第三章 孤児 3-1.退去
控えにて 名工の弟子
お茶会の後、キングストンの家の子達の控えに場所を変えた。ここでは全員、無礼講とされた。
クリス様がおっしゃられるに「子供達に礼節を求めても、無理だろ?」とのことだった。
「レミ、疲れていたら、話さなくてもいいんだよ。」俺達の前で、クリス様が最後の抵抗を試みた。
「いいえ、だいじょうぶです。」とレミが答えた。
俺達の前には「余りものですまない。」とお茶会と同じ物が並んでいる。親方はフルーツのケーキに挑戦し、気に入ったらしい。
キングストンの家の女の子二人は、喜んでケーキを食べている。
レミが話始めた。
退去 レミ
「バースさんお願いします。ここにいさせてください!」私は、目の前の若い男性に頭をさげました。
バースさんは、怖そうな男の人二人を従えています。私の後ろでは、家の窓や戸から皆が顔を覗かせています。
「困るよレミ、もう一週間待ったじゃないか。」バースさんが答えました。
「でも、他に行くところが無いんです!」
「乱暴な事はしたくない。おとなしく出て行ってくれないか。」
「できません!」私は泣きそうになって、下を向きました。
「割り込んですまない。何かお困りかな。」横から声をかけられました。
その場にいた全員が、声の方を向きました。高そうな服を着た、体が大きくて、ほがらかな感じの若い男の人(たぶん貴族)が声の主でしょう。
若い女性の貴族と執事、メイドを連れていて、その前後には腰に剣を付けた人達がいます。
「これはどちらかのご子息。あなた様には関係のない事ゆえ、このまま通り過ぎていただきたい。」バースさんが貴族に礼をしました。
「確かにそうなのだが、女の子がとても困っていそうだし、あなたも困っていると言う。何かしてあげられないかと思うのだが。」
私は無我夢中で、大きなご子息に駆け寄りました。「お願いします。助けてください。」
「何を、どう助けて欲しいのかな。」ご子息がしゃがんで言いました。
「この家に、ずっと住んでいたいんです。」私は、皆がいる家を指して言いました。
「ここは君の家なの?」
「いいえ、エリーナおばぁさんの家なの。」
「私の母で、二週間前に亡くなりました。」バースさんが後ろで言った。
「彼女にも、葬式に立ち会ってもらいました。」
「それはご愁傷様。」ご子息は、バースさんに軽く頭をさげました。
私はご子息に話を続けました。「おばあさんは、私達にここに住んでもいいって。お手伝いさんのクレドさん、リザさんが、時々食べ物を持ってきてくれてたの。でも、もう誰も来てくれない。」
「元々、ここを取り壊すまでだったんですよ。それを何年も伸ばし伸ばし。一週間前に、今日までに明け渡すように伝えたのです。」バースさんも、ご子息に自分の話をし続けました。
「もう数日だけでも、待てないものだろうか。」ご子息がバースさんに言いました。
「もう、この土地の売却が済んでいるのです。建物を取り壊してから、明け渡す約束で。あちらにも、待ってもらっているのです。」
「この場で買い取るのは無理か。」
「お相手も、この場で店を出す気でいますから、そうそう売ってくれないと思いますよ。買ったにしても、立て直しは必要ですよ。」
「一応、中を見せてもらおうかな。」ご子息が立ち上がりました。
「この家を買ってくれるんですか!?」私は、ご子息に聞きました。
「それは見てから考えるよ。案内してくれるかな。」
「はい。えーと・・・。」
「あぁ、ごめん。私の事はクリスと呼んでくれ。」
私は、おばあさんから教えてもらった、貴族と会った時の話し方を思い出しました。
「ではクリス様。こちらへどうぞ。」クリス様と、ダルトンという執事さんに家を案内しました。
クリス様は「そうか。」「なるほど。」等々、私の説明を聞いてくれました。
一通り見てもらって外へ出ました。クリス様が、その場にいる皆に言いました。
「これは確かに、立て直した方が良さそうだな。」
私は驚いて言いました。「え、じゃ、私達は?」
「この家には、住み続けられない。食べ物も貰えないんだよね?」
「はい。」私は又、泣きたくなってきました。
「おい!お前!貴族だったら金持ちなんだろ!家くらい買えるだろ!?」男の子で一番年上の子のネロが、クリス様に指差して言いました。
「うーん。そうだとも言えるけど・・・。ちなみにダルトン、この子達にパンくらいは買ってあげられるかな?」
「はい、それくらいでしたら、持ち合わせております。」ダルトンさんが答えました。
「パン買ってお終い?お前、ビンボー貴族だな!?」ネロがクリス様に叫びました。
「ネロ、失礼よ。」私は慌てました、貴族を怒らせて良い事はないと聞いています。
「まぁ、ふがいない事には違いないかな。ねぇ君達、この家はあきらめて、別の家を探そうよ。その間はウチ、というか叔父さんの家で、一部屋使わせてもらうのはどうだろう。」
「クリス様の叔父さんの家って、貴族のお屋敷に泊まっていいんですか?」私は聞きました。
「お願いしてみるよ。だめとは言わないと思うけど。ねえ。」クリス様が女性貴族を向くと、女性はにっこりうなずきました。「えぇ。」
「やった!貴族の家、行ってみたい!!」ネロが喜びました。
「さぁ、もうここには戻らないつもりで、荷づくりして。」
クリス様が皆に言うと、皆はわぁっと家に駆け込みました。でも、私は不安です。そんなにうまくいくかしら?
クリス様はバースさんに「立ち退くから、しばらく待ってもらえるかな。」
「大変なご英断いたみいります。私、バース・フォードと申します。もし、よろしければお名前を、いただけますでしょうか。」
「すっかり名乗るのが遅くなった。私はクリスハート・キングストン伯爵。あちらは婚約者のデイジー。」デイジー様が軽く礼をしました。
「これはこれは、ご領主。噂どおり庶民に親身なご対応、感謝いたします。」バースさんがクリス様に深々と礼をされた。
「どういたしまして。でも、あなたには、たいした事はしてないよ。」
私は驚いて聞いた。「クリス様は、ご領主なんですか?」
「あぁ、そうだよ。ダルトン、皆に食べ物を買って、馬車を一台やとって、ついでにこのあたりの空き家が、いくらくらいか聞いてみて。」
「ご領主。」バースさんから、声がかかりました。
「なんだ。」クリス様が返事をすると。
「私は、このあたりの不動産を営んでおります。この家を誰にいくらで売ったか、このあたりの物件などの紹介を、後ほどお城へお届けいたしましょうか。」
「そうか、頼む。」
私へ向いて。「ほら、レミも準備して。」
私は驚きがおさまらなかったけど、とにかく荷造りの為に家へ駆けて行きました。