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第5話



「ねぇ、たつお。変な事聞いていい?」


 ボクはそう言って、門に繋がる裏道のほうと時計を確認しました。まだ、のぞみちゃんは来ないはず。


「な、なんだよ」


「たつおって、のぞみちゃんが好きでしょ?」


「は?」


 広い庭の真ん中、鯉のぼりの泳ぐ影の下で、二人は沈黙を持ちました。まるで海の底にいるような、静寂に感じました。


 ボクはたつおの返事待ち、たつおはなんかいろいろ考えて、何かを言おうとして、またやめて、そしてまた考えて……。


「鯉のぼりの由来、知ってるか?」


「え?」


 やっと出たたつおの言葉は、ボクの予想外の内容でした。否定するか肯定するか、どっちかだと思っていましたが、なぜか質問でした。


「鯉は多少汚い池や沼でも生きる生命力の強い魚なんだって」


「うん」


「だから、鯉のぼりはその鯉にあやかって、子供達が環境の良し悪しに限らず、立派に健康に成長することを願って飾られるようになったと言う」


 たつおはちょっと回りと時間を気にしながら、暗記してきたような言葉を並べます。ちょっとそわそわしているみたいにも見えます。


「親が子供の健康を祈願する日ってことだよね。知ってるよ」


「でも、生命力の強い魚の代表が『鯉』っておかしく無いか?」


 たつおがそこまで言ったところで、家の中からたつおのお母さんの声が聞こえました。


「たつおー。電話ー」


 そう言って、大きな庭に面した大きな開放部からひょこっとお母さんが顔を出します。


「ちょっと待ってて」


 たつおは慌てて走っていきす。待っててって言われなくても、待つしかないんですけどね。


 たつおはなにやらお母さんと話していますが、ボクまでは聞こえません。ボクは空を見上げ、風と遊んでいる鯉のぼり達を眺めていました。


 確かに、鯉ってそんなに『強い生命力』代表、って感じはしないかな。


 そう思った瞬間鯉のぼり達が力強く泳いだのは、風のいたずらでしょうか。




「のぞみ、遅れるってさ」


 戻ってきたたつおはなんかうれしそうに言いました。


「なんか嬉しそうじゃん?」


「そ、そうか?」


「……で?」


 ボクは遠まわしの回答の続きを促します。


「あ、うん」


 ボクはちょっとらしくないもったいぶった言い方にイライラしつつも、たつおのらしくない緊張と照れ笑いの滑稽なしぐさを楽しんでいました。


「生命力の強い魚の代表が『鯉』っておかしく無いか?」


「まあ、そうだね」


 ボクはまた鯉のぼりを見上げながら、返事します。横目でたつおを見ると、なんか一層緊張が増しているような……、たつお、なんかおもしろいなぁ。


「実は、西のある地方では生命力が強いという理由じゃなく、鯉のぼりに『コイ』が使われるようになったそうだよ」


「ほう」


 ボクはボクの質問の回答からどんどん離れていっているように感じながら、ちょっと生返事です。どう、つながるのかな? 繋がらなかったらどう突っ込んでやろう、なんてことも考えていました。


「なんで『コイ』なのか? 一般的には真鯉、緋鯉が両親、子鯉は子供達だろ? でも、主役の子供達より両親が目立っていておかしいよな?」


「ぷっ」


 ボクはその妙な力説に思わず吹き出してしました。


「な、なんだよ」


「なんか、たつおの真面目な顔は、見慣れないせいか、ちょっと面白く感じちゃって」


「……」


「アレ?」


 普通ならボクが怒りそうなことを言うタイミングなんですが、たつおは大きくつばを飲み込んで、言葉を続けました。


「そ、その西の地方では、真鯉が男の子、緋鯉が女の子、子鯉は将来の子供達らしい。つまり、恋愛の『恋』と魚の『鯉』を引っ掛けて、恋愛の成功、招来の子孫繁栄も祈願しているって話だ。……友達から恋人へ一歩上がるって感じ……」


「……恋、登り、ってこと……?」


「ああ。なので、鯉のぼりの下で、キ、『キス』すると、恋愛に成功するっていう、話なんだよ……」


「……そ、そう」


 ボクはたつおから『恋』、『恋愛』、『キス』の単語が聞けるとは思ってもいなかったので、びっくりしました。たつおの緊張アンド照れ笑いの見たことも無い顔をしていた理由がわかりました。これを言いたかったからでしょう。


 たぶん、ボクの顔も目と口をポカーンとあけた変な顔になっていたことでしょう。でも、たつおはボクの悪態をつくどころではないようです。


 時折吹く風で、足元の鯉のぼりの影達が好き勝手に動きまわります。その動きに気を取られそうになった時です。


 そうか! ボクはボクの質問、『のぞみが好きでしょ?』を思い出しました。


「たつお! わかった! そういうこと?」


    ばし!


 ボクは大きな声を出し、グーでたつおの肩を叩きました。


「うわっ!!」


 その突然の行動にぴっくりしたたつおは、思わずしりもち。


「な、なんだよ、いてーし、びっくりした」


 いつも通りのたつおの顔です。いや、ちょっと顔が赤いかな。


「それで、のぞみちゃんの到着時間を気にしていたのか」


 ボクはそう言いつつ座っているたつおに右手を伸ばします。


「お、おう」


 たつおはボクの手を握ります。ボクは思いっきり引き上げると、たつおはすっと立ち上がりました。


 のぞみちゃんはさすがにそろそろくるでしょう。『恋』。『たつおとのぞみ』。両方、ぜんぜんピンと来ないけど、阻止してやろうととか思っていたけど……。


「協力してやってもいいけど、どんな作戦? うまくいくの?!」


「ほ、ほんと?」


 たつおは、ズボンに付いた乾いた砂を払いながら、ビックリしたような顔でボクを見ました。


 ボクは、ちょっと胸を張り腕を組んでプチ仁王立ち。


「うん。ボクは、なにをしたらいい?」




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