晴れてその後-②
「お嬢様は魔力量が多いからこそ、それに頼りがちなところがございますな。軸を意識して。足をきちんと踏ん張ってくだされ」
「へろへ……」
へろへろになっている。あからさまに。体力がない……?
何だかそろそろ休ませた方がいいような気がするのだが。甘やかしか……?
「本日はこのあたりに」
「ありがとうございました。先生……」
「きちんと休んで、次回までに疲労を取ってくること」
先生も岩を煮詰めたような顔をしている。やはり……何か、あるような、気はする。
お嬢様がふらふらと結界の外へ出てきた。
「お疲れ様です」
「飲み物……」
「はい。お水とかでいいですかね」
あれっこれ護衛の仕事か……?
「いつもあるの!……でもお水でもいいわ。お水!持ってきて!」
「はいはいはいわかりました」
……?怖いと言われている理由がわかってきた、気もするが。しかし。
それにしても。
なんか本当に公爵家のお嬢様って……
生活の全てが……バカンスみたいになってるんだなあと……
「お水をお持ち致しました」
「……ありがとう」
帰ってくるとお嬢様はソファー……?なんか……肘掛けの片方無い椅子に……横向きに座っていた。メイドはそのままグラスの中に水を注いでいくが。水を頼んだだけでワゴンとなんか……水差し……?とグラスが付いてきたし……全ての部屋がキラキラしているし……
「何かございましたらまたお呼びください」
「ええ」
そもそも咄嗟に厨房まで走っていってしまったが護衛が側を離れては……いけなかったのでは……?
「護衛がお側を離れてよかったものなんですかね」
「……貴方敬語苦手ね」
すみません。でもそういう男を雇ったと思って。勘弁していただいて。
「……まあいいわ。皆固い話し方をされても。気が抜けないもの」
ごろんと横になっている。…眠そうである。
「おねむですか」
「…おねむ?」
「眠そうですねって」
「…おねむよ」
か〜わ〜い〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「……昨日はよく眠れましたか?」
「…どうして、そんなことを聞くの?」
「いえ。なんとなく」
「…………あんまり?」
ちっとも、と。……?
とんとんとん、と。部屋の扉が叩かれる。
「シルフィーお嬢様。ご昼食の準備が整いました」
「…メニューは?」
「ドマーレ海老のスープ。ハカビルデ産白身魚のグリルに香り付けの野菜を添えて、バゲットは王国いちのベーカリーから焼きたてのものを。それから肉料理は根菜のグラッセにバーバー鳥のコンフィを」
うおお……。
「…………いらない。」
えっ。
「ですが……」
………?
「……そう。じゃあ、ダニー、貴方は来るかしら」
えっ?…俺?
「…どちらにでしょうか」
「食堂よ。でないと食事が食べられないじゃない」
ああついてくるかという意味か……???
「まあ俺は護衛なので。お嬢様が食堂に行かれるのでしたら、もちろん付いて行きますが」
「そう。…じゃあ、ちょっとくらい行こうかしら」
「あ、ありがとうございます……!」
……?
謎が多いが。
とりあえず。お嬢様が立ったので。ついていこう。
………………。
こそっとメイドが話しかけてくる。
「あ、あの。今日はお嬢様、ちっとも我儘を言わなくなって。ご昼食にもきちんと来てくれて……」
「そうなのか」
「ダニーさんのおかげです!」
……。
そうだろうか?……いや。
それ自体は。もしかすると。自分の功績なのかもしれないが。
「はいこれスープ。飲んでみる?」
「あのお嬢様。何故俺はこの位置に」
「あーん」
スープのスプーンを口に含まされる。…夢のような味がする……。
………お嬢様、これは、自分で遊んでいやしないだろうか。
さっきからちっとも口をつけていない。どちらかというと俺に飲ませて遊んでいる……
メイドの視線が痛い。…無礼な主人に対する視線だろう…これは。
「おいしい?」
「……贅沢なものを食べているなあと」
「ふふ。もうちょっと飲む?」
………なんだろうか。
「お嬢様。今から少し無礼かもしれないことを言うのですが。構いませんか?」
「どうしたの?ダニー。…構わないけれど」
「飲めないなら言ってください」
……………………。と。お嬢様は固まる。
…やはり。
今日見ていて思ったが。意外に、お嬢様をずっと見ている人、というのは少ない。
誰かは確かに近くに居るが、使用人の人数が多い分、大抵入れ替わり立ち替わりどこかへ行く。
お嬢様を持ち上げる。……それがだいぶ簡単なくらい、軽い、ような気がする。
・体力がない
・大きな声を嫌がる
・食事を摂りたがらない
・眠たそうにしている
そして、恐らく、使用人には『我儘』として認識されているであろう、こういった、いくつかのこと。
「……お嬢様。」
「な、なあに」
「……もしかして。これを食べたくないわけじゃなくて。これが、食べられないんじゃないですか?」
「食べ……」
「……ダニー様。あまり甘やかすのもほどほどに。お嬢様、あまり我儘を言われずに……」
……メイド長が口を挟んできた。いや。…いや。
「じゃあお嬢様。どんなものが食べたいですか?」
「……」
メイド長の視線がじろりとこちらを睨みつける。
「好みなら聞いたって構わない筈だ。厨房のコックに伝えて、次回の参考にしてもらったらいい」
「……」
「…食べたいもの……」
お嬢様は椅子の上で小さくなって固まっている。
「……今は、何も、食べたくない、わ……これ。美味しく、ないもの……」
「……」
メイド長とお嬢様の間に割り込む。
「何なら食べられ…いや。口の中に入れられそうですか」
「…お水、とか…」
「……ダニー様!ほどほどになさいませ……」
「じゃあそれで死んだっていいってのか」
お嬢様の前に膝を付いて手を握る。
「水なら飲めそうですか。食べ物は?」
そういえばさっき飲んでいた。
「……これは…味が濃いから……いや。」
「はい。じゃあもうちょっと味の薄いスープとかは」
「………わからない、わ」
「頼んでみましょうか。ええとそこの……ケイシー。ちょっと厨房に行って。簡単なスープか何か作り直すように言ってきてくれ」
「え、ええと、ですが、作り直すといいましても…」
「じゃあこう言ってきてくれ」
病人食を一食作ってくれ、って。




