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スクールガーディアンズ  作者: 雪野
第22話
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22-8






     22-8




「この間はお疲れ様。これ、みんなで分けて」 

 床に置いた、大きな段ボール箱を指差す天満さん。

 「ポテポテポテチ・たこ焼き風味」とある。

 わざとではないだろうが、あまり嬉しくもない。

「他のお菓子の方がよかった?」

「いえ。私は当分、たこ焼きと縁を切ったので」

「そういえば、たこ焼き屋を手伝ったんだって?売り上げを見ると、上から数えた方が早いわよ」

 その代わり、利益率は低いと付け加えられた。

 カツオや昆布で出しを取った分、原価が高く付いたのだろう。

「だって、そうしないと味が……。いや、もういいです。たこ焼きの事は」

「そう。思った程荒れなかったし、全体としては成功かな」

 何とも満足げな表情。

 私は昨日の疲れが残ってるのか、いまいち体が重い。

「元気ないわね。もっと弾けたら」

「そうそういつも、元気って訳にも」

「玲阿君はどうなの?怪我は」

「大分治ってますよ。今は、病院へ行ってます」

 通院といっても、消毒と予後の経過を見てもらうため。

 後はよく寝てよく食べていれば、放っておいても治っていく。

「でも玲阿君って、そんなに強いの?」

「強いというか何というか。私の100倍は強いんじゃないですか」

「ふーん。私は三島さんとの試合を見てないから、よく分からないんだけど」

 三島さんか。

 あの人なら、ショウに勝てるかも知れないな。

 試合形式でなら。

 実戦、玲阿流としての動きが許されるなら結果はまた違ってくるが。

「じゃあ、三島さんはそんなに強いんですか」

「何というのか、普通じゃない。コンクリの壁を叩き壊したり、走ってくる車に跳び蹴りをする人だから」

 自分でも信じられないといった具合に首を振る天満さん。

 私も一概には信じがたいが、ショウには話さないでおこう。 

 真似をしたら困るので。


「こんにちは。遠野さんは?」

「ちょっと、本部の方へ。何か、用事でも?」

「北米政府との交渉に、来てもらおうと思ったんだけど。雪野さんは?」

「私は、日本でひっそり生きてきます」

 それを聞いて、おかしそうに笑う中川さん。

 別に北米で交渉する訳でもないだろうが、そんな大舞台に立つ柄でもない。

 大体、政府ってなんだ。

「いいところに来た。凪ちゃん、ちょっと」

「何よ。お金ならもう出さないわよ」

「あなたの従兄弟。丹下さんが、キャベツ代出してくれって言ってきてる」

「キャベツだろうとキャビアだろうと、どれだけでも買えばいいじゃない」 

 どうにも沙紀ちゃんには甘いな、この人は。

 大体、キャベツってなんだ。

「昨日屋台でキャベツが足りなくて、中央卸売市場で買い付けてきたらしいの。えーと、リストがある。キャベツ、豚肉、ネギ、ジャガイモ……」

「分かった。予算は組むから。それって、誰か横流ししてない」

「さあ、詳しくは浦田君に聞いて。丹下さんは、予算の事で頼んできただけだから。アイディアは、あくまでも彼」

「あの男。ちょっと、浦田君は」

 一転して、鬼みたいな顔をする中川さん。

 そんなに怒る事なのかな。

 どうも普段彼と一緒にいるせいか、その辺りの間隔が麻痺してるのかもしれない。


「失礼しました」

 入ってきた途端、出ていこうとするケイ。

 中川さんは彼を上目遣いで見据え、手の平を上に向けて人差し指を手前に引いた。

 来い、と言わんばかりに。

「別に横流しはしてませんよ」

 聞かれる前に答えるケイ。

 自分の事は、誰よりも分かっているようだ。

「だったら、どうしてこんなに買い込んでるの。あなた、八百屋でも開店するつもり?」

「いや。どれだけ必要なのか分からなくて。足りなくて、閉まってる屋台が多いよりはいいでしょう」

「余った分はどうしたの」

「余ってませんよ。全部昼に、食堂とラウンジで売り捌きました」

 それ以外のたこ焼きやお好み焼きと一緒に売ったらしい。

 しかしキャベツを欲しがる生徒なんているのか?

