22-10
22-10
目が覚めたら朝だった。
それ自体は、当然何も問題ない。
まずは開いたままの本を閉じ、ノートを畳んでルーズリーフをしまう。
後は床に落ちたペンを拾い、消しゴムをペンケースへ収める。
最後に時間を確認して、口元をティッシュで拭く。
どうやら、知らない間に寝ていたようだ。
慣れない事をする物では無いというが、日付が変わった頃くらいまでは記憶がある。
勉強をしたという記憶も。
またこれが一番肝心だが、勉強した内容も記憶している。
幸い、今日は休日。
のんびりと昼食を取りながら、自分で書いたノートを読んでみる。
簡潔とまではいかないまでも、それなりに要点を抑えた内容。
5年近くガーディアンをやっているため、逆にこのくらい出来ないとどうしようもない。
無論、出来がいいとまでは言えないだろうが。
「いる?」
「開いてる」
すぐに部屋へ入ってくるモトちゃん。
そして、私の姿を見るなり少し後ずさりする。
「熱でもあるの?」
「サトミみたいな事言わないで」
「普段のあなたを知ってれば、誰でもそう思う。……悪くはないわね。多少、主観が入り過ぎてるけど」
チェックされるノートやルーズリーフ。
ただ、それ程否定的な言い方ではない。
「今日から、私の手伝いでもしてくれるの?」
「まさか。これは、自分のためにやってるの」
「言い切らないで。こっちは塩田さんのお守りで忙しいのに」
嫌な言い方をするな。
分かるけどさ。
「それで、何か用?」
コーヒーを出し、生クリームを添える。
ウインナーコーヒーではないが、ミルクとはまた違うコクが出る。
「ユウって、体育祭はリレーに出るから警備は出来ないでしょ」
「まあね。そっちに、集中したいし」
「じゃあ、文化祭は?これもあまり日がないから、早めにスケジュールや配置を決めたいの」
文化祭か。
別にやる事はないし、やりたい事もない。
舞台に立つ趣味がある訳でもなく、バザーに出す程物も持ってない。
それ以外のイベントも、面白いのは分かるが自分が催す側に回りたいとは思わない。
「大丈夫。適当に組み込んで」
「助かった。あなた達は、本部の直轄にするから」
「何、それ。舞地さん達みたいな事?」
「立場としては。パトロールや主要箇所の警備でもいいんだけど、たまにはサポート役もいいでしょ」
いいのかな。
この辺りは、勉強したから分かるものではない。
しかも、一夜漬け程度では。
「手当は」
「私が欲しいわよ」
疲れ切った顔で答えてくるモトちゃん。
朝から景気の悪い話だな。
「議長補佐なんだし、私よりはもらってるでしょ」
「多少は。その分、使うのも多いの」
「ふーん。じゃあ、沙紀ちゃんは。あの子ってG棟の隊長だし、モトちゃんと同じじゃない」
「聞きたくない」
ベッドに倒れ込む少女。
どうやら連合と生徒会ガーディアンズとでは、想像を超えるだけの予算的なギャップがあるらしい。
「名雲さんとデートしてきたら。少しは気楽になるんじゃない?」
「体育祭と文化祭の事で、色々忙しいの」
「大変だね」
友達の悩みとはいえ、あくまでも他人事。
私には、直接関係ない。
腕を揉み、肩を回す。
何というのか疲れた。
精神的にね。
「お疲れ様」
紅茶を持ってきてくれるモトちゃん。
アールグレイのいい香り。
少し、気が楽になった。
「これ、全部一人でやるの?」
机にあるだけで、私の身長以上。
机の下には段ボールが小山を作っていて、放っておくと誰かがその上に別な段ボールを積み上げていく。
「まさか。今やってるのは、急ぎの分だけ。というか、塩田さんの分」
「ああ、そういう事」
ノックされるドア。
その塩田さんかと思ったら、人のいい笑顔が見えた。
「雪野さん、どうしたの?」
そういう言い方は無いだろう。
今までの行動が行動だけに、仕方ないんだけど。
木之本君はおかしそうに笑いながら、別な机に卓上端末とバインダーを置いた。
「ここにもあるじゃない、端末」
「自分の方が、使いやすくて」
「それも、塩田さんの仕事?」
「そういうのも、ちょっとね」
曖昧な言い方。
彼の優しさを伝えるような。
逆に言えば、塩田さんは何なのかという話だな。
「でも、二人だけ?」
「まさか、他の子に塩田さんの仕事をやらせる訳にもいかないでしょ。あの人にも、体面はあるんだし」
私達には、彼の体面は通じないのか。
そんなのが存在したら、少なくとも私は腕を揉んでないだろう。
仕事の方を彼等へ任し、部屋の窓を拭く。
風に揺れる、色付き始めた葉。
多少物悲しい光景に思えなくもない。
「少し高いな」
窓枠の上に手を伸ばすショウ。
とはいえ、背伸びしたくらいで届く位置。
私なら、跳んでも跳ねても永久に縁がない。
「玲阿君、怪我はいいの?」
「少しは動かないとな」
「せっかくの休みなのに」
