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嫌われている女子に罰ゲームで一ヶ月間毎日好きだと告白していたら何故か勘違いしないでよねと婚姻届け持ってきたんだけど……

作者: 神達 万丞
掲載日:2026/02/28


 学生生活……普通に生きるには相当苦労する。

 カリスマだったら何の問題もない。

 ぼっちだったら誰の相手もせず自分の世界に入ってればいいだけのこと。

 でも普通男子高生は違う。

 ニュートラルに学校生活を平穏無事で送る為人間関係は些細なミスも許されない。

 常に自分を殺して相手を立てる。

 口論になっても自分の方から折れる。

 これが僕こと高橋紹運のストレス以外は溜まらない学校生活攻略法だ。

 なので時として困ったことが起きる。


「本当にやるの?」 


 高橋嫌なのかよ? 負けたお前が悪いんだろとクラスメイト達は諭す。

 悪ふざけで始まった賭けカードゲーム。

 条件は最下位がトップだったやつが指定した女子に一ヶ月オッケーをもらうまで告白すること。

 で、よりにもよって僕は負けてしまった。

 勝負は勝負だ。

 ここでゴネれば僕は間違いなくクラスでの居場所はなくなる。ぼっち決定だ、それだけは嫌だ。どんなやつでも友達は必要だ。

 だったらこんな悪ふざけでも約束である以上やるしかない。

 僕は日を改めて意を決し指定した相手を呼び出す。


「あんたは確か高橋だっけ。何の用?」 

「立花、君が好きだ」


 相手は同じクラスの立花道雪たちばなみゆき。ショートがよく似合う女の子だ。

 無視されると期待していたが、僕の呼び出しに応じるなんて律儀だな。はぁ……。


「は? ふざけている?」

「僕と付き合ってください」 

「いやいやありえない。普通に気持ち悪いんですけど」

「ですよね〜」


 当然の反応。予想通りで笑いさえ込み上げてくる。

 みじめだが好きでやってるわけじゃないのでダメージは少ない。

 それでももしかしてという気持ちもあったので少しは傷ついた。

 立花の後ろには面白がってる悪友達がもっと攻めろと指示を出す。

 他人ごとだと思って勝手なことばかりほざく。

 もしバレたとしても僕が嫌われるかあきられるだけなんで、安全圏にいる奴らが羨ましい。


「僕は本気だ。一目惚れなんだ」

「うわぁ、今時いるんだね、こんな痛いセリフ吐くナルシスト……。断られるの分かってアタックしてくるなんて大馬鹿かマゾしかいないわよ」

「やらないで後悔するより、やって後悔したほうがいい」


 昨日セリフを全部暗記したのでこの程度だったらアドリブも効く。


「ハッ! でも答えはノーよ、ノー。あんたみたいなタイプは話すのも同じ空気を吸うのもいやだ。この汚物。生きる迷惑。キモいからもう二度と近づかないでよね」


 しっしっと野良犬をおっぱらうように出て行くよう促された。

 これ以上話しても無駄だろう。僕は退散することにした。


 空き教室から出てくると、何で帰ってきたんだよ。情けないな。根性たらんよと悪友達は笑いを堪えながら僕に文句。

 

「これで終わりにしない?」


 ダメだ。約束は約束、ちゃんと守れ。

 ……こいつらは、自分達には災いが来ないと思って好き放題無理難題を吹っ掛ける。

 まあ 一ヶ月と明言したがこいつらは飽きっぽいからそのうち忘れてしまうんだろう。

 でもそこまで僕の神経が持てばいいけど……。

 きつい。泣きそう。



 二日目


 新緑の季節。若葉が生い茂る中、もし告白成功したら夏は灰色の青春脱出だなと友人に心にもない事を囁かれて腹が立つ。

 だが、色んな感情が入り乱れながらも、立花の机に手紙を入れて放課後また空き教室へ呼び出しを試みた。

 