「じゃあ、お金は。売上金」

 手を差し出す中川さん。

 ケイは仕方なさそうにジャケットのポケットをまさぐり、カードを彼女へ渡した。

「払った額より多くない?」

「商売は、利潤を追求するのが最たる目的でしょう」

 私とは意見を異にする台詞。

 利益なんて二の次。

 まずは味、ひいてはお客様の笑顔じゃないの。

 いや。私が考える事でも無いけどさ。



 机に伏せて、ぐったりとするケイ。

 昨日までの疲れより、今の疲れが聞いたらしい。

「あの人は、どうして俺を締め付けてくるんだ」

「嫌われてるんじゃないの」

「どうして」

 従兄弟と仲がいいからとは告げず、適当な事を言って段ボールを開ける。

 嫌なんだけど、ついね。

「これって、売れてるのかな?」

「天満さんのお土産か。俺の知る限り、あの人がくれる物で転売出来る物は少ない」

 転売という言い方はともかく、それ程人気商品ではないという分訳か。 

 あの人はここを、倉庫と勘違いしてるんじゃないのか。

「いいや。神代さん達にも配れば」

「幾らで」

「お金を取る訳無いでしょ。何考えてるの?」

「俺はいつも、自分の事だけを考えてる」

 真顔で言うな、真顔で。

 大体、もらい物でお金を取ってどうするの。

 全部で24個だから、定価の半額としても……。

 いや。計算してる場合じゃない。

「売らないの。名前、名前書くからね」

「少しは信用しろよ。……あの、自分の名前を書くんじゃないの?」

「え、どうして」

 サトミの名前を書いたところで、ペンを置く。

 訝しそうなケイと、見つめ合いながら。

「ユウがいいなら、俺はこれ以上言う事はない」

 分かんない人だな。

 えーと、次はモトちゃんと。

「あなた、何してるの」

「名前書いてる」

「どうして、私の名前を書くの」

「ケイが、売り捌くって言うから。それを、止めさせようと思って」

 ため息を付き、自分の名前が書かれた袋を手に取るサトミ。

 この間の私並に、疲れた顔で。

「だったら、自分の名前を書きなさい」

 ああ、そういう事か。 

 今さら気付いても遅いので、ペンを置いて腕を揉む。

「それで、これをどうする気?」

「みんなに配る」

「あまり、喜ばれそうに無いわね」

 そういう、嫌な事を言わないでよね。

 私だって、薄々は気付いてたんだから。


 取りあえず一つ開け、食べてみる。

 思っていた通りの味で、可もなく不可もなしといったところ。

 お店で見かけない訳だ。

 というか、結局食べちゃうんだよね。

「美味しい?」

「お腹は膨れるわね」

 メーカーサイドには聞かせたくない答え。

 ケイは何も言わず、黙々とかじっている。

 元々食べ物に執着しない人だし、意見が出しにくい味というのも確かである。

「ショウに食べさせろよ。あいつなら、一箱くらい平気だろ」

「だから、配るんだって。でもあの子、遅いな」

 時計を見て、部屋の脇にある彼のリュックへ視線を移す。

 ここへ戻ってくるのは間違いない。

 医者といっても、今日は医療部へ行っているだけだから。

「これを、塩田さんに渡してきて」

 お菓子の袋を一つ机の上に置くサトミ。

 取りあえずそれを抱え、オフィスを出る。

 彼女の気遣いに、内心で感謝をしながら。


 医療部の前を通り掛かった所で、ショウと出会った。

 ここへ来たのは偶然ではなく、ガーディアン連合の本部がこの先にあるため。 

 無論ルートは幾つもあるが、そこは私の意思で選択出来る。

「へへ、迎えに来た」

 つい素直に告げ、お菓子の袋を彼へ渡す。

「何だ、これ」

「塩田さんへのお土産」

「よく分からないけど、届ければいいのか」

「いいよ。私も行くから」

 とことこと歩き、彼へ並ぶ。

 顔の傷は殆ど目立たなくなり、足も引きずってはいない。

 腕の包帯もなくなり、外見的に怪我を思わせる箇所は無いといっていいくらい。

「大分良くなったみたいね。薬は?」

「もう飲んでない。腕にガーゼをしてるくらいかな」

 軽く右手を振るショウ。 

 決して早くはないが、ぎこちなさや不自然さは感じない。

 それにはつい、私の方まで嬉しくなってくる。

「どうかした?」

「なんでもない」

 にやけた顔を指で撫で、彼と並んで歩いていく。

 秋の穏やかな日射しの中を。

 その傍らに寄り添って。



「よう。デートか」

 無愛想に出向かえる塩田さん。

 机には書類が積まれ、その脇には彼の足が乗っている。

「お土産です。天満さんにもらったので」

「どうせ、メーカーの返品だろ。お前らで、安く売ったらどうだ」

「ケイみたいな事言いますね」

