第九章 番外 王城 9-1.王城のスイーツ伯爵
王都での話なので番外としました。
王命 クリス
「時にキングストン卿、変わった茶会を催しているそうだな。この城でも開催してはくれまいか。」国王陛下がおっしゃられた。
ついに来たか。そんな事も、あるかもしれないと思っていた。
「恐れながらあれは、孤児院への寄付を募るために行っている、品位のないものです。王城で行うには、ふさわしくないと思われます。」
「ここでも、孤児院への寄付を募ればよい。開催せよ。」
「承知いたしました。ただ、お茶会に関係する皆様の協力が必要です。この後、どなたと相談すると良いでしょうか。」
「うむ、キングストン卿への協力を約束しよう。後は宰相と打ち合せると良い。」
「はい。ありがとうございます。」頭をさげて御前から下がった。
宰相との打ち合わせ クリス
宰相の執務室で、打ち合せる事になった。宰相はキーナイ公爵がされていて、私より上位だ。
「王城でのお茶会は、王妃様が主催されている。私はご意向を伺って、そのとおりとなるように、采配しているにすぎない。」挨拶そうそう、宰相がおっしゃられた。
「後日、王妃様とお目にかかる機会を、いただけないでしょうか。ご意向をお聞きしたいと思います。」
「お伺いしておこう。」
「まずは"キングストンの家の為のお茶会"の流れを、お話ししましょう。」
「王妃様のお耳に入れる前に、私が把握しておいた方が良いだろう。話せ。」
「招待客は一テーブル程、私が招いて、後は領主代行補佐にまかせています。貴族の他、寄付金の多い平民が招待されます。」
「今回はどうしたい。」
「おまかせします。親しくしている方がアカーディア男爵のご長男くらいしかいないので。」
「"真珠の貴公子"は検討させてもらう。」
「はい。ブライス伯爵夫妻もお願いします。」
「貴殿の家族は招待する。」婚約者の家族もという事らしい。
「カテラリーや会場のセッティングは、婚約者のデイジーと従妹のニコルにまかせています。」
「ここでは、お妃におまかせすれば良い。」
「ケーキは私が二種類リクエストして、納得のいったものを出しています。」
宰相様が少し表情を変えられた。"ケーキが二種類あって、何度もおかわりできる"としかご存じなかったのだろう。
「貴殿の納得したもの二種類か。」
「はい。」
「かなり凝ったものなのだろうか。」
「毎度、シェフが泣いています。」
「今回もそうしたいか。」
「シェフの覚悟を確かめた上で、決めます。」
「そうか。この件は後回しだ。他に。」
「孤児院の女の子に茶注ぎを練習させて、当日、私や従兄妹達と一緒にテーブルを周り、寄付をつのります。」
「何、孤児に茶注ぎをさせているのか。貴族相手にも?」
「はい。初回の茶注ぎの際に断りをいれます。今回は王妃様の意向をうかがいます。」
宰相様は手に顔を当てられた。「キングストン卿が、たいへんな創意工夫をされている事がよく判った。」
自覚はあったけど、とんでもねー事してるのだなぁ。自らケーキ持参で孤児を送迎しているとか、使用人達にケーキをふるまっている事は、言うのを控えたのだが。
「ケーキを焼いているシェフを、紹介していただけないでしょうか。」
「うむ、こちらへ呼ぼう。」
指示をだそうとした宰相様を遮った。「いえ、私が行きたいので、案内人を付けていただけませんか。」
「貴殿が自ら行くと言うのか。」
「はい、場合によって、何回か通う事になると思うので。」
「何度もキッチンへ行く必要があるのか?」
「茶葉の選択や、ケーキの味付けの提案を受けるのに、キッチンの方が便利なのです。」先程の説明では、納得するまでの工程ははぶいていた。
「・・・わかった一緒に行こう。」
私は驚いた。「ご面倒を、おかけするわけには・・・。」
「気にするな。貴殿がどのような話をするのか興味があるのだ。」
「では、お願いいたします。」
料理長 クリス
キッチンは何となく騒然としていた。宰相自身が伯爵を連れて来るなんて、めったにない事じゃないだろうか。もしかしたら前代未聞かも。
