32_占いの館
個性豊かで、イケメンぞろいの神々と至高の恋――乙女ゲーム『ラピナスの園』は、確かそんなコンセプトだった気がする。
個性豊かと言えば聞こえはいいが、実際の攻略対象たちは、とにかく個性の成分が強すぎて胃もたれしそうだ。
「どうするんですか? ギノ様とお兄様のせいでお店がめちゃくちゃになっちゃったじゃないですか」
「先に挑発してきたユアンが悪い。それに、あんな悪趣味な展示、子どもも遊びに来る学園祭にはふさわしくない」
「それはそうですけど……」
結局、ギノは全ての的を守り抜いたが、偉大な二柱の戦闘によって店は破壊されてしまった。
ユアンに後始末を押し付けて出てきてしまったが、彼なら何とかしてくれるだろう。
「楽しいのは分かりますけど、悪ノリも大概にしてくださいね。一応、先生なんですから」
「楽しい? 俺が?」
「はい。今日のギノ様、楽しんでいらっしゃるように見えます」
するとギノはわずかに眉を上げ、意外そうな顔を浮かべた。
「……ああ、そうだな。悪くない」
ふいに零れた笑顔に、ウィンターの胸がきゅんと高鳴る。
ギノは五百年も封印されていて祭りどころではなかったし、前世で病気がちだった冬佳も、こういった行事にはとんと縁がなかった。
ウィンターはギノに釣られるように、ふっと頬を緩める。
「私もギノ様と一緒で楽しいです。慣れない者同士、めいっぱい楽しみましょう」
てんやわんやで、無茶苦茶で、かつて自分が思い描いていた理想の学園生活はちょっと違うけれど、案外気に入っている。
せっかく生き直す機会をもらったので、前世で経験できなかった学園行事もひとつひとつ大事にしていきたいのだ。
すると、遠くから女子生徒たちの集団がギノを見つけて駆け寄ってきた。
「あ、ギル先生だ〜」
「ギル先生、私たちと一緒に回りましょう!」
あっという間に女子生徒たちに囲まれたギノ。
「いや、今日一日はウィンターに……」
ギノが振り返ると、そこにウィンターの姿がなかった。
ウィンターはギノが女子生徒たちに囲まれていることにも気づかず、迷子の子どもと話していた。
「迷子になっちゃったの?」
「うん」
「お母さんを一緒に探そっか」
「うん。うっ……えぇ……」
「ふふ、安心したら泣けてきちゃったね。もう大丈夫だよ」
子どもの目線に合わせてしゃがみ、にこにこと話すウィンターの様子を、ギノはどこか誇らしげに見つめていた。
無事に迷子の母親が見つかり、ふたりはそれから、いくつかの展示を回った。外装の明るい雰囲気に惹かれて入った展示がお化け屋敷で、その間の記憶はほぼない。
お化け屋敷を出たあと、看板を持って宣伝をしている生徒に捕まってしまう。
「占いの館、寄っていきませんか?」
「えっ、私は占いとかはあんまり信じてなくて」
「今ちょうど空いていますし、ぜひ寄っていってください!」
「あ、あの……待って、ギル先生――」
しかし、ギノがうさぎの置物の展示を食い入るように見ている隙に、ウィンターは占いの館に引きずり込まれてしまうのだった。
(無理やり連れてこられちゃったけど、どうしよう)
教室の中は幻想的な空間で、天井からは紫の布が垂れ下がり、壁に不思議な絵画が飾られている。
クロスがかかったテーブルには大きな水晶玉が置いてあり、その奥の椅子に、占い師役の生徒が座っていた。レースのベールのせいで顔が見えない。
「あ、あのぅ……よろしくお願いします」
「ようこそお越しくださいました。そちらにおかけくださいまし」
「は、はい」
ウィンターは向かいの椅子に腰を下ろした。
「何を占いましょうか。進路や勉強、人間関係に仕事、恋愛の悩みでも何でもおうかがいしますよ」
「ええと……じゃあ……恋愛相談、で」
ウィンターは真っ赤になって照れながら言った。
「好きな人がいるんですけど、その……相性とか」
占い師が水晶に手をかざしているのを見て、どきどきしながら占い結果を待つ。信じないと言ったものの、興味津々だ。
「相性は非常に良く、自然に心の奥が通じ合っているようです。一緒に時間を過ごしていくうちに静かに信頼が育まれ、寛容で支え合う関係が築いていけます」
「本当ですか? 嬉しいな……」
「夜の相性、も良いそうです」
「夜!? きゃあっ、きゃー……っ」
両手を頬に添え、悲鳴を漏らす。
「そ、そういうのは私にはまだ……。キ、キス……はしましたけど」
「…………」
聞かれてもいない暴露をし、ひとりで悶えてわたわたしているウィンターを、占い師が冷めた様子で見ている。
「ただ――お相手の方、とても身分が高い方でしょう?」
「はい。どうして分かるんですか?」
「ふたりにとって、身分差が大きな障壁になりそうですわね」
ウィンターとギノは、人と神で、大きな隔たりがある。そんなことは分かっているけれど、傍にいられる時間を大切にしたいと思う。
「あと、今のあなたは人生最大の――モテ期に入っていますわ」
「モ、モテ期……? むしろ嫌われることが多いんですけど」
「ですが、複数の異性があなたに好意を抱いているようです」
そんな風に言われてもさっぱりピンと来ないので、やはり占いは、当たるも八卦当たらぬも八卦なのだろう。
「他に聞きたいことはありますの?」
「じゃあ最後に……明日の研究発表を成功させるアドバイスが欲しいです」
「分かりました」
占い師が水晶玉に手をかざすと、淡い光が広がった。この部屋に入ったばかりのときは正直、学生の出し物クオリティだと侮っていたが、本格的な雰囲気だ。
するとまもなく、パリンと音を立てて水晶玉が砕け散った。
予想外の事態にウィンターは目を瞬かせる。
「これって、成功間違いなしってことですか……?」
「不吉ですわ……っ」
「……」
「明日、あなたに――死相が出ております」
不幸体質だとは思っていたけれど、どれだけ運が悪いのか。
研究発表のアドバイスを聞いたつもりが、明日死ぬと宣告されてしまうなんて。
「頭上に注意すれば回避することが可能だそうです。まぁ、あくまで占いですので参考程度にお考えください」
鑑定結果にショックを受けてよろよろと教室を出ていくウィンターに、占い師は「お気をつけて」と意味深な言葉をかけた。
ウィンターがいなくなったあと、占い師――リゼットは、ベールを脱いだ。
(好きな人って、ギル先生のことですわよね)
リゼットもギルに好意を抱いていたので妬ましいが、ウィンターには助けてもらった恩があるため、幸せの邪魔をする気はない。
王族であるリゼットの家系は不思議な占いの能力があり、その力を使って国家を繁栄させてきた。
リゼットもそれを受け継いでいたのだが、まさか、学園祭の出し物にされる日が来るとは一族の者たちも夢にも思わなかっただろう。
「それにしても死相……あんなくっきりしているのは久しぶりに見ましたわ」
そうして、学園祭一日目が終わった。




