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入学記念パーティー-②

「……本日はお招きいただきありがとうございます。ケスカール夫人」

 お嬢様が頭を下げて一礼した。

 ただしそれは俺が言った。

「いえいえ〜ほらやっぱり、来年度はシルフィー様も魔法学校へご入学なさるでしょう。皆様で顔を合わせておく機会を作れて、私もとても嬉しく思っていて……」

「…べつにわた……」

 手で口を塞いだ。

 人差し指をしいと口の上に立てる。

「……毎年のご恒例とのことで。ケスカール夫人のご尽力に大変感謝しております」

「あらあら〜。……ところで、本日はシルフィー様のお声が聞こえないのだけれど」

 ぎくっ。

「位の低い伯爵夫人とはいえ、感謝のお言葉の一つくらい貰いたいものだけれど」

 …………………………

 お嬢様が一礼した。

「…ほんじつはお招きいただきありがとうございます。ケスカール夫人」


 ………………数秒場が固まる。

 

「……ええ。よろしいのよ〜そんなに腰を低くされなくたって〜〜なんていったってあのダンタリオン公爵の愛娘さんですもの〜〜……」

 ……助かった〜〜〜〜〜〜〜〜

 どっちだという顔をしているがお嬢様。そういうもんなんですお嬢様。たぶん。

 叩き込まれたルールによるとたぶんそうだ。

 ……パーティー会場へ入る。


 ……作戦、その1。

『お嬢様は喋らない』。

 幾度の実験により判明したのはどうもお嬢様は嘘・建前を話すのは嫌がるが口をつぐむことは可能であるということ。しかし実際会話の途中で口をつぐんだところでそのまま話が進んでくれる訳でもない。

 …ということで作戦その2。

 ……『俺が話す』。


『本来幼少の。ごく小さなころの礼をするのがやっと程度のご子息ご息女にのみ許される行いですが。やらぬよりは余程マシなのが現状です。……はい。ダニーさん。どうぞ』

『…俺のやることが多すぎるんじゃないかと感じます。失礼ですがスージーさんに代わっていただけたりなどは』

『わたくしも大変忙しいのです!』

 そうかあ……?とその時は思ったが。

『何故ならこの別邸のあらかた全てを取り仕切っていますのはこの私でございますので!』

 次に続いた言葉で流石にそれは忙しいだろうなと考えを改めた。

 ということでまた新しいことを覚えた。といっても新たに覚えさせられたのは人の名前と顔程度だったが。

 そのくらいならなんとかなる。

 ということで現在パーティー会場。



 パーティー会場は王城の庭先のテラスを借り切ったものらしかった。夜だが点々と城のテラスには灯りが灯っており、なんだっけガゼボ……?ガゼボの下ではシェフが手に収まる程度の食事をいくつも作っている。

 ……お嬢様はぼんやりそれを見ている。…お嬢様は黙っていると……非常にお綺麗である。いや黙っていなくてもお綺麗だが。

 今日は長い髪の後ろに薔薇のアクセサリーを付けて、ドレスは鈍い血のような色の……


「シルフィー様とそちらの側仕えの方。本日はお会いできて光栄です」

 ああもうもうちょっと見ていたかったのに!

 

 

『……それから。一つ注意点がございます』

『はい。何でしょう』

『お嬢様は確かに現状悪評ばかりでございますが、しかし何とかして公爵家とのパイプを作りたいという方はパーティー会場でいくらもいらっしゃいます。しかし公爵家息女という相手の身分上自ら話しかけに行くこともできない、かつほとんど相手から話しかけられることはない、かつ相手の態度が悪い。そんな状態でお嬢様ではなく側仕えである貴方が話の大方を代わりに話すという状態になる。』

『はい』

『この場合貴方に話しかけることは身分の問題には何一つなりません。バージリアン家執事とはいえ、多少箔のついた平民程度……男爵未満程度です。かつ貴方は会話が可能である』

『………………つまり。』

『パイプや玉の輿を目当てに平時よりは5倍、貴方が思っているよりは10倍の数の方々に話しかけられるでしょう。かつ誰しも無下に扱ってはなりません。覚悟してください』


「お父様とは仕事でご縁を作らせていただきまして」

「シルフィー様は魔法が堪能とのお噂。是非うちの娘に魔法のご指導をとお伝え願いたく」

 ひ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!

「魔法学校といえば入学試験が私は思い出深く。毎試験結果が張り出されるもので毎度一喜一憂を繰り返していまして……」

「お初にお目にかかります、先日男爵の爵位をいただきましたテモドーロと申します、ぜひお宅のお嬢様へお取り継ぎを……」

 わ〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!

