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8-3.権力の使い方

領主の訪問 グレゴリー準男爵


 人身売買の嫌疑が晴れてから数か月後、ご領主から訪問したい要望を受けた。

"要望"であって"通知"ではない。俺とメイドのソフィアと話がしたいから、都合の良い時はあるだろうか。という内容の手紙が来たのだ。

 おかしいだろう!領主ともあれば、訪問の日時を一方的に通知するだけですますものだ。

メイドと話がしたいというのは、まぁソフィアが孤児院の時に知り合った仲、という事で理解するとして、俺に何の用だろう。事件に関わった子供達の対処が、気に入らなかったのだろうか。


 俺の領主に対する気持ちは微妙だ。当初は若造に迷惑かけられた、と思っていた。商売で交渉に行った先で、領主当人に捜査を受けた話をした。すると、あの領主が最近まで商人をしていた事を知った。親近感とともに、捜査を受けた際のふるまいのおかしさに気が付いた。

 俺が何様だと聞くまで身分を明かさなかった。門で告げて堂々と入って来ればいいじゃないか。

 ソフィアのいた孤児院を訪問された際もそうだったらしい。見学の際はどこかの貴族の子息のようにふるまっていたが、改善要求をする際に領主だと明かしたそうだ。


 俺が領主を知らないのは、準男爵だからだ。クリスハート様が領主になられた際に、男爵までは城で直接、挨拶できたが俺達には機会はなかった。

 城から広場の民衆への挨拶には、最前で拝見できたが、遠目で顔まではよくわからなかった。

 パレードもクリス様は地方への視察の行き帰りに、城から街の門まで、と短距離ですませた。俺は見れなかった。1,2年後には結婚するので、その時に大々的にと言ったらしい。

 どうやら、俺の知る貴族とは違うようだ。いずれにしろ、慎重な対応が必要だ。


 ご領主が席について「改めて、グレゴリー準男爵。先日は捜査に協力してくれてありがとう。嫌疑が晴れて良かった。」

「人身売買をしていない事が立証されて、こちらも助かりました。」笑顔で答えた。心の底からそうは思ってないがな。


「主人を後回しにしてすまないが、まずはソフィアと話をさせてもらいたい。」

なんとか平静を保って笑顔で了承した。

 ご領主はソフィアの前まで行かれて言われた。「準男爵の嫌疑が晴れて良かったね。この前は不安な思いをさせてしまったね。」

「いいえ、私はご主人様が、良い方だと信じておりましたので、不安はありませんでした。」

「そうか、偉いね。これは皆で食べて。」従者から受け取った箱を渡された。

「はい、ありがとうございます。」

ご領主は俺に振り返り「ソフィアを退出させて良いかな?」

「はい。ソフィアご苦労だった退出して良い。」

「はい、ご主人様。クリス様、失礼いたします。」ソフィアは礼をして部屋を出ていった。ソフィアとの話はこれだけ?


「今日はソフィアに会いにきたのと、個人的に貴方に聞きたい事があってきた。」

「何でしょう。」又何か疑いをかけられるのだろうか。

「もし良かったら、貴殿が爵位をどう活用されているのかを聞きたい。」

「は?」何だそれは??


 「貴方は実力で爵位を手に入れた。商売等でその爵位をどの用にふるっているのか。横暴に振る舞えば取引がなくなりそうに思うのだが・・。良かったら教えてもらいたい。」

「伯爵、ご領主ともあろうお方が、どうしてそのような事を?」領内なら、好きにできるだろうアンタは。


 「私が、ついこの前まで商人をしていた事は、もう知っているかな?」

「はい。」

「私は貴族、産まれが良いからと言うだけで偉いとは思えない。」

「・・・。」俺は同意の返事をしなかった。

「昨日まで貴族だつた者が、今日には平民になったり。今日、平民の者が明日から貴族になったりする。その事は貴方が良く知っているだろう。」

「はい。」

「私は伯爵を継いだ今も、爵位をうまく使えないでいる。貴方はどうされているのだろうか。」

 俺はあきれた。「キングストン伯爵、こんな商人あがりの、怪しい者にそんな事を相談してはいけません。」

「いいや、大丈夫だ。先日の人身売買を担当した捜査官は、たいへん優秀な人物でね。グレゴリー準男爵の身の回りを、しっかり調べてくれた。」ご領主がいったん言葉をきった。

 「いつもおいしい所を持っていくと、妬む者が多いらしいね。」軽くにっこりされた。

「面倒を見てもらった孤児たちの行く先も、しっかり対応してくれた。先ほどは私に苦言もくれた。信頼できる人物だと思う。」

 俺は関心した。

「ありがとうございます。そこまで言っていただけたのなら、いくつかご披露いたしましょう。

 まず、あからさまな罵詈雑言、嫌がらせはされなくなりました。おっしゃるとおり、権力を使って横暴する事はしません。

 私は今も権力を振りかざしてくる方を好きにはなれません。そのような方の対応はおざなりになります。であれば、自分はなるべく嫌われないようにしないと。ただし、あちらが汚い手を使ってくるなら、話は別です。」

 そのほか、2,3の例をお話しした。


 「ありがとう。参考になった。」ご領主は軽く頭をさげられた。

「お役にたてたのなら、嬉しいです。」

「何か礼をしたいのだが、できる事はあるだろうか。特に品物は用意してなくてね。」

 俺は考えた。「では、お城のお茶会に、招待していただけないでしょうか。」

「皆、勘違いしているけど"キングストンの家の為のお茶会"は、寄付を集める為のもので、けっして格調は高くないんだよ。」

「私には、ご領主から直々に、ご招待いただく事が重要なのです。」

「あぁ、すごく親しそうだね。それなら、私の事は以後クリスと呼んでくれ。」

「ありがとうございます、クリス様。私の事は呼び捨てにしてください。」


 「わかってはいるのだが、私より長く貴族をやってる者を下に思えなくてね。」

「クリス様それでは、嘗められてしまいます。」

「私には実績がないから、私自身を低く見られるのはしかたないとも思うけど、伯爵家を下に見られるような事はしない。」

「そうですか。」本当に大丈夫なのだろうか。

「では、グレゴリー、私はこれで失礼する。」

 俺はクリス様を送り出した。親しみを感じるようになったのは、あちらの思惑どおりなのだろうか。



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