「冗談でも、そういう事は言うな」

 別に冗談ではないんだけど、彼と同一視されたのがあまり楽しくなかったらしい。

 それが楽しいと思う人は、あまりいないだろうけど。

「でもあいつって、昨日は警備の責任者だったんですよね」

 それとなく彼をフォローするショウ。

 本当に人がいいというか、損をする性格というか。

「浦田の事はどうでもいい。それよりお前、怪我は」

「大分治りました。保険とは別に、俺が自分で払いますから」

「馬鹿か、お前は。余分に請求するくらい考えてろ」

 鼻を鳴らし、書類を彼へ渡す塩田さん。

 その保険関係のものらしく、かなりの払戻金がある。

「一応、業務中という事にしておいた」

「え、でも」

「金があって困る事はない。自分の考えで使え」

「はあ」

 戸惑いながら頷くショウ。

 大金を持たされた小学生みたいな顔で。

 実家はお金持ちなのに、何でこうなのかな。

 勿論、悪い事じゃないけどね。

「あれ、玲阿君」

 執務室へ入ったところで、戸惑い気味に足を止める木之本君。

 何かを隠すような顔で。

 人がいいため、誰にでも分かるけど。

「よう」

 のんきに挨拶を返す男の子。

 この子には、分からないかもね。

 善人トリオ、その2には。

「玲阿、ちょっと書類取りに行ってくれ。奥の資料室で、去年の教棟別のトラブル発生率が載ってる奴を」

「あ、はい」

 素直に頷き、部屋を出て行くショウ。

 木之本君は苦笑気味にその背中を見送り、手にしていたDDを机の上に置いた。

「なんだ、エロDDか」

 馬鹿じゃないのか、この人は。

 もしこれがそうなら、私は机ごと叩き割っている。

「怖いよ、お前は。で、中身は」

「玲阿君の、例の映像です。匿名で届けられました」

「この前の、ケンカの?」

「僕も中は見てないから、良くは分からないけどね。爆発物じゃないよ」

 何か、怖い事を言ってくるな。 

 取りあえず距離を置いて、塩田さんの後ろへ回る。

「俺を盾にするな」

「いいから、再生して下さい」

「ったく。えーと、これか」

 卓上端末のスリットにDDを差し込む塩田さん。 

 それとほぼ同時に大きなモニターが点灯し、サンドストームが現れた。

「い、いやらしいのだったらどうします?」

「知るか。……なんだ、これ」



 広めの路地。

 何かを追うように走ってくるショウ。

 映像から見て、これはかなり望遠らしい。

 その背後から迫る、数人の男。

 一人がスタンガンを構え、彼の腰へ近付ける。

 直ぐさま振り向き、腕を極めて相手に押し付け返すショウ。

 同時に足が跳ね上がり、右の男を前蹴りで倒す。

 倒れ込む二人の体重に押され、よろめく一番左側の男。

 上から降ってくるネット。

 ショウは壁を蹴って、それが広がる前に受け止めた。

 続いてそのネットを放り投げ、正面から着た集団に覆い被せる。

 彼等全員にローを放ち、動きを止める。

 今度は後ろからネットが。

 前からは、ゴム弾。

 動きを止められ、ネットに絡め取られるショウ。

 武器を持ち、一斉に集まってくる男達。

 振り下ろされる、警棒や金属バット。

 ショウは背を丸め、それに耐える。

 仰向けにされる体。 

 手首に巻かれるロープ。

 足にもロープが掛けられる。

 その途端、体を折って膝だけで蹴り付けるショウ。

 仰け反る男。

 地面に落ちたナイフをつま先で蹴り上げ、口にくわえて手首のロープを切断した。

 彼がそうしている間にも、周りから武器が振り下ろされ体を苛んでいく。

 しかし彼はネットもナイフで切り刻み、それから飛び出た途端裏拳で左右の二人を地面へ叩き付けた。

 突然正面から、ウィリーしながら突っ込んでくるバイク。

 半歩下がり、右手を無造作にショウ。

 それに流されるようにして吹き飛んでいくバイク。

 警棒を受け止められ、それごと飛んでいく男。

 二つに折れる木刀。

 奪われた銃で撃たれ、ゴム弾の当たった顔を押さえる男達。



 数分後。

 全身血塗れになり、荒い息を付きながら構えを取るショウ。

 その前に現れる、以前の映像でも見た男。

 男のジャブを受け、ショウが下がる。 

 そこへ飛んでくる、無造作なハイキック。

 膝を折り、彼の体は地面へと崩れる。

 前の映像は、ここで終わっていた。


 それと前後するように、男も地面へ膝を付く。

 勝利の喜びに浸っている訳ではない、叫び声を上げている顔。 

 膝を抱え、のたうち回る男。

 気付くと男の傍らには、血塗れの拳を構えたショウが立っていた。

 土下座をする男達。

 その拳を降ろし、無言で去っていくショウ。

