17-4
17-4
少しして、授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
相変わらず高畑さん達に囲まれて、あれこれ言われているケイ。
「休みだっていうの。あ?田だ、田。由じゃない」
真顔で言い返したケイは彼女達の輪から抜け出し、廊下へとやってきた。
「よかったね、友達が増えて。それとも、先生?」
さすがに言い返しようもないのか、苛立ち気味に自分の太股を叩いている。
怒りの持って行き場が無いとも言える。
ふと背後から感じる視線。
ここに来て見慣れた顔。
ついさっき会ったばかりでもある、二人の男。
まだ懲りてなかったらしい。
「肩吊ってるけど、誰」
「ショウが、ちょっとね」
「中学生相手に大人げない」
最もな発言ではあるが、あの場の状況では致し方ない面もある。
私からすれば、あの程度で済ませたというくらいだ。
「後は任せた」
「逃げるの」
「馬鹿を相手にしたくないし、また塩田さんに怒られる」
そう言って、ケイは教室へ戻っていった。
私も逃げたい所だが、向こうはそうさせてくれないようだ。
「……あの男はどこへ行った」
青い顔で尋ねてくる、長髪の男。
痛みと鎮痛剤のせいか、先程までの威勢はまるでない。
「探す暇があるなら、家で寝てれば」
「黙れ」
「じゃあ仲間でも集めて、学校中探せばいいじゃない。結果は同じだけどね」
脅しではなく事実を語る。
彼もまたそれを真実だと理解しているだろう。
ここへ来たのはその虚勢を保つためで、これ以上何かするつもりはないはずだ。
今の体調では出来ないし、させるつもりもないが。
「この教室って」
ディップで髪を立たせた男が、ドアの奥へと視線を向ける。
すぐに歪む口元。
失笑気味の笑い声。
言葉にしなくても分かる、その感情と意図。
同時に私の内面にも、怒りが込み上げてくる。
「何よ」
「いや、別に」
侮蔑した笑みを浮かべる男。
その感情を隠そうともしない姿勢に、思わず拳を固める。
「ユウ、落ち着いて。何か言いたい事があるなら、はっきり言ったら」
冷静に、感情を押し殺した声で問い詰めるサトミ。
男はさらに口元を歪め、床に唾を吐いた。
「大した事じゃない。馬鹿しかいないって……」
仰け反る顔。
床に落ちる鮮血。
少しの間があり、鈍い音が辺りに響く。
床へ仰向けに倒れた男の、呻き声とともに。
「なんだ、ゴミかと思ったら人間か」
男の顔に前蹴りを叩き込んだケイは、鼻を鳴らして男の脇腹を蹴り付けた。
苦痛に耐えかね、身をよじる男。
そのシャツが、自分の吐いた唾と血を拭いていく。
「帰っていいぞ」
自分の取った行動と目の前の光景に動ずる事も無く、淡々と告げるケイ。
口元を抑えた男はよろめきながら立ち上がり、火を噴くような視線を彼へと向けた。
「お、お前。な、名前は」
「言っても分かんないだろ。お前、馬鹿だから」
「くっ」
懐へ入る、反対側の手。
それを捉える、ケイのかかと。
膝はまだ曲がっていて、十分に伸ばす事の出来る距離。
「殺して……」
「欲しいのか」
「ふざけるな」
「今すぐ消えないと、叩き落とす」
男の後ろは壁、そして窓。
普通にやっていては無理な状況。
窓までの高さや力という意味ではなく。
その行為自体が。
だが相棒はケイから何を感じ取ったのか、血相を変えて男を引きずっていった。
「治療費は、高等部の自警局に回せよ」
明るく呼び掛けるケイ。
それこそ殺意に満ちた眼差しを受けての。
幸いと言うべきか、サトミがすぐにドアを閉めたため高畑さん達はこちらの事態に気付いてなかったようだ。
ケイを止めるのではなく、ドアを閉める方を選ぶのもどうかと思うが。
「何してるんだ」
両手にビニール袋を提げて、私達を見てくるショウ。
「ちょっとね。それを届けたら、戻るわよ」
「ああ。……これって、血か?」
床にに点々とする赤い色をめざとく見つけ、今度は私の手を見てくる。
こっちはすぐにそれを突き付け、無言の抗議をする。
こういう事をするから、真っ先に疑われるんだ……。
放課後。
会議室の片隅で、体を強ばらせて俯く少女達。
サトミはその隣へと座り、そっと肩に手を触れた。
「大丈夫よ。連絡した時に話した通り、あの時の状況を聞くだけだから。絶対に迷惑は掛けないし、ガーディアンからの呼び出しと分からないようにしてある」
場所はエリちゃんが統括している、G棟のオフィスではない。
特別教棟内の会議室。
それも生徒組織の入った方ではなく、教職員用の。
確かに呼び出された意図は他人に分かりにくいだろうが、緊張するなという方が無理だ。
