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花咲く歌を夜明けにつなぐ。  作者: 津森太壱。
【花咲く歌を夜明けにつなぐ。】
1/56

00 : たから。

ようこそおいでくださりました。

楽しんでいただけたら幸いです。





 きみは知っているかい?

 あそこには、大層な宝があるそうだ。

 どんな宝だと思う?

 ああ、残念だがわたしは知らない。

 見たことがないからね。

 だが、話を聞くと気になるだろう。

 あそこにどんな宝が眠っているのか。

 わたしは気になって仕方なくてね。

 だから見てこようと思う。

 奪うつもりはないよ。

 ただ見るだけだ。

 なぜ見るだけにするかって?

 そんなのは決まっている。

 その宝は、見ることしかできないらしい。

 自分のものにはできないらしい。

 つまり、奪えない。

 それは呪いがかかっているからだ?

 違うよ。

 呪いなんかない。

 どうやらね、その宝はわたしたちの心に訴えかけるらしい。

 どんなふうに訴えられるかは、やはりわからないがね。

 それらの真意を確かめるためにも、わたしは見てこようと思う。

 今からとても楽しみだよ。

 宝を見て、わたしはどう思うだろう。

 なにを感じるだろう。

 とても、とても楽しみだよ。











 数年前に建立されたばかりだろう家屋を、小高い丘から眺めた。とても大きくて、とても広い。流れる空気は穏やかで優しく、いかにも幸せそうな家族向けの家屋だ。

 ふん、と鼻で笑う。

 幼い頃に聞かせられた宝の話を思い出した。


「それがあんたの宝か」


 ばかにするわけではないが、自分にはあまりにも不似合いで、あんなのは追いかけていられないと思ってしまう。


「まあ、人それぞれに、宝はある」


 人の宝、人の幸せ、それらはすべてそれぞれだ。だから、否定もしなければ肯定もしない。その必要もない。たとえ自分には到底理解できなくても。


「クロ」

「ん、今行く」

「……なにか見えるのか?」

「世界」

「随分と壮大なものを……」

「そうでもない」


 自分を呼びに来た悪友におどけて笑って、クロは眺めていた家屋から視線を外した。


「さて、ここからはどうする?」

「どうするって……まあどうもしようがないんだけどね」

「随分としおらしくなったな、クロ」

「ははは……逃げようにも逃がしてくれないじゃないの」

「それがおれの仕事だからな」

「はあ……いいよ、半ば諦めてはいるからね」

「半ば?」


 にやり、と意地悪く笑う悪友に、もはやクロの諦めは境地に近い。


「今から逃げてもいい?」

「べつにいいけど、どこに逃げるんだ?」


 そう、問題はそこにもある。クロには逃げ場がない。まずは目の前の悪友が大きな壁だ。

 だが、それでも、逃げたいと思うのは仕方ない。


「おれ、もう少し世界を見たい」

「目的地に到着してからでも遅くはない」

「確証あるの?」

「おれがそう動いてやる。それでいいだろ」

「頼りになるお言葉ですこと……」

「信じろよ」


 ぽん、と肩をたたく悪友の力は、とても頼りになる。だから信じていないわけではない。そう言う限りは、実行してくれると思う。

 それなのにどこか信じられないのは、今ここに在る己れの状況だろう。


「……これでいいのかなぁ」

「まだ言ってるし」


 そう言うが、この状況をどう受け入れたらいいのか、クロには未だ理解できない。悪友だって、クロがそうであることは承知しているはずだ。


「ほら、行くぞ。予定よりだいぶ遅れてるんだ。相手方には連絡済みでも、礼を欠いているんだからな」

「はいはい」


 目的地がもっと遠くであったらよかったのに、歩いて二週間とはなんと近いのか。月日とはこんなにも短いものであっただろうかと、クロはため息をついた。








楽しんでいただければ幸いです。


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