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スクールガーディアンズ  作者: 雪野
第21話
222/596

21-1






     21-1




 水遊びをするには、少し時期外れ。

 空に浮かぶ雲はちぎれちぎれになり、風は涼しく乾いている。

 とはいえ寒いと思うにはまだ早く、少し動けば汗ばむくらい。

 一年の中で、一番過ごしやすい季節だろうか。

「釣れた?」

「少しだけ」

 川に沈めてあった網を引き上げる木之本君。

 その中に見えるのは、秋の日射しを跳ね返す若鮎。

 猛々しい顔と、しなやかな体。

 食べるのがもったいないくらいの、綺麗な姿。

 食べるけどね。

「ちまちま釣らないで、網でがさって捕れないの」

「違法だよ」

「あ、そう」 

 あっさり却下された。 

 私はどうも、こういうのは駄目だな。  

 何というのか、自分から積極的に攻めていきたい。

 地味に糸を垂れて、獲物が掛かるのをのんびり待つのではなく。

 モリでも槍でも持って、川の中へ入る方が性に合っている。

 効率とか、体力の消耗とかを考慮しないのなら。

「寒いよ、お兄ちゃん」

 肩を震わすケイ。 

 とはいえ、ここに彼の兄はいない。

「たき火しよう」

「危ないから、駄目」

「水辺だろ」

「浦田君が危ないから」

 笑顔できつい事を言う木之本君。 

 ケイは鼻を鳴らし、石を蹴飛ばした。

「釣れないからって、いらいらしなくても」

「俺は、こういうのは苦手なの。魚なんて、買えばいいのに」

 情緒も何もない発言。

 どうしてこう、自然に溶け込めないかな。 

「弟妹はどこ行った」

「何、ていまいって」

「弟や、妹の事だよ。さっきまで、そこにいたのに」

 少し心配そうな顔をする木之本君。

 お兄さんとしての顔を。

「あそこにいるじゃない」

「どこ」

「ずーっと向こう」

「鷹みたいな女だな」 

 誉めてるんだろう、多分。

 だから、川に突き落とすのは保留しよう。


「何してるの」

「絵を描いてたんです」

 風雅な事を言ってくる、木之本君の弟。

 その隣で笑う、もう一人の弟。

 彼に似た、優しい顔立ち。

 性格も同じで、人がいい。

「私も」

 にこっと笑う、木之本君の妹。

 穏やかで、可愛らしい顔立ち。

 人なつこいというか、人を安心させる雰囲気を持っている子達。

「また、意味のない事を」

 人を苛立たせる男がやってきた。

「宿題でもないのに、描いても仕方ないのに」

「浦田さんは、これを見て何か思いません?」

 浅い水辺に見える、小さな魚と底の石。

 屈折した日射しが緩やかに揺らめき、魚と石に光と影を作る。

 微妙で、一瞬として同じでは無い眺めを。

「食べるには小さい、くらいには思う」

「そうですか」 

 おかしいなという顔で小首を傾げる三人。

 心配しなくても、おかしいのは目の前にいる男だけだ。

「あなたは、情緒も何もないわね」

「投網で鮎を捕まえようとしてた女に言われたくない」

「そうですか」

 やっぱり、突き落とせば良かったな。 

 しかしその辺を事前に察してか、川辺には寄らないし。 

 人間は悪いが、頭は良いらしい。



 当たり前だが、長良川を下りはせず一般道を使って南下する。

 木之本君は、岐阜の自宅へ残り。

 私達は、名古屋市街へと。

「何してるの」

「自分こそ」

 無愛想に出迎えてくる舞地さん。

 ただここは、彼女のアパートではない。

「あ、優ちゃん」

 その後ろから現れる沙紀ちゃん。

 ポニーを解き、長い髪を腰の辺りまで垂らした姿で。

「どうしたの」

「木之本君の家から戻る途中。妹と弟が、可愛くてさ」

「小学生くらいだった?一番可愛い時期よね」

 目を細め、優しく微笑む沙紀ちゃん。

 そんな彼女に、私も嬉しさを感じつつクーラーボックスを渡す。

「お土産」

「鮎じゃない。もう、シーズンは終わりでしょ」

「そこはそれ。プロがいるから」

 プロとは私ではなく、勿論ケイでもない。 

 とはいえ木之本君も、漁師ではないが。

「刺身でも大丈夫そうね。でも、いいの?」

「自分の分は、前もって確保してる」 

 鼻で笑いつつ補足するケイ。

 沙紀ちゃんはくすくすと笑い、クーラーを持って家の奥へと消えた。

「休みだって言うのに、後輩の家で何してるんです」

「別に。自分こそ、雪野とデートか」

「足代わりですよ。ショウがいないんで」

「その方が、虚しい休日の過ごし方だな」

 しみじみと語る舞地さん。

 ケイも感慨深げに、頷いている。

 それはお互い様だと分かってるらしく、最後に三人でため息を付く。

「あら、雪ちゃん」

 エプロン姿で現れる池上さん。

 ただし、太股まで見えている格好で。

 妙に色っぽいな。

 似合ってるけどさ。

「新妻ですか」

 下品に笑う男。

 池上さんもたおやかに微笑み、手にしていた包丁をケイの鼻先へと向けた。

「軽く、捌いてみようか」

「また冗談ばっかり」

「じゃあ、試してみる?」

 鋭く輝く瞳と刃。 

 ケイはへっと笑い、懐に手を入れた。

「いいですけどね、別に」

 張りつめる空気。

 息の詰まりそうな緊迫感。

 という事はなく、沙紀ちゃんがやって来てケイの頭をはたいて終わる。

「痛いな」

「だったら、燃えた家は誰が建て替えてくれるの」

「真理依でしょ。あの子、お金だけは持ってるから」

 ころころ笑う池上さん。

 それは分かるけど、包丁をしまってよね。

「家でも車でも」

「じゃあ、俺戦闘機。VTOL機を」

「免許無いでしょ」

「ショウが、特別上級免許持ってます。あいつに講習を受けさせれば」

 真顔で言うな。  

 でも、理論上は可能な訳か。

「ヘリの方が良くない」?

