番外編 小さなエロリスト
今回は“田中さん目線”のお話ですが、『大人になった』田中さんが過去を回想します。
何度も自己申告しているが、あえて言おう!『私は腐女子』だと!
なぜ、今更そんなことを言うのか?
それは私が、今、銭湯の洗い場に居るからだ。
おっと! 早とちりをしてはいけない!!
今私が居るのは、あくまで女性の浴室だ!
マンガやアニメなどでよく“お風呂回”なる物があって『ムフフ♡』な状況に陥るのが定石なのだが……現実は異なる。
銭湯に於けるうら若き乙女(ここで私自身、胸を張っても“殿方からは”怒られはしないだろう)の人口比率はごくわずか。大抵はガッツリおねーさまなのだ。 あと不必要に燥ぎ回るガキンチョが少々
この事象から類推できる事
それは
『男性の浴室』も同じようなもの!!
私が垂涎する“暁人サマ”や“城谷サマ”のような方がおられる訳はなく……とどのつまりトド集団……
こんな妄想を繰り広げながら……
ジャバジャバとシャンプーを流していた私はふと気配を感じて、水しぶき越しに見上げると……そこまでの背丈のない男の子が……パタパタと駆けて行った。
「う~ん!! 未就学児では無さそうな……あれ、この間ポスター見たぞ! 就学児の混浴は今は条例違反のはず??!!」と思わず、彼を目で追う。
でも しなやかに“裸の木たち”をすり抜けていくその様は……まるで“ニンフ”のようで……
私はアタマの中のスケッチブックを大急ぎで広げていた。
「まあ、画力の足しになったのだから……良しとしよう!」
そう独り言ちって私はシャワーを止めた。
◇◇◇◇◇◇
お風呂上りはもちろん“作法”にのっとって腰に手を当て、コーヒー牛乳をグイっと飲る。
本当はフルーツ牛乳がベストなのだが……絶滅してしまったからコーヒー牛乳にシフトしたのだ。ひょっとしたらこれも絶滅危惧種なのかもしれないが……
「ふう」とひといき付いて周りに目が行くと……ベンチにはいつの間にか“ニンフ”が座っている
……って!!
思いっ切り!!フリ◇チンじゃん!!!
頭の中のさっきのスケッチと相まって
私、たぶん、子供の石像の絵、描けてしまうと思う……
つっか、ニンフ、ノート広げてお絵かきしてるし!!
何? おまんじゅう??
あられもない自身の姿に対してではなく……そのスケッチブック?に対して注がれている私の視線に“ニンフ”は反応して、描きながら説明してくれた。
「これね……おねーさん!」
子供らしいフリーハンドで描かれたそれは……おっきいのと少し先細りの丸……顔と胴体?? なんで寝てんの??
「私の事、描いてくれてるの? できれば脚とか手。描いてくれると嬉しいなあ」
「かかないよ! じゆうけんきゅうだもん」とニンフは丸の中にポチンポチンと点を打って……会心の出来栄えに鼻を鳴らした。
「えっ??!!!」
私はニンフとスケッチブックの両方に視線を行ったり来たりさせた。
ざわざわとした心が……私の“コンプレックス”と符合した。
「キャー!!」
思わず叫んでニンフの手からスケッチブックを奪い取り、パラパラめくると……ページのすべてが!!
ペアの……いろんな“おまんじゅう”とその上に乗っかる“おまめ”に溢れていた。
「こ、このエロリストめが!!!!」
「あー!! おねーさんがしゅくだいとったぁ!!!」
「こんなのが宿題なわけないでしょ!!!」
「じゆうけんきゅうだもん!! だってパパもいっぱいほんかってるもん!じゆうけんきゅうしてるもん! しゅくだいかえせ~!!」
こいつのオヤジがエロなのか!!
間違ってもその『親の顔』は見たくないが……
「なになに」と他の大人が寄って来そうなのでやむなくスケッチブックをニンフの手に戻す。
「お母さんは?一緒に来たんでしょ?」
「いない! いつもぼくひとりだもん。パパとは日ようだけ」
ったく親も風呂屋も管理不行き届きだよ!!
とにかく!!
バッチリとコンプレックスを描き写された“私の”だけでも回収せねば……
「ねえ、ボク! そのおねーさんの絵、くれないかな?」
「ぼくじゃないよ、ハルキだよ。しゅくだいだもん。あげないよ!」
私は引きつりそうな表情を抑えながら言葉を継ぐ
「そお、ごめんね、ハルキくん。でも自由研究ならもっと素敵なものがあるじゃない。昆虫採集とか……」
「コンチュウ?」
「そう、虫捕り! おっきな網で取るの!! カブトムシとかカッコイイでしょ?!」
「しってる!! ヘラクレスオオカブトやコーカサスオオカブト!!」
私だってカタカナ名前のカブトムシがこの日本に棲息して居るとは思わなかったが、昆虫採集と引き換えに絵の譲渡をする事をハルキに約束させた。
さて、しかし、どうしたものか……
私はスマホを見つめ
『クラス委員(和田)』をタップした。
秒で出た!!
