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8-2.準男爵

グレゴリー準男爵  ダンテ


 「とっとと帰れ。」思った通り門前払いを喰らった。私はクリス様を振り返った。

クリス様は前に出て「これは領主の意向だ。断らない方が良いよ?」

門番共々私も驚いた。ここでご領主を引き合いに出すとは!

「ご領主の意向だと、示す物があるのか?」気を取り直した門番が聞いてきた。

「紋を見せられるけど君達、判別できる?」

門番が引きつったが「見せてみろ。」と答えた。見るからに無理をしている。

「ダルトン。」クリス様が執事を呼び、執事が門番に書面を見せた。

「ご主人様に取次ぐ、数人だけ入れ。」門番が言った。判別できたのだろうか。

数人と言われたが、クリス様の護衛が譲らず、クリス様と護衛4人、執事2人、私ともう1人の9人が門の中へ入った。


 「ようこそいらっしゃいました。」

玄関で20代と、10代前半くらいのメイド二人に、迎え入れられた。

「ダンテ捜査官です。準男爵と、お話をさせていただきたい。」門をくぐってから、クリス様の依頼を受け。私から挨拶した。

「ご主人様に伝えてまいります。応接でお待ちください。」20代のメイドが言った。もう一人のメイドはずっとクリス様を見ている。

「ソフィア、ご案内して。」

「はい。」

年上のメイドは奥へ向かった。門番も引き返した。


 ソフィアと呼ばれたメイドは、ずっとクリス様を見ている。なんだろう?

「クリス様?」メイドがつぶやいた。

「え!?私を知ってるのか?」クリス様が驚いた。

「クリス様!」メイドが駆け寄ろうとしたが、護衛に立ちふさがれた。

「えーと、すまない。どこで会ったかな?」護衛を引かせたクリス様がメイドに尋ねた。

「ポーラ孤児院に"キングストンの家のお姉さん"と見学に来られた際に、中をご案内しました。」

「あー、あの時の!見違えたねぇ。メイドの服が似合っているよ。」

「ありがとうございます。」ソフィアは恥ずかしげだ。

クリス様は、孤児の養護に力を入れておられるようだ。


 クリス様は真剣な顔になって「ソフィア、今は準男爵に私の身分というか、役目を知られたくない。黙っていてもらいたい。」

「はい、クリス様のおおせのままに。」ソフィアが頭をさげた。

役目とは福祉関係だろうか。私が怪訝に思っていると「準男爵に説明する時に明かすよ。」クリス様から言われた。


 準男爵が応接に入ってこられた。私が席を立つとクリス様も立たれた。

「突然、押しかけて申し訳ありません。ダンテ捜査官です。人身売買に関する捜査の協力をお願いしたく参りました。」クリス様の事は触れなかった。そのように指示されたからだ。

 「私は人身売買など身に覚えはない。以上だ、帰れ。」準男爵に睨まれた。

「グレゴリー準男爵、人身売買を行ったとなると重罪だ。積極的に無関係である事を立証してもらいたい。」クリス様が言われた。

えぇ!そこまで言っていいんですか!?部屋の全員が驚いた。いや、クリス様の身内は平然としている。


 準男爵は見るからにお怒りになられた。「貴様、何様のつもりだ!」

クリス様は平然とされていた。

「ソフィア、口止めして不自由をかけたね。私の身分というか、役目を紹介して。」部屋に残したソフィアにクリス様が声をかけた。

「はい。ご領主様です。」ソフィアがにっこり答えた。

何!?準男爵と共にクリス様を凝視した。

「商人姿が似合いすぎて分らないだろうけど、クリスハート・キングストン伯爵だ。」

「食道楽伯爵!?」準男爵が漏らした。

「そう、本名よりも、スイーツ伯爵の銘の方が知られている。称号認定されたから否定するわけにもいかなくてね。」

あ、聞かなかった事にされた。今ので十分、不敬罪で裁ける。

「ソフィア、孤児院からこちらへ来て準男爵には、よくしていただけているのかな?」

急に話を振られたソフィアは驚いたようだ。「あ、はい。たいへん良くしていただいています。」

「それは良かった。」クリス様がにこやかに返された。準男爵に向き直って

「再確認するが、人身売買に関わっているのかな?」

「誓って、関わっておりません。」

「・・・・。」クリス様は準男爵を暫く見ていた。準男爵は真剣に眼差しで見つめ返していた。

「言葉は信じよう。でも、"はい、そうですか"で終わらせる訳にはいかない事を、理解して欲しい。」

準男爵は苦々しい顔をされた。

私のほうに向いて「領主が命じる。準男爵の人身売買嫌疑を捜査、事情聴取と家宅捜査

を始めろ。」

準男爵は悔しそうに歯を食いしばっていた。私は事情聴取を始めた。


 「準男爵はしばらく自宅謹慎でいいかな?」この場での事情聴取を終えた私にクリス様が聞かれた。

「はい。お屋敷の周りに、人を立たせていただきます。」

「準男爵が、人身売買と関係が無い事が立証されるといいね。」クリス様が我々に言われた。


 応接を出る際に、戸口で振り返ると準男爵は頭をかかえておられた。

クリス様も私も、玄関まで何も口に出す事なく進んだ。

「クリス様、ご主人様はどうなるのでしょう。」玄関で送り出される前に、ソフィアが聞いた。

「ダンテ捜査官、どうかな?」クリス様から私に振られた。

「爵位のはく奪もあり得るところですが、ソフィアが好評価しておりますから、軽減されるかもしれません。」

「私ですか?」ソフィアが驚いた。

「孤児院からこちらに引き取られ、良い扱いを受けている。人身売買をしている者の行いではなさそうだ。」

「はい。ご主人様が、悪い事をなさるはずがありません。」ソフィアが真剣な顔で答えた。

 「君は、すばらしいメイドになったね。」クリス様がにっこりされた。

「はい。クリス様のおかげです。」

「疑いが晴れたら、謝りに来るからね。その時は又、接待して欲しい。」

「はい!」


 「ダンテ捜査官。」クリス様があらためて私を見た。

「はい。」

「捜査の結果は城の門番へ手紙を渡してくれ。今後、別件の捜査で貴族が邪魔するようなら、同様にして相談するように。私が留守でも、領主代行が対応してくれるだろう。実際には、代行補佐が動くと思うけどね。」

「ありがとうございます!」私は深く頭をさげた。

「ただし、最後の切り札とする事。」

「はい。」それでもありがたい。今まで誰にも頼れなかった。

 「これで城へ戻る。」

ソフィアと共に頭を下げて送り出した。

「ステキなご領主だね。」ソフィアへ言った。

「はい。クリス様は、最高のご領主です。」にっこり返された。

私は頷いて、家宅捜査の指揮へと戻った。


 後日、グレゴリー準男爵は今回、関係した孤児に、信頼できる引き取り手を探す事を申しつけられ、事実上お咎め無しとなった。。

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