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元商人の伯爵は領主初心者!?  作者: 川崎 こうじ
第十章 グルメ伯爵のパーティー
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10-4.グルメ伯爵のパーティー

グルメ伯爵のパーティー ハーシー


 数ヶ月後、城で第一回"特産品販売促進パーティー"、通称"グルメ伯爵のパーティー"が開催された。

クリス様が議長、副議長といる所にいらした。「楽しんでもらえているかな?」

 「なんですか、あの料理は。」俺は笑顔で言った。

「まずかったかな?」クリス様は笑顔で返された。

「いえ、どれも美味しいですけど、そうじゃなくて。」クリス様に手で止められた。

「グルメ伯爵としては、キングストンで見かけない料理を、紹介するべきだろう。既存の料理に特産品を活用するのは、既にやってくれていると思って。」

「そうです。しかし、よくもまぁ私も知らない料理まで!」

「シェフは泣いたと思うよ。王都にまで勉強しに来たからね。」

「クリス様が知っていて、シェフが知らないなんて、そりゃ泣きますよ。」

「しかも、町のレストランで出せるようにしろ、なんてね。」

俺は苦笑した。声をひそめて「あそこに並んでいるのは、お茶会で出されたケーキですよね。」

「ハーシー議員には解るよね。」クリス様も声をひそめた。

 特産品のフルーツのケーキとキャラメリゼケーキ。あれらは前回のお子様連れ可で開催された際に出された物だ。会はいつもよりにぎやかで、和やかに行われた。

「他の人も臆測で気づいてますよ。料理も含めてこれらを食べる為だけに、パーティーに出席する者が出そうな程だ。」

「参加費を高くするか、ケーキだけでも変えるべきかな。」

「我々で、検討させて頂きます。」議長が言った。

「よろしく頼む。」


ハーシー商店にて ハーシー


 パーティーの結果と、今後を討議した商工会会議の翌日に、クリス様とバージル様を自宅へお招きした。

「招待感謝する。」クリス様に挨拶され、商談用の部屋へお通した。

「硬い話があるのかな。」席につかれたクリス様から言われた。

「昨日、商工会はお城で、グルメ伯爵のパーティーを共催させていただく事を、決定しました。正式な回答は後日、議長からあるはずです。」

「そうか、それは良かった。で、非公式に何かあるんだよね?」

「昼食会で申しあげたとおり、特産品の品不足が心配です。」

一度言葉を切った。

「先日のパーティーで、それを確信しました。それどころか、あれらの料理がブームを起してもおかしくありません。沢山の品不足が発生し、市場は混乱、不満はクリス様へ向くかもしれません。何を大げさなと思われるでしょうが、ご配慮いただければと思います。」頭を下げた。


 それというのも、パーティーでは商談そっちのけで食べ物に人が群がり、ついには在庫切れで、もう料理が出せない事を、クリス様が謝ったくらいの人気だった。レシピを公開しているから、家庭でも作れる事で皆に納得させた。

 その後で皆が特産品の商談に入り、壁際に用意された机だけでは足りず、庭や立食用の机でも商談が交わされる始末。懐疑的だった議員達も、品不足を懸念するだけの迫力があった。

 昨日の会議で、クリス様に注進させていただく事が決まり、まずは私からお伝えしておく事になったのだった。


 クリス様が苦笑いしながら、バージル様の方へ顔を向けた。

「まさに今、君が言ったような事を、パーティーの後でご注進申し上げた。」

さすが、バージル様。

「増産計画は策定中だ。」

昼食会の時にはもう、手を付けられてましたよね?

「パーティーでの、特産物の販売促進は一時停止。料理はそのまま出すが、特産品を使ったアレンジで、本来は別の作物を使用する事を明記する。レシピは特に希望されない限りは出さない。」

成程。

「それと、お茶会のケーキは出さないでいただく。」

同意します。強くうなずいた。


 「商工会でも、特産物の販売促進ではなく、多種多様な商談の場として"グルメ伯爵のパーティー"を活用させていただきます。」

「それで良い。同意できたところで、ざっくばらんにいこう。」クリス様が言われた。


 「正直、ここまで反響が大きいとは思ってなかったよ。」

「クリスは自己評価低すぎ。というか、"グルメ伯爵"の銘をナメすぎ。」バージル様が笑って言われた。

「いや、だってタダのあだ名だよ?」

「"スイーツ伯爵"が称号認定されましたからね。期待されるでしょう。」俺が言った。

「そして、期待を裏切らなかった、どころじゃなかった。」

「試食しておいしいから、増産も最初から考えていたけど、あそこまでウケるとはね。」バージル様が頭を振った。

「料理がおいしいのは、シェフの腕だよ?」クリス様が、言い訳じみた事を言った。

「既存の料理に特産品を使ったものも出してたけど、珍しいものが無くなって、しかたなくって感じだったよね。どっちもおいしいのに。」バージル様が横目でクリス様を見た。

「"グルメ伯爵のセレクト"ですな。」私が追い打ちをかけた。

「奇抜過ぎと言われないか、心配してたのに。」クリス様が頭をかかえた。


 「さらに、お茶会のケーキまで出すなんて、サービス過剰。」バージル様の追求が続く。

「表沙汰になったら、会の存在目的まで壊れかねない程に強力でしたね。"グルメ"と"スイーツ"両伯爵のタッグは、切り札にとっておいていただきましょう。」

クリス様が眉を寄せて言った「両方、私の事なんだが?ケーキの事は反省している。」

「今後のパーティーでは、代わるがわるキングストンの職人から、数ホール買おうと思う。職人組合長に選定を依頼する。店名は伏せても出しても良い。次の日程は不明だけどね。」「伝えておきます。よい競争になるでしょう。」私はうなずいた。


 この翌週、クリス様が泣かせた、と言ったシェフの王都での様子について、キングストンに取引に来た、ジョン・グラハム君からとんでもねー話を聞いた。今まで口止めされていたそうだ。まったく、あの方は・・・。料理長に断りを入れてから美談にして、"グルメ伯爵のパーティー"で参加者に話そう。


 予想通り、キングストンの料理店では、こぞって"グルメ伯爵のセレクト"をメニューに加え、特産品の販売が増えた。

 "グルメ伯爵のセレクト"は、時が経つにつれ領都にとどまらず、領内全域、領外へ。

都のキングストン邸でも"グルメ伯爵のパーティー"が開催された事もあって国中、国外へと広まった。

 そして、我々の予想を超える、キングストン変貌の始まりとなった。


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