11-6
11-6
翌日。
学校へ来て、教室の前で立ち止まる。
「……開いてない」
周りには、誰もいない。
早く来過ぎた、という訳でもないようだ。
端末を使い、学校の教務課へつなぐ。
表示される文字と画像。
「……地方校入学試験(二次)のため、本日は臨時休校です」
そういえば昨日、サトミが言っていたような気が。
道理で学内に、人が少なかったはずだ。
馬鹿馬鹿しさを覚えつつ、教室に別れを告げる。
君にはもう、用はない。
多分向こうも、同じ事を思ってるだろうけど……。
ガーディアンとセキュリティをくぐり抜け、大きな執務用のデスクの前に立つ。
「今日、休みですよ」
「らしいですね」
「さっき校門で会った時、一言言ってくれればよかったのに」
「いいじゃないですか。休日に学校へ来ても」
貴族的な顔立ちを緩め、応接セットへ促す副会長。
秘書さんも休みらしく、お茶も出てこない。
その代わりという訳ではないが、栄養ドリンクがテーブルの上に並んでいる。
相変わらず、泊まり込んでいるようだ。
「例の傭兵はどうなりました」
単刀直入な質問。
笑顔はそのままで。
「よくは分かりませんけど、やっぱり舞地さん達を狙っているようです」
「伊達君の仲間なら、難なく退けるでしょう。それでも、心配ですか」
「先輩ですから」
「なるほど。そうですか」
小さく頷く副会長。
その手が、例のフォトスタンドへと伸びる。
「塩田さんの所にある物とは違うんですね」
「私のが、オリジナル。彼のも勿論オリジナルですが、敢えて人数が少ない写真を飾ってあるんですよ。あの時には、何枚も撮りましたから」
「気持ちの問題でしょうか」
「これには、峰山君が映ってます。屋神さんを巻き添えにしたと、塩田が思いたい人間が。今となっては、どうでもいい話になってますが」
全員の顔を、指でつついていく。
淡々と、だけどどこか切なげに。
「学校を辞め、解任され。全員、来月には卒業です。何を成し遂げる事もなく」
「管理案を廃案にしたのでは」
「その時の理事や職員が復職したのでは同じです。せいぜい、時間を稼いだというくらいですね」
辛辣な内容を、淡々と語る副会長。
表情は、相変わらずの薄い笑顔だ。
「来年度からは、今年とは違う局面を迎えるでしょう」
「沢さんも、そんな事を言っていました」
「おそらく塩田や中川さん達も、同じ考えです。4月以降どうなるか、難しい所ですね」
口調は変わらない。
薄い笑顔も。
「副会長は、どうするんです」
「取りあえずは、会長を補佐しますよ。来期も、私を指名するようですし」
「選挙、終わったんですね」
「投票しましたか?」
そう問われ、つい口ごもる。
多分した、と思う。
それを見透かされ、笑われた。
「いい会長です。生徒を思い、学校を思い、自信と能力を備えている」
「何か、考えがあるようにも見えるんですけど」
「そういうのは慣れてます」
事も無げにそう言って、フォトスタンドをテーブルへと置く。
「それを信頼するのか、利用するのか。どちらにしろ、困りません」
「大人なんですね」
「悪い考え方しか出来ないんですよ。今日は、帰って休んだらどうです」
「副会長は、帰らないんですか。もう何日も泊まってるんですよね」
席を立ち、私を促す副会長。
微かに浮かぶ、寂しげな笑顔と共に。
「私に出来るのは、これくらいですから。彼等に報いるのは……」
聞こえない、小さな声。
その表情も、消えていく。
全ては、過去へと……。
特別教棟内を歩いていると、ドアから手が出てきた。
どうやら、私に手を振っているようだ。
「こっち、こっち」
「あの」
「いい物上げるから」
人さらいだな、まるで。
「お菓子、お菓子上げる」
「あ、あの」
「大丈夫。怪しい者じゃないから」
十分怪しいと思いつつ、その招きへと応じる。
私も、お菓子には弱い……。
「はい」
差し出される、クッキーの詰め合わせセット。
紅茶のいい香りも漂っている。
「まだあるから、持って帰って」
デパートの包装用紙の掛かった箱を、いくつも出してくる天満さん。
「これ、どうしたんですか」
「バザーの余り。向こうもいらないっていうから、引き取ったの。賞味期限がそろそろだから、早く食べてね」
「みんなで分けます」
「うん。この帽子はどう?」
勝手に被される、テンガロンハット。
鏡を前に出してくれる天満さん。
……似合わなくはないけど、子供カウボーイにも見える。
「とにかく、とっちらかっちゃって。まだ奥にも色々あるから、よかったら持っていって」
「はあ」
「食堂やラウンジ辺りで配るつもりだったんだけど、今日臨時休校でしょ。誰も来る訳無いもんね」
ははと笑い、天満さんは私の顔をじっと見つめた。
嫌な予感。
「雪野さんは、どうしてここへ」
「そ、その。休みだって知らなくて」
「君は偉い。貴重よ、今時そういう子は」