 映像はそこで終わる。



「映画か、これは」

 呆れ気味に呟く塩田さん。

 木之本君は青い顔をして、呆然としながらモニターを消した。

「前の映像は、最後の部分が殆どだったんですね」

「ああ。しかしこれが流出したら、それはそれでまずいな。送ってきた奴の狙いも、そこの辺りだろうけど」

「ショウが、怖がられるって事ですか?」

「身内の俺達でもこれだ。知らん奴は、化け物かと思うぞ」

 表現はともかく、間違ってはないだろう。

 ただ私の感想は、また少し違う。

 恐怖や恐れというよりも。

 畏敬の気持が沸き上がる。

 人がここまでなれるのかという。

 同じような事をしてきた者として、こんな事が出来るのかと。 

 ただ、絶対に敵わないとは思わない。

 今はその足元にも及ばないだろう。

 私が一歩進むごとに、彼は百歩進むのだから。

 距離は日に日に開いていく。

 でも足を止める訳にはいかない。

 少しでもその近くにいるためには。


「でも、最後はどうしてこいつは倒れたんだ」

「そうですよね」

 小首を傾げ合う二人。

 私はモニターをもう一度付け、キーボードを操作した。

「えーと。どうやるの」

「どうしたい?」

 優しく尋ねてくる木之本君。

 誰かのように分からないならやるな、とは言ってこない。

「あれ。最後の映像を、スローで再生して」

「分かった」

 分割される幾つかの場面。

 その中の一つが選択され、画面全体へ表示される。

「こいつのハイキックが来た瞬間。ショウの手元を見て」

 大振りのフック気味な動き。

 避けるだけの体力もなく、足も動かず。

 かろうじて動く左手を横に振る。 

 がら空きの顔にヒットするハイキック。

 膝を落とすショウ。

 だが男の膝も、その一撃で関節が極められていた。

 その結果は、最後の映像を見るまでもない。

「足の振りより早く、太ももを叩くんです。相手は足を振っている反動で、勝手に膝を痛めます」

「じゃあ、バイクはどうして吹き飛んだ」

「フロントホークを叩いたんですよ。それでハンドルの向きを変えてその後で、後ろを軽く突くだけです」

 この辺りが見えないのも、無理はない。

 塩田さんが無理なら、木之本君に至っては私の話すら信じられないくらいだろう。

 つまり、私以外の人間には殆ど分からない話である。

「まあいい。取りあえず、遠野と浦田を呼べ」



 映像を見終わり、ため息を付く二人。

 疲れ切ったというか、やるせない感じで。

「馬鹿だな」

「馬鹿ね」 

 意見の一致を見る二人。

 何か言い返そうと思ったが、室内の空気もそれに近いので自重した。

 全然、馬鹿じゃないっていうの。

「あなたも、馬鹿予備軍じゃ無いでしょうね」

「悪い?」

「もういいわよ。ショウに、これは」

「まだ見せてない。よく分からんが、あいつにはあいつなりのプライドがあるんだろ。これで、負けたって思うような」

 苦笑気味に語る塩田さん。

 相手は武装した数十人。

 映像を見る限り、その大半は彼以上の怪我を負っている。

 最後の部分にしたって、引き分けと言ってもおかしくはない。 

 でも彼は、負けたと言っている。

 私がそれを否定する理由はない。

「しかしこれは、勝ちも負けもないでしょう。というか、それ以前の問題じゃないんですか」

「雪野は、違う意見らしいぞ」

「そういう人は、この学校をどれだけ探してもショウとユウだけだと思いますけどね。ああ、いた。御剣君と柳君」

 名前を上げ、鼻を鳴らすケイ。

 サトミは話す気力もないという顔で、壁を指でなぞっている。

「もう少し、友達の事を思って物を言えないの?」

「次は頑張ってとか?」

「それもいいかもね」

 笑ったまま表情を強ばらせるケイ。

 どうも、冗談で言ったつもりらしい。

「次も何も、そんなのはないんだよ」

「だったら、どうするの。ショウが負けっ放しでいいの?」

「だから、負けじゃないって言うの」

 堂々めぐりとなる議論。 

 というか、私一人孤立した状態。

 駄目だ。

 味方、味方を探してこよう。



 映像を見せるのは何なので、その経緯だけを簡単に告げる。

「馬鹿」

 短く結論づける舞地さん。

 池上さんは優しく微笑み、私の頭を撫でてきた。

 駄目な子供をあやすようにして。

「名雲さん」

「お前に賛成したいところだけど。俺もこれはちょっとな。むしろ逆に、良くここまでやったって誉めるケースだろ」

「先輩なのに、理解がないんですね」

「悪かったな。駄目な先輩かも知れないけけど、常識的な人間だとも付け加えておく」

 常識? 