どうやら事前にサトミが色々聞いていたらしく、私の手元には簡単なレポートがある。
状況は私達が知っている通り、軽い言い合い。
理由も書いてある。
あの男達にからかわれていた高畑さん。
それを止めに入った彼女達。
結果として言い合いとなり、私達の見かけた時はそれがピークに達していた頃だったんだろう。
「彼女と、この野並さんや赤池さんは友達なの?こう言ってはなんだけど、わざわざ揉め事に首を突っ込むタイプに見えないから」
サトミの問い掛けに、女の子の一人が頷いた。
「以前は親しかったみたいです。一緒にいるのをよく見かけましたから」
「でも最近は、ちょっと。ケンカしたというより、距離が開いた感じで」
それも、分からなくはない。
ずっと一緒に遊んでいた友達。
でも友達が増えて、遊ぶ場所が増えて、やりたい事も増えていく。
気付けばあれ程一緒にいた時が嘘のようになり、話もしなくなっている。
嫌いになった訳でも無いし、仲が悪くなった訳でもない。
彼女の言う通り、距離が開いただけの事。
時間が経つ程に、その距離は開いていく。
お互いの関係は薄れていく。
頭では分かっていても、どうしようもない事がある。
それを責める事は出来ないし、その資格もない。
自分自身の過去を振り返れば、誰にでも。
勿論私も……。
「聞くんじゃ無かったって顔ね」
「そうでもない」
短く答え、背筋を伸ばす。
重い気分を振り払うためではなく。
その意味も無くはないが。
「わざわざ呼んで聞く事か?」
「大切な事は、顔を合わせて話し合うのよ」
「そうですか。いいけどね、真夜中じゃない分」
「何の話?」
訝しむサトミに手を振り、ケイは私に笑いかけてきた。
まだ根に持ってるな、古い話を。
会議室を出て、廊下を歩いていく。
教職員用の特別教棟とあって、すれ違うのはスーツ姿の大人が殆ど。
しかし彼等は何を思ったのか、その度に丁寧に会釈をしてくる。
サトミの服装は、白いブラウスに紺のショートスカート。
その容姿と落ち着いた物腰は、教育庁のキャリアと言っても通用するだろう。
ただその推測が正しいなら、私達は引率されている生徒という扱いになる……。
「どこのキャリアが歩いてると思ったら」
「あ、こんにちは」
ぺこりと頭を下げると、天崎さんはうっすらと微笑んでサトミを指差した。
「彼女は私服なのに、雪野さんはどうして」
「中等部ですから」
「なるほど」
納得してもらった。
それはそれで、複雑な心境だが。
「じゃあ、お土産を」
「いえ、もうモトちゃんにもらってますから」
「子供は遠慮する物じゃないよ」
「遠慮したいんです」
結局渡される小さな紙袋。
サイズの割には妙に重くて、こっちの気も重くなってくる。
「智美は来てないのかな」
「出来の悪い人間が選抜されてるんです」
「遠野さんより出来のいい生徒って、誰の事」
「私は、テストの点がいいだけですから」
謙遜でもなく、自然とそう語るサトミ。
また彼女は本心で、そう思っているだろう。
自分の能力に価値を置いていない訳ではなく、それは人を構成する部分の一つに過ぎないと考えているから。
とはいえそれ以外の面でも彼女が優れているのは言うまでもない。
性格、人間としても。
運動を除いては……。
「あら、天崎先生」
聞き慣れない呼び方。
当の天崎さん自身も、怪訝そうな顔をする。
「……高嶋理事長」
「その呼び方は止めて下さいと、鈴木先生にも言ってるんですが」
「鈴木さんも、まさか瞳ちゃんとは呼べないでしょう」
はにかむ理事長。
今まで見た事のない、それこそ可愛いと評してもいい程の。
「じゃあ、そんな高嶋さんにも」
「いえ、私は」
「理事長の激務で疲れた体を癒して下さい」
有無を言わさず渡される小さな紙袋。
理事長は露骨に顔をしかめ、それを受け取った。
どうやら彼女も、中身は分かっているらしい。
「今日は、中等部の査察ですか?」
「ええ。どうも今年度から、出席率が低下気味ですね」
細かな内容にまで踏み込んで話し始める二人。
後は任せて、私達は帰るとしよう。
これ以上、お土産を持たされても困るし……。
色々動き回った割には、進展が見られない気がする。
「面会希望者がいらっしゃってます」
自分の机にある卓上端末の画面を指差すエリちゃん。
困惑というか、苦笑気味に。
「誰」
「珪君に鼻を折られた子の親」
「鼻血だけだ、あれは。菓子折でも持ってきた?」
「怒鳴り込んできたに決まってるでしょ。どうするの」
当然とも言える質問に、ケイは腰を叩いて背中を丸めた。