「こんな所までおいでいただき、ありがとうございます。」料理長は壮年の難しい顔をした人だった。
「王の要望により、キングストンで行われている茶会を、王城で開く事となった。こちらのキングストン伯爵に、協力するように。」宰相に紹介された。
「クリスハート・キングストン伯爵だ。スイーツ伯爵とかグルメ伯爵と呼ばれている。"キングストンの家の為のお茶会"について、聞いた事はあるだろうか。」
「はい。"珍しい"ケーキが二種類あって、何度もおかわりできる。とおうかがいしております。」
「そうだね。ケーキは毎回、私が無茶なリクエストをしているのだけど、どうだろう。ここは貴方にまかせて、二種類用意してもらった方が良いかな。」
「伯爵のリクエストを、お断りしても良いとおっしゃるのですか。」
「そう。貴方は、私のシェフではないのだから、無理をする事はない。」
「キングストンのシェフは、応えておるのですよね。」
「あぁ毎回、泣かせている。」
「たった今、協力するように申しつけられましたし、キングストンのシェフがお応えしている事を、私がお断りするわけには、まいりません。」
「さすが王城のシェフだね。よろしく頼む。」
「はい。」
私は宰相に申し上げた。「良い者を雇っておられますね。」
宰相が頷かれた「そのようだな。」
この日はこれで引き揚げた。
王妃との茶会 クリス
後日、王妃様とのお話させていただく為に、登城した。お茶をだされた席には、宰相もおられた。お忙しいはずなのだが・・・。
"キングストンの家の為のお茶会"の説明は、宰相が聞こえ良く話してくだされた。
「二種類のケーキのリクエストは、決めたのかしら?」王妃様からたずねられた。
「キングストンのフルーツを使用したケーキと、シフォンケーキをリクエストしてよろしいでしょうか。」
「どうしてその二つに?」
「いつも、やや甘いケーキと、あまり甘くないケーキを用意しています。やや甘いものでキングストンのフルーツを、皆さまに紹介させていただきたいのと、甘くないシフォンケーキに、甘い生クリームを添えます。いかがでしょうか。」
「伯爵は商売上手ねぇ。よろしいですよ。キングストン流のお茶会ですしね。」
「いえ、キングストン流ではなく、"スイーツ伯爵"流です。」
「ほほほ、これは失礼。キングストンの"スイーツ伯爵"。」
「できましたら、試食をお願いさせていただけますか。」
「まぁ、試食をされるのね。」
「はい、いつも叔父一家に迷惑をかけています。」
「迷惑?」
「何回か直す際には、連日のお茶が、似たようなケーキになります。」
「まぁ。おほほほ。それは大変ね。良いですよ、その役目引き受けましょう。」
「ありがとうございます。」
宰相殿はずっと無表情を貫かれている。さすがだ。
「キングストンでは、"キングストンの家"の女の子数人に、お茶注ぎをさせているのですが、こちらではいかがしましょうか。訓練に時間がかかりますが。」
「確かに、こちらでは、特定の孤児院への寄付ではないわねぇ。」
「失礼ながら訂正させていただくと、おかげさまで茶会が大変、好評でして他の孤児院へも回せる程の寄付が集められております。」
「まぁ、そんなに。確かに王都にも、評判が聞こえる程ですものねぇ。」
「孤児達に寄付を自分達で集めさせるというのが主ですが、お茶注ぎの技能と城の茶会への参加は、就職の際に有利に働きます。」
「そこまで考えられているのね。」
「お茶が注がずに、挨拶に回るだけでも違うと思うのですが、孤児が近づくだけでも嫌がる方もおられるかもしれません。私は城のメイド服を着せていますが・・・。」
「孤児院への寄付を目的とした茶会で、そのような文句は言わせませんよ。お茶を注がせるかどうかは、ぎりぎりまで訓練させて、数日前にやらせてみましょう。できなければ、挨拶にまわるだけで。」
「承知いたしました。どの孤児院から何人等は、宰相様と相談させていただきます。」
「あら、それであれば・・・。」
王妃様が、よく行かれる所があるそうだ。後日、訪問する事にした。