3日目-②
本来なら5000か8000くらいは取りてえよな……と思いながら。平原に出る。まあこの少女はもう……AランクとBランクとCランクの違いも理解していなさそうだし……(何故なら魔術に関係がないから、俺はもうそこまで理解した)……まあ。どうせ短時間だろう。
選り好みをしているのはこちらだ、と考えながら、…ずかずか進んでいく少女の襟を、引っ張った。
「……おい」
「あ」
ふわっと少女のケープのフードが外れる。
…見るも、見目麗しい少女だった。顔つきを見ると少し大人っぽく見える。
ぱっちりした青緑色の瞳。ぽてっとした小さな唇。化粧も何もしていない(そりゃあそうだ)、さらさらと艶めいて長い金の髪、は無造作にフードを被せられてぼさついている……。
…少女はサッとフードを被り直した。
「…行くわよ!」
「……はい」
……どうして顔を隠しているのだろう。
コンプレックスがあるような表情には見えなかった(あるのかもしれないが)、実は有名人なのだろうか?そんなことを考えるのは、自分の、悪い癖だが……いや今回ばかりは考えてもいいのかもしれ……いや……まあ。まあ……。
…まあ、考えないのが、自分の、ポリシーだが。
……一瞬フードが外れただけで、ばっと集まった、行商人や冒険者の視線のことを考える。……ちょっと近寄っておく。
……。
「どうしたの?」
「……いや」
……まあ。
気にしないことにする。
「制限出力が変わるといっても今まで1で出力していた魔力が2になるだとかそういうことではないの!つまりこれは街の中に張られている魔法制限結界が魔力の絶対値を縮小させるだとかそういうものではなく魔力の噴出そのものを抑え込んでいる結界だということがわかるの!規定魔力量より多い量の魔力を出力した場合同程度の反魔力を結界が放出して……」
「ウン……?」
「一定の区域は反魔力の放出を行わない、あるいは反魔力に対する反魔力を出力することで、これはけっこう魔力の無駄になっちゃうんだけど、街中の魔法使用可能区域あるいは街中での魔法の使用は可能となっている訳なのよね魔法使用のための反魔力に対する反魔力出力の魔道具はああ魔道具はそもそも極小の魔力量で機構を動かすどちらかというといえ全く魔法ではなく魔術に該当する機構でだからそういう魔道具は機構自体には極小の魔力量しか使っていない訳なんだけど反魔力に対する反魔力の出力、だからそもそも出力するための魔力がかなり多く必要で」
「ウン………………」
「わからなくなってきたわ……」
本人もそうなるのか?
あ。スライム。あからさまに闘争心が剥き出しの表情をしているので倒しておこう。ガッとする。
ガッとして魔石を拾うとシルフィーは喋るのを止めて、ちょっと距離を取ってしょんぼりした表情をしている。魔石を触っている。
「………いのちじゃないの?」
「…別に生き物じゃねえよ」
「……生き物じゃないの?」
そうだよ。心優しい少女だなあ……。
「魔物ってのは、魔王が魔術で生み出した防衛プログラムの入った魔力の塊だよ」
魔石を拾い上げる。
「魔石を元にして、このスライムだったら、こういう形を取って、こういう防衛行動をするようにっていうプログラムが入ってる」
「自己防衛行動?」
「いいや。魔王と魔王城のガーディアン。だから怖いぞ〜どんなに体力が少なくなっても変わらずこちらを排除しようとしてくる」
あっ怖がってる!ごめん!ごめん!怖がらせるつもりでは!
よしよし……
ちなみに前魔王はもうとっくにいなくなってはいるが、魔物は未だに残存している。
シルフィーは少しくすんと泣きそうな顔をしながらも、興味を隠せない表情で魔石を見つめている。
渡してやる。
「……魔法なの?」
「そうだよ」
ああまあそういう顔になると思った。
「魔物は何で出来てるの?」
「魔力。魔力と魔石。だから魔物は全部自分の魔力を使い果たせばただの魔石に戻る。」
シルフィーは魔石を不思議そうに眺めて、ぎゅっと魔力を込める。お。勘がいい。
魔力を込められた魔石はぱきんと2つに割れた。
「あっ」
「……それがテイム。自分の魔力で魔物を再構成すること。でもコツと、魔力が要る。魔力は足りてるだろうけど……コツが要るとしか言いようがねえよなあ……。」
俺は全然専門じゃねえし……。
「魔物の行動パターンとか、体力がどれくらいある、とかしっかり認識してた方がやりやすいって聞いたことが……」
…えっ!?泣いてる!?!?!?
泣くほいや泣くほどのことだったんだな!?この子にとって!!!
「いっ……いっこしかないのに!」
「そうだな……」
こういうやつがいるから魔石って高く売れるんだろうな……。
「も、もいっこ………………持っていたり、しない、かしら…」
「欲しかったら自分で取ってきな」
その辺にまだまだいる……とか言わないうちに!
「気をつけろよ!本当に!」
「ええ!」
「魔石取りたいならコツはなくもないがとりあえず自分の安全を第一に——」
「わーっどうするの!?どうするの!?わっわっどうすれば魔力が減るのってあっそうだ魔力の吸収わーっうまくいかない魔法の即時!発動むずかし、」
…救助!
「……戦闘に向いてねえな」
「ごめんなさい……」
貴方に世話をかけてしまったわ、と。向いてないなあ……。
「……じ、自分で。やれるようになるわ」
「大丈夫だよ。…もともと魔法職なんて後衛なんだ」
それより自分で何とか出来ると思わない方がいい、と。
「誰かを頼りな。…俺でもいい」
「……」
「…まあ俺とパーティー組むんだったら。随分金がかかる事になっちまうがね……。」
「……お金がかかるの?」
「……そうだな」
魔法のことを考えているときより、少し長めに何かを考え込んでいる。
「……もしかして、貴方。えらい人というか、すごい人というか……………………………………………………つよい人なの?」
「……………………………………………………」
なんというか、バレちまったなあ……………という感覚の方が強い。結構何も知らない無鉄砲な物言いも好きだった。
「……そうなの?」
「…まあ、……………………それなりというか。何というか」
「それなりなの?」
それなりではないんだが直球じゃないと通じない少女だなこのガ……んん……んんん………
「…まあ……………………………」
「言うに言われぬ事情があるのね!」
よかった。通じた……
「私貴方を尊敬するわ!」
手を握られた。えっ。思ってた反応と違う……が……
「すごい人なのね!尊敬するわ!すごい!」
…その自信はどこから来る?
口説こうとしているのか?おべっかを……
……下心を持って、ちやほやして、いい気にさせよう…と………………
……俺この子がそんなことしてたらもう人を信じられなくなるな……。
そんなことはないと祈りたいが、そういう訳でないのならどういう訳なのかはわからない。
態度は変わらなかった。悪くないが……謎は深まった。