3-3.接客
接客 クリス
私は皆を庭に面した客室の一つに案内した。
「いいかい、みんな。しばらくはこの部屋で暮らすんだ。庭で遊んでもいいけど、城の中はここの廊下だけにしておくこと。迷子になると、この城の持ち主の私でも広すぎて探しだせないからね。わかったかな?」
「はーい!」皆が返事をしました。
「じゃ、荷物を置いて、まずは部屋の中をあちこち見てごらん。」
皆がわーっと散らばって行った。レミを残して。
「ありがとうございます。ご領主。」頭をさげられた。
「まぁ、雨風しのげてよかったね。それとクリスでいいよ。」
「クリス様はどうして、私達を助けてくれるんですか。」
「どうしてって、助けてと言ったのは君じゃないか。」
「だって、わざわざご領主が私達を助けるなんて。」
「手の届くところにいる、困っている人を見離したら、領主失格と思うんだけどね。」
「クリスは、困っている人をほっておけない性格よね。」デイジーが言った。
「お人よしの自覚はあるな。それに、この問題は君達だけの話じゃ終われない。」
「私達だけじゃない?」レミが首をかしげ、デイジーは、はっとした様子で手を口に持っていった。
「それは私が領主として考える問題で、君のじゃない。まずは君達の問題から始めよう。」
「私達の問題?」
「そう、家探しからのはずなんだけど・・・。」あたりを見回した。
「食事の前に水浴びしようか。君もまずは荷物を置いて、部屋を一回りしておいで。」
「はい。」にっこりして走って行った。
私はデイジーに向いた。「ありがとう。とりあえずはここまでにして、自室へ戻って。」
「クリスは?」
「基本、明日の朝までは、ここで過ごすかな。スケジュールも変更しないと。」
「では、私も。」
「無理はしないで。」
「え、でも、私も何か。」
「じゃあ、女の子達を今回だけ、私の部屋で水浴びさせたい。案内を頼めるかな。水浴びの面倒はレミがみられるはず。」
デイジーから返事が返って来なかった。「やっぱり、嫌かな。」
「・・・いいえ、私はレミが好きだから。」
「ありがとう。」
私はデイジー付のメイドへ言った。「頼むね。」「はい。」
「食事は叔父上達と、寝るのもいつもどおりに。」
「いえ、食事はこちらで。」
「いいの?覚悟がいるかもよ。」
「かまいません。」
「そうか。ダルトン、手配を頼む。あと、私の着替えを持ってきて。」
「承知いたしました。」
レミを呼んで、女の子を私の部屋へ連れ出す事を話した。「女の子の方が少ないから、ゆっくりできるよ。」
「男の子はどうするの?」レミから聞かれた。
「この部屋で私が面倒を見る。」
「クリス様が、一緒に水浴びするんですか!?」レミと一緒にデイジーも驚いている。
「弟を面倒見た事があるから、大丈夫。」デイジーは納得した。
「弟さんがいるんですね。」
「あぁ、都で別々に暮らしている。会うたびに、たくさん褒めてくれるよ。」
「いいなぁ。」とレミ。デイジーもにこやかに、うなずいている。
甘かった。やんちゃな男の子7人は、とても手間がかかった。洗い終わった子はダルトンに拭いてもらったけど、女の子達が戻ってきた時に私はまだ下着姿だった。
デイジーは着替えだけしてきたようだ。私から顔をそらせて、女の子二人にベッドの方へ連れていかれた。
ネロが下着姿のままレミに駆け寄った。「クリス様はおちんちんに毛が生えてるから、大人だよ。」
「わぁ!そんな事言っちゃだめだ!!」恥ずかしい!顔が真っ赤になって下を見てしまう。
レミも赤くなって下を向いて言った。「す、すみません。」
「い、いや。私も服を着ないと。」下着姿のままではいられなくなった。
城の控えにて 名工の弟子
「君、微笑ましい事と思っているだろ。」ハーシー議員から言われた。
「違うんですか。」俺はまさに、そう感じていたところだった。
「貴族の方々が自ら、子供の入浴の面倒をみる事はまずない。執事やメイドがする。」
「そうなんですか?」俺がクリス様を見ると、レミも「そうなの?」と顔を向ける。
クリス様はにっこりとされるだけで、「そうよ。」と答えたのはデイジー様だった。
「あぁ、クリス様は・・・。」と言いかけたところで、「トム君。」ハーシー議員が声をかけてきて首を振った。そうか、レミ達の前で元商人と言ってはいけないな。
「クリス様は弟さんと、とても仲が良いのね。」レミが嬉しそうに言った。
「うん、そうだよ。」クリス様がさらに、にっこりされて答えられた。
福祉 クリス
客室にテーブルと椅子を追加で運び入れてもらった。食事は具いっぱいのスープとパン、リンゴだった。
私とデイジーが、いわゆるお誕生日席に並び、子供達が左右に5人づつ並んで食べた。
「私は仕事をしに行かないといけない。終わったら又、ここへ来るからね。」皆に言った。
