「カエルじゃないんだから。へそくらいあるでしょ」

 シャツを外へ出し、壁際でお腹を覗き込む。

 体が小さいと、胴も短い。

 くびれどころの騒ぎじゃないな。

「貧弱なへそね」

 なんだそれ。

 じゃあ、立派なへそを教えて欲しい。

「そんな事はどうでもいいの。キータイプの教師知ってる?綺麗だけど、嫌みな」

「さあ。私、授業には出ないから」

「えーと、あれ。ここの理事長の妹」

「聞いた事あるわね。でも、それがどうかした?」

 目の敵にされてると答えたら、直ぐさま笑われた。

 それも、うしゃうしゃと。

「別に、学校とのトラブルとは関係ないと思うわよ」

「どうして。サトミにはあまり怒らなくて、私にはうるさいのに」

「何というのか、構いたくなるのよね。雪ちゃんって」

 優しく頭を撫でてくる池上さん。

 彼女の場合は、おそらくそういう好意的な気持ちからだろう。 

 でもあっちは、ちょっと微妙だな。

「ねえ。真理依」

「さあ」

 興味も関心もないという態度。

 お嬢様に、庶民の痛みは分からないか。

 というより、この人はぼーっとしてるだけの気もするけど。

「面識無いの、お嬢様同士で」

「理事長の方とは、数度会った。お父様も、多分会ってる。でも、その妹は知らない」

「じゃあ今から行って、話し合ってきてよ」

「雪野がいじめられようとどうしようと、私には関係ない」

 言い切ったな、この女。

 飛びかかろうと腰をためたら、怖い目で睨まれた。

 ただ、その目付きはさっきから。

 どうも、猫の感情は読みにくい。

「司が、RASの試合に出るって?」

「みたいだね」

「雪野から勧められたと聞いてる」

「子供じゃないんだし、構っても仕方ないでしょ。大丈夫」

 何が大丈夫なのかは知らないが、そう答える。

 それ以外、答えようがない。

「雪ちゃんも出ればいいじゃない。あれだけ強いんだし」

「悲しいかな、身長の審査で跳ねられる」 

「私はいいの。柳君の事も、一応考えて推薦したんだから」

「考えた、か。赤い雪でも降ってきそうだ」

 遠い眼差しで、窓の外を見やる舞地さん。 

 血の雨でも、降らせてやろうかな。



 オフィスにこもり、一息付く。

 何せ潰れかけなので、やる事はない。

 元々ないけどね。

「G棟Aブロック付近で、トラブル発生」

「また?わざと?」

「付近のガーディアンは至急向かって下さい」

 人の話を聞こうともしない入電。

 向こうからの一方通行だから、仕方ないけどさ。

「生徒会ガーディアンズの方が多いんだから。私達を頼らなくてもいいでしょ」

「銃を携帯している者がいる模様。プロテクターの着用をお願いします」

「また、それ。そればっかりじゃない」

「入電終わり」

 おい。

 何度も思うけど、こっちの声が聞こえてるんじゃないだろうな。

「同じ事ばっかり繰り返して。もう、飽きた」

「そういう展開を狙ってるのかもね。実際あなた、やる気を削がれてるし」

「私達は解体されるんだし、意味無いじゃない」

「その辺のちぐはぐさが、気になると言えば確かに気になるわ。指揮命令系統が、統一されてないのかしら」

 何をのんきに、分析してるんだか。

 ただ銃は、ここにもあったはずだ。

「ショウ、持って行って」

「使うのか」

「ショウがね。サトミ下手だし、ケイは論外だし」

「必要ないと思うけど。ショルダーは無いのか、これ」

 銃身とストックの部分にフックをして、ショルダーで担ぐショウ。

 私が真似をすれば、間違いなく地面を引きずるな。

「ほら、行くわよ」

「下手だから、行かない」

「論外だし、行かない」 

 いい年して、何を拗ねてるんだ。

 いいや。ショウと二人で行くとしよう。

 へへ。災い転じて、何とやらだな。



「あれ、かしら」

 結局付いてきたサトミが、木陰に隠れて遠くを指さす。

 G棟の玄関付近。

 銃を背負い、ぽつんと立つ数名の男。

