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18_愛を司る神の力

 

 その魔物は、関節のある白い人形型の魔物で、この不気味な屋敷の雰囲気にはぴったりの風貌だった。


「大変、下ろしてください」

「じっとしていて。仕事を邪魔したお詫びに力を貸そう」


 ルークは一呼吸置いたあとに告げる。


『――頭を垂れろ』


 すると、魔物も人も、時間が止まったかのように動きを止め、服従するようにその場に跪いた。


(何が、起きたの……?)


 その光景に唖然としていると、ルークは掴みどころのない笑顔を浮かべたまま、足を進めた。

 魔法師と騎士、魔物を通過しながら、ルークがおっとりとした声で囁く。


「ラピナス十神の魔法にもそれぞれ得意不得意がある。ボクはギノやユアンリードのように戦闘向きではないけれど、愛の神にふさわしい力を使えるんだ」

「ふさわしい、力……?」

「あらゆる生物に――ボクに対する愛を芽生えさせ、従わせることができる」

「つまり、操れるってことですか?」

「ああ。むやみには使わないけれどね」


 にこりと微笑むルークを見て、その偉大な力に思わずぞっとしてしまう。


 一見、穏やかで好奇心旺盛で、少し変わった、けれどどこにでもいる普通の青年のように見えるルーク。けれど、人とは違う。


(やっぱり、ルーク様も神様なんだ)


 神々は地上にいる間、力を制御されているらしいので、実際はウィンターの想像を凌駕する力があるのだろう。


「さ、今度はキミの番だよ。ウィンター」


 劣化して脆く崩れ落ちた結界の前に、ルークはウィンターをそっと下ろした。


「はい」


 ウィンターは手をかざし、呪文を唱えた。

 崩れ落ちていた結界は、徐々に修復されていく。透明な膜で覆われていく瘴気溜まりを見つめながら、ルークが背後からぽつりと呟いた。


「人はいつまで聖女を祭り上げてこんなことを続けるんだろうね。結界を張るのは、その場しのぎでしかないというのに」


 瘴気溜まりは、大気中の魔力から作られる。


 魔力は人を含む生物の負の感情から生まれるのだが、魔物が大気中の魔力を吸収することで、大地を汚さない魔力量に維持されていた。

 だが、人間がギノを封印したことで、魔物の数は激減し、瘴気溜まりも増え続けている。

 自然浄化は間に合っておらず、瘴気の障りでいくつもの大地が枯れている。


「じゃあ、瘴気溜まりがこれ以上増えないようにするにはどうすればいいんですか」

「闇の神を異端視するのはやめて受け入れることが必要だろう。どんな神にも、人にも、それぞれ役割がある。要らない存在はひとつもないと、長いこと愛について考えてきたボクは思うよ」


 五百年の封印によって、ギノは力を消耗している。

 今の彼には、かつてのように自由に魔物を制御する力はない。それに、自分を見限った人のために力を貸す義理もないだろう。


 そんな話をしているうちに、結界の修復は終わった。


「完璧だ。お疲れ様」


 神力を消耗したウィンターは、ゆっくりと息を吐く。ルークはウィンターの頭をぽんと撫でて、「あとは任せたよ」と囁き、瞬間転移で消えた。


「…………あとは任せた?」


 すると、膝をついていた騎士と魔法師たちが、自我を取り戻して顔を上げる。


「今、何をしていたんだ?」

「俺はどうしてここに」


 どうやら、ルークに従っていたときのことを覚えていないらしく、前後の記憶も混濁しているようだった。

 だがその直後、魔物たちも再び活動を再開する。


 ウィンターの元にも、人形型の魔物がジリジリと詰め寄ってきた。一体、二体……その数はざっと十体。


「ひっ……。い、いや……来ないで……」


 不気味すぎる見た目に、足が竦んでしまう。


『ボクはギノやユアンリードのように戦闘向きではないけれど』


 そのときふと、脳裏にルークの言葉が浮かぶ。


(自分が戦えないからって、か弱い女の子を置いて行くなんて)


 なんて気まぐれで、傍若無人な神なのだろう。


 振り回されて、最後に貧乏くじを引くのはいつもウィンターだ。

 跳躍して一斉に飛びかかってくる魔物たちを見たウィンターの顔から色がなくなり、涙目になる。


「きゃぁぁぁあっ……」


 下級の魔物たちに一斉に飛びつかれるウィンター。

 大した攻撃力もない相手だが、大の怖いもの嫌いのウィンターには、そのビジュアルが本当に無理だった。


(人でなし……じゃなくて、神でなし……!!)


 薄暗い屋敷の中に、ウィンターの悲鳴が響き渡った。


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