「立花、好きだ」

「高橋いい加減にしてくれない? 昨日断ったよね」


 いかにもウザそうに髪を掻き分ける立花。

 呆れと怒りが混ざりあった顔が僕の心へ突き刺さる。


「ごめん。でも僕と付き合ってください」

「お断り。あんたみたいなモブに興味ないし、話をする価値もない。金輪際私の視界から消えて」


 出来レース、消化試合とはいえ、辛いものがあるな。

 立花は同性の人気はカリスマ的高いが異性からはもろ嫌われていた。

 美少女だがあの通り上から目線&高圧的な態度なので、その趣味のやつにしか好かれない。

 だから今回のターゲットに選ばれたというのもある。

 絶対に告白しても受託されることはないからだ。まさに罰ゲームに相応しいチョイス。


三日目


 静かに嘆息をつく僕。

 あれだけ立花に拒絶されたんだ、呼び出しても来ないだろう。

 恋愛経験者じゃない僕ではここからの展望が予測できない。

 これは詰みかな……と友人達に終わりを持ちかける。

 だが悪友の中にノリがいい女子もいて、情報とセッティングを手伝ってくれた。  

 余計なことを……。

 サボるとどこから見張っているか分からない友人達が馬鹿にするので、立花のタイムスケジュールを手に入れた僕は渋々放課後先回りして夕焼けが入る廊下で待ち伏せする。


「はぁ……あんたのオツムはお飾り? セールスでもここまで忍耐強くないわよ」

「君が好きだ」

「お願いだからやめて。告られるこっちが恥だよ」

「付き合ってください」

「私は大嫌いだよ。夢に出てくるからもう側に寄らないで」


 猫っぽい切れ長の目がさらに 一段細くなる。踵を返すとショートの髪が揺れた。

 大嫌いか……効くなぁ。

 

 四日目


 登校時間バス停で待機中の立花へ奇襲攻撃を掛ける僕。

 五時起きだからきついが立花はバレーボール部所属の女子バレー選手。

 朝練で登校が早いから詮なきこと。


「君が好きだ」

「………………」

  

 だが陰の頑張りもスマホから目を離さず何も反応せず。

 ワイヤレスイヤホンで音楽聴いているからなんだろうか? 

 でも日課だからセリフはキメさせてもらう。


「僕と付き合ってくらさいいい! イタッ!」

「…………」


 もろくそ舌噛んだ。でも幸い無視される。良かった、立花が聞いてなくて……。

 もうこれ無理だろうなぁ。

 最悪クラスで噂になって学校中の女子達から嫌われると豆腐メンタルな僕では残り二年間生きていけない。

 過去、彼女に立ち向かった勇者は結構いる。

 顔・スタイル抜群・運動万能・勉学もそこそこ、性格以外はほぼパーフェクトなんだ。

 綺麗な花に立ち向かわない男はいない。

 その数多くのイケメン達をほふってきた魔王。

 そんなのに村人Aの僕が太刀打ちできるわけがないじゃないか。

 その場にいづらくなって立ち去ろうとする間際、彼女の背中がプルプル震えていた。寒いのかな?


七日目


 五、六日目アタックも敗北して日曜。

 立花の実家でもある商店街の持ち帰り専門焼き鳥屋へ来た。

 この時間帯は家の手伝いをしていることが多い。

 ここまでやりたくないけど、暇な友人達が遠くから観察しているのは丸解りだからテンプレート作業。


「好きだ! これください」

「迷惑です…………八百五十円になります」

「付き合ってください」

「お釣りです。お申し出はお断りします」


 接客モードなので断り方も柔らかい。

 

「立花こんなところまで押し掛けてきてごめん」

「高橋もしぶといわね。ここまでやって来るとライバル店の営業妨害にしか感じないよ」

「他意はないよ。使命を全うしているだけ」

「なにそれ?」


 立花も諦めたのか適当に付き合ってくれるようになった。


「じゃまた」

「うん、またあし⸺ゲフンゲフン、なんでもない!」

  

 帰れ! シッシッと塩をかけられる。

 店内から商売用の使うな! とおやっさんから怒られた。


 何を言いかけたんだ?



