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元魔王の強制採用試験

ここからアシュリーがどんどん大暴れ(語弊)しまーすよ。




「こ、ここがエクレール領の屋敷……!?」


「それ馬小屋ですよ、たぶん」


日も暮れた頃、やっと我が領地となるエクレール領に着いたと思ったらトラブル発生です。

家がありません。ボロボロの馬小屋らしきものや倉庫らしきものはありますが大凡家屋と呼べるものは見当たらず人の気配すらありません。


「旦那様はエクレールに行ったことがないとおっしゃってましたけど、まさか屋敷がないとは思わなかったでしょうね」


「……お父様は大叔父上(おじうえ)と疎遠だったとはいえ死んだ事すら知らされないとは……」


「えっ」


「微量ですが土や木材の燃えた臭い、お父様と似た魔力の痕跡が……、ああこの辺、骨も残さず魔法で焼かれたか……」


「おっお嬢様?」


「屋敷の大きさにしては人数が少ない……? 使用人と領民での犯行? 主人を裏切るとは……それとも夫婦が救いようのない人物だったか……」


「ねぇ! お嬢様ってば! 怖いんすけどぉ!? なんもない空き地で何を言ってんですかってぇ!! つか何か見えてるんですか! 何が見えてんですか!? 怖いっっ!!!」


「うるさいですよギル」


ふーむ、山からの強風や雨に晒されていたにしても屋敷の燃えた跡が殆ど残っていないということは、人の手で片付けているのでしょう。周辺に痕跡が無いことを考えると子爵夫婦が襲われたのはかなり前ですね。

虚偽報告し隠蔽工作を主導したのは文官で何者かとグルか、あるいは主人ともども跡形も無くなり取って代わられたか。


私のお祖父様であるオーギュスト・ボルドー大公が、酒浸りでギャンブル狂の大叔父上(おじうえ)を嫌ってエクレール領に追いやったとお父様が言ってました。

エクレール領は隣国との戦争の影響で作物が育たない不毛の地となり、広大な領土の割に領民も少なく税収も細々としかありません。好きな賭場や酒場があったとしても貴族が行くようなお上品な場所じゃなく店とは名ばかりの粗末な小屋。客も荒くれ者が大半で、王都でぬくぬくと育ち剣もろくに振れず魔法も使えない大叔父上(おじうえ)は何処にも行けず屋敷で軟禁状態だったとか。というか逃げ帰ってこないよう入れ揚げていた娼婦と半ば強引に結婚させ文官という名の見張りも付けられていたので実質監禁ですね。

そんな大叔父上(おじうえ)から手紙が来たかと思えば毎度「ねぇねぇ何もないところで十分反省したからもう帰ってもいいよね?(要約)」「凶悪犯罪者が近くの町にいっぱいいる!殺されちゃうかも!助けて!(要約)」「く、苦しいっ!病気になりそう!空気が合わなくて大変なんだよ!(要約)」等と自分がいかに辛いか書き連ねてあり、最後に来た手紙は「いい加減にしろ!こっちがどんな目にあっているかわかるか!?家族なのに何とも思わないのか人でなし!!」でありお祖父様は呆れて手紙を焚き付けにしてたそう。

仮にも侯爵家の生まれでこんな体たらくな大叔父上(おじうえ)に共感はできかねますが、家族からの扱いにほんの少しだけ不憫にも思います。顔も知りませんけど。

お父様も大叔父上(おじうえ)の事を嫌っており、私がエクレール領へ行くと言った時は大反対でした。文官からの定期報告書では大叔父上(おじうえ)の死も書かれていなかったので、まだ生きているかもしれないとも言われたのですが、追い出す気満々だったので死んでるなら手間が省けて良かったです。