木之本君とモトちゃんの視線を避けて、バケツで雑巾をすすぐ。
仕方ないじゃない、手が届かないんだから。
「俺も、少しやろうか」
控えめに申し出るショウ。
木之本君と顔を見合わせ、一番上にあった書類を渡すモトちゃん。
ショウは多少時間を掛けつつも、文字を埋めていく。
「出来た」
「……ふーん。木之本君を手伝って」
「玲阿君、これ」
席を並べ、書類を片付けていく二人。
木之本君も彼を教えるという事ではなく、時折指摘をする程度。
殆どはショウ一人で問題なくこなしている。
ペースとしては、木之本君の何分の1というペースだが。
「ユウは」
「え、ああ。少しやる」
モトちゃんの隣へ席を並べ、ちょっとずつ片付けていく。
今までとは違う休日の過ごし方。
新鮮というより、気の引き締まる思い。
今までの自分を振り返りながら。
これからの自分を振り返りながらの。
勿論、それ程集中が続く訳がない。
早めに切り上げ、食堂へやってくる。
休日という事で、人の姿はまばら。
メニューもかなり限定されている。
「かぼす?なんだ、それ」
そのかぼすを絞りながら、こちらを見てくるショウ。
本当におぼっちゃまは、これだから。
「今絞ってるそれ」
「小さいミカンじゃないのか」
「馬鹿じゃない」
「おかしいな」
どうやら、本気で言っているようだ。
大体なんだその、小さいミカンって。
「今まで、食べた事無い?」
「あるけど、ミカンだと思ってた」
分かんない人だな。
ウズラの卵を、小さい鶏の卵って言い出しそうだし。
「じゃあ、これは」
「ウズラだろ」
串を皿へ戻すショウ。
さすがに、それは分かっているらしい。
そのウズラを、何かと思ってるかは疑問だが。
小さい鶏と思ってたら、ちょっとやだな。
「しかし疲れるね、ああいう仕事は」
「木之本達は、毎日ああなんだろ。いや。今までずっとか」
彼がいう今までとは、ガーディアンになってから今までという意味だろう。
ただし、だからといって自分達が一方的に駄目とまでは思わない。
それと同じ時間を掛けて、私達は別な事をやってきたのだから。
実際はもっと事務仕事をやる必要があったのにもかかわらず、その時間を割いてまで。
だからその分、身体的な能力については自信がある。
モトちゃんは、その逆。
その意味では、お互いに欠けている部分があるといっていい。
木之本君は、生真面目にその両方をこなしているが。
ショウもこなしていたのかも知れないが、比率としては私側。
また能力的に、事務は向いてなかったのだろう。
今、そしてこれらはどうか分からないが。
人工的に作られた小川。
周囲には背の低い木々が植えられ、幾つかの木は小さな花を咲かせている。
足元は丈の短い雑草が一面に生い茂り、程良い感触を伝えてくる。
秋の穏やかな日射し。
さっきまで吹いていた風も止み、小鳥の鳴く声がどこからか聞こえてくる。
「あ、猫」
茶色いシマの、少し太めの猫が日溜まりの中で丸まっている。
しかしこちらが近付くと、そっぽを向いてとことこと歩いていった。
当たり前だが、猫に愛想を求めるのは難しい。
「最近、猫が多いな」
「舞地さんのせいじゃないの。あの人、煮干しをばらまいてるから」
「そんなに猫が好きなのか?」
「実家でも、近所の猫に餌をやってたんだって。でも、学校でやらなくてもいいと思うけどね」
遠くの方で、毛繕いをしている猫。
日射しに茶色の毛が輝き、淡い光を辺りに散らしている。
「ショウの家は、どこにあるのかな」
少し冗談っぽく呟き、小川を覗き込む。
きらめく水面、緩やかに泳いでいくメダカ。
学校はあるかも知れないが、ショウの家は無いようだ。
「いいんだよ、俺は段ボールで流されてれば」
何言ってるんだ、この人は。
「ザリガニはいないのかな」
「メダカが食べられるから、そういう事はやらないんだろ。危ない奴は、隔離するんだよ」
「自分の事?」
「じゃあ、メダカって誰なんだ」
二人でくすくす笑い、落ち葉で葉を作って小川に流す。
緩やかに滑っていく二つの船。
時には離れて、時には寄り添って。
川の流れに揺れながら。
物悲しく、少し切ない眺め。
すでに船の姿はなく、目の前には緩やかなせせらぎがあるだけだ。
「いいけどね、オタマじゃないだけ」
「あ?」
「いや。メダカじゃなくて、オタマだったら風情がないと思って」
「そういう発言自体、風情がないだろ」
苦笑しながら、地面に手を付き川の縁を覗き込むショウ。
この人、卵を探してるんじゃないだろうな。
「ちょっと、止めてよ」
「じ、自分こそ止めろっ」
仕方ないので彼の足から手を離し、突き落とすのを一旦保留する。
「誰が、オタマの卵を見たいって言ったの」
「カエルの卵だろ」
「理屈はいいのよ、理屈は」
立ち上がった彼を少し突く。