「ハリアー5なら、マッハ2出る。1時間で日本海へ行って、帰ってこれる」

「ふーん、面白そうだね」

 いや。話に乗ってる場合じゃない。

「それこそ、意味無いじゃない。そんなに急ぐ用事もないんだし」

「かもね。それに、多分酔って吐く」

 分かってるなら、言わないでよね。

 でも戦闘機って一人乗りの場合もあるし、ミサイル代わりにぶら下がるしかないんじゃないの。

「真理依の家に行けば。あそこはヘリもあるし、飛行場に行けばVTOL機もあるわよ。さすがに、戦闘機とは行かないけど」

「私が行った時は、ヘリなんて見なかったよ」

「それは雪ちゃんが、本宅の周りしかいなかったからでしょ。飛ぶ時うるさいから、ヘリポートは少し離れた所にあるの」

 冗談で言ってる訳でも無さそうだ。

 改めて、すごい家だな。

「詳しいですね、池上さん」

「付き合いが長いもの。あなた達みたいに」

「私は別に、ケイとは付き合ってないから」

「そうそう」

 深く頷くケイ。 

 そうして、二人して笑う。

 池上さんも、おかしそうに。


「名雲さんと柳君は」

「柳君は、対馬へ里帰り。名雲君は、智美ちゃんと遊んでるんじゃなくて」

「仲いいですね、あの二人」

 控えめに申し出る沙紀ちゃん。

 私は鼻を鳴らし、お茶をすすった。

「何怒ってるの」

「怒ってない」

「智美ちゃんがどうしようと関係ないでしょ」

「いや。関係ある」

 ここは断固として宣言する。

 まずは私なりサトミの許可を得てから、遊びに行くべきだ。

「そんなに元野が好き?」

「好きよ」

「言い切らないで」

 嫌な顔をする舞地さん。 

 じゃあ、聞かないで。

「浦田君は、何も気にならない?」

「俺から巻き上げた金の事なら、年中気にしてます」

「あれは正規な報酬よ」

「夏休み中に渡り鳥の仕事を幾つかやって分かったんですけど。あの程度の依頼なら、あそこまでの額にはなりません」

 どうだという顔をするケイ。

 池上さんは小首を傾げ、困ったなという仕草をした。 

 痛い所を突かれて困ったな、という訳ではなさそうだが。

「返して下さい。少しでもいいから」

「その内ね」

「いつ」

「女に時間を尋ねないで」

 訳の分からない事を言う人だな。

 面白いけどさ。

「舞地さん」

「お前に渡す金はない」

「あんた、金持ちでしょうが。後輩が、こうして泣きついてるんですよ」

「男の涙は信用出来ない」

 何を言ってるんだか、この人は。

 でもそうなると、あのお金はどこに消えたんだろう。

「貯金してるの?」

「間違ってもない。前言ったように、私達は稼ぎのある程度をプールしてるの。先輩達がそうしてたように、何かあった時のために」

「何かって、何」

「それが分かったら、苦労しないわ」

 肩をすくめる池上さん。

 確かに、それもそうだ。

 予測が付くなら、対策も立てられる。

 でも何も分からないから、何もしようがない。

「というか、何かあるの?」

「無いかもね」

 あっさりと言ってきた。

 当然ケイは、嫌な顔をする。

「そんな訳の分からない慣習は忘れて、みんなで分ければいいじゃないですか」

「私の一存では、どうしようもないの。勿論馬鹿げた事だって意見はあるわよ。でも、何かあったら困るじゃない」

 どうも、この一点にこだわるな。

 余程先輩達に、この事を言われてるんだろうか。

 それとも、多少は何か予想しうる出来事があったとか。

「本当に、何もないんですか」

「少なくとも、今までは特に。ねえ、真理依」

「知らないし、私は興味ない」

 なんか、すごい答えが返ってきた。

 じゃあ、ケイから巻き上げたお金はどうしたって話だな。

「あなたは、家にお金のなる木が生えてるからよ」

「実家の仕送りは受けてない」

「私の所には来てるのよ」

「嘘」

 初めて聞いたという顔をする舞地さん。

 池上さんは薄く微笑み、彼女に向けて人差し指を振った。

「お嬢様はわがままで色々大変だろうからって。アパートを借りる時も、食費が足りない時も、あなたの下着も。全部そこから出してたのよ」

「嘘」

「じゃあ、どうやって私がお金を工面してきたと思ってるの」

「考えてもみなかった」

 お嬢様その物の発言。

 見方を変えれば、大物とも言えるけど。

「そのお金も、どうにか返済し終えたけどね」

「誰が」

「私がよ」

「ふーん。今知った」 

 じゃあ私の分は返す、という言葉は聞かれない。

 大物、なんだろうか。

 ただ、すっとぼけてるだけに思えなくもないが。


「どうぞ」

 おにぎりと、鮎のテンプラ、おすまし。

 それらを並べ、にこりと笑う女の子。

 沙紀ちゃんの妹で、愛希ちゃんだ。

「ありがとう。わざわざいいのに」

 と言いつつ、まずはテンプラに手を伸ばす。

