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2-2.交渉

第一章の名工からの話になります。

交渉 名工の弟子


 「商工会はもちろん、寄付させていただきます。」議長が言った。副議長もうなずいている。

「ありがとうございます。」クリス様が言うと、レミが続いた。「ありがとうございます。」

 「私はぜひ"キングストンの家"ができたいきさつをお伺いしたいですな。それを聞かずに寄付の額は決められません。」

ハーシー議員がクリス様に言った後、レミに言った。

「レミさんはどうして"キングストンの家"ができたのか、知ってますか?」

「はい、クリス様が叔父さんに、家を買うお金を出して欲しいって、お願いしてくれたんです。」

「叔父さん?」親方はわからないようだ。「領主代行の事ですよ。」俺がコソッとフォローした。

「レミ、"キングストンの家"は、君が私に"助けてください"と言ったからできたんだよ。」クリス様が訂正された。

「はい、そうですね。」レミがクリス様に笑いかけた。

え!?そうなの?この子がキーマン?

 「レミさん、その話をぜひ、聞かせてもらえないだろうか。」ハーシー議員が食らいついた。

「レミはこれから、お茶を注いで周らないといけないんだけど。」クリス様が営業スマイルで言われた。

ハーシー議員は構わずレミに話続ける。「もちろん、お茶会の後でも、別の日でもいいですよ。私は商人だタダでとは言わない。"キングストンの家"には何人いるのかな?」

「10人です。」

「職員合わせて12人だ。」クリス様から訂正が入った。

「では、近日中に12人分のお菓子をお届けしよう。どうでしょう、お話してくれませんか。」

「クリス様。」レミがクリス様に聞いた。

「レミが話しても良いと思えば、話して。疲れたーとか、こんなおじさんと話すのやだなーと思ったら、断って。」クリス様は話して欲しくないらしい。

 「私はクリス様の事が好きだから、どんな親切な事をされたのか聞いたら、もっと好きになると思うんだけどなー。」ハーシー議員が呟くように言った。

「はいっ、私も大好きです!お話します!」レミが喜んで言った。

「わぁ、嬉しいなぁ。」ハーシー議員は、演技がかった言葉と共にクリス様を見上げた。

クリス様のひくついた笑顔との間に、俺は火花を幻視した。怖ぁ。


 「その話、俺も興味あるな。菓子ぐらいなら贈るぞ。」親方がいい出した。えぇ!

「名工も一緒でいいかな?」ハーシー議員がレミに確認した。

「はい。」

「ちょっ、親方をほおっていけるわけ、ないじゃないですかぁ!」俺は声をおさえつつ叫んだ。

「お弟子さん付きで。お願いする。」ハーシー議員が即、再訂正してくれた。

「はい。」レミがにっこり返した。


 「その話の席に私も立ち合わせろ。命令。」クリス様が低めの声で言った。

レミが、ばっとクリス様に振り向いた。

「な、何?」クリス様がたじろいだ。

「クリス様が命令するのを、初めて聞きました!」レミは驚いたままだ。

「そ、そう?」クリス様がとぼけた。

「そうです!ここにいる間にだって、一度もしませんでした。」


 「ここにいる間?ここに何日かいたのかな?」ハーシー議員がつっこんだ。

レミが振り返って「はい。叔父さんの家の部屋を借りてあげる、って言って連れてきてくれたんです。」

「叔父さんの家?」親方が聞いた。「この城ですよ。」俺がコソッとフォローした。

「はい。どんな広いお屋敷かと思ったら、お城でびっくりしました。

王様と王子様に会ったと思ったら、クリス様の方が偉くて、お城もクリス様の物なんだって。だから、クリス様の好きに使って良いって。」

「ふーん、お城のとってもステキなお部屋に、泊めさせてもらったんだぁ。よかったねぇ。」ハーシー議員が言った。

「はい!」

 「さぁ、次のテーブルへ行くぞ。命令!」クリス様がレミの両肩をつかんで動かした。

「はい。クリス様の命令なら。」レミが嬉しそうに答えた。

「うー。」クリス様が困ったまま去って行った。


 しーん。無口なほうの親方はともかく、全員が思いにふけっていた。しかたなく俺が先に話だした。

「なんか今、漏れ聞いただけでも、感動のストーリーが見えるんですけど。」

「薄幸の少女がクリス様に泣きついたら、城へ泊らせてくれて、古着と家まで買ってくれた。」

 「まぁまぁのデキだ。」ハーシー議員が評価した。

「まぁまぁですか。」俺は口を尖らせた。

「まず君、城の客間へ泊らせてもらって、当然と思っているだろ。」

「違うんですか。」

「普通の貴族は、あの子達を客室に入れないんだよ!」小声で怒られるみたいに言われてしまった。商工会の二人もうなずいている。

「でも、さっきステキな部屋に、泊めさせてもらったみたいな・・・。」

「だから!クリス様は、とんでもねーご領主なんだって!」えー、そこまで言う?