しかしショウは少しも動かず、こっちがはじき飛ばされただけだ。
「あー、面白くない」
「悪かったな。それより、戻らなくていいのか」
生真面目な言葉が飛び出てきた。
それなら、カエルの卵を探してた方が面白いんじゃないのか。
「あら、戻ってきたの」
「来たの」
適当に書類をめくり、やれそうな物から片付ける。
当たり前だが、面白いだけでは世の中は進まないので。
「肝心の塩田さんは?」
「さあ。忍者だから、その辺にぶら下がってるんじゃなくて」
この人、忍者を何だと思ってるのかな。
というか、塩田さんを。
「木之本君は知らない?」
「僕は補佐で、秘書じゃないからね」
皮肉を言うタイプではないし、そのつもりもないと思う。
言ってる事は、皮肉その物だが。
「銃の配備における治安状況の変化とその影響についての考察……。レポート?」
「威圧感があるじゃない。だから治安維持に向いてるという意見と、反発するという意見があるの」
「反発すると思うんだけどな、どう考えても」
おもちゃでも、銃口を向けられれば誰もいい気持ちはしない。
しかも配備予定の銃は、ショットガンを思わせる大きなタイプ。
あれを突き付けられたら、正直私でも恐怖感を覚える。
それが次にどちらへ流れるかは人によるだろうが、私だったら反発する。
「これって、取りやめに出来ないの?」
「意見書を出して」
「面倒だな。他には?」
「署名でも集めたら」
もっと面倒じゃないのか。
いいや。意見書にしよう。
これなら自分一人で出来るし、何より自分の意思を伝えやすい。
「意見書、意見書と」
棚を漁り、その意見書なる物を探す。
しかしそれらしい物は出てこなく、見たくもない漢方薬が転がっているだけだ。
「意見書の書類って無いの?」
「無くはないけど、生徒会へ行かないと。それも面倒なら、自分で好きに書いて。形式には、それ程こだわらなくていいから」
モトちゃんの意見を聞き、白紙の紙とペンを置く。
えーと。銃を持つのは危ないので、よくありません。
……子供じゃないんだから。
「こういうのの、ひな型みたいのはないの」
「テンプレートか。えーと、これじゃない」
端末に転送されてくる、ひな型の文面。
まずはそれを読んで、空欄を確認する。
つまり、この箇所へ簡潔に書き込めばいいだけだ。
「銃が生徒へ及ぼす悪影響を考えると、配備の停止はやむを得ないと思います」
「ちょっと内容として弱いわね。それに何がどう悪影響なのか、分かりにくい。生徒が真似をするのか、不安を与えるのか、撃たれた際の反撃という意味か」
「そんな細かい事が必要なの?」
「全然」
おい。
第一、この空欄にそんなつらつらと書けるスペースが無いじゃない。
いや。スペース自体は作ればいいんだけど、そんな事をしてたらいつまで経っても終わらない。
「もう一つ質問だけど。これを出すと、何か効果ある?」
「全然」
やっぱりか。
かといってここまでやって何もしないのも馬鹿らしいので、それらしい事を書いて生徒会と学校の事務局へ送信する。
自己満足と言えばそれまでだが、それを満たすだけでも意味はある。
当然、私個人にとって。
「終わった、終わった」
筆記用具を片付け、広げていた本を畳む。
まだ早いから、服でも見に行こうかな。
「何が終わったんだ」
「私の仕事が」
「仕事、ね」
皮肉っぽい口調。
ついむっとして、拳を固めつつ声の方を振り返る。
「よう」
気楽な笑顔で手を上げてくる塩田さん。
こっちも固めた拳を上げて、それに応える。
間は抜けているが、振り下ろすよりはましだろう。
「銃の配備に対する意見書か。活動家か、お前は」
「悪いんですか」
「学校からは目を付けられる。配備するのは、学校の意向でもあるんだから」
手近にあった書類をめくり、大仰に頷く塩田さん。
意味は分からないし、仕事をしようとする素振りもない。
「せいぜい頑張れ。いっそ、武器庫でも襲うか」
「何です、武器庫って」
「銃や警棒をしまってある場所さ。警備は厳重だが、いざという時はそこを狙え」
何だ、いざという時って。
この人は、私に何をさせたいんだ。
「塩田さん。仕事をしてもらえますか」
「それだと、お前らのやる事が無くなるだろ」
「年に数度は、そういう事があってもよろしいかと」
威圧感のある微笑みを浮かべるモトちゃん。
銃以前に、この子をどうにかした方がいいかも知れないな。
「気にするな。責任は俺が取る」
「責任は私が取りますから、仕事して下さい」
「あいつにやらせろ」
部屋の隅。
小さい机を前にして、黙々と書類を片付けているショウ。
知り合いが見たら、熱でもあると思うだろう。
「あの子は自分の仕事で精一杯なんです」
がーっと吠えて、机を叩く。
塩田さんはびくっと震え、滑るような動きで席に付いた。