誉めているのか、からかっているのか。
とにかく小さなチョコが一つ、私の手の平へ置かれる。
「結構、高級品よ」
「そう言えば、もうすぐバレンタインですね」
「雪野さんは、誰にあげるの」
笑顔と共に投げかけられる質問。
口ごもる間もなく、二の句が告げられる。
「玲阿君もてそうだし、きちっとやらないと」
「い、いや。その」
「もうやっちゃえ、色々と」
「な、何を勝手に」
二人で手をバタバタしあって、ため息を付く。
私達こそ、何をやってるんだか。
「天満さんはどうなの。例えば、副会長とか」
「いいの。ああいう変わり者は放っておけば。夜な夜な、食堂の油舐めてるって話よ」
「新井さんは、そんな事言ってなかったけど」
「情報は、私の方が掴んでるわ。その内、尻尾が生えてくるかもね」
ころころ笑い、席を立つ天満さん。
上手く話をはぐらかされた気もする。
「そこのノートを、凪ちゃんへ持っていって。可愛いのが一つ欲しいって言ってたから」
「あ、はい」
でもって、やってきたのは予算編成局。
事前に連絡があったらしく、七尾君が出迎えてくれた。
「例の連中はどうなった」
「取りあえずは大人しいみたい。この前、名雲さん達がケンカしてたけど」
「俺には関係無い、と言えなくもないか」
先日の一件を思い出したのか、ため息を付く。
あれはあれで悪くないと思うんだけど、本人が気にしているからそっとしておこう。
人気のない予算編成局内を進み、大きなドアをくぐる。
「こんにちは、雪野さん」
「こんにちは。ノート持ってきました」
「ごめんね、わざわざ」
可愛らしいクマが書かれたノートを、指でつつく中川さん。
「クマよ、クマ」
「三島さんかい」
「さあ、それはどうかな」
くすっと笑い、それを沢さんへ渡す。
昨日の寂しさはすでになく、いつもの飄々とした雰囲気だ。
「バレンタインディが近いって、天満さんが話してたよ。せっかくのイベントなのに、生徒がいないんじゃ意味がないって」
「企画の心配より、自分の心配すればいいのに。どこかに、いい男でもいないかしら」
「本当に」
しみじみと漏らす沢さん。
その隣では七尾君が、軽く咳払いをしている。
「ああ、君はいい男よ。うん、格好いい」
おざなりで、いい加減な口調。
とはいえ七尾君も冗談と分かっているらしく、気にした様子はない。
「雪野さんはどうするの。玲阿君に」
「あげますよ」
さらりと言ったら、全員がどよめいた。
沢さんまでも、その細い目を見開いている。
誤解してないか、この人達。
「私は毎年上げてますから。ケイや、木之本君達にも」
「ああ、そういう訳。でも、他の子とは違うんでしょ」
「え。まあ、えと。あの」
言い淀んだら、全員が笑った。
やっぱりなという感じで。
いいじゃないよ。
「手作り?」
「いえ。買ってます。作っても、美味しくないし」
「なるほどね。念がこもって、私も嫌だわ」
「君の念は、確かに怖そうだ」
小声でささやき、さっさと出ていく沢さん。
七尾君は笑っているところを、きっと睨まれた。
よく分からないけど、仲はいいみたいだ。
じりじり壁際に下がっていく七尾君は、どう思っているか知らないけど……。
お菓子の入った紙袋を手に提げ、モトちゃんの部屋へとやってくる。
でもこの人には、お酒の方がよかったかな。
「バレンタインディ?」
「うん」
「嫌な事を思い出したわ」
ため息を付き、正座をし出すモトちゃん。
白いシャツにジーンズと、長身の彼女に似合った格好いい服装だ。
「Vendre un haricot de cacao.」
「え?」
「カカオ豆を下さいっていう、フランス語」
やるせないため息と共に、世界地図が取り出される。
だけど、どうしてそんな物がすぐに出てくるの。
「サトミが、アフリカまで買い付けに行けって。フランス語は教えてくるし、砂金は渡されるし。参った」
「まさか、本気じゃないでしょ」
「昨日までは、ちょっと分からないわね。チケット代が高くて、諦めたみたいけど」
「馬鹿だ、馬鹿」と、文句を言っている。
今回に限れば、それは否定しない。
「カカオ豆から、チョコレートを作ろうとしたんだって。でもそんなの、国内で手に入るわよ」
「というか、カカオ豆から作ってどうするの」
「天才少女のやる事は、私には分からないわ」
確かに。
変なところで凝り性だからな、あの子は。
「モトちゃんは、誰にあげるの」
「今まで通りだけど」
「名雲さんには」
「え。あげるわよ。……柳君にも」
なんとなく付け足される感じ。
ただ表情に、これといった変化はない。
いや。変わってるかも知れないけど、私には読み取れない。
「でも、結構な出費」
「まあね」
「じゃあ、止めようか」
「それも、ちょっと寂しいね」
二人でくすくす笑い、バレンタインディ特集の組まれた雑誌を開く。
チョコがやはり主流なんだけど、レストランでの食事やアクセサリーなどという物もある。
