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第4話


 小さい頃から毎年、GWの端午の節句には、たつおの家の『端午の節句』という名のお食事会にお邪魔してきました。これといって特別何かするわけでなく、単に鯉のぼりをみて、柏餅かしわもちを食べて、ちょっと豪華なご飯をご馳走になる、そんなのが小学校に入るちょっと前からずっとです。


 その日の午後、今年もボク……わたくしは、それにお邪魔するため、身支度をして二階のボク……わたくしの部屋を出ました。


    タン、タン、タン


「行ってきます」


 わ、わたくしは階段を下りながらいつも通り、母に声をかけます。


「あ、もう行くの? 待って。手ぶらじゃだめよ。はい、重いけど一品、持っていきなさい」


 母はそう言って煮物でしょう。大きなタッパを包んだ袋の入ったエコバッグを渡してきました。


「いってらっしゃい。たつお君と、お母さんにもよろしくね」


 今年の5月5日も晴天。


 こういう時、やっぱり、のぞみちゃんは日傘差してくるかな。白いワンピースなんか着てきそうです。


 ボク……わたくしといえば、Tシャツに薄手のジャケットにパンツという、んー、ボーイッシュの女の子スタイルです。


 鏡に写った自分の姿を見て、もう少し胸があった方がいいなーとか、髪の毛に腰があればいろいろな髪型出来るのになーとか、考えたことが無い、といったらウソになります。


「ええぃ、ボクはボク。こういうキャラだって需要はきっとあるよ。いつも通りでいいや」


 ボクは、ひとりごちながら、日差しに向かって進みます。顔が焼けそうです。


 それにしても母の勘違い。たつおとボクの組み合わせなんて考えもしなかったなぁ。中学3年って言うと、そう言うことも考えないといけないのでしょうか。




    *




 去年はのぞみちゃんと途中で待ち合わせて行きましたが、今年は現地集合です。のぞみちゃんがちょっと遅れるそうなので……。


 分譲住宅地にあるボクの家から歩いて20分ぐらい。宅地を抜けて年々縮小されていくたんぼのあぜ道を少し行くと、立派な塀に囲まれた古い大きな家が見えてきます。


 古いけど立派な門に余り似つかわしくないインターホンが端の方に、申し訳なさそうにあるのが、昔からおかしくて。


    ♪たんたんたんたーん たたたたーん


 インターホンのボタンを押すと聞こえる何とも不思議な曲。たつおの家でしか聞いたことがありません。普通『ピンポーン』でしょ。これが昔からおかしくて。


『はい。あ、なつみちゃん、いらっしゃい』


 たつおのお母さんの声が小さいスピーカーから聞こえてきました。向こうからはボクの顔が見えているので、いつも名乗る前に誘導されます。


「たつおは庭にいるから、行ってみて」


「あ、はーい。お邪魔します」


 なんでだろう、こういう時、ちょっとよそ行きの声になってしまいます。


 小さい頃はインターホンも押さずに勝手に庭に行っていましたが、さすがに中学に入ったあたりから、ちゃんとインターホンを押して、挨拶してから入るようになりました。初めて押した時、大人になった気がしたような覚えがあります。


 大きな門の足元には10cmぐらいの高さの敷居があり、それをまたいで入ります。たつおの家の門がなかったら『家の敷居を二度とまたくな』なんてドラマの台詞、意味わかんなかったかも知れません。


 そんな古くからあるこの家の庭は信じられないほど広く、少年サッカーぐらいは出来るんじゃないでしょうか。家の分譲地にあるような家なら二軒は入ります。実際小学校の時はよくここで遊んでいたものです。


 門を入ってすぐに右に折れ、大きな家を左手に細い裏道を抜けると、庭にでます。視界は一気に広がります。


「わあぁ」


 手入れの行き届いた庭木達に囲まれた晴天の青空の中を、数多くの色とりどりの鯉が上を向いて泳いでいるのが、目に飛び込んできます。毎年見ているはずのこの風景。一年に一回だからなのかな、いつもながらちょっと感動してしまいます。


「お、なつみ、早いな」


「お、おう」


 なんかぎこちない返事になっちゃいました。やだな。母が変な事言ったから、なんか話しずらい……。気にしちゃだめ。


「たつおのところの、やっぱすごいね」


「まあ、古いものだけどな」


「いいじゃん。小さい頃、これ以上おっきい鯉のぼり欲しいって思ってたもんなぁ」


 こいのぼりは、家と庭の端に斜めに引かれたロープに一列に並んで泳いでいます。時折吹く風が気持ちよさそう。


「ボクも一緒に泳ぎたいなぁ」


 ボソッとひとりごちたのを、たつおはやっぱり聞いていました。


「な、なんか、おもしろいこというな、なつみは」


「いいじゃん」


「な、なつみは、どのコイなんだ?」


 その時のたつおはのぞみちゃんにしか見せないと思っていた、ちょっと照れた顔をしていました。ボクは意識しないように空を見上げます。


「え? そうだなぁ」


 家の屋根の上に金色の矢車が置いてあり、そこからロープが伸びています。最初にカラフルな吹流し、黒を基調にした大きな真鯉、鮮やかな赤の緋鯉。そして、子鯉は、空よりも濃い青の子、ちょっとピンクがかった赤の子、透き通った水色の子、派手な金色の子、オレンジ色の子、渋い紫色の子もいます。


「ピンクっぽい子かな」


「え?」


「な、なに?」


「あ、いや。なつみは、オレンジかな、って思っていたから。で、のぞみがピンクを選ぶかなって」


「……」


「ねぇ、たつお。変な事聞いていい?」




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