「てゆーか、報告書の内容と何も合ってないじゃないですか。文官たちはいったい何処に……?」


「さて、テント張りましょうか」


「切り替え早っ!! え、てか、テント張るの? ここに!? マジですか!? 夫妻が化けて出たらどうするんですかっ!! 俺嫌なんですけど!?」


「うるさいですよギル。出たら浄化すればいいでしょう」


「そういう問題じゃないでしょーが!! 殺人があったかもしれない場所は生理的に嫌って話でしょ!? なんで逆に平気なんですか!!? もうヤダこのお嬢様!!!」


全くギルは軟弱ですね。

幽体如きに遅れを取るような鍛え方をしてないでしょうに。


「化けて出るならとっくに姿を現しているでしょう。魂の残留も無く僅かな魔力の痕跡しか無いということは大叔父上(おじうえ)は本当に何も才能が……、この話やめましょう」


「……会ったこともない又姪(めいっこ)にすらここまで言われるなんてどんだけ不憫なんだ、ダグラス様って……」


「そんな名前でしたか」


「お嬢様、どうでもいい人の名前覚えないのやめませんか……? オズワルド王太子も不憫に思えてきましたよ」


元婚約者様もそんな名前でしたね。

そうして私たちが他愛ない事を喋りながらテントと焚火の支度をしていると、近くの集落がある方向から人が近づいてくる気配がしました。

屋敷へ向かうために通過した時から我々を値踏みするような視線を感じてはいましたが、隊を組織し即行動するのは評価できますね。

ただの領民ではなさそうです。


「うーん、東国のお茶でいいですか?」


「ええ、お茶菓子を十個出しますね」


「じゃあ俺は西国の焼き菓子を五つほど」


こちらは僅か二人だというのに盛大な歓迎ですね。

領主の屋敷跡地に向かう我々を貴族と判断して数で押し潰そうとしているのでしょう。


「さて、お茶会にはお客様をご招待せねば……。ギル!」


『土よ、敵を捕らえよ!』


「「うわああぁぁぁ!!」」


西側の敵をギルが土魔法で捕らえました。

全員の足元が泥沼と化し、抵抗すればするほど泥は体に絡みつくのでそのうち自重で沈んで動けなくなりました。

そうなる前に抜け出した者も打ち漏らしも難なく対処できているので放っておいても平気でしょう。さすがお父様とセバス仕込み。


「カーターたちがやられたぞ!」


『『炎よ、敵を焼き尽くせ!』』


東側(こちら)のは魔法の心得があるようです。

しかも威力を高める多重詠唱とは、息も合っていていいですね。

まあ、たかだか人間の魔法では魔王の私を倒せません。


『炎よ、凍てつけ!』


「ぎゃあ゙ぁ゙っ!?」


「あ゙っづぁ゙ぁ゙あ゙!!」


私が即座に放った対抗呪文によって炎弾と冷気がぶつかり、水蒸気爆発が起こって辺りが蒸気に包まれました。前衛の武器持ち四人は至近距離で蒸気をくらい、後方に吹っ飛んで戦闘不能となりました。

蒸気で視界が奪われていた魔法使いの一人は風魔法で蒸気を飛ばし更に詠唱しようとしますが、その間に裏に回った私に昏倒させられ二人仲良くお縄となりました。


「お嬢様ー、無事です……よねぇ」


ギルが見張り役の二人を引きずっています。残りの二人をうまく逃がしましたね。


「不意打ちにしては気配も消さず甘いところもありますが、囮の陽動と本隊の陣形は悪くありませんでした。鍛えれば良い戦士となります」


「あっ、生け捕れ(招待)ってそういう……? 本気ですか?」


「エクレール領を再建するには、人手はいくらあっても足りませんからね!」


一先ず逃がした二人は置いておくとして残った彼らから話を聞きましょう。

せっかく私が初めて主催するお茶会に招待するのですから、エクレール領の情勢が聞けると良いですね。

急に従者がでしゃばるようになりましたね。


幼馴染のギルバート・チャンくんです。

これからアシュリーに振り回されまくる下僕第一号です。

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