30_ありがた迷惑な特別特典
授賞式を終えたあと、レビンはわざわざウィンターを追いかけてきて言った。
「おい。言っておくが、不本意なのはそなただけではないぞ……って、何している!?」
「何って別に、ゴミを破ってるだけですけど……」
「破るな。というかそれはゴミではない」
ウィンターは特典の特別カードを破り捨てようとした手を止める。
「どうしてですか? 嫌いな相手に無理して付き合う必要ないですよ」
「……優勝特典を決める際、契約書にサインした。相手が最悪であろうと文句は言えまい」
(最悪って……本人に言っちゃってますけど)
けれど、配慮がないのはお互い様だろう。
真面目なレビンには、ダンスパートナーになることを契約まで結んで引き受けた以上、相手によって拒むことはできないのだろう。
するとレビンは、真面目な顔をして続けた。
「まさかとは思うが、私と踊るためにコンテストに参加したのではないだろうな」
「は、はー!? 冗談はやめてくださいほんとに」
彼は、昔自分のこと好きだった女の子がずっと好きだと思ってるタイプなのだろうか。
本当に誤解しないでほしい。
元悪役令嬢ウィンターはレビンに心酔していたが、今となっては黒歴史だ。
嫌な記憶が蘇るので、レビンと顔を合わせるのも嫌なくらいで。
「冗談に決まってる。すぐに真に受けるな」
「そ、そんな真面目な顔で言われたら、冗談に聞こえませんよ」
レビンも冗談を言うことがあるのかという驚きとともに、肩の力が抜ける。
すると、彼は小さく息を吐いた。
「今のそなたは気楽に話せていい。以前は、少し気にかけるとすぐに好意だと勘違いして付きまとってきたからな」
「人の古傷えぐるのやめてください。でも、すぐに喜んでしっぽ振っちゃうなんて、結構かわいくないですか?」
「…………」
ドン引きした表情を浮かべるレビン。
「冗談ですよ」
お互いに冗談を言われ慣れていないからか、真面目に受け止めてしまって気まずい雰囲気になる。
結局、レビンとは縁がなかったのだろう。所詮は攻略対象と、ただの悪役令嬢だ。
でも今の、恋愛感情を抜きに気楽に話せる関係は、案外悪くないと思っている。王太子相手に気楽に接するのはマナー違反かもしれないが、散々彼に恥を晒してきたウィンターに今さら怖いものはない。
「軽口ついでにひとつ、報告を聞いてくれるか」
「なんですか?」
「最近、ステラに会いに行っている。そなたに言われた通り、牢獄の環境を変えるように計らっておいた」
通常、貴族は犯罪を犯しても、劣悪な牢屋に閉じ込められることはなく、居室と変わらない場所で過ごすことが多い。
アンヴィル王国では階級制が何より重視されているため、同じ罪でも、平民は処刑、貴族は軽い罰になることも。
だが、ステラは聖女を傷つけたことで厳しい生活を強いられていた。
そこでレビンが、ステラへの体罰の一切を禁止するように提言した。
遅いと言いたいところだが、王族のレビンはひとつの行動が周りの評価に繋がるため、罪人を特別に気にかけられない立場なのは理解できる。
「ステラに会ってみてどうでしたか?」
彼は少し間を置いたあと、口を開く。
「正直、驚いた。ステラは、民のために自分ができることはないかとよく口にしている。あのような過酷な状況下で、他人を思うことなど並の人間にはできない」
ステラはウィンターに地位を脅かされることを恐れ、精神不安定になり、罪を犯した。
一度罪を犯したものの、彼女は神界が認めた聖女であり、この乙女ゲームのヒロインだ。
ウィンターの転生というイレギュラーのせいで展開が変わってしまったものこ、彼女が本当の悪人でないことは、ゲームをプレイしていたウィンターが一番よく知っている。
「はい。本当にすごいって……尊敬します。きっと、私があんな同じ状況なら、そんな風に思えないから」
前世で病気を患っていたころも、今世で断罪の運命に抗っていたときも、ウィンターは自分のことでいっぱいいっぱいだった。
他人のことなんて二の次、三の次で、自分が助かることしか考えられなかったが、ステラは違う。
自分が窮地に立たされても、誰かの役に立ちたいと思える強い人だ。
すると、レビンが言う。
「そなたのおかげだろう」
「え……?」
「誰にも顧みられない暗い牢獄で、そなたはステラを見捨てず、手を差し伸べた。だから彼女も、前向きな気持ちを取り戻せたのだろう」
それをウィンターはヘラヘラと笑った。
「ふふ、買いかぶりすぎですよ。私は何も。それを言うなら、私よりレビン様が会いに行かれる方が、ずっと励みになると思います」
だってステラはレビンが大好きだから、という言葉は喉元で留めておく。
現在ウィンターがいるのは、乙女ゲームにおけるレビンルートで、ステラは彼と結ばれるはずだった。
ステラが罪を犯した以上、ふたりが結婚する結末はありえないだろうが、きっと顔を見られるだけでステラは嬉しいはずだ。
「それではまた、後夜祭で」
「ああ。ダンスで私の足を引っ張らないように」
「ふふ、もちろん。引っ張りはしませんよ。……踏むかもしれないですけど」
「踏むな」
そんな冗談を言い残して、ウィンターはその場を後にするのだった。