 九日目


 立花が泣いていた。ユニフォームのまま体育館裏で座り込んでる。

 今日は練習試合があったけどボロ負けしたんだ。

 それもスタメンだった立花のミスで。


 今日のノルマを達成するチャンスだが、これは告白するシチュエーションじゃないし、僕もそこまで野暮じゃない。

 何よりなんて声を掛けていいのか最適解を導き出せないでいた。


 そのまま告げず帰ろうとするも物音を立てたせいで、「何よ高橋、惨めな私を笑いに来たの?」鼻声で罰が悪そうにギロリと睨みつける。


「君が好きだと伝えたいけど僕も空気ぐらいは読むよ」

「嘘つけ。弱ってる私にアプローチをかけるなんて最低。大体今は涙と鼻水で顔グチョグチョだよ」

「立花は頑張った」

「頑張った? レギュラーの選考も兼ねていたので勝たなきゃ意味がないんだよ」

「だったら次に挽回すればいいだけの話だ」


 立花はセッターだ。うちのバレー部は高身長が多いので平均身長でも出来るセッターやリベロはライバルが多い。


「他人事だから言いたい放題言ってくれる。私は先輩達とインターハイで暴れたかったんだ。しかしその夢が遠ざかる。ベンチは惨めだ」

「僕はただの観客だから詳しいことは知らない。でも頑張ってる君が好き。勝敗はどうあれあのコートの中で輝いていた。熱くて感動したよ。立花のファンになってもいいかな?」


 僕は初めてテンプレートじゃない胸の内を立花へ打ち明けこの場を立ち去る。


 十一日目


 雨。大雨だ。

 濡れると水も滴るいい男なんて言葉があるけど、結局イケメンだから映える話。

 僕だと水にあたってもモブはモブが相応である。

 今の僕はズブ濡れだ。

 何故か? 無論理由がある。

 捨て猫だろうか、みかん箱に入れられた子猫へ傘を与えたからに他ならない。

 残念ながらペット禁止マンションだからうちで飼うわけにいかないので、有り金叩いて購入したミルクと餌を置いてひとまず立ち去った。  

 勿論誰かこの子を拾ってくださいと一筆したためて。

 でもそんな殊勝な善人なんてこの世にいないから、用事を済ませたらネットで飼い主を募集しよう。

 ひとまずこの件は保留。

 毎度の日課を済ませたいから、悪友達から得た情報にてこのまま下校ルートで高橋の待ち伏せ。

 部活が長引いているのだろうか少し遅かった。


「立花、君が好きだ」

「あんたね……ずぶ濡れじゃん」

「傘がなかったんだよ」

「だからって雨ざらしになりながら私の告白を優先するな」 

「日課だからね。付き合ってもらうまでは執拗いよ」

「はいはいでも答えはノーだよ。今は部活を優先したいしね」

「それって……」

「うるさいうるさい! 勘違いしないでね⁉ 今のは言葉のアヤ、アヤだ。誰があんたなんて好きになるもんですか。それよりも試合で負けた時使ったタオル、縁起が悪いからあげるわ。捨てるなり雑巾にでもしなさいな」


 スポーツバックからバスタオルを放り投げる。

 僕は危なげに頭でキャッチ。


「ありがとう立花」

「ち・が・う・か・ら。あくまでも高橋というゴミ箱へ捨てただけ。これだから非モテは……」

 

 僕のこと嫌っているのにやはりスポーツマンだよね。優しいや。

 このあと心配で戻ったが猫はいなかった。

 僕が先程書いた置き手紙には任されたと女の子ぽいまる文字で返信されていた。

 世の中捨てたもんじゃない。


 十三日目


 下校中、夕方買い物がてら商店街へ。おやつのコロッケ買うついでに焼き鳥屋へ足を運ぶ。

 高橋のスケジュールは把握しているので計画を立てやすかった。


「立花、君が好きだ」

「はいはい」

「僕と付き合ってください」

「嫌なこった。顔洗って出直してこい。ぼけ」 


 辛辣でそっけないやり取りも慣れた。

 あれから毎日焼き鳥を買いに行っているのでおやっさんとも顔見知りになっている。


「そういえば焼き鳥が結構余ったんだ。もったいないから持っていってよ」

「いいの? 立花ありがとう。妹達も喜ぶよ」

「これは好意じゃない、勘違いしないで。あくまでも捨てるのはもったいないからだから。うん」

「それでもありがとう。お礼を言わせて」 


 僕は頭を下げるとフンと鼻を鳴らす立花。

 なんか以前と違い話しやすくなっている。

 気の使いすぎかな……?


