第6話 「デートできるよ。良かったね」ってさぁ……②
「朝からどんよりとした曇り空だから待たせるわけにはいかない」と
かなり早めに家を出たのに……揣摩さんはオレに向かって手を振った。
「ごめん!オレ、時間間違えた?」
「ううん!私が早く着き過ぎたの。お父さんにクルマで送ってもらったから」
「そっか……悪かったね。屋外じゃ寒かったでしょ?!揣摩さん、マフラーもしてないし……」
「大丈夫、そんなに長い時間は待ってないよ」
「とにかく温まった方がいいよ。奢るからさ!」
◇◇◇◇◇◇
揣摩さんがニコニコしながら抹茶ラテを飲んでいるのでオレもホッ!としてコーヒーカップに指を掛けた。
「和田くんってオレンジ色とか黄緑色が好きなの?」
「えっ?!」
「マフラーの色がそうだったから」
「ああ、このマフラー、出がけに姉ちゃんから押し付けられたんだよ」
オレはマフラーを取り出して揣摩さんに見せた。
「ほんとだ。ここ、長い髪の毛が付いてる」
クスクス笑う揣摩さんは『ウチの姉ちゃんや田中さんとは違う』穏やかな女の子と言った感じだ。
そう言えば……“厨二”の頃、密かに憧れていたクラスメイトの吉永さんに雰囲気が似ている。
あの頃夢想していたデートの風景に今、オレは居るのかな……
「あっ!雪降って来た! 残念だなあ……あと1週間遅ければホワイトクリスマスなのに……」
「そうだね……でもさ、もうクリスマス週間ではあるんじゃね?」
「どうして?」
「田中さん推しの“マサヤ様”のクリスマスコンサートは今日らしいから……田中さん、“デマチ”?するらしいよ」
こう言うと揣摩さんは抹茶ラテのカップを口元に当てて微笑んだ。
「寒くないのかしらね?まあ、あの子らしいけど……」
◇◇◇◇◇◇
「今日、マフラーをして来なかったのは毛糸選びに影響しない様にしたかったの」
揣摩さんがオレを連れて来たのはギフトショップではなくユザ〇ヤだった。
「お兄さんへのプレゼントって?」
「マフラーを編んで渡そうと思うの」
「ああなるほど……でもオレ、役に立たないんじゃね?」って訊くと
揣摩さんは「そんな事、ありません! 男の子の意見は重要なんです!」とたおやかに笑った。
で、何をしたかと言うと……毛糸の束をオレの首元に持って行って色合いを見たり肌触りを訊ねたりした。
「このベビーアルパカシルクとカシミアの混紡糸はどうかしら?」
「肌触りは抜群だと思う」
「色もどれも素敵!!迷っちゃう!」
「予算があるんなら何色か買って途中で色替えしてみたら?」
「そうね! そうする! もし糸が余ったら和田くんにもお礼するね」
「お礼なんていいよ」
「だから、もしかして糸が余ったらの話!」
ふわっと近付いて来た揣摩さんはオレにこう囁いた。
◇◇◇◇◇◇
外はすっかり雪景色で……空から大きな粒の雪が次々と落ちて来る。
バスで帰る揣摩さんとターミナルまでやって来ると大変な人だかりだった。
どうやら電車が止まってしまっているらしい。
揣摩さんを乗せたバスを見送ってからオレはスマホを立ち上げた。
余計なお世話だとは分かっているけど……やはり田中さんの事が心配だったから。
次話へ続く