レミが駆け寄ってきた。「私も行っていいですか?私達の事を話し合うんでしょう?」
「難しい話になるよ?」
「気になるんです。じゃましないから。」
私はレミをじっと見た。彼女も必死に見返してくる。「つまらなくなったら言って。」
「はい。」にっこり笑われた。
ネロが「俺も行く!」と言ってきた。
「年上の意見だけでいい。君はここにいるように。」
「うー。」
「デイジーも行く?」デイジーは普段、この手の会議には参加しない。
「はい。」
「では、レミと手をつないで。」
「レミ、一緒に行きましょう。」
「はい。」レミは嬉しそうにデイジーと手をつないだ。
「仕事に行ってくる。」皆に言った。
部屋に一人はメイドがいるようにしてくれている。まかせて部屋を出た
叔父上とバージルが既に待ち受けていた。「その子は?」バージルから聞かれた。
「レミだよ。自分達の扱いが気になるって。」
「成程、当事者の意見は重要だね。座って。」バージルがレミに椅子を勧めた。
「さて、経緯から聞こうか。」
「それこそ、当事者からがいいいね。レミどうして"エリーナおばあさんの家"に住む事になったのかを教えて。」
レミからは住み始めから、おばあさんの葬式に参加した事、退去をせまられ私に助けられた事を話してくれた。
「ありがとう。よくわかったよ。」バージルがレミににこやかに言った。
「どう対処するか、考えがあるんだよね?」私に聞かれた。
「"エリーナおばあさんの家"の近くで中古の家を探す。子供の面倒を見てくれる夫婦を雇って、レミ達はそこで暮らしてもらう。」
「元の家はだめなんですか?」レミから聞かれた。
「あの家は買っても立て直しが必要で、新築以上にお金がかかってしまうだろう。別の中古の家で頼む。」
「そうですか。」レミが俯いた。
「食費等の運用資金は貴族、お金持ちからの募金で補う。ゆくゆくは自立した子供に、家にいた年月分、給料から数パーセント出してもらいたいものだけど・・・。」
「難しいかな。」バージルが言った。
「何が難しいんですか。」レミがバージルにきいた。
「同じ家の仲間というか友達というか弟、妹が大事なら、家から出て仕事を初めても家の為にお金をだしてもらえるだろう。でも、実際は自分の為で手いっぱいなんじゃないかな。」私が答えた。
「そんな・・・。私、出します。」
「君や今いる仲間は出してくれても、新たに来る子、全員が出してくれるかは、わからないよ。」
「新しい子が来るんですか?」
「自分で仕事ができて、一人で暮らせるようになったら出てもらう。そしたら、その分新しい子を入れる。」
「ずっと今の皆と暮らしたいです!」
「無理だよ。結婚もするだろうし、子供も生まれる。一つの家では入らない。近所に住んで、仲良く暮らしていくしかないんだよ。」
「そんな。」
「意地悪を言っているんじゃないよ?間違いなくそうなる。」
「そうだな。」「そうだね。」叔父上もバージルも同意してくれた。
「城で募金を主旨としたお茶会を開いて、私からも直接お願いする。」
「スイーツ伯爵主催のお茶会なんて、ゼヒ参加したいよねぇ。プレミアものだねぇ。」
バージルに茶化された。叔父上も笑っている。
「絶対!そんなタイトル付けないからな!」私は力説した。
「君が付けなくても、自然とそう呼ばれるさ。」
「うー。」私は頭をかかえた。
「スイーツ伯爵って?」レミに聞かれた。
「クリスは都でスイーツ伯爵、グルメ伯爵と呼ばれていて、食べ物に詳しいって評判なのよ。」デイジーが説明した。
「ただの食いしん坊だよ!」語気が荒くなってしまった。
「ごめん。レミ、お茶会で貴族の紳士、淑女にお茶をついで回る気ある?」
「馬車の中で言われた事ですね。やります!」にこやかに言われた。
「開催はまだ先だけど、明日からでもメイドから教わるかい?」
「はい!多分、他の二人もやりたがると思います。」
「止める理由はないな。手配よろしくね。」後半は後ろに控えている執事に声をかけた。
「承知いたしました。」
「それで終わりかな?」バージルから聞かれた。
「この家の収支を見てから、少なくとも後一軒は同様の家が欲しい。」
「なんでもう一軒いるんですか?」レミから聞かれた。
「君達と似たような子供達を、少しでも助けたい。」
「えっ!」レミが驚いた。
「クリスが部屋で"この問題は君達だけの話じゃ終われない"、と言っていたでしょう?」デイジーがレミに言った。
「そうなの?私達以外の子も助けてくれるの?なんで?」
「"手の届くところにいる、困っている人を見離したら領主失格"と言っただろ。」
「クリスが"領民に親身な領主"といわれる理由ね。」デイジーが言った。
「ありがとう!」レミから頭をさげられた。