とある招喚
初投稿、初作品です。
ずっと読み専で、妄想歴は長いのですが、皆様の作品を読んでいて自分も形にしたくなりました。
お目汚しですが、どうぞよろしくお願いします。
責任者どこ?
……聞こえないの?責任者どこかって聞いてるのよ。
動くな!
雑魚は引っ込んでなさい。
ちょっとお爺さん、聞こえてる?
…………まったく、耳が遠くなっているのか呆けているのか知らないけど、そんなザマならとっとと引退して孫守りでもしていた方がいいわよ。
さて、そっちの若いおにーさんたちならちゃんと聞こえてるわよね。
人をこんなところに引っ張り込んだ責任者、出してもらおうかしら?
……ふん、余計なもの切らせるんじゃないわよ。
あたしの愛刀・万ちゃんになますにされたくなかったらおとなしくしてなさい。
さぁ、責任者……って、もしもーし。
……ちっ、図体はでかいくせして、剣を切られたくらいでなに魂飛ばしてるのよ。
次はあんた?
こっちはまた対照的な優男ね〜。
あぁもう!魔術だか符術だか奇術だか知らないけど、う・ざ・い。
簀巻きでモーシワケナイけど、そこでゆっくりオネンネしててチョーダイ。
はぁ~っ。
そんな小難しいこと言ってないでしょ?
人を異世界なんかに呼び寄せた責任者出しなさいって言ってるだけでしょ?
こっちはこんなこと二度としてほしくないから、一番上の人とお話させてもらいたいって言ってるだけじゃないの。
あたし?
あたしは下宿の管理人です。
そもそもねぇ、あんたたちがあたしんとこの下宿人の女の子を攫おうなんてことするから、止めさせるためにこんなとこまで来る羽目になってんのよ。
責任者出せって言っている理由わかってイタダケタかしら?
で、この場にいるので最後に残ってるあんたなんだけど。
そう、あんた。無駄顔のあんたよ。
あんたが今回の騒動の責任者で良いわけ?
この場の騒動?ちがうわよ、招喚なんてやらかしたことよ。後ろで転がったり魂抜けてる連中は自業自得じゃないの。
それで――――今度はなによ。
は?‘無駄顔’の意味?男のくせにそこまでやたら整った美貌なんて‘無駄’以外の何物でもないでしょ。
そ・れ・で、話をもとに戻させてもらうけど!
あんたが責任者なわけ?それとも後ろの白いお髭のお爺ちゃんのほう?
こっちも暇じゃないからとっとと済ませて帰りたいのよ。
はあっ?もう何よ。
帰れるのかって?帰れるに決まってるじゃない。
……あーはいはい、今まで呼び出した子たちって皆帰れなかったわけね。
ふんっ、十代のお嬢さんたちと一緒にしないでほしいわね。伊達に人脈作ってるわけじゃないの。対策はバッチリ。じゃなきゃ他人の招喚陣に割り込んだりしないわよ。
あたしのことは心配してもらう必要はないから。それより自分のことを心配したら?
こっちは堪忍袋の緒が切れそうなんですけど?もういっそのことここにいる全員廃人にしちゃったほうが話が早いかしらーなんてねぇ、ふふふっ。
それが嫌ならとっとと責任者だせっ!!!
…………黒い月の禍、ねぇ。
まぁ、そっちの事情はい・ち・お・う、分かったわ。神様にお願いして攫ってきてもらってるってのもね。
何よ、‘攫ってきてる’っていう言葉が気に食わないの?そのとおりじゃないの。足元にいきなり招喚陣が現れて異世界に引っ張り込まれるのよ。‘攫う’以外の何だってのよ。
こっちじゃどうか知らないけどねぇ、あたしの国じゃ二十歳になって成人なの。あんたたちがやってることって‘未成年者’に対する‘略取誘拐罪’なの。あんたたちって言わば‘犯罪者’なの。
国王?
国王だろうが皇帝だろうが関係ないわよ。犯罪行為を行ったんだから‘犯罪者’でしょうが。それともなぁに?こっちじゃ未成年者の誘拐は犯罪じゃないっての?
それより神よ、神。ちゃっちゃと話つけて帰るんだから、神の居るとこ案内してちょうだい。
知らない?あんたたち、ほんっっっっとぉーにっ、役に立たないわね。
まぁ、いいわ。ちょっと乱暴な手だけど、背に腹は変えられないしね、勝手にやらせてもらうわ。
さぁて、ちょっと出てきてもらうましょう……か!