 さくさくした感触と、はらわたのほろ苦さ。

 生きていて良かったと思える瞬間だ。

「テンプラか」

 ぽつりと呟くケイ。

 別に意味はなく、塩焼きが出てきても同じ事を言うだろう。

 食べ物に執着のない子だしね。

「どうです」

「何が」

「お姉ちゃんが作ったんですけど」

 含みのある台詞。

 ケイはおにぎりにかじりつき、少し微笑んだ。

「レバーじゃなければ、何でも美味しいよ」

 彼女以上に含みのある表情。

 しかし言ってる意味が分からないのか、愛希ちゃんは曖昧に頷くだけだ。

「何でもない。それより、お兄さんは」

「さあ。その辺で、素振りでもしてるんじゃないですか」

 可愛い顔から出る、素っ気ない言葉。

 結構厳しいな。

 というか、お兄ちゃんには厳しいのかも知れない。

「俺が何か」

 木刀を担いで入ってくる、件の兄上。

 そのままだな。

「どうして木刀を持ってるの」

「武士の魂だから」

 真顔で言い切った。

 ショウと気が合いそうだな。

「食事の時は、持ってこないで」

「今、敵が襲ってきたら」

「襲ってこない」

 冷たく言い放つ妹。

 兄はため息を付き、それでも丁寧に木刀を壁へ立て掛けた。

「竹刀じゃないのね」

「ええ」

「実戦系剣術っていう、あれ?」

 池上さんの言葉に、にこりと笑う真輝君。

 愛希ちゃんは逆に、げんなりした顔をしているが。

「知ってるんですか」

「言葉としては。ねえ、真理依」

「私は何も知らない」 

 拗ね気味の答え。

 さっきの話を、まだ引きずってるようだ。

「知り合いが、昔やってたの。……何よ」

「別に。自分から話すのは珍しいなと思っただけ」

「たまにはね」

 かげり気味の表情で苦笑する池上さん。

 舞地さんは黙って、彼女を見つめるだけだ。

「何の話」

「別に。そういう話なら、雪ちゃんが詳しいんじゃないの」

「え、うん」 

 はぐらかされた気もするが、池上さんの言う事ももっともだ。

「鶴木さんの所って、ここから近いよね」

「俺、そこに通ってる」

「あ、そうなの。私もたまに行くけど、会った事無いね」

「え、ええ」

 口ごもる真輝君。

 それとも向こうは私を知っていて、変な所でも見られたとか。

「色々あるんですよ、雪野さん」

 微妙な言い回しをする愛希ちゃん。

 よく分かんないな。

 というか、深く聞かない方が良さそうだ。

「浦田君は通ってないの」

「殴り合いは苦手なので。木刀なんて扱ったら、自分が怪我するだけですし」

「不器用だもんね」

 そう指摘した途端、おにぎりをテーブルにこぼした。

 どうするのかと思ったら、それを拾って食べた。

 で、それをまたこぼした。

「止めてよ」

「もったいないだろ」

「こぼさないでと言ってるの」

「俺に言うな」

 じゃあ、誰に言うんだ。

 甲斐甲斐しく、こぼれたおにぎりを集めている沙紀ちゃんか……。



 水を撒いて、有機肥料も撒いて。

 雑草を抜いて、育ちの悪い分はチェックして。

「腰痛い」 

 畑から出て、縁側で腰を下ろす。

 どうして昔の人は腰が曲がってるか、身を持って体験出来た。

「腰から、火が出てるみたい。燃えてない?」

「燃えてるかもな」

 遠い目で語るショウ。

 自分も腰を押さえて、縁側の下にうずくまりながら。

 私より背が高い分、負荷は余計掛かるんだろう。

 ちょっと大変そうなので、そろっと彼の腰を撫でる。

「火傷するぞ」

「ハードボイルドね」

「燃えてるからな」

「クールじゃないの」

 二人して下らない会話を交わし、畑を見渡す。

 いや。元は庭だった場所を。

 今は緑の葉が広がり、目にも鮮やかな眺めとなっている。

「何にしろ、もう疲れた」

 妙にしみじみした口調。

 それなりの広さがある畑。

 手入れをするのは、確かに大変だろう。

「別に、ショウが水を撒いてる訳じゃないんでしょ」

「誰かがやる度に、その人が俺に嫌みを言ってくる。他の事をやらせてもくる」

「家族じゃない、家族」

 誰が押しつけたかは深く考えず、適当に答える。 

 日当たりもいいし、水はけもいいし。

 まだまだ葉が出てきたばかりだけど、かなり期待出来そうだ。

「知ってる?舞地さん達がお金を貯め込んでるって」

「先輩達からプールしてるって行ってた、あれか」

「すごい額らしいよ。どうする」

「何を」

 不思議そうに尋ね返してきた。

 ケイとはかなりの違いだな。

「それで何か買うとか、どうとか」

「俺達の金じゃないだろ」

「例えばの話よ」

「秋物のジャケットでも買おうかな」

 もっともだけど、間の抜けた答え。

 子供のお小遣いじゃないんだからさ。

「そんな額じゃないんだって。それこそ、家でも買えるくらいのお金」

「誰が住むんだ」

 どうも、根本的にずれてるな。