「あ、夏休みごくろーさん」
『どうしたの?田中さん』
「実は成り行きで昆虫採集することになってさ!オトコの子と」
『ええ???!!!』
「いや、そんなに叫ばんでも!! 相手はチビさんだし、いろいろ不安だから……付き合ってくれたらありがたいんだけど……」
『なんだ……びっくりしたぁ~ 場所、決まってるの?』
「ううん!どこに行けばいいのかもわかんない」
『オッケー!! 任せて!』
「ごめんねーせっかくの夏休みに付き合わせてさ」
『全然!! こう見えてもオレ、小学生の時は“虫捕りヨッちゃん”って呼ばれてたんだ!腕が鳴るぜ!! あ、服装は長袖長ズボンな! 色々危ないから』
こうして図らずも和田くんとコブ付き虫捕りデートをする事となったわけだ……
◇◇◇◇◇◇
「あっ!! クワガタいる!!」
「ダメ!! ほら!あの向こう! トラジマの大きなハチ! スズメバチだから!! 手、出したらマジヤバい!! とにかく離れよう!」
「エーッ!」とぐずりかけるハルキを引き剝がして、私たちはそっと後ずさる。
「クワガタは残念だけど……セミはいっぱい取れたしアゲハチョウにトンボまで採ったからいいじゃん!」
実際は……セミの殆どとチョウやトンボは和田くんが採った。 カレ!確かに凄くて……水際でトンボを採った時の網の振り方は殺陣のように鮮やかで、思わず眉目秀麗の剣豪へ腐女子脳内変換して“リプレイ”しちゃったくらいだ。
でも現実の和田くんは“子煩悩”レベルでハルキに色々と教えている。
私はと言えば……手には軍手、首にはタオル、中学の時の学校ジャージに綿パンとハイカットのスニーカー+帽子と野良スタイルのマスクにサングラスとめちゃくちゃ危ない恰好だ。
なんせ
「人生初の男の子とのお出かけになんて恰好をするの?!」とお母さんに泣かれたくらいに……
だって、相手はこの二人だよ!! おしゃれして何するの?!
おっと!話が反れたが……私はこの危ない恰好でふたりを微笑ましく見ていたのだ。
結局、ハルキが欲しがっていたカブトムシもクワガタも捉まえる事ができず終了となった。
「実は仕掛けて置いたワナを今朝も見に行ってたんだ。カブトムシが1匹いたから捕まえておいた。取りに行ってくるから待ってて」と和田くんが自転車を飛ばして自宅へ向かっているうちに……
私は例の絵を手に入れた。
家から持ってきた百均の虫かごには大きなオスのカブトムシと昆虫ゼリー?が入っていて……和田くんはそれを、ハルキのおうちの人宛てに書いた手紙と一緒に彼に渡した。
夏の日は長くて……辺りはまだ明るい。
私は用済みになって外した軍手を束ね、ボールのように丸めて和田くんに投げた。
カレ、パシッとそれを片手でキャッチして自分のとハルキのを合わせ、3つのお手玉にして私たちにプチジャグリングを見せてくれていたが……
「ハルキ!キャッチボール。したことある?」
と声を掛けた。
ハルキが少し長くなった自分の影に目を落として
「ない……」と答えたので
和田くんは軍手のボールをハルキにふんわり投げて……
ふたり、ゆっくりとキャッチボールを始めた。
陽がだんだん傾いて来る中……最初は途切れてばかりのキャッチボールも
徐々に行ったり来たりし始めた
ああ、なんだか
なんの映画だったか……
テレビで放映していた……
こんなシーンを
観たことがある。
その時、映画の中で流れていたオーケストラが
頭の中に響く。
そう、その映画では……
陽が落ちて辺りが暗くなると
主人公の奥さんがグランドの照明を点けるんだ!
そう思った瞬間、二人の上の街路灯がチカチカパッ!と点いて
素敵な偶然に
私の目からスッと涙が零れた。
◇◇◇◇◇◇
もうずいぶんと時が経ってしまったけど……
私はその絵を久しぶりに取り出して眺めている。
思い返して見ると私は“あの時”……
そう、ホワイトデーよりもっと前の……夏のこの日に……
和田くんに恋したのだ。
それはきっと本能めいた直感に根差すもので……
だから思い返して今も胸が温かくなる。
ハルキはあれからしばらくして引っ越しして行き
初めてできた“弟”の居なくなったカレはかなり落ち込んだ。
あの時は慰めてあげたなあ……
それから更に2年くらい経って
私は……コンプレックスだった左右不揃いの胸を……初めてカレに見られた。
今は……そう……左右同じくらいだわ……
私……“リアル”は『和田くん一筋』だから……
この胸は
カレとヨシカゲに育てられたという事か……
大きさもあの頃とは違うしね(キャッ!!)
「ママ!! パパってすっごいんだよ!!」
家に帰ってくるなり私の膝へコロコロ飛んでくる息子
「こら! ヨシカゲ!! ちゃんと手足を洗わないとママが……」
聞こえて来る夫の声……
どうやら『虫捕りヨッちゃん』は、まだまだ健在なだけではなく……二人に倍増してしまいそうだ。
おしまい
ひとまずこれで終了ですが……和田くんと田中さんのお話はまだありますので、こちらへ追加するかもです(^_-)-☆
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