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元魔王の回想録

過去回想です。




アシュリーとなった私の話をしましょう。

私のお母様であるエレナ・ボルドー=モンテクレールとお父様であるマシュー・フランツ・モンテクレールとの間に人間として生まれました。

目が覚めた瞬間から私は魔王(わたし)でした。

最初は死んだという自覚が無く、たくさんの人間の気配に囲まれて混乱しましたが、生まれたばかりの赤ん坊は非力だったので人間にされるがまま身体を清められ、お母様に抱かれながら母乳を飲むとお腹が膨れて冷静になりました。


ああ、私は死んだ。勇者に負けたのだ、と。

もちろん悔しくなどありません。

強者と戦い全てを出し尽くして散ったのですから清々しい気持ちでした。


それに、人間の赤ん坊となった事には困惑しましたが、あまり興味の無かった人間が魔王に勝った理由を人間として学べるので結果的に良いと思いました。

ただ、人間は想像以上にか弱いものでした。

魔族は生まれた瞬間から生まれたての子馬のようにすぐ活動し始めますが、人間の身体は生まれて数週間経っても寝返りしか打てません。なので魔力で身体強化して動こうと思ったら魔力に耐えきれず、全身複雑骨折しました。すぐに治癒魔法で治しましたが人間の脆弱さに驚いたものです。お母様なんて私の全身の骨が折れる音を聞いて腰を抜かしてました。人間は骨が折れて治る音を聞いたことがないのでしょうか。

何度も全身複雑骨折をしていられませんので強化魔法を諦め浮遊魔法で部屋を出ました。そして書庫の本を目が見えないので透視魔法で読んでいると、掃除しに来たメイドに悲鳴を上げられました。

メイドの話を聞いたお父様に呼ばれた学者たちに様々な魔導具で検査をされながら話を聞いていると私の魔力量は人間ではありえないようでした。まあ、魔王なので当然でしょう。大人たちの会話を聞いて頷く赤ん坊(わたし)を見て、もう言語も理解しているのではと学者が言うのでその通りだと念話を飛ばしたら学者は泡を吹いて気絶しました。


「うちのアシュリーは天才だ!!」


お父様は初めての我が子が才能に溢れており大層お喜びでしたが、生後一ヶ月も満たないうちにこんなことをするのはおかしかったのだと気が付いたのは十二歳年下の弟ルシアンが生まれてからでした。

人間は難しいです。



それから数年が経ちようやく自由に動き回れるようになると、幼馴染で同い年のギルバートと共に庭で遊ぶ日々が続きました。家庭教師に教えることが無いと匙を投げられたからです。

ギルバートは執事長(セバス)メイド長(マリア)の一人息子です。

将来は私の従者になるので、幼い頃から私と一緒に勉強をしてました。他の子供達と違って物怖じせず、私の子供らしからぬ言動にも動じない優秀な子供でした。


「ねーおじょーさまあ、おじょーさまはなんでいろんなまほうしってるですか?」


「よくぞきいてくれましたね、ギル! それはわたしがまおうだからです!!」


「まおー!?」


「そーです! まおーです! がおー!!」


ドラゴンの真似をして火を吹くとギルバートは喜んでくれます。魔族の子供は喜ぶものですが、他の子供たちの前でやったら全然喜んでくれませんでした。楽しいお茶会が阿鼻叫喚と化しました。あと庭園の木を燃やしたので庭師の爺やとお母様にもの凄く叱られました。


「ねえねえおじょーさま! ボクもがんばったらおじょーさまみたいになれるですか?」


「なれますとも! ギルもわたしといっしょにしゅぎょうしましょう! おとーさまにけんじゅつをならうのです!」


「えー! ぼくもこうしゃくさまに!? うおー!」


今思うと代々モンテクレール侯爵家の影として仕えているチャン家出身であり、物心ついた時から鍛えられていたギルバートも大概だったかもしれません。


「すごいすごい! こうしゃくさまはけんていさまですよ! おじょーさますっごーい!」


「……いいえ、けんていよりもゆうしゃのがすごいです。……にんげんなのにまおーをたおしたのですから……」


「……おじょーさま、ゆーしゃのがすごいならゆーしゃにならないのですか?」


「わたしはまおーですので、ゆーしゃになれません。まおーはあくです。ほんにありました」


「……あっ! えほんのゆーしゃでんせつ!」


「そうです。ゆーしゃはせーぎでまおーはあくなのです。あくになればゆーしゃとたたえます!!」


「う……? んんー? おじょーさまは、アクじゃないですよ???」


「まおーですがまだアクじゃないですね。だからわたしはアクになるのですよ、ギル!」


「なるほどぉ〜??? ……じゃあぼくがゆーしゃやくですね!!」


「ほお、われにむかってくるというのか、おろかなにんげんよ……」


「きょうこそ、おまえをたおすぞまおー!!」


こうして今日も泥だらけになってマリアに怒られるまで私とギルは勇者伝説ごっこで肉体強化を行いました。

お父様に稽古をつけてもらい、私たちが「山猿令嬢とその腰巾着」と呼ばれるようになるのはもう少し先の話です。

次の回想はいつになるやら……。

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