 自分が住むとか使い込むとか、そういう発想はないらしい。

 それで損をしている部分もあるが、その辺りは私が補えばいいだけだ。

「狸かな。それより、鳥除け用にフェンス作ろう」

「フェンス、ね。鳥は鳥で、腹が減ってるんだろ」

「お坊さんみたいな事言わないで。収穫出来たら、半分上げるから」

「ハーブなんて、何に使うんだ」

 そんなの、私に聞いても知る訳がない。

 料理やハーブティーには出来るだろうけど、この子が料理をするとは思えない。

 また、それを食べたくもない。

「後で、ネットでも買いに行くか。でも、出入りはどうするんだ」

「さあ。ネットの網目から入れば」

「ネズミでも無理だろ」

 楽しそうに笑い、腰を伸ばすショウ。

 私も縁側から降り、二人で腰を押さえつつ庭を歩く。

 どうでもいいけど、老夫婦みたいだな。


「鳥もいいけど、その前にモグラが出るんじゃないのか」

「モグラ?」

 そんな生き物、TVでしか見た事がない。

 第一、どこからモグラがやってくるって言うんだ。

「本当だって。たまに、その辺に穴が開いてる」

 真剣な顔で語るショウ。

 そういえば、あちこちに穴が開いてるな。

「羽未じゃないの」

「しつけはちゃんとしてある」

「いた」

「モグラが?」

 庭の隅。

 穴を掘る生き物が。

 正確に言うなら、スコップで。


「風成」

「よ、よう」

 シャベルを地面に突き刺し、手を上げてくる風成さん。

 かなり、焦り気味に。

「また何か埋めたのか?」

「人聞きの悪い事を言うな。鍛錬だよ、鍛錬。岩の部分を見つけて、そこにシャベルを突き立ててるんだ」

「流衣さんに怒られますよ」

「いいんだよ、俺はここの跡取りなんだから」 

 びくびくしながら周りを見渡す風成さん。 

 ここの家系は、変な所で気弱だな。

「こんな原始的な方法じゃなくて、ジムで鍛えればいいじゃないですか」

「気持を高めるためには、こういう方法の方がいいんだ。なんと言っても、燃える」

「分かるな、それ」

 深く頷くショウ。

 こういう事には、すぐ理解を示すんだから。

 というか、何が分かったんだ。

「確かに、岩が割れれば芝の成長にはいいでしょうけど」

「四葉。ばれない内に、穴を埋めろ」

「どうして、俺が」

「この間、俺が水を撒いただろ」

 どこかで聞いた指摘。

 何となく感じるショウの視線。

「……私も埋めます」

「悪いね」

「いえ。こちらこそ」 

 怪訝そうな視線を避け、地面に屈んで穴を埋める。

 風成さんの言う通り穴の下には岩があり、見事に砕け散っている。

 スコップは鉄で、力は人力。

 それがさながら、ハンマーで叩かれたように。

 これだけの力があれば、この家の電気くらい発電出来るんじゃないの。

「優ちゃん、何か」

「いえ。風成さんは、働かないのかなと思って」

「ユウ、それは言うな」

 わざとらしく声をひそめるショウ。

 どうやら、触れてはいけない話題だったらしい。

「あのな。俺は、RASのインストラクターの統括責任者なの。二人が学校へ行ってる間は、そういう仕事をしてるんだよ」

 どうだと言わんばかりに、胸を反らす風成さん。

 この時点で、すでにどうかとも思うが。

「先生を教えてるんですか?水品先生を」

「それは、その。あれさ」

 どれなんだ。

「瞬さんとか」

「だから、そこはそれ。そういう訳だ」

「二人とも倒して、威厳を示せばいいじゃないですか。RASの責任者としても、玲阿流の師範代としても」

「それが出来れば、誰も苦労はしてない」

 漏れるため息、落ちる肩。

 明るい素振りとは違い、彼は彼なりに悩みがあるらしい。 

 どの程度深刻に捉えてるかは、かなり疑問だが。



 炊飯器のフタを開け、中を覗き込む。

「無いな」

「え」

「いや。妹がいないなと思って」

 怪訝そうな顔をするお母さん。

 お母さんでなくたって、同じ反応をするだろう。

「そん所にいる訳無いでしょ」

 他の所にでもいるような言い方だな。

 じゃあ、こっちか。

「どうして米びつを開けるの」

「こっちかなと思って」

「いないわよ。これ以上、面倒見切れないの」

 人を、手が掛かる子供みたいに言って。

 私が、どんな迷惑を掛けたというんだ。

「つまみ食いしないで」

「いいじゃない。夜食べるか、今食べるかの違いなんだから。苦いよ」

「人生、楽しいばかりじゃ駄目なの。たまには辛い事、苦い思いもしないと」

 一体、何を例えてるんだろうな。

 ゴーヤでしょ、ただの。

「誰が食べるの、これ」

「さあ。私も好きじゃないわよ」

 その割には、皿に山盛りのゴーヤチャンプル。

 透明人間でもいるのかな。

「でも、体にはいいんだって」

「美味しいかどうかじゃないの、料理って」