 それを打ち破るのが、人としての生き方じゃないのか。

「柳君は、どう思う?」

「微妙だね。ただ先に玲阿君が膝を折った以上、彼の負けかな」

 一人いた味方。

 そんな彼に、例のお菓子を進呈する。

「あの、これは」

「お礼」

「俺にもくれよ」

「絶対嫌」

 リュックを背負い、ドアへと向かう。

 えーと、次はと。




「俺に聞かれても」

 素っ気なく答える阿川さん。

 相変わらず愛想がないな。

「山下さんは、どう思います?」

「そんな事聞かれても、答えようがないわ。大体それ、本当なの?」

 疑われてしまった。

 しかしあの映像を見せて回る訳にもいかないので、何度も頷きそれに代える。

「それだったら、勝ちでいいんじゃなくて?何十人にも襲われて、殆どを返り討ちにしたんだから」

「でも、最後の男には負けてるんですよ」

「どうも、私とあなたの視点は違うみたいね」

 今度は突き放された。 

 何かおかしいな。

「あ、いた。沙紀ちゃん、ちょっと」 

 嫌な予感がしたのか、逃げ出そうとしていた沙紀ちゃんを手招きして呼び寄せる。

 より分かりやすくするために、両手を振って。

 ここまでしないと、目立たないのよ。

「キャベツなら、もう全部売れた」

 疲れ切った顔で返してくる沙紀ちゃん。

 まさか、この子が売り子をやったんじゃないだろうな。


「負け?何が?」

 また尋ね返された。

 やっぱりおかしいな。 

「大丈夫、優ちゃん?」

 心配までされた。

 色んな意味で、本当に大丈夫かな。

「あ、あなた達もこっち」

「たこ焼きなら、もうありませんよ」

「遅いんだよ」

 この子達は、私を何だと思ってるんだ。 


「意味が分かんない」

 首を振る神代さん。

 とはいえ、この子の答えはあらかじめ予想してた。

「分かりませんけど。微妙といえば、微妙ですね。映像を見れば、また違うでしょうけど」

 本人の言う通り、かなり微妙な答え。

 一応条件付き賛成と勝手に判断し、例のお菓子を渡す。

「一人で食べて」

「あまり、美味しそうじゃないですね」

 あまりありがたみのない答え。

 他の人からも、欲しいという意見は聞かれない。

 分かってたけどね、初めから。

「それで雪野さん、リレーの選手は見つかりました?」

 嫌な事を思い出させてもくれた。 

 しかし、こっちはこっちでどうにかしないとな。

「君は、本当に陸上部と勝負する気なのか」

「悪いですか」

「そう言われると、反論のしようもないが。君の価値観は、俺のとはかなりずれてるようだ」 

 冷静に馬鹿にされてるような気がする。

 だからって、じゃあ止めますという結論にはつながらない。

 それでは戦わずして、ニャンに負けた事になるんだから。

「阿川君は、誰か知りません?」

「仮にいても、陸上部とやり合う馬鹿はいないだろ」

「済みませんね、馬鹿で。山下さんは」

「知らなくもないわよ」

 意味ありげな微笑み。

 彼女の意図に気付いたのか、苦笑する沙紀ちゃん。

「誰、誰です」

「雪野さんは、自分の知り合いばかり探してるでしょ。少し、輪を広げてみたら」

「例えば?」

「これ、事務局に届けてきて」


 使いっ走りにされた。

 とはいえこれには、何か意味があるんだと思う。

 どう見ても、ランチボックスにしか見えないが。

「済みません。これの持ち主って分かります?」

「落とし物?」

 怪訝そうにランチボックスを見つめる、受付の女の子。

 私も、そこまで律儀者じゃない。

 ショウや木之本君とは違って。

「いえ。多分、ここにいる人の物だと思うんですけど。届けてくれって、頼まれて」

「軽いから、空ね。……ああ、分かった。呼んでくるから、ちょっと待ってて」

 受付から去っていく女の子。

 カウンターに残されたのは、私一人。

 置き去りにされた迷子のようにも思えてくる。

 忙しげに素通りしていく人達を見ていると、余計に。

 本当に私は、こういう所は場違いだな。

「あたしに、何か用」

 阿川君以上に素っ気ない口調。

 スレンダーな体型に、長い足。

 歩く仕草は自然そのもので、腕の振りも申し分ない。

「いた」

「誰が」

「いいから、ここに名前書いて下さい」

「100m×4リレー?冗談じゃない」

 書類を机に叩き付ける土居さん。

 綺麗に返る手首、無駄のない動き。

 いるところにはいるんだな。

 いや。これは、リレーとは関係ないか。

「山下さんの推薦なんです。是非にって」

「誰の推薦だろうと知らない。あたしは、人前に出るのは好きじゃない」

「陸上部と戦おうっていう意識はないんですか」

「ある訳無いだろ。……陸上部?」

 聞いた事のない単語を聞かされたという顔をされてしまった。

 そんなに陸上部とやり合うのは、常識外れなのかな。

「ますますやる気がなくなった。他を当たって」

「じゃあ、どうしたら出てくれます?」

「出ないよ。大体、そんな物好きはいないだろ」

 そう言って、もう一度書類へ視線を向ける土居さん。

 少し変わる表情。

 呆れ気味というか、今気付いたという顔で。

「渡瀬か」

 そう言えば彼女は北地区出身。

 渡瀬さんも、北地区出身。

 私よりも関係は深いし、思うところもあるだろう。

「キャプテンは、土居さんでいいですから」

「誰がそんなのをやりたいって言った。……分かった。やるよ」

「本当に?」

「ただし、あまり期待されても困る。練習のスケジュールは」

 意外と前向きな発言。

 責任感が強いタイプなのかも知れない。

 こうなると、渡瀬さんを初めに引き込んだのは正解だな。


「それで、用事ってその事?」

「用事?」

 他に何かあったかな。

「ああ、これ。山下さんから」

 ランチボックスを彼女へ返し、もう少し考えてみる。

 中身は何だったんだ?