 でも本当に余り物? ネギマは焼き鳥屋売れ筋ナンバーワン人気商品じゃん。


 不意に店の奥より親父さんが、普段作らないみゆきだけどよ串打ちから制作した特製焼き鳥は愛情一杯だぜぇ! ダミ声で困惑した疑問を明かしてくれる。

 お父ちゃん余計なこと言わないでよ! みゆきよ父ちゃん心配なんでぇ! などと店内に怒声が飛び交った。

 猫の鳴き声まで。賑やかだな。羨ましい。


 でも、ははは、まさか……立花が嫌っている僕にそんな施しするわけがないよ。

 面白い冗談だ。おやっさんは多分立花の恋人か好きな人と勘違いしているんだな。



 十五日目


 今日はバレー部の見学。体育館の二階から立花を観察。疑似とはいえ告白相手をもっと深く知りたいと悟るのは自然の道理だ。

 なのでストーカーじゃないよ。


 試合は観戦したことがあるけと練習風景は初めてだ。他にも五部活ぐらい使用しているので賑やか。

 バレー部はレシーブ練習、代わる代わるコート目いっぱいにボールめがけて飛び込んでくる部員達。

 それとは別に立花は後輩セッター達の指導にあたっていた。

 不意に目が合ったから手を振るも無視。

 当然とはいえやはり嫌われているなぁ……はぁ。

 僕は口パクで立花に好きです、付き合ってくださいと伝えると、それに応答するようにベーと舌をだした。

 可愛い……。


 十八日目


「ゲホゲホ」


 僕は風邪を引いた。

 どうやらこの前、長時間大雨の中ずぶ濡れになったのが原因。

 身動きできないので家族達には申し訳ないが、そのまま夜まで寝ていた。

 相変わらず運に恵まれてないな……。

 されど今回は告白しないで済みそうだ。

 今更罪の意識が軽減されるわけでもないけど心は楽になる。

 友人達も興味が失せてきたのか話題に出てこない。

 今なら風邪を理由に説得も可能じゃないか?

 しかし動機は不純だけど、こんなに真剣に向き合ったことってあったかな? 

 高校受験の時でさえマイペースだった。

 立花にとっては嫌がらせでしかないけど、どうせだったら最後までやり遂げたいという選択肢も脳裏にある。

 

 それにしても残念だ。最近日課になっている部活見学で立花の勇姿を目に焼き付けたかったがやむなし。

 スマホ弄りながら静かに時を過ごしていると知らない電話番号からかかってくる。

 何度もくるからそのまま放置していたら、LINEからクラスの女子が電話出ろと催促された。 


「高橋早く出ろ」

「いやいや物騒な世の中なので知らない番号は出ないよ」


 声の主は立花だった。

 僕のことなど害虫程度にしか意識してないはずなのに驚く。


「ならさっきの番号を登録しなさい。あ、だからっていつでも掛けてこいという意味じゃないからね。あくまでも緊急用。光栄に思いなさい。私が男子を電話帳登録するなんてないんだからね」

「了解。立花の初めてをもらえて嬉しいよ」


 いいい言い方ぁ! ⸺受話器から慌てたトーン高めの怒声が響く。

 緊急にかけるというほど仲が進展したわけじゃないのに女子の思考は分からん。

 しかしなし崩し的にLINEの友達登録もしたから大収穫だ。

 何故かクラスの男子は誰も立花の連絡先は知らない。

 女子に口止めさせている念の入りよう。確かに中等部から女子しか相手にしなかったもんな。


「風邪引いたんだって? 私のせいじゃん。これで何かあったら目覚めが悪いのよ」

「完全に僕のせいだよ。立花は関係ない」

「それでもさ、あの場にいた身としてはね」

「ありがとう、立花は本当に優しいや。だから好きなのかもな。付き合ってくれたら僕は幸せになれるよ」

 

 僕は熱のせいで意識が朦朧としているから素直な気持ちが漏れ出てくる。

 対して立花は、「バカ‼」と一言発して通話が途切れた。ガチャ切りってやつ。


 LINEでバーカと黒猫スタンプが贈られてきた。

 立花は猫が好きなのかな? このキャラあの捨て猫に似ているな……。


 二十日目


 登校早々友人達に悪乗りしすぎたと頭を下げられた。

 お前に良くない噂も立っているしもう止めてくれと告げられる。

 直ぐ様音を上げ途中で降りると読んでいたらしい。

 でもその申し出は謹んで断る。

 折角ここまで粘ったんだ、後悔したくないから途中下車せずにチャレンジしてみるよと宣言。意地になっていた。

 それにもう罰ゲームとか約束とか僕はどうでも良くなっていた。本気で立花を好きになっていたから……。

 だから一ヶ月はタイムリミットとしてきりがいい。

 その後は事の真相を白状して土下座する。これはけじめ。どうせ駄目だけどやり遂げるよ。

 