「優はまだ、子供だから。私くらいの年になると、そうのんきな事も言ってられないのよ」

 大げさに腰を叩き出すお母さん。

 何となくその腰を揉み、指を這わせる。

 服越しだけど弾力はあるし、おかしな手応えも特にない。

 まだまだ、後100年くらい往きそうだな。

「ありがとうって言いたいけど、くすぐったい」

「何も感じないよりいいじゃない」

「そこまで年じゃないわよ。それより、お皿並べて」

「はいはいと」


 しかし、ここにもいないな。

「何してるの」

「妹が隠れてないかなと思って」

「ソファーの間に、どうやって隠れるの。いいじゃない、お姉さんがいるんだから」

「……ああ、サトミの事」

 一体、いつからあの子は姉なんだ。

 一度、戸籍を確認した方が良さそうだな。

「サトミは来てないの」

「今日は」

 微妙な言い回し。

 昨日は、とは聞かない方が良さそうだ。

「お父さんは」

「会社へ、資料を取りに行ってる」

「休みなのに、何をやってるんだか」 

 欠伸をして、床に寝転ぶ。

 休みの日は、こうしてごろごろしてればいいのよ。

 そのための休みなんだからさ。


 ……なんか、良い匂いがする。

 人の声も。

 それも、すぐ側で。

「あ」

 顔を上げると、お母さんと目が合った。

 串カツをくわえているお母さんと。

「ちょっと、何してるの」

「見ての通り、ご飯を食べてるの」

「起こしてよね」

「じゃあ、起きてよね」

 お母さんの足にすがりつつ、ソファーの上に転がり込む。

 一体私は、どこで寝てたんだ。

 というかこの人達は、私を見下ろしながらご飯を食べてた訳か。

「僕は起こしたんだけどね」

 苦笑するお父さん。 

 すると何か。

 私はこの状況で、起こされても起きなかった訳か。

 あまりの様に、我ながら感心するな。

 こそこそとご飯とみそ汁をよそい、テーブルに置く。

「頂きます」

 カキフライ、か。

 少し時期が早い気もするけど、味は申し分ない。

「あなたは、寝起きでも食欲があるのね」

「あるわよ」

 がつがつとポテトサラダを頬張り、取りあえず一息付く。

 で、もう満足した。

 後は、ちびちび食べるとしよう。

「もういいの?」

「いいの。これ、いらない」

 串カツをお母さんの皿に移し、ぽそぽそと玉ねぎのフライを食べる。

 甘くて、しゃきしゃきしていて、瑞々しくて。

 肉もいいけど、野菜もいいな。

「私も、結構限界なのよね」 

 お父さんの皿に移る、私の串カツ。

 プラス、お母さんの唐揚げ。

「僕も、そうは食べられないよ」

「あなた、男でしょ」

「そういう問題でもないと思うけどね」

 ため息混じりに、唐揚げを頬張るお父さん。

 なんか嫌だな。

「それより、妹は」

「まだ言ってるの。そんなに欲しかったら、優が作りなさい」 

 怖い事を言う人だな。

 大体それは、妹じゃなくて子供だ。 

 というか、孫だ。

「隠し子とかいないの」

 むせかえるお父さん。

 何か、やましい事でもあるんだろうか。

「あ、あのね、冗談でも、そういう事は言わないように」

「どうして」

「どうしてって。お母さん、ちょっと言ってあげて」

「そんな甲斐性ないわよ」

 きつい否定の仕方をするお母さん。

 お父さんは複雑な表情を浮かべ、背を丸めてビールに口を付けた。

「みんな兄弟がいるのに」

「智美ちゃんは、一人っ子でしょ」

「あ、そうか。でも、木之本君も沙紀ちゃんも。サトミも、ケイも」

「よそはよそ。うちはうち。大体私は、あなた一人だけでもう限界なの」

 何が限界なんだ。

 いいじゃない、私が後3人くらいいたって。

 少なくとも、私は楽しい。


 ねえ、優お姉ちゃん。

 何、優ちゃん。

 優お兄ちゃんが、お菓子買ってくれた。 

 よかったね、優。


 はは。

 馬鹿みたい。

「何笑ってるの」

「いや。私がたくさんいたら怖いなって」

「一人でも十分怖いわよ」

「あ、そう」

 別に納得する事でもないが、私だって同じ顔がいたら少し怖い。

 ケイとヒカルじゃあるまいし。



「どうかした」

「サトミは、お兄さんと似てるなと思って。でも、ヒカル達程は似てないね」

「一卵性双生児じゃないもの。それにあの二人が似てるのは、外見と知性だけよ」

 それだけ似てれば十分だと思うけどな。

 結局寮へと戻り、今はサトミの部屋。

 ここはここで、くつろげるから。

「本当に、一卵性?」

「DNAを調べた事はないけど、あそこまで似てたらそうでしょ」

「そういうもの」

「要は同じ遺伝子だから、外見も同じになるの。でもって私と兄さんは兄弟で遺伝子が似通ってるから、顔立ちも似てくる訳。とはいえ両親の遺伝子、どちらが優位になるかはまた別な話で。例えば白血病で言うと、XY遺伝子を持つ男性のみに……」

