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14_神力測定と魔物の襲撃

 

 そしてとうとう、神力測定の日を迎えた。月に一度のこの測定は、厳かな儀式のあとに実施される。長い儀式の間、レビンとステラは長椅子で並んで座っていた。


 一方、ひとりで長椅子に腰掛けるウィンターは、聖女の衣装である白いローブに加えて、あらゆる護身用グッズをジャラジャラと身に付けていた。


「な、なんだあの派手な装飾は」

「場違いにもほどがある。自分の立場を分かっているのか?」


 ウィンターの格好を見た神官たちが、ひそひそと囁き合いながらこちらに疑念の視線を送ってくる。ウィンターは胸のブローチを撫でながら、小さく息を吐いた。


(今の私の実力じゃ、ここにいる全員を魔物から守ることなんてできない。だから、魔石で補うしかない)


 このブローチの中央に輝く魔石は、治癒魔法が付与されている。この魔石があれば、三人の欠損した手足さえ修復できる。ネックレスや指輪、ブレスレットにも様々な魔石が嵌め込まれており、それらは全て、魔物の襲撃に備えて用意したものだ。


 どれだけ白い目を向けられようと、背に腹は変えられない。


「わー、すごい! かみさまの人形だ〜」

「王子殿下、そちらに行ってはいけません……!」


 するとそのとき、祭壇室の中央を小さな男の子が走り抜けていく。その後ろを複数の侍女たちが追いかけた。


(男の子……? ――って、王子様!?)


 その少年は今年六歳になる第二王子ルークだ。神聖な儀式の場に、騒がしい子どもを連れてきたのは一体誰なのだろう。

 少年は、レビンとステラのもとに駆け寄った。ステラがルークを捕まえて、口元に人差し指を立てながら言った。


「しーっ、大切な儀式の最中ですよ」

「はぁい」


 すると、ステラの隣に座っているレビンが驚いたように言った。


「どうしてルークがここにいる?」

「ごめんなさい。ルーク様がどうしても来たがって。ルーク様はお兄様が大好きなんです」


 ルークを連れてきたのはステラだったらしい。ステラはルークの頭を撫で、ふわりと微笑む。レビンは侍女たちに目配せをして、ルークを祭壇室の外へ連れて行かせようとする。


「神力測定が終わるまで大人しくしていろ。あとで遊んであげるから、外で待ってなさい」

「え〜、やだ。ボクも一緒にいる」


 だだをこねるルークを、侍女たちが無理矢理外に連れ出す。彼が扉を出る前、一瞬だけウィンターと目が合った。その瞬間は、ルークがやけに大人びた表情を浮かべた気がした。

 ルークが出て行ったあと、ウィンターは眉間をぐっと指で押した。


(余計なことを。どうして今日に限って王子様を連れてくるの……!?)


 これから魔物の襲撃があるのに、ルークが怪我でもしたらどうするつもりなのだ。


(乙女ゲームのシナリオではルーク様はここにいなかった。……私が記憶を取り戻したことで、シナリオが少し変わったんだ)


 ウィンターは、膝の上に置いた拳を握り締めた。




 ◇◇◇




 魔物の襲撃があるのは、儀式が終わって神官を含む参加者たちが外に移動し始めたころだった。乙女ゲームのシナリオ通りなら、この祭壇室に残った者が襲撃の被害者となる。シナリオと違うのは、この場にウィンターとユアンがいることくらい。


「今回の神力測定、おふたりはどんな数値が出るかな」

「覚醒されたステラ様は、また測定器を壊すかもしれないぞ」

「そうなったら買い直しだが、我々にとっては幸せな悲鳴だ」


 神官たちが楽しそうに話しているのを眺めながら、ウィンターは爪を噛む。


(どうにかして、この人たちを外に出す方法はないかな。 ひとりでも被害者を減らすために)


 しかし、ウィンターが何を言ったところで、この場にいる人たちは信じてくれないだろう。そんなとき、誰かがウィンターの肩をぽん、と叩いて囁いた。


「そろそろ襲撃の時間か」


 ウィンターに声をかけたのは、ユアンだった。約束通り、彼は今日付き添ってくれている。ウィンターが頷くと、彼は祭壇室に残っている人たちに向けて言った。


「皆さん。急ぎの用があると大司教様がエントランスでお待ちです」

「おや、そうですか。何か問題でも起きたのだろうか」


 ユアンの一言で、神官の何人かが祭壇室を出て行った。しかし、残りのほとんどは、神力測定の準備を進めるためにそのまま部屋に残った。


「ありがとう、お兄様」

「残りはどう避難させよっか。ウィンターの得意技の土下座とか」

「得意技じゃないけど。もう、今はそんな冗談を言ってる暇は――」


 ユアンに反論しかけとき、祭壇室の扉がばんっと開け放たれた。扉から、ルークが駆け込んでくる。


「レビンお兄様、ステラお姉様、あそんで」

「まぁまぁ、少しだけですよ?」


 ステラは優しげに微笑みながらルークを抱き止め、頭を撫でた。その様子を、他の参集者たちが微笑ましげに見守る。

 魔物は、大人よりも子どもを狙いやすいと言われている。大人より若い人間の方が美味しいからだ。


 ウィンターは気づくと、思わずルークに怒鳴っていた。


「ここにいちゃだめ! すぐに出て行きなさい!」


 ウィンターの大声が辺りに響き渡り、室内は一瞬で静まり返った。怒鳴られたルークは、涙を瞳いっぱいに浮かべる。


「うっ……ぅ……っ」

「あっ、えっと……ごめんなさい。泣かせるつもりはなくて……」


 泣き出してしまったルークを見て、はっと我に返る。ウィンターが慌てふためいていると、ステラが優しくルークを宥めた。


「可哀想に……。大丈夫。わたくしが傍にいますからね。怖くないですよ」


 そして彼女は、ウィンターに視線を移した。


「ウィンター様のお気持ちは分かりますが、ルーク様に八つ当たりするなんてあまりに子どもっぽいですよ」

「八つ当たり?」

「ええ。わたくしがルーク様と親しくしていることに嫉妬なさっているのでしょう? ウィンター様は婚約期間中、ルーク様と一度もお会いできなかったと聞きましたから。嫉妬なんて、見苦しいですよ」


 ステラの目に優越感のようなものが滲んだのが分かった。レビンが弟のルークを溺愛しているのは有名な話だが、彼はウィンターを警戒して一度もルークに会わせなかった。

 すると、ユアンが口を挟んだ。


「なるほど。僕の妹にマウント取るために無理矢理ルーク様をここにお連れしたって訳か」

「違います、王子様が行きたいとおっしゃったから」

「王子の侍女が愚痴ってたよ。『楽しい集まりがある』ってステラがルーク様をそそのかしたって」

「そそのかしたなんて……」

「自分がルーク様に気に入られているのを、ウィンターに見せつけたかったんでしょ。ほんと、見苦しいよね」


 ユアンが煽るように言うと、ステラは顔を真っ赤にして言葉を失った。


(お兄様の煽りは殺傷力が高すぎる)


 どうやらステラは、ウィンターにマウントを取るつもりでルークをここに連れてきたらしい。


(ていうか今は、ステラで遊んでる場合じゃないから。お兄様)


 ウィンターは部屋にいる全員に訴えた。


「ルーク様も、皆さんもこの部屋から逃げてください! ここは危険なんです――」


 その言葉が途切れたのと、正面のステンドガラスが割れて魔物が侵入してきたのは――ほぼ同時だった。


『ガァァァア……!』


 魔物の鳴き声が、ウィンターの鼓膜を大きく震わせた。


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