 「その言い方、あんたが一人目か。」親方がハーシー議員に言った。

「なんの一人目ですって?」ハーシー議員が親方に聞いた。

「俺に口上を言い終えたオヤジさんに開口一番、"あんたの息子はとんでもない領主様だ!"ってぶつけたら、そう言われたのは二人目だって。」

オヤジさんというのは、養父であるグラハム商会の主人の事ですね。

「そうです、俺が一人目です!」ハーシー議員が嬉しそうに言った。


 「もりあがっているところをすまないが、名工にお願いがある。」ずっとだまっていた議長から言葉が挟まれた。

「何かな。」

「もしよろしければ、ご領主が刀の代金をどのように支払われたのかを、教えていただきたい。」

「私もそれが気になる。現金を渡されたわけではなさそうだが・・・。」と副議長。

「他にも、噂以上の領主と判断された根拠とか、菓子の伝言を頼んだ相手ってグラハムのダンナですか?なんで都からわざわざ?とか、気になるんですけど。」ハーシー議員が続いた。

 親方が手を振った。

「あー、わかった。最初から話してやる。そうすりゃ最後にオヤジさんが出て来る。」

「よろしくお願いします。」と議長。

「しかし、俺が一方的に話して、俺がそっちの話を聞けないんじゃないか?」

「俺の話は別の機会に酒を酌み交わしながらってのはどうです?」とハーシー議員。

「お、その交換条件いいねぇ。商談成立だな。」

親方はケーキと紅茶を一口づつ食べてから話始めた。

「キングストンへ引っ越して来て、仕事が順調になった頃・・・。」


婚約者 名工の弟子


 親方が剣を献上する決意をしたところで、話を一旦切った。

「相手がクリス様で良かったですな。」議長が言った。

「確かに、首が飛んでいてもおかしくないです。」と副議長。

「領主どころか、貴族という事も忘れそうになる方ですから。無理もない。」ハーシー議員が言った。


 クリス様の婚約者のデイジー様と、別の女の子が周ってきた。デイジー様は平均的な背恰好でソバカスが特長のかわいい感じの令嬢だ。紅茶とケーキのおかわりをくれた。

 最初のフルーツケーキは甘さ控え目で爽やかな味わいだったので、親方にも勧めたが、親方はケーキのおかわりはもらわなかった。

 「デイジー様は、名工の所へは行かれなかったのですか。」ハーシー議員が聞いた。

「はい、女性が立ち入るのを嫌う方もいると聞いたので。遠慮しました。」とデイジー様。

「あのご領主とあなたならかまわない。」名工が答えた。

「ありがとう。」デイジー様が軽く礼をされた。


 「クリス様は今回も、10人の子供達を救われるなんて、すばらしいご活躍です。」ハーシー議員が褒めた。

「そうですね。でも、クリスはこれだけでは終わらせない、と言っていましたので、引き続き支援を頼みます。」デイジー様が礼をして去られた。


 「もう一軒って事ですかな?」副議長が言った。

「キングストンの財政なら、もう数軒できるだろう。」議長が言った。

「直営で事業を始めますか?」ハーシー議員は首をひねっている。

「親方ぁ。」俺は商工会の人達が、すごい金額の話をしだしたので泣きついた。

「この人達は、国家規模の商談ができるんだよ。しかし、今ここで考えてもしかたない。後で聞けるだろ。」後半は三人へ向けた。

「そうですな。名工の話の続きをお願いします。」議長が言った。


甘やかし 名工の弟子


 話を終えた親方が商工会の三人に言った「俺の剣をタダで受け取らないのに、オヤジさんを良いようにコキ使うヤツだったら二人共、軽蔑してただろうな。」

「オヤジさんもですか?」俺が聞いた。

「子供を甘やかしてんじゃねーよ、と思ったろうな。」

「甘やかしですか。」


 「グラハムのダンナは、程度をわきまえているんだよ。」ハーシー議員が言った。

「程度があるんですか。」

ハーシー議員が親方を見た。

「俺は口べたでな。教えてやってくれ。」親方が答えた。

 「クリス様の事だから、

"名工が会いたいと言っていたので、キングストンへ行った際に良かったら、あの店の菓子とメッセージを持って行ってください"

とかお願いしたんだよ。」一度、言葉を切った。

「頼むとオヤジさんが、がんばってくれちゃう事をわかっているから、まぁ、甘え上手とも言えるな。」俺が頷くのを見てから続けた。

「ダンナは菓子の代金はもらって、サービスの範疇で済ませる。キングストン邸に出入りしている業者の立場を超えないように気を使っているんだよ。」

再度、俺の様子を確認した。

「ダンナがむやみにがんばっても、クリス様は"僕の為にありがとう"なんて喜ばない。ここんとこは又、酒を飲みながら話す。」

「はい。」


 親方が話を再開した。

「オヤジさんのサービスというのに納得して、我が子を伯爵として送り出す親の気持ちを聞いた。この話の内容は言えないな。俺の話はここまでた。」

「お話ありがとうございました。」と議長が言った。

「確かにとんでもねーご領主だ。」とハーシー議員が嬉しそうに言った。

"とんでもねー"というのは、型破りなという事らしい。



 ハーシーは"クリスと親しい商工会議員"として招待されています。

商工会とは別にハーシー商会から寄付をします。

第二章 お茶会はここまでです。

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