 なんか、聞いても無い事を話し出した。

 サトミも私に聞かせる気はないらしいけど。

「螺旋はどうでもいいって。……サトミとヒカルの子は、ケイの子でもある訳」

「そんな訳無いでしょ」

「遺伝的に」

「まさか。面白いわね、あなた」

 高笑いするサトミ。

 その分、かなり虚しい。

「そうかー。ケイの子かー」

「止めて」

「だって、そうじゃない。やだやだ。世も末だね」

「あなた人ごとだからて。……一度、DNA鑑定をしようかしら」

 真顔で呟くサトミ。

 そこまで深刻に考える問題だろうか。

 私なら結婚どころか、付き合い方まで改めるけどね。

「でもあの二人って、性格は違うじゃない」

「身体や知性は遺伝に影響されるけど、性格は環境の影響も受けやすいのよ」

「あの二人は、同じ環境で育ってない?」

「そう言われれば、そうね。あなた達の研究結果が楽しみだわ」

 薄く微笑むサトミ。

 研究というのは、私とショウがやってるケイ達を対象にした観察を言ってるのだろう。

 何も、そこまで期待される事はやってないけどさ。

「しかし、どうして妹がいないかな」

「誰の」

「私の」

 私を見たまま固まるサトミ。

 彼女が、頭の中をフル回転しているのが見て取れる。

「例えばの話。妹、欲しくない?」 

「そういう事。私は、ユウがいるだけで十分よ」

 私の頭を撫でてくるサトミ。

 それは私を妹として見てるのか、これ以上手間は掛けられないと言いたいのか。

 気持ちいいし、深くは考えないでおこう。

「私は結構、憧れるけどな」

「木之本君みたいな子ならいいけど。私は、兄さんで懲りてる」

 漏れるため息、落ちる肩。 

 そこまでひどい人とも、言えなくもないか。

 外見や知性としては申し分ないが、素行の点で多少難ありだから。

「いいや。さてと、寝ようかな」

「よだれは垂らす、寝言は言う、ふにゃふにゃ笑う。そういう事が無ければ、寝てちょうだい」

「知らないわよ、そんな事」

「あなたは寝てるんだから、当たり前でしょ。知ってる方が怖いわ」

 なんだ、それ。 

 それなら、サトミが嘘を付いてても分からないじゃない。

「一度、ビデオにでも撮ろうかしら」

 人の考えを見透かしたような発言。

 私のビデオ。か。


 なんというのか、見る前からどういう映像か想像出来そうだったのでサトミの部屋からは逃げた。

 仕方ないので、一人寂しく自分の部屋のベッドに潜り込む。

 誰かが入ってても困るけどね。

 ……なんか、眠れないな。

 別に寂しいからではなく、喉が渇いた。

 水でもいいけど、お茶でもいい。

 気分を変えるついでに、ラウンジで買ってこよう。


 人気のない廊下を、一人歩く。

 時折私のように起きている子もいて、彼女達に挨拶しながら。

 こうしていると、いつだったか襲われた時を思い出す。

 さすがにスティックは持ってきてないが、警戒は怠らない。