………あらまぁ、ずいぶん若いのが出てきたわね。
あんたがここの神?
ああもう、ぎゃあぎゃあうるさい。お黙り!暴れたって逃がさないんだから、観念してこっちの話を聞きなさい!
‘黒い月’の時に異世界から人間呼ぶの、やめてもらえないかしら?
あんたそんな小さななりでも神なんでしょ?
よその人材かっぱらうなんてマネせずに、自前で育成するなり力を与えたりすれば良いでしょ?
ちょっ…ちょちょちょちょっと待ってよ、何泣いてんのよ。
そこ、外野!あたしが児童虐待している目で見るな!
も〜う、何なのよ〜、泣きたいのはこっちだっての。
あー、ほらもう泣くんじゃない。おねーさんが話し聞いてあげるから。
外野はだーってらっしゃい!二十五歳は‘おねーさん’なのよっ。文句あるんなら後でゆっくり捌いてやるから今は口出すんじゃない!!
それで?
そう、もともと従神だったのに、無理やり押し付けられちゃったのね?そのままほったらかしにされたものだから修行もできず力が足りないわけ……わかったわ。
で、その無責任な元・神はどこに行ったかわかる?
‘美味しいコーヒーのある世界’?そう言って消えたの?
……ふーん、そう。
…………ちょっと見てほしいものがあるんだけどいいかしら?
これなんだけど。これ?あたしの愛刀よ。あ、よく切れるから気をつけてね?最初はまな板や流しどころかどころか建物の土台まですっぱりいきかけたから。
……………………そう、やっぱり。
くくくく、くふっ、ふっ、ふふふっ。
あ・の・や・ろー、てめーが元凶じゃないの!なーにが「仕方ないから、そこまで言うなら力を貸してあげましょう」よっ!
見てなさ〜い、泣いてマジ詫び入れるまで煮えたぎったまっずいスペシャルコーヒーをリッター単位で注ぎ込んでやるっ。
行くわよ、少年っ!
どこかって?決まってるじゃないの、あたしの世界に戻ってこんなフザケタことしでかしてくれたあんたの元主人をしばきによっ!
未熟な従神に自分の責任押し付けて、あたしの下宿人の初恋を危機に陥れ、あたしに要らない恩を着せた挙句に無駄足踏ませたヤローにきっちし落とし前つけさせてやる。
あ、そうそう。
そういうわけだから、そこの無駄顔の王様、あんたの嫁は来ないから自分で好きなの見繕って結婚してチョーダイませ。
ばいばーい。
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とある世界のとある大陸のとある王国の城の地下にあるとある部屋。
「招喚の間」と呼ばれ、およそ100年から130年に一度巡り来る「黒の月」の時にのみ「救世の乙女」を「招喚」してきた、ある意味この国で最も重要な場所。
しかし、此度の‘招喚’の儀式によってこの場に現れたのは、どう見ても十代の麗しき乙女ではなく、七分袖のTシャツとスカートの上にエプロンをまとい、脚には靴下とサンダル、右手に包丁を持った、出で立ちは‘下町の主婦’以外の何者でもない女性。
声や肌から年の頃は二十代と推測できるその女性の行動は――――
現れるや否や、儀式を司っていた神官長(求めていた乙女と異なる存在が現れたため呆然としていた)に「責任者を出せ」と詰め寄り、慌てて止めようとした神官たち六名を「動くな!」の一喝で石化させ、その上にいくら呼んでも反応しない神官長をほうり捨て。(神官たちの上に放り出されたので怪我はしていないよう。)
国王の護衛役として女性を止めるために腰の剣を抜こうとした若き将軍(国王の幼なじみその一)は、女性の愛刀(どう見ても包丁)に愛剣をすっぱり切り落とされてしまい、無残な姿となった剣の柄を握り締めたまま魂を飛ばし。(800年以上昔に神から授かったと代々伝えられてきた剣だったので無理も無い。)
護符を投げつけて女性を捕縛しようとした王佐(国王の幼なじみその二)は、護符がまったく効かないばかりか「う・ざ・い」と言われて洗濯ロープでグルグル巻きにして床に転がされ。(彼のファンのご令嬢やご夫人方が見れば世も無く泣き崩れること間違いない。)
いずれは自分の妻になる可能性の高い乙女を待っていた眉目秀麗・頭脳明晰(でもちょっと性格が残念といわれる)な国王は、‘無駄顔’だの‘犯罪者’だの言われる始末。(なのに嬉しそうに見えるあたりが‘残念な性格’と言われる所以か。)
