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将校女物語  作者: 千野梨
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プロローグ1

 悪政を敷く暴君を、みんなで立ち上がり手を取り合って倒しました。


 ――――めでたし、めでたし。


 普通のおとぎ話はここでハッピーエンド。スタッフロールが流れるところである。しかし、現実はここからが本当の始まりであることをセラリスは14歳にして知ることになる。

 両親の死という不幸と悲しみはあったものの、小公女とも呼ばれるほどに華やかだった彼女の人生は激変した。

 機械油と血肉の香水、断末魔とレールガンが響かせる協奏曲、散りゆく男たちの笑顔、そして英雄と呼ばれる孤独な栄華が彼女の世界になった。本人がそれを望む、望まぬに関わらず。



「あの、それはどういうことでしょうか冥青先生?」


 長い髪を銀色に輝かせ、セラリスが不安そうに首を傾げた。

 お嬢様学校と誉れ高き冥青女学園、その二階にある校長室に今朝呼び出された。そして、校長である李冥青という眼鏡の裏に神経質そうな瞳を持つ男からこう言われたのだ。


「本日より君は無一文になった」


 南の果ての大夏国の血を受け継ぐ冥青の黒い瞳が事態を理解していないセラリスを鋭く射抜く。その視線にセラリスは理由はまだわからないが、自分が窮地であることを理解させた。

「戦争だ、戦争が全て悪いのだ」と、どうにも他人事のように冥青が呟いた。


「ご両親は亡くなったが、君に莫大な財産を海外の租税回避地(タックスヘイブン)に残してくれたね」

「はい、お陰でこの学校に通い続けることが出来ました」

「君はとてもとても真面目で優秀な生徒だった」

「…………」


 冥青が過去形で告げたことをセラリスは聞き逃さなかった。


「残念だが、その資産が存在する国との戦争が始まってね。彼の国における我が国全ての資産が凍結されたのだよ。私の隠し財産の一部もだ。本当に悲しいよ」


 ふぅ、と深く冥青が溜息をつく。自分の資産に関しては本当に落ち込んでいるらしい。長くこの学校にいたが、セラリスがこの男の偽りのない感情を見たのはこれが初めてだった。


「喜びたまえ、セラリス君。君には二つも選択肢がある」


 セラリスが見慣れている偽りに満ちた笑顔に戻り、冥青が言った。


「この学校の屋根裏に住み、私の使用人として死ぬまでコキ使われるか、別の国営学校に転入するかだ。ちなみに後者だと僅かだが給与が出るし、私にも紹介料が入る」

「えっと……じゃあ、後者で」


 そうアッサリとセラリスがお嬢様育ちの気楽さで答えた。

 給与が出るより国営という言葉が決め手だった。少なくとも、そこまで酷い扱いは受けないだろうと予想していた。目の前にいる人として欠落の多い眼鏡の使用人になるよりはマシだ。

 が、人生経験の薄い彼女の想像は直後聞こえた死神の足音によりあっさり崩壊した。

 重く響き、大地を揺らす音。それが一定のリズムで近付いてくるのである。


「どうやら、丁度迎えが来たようだ」


 爽やかさなど微塵も感じさせない笑みを浮かべ、冥青が窓の外を見た。

「え……」と阿呆のように口を開けっぱなしにしながら、セラリスも同じ方向を向いた。

 その視線の先には金属性の巨大な巨人がいる。ちょうどこの二階の窓の少し上に装甲板に覆われ、カメラのついた頭部があった。十年ほど前の戦争から尊い命の終結を大量生産している死神。それがセラリスを迎えに来たのである。


「南火半島方面軍所属機兵特別志願学校。それが君の転入先だよ、セラリス少尉候補生」


 数多くの命を奪うべきして生まれた死神であり、それに乗るセラリス自身の棺桶になるかも知れない鋼の巨体を見て冥青が優しく微笑んだ。


「我が校から救国の英雄が現れたことを、私は光栄に思うよ」

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