 一応、手足が武器代わりでもあるし。


 小さい悲鳴。

 言い切れはしないが、そう判断するのが妥当だろう。

 サンダルを手に持ち、姿勢を低くして声の元へと駆け抜ける。 

 ラウンジの前にある自販機。

 私同様、夜でも起きている人が集まる場所。

 雰囲気からして、その近くか。

「どうしたの?」

「わ、分からないけど。トイレの方で、何かあったみたい」

 当たり前だが、何人かいる女の子は誰もそちらへ近付こうとはしない。

 またそれは、いい判断だ。

「すぐ、警備員さんを呼んで。それと、みんなはすぐ部屋に戻るか近くの部屋に」

「わ、分かった」 

 素早く反応する女の子達。

 不審者への対応は、寮でよく行われる訓練の一つ。

 場所柄そういう自体が希にあるため、彼女達の姿はすぐに見えなくなる。

 私も逃げればいいんだけど、あの声を聞いて放っておく訳にも行かない。


 トイレの前。

 人の姿はなし。

 血も、人が争った後も。

 不安めいた感覚も伝わっては来ない。

 あるのは、張りつめた緊張感だけ。

 ただそれは、私の内心からだけではない。

 目の前に振り下ろされる警棒か何か。

 トイレの中から出てきた手を下からはたき、武器を落とさせる。

「舞地……じゃないか」

「池上もいない。逃げるぞ」

 どこかで聞いた名前。

 何故この状況で、その名前を出すのか。

 色々疑問はあるが、今は動く方が先だ。

「逃げられる訳無いでしょ」

 牽制用に吹きかけられたスプレーを伏せてかわし、顔をパーカーで覆いながら感覚を頼りに跳び蹴りを食らわす。

 おそらくは、肩口辺りへのヒット。

 呻き声と足音を探りつつ、サンダルを床へ滑らせる。

 人が倒れるような音。

 すぐにそちらへ近付き、サンダルで足を滑らせた人影に低いローを見舞う。

 倒れてるのは、どちらも男。

 意識は無いので、これ以上の事もない。

 後は警備員さんに任せよう。

 足元から拾い上げた端末を見ながら、そう思う。

 女性の悲鳴を、機械的に繰り返す端末を……。



「大活躍だったそうね」

 苦笑気味に語りかけてくる沙紀ちゃん。 

 彼女の机に置いてあるのは、昨晩の事が記されたレポート。

 私にとっても笑い事ではないし、何より眠い。

 こっちも事情聴取を受けるし、神経は高ぶって眠れないしで。

「身元は傭兵、学外に籍は無い」

「舞地さん達の知り合いみたいだよ。名前を出してたし」

「どうかな、それは」

 鼻で笑うケイ。

 彼はレポートを手に取り、適当な感じで上の方を少しだけめくった。

「舞地さん達を狙う不審者達。寮にいれば、同じ事がまた起きる。誰のせいで。舞地さん達のせいで」

「彼女達を陥れる罠っていう事?」

「そうじゃなかったら、わざわざ名前を出す理由がない。舞地さん達がいないなら黙って逃げればいいんだし、少し調べれば寮にいない事くらい分かる。とはいえ、ユウに襲われて計画倒れに終わったけど」