「あーあ。面白くないな」
どこかで聞いた台詞を聞き流し、ショウの方へ歩いていく。
恨み節も聞こえてきたようにも思えるが、気のせいだ……。
「どう?」
「駄目だな」
処理した分と、未処理分の書類。
時間はそれなり掛かっているが、ペースとしてはやや遅い方。
とはいえ出来ていない訳ではなく、モトちゃん達のチェックも入らない。
すでに一人で出来る状態になっている。
「駄目ではないでしょ。ねえ、木之本君」
「そうだね。これから毎日やれば、ペースはもっと上がるし」
これを毎日、か。
ちょっと気が遠くなってきたな。
とはいえ木之本君達は実際に毎日こういう事をやっている訳で、そこまで行くと想像も出来ない。
「止めだ、止め」
遠くから聞こえる、駄々っ子みたいな声。
振り向くと、塩田さんが腕を組んでモトちゃんを見上げていた。
「どうかしたの?」
「端末の調子が悪いから、仕事をしたくないんだって」
子供か、この人は。
というか、単に言い訳か。
「端末なんて、どれでもいいじゃないですか。これでも、これでも」
「いいわ、ユウ。木之本君、これ直せる?」
「直す程問題があるとも思えないんだけど」
苦笑しつつ、塩田さんの端末を操作する木之本君。
その眉が微かに動き、端末の側にあったペットボトルへ視線が向けられた。
「お茶、こぼしました?」
「こぼしたさ」
「……分かりました。中を掃除しますから、それまで待ってて下さい」
ウエストバッグから工具を取り出し、卓上端末のキーボードを解体する木之本君。
塩田さんは開放されたと言わんばかりに、のんきな顔でペットボトルを傾けた。
わざとこぼしたんじゃないだろうけど、困ったものだな。
「サインの部分が、ちょっと駄目になってる」
「時間掛かりそう?」
「生徒会に行けば、すぐ書き換えてくれるんだけど」
木之本君が取り出したのは、薄くて小さなチップ。
詳しくは知らないが、個人の電子サインを司る電子部品らしい。
私達のならネットワーク上で申請すれば済む問題でも、塩田さんは連合の議長。
偽造などの問題を考え、より高度なチェックが必要との事。
「誰か行ってこい。ついでに、その辺の箱も運べ」
そう指示して、机に足を掛ける塩田さん。
段ボールに書かれた「生徒会行き」の文字。
中身は知らないが、気軽に持てる程の大きさでもない。
「済みません、これを運ぶように言われたんですけど」
「はあ」
不審そうに箱を見つめる、受付の女の子。
中身を示す物は何もなく、ただ大きくて重いだけだ。
「どなたへ届ければよろしいんですか」
当然の質問。
そういえば、聞くのを忘れたな。
「副会長。副会長にお願いします」
思い付いた名前を上げて、無理矢理呼んでもらう。
彼女はさらに不審な顔をしたけど、持って帰る程間が抜けた事もないので。
「私に、ですか」
優雅な物腰で現れ、箱へ流し目をくれる副会長。
すぐに中身を悟ったのか、小さく頷きこちらへ顔を向けた。
「済みませんが、奥まで運んでいただけますか」
「あ、はい」
箱を抱えて、彼の後ろを歩き出すショウ。
当たり前だが、私が運べるサイズでも重さでもないので。
「中身は何なんですか」
「大した物ではありません」
言わない副会長。
そうなると、余計気になるな。
「いやらしい物とか」
「さすがに、学校ではやりとりしませんよ」
じゃあ、学外ではやりとりするのか。
彼の執務室ではなく、物置の様な部屋。
ショウはその隅に段ボールを置いて、肩を回した。
腰は叩かないし、愚痴も言わない。
本当に偉いね。
「なんだよ」
「……握手」
頭を撫でようとしていた手を止めて、彼の手を握る。
子供じゃないんだし、第一手が届かない。
というか、その時点で私が子供だ。
「開けていいですか?」
「どうぞ」
「へへ。箱の中身は何じゃらほい」
「馬鹿じゃないのか」
無慈悲な突っ込みを無視して、箱を開ける。
開けようと、努力する。
努力はした。
「開けてよ」
「言うと思った」
接着剤で固定しているのか、引いても押してもびくともしない。
押す必要は無いんだけどさ。
段ボールのふたに手を掛け、無造作に引っ張るショウ。
簡単に、のりが貼っていた封筒のように開くふた。
「すごいですね。文化祭で、何かアトラクションでもやります?」
「やりません」
ショウが口を開く前に答え、中を覗き込む。
この子は見せ物じゃないし、見ていいのは私かそれ以外の数人くらいだ。
「……警棒」
プロテクター、トレーナー、ダンベル、ノート、教科書、型落ちの端末。
それ程大切な物とは思えない、また価値があるとも思えない物ばかり。
「何ですか、これ」
「オークションの目玉です。屋神さんと、三島さんの持っていた物です」
自信満々に言い切る副会長。
しかし、消しゴムなんて欲しがる人がいるか?