私にはまだまだ遠い、大人の事だ。
「サトミと後で買い出しに行くけど、ユウは」
「ちょっとパス。気になる事があるから」
「そう。じゃあ、よろしく言っておいて」
優しく微笑むモトちゃん。
私の考えなど、とっくにお見通しのようだ。
さすが、アフリカへ行きかけた人は違う……。
インターフォンを押し、軽く笑う。
「どうした」
いつも通り素っ気ない応対。
Tシャツにスパッツという、かなりラフな格好をしている
「買い物に行こうと思って」
「夕食の材料は、もう揃っている」
「違うの。いいから、ほら着替えて」
ジーンズにジージャン、赤いキャップ。
私はダッフルコートに、チェックのショートスカート。
コートの前を押さえ、肩をすくめる。
「寒いね」
「家にいれば、暖かかった」
淡々とした返事。
「まあまあ。ほら、あそこ」
駅前のデパートに入り、デパガのお姉さんと温風に頬を緩める。
「あー」
「どうして叫ぶ」
「誰が」
「何でもない」
すたすたと先に言ってしまう舞地さん。
置いていかれじと、慌てて追いすがる。
「チョコ売り場は、あっち」
「お菓子売り場じゃなくて?」
「時期が時期だから、特設ブースがあるの」
彼女の手を引き、人混みの中を進んでいく。
嬌声と笑い声の絶えない、まさに女の子だけの空間。
造花や人形、リボンのデコレーション。
全体的な色調も赤やピンクといったもので、それだけで気分が高まってくる感じ。
勿論私も、その一人。
「舞地さん」
「人が多い」
「当たり前でしょ。寂れたコーナーだったら、買う気しないじゃない」
「理屈としてはそうだ」
と、屁理屈をこねる人。
「それにこういうのは、映未に任せていればいい」
「今までは、そうしてたの」
「一応、連名で。大体私は、そういう柄じゃない」
はにかみ気味なささやき。
それでも彼女の手は、遠慮気味にチョコの詰め合わせへと触れている。
「今回から始めれば?」
「私からもらっても、嬉しくないだろう」
「そんな事無いって。否定的にならないで、前向きに前向きに」
適当にその辺のを手に取って、裏を返す。
……な。
「他行こう。前進、前進」
「前向きじゃなくて?」
「同じ同じ」
適当な事を言って、マダム風の人達に頭を下げながら先に行く。
「特価1万円均一。まとめ買い、値引きします」って……。
次に私達がやってきたのは、もっとリーズナブルなコーナー。
ぬいぐるみやミトンの組み合わせなんて物もあって、つい手に取ってしまう。
「洋酒入り、か。私はちょっと。ナッツ入り……」
「フルーツクリーム入りだって。これ買おうっと」
お互い箱を手にして、ふと気付く。
私達の好みじゃない。
「名雲さんって何が好き?」
「米」
「……柳君は」
「ラーメン」
おおよそ参考にならない答えが返ってきた。
というか、それが参考になったら嫌だ。
「甘さが少ない方が、名雲はいいと思う。司は、甘くてもかまわない」
「ビターとスイート。この辺かな」
箱書きを確かめつつ、幾つかを手に取る。
一口サイズのチョコの詰め合わせで、値段もお手頃だ。
「玲阿達にも、少し買おう」
「いいよ、気を遣わなくても」
「私も、いつも世話になっているから」
素っ気なく言って、適当にカゴへ入れ出した。
言葉の割には、アバウトだな。
チョコの入ったカゴを持って専用のカウンターに行くと、可愛らしい店員さんに隣を示された。
「よろしかったら、メッセージカードを書かれてはいかがでしょうか。お買い上げの方全員に、サービスとして行っていますので」
「あ、はい」
「ありがとうございます」
横長のテーブルに付く、大勢の女の子達。
色とりどりのペンを使っている子もいれば、真剣な表情で一文字ずつ書いている子もいて。
私達も彼女達の中に混ざり、小さなメッセージカードを前にする。
「何を書けばいいんだろう」
「好きでした」
「下らない。大体、過去形でどうする」
そう返したまではいいが、ペンを持ったまま固まる舞地さん。
私はついでに買ったホワイトチョコの欠片を、口の中で舐めている。
はっきり言えば、暇。
かといって、舞地さんの手伝いをする訳にもいかないし。
まあいいや。
適当に落書きでもしていよう。
そういえば、三島さんがクマだって言ってたな。
クマってどんな顔だっけ……。
気付くと落書きしたメッセージカードは7枚になっていて、少し手が痛くなってきた。
隣を見ると舞地さんは、時折手を止めながらもペンを走らせている。
じゃあ、私も続けようかな。
「あなたは書かないの?」
前にいた、赤いセーターの女の子が尋ねてきた。
ずっと落書きしているので、不思議に思ったのだろう。
不審、かもしれない。
「付き添いなの。だから、落書きでもしようかなって」
「ふーん。可愛い絵ね」
私が書いたポストカードを手に取り、綺麗な顔をほころばせる女の子。
そうか?
