第8話 呼んでいいよ ~ 初めてのホワイトデー②
放課後、ちょうどうまい具合に独りで居る田中さんを見つけた。
オレはネクタイの上から胸に手を当てて、今日何度目かの深呼吸をした。
やっぱり今回が一番緊張する。
マジ、心臓早鐘!
ガラガラと教室のドアを開ける。
「クラス委員が机の上に座っていいの?」
田中さんがこちらをチラ見する。
「和田くんだって、いっつも座ってんじゃん、あ、ドア閉めてね。3月も中旬なのに寒いね~」
「3月は気温の変動大きいから……ほら、中1の頃だっけ? 大雪になったし……」
「そうだね……思い出した!あの時、私、猛烈に好きな人がいてさ!」
「えっ?!!」
オレの胸は激しくざわつき鼓動はますます早鐘だ!!
「ひょっとして同中の人?」
田中さんはアハハハと笑った。
「ワタシャ腐女子だよ!好きだったのはリヴァイ様 でね、当時中1の私は雪降り積もるイベント会場の関係者専用ルートで声優のヒロシ様の出待ちをしていたのでした。チャン♪チャン♪」
キラキラと笑う田中さんの横顔に見惚れ、オレの前には“とんでもないライバル達”がいつも立ち塞がっているのも思い知らされた。
「そう言えば、スケベな和田くん。ラブレター見たよ」
クツクツ笑う田中さんは「揣摩さんが送って来た」とLI●Eの画像を見せてくれた。
そこには確かに、オレがキャラッセルと一緒に手渡した手紙の画像が表示されている。
『揣摩八重子様 先日はバレンタインデーにチョコレートをいただきありがとうございました。 物の価値が分からない僕なので、家族の者にその価値をレクチャーされながら分け合って美味しくいただきました。 それに見合うかどうか、自信はありませんが、ホワイトデーにお返しを贈らせていただきます。 それと、お手紙も読ませていただきました。実は僕には好きな人がいて、片想いをしています。なので揣摩さんのお気持ちは、少し分かりますが、ごめんなさい。 あなたの気持ちには応えることのできる僕ではないのです。お許しください』
「あなた、これとほぼ同じ文面を、加藤にも明美にも渡したでしょ?! 今日一日、大変だったんだから……特にあの三人、こじれるわよ~!」
しまった!! 考えが足りなかった。 断るにしても、オレはもっと努力しなきゃいけなかったんだ!!
「本当はあの三人の中の誰かを好きなんでしょ? バカねえ~! こういう時はハッキリと意中の人と付き合ってあげたほうがいいのよ」
オレ、たぶん胸の痛みで顔が引きつっていたと思う。
「片想いの人はあの三人じゃない」
「えっ?! そうなんだ ま、それでも、その人に告白した方がいいよ。なんか、どうやら私にまで気を遣ってくれてるみたいだけどさ、“チロ□チョコ”の私の事なんかより、やる事があるはず!」
オレは思わず
大きくため息をついてしまった。
無言で、
手に持ったプレゼントを差し出す。
田中さんの為に
見つけ出したプレゼント!
中身は100均の品だけど
包装紙も
やっぱり100均だけど
この事だけの為に
田中さんをイメージして
選んで買った。
「ホホホ チ●ルチョコが包装紙の付いた箱になったよ、わらしべ長者だね。開けていい?」
と可愛く小首を傾げられて
オレは一も二もなく頷いた。
「うわあ!! デッサン鉛筆?! 8本入り?! 6Bも4Hもある!! 凄い!!エモい!! 恐るべし100均!!」
とめちゃめちゃ感激してくれた。
「こんな喪女腐女子まで感動させるとは!! キミはそのスキル、ムダ打ちし過ぎだよ!! それは逆に罪! 早く片想いのコに……」
オレはもう我慢できなかった。
「田中さんだから!!」
オレが大きな声を出したものだから、田中さんはキョトンとしている。でも、もう後へは引けない!!
少し、声は抑える。
「田中さんだから、田中さんがくれたチロ□チョコだから一所懸命にそれに見合う“お返し”を探したんだ。こんな風に、喜んでくれる田中さんの顔を想い浮かべながら……」
田中さんは、まだいぶかしげだ。
だから田中さんが言うようにハッキリと告白しなきゃ!!
「好きです!! 田中さん! あなたの事がずっとずっと好きでした!!」
「へっ?! えっ?! ちょっと! いやいや、 えっ? ええっ~??」
ああ、なんて反応!! マジ凹む!!
田中さん、手を額に当てて凹むオレをマジマシと覗き込んだ。
その仕草、表情が可愛すぎて萌え死ム!!
「ワタシ喪女腐女子ダヨ 全~然!! 可愛くないんダヨ」
相変らず無自覚に可愛らしさを振りまかれてオレはクラクラする。
「可愛いよ!! めちゃめちゃ可愛いよ!! 息止まるよ!!」
「ア、アリガト、 何と言うか、何と言うか、うん、ちょっと困っているけど……」
「だろっ?! だから、困られるに決まってるから、ずっと我慢してたんだ!! それなのに、田中さん、あんな事言うから……」
「『決まってる』なんて決まってない!! 思い上がらないで!!」
田中さん、ちょっとだけ気色ばんだ。
「ゴメン……」
「それと……さ」
田中さんはオレの傍から離れて机の上に座り直した。
「田中さん、田中さん、ってあんまり連呼しないで…… キミのお陰でだいぶ慣れたんだけど……『タナカ』っていう響きがね、あんまり好きじゃないんだ。だから……」
そうなんだ! オレが悩んでいたことは、そういう理由だったんだ。
田中さんは一旦、目を伏せてから、すーっとオレを見た。
その潤んだ瞳のその顔で、どんなトドメの言葉をオレに投げかけて来るのだろう??
でも、覚悟を決めた。
よし、バッチ来い!!
「呼んでいいよ」
「えっ?」
「キミも呼んでいいよ『千景』って」
「それって??」
「う~ん、つうか、呼べ! 命令!!」
田中さん、言いながら吹き出している。
「あ~あ、なんだか、すっごくドキドキした!」
「オレも」
「いやいや それは変でしょ! ドキドキの原因を作ったの、和田くんだもん」
「オレ、田中さんの前だと、いっつもドキドキしてるよ」
田中さん、サッと顔を赤らめてパーン!とオレの背中をぶっ叩いた。
「千景でしょ!!」
「ん、あ、そう、千景には……ドキドキさせられる」
田中……もとい千景は
ちょっと困った顔で
でもニヘラと笑ってくれた。
「ドキドキの安売りは……しないでね」
次話へ続く




