エピローグ 未来
野原にて デイジー
クリスに誘われて馬車ででかけました。
「どこへ行くの?」
「キングストンの領都から少し離れたところに、視察に行く。景色は悪くないそうだよ。」
「視察?何の?」
「今は野原だそうだ。まずは見てから。」
先程から馬車が、野原を進んでいきます。
「あそこに行ってみよう。」クリスが丘を指しました。
馬車から降りて、ダルトン達を待たせて、二人だけで行きたいと言われました。
クリスに手を取られて、丘を登っていきました。
一面、野原。そこかしこに花が咲いていて、美しい景色です。「すてきな眺めだわ。」
「そうだね。バージルは、ここを畑にしたいそうだ。」
「畑に?」
「収穫量を増やして、キングストンをより豊かにしたいんだって。」
「そう・・・。」
私は一面が畑になった風景を、想像しました。作業中の手を止めて、私達に向かって手を振る農民達を幻視しました。
「素晴らしい事だと思うわ。」
「そう思ってもらえて良かった。」クリスが再度、野原へと顔を向けました。
「一通りの領地経営が理解できたから、本格的に領地発展の施策を考える事にしたんだ。」
「現状維持は叔父上にまかせて、私は主に商業と領民の生活に関わる事柄を、バージルが主に農業の発展を考える。」
「最終責任は領主の私にあるし、バージルも先には叔父上の後を継いでもらうので、お互いに何をやっているかは、解るようにする。」
クリスが私に向き直りました。
「そして君にも芸術関係について、施策を考えて欲しい。」
「私も?」驚きました。
「ニコルに協力してもらってもいい。あまり力は入れられないけどね。」
「施策って言われても。」私はとまどいました。
「私がぱっと思いくのは、コンクールを開くとか。」
「イベントでいいの?」
「そういうところからでいいと、思うんだ。」
「わかったわ、考えてみる。」
「絵だけじゃなくて、音楽等もね。食文化については、グルメ伯爵が担当する。」
「そちらは、まかせて大丈夫ね。」私が笑って言うと、クリスは苦い顔をしました。
無理そうだと、言った方が良かったでしょうか?
「今お願いした事には、重要な前提があるんだ。」クリスが、真剣な顔をして言いました。
「まぁ、何なの?」私も真剣に、聞き返しました。
クリスは私の手をとって、真剣な眼差しと共に言いました。「君が、私の妃になる事だよ。」
「もう、クリスったら!」私は赤くなって、俯いてしまいました。
クリスは、意外そうな声で「あれ?ここは"はい"と言われるとこだと、思ったんだけどな。」
はっとして顔をあげました。もしかして、今のプロポーズだったんですか?
クリスは、バツが悪そうに「じゃあ、やり直して。」
息を整え「私と結婚してください。」
「はい。」真剣に答えました。
「よかった。」にっこりして、手にキスをしてくれました。
クリスが馬車の方を向いたので、私もそちらを見ました。執事やメイド達が、にこやかに待っています。
「さぁ、行こう。」クリスが、手を取って歩き出しました。
「はい。」私も歩きだしました。
エピローグ 現代の、ある食堂の息子
学校の教壇で先生が、歴史の授業を始めた。
「私達の住むキングストンが、"食の都"と呼ばれるようになったのは、グルメ伯爵と呼ばれる、クリスハート・キングストン伯爵が、開催したパーティが始まりと言われています。」
先生は伯爵の名を、黒板に書いた。
「この伯爵は、スイーツ伯爵とも呼ばれ、パーティーよりも先に開催したお茶会から、という説もあります。」先生が教室を見渡した。
「いずれにしても、クリスハート伯爵が、始めた事に違いありません。」
うん、食堂の息子の僕は良く知っている話だ。多分、お金持ちの伯爵は、あちこちの料理を取寄せたりしたんだろう。この伯爵はそれを、庶民が食べられるように広めたんだ。今も、そのメニューは少し形を変えて残っていて、ウチでも出している。
「このおかげで、キングストンの主産業である、農産物の流通が増えました。農地拡大で生産量も増え、キングストンがより豊かになったのです。」
ありがとうグルメ伯爵。おかげで美味しい生活ができてます。
「てへ、ぺろ。」と落書きされた、教科書の肖像画が、笑いかけてきたような気がした。
拙い文章を読んでいただき、ありがとうございました。
当初、続編を書く気はなかったのですが、書き出してみると恋愛じゃなくて、平民の感性が抜けきらない領主の話になりました。テーマが違うので別作品にしてシリーズとしました。