「これって、何が入ってたんですか」

「スモークウインナー」

 薫製か。

 どこかで聞いた話だな。

「料理好きなんですか?」

「峰山程じゃないけどね」

「私も好きですよ。この前、もらったお肉で薫製造りました。鍋で、紅茶を使って」

「ああ、簡単なやり方で」

 噛み合っている会話。

 ただ、どこか違和感がある。

「いや。そうじゃない」

「普通は、専用の道具を使うからね」

「違うんですって。ショウ。……玲阿四葉の事でちょっと」

 ようやく本来の目的を思い出し、彼女に説明をする。

 ここまで来ると、物忘れというレベルじゃないな。

「勝ちとか負けとか、そういうレベルじゃないだろ」

「意外と保守的なんですね」

「悪かったね」

 帰ろうかと思ったが、足元にあったリュックに気が付いた。

 よく考えてみると、まだ大分残ってるんだよね。

 オフィスに帰れば、この倍くらい。

「どうぞ」

「何、これ」

「選手になってくれた、お礼です」

「あたしは、あまりお礼を言いたくないね」

 どうも評判が悪いな、これは。

 というか、本当に悪いのは誰かって話だけど。



「いたいた。こっち、おーい」

 何というのか、大きいのでどこにいてもすぐ分かる。

 御剣君は得体の知れないジャーキーをかじりつつ、購買の奥からやってきた。

「欲しいなら、こっちの分を」

 ポケットから取り出される、「タコジャーキー」という文字の書かれたビニールパック。

 別に欲しかった訳ではないが、つい一口食べてみる。

 程良い歯応えと、塩加減。

 またこの塩自体が、かなりいいもののようだ。

 などと、分析してる場合じゃない。

 残りの分をポケットへ突っ込み、ここでもショウの事を説明する。

「それは、負けでしょう」

 あっさりと、予断無く結論付けた。

 前から違うとは思ってたけど、やっぱりこの子は分かってるな。

「お礼」

「何か、見るからに売れ残りですね」

 嫌な感想を、今日は聞き流す。

 どうも余りそうなので、もう一袋追加する。

「四葉さんは、なんて言ってるんですか」

「あの子には見せてないし、話してない。自分が負けたって言ってるんだから、私達があれこれ言っても仕方ないでしょう」

「なるほど。でもまあ、少し安心しました。負けは負けですけど、そこまでやってたのなら」

 子供っぽい、安堵感に満ちた笑顔。 

 彼にとってショウは、お兄さんみたいな存在。

 その人が負けたというのは、むしろ彼の方がショックだったのかも知れない。

 でもその名誉は、少なくとも以前よりは回復された。

 その事を周りの人間が知らなくてもいい。

 自分達だけが分かっていさえすれば。

「もう一度言うけど、復讐なんて考えてないでしょうね」

「雪野さんに、そういう事を言われても」

 恨みがましい視線。

 私が一体、何をしたって。

「ああ。あの事」

「自分でやっておいて、俺は止めるなんて」

「あれは当ててないの。鼻先をかすっただけ」

「いいですけどね」

 言葉とは裏腹に、納得出来ないという顔。

 少し、ストレスを抜いた方がいいみたいだな。

「ショウが資料を整理してるから、手伝ってきて」

「そういう事は、俺はちょっと」

「重いからちょうどいいの。オフィスの人には、私から連絡しておくから」

 彼を追いやり、端末で彼のオフィスに連絡を取って椅子に座る。

 ジャーキーを少しかじり、口元を舐める。

 お茶が欲しいな。

 いや。まったりしてる場合じゃない。

 私には、まだやる事が残ってる。



「それで、僕にどう言えと」

 ため息混じりに見つめてくる沢さん。

 七尾君も、珍しく呆れ気味に首を振っている。

「そんなにおかしいですか」

「みんなの意見は」

「はかばかしくないです」

「そうだろうね」

 当然だろうと言わんばかりの口調。

 どうもみんな、分かってないな。

「雪野さんは、どうして聞いて回ってるの」

「はい?」

「いや。別に聞いてもいいんだけど、理由が知りたくて」

 小首を傾げる七尾君。

 何だ、理由って。

 そういう事は、深く考えた事がなかったな。

 今回に限らず。

「私、急ぐから」

「何か用事でも?」

「まだ、聞いて回るところがあるの」

「あの、俺の質問聞いてた?」


「あ?勝ちも負けもあるか。そんな奴は知らん」

 無愛想に応じる風間さん。

 何となく、怒り気味にも見える。

「風間君、何怒ってるの」

 取りなすように優しく声を掛けた石井さんも、答えとしては同じだったが。