あの行為を反省もしていなければ、今の話を聞いても何の動揺も見せていない。
「あのね」
「いいわ、永理。私が応対するから」
「知らないわよ、刑事告訴されても」
「一応は、あなたのお兄さんよ」
本人を目の前に、そんな会話を交わす二人。
とはいえ肝心のケイが気にしていないので、いいと言えばいいのだが。
「両親、それとも母親?」
「両親。多額寄付者、だって」
「だから学校では、子供が何をやってもいいって?」
「それは、先方と聡美姉さんが話して」
再び特別教棟へと戻ってくる私達。
ただ今度は先程とは違い、こちらが受け身。
正直、あまりいい気分ではない。
その立場になれば分かるという事だ。
「ユウは心配しなくていいわ。私が話すから」
「でも、面倒な事にならないのか」
「鼻血くらいでなるのなら、あなたは何回退学になってるのかしら」
冗談っぽくショウの不安を和らげたサトミは、軽く服を直して手鏡を覗き込んだ。
薄くリップを引き、鼻と額に軽くファンデーションを付けててかりを抑える。
そんな事をするから、余計こちらがみすぼらしく見える。
「俺が応対しようか」
「駄目」
「俺が蹴り飛ばしたのに?」
「だからよ。ここは私に任せて、あなたは大人しくしてて。分かったわね」
しっかりと念を押し、髪にスプレーを吹きかけるサトミ。
セット用ではなく、コロンに近い物で髪質をしっとりと見せる効果もある。
だから、もう止めてって。
職員と共に、会議室へと入ってくる中年の男女。
険しい物腰でこちらを見た二人は、職員に何かを言い合っている。
「馬鹿が」
「黙って」
「はいはい。任せますよ、遠野さんに」
殊勝な素振りで姿勢を正すケイ。
心の中で何を思っているかは、今の発言から十分理解出来る。
話が終わったのかこちらへの怒りが勝ったのか、二人がようやくこちらへと向き直る。
先程よりも、さらに険悪な物腰で。
「こちらは……」
「説明は結構です。私の子供に怪我をさせたのは誰ですか」
職員の制止を振り切り、机を迂回して歩み寄る男性。
ケイは素知らぬ顔で、手を前で組んでいる。
視線は彼を逸れ、人目を引きやすいショウへと向けられた。
「君か」
「先入観で判断しないで下さい。ここにその当人がいると、どうして決めつけるんです。職員の方が、そう仰りましたか」
「い、いや」
気を削がれたように、ショウを指差していた指を引き戻す。
「とにかく私達は、言い訳を聞きに来たんじゃない。まずは謝罪をして欲しい。我々だけにではなく、勿論子供にも。それが嫌なら、警察へ告訴も」
「落ち着いて下さい。生徒同士のトラブルは、原則として学内で処理する事になっています」
「息子は打撲してるんだぞ」
「気持はお察し致しますが、傷害事件についても通常警察は関与しません。そうですよね」
話を振られた職員は慌てて頷き、手にしていた大きな封筒から数枚の書類を差し出した。
「せ、生徒同士のトラブルを学内処理で処理するのは、理事会でも了承されています。無論当事者以外の監査も入りますし補償もしますので、不利益になる事は決して」
「じゃあ、怪我をさせても罰せられないというんですか」
「学内での処分や奨学金の停止などの処置は、ケースによって考えられます。ただ学外へ話を持っていくのは、当校としてもご遠慮頂きたいのです。体面や金銭時間的な事ではなく、当校は生徒の自治という原則でなりたっていますので」
恐縮しつつ説明する職員。
彼は関係ないのだが、男性の方はやはりそちらへ食ってかかる。
「ふざけないで下さい。子供は大怪我をして、今日は入院するんですよ。それを学校だけの判断に任せて、怪我をさせた人間を野放しにするんですか」
「じょ、状況が曖昧ですので、私からは何とも。ただ報告書を読む限りでは、あなたのお子さんにも多少……」
「うちの子が悪いっていうのっ」
金切り声をあげる女性。
職員は書類を胸元に抱え、思わずといった具合に数歩下がった。
「い、いえ。生徒組織で調査して、その後で勿論ご両親にも正式な報告書が」
「子供が調べて、何が分かるのよ。学校の職員がやればいいじゃない」
「学内で起きているトラブルは、大きな物だけでも一日100件以上です。その処理に職員を当ててたら、学校の業務が成り立ちません」
ここは強く言い返す職員。
納得出来ない顔の女性は、持っていたハンドバッグを抱えて彼を睨み付けた。
「じゃあ、なんのための職員なの」
「生徒の手助けをするためです。我々は、管理者ではないので」
「子供を好き勝手にやらせているだけじゃない。何よ、それは。話が違うわ。こんな事では、今度からは寄付金も減らして……」
