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17_第二神の寵愛

 

「第二神ギノは――俺だ」


 ギノがその正体を明らかにした途端、辺りに静寂が広がる。人々は驚き、言葉を失って彼を見つめる。


 彼の告白に、ステラは眉をひそめる。


「なんて恐れ知らずなの……。第二神ギノ様は神々の中でもとても冷酷で危険だと言われています。その方の名を語るとは……不敬とみなされて祟られますよ」

「祟られる? 自分が自分をどうやって祟るんだ」

「寝言は寝てから言ってください。あなたは、ウィンター様が何の罪を問われたか知らないんですか?」

「ウィンターは神託によって潔白となった。今更蒸し返すな」


 ギノの表情に、怒りと威圧が乗る。


 ウィンターは聖女を偽証し、『人々を混乱させた罪』で断罪された。このままギノが、自分が神だという主張をし続ければ、ウィンターと同じように裁かれてしまうかもしれない。


(神界の掟では、神様は正体を明かしてはいけないはず。また私のために、掟を破らせる訳にはいかない)


 同じく神のユアンは、呆れた様子で額を手で抑えている。


 しかし、ギノは引き下がろうとしない。聖女認定の件で彼は神界から罰を受けたばかりなのに、また掟を破ろうとしているギノ。ウィンターはこの場を切り抜けるすべはないかと、考えを巡らせた。


「とにかく、何度も言わせるな。俺は本物の――」

「こ、この人は私の友達のギルっていうんです! 昔から妄想癖があって、ちょっと変わってて……とにかく、かわいそうな人なんです!」

「おい、誰に妄想癖が――んぐ」

「でも悪い人じゃないんです。だから、今のは忘れてください……!」


 ウィンターはギノの口を手で塞いで、必死に弁明した。最初は抵抗していたギノも、やがて諦めたように大人しくなった。


 ウィンターはステラに対して、誠実に言った。


「本当に、少し先の未来をギノ様に教えていただいたの。ギノ様に選ばれた聖女だっていうことが、嘘をついていない証明になるんじゃないかな」

「では、ここで力を何か示してください。言葉ではなく、目に見える形で。偉大な第二神に選ばれた聖女なら、できますよね」

「それは……」


 突然そのようなことを言われても、困ってしまう。

 ウィンターが言い淀んでいると、ギノが言った。


「ウィンターが願えば、ギノは応えるだろう」


 本人がそう言うのだから、そうなのだろう。ギノから、『なんでもいいからとりあえず願え』的な意図を視線で感じ取り、ウィンターは手を組んで祈りのポーズをした。


「え、ええっと……分かりました。そうだな……」


 ラピナス十神については本で勉強しているので、得意なことや苦手なこと、性格などの基本的な情報は知っている。


 魔物を統べる神ギノは、魔物を生み出したり、操ったり殺したりすることができる。だが、人がいる場でそれをするのは危険だろう。そこでふと、聖女認定式を思い出した。


「聖女認定式でギノ様の神託が下るとき、空が暗くなって雷が鳴り、雨が降りましたよね。今からもう一度、雨を降らせます」

(できる……? ギノ様)


 打ち合わせをしておらず、不安げにギノをちらりと見つめると、彼はウィンターの耳元で「承った」と囁き、指を鳴らした。


 ――と、同時に。シャンデリアの灯りが消え、窓の外に暗雲が立ち込め、ズドーンと音を立てて近くに大きな雷が落ちる。

 風が吹き荒れ、バケツの中の水をひっくり返したように大雨が降り注いだ。

 そして次の瞬間、何事もなかったかのように雨が止んで、空は晴れ、シャンデリアの灯りも灯った。


 一連の天候の変化を見ていた広間の人々はどよめく。


「ウィンター様はギノ様によほど強い寵愛を受けているらしい」

「なんと……。彼女に逆らったらどうなるか分からないぞ」

「ああ、それこそ祟られかねん」


 ステラは悔しそうに顔を歪め、下唇を噛んだ。


「それが神の御心というのなら、納得せざるを得ません。分かりました。今回はあなたの言葉を信じ、引き下がります」

「よかった……。分かってくれてありがとう」


 安堵から、ウィンターは思わず頬を緩めた。ウィンターの無邪気な笑顔を見たステラは、やっぱりどこか不満そうな顔をしていた。


 すると、ギノがステラに言う。


「助けてもらっておいて、礼のひとつもないのか?」

「……!」

「ウィンターはここにいる者たちを守ろうと懸命に戦った。対してお前はどうだ? 神官たちに守られるばかりで何もしなかった。お前がしたことと言えば、不満を言ったくらいだ」


 ギノは怒っていた。きっと、ステラがウィンターを犯人に仕立てようとしたことに対する怒りだろう。ギノの挑発に、ステラはかっと顔を赤くさせた。


 ステラが反論するより先に、レビンがステラの前に庇い立って、言い返す。


「聖女の務めは、結界の維持や治癒、浄化であって、戦闘ではない。魔物と戦うのは、聖魔法師と騎士の役目だ。大切な聖女を私たちが守るのは当然だろう」

「ああ、そうかもな。だが、聖女がふたりもいれば、比較されるのも当然だろう」

「それはつまり……ステラがウィンターより劣っていると言いたいのか?」

「さぁな」


 静かに見つめ合うギノとレビンの間に、静かな緊張が走った。


 ふたりがバチバチと火花を散らしていたとき、祭壇室の片隅で、ルークが上を見上げながら小さな声で呟いた。


「やっ、お兄、様……」


 ルークの視線の先を追うと、白亜の太い柱にヒビが入っているのが目に止まった。

 柱が今にも崩れ落ちそうな音を立てている。彼はびっくりして逃げられずに、固まっていた。


(だめ。あの柱――倒れる)


 あんな大きな柱を子どもの身体で受け止めれば、即死してしまうかもしれない。


(ルーク様……!)


 柱が倒れていく瞬間が、ひどくゆっくりに見えた。そして、無意識に身体が動き、ウィンターは彼の元へと駆け出していた。


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