「好きです付き合ってください」

「毎度毎度ロマンチックな演出もない告白。零点だよ」


 放課後早速行動へ移すも玉砕。

 もう立花の傍若無人ぶりも心地良く感じるや。僕はマゾの素質あったんだね……。

 

 二十三日


「うまいだろ?」

「うん。いいお店知っているね。さすが男子」


 何故か立花と食事していた。

 発端は最近飼った猫の予防注射。

 溺愛しているため可哀想で暴れることもあり女の子一人じゃ付き添い無理だったと。

 男子は距離を置いているので知り合いは僕しかいないから白羽の矢が立った。


「立花、これってデート?」

「断じてデートじゃないわよ! この年中発情期。何でもかんでも色恋沙汰にしてこれだから童貞高校男子は駄目よね」

「確かにラーメン屋じゃ雰囲気も台無しだもんね」


 僕は醤油ラーメンを啜る。

 立花は味噌ラーメン大盛り……のお代わり。体育会系だけあって食べるなぁ。すげーわ。


「ふん!」


 あんただったら余計な緊張もしないし一緒にいても気疲れしないから楽なのよ⸺立花は下を向きゴニョゴニョ呟いていたけど聞き取れなかった。

 それにしても立花の猫どこかで見た気がする……はて?


 二十五日目


 今日は立花と待ち合わせして映画鑑賞。

 好きな小説の実写化だからどうしても行きたい、でも深夜のレイトショーだから女の子一人じゃ危険でしょ? ⸺だそうな。

 どうも用心棒です。


 この前の試合で捻挫してしまった立花は部活休んでいるから暇人。

 なので最近は毎日LINEでやり取りする。

 将来彼氏ができたときの予行練習だそうな。


 立花の距離が一気に近くなった。

 なのでこの映画鑑賞もその一環。けしてデートではないと釘を刺される。

 まあ、それはいいのだが、四六時中SMSを使ってくるので一緒にいるのと変わらない。

 深夜に質問攻めで疲れることも……。でも何故かこれで告白しようとすると怒る。

 真剣味が足りないと。あとスタンプだけもNG。


「ええぇ……………………これは恥ずかしいわね」

「まじかよ…………」


 この映画、恋愛ものだから告白するにはうってつけのシチュエーションかもしれない。

 が、ラブシーンが予想より激し過ぎ、かえって萎縮してしまった。

 終わったあとも気不味くて告白どころか声すら掛けられない。

 やっと告ったのがラブホテル前なので、「このエロザル! 私の体が目当てじゃないでしょうね⁉」何故か立花にビンタされる。理不尽だ……。


 二十七日目


 今日は誘ってくれた立花の親父さんが運転して温泉地へ。

 幸い今日は学校が特別休校だったので時間を持て余すところだったから感謝。

 何でも商工会で貰った日帰り温泉のタダ券が余っていたから日頃身体を酷使している立花の湯治を兼ね、お店を休みにしてやってくる。

 朝から車乗っていたので窮屈だったが背伸びをすると硫黄の匂いが鼻腔をくすぐる。

 さすが本物、そこら辺の銭湯とは風格が違った。

 しっかりと露天風呂でお湯を堪能したい。

 しかしそこには立花が先に入っていた。


「ここ混浴だったみたいね……」

「うん。驚いた」

「突っ立ってないで入ったら?」


 何て答えていい思いつかないから頷いて誤魔化すように入る。

 ちなみにおやっさんはお風呂入らないでビールを煽っていた。これは夜まで帰れないかな……。

 混浴は初めての経験でどう感想していいか戸惑うが一言、普段なら絶対見れない入浴中の立花が可愛かった。


「いくら湯浴みをきているからってジロジロ見るな……その恥ずかしいよ」

「まことに申し訳ない」


 ここの露天風呂は若い人が利用することも配慮して女性はお風呂用ワンピース、男は海パンを導入している。

 今日はたまたま団体さん受け入れで利用客が多いから二人で話すのも緊張する。


「好きだ付き合ってください」

「ちょ、ちょっとタンマタンマ! 確かにシチュエーションは最高だよ。でも高橋、場所をわきまえて。こんな観衆の中で告白するな! ロマンチックのかけらもない。五十点」


 ついいつもの癖で告白するも、確かに周りにおじいちゃんおばあちゃんが入っているので羞恥プレイだった。