「そういうお話は、なさらない方がよろしいですよ」
静かに諭すサトミ。
感情を剥き出しにしていた両親は彼女を見て、その顔を指差した。
「あなたも生徒でしょ。何が分かるというの。私達はこの学校に」
「メインスポンサーである大企業を除いても、寄付金を申し出る方は後を絶ちません。この学校に子供を通わせている親以外も。むしろ彼等の方が、多いかも知れませんね」
「な、なにが」
「私は高等部の予算を扱う組織に出入りしていまして。寄付金に関する話を、幾つか伺った事があります。体育館を寄贈したい、VTOL機を無期限で貸与するいう種類の申し出が年に数回あると」
絶句する両親。
体育館にしてもVTOL機にしても、その金額は常識的な寄付の概念を超えている。
ただそれが可能な家庭は、幾つもあるだろう。
匿名で子供を通わせている大企業のオーナーや資産家は、意外に多いらしい。
または、通わせたい親からの寄付とか。
それは草薙グループのもつネームバリューと、私にはあまり実感出来ないが国内でも有数といわれる教育レベルが理由である。
その例には当てはまらないが、例えば舞地さんの家なら体育館くらい訳もないだろう。
名前を上げたくない、矢加部さんにしても。
「寄付金の大小で、生徒を序列付けする訳にいかないのはお分かりですよね。それでは親御さんの不要な競争心を煽ってしまいますし、思春期にいる子供達の人間形成にプラスとは思えませんから」
「ま、まあ、それは」
口ごもり気味に同意する男性。
女性は言葉も無いらしく、呆然とした様子で立ち尽くしている。
気持ちは分からなくもない。
「勿論お子さんの件に関する調査も万全を期して、全容を明らかにします。外部からの圧力や不正が入り込む余地はありませんので、ご安心下さい」
「あ、ええ」
曖昧になる返事。
サトミは耳元の髪をかき上げ、机にあった書類を一枚手に取った。
「今回はご両親が抗議にみえた事を考慮して、より詳細に調査をするつもりです。今回の事件だけでなく、過去の行動や素行、性格、行動様式などについても」
「い、いや。しかし」
「事件だけを見るだけでは、その本質の理解は出来ません。何故こういった事が起きたのか、どうしたら再犯を防げるのか。それには当人達の詳細なデータを集め、心理分析を導入して調べます。通常そこまでするのは希ですが、系列の大学に同様の研究をするグループがありまして。今回はプレケースとして、彼等と共同して調査に当たります」
冷静な態度を崩さず、矢継ぎ早に説明するサトミ。
対照的に両親は、当初の勢いを無くして視線を彷徨わせる。
「そ、そこまでしてもらわなくても。私達はただ、怪我をさせた子に謝って」
「勿論です。ただお子さんに対するこういった報告書もありますので、よろしければお聞き下さい」
先程とは別な書類を受け取った両親は、しばしそれに視線を走らせる。
額に浮かぶ汗、浅くなる呼吸。
震える体。
「先程生徒同士の問題は学内で処理すると説明しましたが、人権問題については全く別な対応を取る場合があります。事の真偽が明らかになるまで、刑事で駄目なら民事ででも追求します」
「そ、それが、今回にも適用されると?」
「調査次第です。詳細に調べていけば、分かる事も色々あるでしょうから」
微かに強くなる語尾。
柔らかく微笑み、軽く会釈するサトミ。
彼女と視線を合わせた両親はすぐに目を逸らし、口元で呟いた。
「……調査は、結構です。治療費も、こちらで」
「よろしいんですか?状況によっては、相手に支払わせる事も可能ですよ。これは調査をしなくても、今すぐにでも可能ですが」
「いえ。今回の事は、もう終わりにして下さい。息子も、そう言ってましたから」
絞り出すような台詞。
小さくなる体。
二人は会釈ともうなだれたとも付かない動きを見せ、頼りない足取りでドアへと歩き出した。
「わざわざ、申し訳ありません。怪我をさせた当人には、私達の方で厳しく注意しておきますので」
「お任せします……」
その言葉と同時に閉まるドア。
途切れる緊張感。
「勘弁して下さい」
深いため息を付き、職員が机に手を付いた。
誰と言って、彼が一番疲れただろう。
「済みません。でもいいじゃないですか、学校が訴えられる事は無くなったんですから」
「あのですね……。いや、もういいです」
「ありがとうございます」
悪びれずに会釈するサトミ。
職員はもう一度ため息を付き、封筒を抱え直した。
「初めからそのつもりでしょうが、後はみなさんで処理して下さい。私は、これで帰りますから」