「屋神さんは、今の2年にはかなりファンがいますからね。三島さんのは、魔除けくらいにはなるでしょう」
魔除け、ね。
確かに、分からなくもないな。
「でも副会長の知り合いで卒業した人なら、まだ他にもいるんじゃないですか」
「いますけど、人気という面では微妙でして。間さんのグッズを欲しがるなんて、相当のマニアです」
「間さんって、前の生徒会長ですよね」
「人は良いし、意外と仕事も出来る人でした。ただ、普通の人ですから」
そう言われると、この二人は普通じゃない訳か。
それも、分からなくはない。
「その前の、なんか大きい人は。誰だっけ」
「河合さん」
「そう、その河合さん」
「人気はありますよ。ただ、やっぱり屋神さんには及ばないんですよね」
あの人は顔もいいし、雰囲気があるからな。
特に女の子には、たまらないものがあるだろう。
「でも、がらくたばっかりですね」
「ユウ」
「だって、そうじゃない。これ、欲しい?」
上から3つ分ボタンが取れている、3Lくらいの青いシャツ。
私が着たら、冗談ではなく膝まで来る。
「だからいいんですよ。気軽に買えますし、予算も抑えられますから」
「色々考えてるんですね。これって、天満さんの企画ですか?」
「ええ。新妻さんのグッズも用意したんですが、彼女が全部持って行きました」
何だ、それ。
職権乱用じゃないのか。
「沢さん達が、体育祭は危ないって言ってましたけど」
「文化祭も危ないでしょうね。ただ、2年続けて取りやめという訳にもいきませんので」
去年は世界的なVIPであるシスタークリスが来校したために取りやめ。
色々あったが、それも今はいい思い出だ。
多分。
「これからは基本的に2年へ任せて、私達3年はバックアップに回ります。普通なら、3年の後期は引退してるんですから」
「はあ」
「という訳で、君達も頑張って下さい。玲阿君も学内最強では無くなったようですが、大切なのは肩書きではありませんからね」
からかっているのか諭しているのか微妙な台詞。
ただショウは、真剣に受け止めているようである。
今回はいいとしても、少しは人を疑うって事を覚えた方がいいんじゃないのかな。
「君が負けた映像見ましたよ」
「え?」
「ああ、内緒でしたか」
わざとらしく笑う副会長。
ショウは何となく私の方を気にしているが、副会長は何も気にした様子はない。
「意外と弱いんですね」
「え」
「短いので良く分かりませんでしたけど。あっさりやられたじゃないですか」
「まあ、俺の実力です」
首をすくめ、小声で答えるショウ。
少し安心した顔で。
「済みませんが、ちょっとここを片付けて貰えますか。大体でいいですから、箱に書いてある通りにまとめておいて下さい」
「あ、はい。分かりました」
小さめの応接用らしい部屋。
テーブルに置かれたティーセット。
ティーポットの中で葉が沈み、綺麗な色をゆっくりと広げている。
「紅茶好きなんですか?」
「好きというより、たしなみですね。政治家連中と交渉する時、こういう事で間を取ったりしますから」
「政治家。大変なんですね、やっぱり」
「私としてはやりたくないんですが、先輩達の事もありますので。最低限の仕事はしたいと思ってます」
事も無げに話し、暖まったティーカップに紅茶を注ぐ副会長。
ティーパックとはまた違う、何とも言えない香りが白い湯気と共に立ち上っていく。
「しかしあの映像は、すさまじかったですね。映画かと思いましたよ」
やはり落ち着いた口調で語られる内容。
予想はしていたが、そちらの映像も見ていたようだ。
「玲阿君は、言い訳もしませんか」
「馬鹿なんです」
「なる程。ただ少し安心しました。三島さんに託された人間が、初めに配信された程度の力では話になりませんから」
フォトスタンドへ伸びる指先。
彼はその上に指を滑らせ、三島さんの所で指を止めた。
「タイプとしては、ある意味似てますね。謙虚で、余計な事を言わず、黙って仕事をこなす。何より、強い」
「ショウは、精神的にちょっとあれですけど」
「確かに、その辺りは違うかも知れません。ただ、それが悪いかどうかはまた別ですからね」
曖昧とも言える台詞。
しかし私自身は、彼が駄目だなんて事は思う余地もない。
甘いと言われても、精神的に弱いと言われても。
それが単なる人の良さや優しさではなく、彼の本質だと思ってるから。
「学校と対立したくないと思ってる雪野さん達を巻き込むのはどうかとも思うんですが、向こうが動く以上こちらも対応するしかないので」
「いえ、構いません。来るなら立ち向かう、ただそれだけです」
「そういって頂けると助かります。とにかくこれからは、玲阿さんと呼ぶ事にしましょう」
大きな紙コップでお茶を飲む玲阿さん。
呼び方はともかく、結局やってる事は雑用だからな。
副会長も、どこまで本気かはかなり疑わしい。
「そんなに疲れたの?」
「疲れてはないけど、あそこは暑かった」
秋とはいえ、閉めきられた狭い室内。
そこで重い物を動かしていれば、自然と汗もかくようだ。
「怪我は大丈夫?」
「いつの話してるんだ」
いつって、まだ怪我したばかりじゃないのか?