「これはどうするの」
「別に、どうもしないけど」
「だったら、私がもらってもいい?」
「え?ええ、どうぞ」
手が叩かれ、ペンギンのポストカードが持って行かれる。
「だったら、私もいいかな」
「え。ええ」
「あ、私も」
気付けばポストカードは全部無くなり、代わりに白紙のポストカードが前に置かれた。
「私、ウサギでお願い」
「私は、魚」
「山と湖描いて」
なんか勘違いしてないか?
というか、どうして私は言われるがままに描いてるの……。
ようやく全員の分を捌き終え、疲れのたまった腕を揉む。
「舞地さん、書けた?」
「なんとか」
ぶっきらぼうな物言い。
ポストカードは裏を向けられ、内容を読む事は出来ない。
また、私が読む物でもない。
「あそこで、包んでもらおうか」
「ああ」
大きめの紙袋を提げ、舞地さんが小さく頭を下げる。
「今日はありがとう」
「い、いいって。お礼なんて。こんなくらい、本当に」
「でも、私は嬉しかった」
微かな笑顔。
昼下がりの柔らかな日差しによく似合う、可愛らしい微笑み。
キャップが深く被られ、その視線が消える。
はにかむように、照れるように。
「私は実家に帰るけど、舞地さんも来る?」
「いや。あそこは居心地がいいから、癖になる。遠野の気持ちが、よく分かった」
「その内あの子が長女になるんじゃないかって、私は疑ってるけど」
「かもしれない」
くすりと笑う舞地さん。
私も一緒になって笑う。
柔らかな日差しの中で。
暖かな気持ちで。
「じゃあ、また」
「うん。またね」
手を振り、遠ざかっていく背中。
まっすぐ伸ばされた、でもどこか恥ずかしそうな素振り。
手にしたデパートの袋を気にするように。
誰にも分からないのに、分かっても困らないのに。
初々しい、可愛らしい女の子の姿がそこにはあった。
私の胸に占める、暖かさと充足感。
余計な世話かも知れないけれど、自己満足かも知れないけれど。
私はやってよかったと思う。
少しは、舞地さんの役に立てたと思う。
そして私も、雑踏の中を歩き始める。
自宅近くの路地に入り、軽く手を横に広げて伸びをして。
何も持っていないから、気楽で……。
ちょっと待てよ。
私のチョコは、どこへ行った。
というか、買ってもないし選んでもいない。
絵は描いたけど。
ただ、人の役には立ったからいいか。
自己満足でも、なんでも。
そう心の中で呟き、彼女達からもらった小さなチョコを一つ取り出した。
これで代用、は出来ないだろうな。
その小ささではなく、彼女達の思いに応えるという意味でも。
冷たい風の中、暖かい気持ちと共に私は家へと走っていった……。
バレンタインディ当日。
結局デパートへ行き、一通り買いそろえた私。
どこから手に入れたのか、変な絵がレジの隣りに飾ってあった。
本当、署名しなくてよかった……。
それはともかく、学校には普段と同じくらいの生徒がやってきていた。
女の子は勿論、男の子もやはりその気なんだろう。
それとも、運営企画局が頑張った結果かな。
あちこちで笑顔がこぼれたり、歓声が響いたり。
いかにも高校生という感じで、見ているこっちが嬉しくなってくるくらい。
木漏れ日の差す梢の下で、恥ずかしそうに俯いている男女。
ぶっきらぼうに手渡し、そのまま駆け出す女の子。
ベンチに腰掛け、チョコを分け合って食べている人達。
見ているこちらまで暖かくなる、微笑ましげな光景。
そこから離れ、オフィスに程近い廊下へとやってくる。
人の列。
群れ、かな。
何十人か何百人か。
ある子は険しい眼差しで、ある子は目を爛々と輝かせて一列に並んでいる。
一応廊下の片側は開けてあり、通り抜けるのは可能。
全員が大小の袋を抱え、一途な表情で立っている。
少し怖い。
「あ」
誰かが声を上げる。
どうやら、私を知っている人らしい。
「あなた、雪野さん?」
「ええ。そうだけど」
「今日は、今日だけは……」
力を込めた、すがるような眼差し。
それを聞いた他の子達も、一斉に私を見つめてくる。
理由はもう分かっているので、こちらからは反応しない。
「私142番なんだけど、いつくらいになるかしら」
「え。何それ」
「整理券の番号。昨日、地味な顔の子が配ってたわ」
そういえば、全員手には小さな紙切れを持っている。
とうとう、そんな物まで登場したか。
「さあ。私は、担当責任者じゃないから。取りあえず、話を聞いてくるね」
「ええ。お願い。本当に……」
俯き加減で、低く笑う女の子。