「お疲れ様。ショウ、お送りして」
「いえ。少し、一人にさせて下さい……」
先程の両親以上に頼りない足取りで出ていく職員。
大丈夫そうでは無いが、こちらが帰って来れなくなるので送りようもない。
「脅すなよ」
「あなただって、そのつもりだったんでしょ。それも、もっとストレートに」
書類をまとめ、サトミは笑顔で差し出した。
するとそれを上からめくっていったケイの口から、微かな笑い声が漏れる。
「どうしたの」
「白紙。何も書いてない」
「え、だってさっき……」
あれ程すらすらと色々話したのに。
書類を渡してもらい上からめくるが、彼の言う通り全てがただの白紙である。
ここまで来ると言葉がない。
「勧進帳じゃあるまいし」
「印刷したり、レポートを書く手間を省いただけよ」
「天才少女は、言う事も違う」
「怒ってるのは、あなただけじゃないって事」
強く、荒い口調。
先程までは見せなかった隠されていた気持。
「しかし大丈夫なのか?あんな事言って」
「お前は、自分の心配をしてろ。肩を外した奴の親が来たらどうする」
「え」
「脅さないの。そちらは親から連絡があって、状況を説明したら納得はしないけど分かってはくれたらしいわ」
軽くショウの肩に触れるサトミ。
それでもショウは、まだ不安げに彼女を見つめている。
「俺はどうとでもなるけど」
「多額の寄付をしてる人間に言い過ぎたって?問題ないわよ、私は高校の人間なんだから」
「どういう論理だ」
「それと、理由はともかく子供のために熱くなる親は嫌いじゃないって事」
小さくなる声。
前髪に隠れる視線。
緩む口元。
自嘲気味に。
「さあ、ケイのおごりで何か食べましょ」
次の瞬間顔を上げた時には、いつも通りの笑顔が浮かんでいる。
いや。
少し無理をした明るい表情が。
「金はない」
「奨学金が下りたばかりじゃない。そうそう、木之本君や高畑さんも呼ばないと」
「おい」
「ユウ、どこに食べに行くか決めておいて」
「おい、待てって」
笑いながら会議室を出ていくサトミと、血相を変えて後を追うケイ。
後に残った私達は、顔を見合わせて頷いた。
「大丈夫、だよね」
「口にするくらいだからな」
「うん。本当に、世話が焼ける子なんだから」
二人して笑い、私達も会議室を出る。
冷静で知的な面と。
熱く、烈火にも似た態度。
寂しげな、消えてしまいそうな程の物悲しい表情
そのどれもがサトミの持つ顔で、私の知っている彼女。
でも最後の顔だけは、あまり見たくはない。
望むと望まざるとに関係なく浮かぶ、切なげな笑顔は……。
ようやく土曜。
学校は休み。
それでも早起きをして、家を出る。
「おはよう」
「ああ、お早う」
サングラスを外し、手を挙げるショウ。
その後ろに止まる、大きな黒のRV車。
少しの雨が、緩やかな曲線を描くボディラインを滑っていく。
「雨なのに、どうして掛けてるの」
「格好付けるためさ」
「自分で言わないでよ」
ショウは笑いながら、それをTシャツの襟元に掛けた。
たわいもない会話だが、そういうのが楽しかったりする。
「青春してるわね」
「おばさん」
にこにこ笑う、モトちゃんのお母さん。
昨日はモトちゃんの家に泊まって、今朝はここからの出発。
郊外の澄んだ、清々しい空気。
これで晴れていれば、申し分無いんだけど。
とにかく、カエルがうるさくて。
「そういえば、鈴木さんって知ってます?」
「良くある名前ね」
「えーと。昔教師をしてて、今高校の理事をやってる人」
「ああ、鈴木先生。ええ、知ってるわよ。私がまだ教師をやってた頃の同僚でしょ」
懐かしそうに遠い目をするおばさん。
今から10年以上前の話。
私にとっての10年とは違う重みを込めて。
「元野先生とか、天崎先生とか言ってました」
「お父さんも、一時期研修で教師をしてたの。そっちは、あまり出来がよくなかったけど」
案外厳しい意見。
この辺りの血を、モトちゃんは受け継いでいるんだろう。
「私がなんだって」
「教師としてはいまいちだったって話を少し」
「専門家に勝てる訳無いだろ」
ジャージ姿で庭先から出てきたおじさんは、土の付いた小さなスコップをおばさんへと向けた。
何をしていたかは、深く聞かない事にしよう。
そんな話を、欠伸を噛み殺しながら聞くモトちゃん。
夜中まで飲んでるから、そういう事になる。
私も含めて……。
「どうかしたの」
「智美のお父さんは、教師じゃ無いって話」
「……良く分からないけど、そろそろ行きましょうか」
景色はそれまでの田園風景から、工場と海に変わる。
時間にして10分あまり。