 すらすらと出てくる推測。 

 またそれは、おそらく間違ってはいないだろう。

「あの理事の息子がやってるのかな」

「さあね。あちこちで恨みを買ってる連中だから、敵が誰かなんて絞り込めないだろ」

 辛辣に指摘するケイ。

 ただしあながち間違ってるとも言えない内容ではある。

 彼らの行動がどれだけ正しくても、やられた方は逆恨みする場合もある。

 つまりは彼が言うように。

「せいぜい、巻き込まれないように気を付けよう。取りあえず、あの連中には会わないようにした方がいい」

「冷たいのね」

 醒めた視線を注ぐ沙紀ちゃん。

 かなり、わざとらしく。

「金は返さない、人をこき使う。年が上ってだけで、義理立てする理由は何もない」

「義理はあるでしょ」

「無いよ」

 言い切るケイ。

 沙紀ちゃんは肩をすくめ、彼から資料を受け取った。

 彼と舞地さん達の関係は分かっているので、これ以上言っても仕方ないと思ったんだろう。

「でも、どうやって女子寮に侵入したのかしら」

「そんなの簡単さ」

 また言い切った。

 しかも、怖い事を。

「この前みたいに警備員に手引きさせるのが、一番手っ取り早い。セキュリティが甘い、業者用のドアを使うとか。同時に大人数で入って、夜までどこかに隠れてるとか」

「警備員も、ある程度はチェックするでしょ」

「巡回ルートやカメラの位置が分かってれば、かわすのはたやすい」

 薄い微笑み。

 この人が主犯なんじゃないだろうな。

「それに、ユウに捕まったのも疑おうと思えば疑える。あまりにも舞地さん達に近い人間だし」

「私が夜中にふらふら歩いてるなんて、向こうは分からないでしょ」

「そういう事にしてもいい」

 何がいいんだ。

 この人は、私の部屋でも盗撮してるのか。

「とにかく、一度話を聞いた方がいいかな」

「舞地さん達に?」

「それでもいいけど。詳しい人は、他にもいる」



 執務室に入ってきたのは、どちらかといえば華奢な体型の男性。

 自然な物腰で、だけどどこか鋭さをはらんだ。

「沢さん」

「僕に何か」

「ユウが襲われたんで、少しお話をと思いまして。相手の狙いは、舞地さん達らしいんですよ。というか、向こうがそういう名前を出してきたんですけどね」

「本人に聞いた方が、早くないか」

 苦笑する沢さん。

 ケイは構わず、資料を彼へ渡した。

「敵が多いからね。こいつらが誰かは知らないし、命令系統もこれだけでは読み取れない」

「案外、婉曲に沢さん狙いとか」

「否定はしないけど、もう少し情報がないと」

 はかばかしくない返事。

 その後ろでは、七尾君が暇そうに欠伸をしてる。

「ちょっと」

「ああ、悪い。俺には縁がなくてさ、そういう話」

「君が忘れてるだけで、向こうは覚えてるよ。そうだろ、丹下さん」

「それはもう。中等部から数えれば、孫の代まで祟られるでしょうね」

 怖い顔で笑う沙紀ちゃん。

 しかし七尾君は気楽な表情を崩さず、広い執務室内を見渡している。

「大体襲われても、返り討ちに出来る人達なんだし。俺達が気にする事もないんじゃないのかな」

「理屈としてはそうだけど。浦田君はどう?」

「俺が襲いたいね、あの3人を」

「4人だろ」

 小首を傾げる七尾君。

 ケイは顔を反らし、顎の辺りを掻いた。

 どうやら、柳君は除外されるらしい。

「しかし女子寮に忍び込むとは、物騒な話だな。俺も気を付けよう」

 何言ってるんだ、この人は。

 というか、何を気を付けるんだ。

 今日からは、セキュリティを必ず確認しよう。

「沢さん、どうなんですか」

「僕に聞かれてもね。それに七尾君の言う通り、人に心配されるような人達じゃないよ。雪野さんも変に首を突っ込むと、自分が危なくなるから」

「そう言われても」

「何も、放っておけとは言ってない。ただし相手が傭兵だとしたら、そう楽しくはない」

 鋭い、また身に覚えのある一言。

 彼等を相手にするとは、どういう事か。

 視線は思わず、ケイへと向く。 

 彼の右脇へと。

「俺も斬られたくは無いですし」

「あなたは、自業自得でしょ」

 厳しく言い放つ沙紀ちゃん。

 ケイは鼻で笑い、わざとらしく脇腹を押さえた。

「それはどうでもいいけどさ」

「どうでもいいのか」

「そいつらに尋問すれば早いんじゃないの」

「事が事だけに身柄は警察に移されてる。その後は検察で、もう会う事もない」

 ケイの説明に、七尾君は沢さんへ視線を向けた。

 何か言いたげに。

「僕に聞きにいけとでも」

「特別公務員なんだし、そのくらいの権限はあるでしょう」

「無くはないけどね。僕は、使いっ走りか」

 肩を落として執務室を出て行く沢さん。

 その前にケイへ手招きして、付いてくるよう促した。

「良くやるよ」

 自分でやらせておいて、気楽そうに笑う七尾君。

 とはいえそこまで考えを巡らせたのは彼であり、そういう判断が出来る人ではある。

 良く分からない人だな。

 私が言う事でもないけれど。


 どちらにしろ、今は待つしかない。

 沢さん達が戻ってくるのを。

 今後の展開を。

 無事で済めばいいと思いながら。

 多分そうはならないと、今までの経験上感じながら。 






 







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