なんとか「黒の月」とその災厄について説明すると、今度はその神の居場所を聞きはじめた。
‘神はこの世をあまねく見そなわす’とは聖典の言葉だが、さすがにその居場所を知る者はこの場におらず。
そう答えるとなんと、エプロンのポケットから引っ張り出したゴム手袋(水仕事用)をはめた次の瞬間、空中を掴んで神を引っ張り出した。(さすがの国王も唖然としていた。)
初めて衆人にその姿を現した、頭を鷲掴みにされもがく神の姿は幼い少年のもの。
‘神’の抵抗をものともせず女性はお説教を始めたのだが、突如泣き出してしまった少年神にたじろぐ女性の姿に‘情け容赦が無いわけではなかったのだ’とほっとするものを感じたり。(ここで女性が25歳ということが判明。)
少年神を慰めながら話を聞く様子は微笑ましかったり、いやいやそれまでの羅刹の如き姿とのギャップで聖母にも見えたりとかなんとか。
結局、本来この世界を管理する神がいつ帰るともしれない長期休暇に入ってしまい、従神である少年神が力不足のまま何百年も頑張ってきたという、なかなか衝撃的な真実が明らかになり。
その無責任な存在に心当たりがあるらしい女性が「落とし前をつけさせる」と言って少年神を連れて消え、史上七度目となる招喚は幕を閉じた。
招喚の儀式に失敗したのは無論のこと、国の要職にある者たちの情けない姿やら知りたくなかった神の実態やら、表沙汰にはできない黒歴史となること間違いない事態に、関係者一同頭を抱えたのたが。
ただ一人、妻となる(可能性の高かった)乙女の招喚に失敗し失意にくれるはずの国王だけは、
「うわ〜、かっこいいー。なんか今まで好みのタイプってなかったけどさぁ、頼れる姐さん女房もいいよね〜。暗殺者とかものともしなさそうだし、こっちが道を踏み外しそうになったらしっかり叱って引き戻してくれそうじゃない?また来てくれないかな」
うっとりと頬を染め、招喚の間に居た全員が一瞬で顔色を失う御言葉をのたまったとか。
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◇後日談その1
そもそも招喚の原因となった此度の‘黒の月’の災厄については、しぶしぶ帰って来た本来の神が対応して事なきを得た。
しかしながら「今回はしょーがないから戻ってあげたけど、あくまで一時帰省だから」とのたまう神に引き続き管理を続ける意思は見られず。
いろいろとすったもんだあった挙句、今後不定期にやってくる‘黒の月’については、招喚の儀式を行うものの、攫うように呼びつけることはせずに相手の同意を取り付けることとなった。
◇後日談その2
見事にすっぱり切られた若き将軍の愛剣は、‘管理人さん’に直しておくように言われたからと帰って来た神により元の姿を取り戻した。
ただし、神から「彼女の万能包丁の方が断然愛がこもってるからあの剣くらい切るのはわけないの当たり前じゃん」と言われ、愛剣が包丁に負けたと将軍がたそがれる姿はあまりに哀れで見るものの同情の涙を誘ったとか。
◇後日談その3
一旦帰って来た神はまたも姿をくらましたものの、‘管理人さん’のおかげで‘道’を手に入れた少年神は時折かの地を訪れてはいろいろと有用なアドバイスをもらっているらしい。
どうしてそんなことがわかるかと言えば、一度姿を現した縁なのか少年神は気が向いたときにこの国を訪れ国王と茶を飲みながら四方山話をしているためであるとのこと。
◇後日談その4
少年神と茶飲み友達になった国王が頼み込んで‘管理人さん’のところへ行って(無謀にも)告白したが、(やはり)「問題外」とあっさり振られたらしい。
しょんぼりと報告する国王に対し儀式の場にいた者たちはほっと胸を撫で下ろしたものの、その後の「彼女は甲斐性のある男性が好きらしい」と政務に励むいじらしい姿に、今後も真面目に励んでもらうために応援すべきか、国を乗っ取られかねないのであくまで反対すべきか、側近たちは真剣に悩むこととなった。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
妄想は映像でまたたく間に流れていくのに、文章にするのがこんなに難しいとは……。