熱と薬でぼーっとしてた間が、完全に抜け落ちてたりして。
「病院は?」
「一応行ってる」
「じゃあ、治ってないんじゃない」
「チェックするだけさ」
視線を逸らすショウ。
確かに顔の怪我はもう跡もないし、腕も吊ってないし足も引きずってない。
だったら、どうして病院へ通うんだ。
「女医さん?」
「え?」
露骨に慌てるショウ。
間違いないな。
勿論彼ではなく、向こうが通わせているんだろうけど。
でもいいか。
通わないよりは、通った方が。
今は私の怒りより、彼の体を気遣わないと。
「睨むな」
邪険に睨み返してくるケイ。
いいじゃないよ、八つ当たりしたって。
「知ってる?屋神さん達の持ち物を、オークションへ掛けるって」
「あれは上限があるから、その上限での抽選になる可能性が高い。特に屋神さんのは」
ルールまで語ってきた。
この子も、一枚噛んでるんじゃないだろうな。
「ショウはどこ行った」
「医療部でチェック受けてる」
「普通なら入院するような怪我だろ。あいつこそ、熊じゃないのか」
そういう言い方は止めてよね。
でも、その通りだな。
「また襲われるって事は無いの?」
冷静に尋ねるサトミ。
ケイは鼻で笑い、ショウが普段座っている場所を指差した。
「無くはないだろうけど。あの映像見ただろ」
「あれが表に出れば、向こうは恥を掻くじゃない。だからこそ、向こうがリベンジするって可能性は?」
「微妙だな。武器と人材が揃えばやりたいけど、今度やったら黙ってない人間もいるし」
こちらへ向けられる視線。
よく分かってるな。
「じゃあ、ケイがやってよ」
「あ、何を」
「ショウを襲う真似。そうすれば、今度は勝ったて気になるじゃない」
「俺は、あいつのご機嫌取りか。大体、まだ死にたくない」
まだ何か、未練があるのか。
使えない子だ。
「面白くないな。ちょっと、ショウの警備は」
「ユウがやればいいだろ。俺は巻き添えを食いたくない」
「友達でしょ」
「誰が」
まずは、この子をどうにかした方がいいのかな。
「でも、襲われる可能性は考えた方がいいわね。誰か、やってくれそうな人はいないの」
「あいつはそんなに大物じゃないから、警備申請は出来ない。第一、それこそあいつのプライドに関わってくるだろ」
「友達思いなのね」
冗談っぽく笑うサトミ。
ケイは知らないとでも言いたげに顔をそむけ、ショウが普段座っている場所を拳で叩いた。
「ねえ、誰か探してよ」
「過保護じゃないのか」
「過保護で、何が悪いの」
「さあね」
呆れ気味首を振るケイ。
それでも端末を取り出し、どこかと連絡を取り出した。
「誰?」
「誰でもいいだろ」
伸びてくる手の平。
ペンを突き立てようとしたら、すぐに引っ込めた。
「金」
「斡旋料なんて払わないわよ」
「じゃあ、誰が金を払うんだ」
「誰だろうね」
彼を放っておいて、腰の辺りに手を当てる。
さっきから、違和感があるので。
ただそれは、私の体というよりは。
「……なんだ、これ」
見慣れない、小さな黒いケース。
指輪を入れるには簡素で、それにしては強度がありそうな指触り。
「ああ、思い出した。塩田さんの電子サイン。書き換えるの忘れてた」
「だったらユウは、ここにいていいの?」
「駄目だと思う」
でも、今からのこのこ戻っていくのもちょっと恥ずかしいな。
とはいえ、戻らない訳には始まらないだろうし。
「書き換えてよ」
「サトミさん、こう仰ってますが」
「私は、まだ退学したくないの」
そんなに大層な問題なのか?