「側仕え様はどちらのご出身ですかな?」

「ダンタリオン公爵は平時より大変威厳のあるお方で」

「本日の食事の用意は当家のシェフがメインを務めておりまして、味にはかなり一家言のある方、ぜひ一度お試しを……」

 あたまの血管がど〜〜〜〜〜にか……ど〜〜〜〜〜〜に……

「…もういいでしょう!!」

 ぴたりとその場の空気が止まった。

 ぎゅっと腕を掴まれる。

「…私お話するのって好きじゃないの!それにダニーが疲れているでしょう!見てわかって!」

 ……しばし、ざわざわと、時が止まった。

「…いやいやまったく、バージリアン家のお嬢様はお厳しい……」

「若い者には敵いません。ここはどうでしょう。若い者は若い者同士に任せるというのは」

「おおそれは良い。それでは、ダニー様と仰られるのですな。是非先程の件は宜しくお伝えいただければ」

 あ………………

 半分くらいになった………………

 ……お嬢様はぷん!としている。

 ……頭を、抱えていいのか、どうなのか。

 ……よく見ると、大体、というか全員、退散している……

「……お嬢様」

「なあに。ダニー」

「せっかく上げた評判が、お下がりには」

「でもそうしたら貴方が倒れちゃうでしょう。もうちょっと断ってもいいと思うの」

「それが許される身分ではございません」

「男爵位の方くらいはもう少し態度を和らげてもよかったと思うわ。それくらいは許される身分よ。」

 お嬢様ばかりがこの場でひどく自由そうにしているように見える。

「なんてったって、この私の、専属の執事で護衛なんですもの」

 わりと声が大きいな、と思ったが。

 ……まあ、それくらいは、伝えておいてもいいかもしれない。人は減りそうだ。

 話の中心は他のところへ変わったようだ。しばし静かになる。

 話しかけてきたのはそれなりの歳の男性が多かったが、会場には若い男女も数多く居る。というか特定の年代の男女と、少しばらけた年代のご婦人や爵位持ちの方々、それからあとは使用人くらいしかこの場にはいない。魔法学校入学記念パーティーなのだから。それはそうだろう。

 お嬢様は……

 ………………友達はいないと、言っていたな……

 話しかけたりする友達はいないのだろうかと一瞬思ったが。それはそうだろう。

 けして、まあ、嘘がつけないというのは。

 話すうえで致命的な欠点ではあれど。……恐らく、性格が悪いという訳でもない、友人が、作れないというほどでも、ないと思うのだが。

 …本当に、ただの一人も、いないのだろうか。

「……お嬢様」

「なあに?」

「……失礼ですが。こういうところで一緒に話せるような、ご友人の方は、いらっしゃらないのでしょうか」

 お嬢様は少し黙って、気恥ずかしそうに一本指を立てる。

「………ひ、ひとり、だけ」

 お。

「……い、いないと、いえない、ことも……」

「今日はいらっしゃらないんですか?それとも、もう来ていらっしゃるとか」

「ま、まだ、いないみたいだけれど……同い年だから、きっと、今日は来ると思うわ」

 お。お嬢様に友人がいらっしゃって俺は嬉しい。

 来たら大人しく退散するとしよう。


 ……ふいに、周囲がきゃあっと色めきたった。

 ドレスの女子達が入口の方へ駆けていく。

「グレア・ド・キルシュタイン・ルステンベルグ殿下のご入場です!」

 グレア……ああ。第一王子か、成程。

 平民からの評判も上々で、何よりとびきりの美男子と有名だ。女性陣のテンションがぐっと上がったのも頷ける。

 入口側で頭を下げている女性たちの脇から、すっと黒い髪の男が現れてくるのが見える。

 ………………わ〜〜〜〜っ顔面が発光してるみてえ………………………………………………………………

 後光か?後ろに光が見えるぞ。どういう状態だ。

「あ。殿下……」

 お嬢様も流石に頭を下げに……

 …行った、のか?いや、それは、行かざるを、得ないだろうが。自分も直に殿下を前にすれば、勿論平伏するほど頭を下げなくてはならないだろうが。

 ……しかし。

 …とたとたと、小走りで、向かうのは……

 果たして、それは、礼儀なのかと。

 お嬢様は女性陣と同じく頭を下げに行く。恐らく礼儀的な観点から、殿下はお嬢様に一番に声をかける。

 二言、三言交わして。にこりと微笑んで……

 ……お嬢様は、こちらへ、戻ってくる。

 …ぶい!と。vサインを作って。

 ……にこにこと、している。

「……お嬢様」

「なあに?」

「……あちらの、方は?」

 

 ……えへへ、と。

「……お、おともだち……」

 ……かもしれないわ、と。




 ……へえ?


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