それに合わせたかのように、他の子も一緒になって低い声で笑い出す。
熱気と冷気が入り交じってるな、ここは……。
オフィスに入り、窓際に置いてある椅子へ座る。
隣にはやはり、椅子に腰掛けているサトミが。
「142番だって」
「ああ、整理券。ケイ、142番は」
「今のペースなら、20分くらい。連絡する」
名簿から目を離し、見慣れない端末で連絡を取るケイ。
彼の隣には、少し疲れた笑顔を浮かべるショウが座っている。
イタリア製のスーツに細いネクタイ、伸びてきた髪も綺麗にセットしてある。
何を着せても似合うけどね。
「あ、ありがとうございます。あ、握手いいですか」
「いいよ」
「あ、ありがとうございます」
顔を真っ赤にして、ショウの手を両手で握る三つ編みの女の子。
横長のテーブルには、小さな箱と可愛らしい犬のぬいぐるみが置いてある。
「ほ、本当に、ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう」
「そ、そんな。わ、私。い、いえ、なんでもありません」
伏し目がちに部屋を出ていく女の子。
ショウが手を振っているのに気付いたのか、ドアを閉める寸前で微かな笑顔が見えた。
「67番終了。タグ張り終了。お兄さん、もっと愛想よくしないと」
「あのな。俺はここへ来る前に、もう何人かに」
「女の子は、お前というたった一人のためにここへ来てる。気持ちを込めて、思いを伝えるために。下らない言い訳はするな」
厳しい表情で言い放つケイ。
たまにこういう事を言うよね、この人は。
「だからって、こう続けて応対してると……」
「知らん。はい、次の方どうぞ」
ショウの懇願を無視して、事務的に取り次ぐケイ。
何を考えてるのかはいまいち分からないけど、こういった場面では役に立つ子だ。
自分はもらえないのに、よくやってるとも言える。
最後の女の子も帰っていき、狭いオフィス内にはチョコとそれに付随した服やらぬいぐるみやら小物が山のように積まれている。
冗談抜きで、私の背よりも高い。
とはいえさすがにショウ一人でこれは食べられないので、毎年彼の知り合いに配る事になっている。
実家の玲阿流は勿論、RASの低学年コースの子達なら一日で片付けてしまうだろう。
それに事前に通達があったらしく、原則として手作りは禁止。
おかしな物が混じらないように、という配慮だ。
日持ちもしないしね。
それでも「一応、チェックはする」と言って、一つ一つアナライザーに掛けていく通達を出した人。
木之本君からの借り物で、毒物やそれ以外の有害物質を検出出来るんだとか。
まさかとは思うけど、思いが高まり過ぎてというケースが過去無くもなかった。
「その木之本君は?」
「自分のオフィスで受け取ってる。あいつは、もてるからな」
と仰る、整理券が500番寸前まで言った人。
確かに彼はあの優しさと人の良さで、意外と人気が高い。
「ちっ。全然無いな」
などと、毒が出ればいいような事を言っている人とは全然違う。
「ヒカルには、もう上げた?」
「ええ。カカオ豆から作れなかったのは残念だけど」
「まだ言ってるの」
「ガーナのフォラステロ種が良いって聞いてたの。でもガーナの公用語は英語なんですって。モトに、フランス語教えて損したわ」
険しい眼差しを、チョコの山にぶつけるサトミ。
そういう問題だろうか。
「炒って、潰して、振り分けて、混ぜて。せっかく、行程まで覚えたのに」
「じゃあ、作ればいいじゃない」
「旅費以前に、装置が高かったのよ」
虚しい、少し考えれば分かる結論。
端正な横顔に浮かぶ、儚い微笑み。
この人、本当に天才なんだろうか。
「ショウには?」
「あげましたとも。私のなんて、山のどこに埋まっているか知りませんけれど」
「嫌な事言うなよ。ちゃんと、ここにある」
テーブルの上に置かれる、チェックの包装が掛かった小さな箱。
サトミは少し嬉しそうで、ショウも結構嬉しそうだ。
私も、嬉しかったりする。
「あなたはさっき忙しかったから。はい、どうぞ」
慇懃に手渡される、小さな。
小さな袋。
茶褐色の粉が入っている。
ラベルの文字はカカオマスと、私には読める。
ははと笑うケイ、ふふと笑うサトミ。
よく笑ってられるな。
「冗談よ。はい」
「なんか、ショウのより小さい気がするんですけど」
「気のせい気のせい。遠近感の問題よ」
「疲れ目かな、俺」
とはいえ大した文句は言わず、ショウがもらったチョコのチェックに戻っている。