ちょっと怖いので、ケースを付いてケイの方へ近付ける。
「止めろ。というか、早く生徒会へ行ってくれ」
「私に、恥を掻けって言うの?」
「何を今さら」
それもそうか。
などと、納得してる場合でもない。
「ちょろっとやれないの?」
「で、ちょろっと捕まるのか。これは学内だけじゃなくて、刑事罰もあるんだよ」
「そんなに偉いの、塩田さんって?」
「偉いのは草薙高校の自警組織トップであって、あの男は何一つ関係ない」
鼻で笑うケイ。
で、すぐに後ろを振り向く。
あの人は、いつの間にか人の後ろに立ってるからな。
「よう。仕事があるぞ」
戻ってきたショウへ、愛想良く笑っている。
ショウは眉をひそめ、机にあるケースを見下ろした。
「ああ。忘れてた。生徒会へ持っていけばいいんだな」
人のいい発言。
嫌だとかやりたくないとか、そういう思考は無いのかな。
「恥ずかしいから、付いてきて」
「私はあなたのお守りじゃないの」
「いいから、ほら。パフェ、パフェおごる」
「ケーキもお願いね。そろそろ寒いし、セーターなんていいわね」
その内車が欲しいと言い出しそうなので、早めに彼女を追い立てて生徒会へとやってくる。
「どうして俺まで」
文句を言うケイ。
ついでだよ、ついで。
「自警局……。副会長じゃないの?」
「連合は自警局の下部組織だから、普通はここで書き換えるのよ」
「あんまり好きじゃないんだよね、ここ」
とはいえ自分の都合でどうこう出来る物でもないので、受付の前までやってくる。
「済みません。これ連合議長の電子サインのチップなんですけど。壊れてみたいなので、書き換えるか新しいの貰えますか」
「塩田議長御本人は?」
「代理です。えーと、委任状が」
ケースに書類を添えて、カウンターに手を掛ける。
手を付きたい所なんだけど、身長差の関係上。
「分かりました。係の者と連絡を取りますので、少々お待ち下さい」
待つ事しばし。
人が行き交う受付。
壁際に佇み、人の流れをぼんやりと見つめる。
「来た」
やっとと言いたいところだが、待つだけなら対して苦にはならない。
今は、そういう事にしておこう。
「あいつ」
舌を鳴らすケイ。
受付の女性が連れてきたのは、自警局の幹部。
かつての、ケイの上司。
彼が自警局を止めるきっかけとなった男。
「塩田本人を連れてこい」
横柄な口調。
ただどこか怯え気味なのは否めない。
この男と私達の関係を考えれば、当然だろうが。
「委任状はある。早く、総務課へ取り次げ」
彼に劣らず、横柄に応じるケイ。
普段とは違い、剥き出しの敵意を向けて。
「規則が変わった。本人を連れてこない限り、サインは書き換えない」
「規則、ね。例の執行委員会が絡んでそうだな」
小声でサトミに呟くケイ。
彼女も微かに頷き、受付に置いてあったケースと委任状を手に取った。
「でしたら結構です。こちらで、総務課へ出向きますから」
「許可のない者は、勝手に立ち入るな」
「誰の許可ですか」
「局長もしくは、執行委員会だ」
彼等の予想を裏付ける発言。
下品に歪む表情。
その後ろから現れる、柄の悪い男達。
肩には例の銃を担ぎ、にやけ気味にこちらの様子を伺っている。
「ボディーガードか。それが」
「文句があるなら掛かってきてもいいんだぞ」
銃へ目をやる男。
ケイは大袈裟に肩をすくめ、無造作に前へ出た。
構えられる銃。
「撃つな」
無表情に前へ出てくる、理事の息子。
しかしそれはケイの身を案じた訳ではなく、その手には同じ銃が構えられている。
「こいつは、俺の獲物だ」
「馬鹿だな、お前。選挙に落ちたんだから、変な事しない方がいいぞ。それと、一ついい事教えてやる」
「何だと?」
「整形しろよ。そうすれば、10票くらいは増えるんじゃないのか」
鼻で笑うケイ。
セーフティーを解除する男。
一気に緊迫する空気。
「何をしてるの」
落ち着いた、しとやかな声。
耳元の髪をかき上げ、私達の間に入ってくる北川さん。
「どこで暴れる気ですか」
「いや、こいつらが」
「発言は全て聞いていました。規則は改正するという動きがあるだけで、改正はされてません」
軽く押し切る北川さん。
幹部は気まずそうに顔をそむけ、口元で何やら呟いた。
「それとあなたも、挑発をしないように」
「以後気を付けます」
気のない口調で答えるケイ。
北川さんは鋭い眼差しで彼を睨み、私の持っているケースを渡すよう促した。
「これは、私が処理しておきます。構いませんね」
幹部ではなく、息子の方へ尋ねる北川さん。
権力や能力、またあまり認めたくはないが格を考えれば当然だろう。
「好きにしろ。貴様も、この先ただで済むと思うなよ」
「その時までに、あなたが在籍していたら考えます。それに、良くて5票も増えないわよ」