郊外と呼ぶ程の距離でも無いものの、先程までの光景は都心と一線を画す物である。
ただ健康的で落ち着いた生活が送れるのは、一つの魅力かも知れない。
私は、ちょっと合わない気もするが。
海上高速を走っていた車はインターを降り、南下して知多半島道路を走っていく。
東海エアポートへも続く一般道で、道路端にはメロンの無人販売所が時折見受けられる。
「これ、お土産?」
「そうよ。開けないの」
「もう遅い」
モトちゃんのバッグを開け、中をあさる。
シャツ、手袋?靴下、本。
「食べ物は」
「あなたに上げるんじゃないのよ」
「人間何が嬉しいって、食べ物が一番嬉しいのに。全然分かってないんだから」
「そういう理屈は、犬とでも話してなさい」
持って行かれるバッグ。
冷たい人だな。
「サトミは何持ってきたの」
「あなたと一緒に家を出たんだから、同じ物よ」
彼女のリュックには、昨日家で見た物がそのまま詰まっている。
ショウのは……、何でお酒が。
「馬鹿?」
「誰が」
「さあ、誰だろうね」
適当に答えて、運転しているショウの頭を殴る真似をする。
「木之本君は?」
「特には。おかしな物を持っていっても、邪魔になるだけだからね」
「分かるよ、それ」
しみじみ呟き、助手席で寝ている子を揺する。
起きた。
呪ってきそうな顔で睨まれた。
「まだ、着いてないだろ」
「もう着くって。ねえ、お土産」
「ああ、何もらえるかな」
寝ていてもらおう。
いっそこのまま、永久に。
海沿いの道。
雨を浴び波紋を広げる水面、ゆらゆらと波に揺られるカモメ。
遠くには漁船が幾つも見える。
潮の香りを胸一杯に吸い込んで、堤防から降りる。
「ユウ、こっち」
「今行く」
勿論左右を確認して、道路を横切る。
肩を過ぎていく、湿った風。
雨風とも違う、海からの贈り物。
潮騒を背に受けながら、私はみんなの元へと駆けていった。
「こんなにしてもらって。本当に、済みません」
恐縮して、たくさんの荷物を受け取る女性。
その隣で、一礼する高畑さん。
ここは知多半島にある、彼女の自宅。
今日は休日を利用して、遊びに来たという訳だ。
「主人は今、漁に出てまして。昼前には戻ると思います」
「いえ。私達こそ早く着き過ぎたみたいで」
「お父さんは、タコを、釣ってきます。知多半島、名物です」
生真面目に教えてくれる高畑さん。
そんな彼女の肩を、女性は愛おしそうに抱いた。
サトミが、優しげな眼差しで見つめる中で。
「迎えに、行って来る」
「まだ早いわよ、風」
「いいですよ。僕も行きますから。釣り竿持ってきてるし、玲阿君もどう?」
「ああ。鯨でも釣るかな」
まだ覚えてたのか、この人は。
長靴でも釣ってればいいんだ。
モトちゃんも一緒に漁港へと向い、残ったのは私とサトミ。
「……あの子は、ご迷惑をお掛けしてませんか?」
「いえ、俺は色々と教わってます。例えや、比喩ではなくて。実際に、二桁の計算を教え込まれてます」
「え?」
「教師が言うには、LDに似ているとか。検査した訳じゃありませんけどね」
淡々と語るケイ。
高畑さんのお母さんは一瞬戸惑ったようだが、すぐに表情を和らげ湯飲みに手を触れた。
「でもあの子が、ハンディを背負ってるのは事実なの。親の私が認めたくなくても、他人からどう慰められようと」
「ええ」
「こういう子を持つ親は、他の子と同じように育てるとか何も違わないと言う人もいる。でも風は、やっぱり普通とは違うの。それだけは認めなくてはいけない。避けてはいけないと、私は思ってます」
静かで、重い口調。
彼女自身が抱く、切実な思いそのもの。
私には無い、限りない強さを込めた。
「ハンディを気にせずに育てるなんて事は出来ないって、私は思ってます。それに私は、あの子の親だから。他人から甘いと、子供のためにならないと言われても。風がそれで楽になるのなら、どんな事でもしてあげたいんです」
「それがお母さんの、当たり前の気持だと思います」
手を伸ばすサトミ。
重なる二人の手。
言葉では伝わらない、でも伝えたい気持。
サトミだからこそ、分かる部分。
誰よりも憧れる。
「放ったらかしにして、無責任に育てててる親から何を言われても無視すればいいんですよ。自分の子供の幸せを願うのは、当然の事なんですから」
「そう。そうね……。あなた、子供でも?」
「まさか。まだ高校生ですから」
「ふふ。あまり熱が入ってたから、つい」
楽しそうに笑う二人。
私も楽しくなって、笑顔が浮かぶ。
初めて会った人でも、すぐに分かりあえる事あってある。
同じ考えを、同じ気持ちを持っていれば。