何が楽しいのか知らないけど、妙に熱心だな。
「ねえ、どうして違うの」
「同じのを渡しても仕方ないでしょ。ユウも、そうじゃないの」
「わ、私はその」
「ごめん。私とあなたとでは、意味が違ったわね」
くすっと笑い、人の耳に息を吹きかけるサトミ。
そのくすぐったさについ身をすくませ、やり返そうとした時。
ドアがノックされ、声が聞こえた。
「開いてます」
「どうも」
やや遠慮気味な姿勢。
ハイネックのジッパーシャツに、濃茶のキュロットとブーツ。
長い黒髪は、後ろでポニーテールとなっている。
「これ、玲阿君に」
「ありがとう」
頭を下げ、押し頂くショウ。
沙紀ちゃんは微かに頷いて、チョコの山の方へと歩いていった。
ケイはチェックに集中していて、顔を上げようとしない。
「あ、あの」
「もう整理券はいらないから、渡してあげて下さい。お返しは後で、こちらから」
「何言ってるの」
「え?」
顔を上げるケイと、それを上から見下ろす沙紀ちゃん。
「こっちの話。で、どうかした」
「別に、用という程でもないんだけど」
「はあ」
話が分からないのか、ペン状のアナライザーを小さく振っているケイ。
とぼけてるんじゃなくて、鈍いんだ。
人の事にはあれだけ気が回るのに。
仕方ない面もあるにはあるけれど。
「そ、その。これ」
可愛い猫の絵が描かれた、小さな紙袋。
両手を添えて、ケイの前へと差し出される。
「ほら、色々助けてもらったし。まだ怪我も治ってないし」
「レバー?」
「違うわよっ」
突然叫ぶ沙紀ちゃん。
驚かなかったのはケイくらいで、サトミなんて口を開けて私にしがみついている。
「チョ、チョコレート」
「ああ」
大きく頷き、小さな箱が取り出される。
手紙のような物も。
後は、手袋。
でも片方、左手だけのようだ。
「どうもありがとうございます」
深く頭を下げるケイ。
沙紀ちゃんは、もごもご言ってやはり頭を下げた。
その隣りにサトミが寄っていく。
話を聞きたいので、私はその間に入る。
あー、小さくてよかった……。
「どうして片方なのかしら」
「ふ、深い意味はないわよ」
「左手。ケイの利き手は左手」
ささやかれる澄んだ声。
うわずった沙紀ちゃんの息づかい。
「丹下ちゃんの利き手は右手。さて」
「い、いいじゃない。どうでも」
「そうよね。まさかね」
「はは。本当に」
サトミを突き飛ばし気味にかわし、やり返そうとした彼女を後ろから抱える沙紀ちゃん。
「他言無用よ」
「私、口が……」
どこをどうしたのか、目を見開いて言葉に詰まるサトミ。
苦しそうではないようだけど。
「分かった?」
タップされる沙紀ちゃんの腕。
しかし、声は戻らない。
「あんたら、何してるの」
さすがに、訝しげな調子で尋ねてくるケイ。
ショウは、お返しリストと格闘中だ。
「スキンシップ。女の子同士のね」
「脅してるんじゃなくて」
「まさか。そうよね。遠野、ちゃん」
「ちゃん」の部分に妙な迫力があったようにも思えるけど、気のせいだろう。
サトミの体が、小さく震えたのも。
「な、何でもないわ。ベトコンラーメン5杯分よ」
「は?」
「こっちの話。そうよね。丹下、ちゃん」
負けじと不敵な笑みを浮かべる二人。
しばし睨み合った二人は、小さく頷いて固い握手を交わした。
何をやってるんだか。
「こんにちは」
元気よく飛び込んでくる柳君。
名雲さんも、なんとなく楽しそうに見える。
「これ、これ」
差し出される、小さな箱。
昨日見た包装紙。
「真理依さんがくれた」
はにかんだ、甘えるよう笑顔。
その手はチョコの入った箱を、宝物のように握り締めている。
「急に、どうしたんだか」
机に腰掛け、苦笑する名雲さん。
ジャケットのポケットには、同じような包装紙が顔を覗かせている。
「あなた達、何よそれ。私だって、あげたじゃない」
一緒にやってきた池上さんが、拗ねたように彼等を睨み付ける。
で、次は私を。
「面白くない。面白くないわよ」
「どうして、私に」
「雪ちゃんが、デパートに連れて行ったんでしょ」
真上から人を見下ろす池上さん。
長い髪が顔に触れてこそばゆい。
つい笑ったら、目を見開かれた。
鬼というか、般若というか。
綺麗なだけに、すごむと怖いな。
「だ、だって。池上さんは、沙紀ちゃんと買い物へ行ったんでしょ」
「そういえば、そんな事言ってたわね」
サトミの視線を受け、こくりと頷く沙紀ちゃん。
すると池上さんは顔を上げ、その髪を大きくかき上げた。