強烈な皮肉を放つ北川さん。
息子はむっとしつつも、激高する事はない。
どうやら、セルフコントロールは出来るらしい。
「君は、どう思う」
「き、規則は改正されてませんが、事前運用している部分もあるので。やはり、御本人に来て頂かない事には」
気弱な表情でそう答える矢田自警局長。
勝ち誇ったとまではいかないが、優位に立ったという顔をする息子。
その背後にいる金髪達も、幹部も。
所詮はこの程度だったという事か。
もう今さら、怒る気もなくなってくる。
「騒がしいわね」
眉をひそめ、こちらを見てくる中川さん。
その隣には天満さんの姿も見える。
「矢田君、来年度の概算は」
「あ、今すぐ」
「それと、何を騒いでるの」
「その、ちょっとしたトラブルで。大した事ではありません」
大した事ない、か。
もうどうでもいいし、勝手に言ってろとしか思わない。
「電子サインのチップみたいね、それ。書き換えに本人の出頭が必要とか聞いたけど、そういう馬鹿な事を誰が決めたの」
「馬鹿と言われても。重要なチップですので、悪用されないようにより厳重に」
「この子達が、悪用するように見える?」
「私の権限で書き換えようか。それとも、私も信用出来ない?」
普段より静かなトーンで、鋭さを込めて申し出る天満さん。
局長は視線を伏せ、逃げ出しそうな顔で後ろに下がった。
「余計な事をするな。これは、自警局内の問題だ」
「あなたは執行委員会の代表だから、自分も部外者でしょ。馬鹿じゃないの」
辛辣に言い放ち、鼻で笑う中川さん。
男達が銃を構え直すが、それに臆する雰囲気は微塵もない。
「麗那ちゃん。あなたの見解は」
「本人の立ち会いはあくまでも、検討の段階に過ぎません。それを慣習化してなし崩しに導入する雰囲気を作り出すのは、フェアな行為とは思えません」
「だ、そうよ。自警課課長の見解は。局長の見解は」
「そ、その。決まっていないとはいえ、導入するとの前提で行いたいので。その、今はまだ話しあっている段階ですが……」
曖昧な、何が言いたいか分からない話。
誰に理があるかは、考えるまでもない。
「もういい。話にならない。麗奈、書き換えて」
「そうは行くか」
行く手を阻もうとする男達。
ため息を付き、髪をかき上げる中川さん。
「つくづく馬鹿ね。それともこれを発端に騒ぎを起こして、学内を混乱させる気?」
「なんだと」
「凪ちゃんは、ね。手が見え透いてるって言ってるの。そんな事も分からない?」
やってられないとばかりに首を振る天満さん。
銃口を向けられても、わずかにも動じない二人。
感じるのは圧倒的な自信と威厳。
この連中では、到底敵わないと誰にも確信出来る程の。
「何騒いでるんだ」
不意に聞こえる、聞き慣れた声。
男達の後ろからの。
突然現れる塩田さん。
この部屋にいる、誰にも気付かれないままに。
男達は背後を取られ、私達もきっとそうだろう。
改めて、この人の存在を思い知った。
「本人じゃないと駄目だって?で、俺がいる。これ以外で、何が問題だ」
男達の前に出て、あごを反らす塩田さん。
気圧されたように後ずさる男達。
しかし銃口は下がらず、全てが彼へと向けられる。
「何かやりたいのか?」
「貴様」
「来るなら来い。そんなので、俺をどうこう出来るって考えるならな」
挑発気味の台詞。
引き金に掛かる指。
まさに一触即発の空気。
目の前をよぎる影。
銃口を掴み、塩田さんの胸に手を当てるショウ。
「もう、止めよう」
「何だと」
「おい」
「どうしてもやりたいなら、自分達だけでやってくれ」
窓の外へ向けられる視線。
床へ落ちる銃。
一歩下がる塩田さん。
ショウは小さく息を付き、彼等を交互に見つめた。
「ちっ。行くぞ」
金髪を先頭にして去っていく男達。
敵意をショウへ向けながら。
「随分、偉くなったんだな」
さっきとは逆に、ショウの胸元へ触れる塩田さん。
苦笑気味に、どこか頼もしそうに。
「済みません。でも」
「俺も、あいつらを見るとついな。確かに、ここで暴れても仕方ない。退学したら、屋神さん達に怒られる」
「馬鹿。あなたが杉下さんの代わりに辞めれば良かったのよ」
「新妻さんの代わりにもね」
中川さん達に睨まれ、小さくなりながら部屋を出て行く塩田さん。
彼女達もその背中に文句を言いながら、彼の後を追う。
みんなの視線を受け、申し訳なさそうに壁際へ下がるショウ。
少しずつ分かり出す、彼の成長。
誰もがそれに気付き出す。
きっとそれは、いい事なのだろう。
ただ少し彼を、遠く感じる気もする。
気弱で、どこか頼りない雰囲気の彼。
そこから成長していく今の姿。
それはいい事なんだろうけど。
でも、だけど。