 ほっほっほっワシの若い頃じゃのうとか、あらあら若いっていいわね〜などと聴こえてくる。  

 慣れは恐ろしい。申し訳ない。


 二十九日目


 今日は日曜日。

 立花とショッピングモールへ出かけていた。新しいバレーボールシューズを買いにきた。

 捻挫した原因でもある使い古した靴が壊れたから。


「これはデートじゃないからね。買い物だから男手が欲しかっただけだよ。他の意図はない」

「うん。でも立花が僕を頼ってくれてとても嬉しいよ」


 ふんっと鼻を鳴らし早足で歩く立花。熱いのか顔が紅かった。

 そのまま結局空が暗くなるまで遊んでしまう。

 勿論僕は立花を自宅近くまで送り届ける。その間お互い無言で気まずかった。


「ここでいいよ」

「分かった。立花、今日も楽しかったよ。またあし⸺?」

「…………っ!」


 帰り際不意に、「ううー!」柔らかい立花の唇が僕の唇へ重なった……。


「かかか、勘違いしないでよね! ……そう……まだ足の捻挫が回復していないからよろけただけ。これはノーカンだから! ノーカン! いいわね⁉」

「分った。気にしないよ」


 だが立花は……鈍感、大嫌いと呟き走り去る。僕は選択肢を間違ったのかと立ち尽くした。

 いや、立花は僕に好意があるわけがない。勘違いするな勘違いするな。

 立花は優しいからこの馬鹿げた茶番に付き合ってもらっているだけだ……。


三十日目


 学校も夏服に変わり、気温も上がってきた。空には入道雲、梅雨明け宣言はまだ先だから路面は濡れている。

 そして僕もいよいよ最終日がきた。

 もうこれで立花と関わることはないだろう。でもバレーは一人のファンとして最後まで見届けるつもりだ。


 初回と同じ空き教室へラブレターを机に入れ立花を呼び出す。

 あの頃と同じ仏頂面でショートの髪を弄る立花。

 何も話さず僕が言葉にするのを待っているかのようだった。


 最後、僕は全身全霊想いを込め、「立花道雪さん好きです。付き合ってください!」頭を垂れる。


「いいよ」


 罰ゲーム漸く終わった……。

 罪悪感と共にこれで僕は失恋を実感できる。

 立花には悪いことしたな。毎日さぞウザかったろう。


「今までこんな馬鹿げたことに付き合ってくれてありがとう。そしてごめんなさい。さぞ不快だったよね。もう立花に声をかけないよ。今後は無視しても構わない」

「だからいいよって」

「たった一ヶ月だったけど毎日君に会えて楽しかった。嫌われていたけど好きな女の子と会話できて夢のような毎日だったよ」

「高橋……人の話聞けー! 付き合ってあげるって言っているでしょ!」

「え?」


 顔を赤らめながらハアハアと息を切らす立花。

 僕は予測外の出来事に思考がストップする。


「か、勘違いしないで、あ、あんたのこと別に好きじゃないんだからね!」

「じゃ何故に?」

「心に決めていた。部活に専念したいから彼氏は作るつもりはない。でももし一ヶ月告白する根性がある奴が現れたら、全てを捧げて付き合ってもいいかなって……」

「ありがとう。夢のようだ」

「いいよ。これでうちの店も安泰。お父ちゃんも喜ぶよ」

「なんで?」

「決まっているでしょう。私と付き合うってことは結婚して店を継ぐことだよ。ひいおじいちゃんから続いているから潰す気はないの」


 手渡される用紙。結婚届だった。


「へ?」

「だからあんたは私の旦那様よ。拒否権はない」

「でも、僕達はまだ学生。気が早いんじゃ」

「うるさい。だから拒否権はないって。あんた今独り暮らしでしょう? 今日から私がご飯とか作ってあげるから。毎日掃除洗濯もしてあげる」 

「え?」

「あんたに私の全部あげる。もう墓石まで一緒だから。じゃあ今度の休みの日に高橋のご両親へ挨拶に行きましょうか。うん決定」


 僕は困惑していたがエネルギッシュな彼女に振り回されっぱなして、大好きだよ紹運と呟くも十年後の結婚記念日まで、あの時弱っていた猫を助けたのが切っ掛けで恋に堕ちていたなんて気づかなかったのだった。

 ちなみにうちの飼い猫誾千代はまだ元気。



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