コンディショナーの良い香りが辺りに漂い、つい見とれる。
で、睨む。
「何よ」
「別に」
「あ、そう」
そういって池上さんが取り出したのは、柳君達と同じ包装紙。
最初から、見せびらかすつもりだったらしい。
「私も、もらったもん」
「下らない」
「もう、焼き餅やかないの。嫌ね、真理依ったら。あん」
一人でくねくねしている女の子。
気持ち悪いので放っておいて、ケイに箱を見せている柳君の所へ行った。
「もう、馬鹿馬鹿」
とか聞こえてくるけど、自分が馬鹿だ。
「楽しそうだね」
「うん、楽しい」
笑顔と共に返ってくる即答。
余程テンションが上がってるのか、速いジャブが繰り出される。
目で追うのがやっという速度で、立て続けに10発近く。
寸止めだったけど、それを受けたケイの髪が後ろになびく。
対抗上私も。
実力的には敵わないけど、速さに重点を置けば近いレベルには持っていける。
顔から脇腹へ持っていき、再び顔へ。
右フックの左ボディで、止めにフリッカーを数発。
「へぇ。じゃあ、一緒に」
「右だけって、どう?」
「いいね」
「何がいいんだ」
乱れた髪を撫でつけ、顔を伏せるケイ。
口元は緩んでいるが、笑っている訳ではないようだ。
「冗談だよ、冗談。だって、真理依さんのチョコだからね」
「……ちょっと待って」
「え?」
「その舞地さんはどこにいる」
静かに尋ねるケイ。
柳君も名雲さんも、知らないという顔。
「私も知らないわ」
「まずいな」
「何が」
「丹下。自警局に連絡して、舞地さんを捜させて」
「ええ」
戸惑いつつ連絡を取る沙紀ちゃん。
「どうしたの」
「舞地さんの性格を考えると、少し気になる。名雲さん、池上さん、柳君にあげた。後は、誰に上げる」
舌を鳴らす名雲さんと、顔色を変える柳君。
池上さんだけは、落ち着いた雰囲気を崩さないが。
「あの子へ会いに行くと言いたいの」
「それ以外に、どこへ」
「……沙紀ちゃん」
「H棟裏付近での目撃情報が、数件あるそうです」
「行くしかないか」
柔らかな午後の日差し。
春がすぐそばまで来ているとはいえ、寒さは今が一番の時期。
それでも今日は暖かい。
人気のない、H棟裏手。
学内を囲む塀と並行して植えられる常葉樹。
乾いた土の感触と、日差しを受ける白い教棟。
そして、二人の人影。
差し出される小さな箱。
床に落ち、足蹴にされる。
伏せられる顔。
薄い雲に、日が陰る……。
彼の頬を平手で叩き、舞地さんは歩き出した。
前を向き、背筋を伸ばし、凛とした表情で。
彼女らしい表情、何一つ失う事もなく。
「舞地さんっ」
駆け寄った私達を見て、何故か笑う舞地さん。
「何よ。みんな心配して来たのに」
「だって」
私の手元が指を差される。
……スティックを持ってる。
私だけではない。
サトミも、沙紀ちゃんも、池上さんも。
名雲さんと柳君も。
みんな警棒を構えている。
ショウは革手袋をはめ、その足元は深くえぐられている。
「そこまでする事でもないのに」
苦笑気味にささやく舞地さん。
池上さんは警棒をしまい、彼女の肩をそっと抱いた。
「仕方ないじゃない。ねえ、みんな」
一斉に頷く私達。
それを見て舞地さんは、はにかみ気味に顔を伏せる。
凛とした表情とは違う、優しい可愛らしい笑顔と共に。
だから私は、彼女のために頑張ろうと思える。
無理をしてでも、頼りなくても。
少しでも役に立てれば、それで満足だ。
この笑顔を見れば、それ以外には何も……。
舞地さんは池上さん達と一緒に帰り、チョコの箱だけが手元に残っている。
ショウとサトミの分。
ちなみに私の分もある。
甘いんだよ、池上さん。
「なんか、俺のは小さいんだよね」
「気のせいでしょ」
ケイの言葉を軽く流し、包装紙の中から出てきた絵に見入るサトミ。
笑っているのか呆れているのか。
多分、両方だろう。
「どこかで見た絵ね」
「気のせいでしょ」
私も軽く流し、自分の分を開ける。
これは、池上さんの絵だな。
なんとなく私みたいな女の子と、舞地さんみたいな女の子が屋上で並んでいる。
繊細な柔らかいタッチで、見ているだけで気持ちが暖かくなる気分。
それとは別に、私が書いたニンジンの絵も出てきた。
意味が分からないし、その稚拙さに悲しくなってくる。
少なくとも、自分で楽しむ物ではない。
「これからも、よろしくお願いします……。固い人だな」
苦笑するショウ。
私とサトミの物も、同じような文章が入っている。