短い会話でも、少しの時間でも。
心が通い合うのは、理屈ではないんだから。
「でも、わざわざ来てくれて嬉しいわ。あの子学校でいじめられてるようで、心配してたから」
「ご心配なく。そういう人間は、この子がしっかりと抑えてますから」
「あのね。私はちょっと口で言っただけじゃない」
「ふふ。昔は仲のいい子がいて、家にも良く来てくれたんだけど。最近は、風もその子達の話を殆どしなくて」
寂しそうに呟くお母さん。
私の視線を受け、サトミがすぐに話を切り出す。
「野並さんと赤池さんですか」
「ええ。……こういう事は考えたくないんですけど、もしかして」
「大丈夫です。その二人なら、いじめようとしていた相手から風さんをかばってました。確かに付き合いはやや疎遠になっているようでしたが、気持の方は大丈夫だと思います」
「そうですか。済みません、二人にも失礼な事を考えてしまって。でも、安心したわ」
安堵のため息が漏れ、頬の辺りに手を添える。
親としてはどういう事でも心配になるし、取り越し苦労をしてしまうんだろう。
私達の年齢ではそれを疎ましいと思う場合もあるけれど、何も心配してくれない親だったらなんて考えたくもない。
ただそれはサトミと彼女の親との関係に、そのまま当てはまる訳だが。
最近は多少良くはなっているものの、彼女自身が吹っ切る事は無いだろう。
こうして自分の事のように、高畑さんを気に掛けている様子からしても。
どちらにしろ、親と子の関係は私には難しい。
気楽な親子付き合いをしている分、余計に。
それが一番幸せだとも思えてくる。
「いいんじゃないですか。彼女は可愛いし、それだけで俺よりは、周りに好印象を受けますよ」
「そうでしょうか」
「ええ。それに何が普通で、何が普通じゃないかは人それぞれですし。得手不得手を考えれば、その辺の人間よりも出来る事が色々ある。言い換えれば、世の中に必要とされる人間ですか」
丁寧に、真摯に語るケイ。
お母さんは半ば戸惑い気味に、その話に耳を傾けている。
「例えば、その絵。コンクールとかには出さないんですか」
「あの子が、恥ずかしがるので」
壁に掛かる、海と砂浜の絵。
細かな色彩の変化と、気が遠くなりそうな繊細な描写。
いつか見た学校の絵同様、鮮やかなパステル画。
技法やデザインは分からないが、彼女の気持が込められているのは分かる。
技術を身に付けただけでは描ききれない、心を揺さぶる眺め。
それに好きでなければ、ここまでは描けないだろう。
人に言われてではなく、自分で望まなければ。
私自身を振り返ると、そこまで打ち込める物が自分にあるのか悩んでしまうくらいに。
暗い砂浜を照らし始める朝日を描いた絵に、私はその問いを繰り返していた……。
たこ焼きを食べて、お腹も膨れた。
鮮度がいいと、味も違う。
それに夕陽が沈む海というのは、また格別な眺めだな。
「何、してるんですか」
湯船から見上げてくる高畑さん。
窓際で仁王立ちしている私を。
暗いし砂浜は遠いから、問題ないの。
「いい景色だなと思って。みんなも来れば良かったのに」
東へと流れていく雲。
赤く染まり、ゆらゆらと揺れる海。
その周囲はすでに闇へと落ち、赤から紺への絶妙なグラデュエーションを見せている。
そんな海に浮かぶ、数隻の船。
サトミ達は夜釣りらしいが、酔ってないだろうな。
「高畑さんは、乗らなくていいの?」
「いつでも、乗れますから。雪野さんこそ」
「温泉もいいなと思ってね」
雨が上がったとはいえ、夜に海へ出る必要はない。
大体、何が出るかも分からないんだし。
「お父さんが、言うには。たまに、見るそうです」
「く、鯨?」
「幽霊を」
ストレートに言ってくる高畑さん。
私はすかさず湯船に飛び込み、鳥肌の立った肌をさすった。
「熱い、です」
「だ、だって。いないって、そんなの。お父さんは、ブイかライトの反射を見間違えただけ」
「仲間の船も、一緒に、見てるそうです。ひしゃくを持って、ふらふら揺れてる、青白い顔の女の人を」
立ち上がり、タオルを持ってふらふらしてきた。
幸い赤ら顔なので、どちらかといえば笑えるが。
「海は、人間の知らない事が、たくさんあるんです」
真顔で言うな、真顔で。
本当に寒気がしてきたので肩で浸かり、背中を湯船に付ける。
周りに隙間があると、どうもね。
「知らなくてもいい。知りたくもない」
「でも、出てきたら、どうするんです」
「嫌な子ね。あなた、こういう話好きなの?」
「嫌いじゃ、ありません」
それを好きと言うんだ。
さすがにこれ以上聞いてられないし、出た方がいいな。