 味方はいないしお菓子は余るし、いい事無しだな。

「どうせ俺は、小さい猫も取れないよ」

「何の話?」

「昨日屋台で出てた射的。こいつ玲阿といちゃいちゃしながら、大きい招き猫をとりやがった」

 いちゃいちゃはともかく、とりやがったって。

 それは単純に、私と彼の実力だ。

 無論取れないのも、風間さんの実力だが。

「私達は、キャラメルとチョコで我慢しましたよ。お店の人に悪いと思って。風間さんは、あの後どうだったんです」

「それ、あれ。キャラメルもらった」

 取ったではなく、もらった。

 多分お店の人が、不憫に思ったのだろう。

 下手なんだから、止めればいいのに。

「風間君下手なんだら、やらなければいいでしょ」

 私の疑問をストレートに伝える石井さん。 

 風間さんは例のショットガンに似た銃を机の上に出し、その脇にゴム弾を転がした。

「好きなんだよ。右藤が下手なのに、フェンシング部へ入ってるのと同じだ」

「理解不能ね。大体これって、本当に意味あるの」

 銃を構え、壁に向ける石井さん。

 私はそれとなく位置を変え、風間さんの後ろへ入った。

「俺を盾にするな」

「というか、撃たないわよ」

 しかしこの人がいきなり発砲する場面は見ているため、愛想笑いでそれに応える。

 暴発という可能性だってあるんだし。

「あなた、沙紀ちゃんから私の事聞いてないの?」

「優しくて、面倒見のいい先輩とは。ただ、多少雑だって」

「丹下の言う通り、……なんて事はない」

 銃口を床へ向ける石井さん。

 風間さんの頬を伝った汗は、この際見ないでおこう。

 人に銃口を向けるなって言うの。

 そういうのを日本語で、雑と言うんだ。 

「雪野さん、何か」

「いえ、別に。私は、先を急ぎますので」



 広い執務室、棚に飾られる盾やトロフィー。 

 壁には何枚もの賞状が並び、大きな机の後ろには幾つもの優勝旗が立てられている。

「負けね、間違いなく」

 きっぱりと言い切る鶴木さん。 

 やっぱりこの人は分かっている。

 というか分かっているのは、彼女と御剣君というショウの遠縁に当たる人。

 実家が古武道の宗家という、かなり偏った家系の。

 それ以外では、柳君と渡瀬さんだけだ。

 後は、私か。

 ちょっと嫌にならなくもないな。

「いいや。取りあえず、これを」

「なんか、食欲をそそらないわね。右動君、これ」

「駄目です。鶴木さんが食べて下さい」

「全然嬉しくない」

 憮然としてお菓子の袋を引き出しにしまう鶴木さん。

 お菓子を受け取り損なった右藤さんは、苦笑して机に立て掛けていた木刀を担いだ。

 別に怒ってる訳ではなく、持っているのが彼にとっては自然なのだろう。

「でも、負けって何が負けなんだ?何十人も病院送りにして」

「最後に倒れた時点で負けなのよ。経緯なんて関係ないの」

「怖い一族だ。俺は普通に生きてて良かった」

 それとなく私に言われているようにも思えるが、気のせいだ。

 誰がこの話を持ち込んだかも、気にしないでおこう。

「で、四葉君は」

「話してません」

「それが無難ね。彼には彼のプライドがあるだろうし。復讐するタイプじゃないけど、この事で周りからあれこれ言われたくもないはずよ」

 理解のある台詞。

 遠縁であり、彼とは幼い頃から顔見知り。

 少し、胸の奥がちくりとする。

「ちょっと、そういう顔しないでよ」

「はい?」

「黄昏れた、寂しげな顔。私がいじめてると思われるから」

 自分の顔を両手で押さえ、鶴木さんを見つめる。

 おかしそうに笑っている、優しげな笑顔を。

「心配しなくても、四葉君を取ろうなんて思わないから。それにあの子は、私のタイプとは少しずれてるし」

「はあ」

「第一四葉君はあなたを好きなんだから、心配する以前の問題でしょ」

 ストレートな内容。 

 固まる私。 

 熱くなる頬、出てこない言葉。

「ああ、ごめん。私があれこれいう話でもなかったわね」

「いえ、その。あの」

「もう、可愛いわね。四葉君が他の子に目が行かないのも、よく分かるわ」

 何というのか、いたたまれなくなってきた。

 取りあえず固まった足を叩き、少しずつ歩く。

 ぼんやりとした意識の中で。 

 その面はゆさを、どこか楽しみながら。



 背後に気配。

 そんな事を気付いたのは、SDCの本部を出てしばらくの後。

 正確に言うと、自分のオフィス前辺りで。

「右藤さん」

「別に付けてた訳じゃない。というか、今気付いた?」

 陽気に笑う右藤さん。