年賀状じゃないんだから。
それでもショウの分には「怪我をしないように」とか、サトミには「勉強だけでなく、ゆとりを持つように」と優しい一言が添えられている。
私のは「成長するように」だ。
冗談なのか、本気なのか。
大体何を「成長」するの。
意味が分かるようで分からない。
いいんだけどさ。
「下らないイベントと思ってたけど、これだけあると悪くない」
サトミや舞地さんからもらったチョコを並べ、一人頷いているケイ。
その後ろには、ショウがもらったチョコの山がそびえているが。
しかし、沙紀ちゃんの分は机の上には置いていない。
リュックの中にあるようだけど、その理由は聞かないでおこう。
私としても、面白くないし。
放っておこう。
「……あのさ」
「ん」
チョコをくれた女の子の名簿から顔を上げるショウ。
少し、やつれ気味かな。
「はい」
両手を添え、小さな箱を差し出す。
彼も両手で、受け取ってくれる。
私はそのまま彼の隣へ座る。
「開けていい?」
「い、いいよ」
開けられる包装紙。
なんとなく、気恥ずかしい。
「チョコ」
嬉しそうな、子供のような笑顔。
さっきの柳君にも似た。
「食べる?」
「うん」
大きめのビターチョコを少しもらい、口の中に入れる。
広がる苦みと、微かな甘み。
隣ではショウも、指先を舐めながら笑っている。
「……見てられないわね」
ため息を付き様、勝手にチョコを手に取るサトミ。
中身は今食べているビターチョコと、後は小さなフルーツチョコが幾つか。
これという物でもないけど、一応彼の好みは考慮してある。
ラッピングを、自分でやったとか。
それ以上は恥ずかしいので、自分でも忘れる事にする。
「何がよ」
「さあ。それより、私にはないのかしら」
「はいはい」
足元のリュックを開け、細長い箱を取り出す。
「生ものだから、早く食べて」
「生チョコ?」
「フルーツ入り。デザート屋さんで買ってきた」
サトミが箱のお腹を押すと、上からチョコがトロリと出てくる。
舌先を出し、それを舐め取るサトミ。
「あら、美味しい」
「バナナ味。キウイ味もあったけどね」
「何それ」
とうとう箱をかじり、チョコを吸い出した。
子供だね、まるで。
「じゃあ、ユウにはこれ」
サトミが自分のリュックから出したのは、細長い箱。
「同じじゃない」
「イチゴ入りよ」
「これは、試食してきたの……」
大体、今食べたばかりだ。
という訳で、ショウにあげる。
「全部食べるぞ」
「どれだけでも食べてよ」
「面白いな、これ。仕組みは分からないけど」
目を細めて、チョコを吸う男女。
無くなるまで、喋る気無しだな。
じゃあ、他の用事を済ませよう。
「あげる」
チョコを前に腕を組んでいるケイに、手の平くらいの箱を渡す。
サイズはともかく、値段的にはショウのと大差はない。
「あ、どうも」
一礼して受け取られたそれは、テーブルの上へと置かれた。
「開けないの」
「そう、甘い物ばかりは食べられない」
「まだ、何も食べて無いじゃない」
「ああ」
曖昧な返事。
ここにあるチョコは手つかず。
すると、どこの甘い物を食べる。
例えば、リュックの中にある物とか。
面白くないな。
「どうかした」
「別に。……これは」
「運営企画局から」
箱の感じから見て、ケーキかな。
バザーの余り物でも無いようだ。
それは、2ヶ月も前だしね。
「こんなに食べれないっていうのに」
「贅沢な悩みね」
「あそこのお兄さんとは、比べ物にならないよ」
鼻で笑い、サトミと向き合ってチョコを吸っているショウを指さす。
多分二人とも、もう入ってないんだろうな。
その気持ちは分かるけど。
「じゃあ、私が食べてもいい?夕食後のデザートに」
「どうぞ。サトミの分くらいもあるし」
「へへ。バレンタインディも、悪くないわね」
白い箱を抱え、ペンを取り出す。
「書くなよ」
「いいじゃない。遠野聡美と」
「無茶苦茶だな」
声を出して笑うケイ。
それに釣られるようにして、サトミとショウもやってくる。
例の、スティック状の箱を手にしたまま。
「何笑ってるの」
「ユウがさ」
「何でもない」
「そういう顔には見えないけどな」
箱を抱える私と、それを取り囲むみんな。
楽しい、何にも代え難い一時。
バレンタインディだから、という訳でもないけれど。
好きな人達と、こうして楽しい時を過ごす事が今年も出来た。
それには今日という日を、素直に感謝をしたい。
そしてみんなの幸せも、祈りたい。
強く、心から。