「私、ロビーにいるから」
「大丈夫、ですか」
「何がよ」
「ほら、人影」
湯気の向こう。
ゆらゆらと揺れる、二つの影。
手には長い、何かを持っている。
「わっ」
「えっ」
「きゃっ」
私が叫ぶと同時に、お化けも叫んできた。
随分変わったお化けだな。
「な、何よ」
「……風。それに、あなた」
血相を変えて湯気の向こうから現れたのは、野並さんに赤池さん。
手にしていた長い物は、ただのタオルだった。
確かに、風呂場に現れる船幽霊なんて聞いた事はない。
風呂幽霊も、聞いた事はないが。
「どうしたの、あなた達」
「実家から近いんで」
「自分こそ」
「私は、この子の家に遊びに来て。……どうしたの」
私の話を聞かず、湯船から出る高畑さん。
何をするのかと思っていたらタオルにボディーシャンプーを染み込ませて、泡立て始めた。
そして笑顔を浮かべ、二人を洗い場の前へと引っ張っていく。
「ここ、座って」
「あのね。私はあなたとは」
「いいから」
髪の長い方、野並さんを強引座らせ背中にお湯を掛けていく。
丁寧に、優しく。
慈しむように。
「ちょっと」
「ぷにょぷにょ」
「だ、誰が」
「はい、こっち」
今度は赤池さんを座らせて、やはりお湯を掛ける。
嬉しそうに、楽しそうに。
交互に二人の背中を流す高畑さん。
彼女達の関係がどうであったのか。
お互いがどういう気持だったのかは、私には良く分からない。
でも今は、そのわだかまりごと洗い流れていく。
泡にまみれて、嬌声を上げる3人を見ていればそれを疑う人はいないだろう。
「嫌ね、いじめっ子は」
「風が勝手にやってるの」
「ちょっと、止めなさい。もうって」
「止めない」
きゃっきゃ言いながら、太股を洗う高畑さん。
見ようによっては、ちょっと問題では無いだろうか。
「ふーん。あなた達、そういう関係だったんだ」
「ち、違うって」
「そうなんです」
「何を言ってるの」
いきり立つ二人から逃げて来た高畑さんは、湯船に使っていた私の手を取って引っ張り出した。
少し、嫌な予感がする。
「いや。私はいいから」
「先輩、どうぞ」
「こちらが開いてますよ」
悪戯っぽい笑みを浮かべ、場所を空ける二人。
強引に私を座らせた3人は左右と後ろについて、タオルを手に取った。
「あ、あのさ」
「済みません、先輩。一生懸命やりますから」
「ここですか?それとも、ここ?」
「ぺらぺら」
随分ふざけている3人。
とはいえ気分はいいので、そのままにさせておく。
やらせる事がではなくて、この雰囲気が気持ちいいから。
友達、一緒に笑い合える関係。
一度は消えかけたそれが、もう一度作られていく光景。
きっと前よりも強くなるのを、見る事が出来るんだから。
ただ、やられっぱなしは好きじゃない。
「あ、熱い」
「こ、ここお湯が出てます」
「特等席じゃない」
二人を湯船に浸からせ、それを見下ろす。
高畑さんは、良しとしよう。
迂闊な事をしたら、また怖い話をされそうだし。
「いくわよ。いーち」
「あの、幾つ数えるの」
「100までに決まってるじゃない」
「いいですけど。一応私達は洗ってあげたんだから、一緒に入って下さいよ」
仕方のない子だな。
温泉に来て、どうしてお湯に浸かるのを嫌がるんだ。
「分かったわよ。……と。い、いくわよ」
「声、震えてない?」
「気、気のせいだって。い、いーち」
「え、幾つ?」
左右から腕を掴んでくる二人。
お化けじゃないだけ、まだましか。
「1、2、3……100」
「子供みたいな事言わないで」
「数え直しです。はい、いーち」
「100と言ったら、100なのっ」
腕を返してバランスを崩させ、肘をひねり二人を転ばせてから湯船から飛び出る。
なんだ、ここは。
勿論、温泉だけどさ。
「熱いー」
「ちょっと、まだ終わってないわよ」
「風ちゃん。お願い」
「了解」
ぼんやりした頭に響く会話。
それを理解するより前に、捕まれる手足。
気付いたら体が浮かび、浴室内を動いていた。
「じゃあ、冷やしてあげる」
「水温4度となってます」
「こういうのを、締めるって、言うんだって」
「ちょ、ちょと。ば、馬鹿っ」
叫んだ途端宙に浮かぶ体。
その後は言うまでもなく、水面に叩き付けられて水の中に沈んでいく。
冷水ではなく、程良くぬるいお湯の中へと。
揺らめく水面の向こうに見える笑顔。
肩を叩き合い、お互いを指差す。
友達同士の姿。
それを思えば、このくらいはなんでもない。
彼女達の絆を取り戻すきっかけとなれたのなら。
なんて事を思う程人間が出来ているなら、こんな所には沈んでいないだろう。