 ガーディアンはなく、野次馬が遠巻きに眺めている程度。

 飽きたと言うより、晒し者だな。

「これは、出て行くのも結構恥ずかしいぞ」

 今にも逃げ出しそうなケイ。

 普段はともかく、今は彼の言う通りだ。

「だけど、帰るのもまずいだろ。一応、銃は持ってるし」

「いや。銃はお前も持ってる。ここから撃って、引き寄せてから捕まえよう。そうすれば、恥をかかずに済む」

「ちょっと遠いけど。やってみるか」

 立て膝を付き、銃を構えるショウ。

 散弾なので、この距離では届くかどうか。

 つまり威力は殆どなく、ケイの指摘通り向こうの注意を喚起するだけで済ませられる。

「見物人に当てるなよ」

「弾は減らしてある」

 絞られる引き金。

 乾いた空気の音。

 少しのタイムラグがあり、男達がこちらを向く。

 わずかにいる野次馬は、反応無し。

「もう一発」

「よし」

 のけぞる男達。 

 これで完全に、こちらの角度から撃たれたと悟ったらしい。

「後は、煮るなり焼くなり好きにすればいい」



 私が木の上から飛び降り不意を突き、ショウがその隙に銃で男達を脅す。

 人数が多くても武器を持っていても、意表さえ突けばどうとでもなる。

「また、君達か」

 仕方なさそうに笑う沢さん。

 そういう言い方をされると、こっちも困る。

「だって、入電で来いって言うから。大体元々は、生徒会ガーディアンズの仕事でしょう」

「銃を所持してる時点で、腰が引ける子もいてね。保安部だったか。あれが指揮するはずなんだが、君達がいつも邪魔をする」

「邪魔って」

「自作自演で名を売ろうとしたのを、邪魔してるって意味さ。別な棟でやればいいと思うんだが、そこだとギャラリーが少ないからね。君達が失敗するまで、続くんじゃないかな」

 何をのんきに説明してるんだか。

「その前に、私達は解体されるんじゃないんですか」

「だからその前に、君達の評判を落とさないと。今のところ、逆効果だけど」

「私は別に。ひっそりと生きてますよ」

「自分の姿は、自分では見られないからね。今言ったように、相手が銃を持ってる時点で大抵は腰が引ける。やる気があっても、もっと人数を揃えてくるよ」

 ようやくやってくる、そのガーディアン達。

 完全装備と盾を所持。

 人数は20人程度。

 私達は4人。 

 一応プロテクターは来ているが、盾はない。

 いざという時は、ケイを前に出すからいいけどね。

「学校も困ったものだけど、君達も困ったものだ」

「どっちの味方なんです」

「無論、君達の。と言いたいけど。多少、同情したくなった。君達を敵に回す人達に」

 嫌みな人だな、しかも冷静に。

 なんか、私達が相当問題みたいじゃない。

「沢さん達だって、昔学校とやり合った時は無茶したんですよね」

「それはそうだけど。僕達の頃は、傭兵を挟んでやりあってた。生徒会もこっちで押さえてたし。生徒会組織全体も。意味が分からないよ、僕には」

 呆れているのか、感心してるのか。

 間違いなく、前者だな。

「しかし、いい腕だね。僕も、散弾では難しいよ」

「たまたまです」

 頭をかいて、明るく謙遜するケイ。

 馬鹿じゃなかろうか。

「この子撃ってよね。弾、一杯詰めて」

「よし」

 銃口を向けられ、ケイは即座に逃げ出した。

 散弾という性質を考えてか、沢さんの後ろへ。

 人は悪いが、頭はいいな。

「元気だね、君達は」

「ユウ達は、そうかも知れませんね」

 一人裏切るサトミ。

 それに反応して、飛びかかる私。

 本当元気というか、緊迫感がないというか。 

 逆にだからこそ、やっていられるんだろう。 

 この追い込まれた状況でも。

 もうやってられないという、沢さんの表情はともかくとして。  














    







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