 それはいいが、彼の意図はいまいち分からない。

 私とそれ程親しい訳ではないし、今これといった用事もない。

 そんな私の疑問を読み取ったのか、彼は担いでいた木刀でオフィスのドアを軽く突いた。

「君の彼氏、じゃなくて何十人もの男を病院送りにした男に会いたくてさ」

「普段は普通で、どちらかといえば大人しい人ですよ」

「強いんだろ」

「限りなく」

 さっきの鶴木さん以上に、はっきりと言い切る。

 自信と確信、誇りを込めて。

 右藤さんは満足げに頷き、ドアをノックした。

「はい、開いてますよ」

 すぐに聞こえる、サトミの声。

 しかし右藤さんは中へと入らず、ドアの横へ移動した。

「済みません。荷物があるので、ちょっと開けて貰えますか」

「分かりました。ショウ」

「ああ。今、開けます」

 近付いてくる足音。

 ゆっくりと開くドア。

 そのわずかな隙間に振り下ろされる木刀。

 だがそれは取っ手の部分まで来る前に止められる。

「え?」

 木刀を下にして浮き上がる、右藤さんの体。 

 木刀な長さと彼の体重。

 相当の体力がなければ不可能な動き。

 木刀はさらに持ち上げられ、右藤さんがドア脇の壁へ叩き付けられる。

「っと」

 木刀を素早く放し、足で壁を受け止める右藤さん。

 そのまま彼は体をひねりながら前方宙返りをして、器用に廊下へ降り立った。

「うわっ」 

 鋭い勢いで突かれる木刀。

 右藤さんは半身になってそれを避けるが、木刀はその動きに沿って動いていく。

「おっ」

 ドアを開けながら、横へ薙ぐ木刀。

 開いたドアから、前蹴りと同時に飛び出てくるショウ。

 右藤さんは窓際まで下がり、両手を上げている。

「……あれ」

 私と、彼を交互に見つめるショウ。

 所在なげに、木刀を構えながら。

「噂通りだな」

「あの、何が」

「こっちの話」 

 手を振る右藤さん。

 その意味を理解して、木刀の柄の方を彼へ向けるショウ。

 襲われたというのに、どうしてこう人がいいのかな。

「もう一度俺が襲うとか考えないの?」

「はい?」

「いや。こっちの話。それとも、それにも対応出来るとか」

 困惑気味のショウの肩に触れ、冗談だよと笑う右藤さん。

 彼はしなやかな動きで木刀を振り、鞘の形状をした腰のフォルダーにそれを戻した。

「君の強さは、何となく分かった。人の良さも」

「はあ」

「……あの子は大丈夫かな」 

 腰を引く右藤さん。

 オフィスの奥。

 どこから持ってきたのか、例の銃を構えているサトミ。

 彼が不審者ではないと分かっている今も、冷静な眼差しをこちらへと向けて。

「サトミ、大丈夫」

「だったらいいけど」

 銃口を下へ向けるサトミ。

 しかし、銃自体を手放そうとはしない。

 この辺りが彼女たる所以でもある。

「どうも済みません。ここの人間は、血の気が多くて」

 愛想のいい笑顔で出てきて、握手を求めるケイ。

 それの手をじっと見つめ、一歩下がる右藤さん。

「何か」

「君が、一番危険な気がする」

 手の平に、ライターはない。

 ただ、私が右藤さんの立場なら握手はしない。

 第一彼は、握手をするタイプじゃない。

「とにかく、君達はそっとしておいた方がよさそうだな」

「別に、私達は」

「冗談だよ。何にしろ学内は、当分荒れ模様。こっちは兄貴の事もあるし、そうそう無関係だとも言ってられない」

 一瞬鋭さを帯びる、右藤さんの横顔。

 だがそれは本当につかの間で、さっきまでの明るい笑顔に戻っている。

「君らが敵に回るなら、今どうかしようとも思ったけど。それも無理っぽいし」

 木刀に手を触れ、その笑顔を残し去っていく右藤さん。

 塩田さんとは違い、また別な視点で学校への気持を抱いているようだ。

「それで、結局何だったの?」

「知らない」

 銃を構えたままのサトミから遠ざかり、ケイへリュックを渡す。

「おい、まだ余ってる」

「じゃあ、塩田さんに届けて。残りの段ボールも」

 やいやいとうるさい二人。 

 それを無視して、何となくショウの顔を見る。

「ん、やり過ぎたかな?」

 不安げな表情。

 あれ程の事をやって、これだけの外見をしてて。

「何でもない。よくやった」

 彼の肩にそっと触れ、少し微笑む。



 別に意味なんてない。

 意味を考える必要もない。

 思いを寄せる人に、微笑みを向けるのは。 











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